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Twitterには長いやつ

KAI 30th ANNIVERSARY TOUR ENCORE ”アコギ”なPARTY 30

2005年4月17日(日) 守山市民ホール

 

 守山市民ホールHPのFLASH道案内を見て、JR守山駅から歩いて行く準備を 整えていた。けれど、ありがたいことに、滋賀の甲斐友が車で送ってくれることに なった。 
 守山駅前のバスにはライオンズのマークが入っていたりして、滋賀やなあと思う。 
 車に乗せてもらってみると、歩くにはちょっと遠い距離やったかも。高校のそばを 通ったりして行く。近くに野球場もあるらしい。

 会場は新しくきれいでおしゃれな建物やった。道路を隔てた向かいにはのどかな 風景が広がっている。 
 入場時、スタッフがしきりに「お席が変更になるお客様がございまーす」と知らせ ている。ロビーからホールへの入口には、変更になる座席の番号が掲示されていた。 チケットをもぎる際にも確認してくれる。ミキサー席の位置が変更になったための措置 らしい。 
 客席に入ると、10列目の後ろくらいだろうか、いちばん前のブロックと2番目の ブロックの間の通路に、ずらーっと補助席がつくられていた。これが変更になった人の ためのイスなんやろう。ここなら近くて見やすくて、不満も出ないことでしょう。

 映画「リアリティ バイツ」の曲が流れていて、BGMが変わったのかと思った が、そんなことはなかった。今日も「バイバイ ミス アメリカン パイ」が流れて くる。 
 客席は地元の方がほとんどみたい。おとなしそうな人々に見える。おじいさんも いらっしゃって、客層は幅広い。

 甲斐は赤のジャケットっぽいシャツで現れた。岡山 神戸三郷 、京都と見てきたが、これまでは全て白の衣装 やった。鮮やかで、この”アコギ”ツアーのイラストから想起される荒っぽさも感じられ て、すごくいい。 
 シャツの中は灰色がかった黒のTシャツ。鈍く光る黒のレザーパンツ。

 「ちんぴら」 
 歌入りで、近くの男が隣の女性に「かっこいいなぁー」と囁いてるのが聞こえた。 その人は最初の数曲、甲斐が歌い始める度にため息をつかんばかりにそう繰り返して いた。 
 甲斐が弦を押さえる右手の指先を見る瞬間がわかる。青っぽいサングラスをかけて いても。僕の席は思ったより真ん中で、甲斐のことが細かいところまでよく見えた。 茶髪の感じとかも。 
 フィニッシュで甲斐は「イェー!」と叫んだ。拍手が起きる。ライトがつくと、 またあらためて拍手が起きた。

 松藤のアコギで、「裏切りの街角」 
 甲斐がうたい出すと、じょじょに拍手がわいて大きくなっていく。 
 ラストでは先にステージのライトが消え、暗いなかに甲斐がゆっくりうたう声が 響いた。

 前野選手と3人になる。 
 「きんぽうげ」 
 甲斐は突き放したうたい方を1度もせず、全て語尾を響かせる。 
 1番の後は間奏が短い。松藤が弦をはじく。2番後の間奏で、あのアコーディオン の音色が流れてくる。 
 後奏は松藤のアコギ。「ザザザザーン」

 甲斐はやはり守山のことを、「恋をささやくことさえも窮屈すぎる街」と呼んだ。 
 「楽屋入って、窓開けたら、いいなあ。昼寝しそうになった」と、なごませる。

 ツアーの説明をしてから、今日歌った曲のタイトルを告げ、さらに「1曲ずつ 曲紹介をしようかな。書いたときのこととか、今日は言っていく」と言う。 
 冗談かと思ったら、ほんとにやってくれた。今思いついたみたい。こんなことって 初めて。めっちゃうれしい。

 「「きんぽうげ」は、僕が書いたんじゃない。甲斐バンドのオープニングを飾って た曲で。甲斐がなかなか出て来なくて、計ったら3分だったことがあって。まるまる1曲 分じゃん」 
 ここで松藤が「きんぽうげ」オリジナルヴァージョンのイントロを弾いてみせる。 客席から沸く拍手。 
 甲斐は「もうやった。またやるのかよ。違うキーで」と、松藤に返す。

 「次の曲は、某化粧品メーカーとのタイアップで。と言うと、間違えてる人がいる かもしれないけど、「君のひとみは10000ボルト」じゃないですよ」 
 「アリスじゃないし」と松藤が言う。「3人だけど」 
 甲斐は、「NSPとかガロと勘違いしたまま帰ってもらっても構いません」 
 おとなしくきちんとして見えた守山のお客さんの、雰囲気が変わってきてる。 話に引き込まれ、リラックスして楽しむ感じになっているのがわかる。

 「ビューティフル エネルギー」 
 甲斐は「のぼってゆくよーーぉ」「しれーなーいからーぁ」と語尾を下げて響かせ る。 
 「ビューーティフル エーーナジー」からコーラスが重ねられる。 
 2番。松藤がうたい出して、拍手がおくられる。 
 松藤の声がやらしい。もしかしたら、女性の松藤ファンはこういうところに 惹かれるのだろうか。 
 「ああ ごらんーよー」は、甲斐と松藤がいっしょにうたう。「もう二度とー」 からは松藤だけで。「しれーなーいからーー」と声を絞り上げる。 「ビューーティフル エーーナジー」の後は甲斐がうたっていく。 
 「ああ ごらんーよー」からの繰り返し。ずっと甲斐と松藤が声を合わせる。 「きーんいろのー」の後の部分は、甲斐が一人でうたう。 
 曲が終わったとき、微妙な色合いをした背景の下に、3人の影が映っていた。

 「かりそめのスウィング」 
 イントロの前半で前野選手が指を鳴らす。観客の手が打たれ始める。前野選手は 歌入り後も、アコーディオンの入らない1番前半は指を鳴らし続ける。 
 間奏の甲斐のハーモニカが激しい。 
 ”PARTY”と同じタイミングで、甲斐が「オーイェー!」と強く叫んで フィニッシュ。

 うたい終えた甲斐の第一声は、「カンペキ」 
 「(ビデオ)シューティングしたときよりよかった」 
 すると、松藤は「音だけでも(差し換えて使ってもらおうか)」

 今夜ならではの曲解説。 
 「二十歳の頃に書いたのをバラバラにして、つくった」 
 「30万枚売れたんですけど、「裏切りの街角」の後だから、売れなかったって 言われた曲。「HERO」の後の「感触(タッチ)」とか、ガロの「学生街の喫茶店」後 の「君の誕生日」とか、みたいなもんですね」

 「前の曲は冬の歌だった。今日こんなに暑いのに、さらに冬の歌を掘り下げて。 みんなでうたう」 
 ワールドカップを見に行った札幌ドームでのエピソードを話す。トイレに立った とき、客が沸いたから一瞬見たら、ベッカムがPKを蹴るところだったという。 
 「そのときのように、今トイレに立った人が帰ってこないうちに」のジョークが ウケる。

 「安奈」 
 サビ前に甲斐が手で示し、みんなで「あんなーあ」と声を合わせる。 
 「二人で泣いた夜を覚えているかい わかち合った夢も虹のように消えたけど」 
 もともと好きな詞やったけど、今夜はまた別の感慨が心に沁みた。たとえ夢が 叶わなくても、という希望の歌に聴こえた。夢は消えてもいいんだ。またちがう夢を 見つけられる時が来るだろう。 
 「クリスマスツリーに」から、だんだん客席だけにうたわせる曲調になっていく。 甲斐はみんなといっしょに「あかりが」を大きな声でうたう。そして、「とーもりー」 からはオーディエンスにゆだねる。シャイなお客さんにもうたいやすくするための配慮 やったんやろう。 
 甲斐はみんなの合唱に「サンキュー」と声をかけてから、「あんなー お前に  あーいたい」とうたい始める。 
 曲が終わると、ホールじゅうからものすごい大拍手。みんな感激してるんや。

 「レイニー ドライヴ」 
 前奏で、さっき甲斐が触れた、トイレに行ってた人が帰ってきて、客席にざわめき が起きてしまう。たまたま目立つ席だったのが、災いしてしまった。 
 甲斐は反応を見せず、客席をしずめるように、1番を静かにうたう。 
 2番からは、ところどころ強くうたう。「ささやきーさえー」の「さえー」の部分 などで声を張り上げ、続くパートは静かにうたうのだ。最近の「レイニー ドライヴ」 は、こういうふうにうたわれている。 
 「サーチライー」。横と斜め上から白い光。 
 その後、青緑のライトに戻る。もう雨の道にしか見えない。雨の日の、最後の、 ドライヴ。そのせつなさを実感する。

 松藤のカウントが聴こえてきた。CDとちがって、前奏から間があって、うたに 入る。 
 「愛のもえさし」 
 座っている甲斐が、脚の間で両手の指を鳴らす。手拍子が始まる。僕は、手拍子 ありヴァージョン聴きたさと、甲斐の声だけを聴きたい気持ちの間で迷ったが、手拍子 せずに甲斐の歌声に聴き入ることにした。前野選手も指を鳴らし、全体の手拍子は増えて いく。 
 左右両側の壁に甲斐の影が映っていた。 
 ラストの「デデュビ」の部分は、こころなしか一昨日の京都とちがっているように 聴こえた。こういうのも、その瞬間の想いなんやろうな。

 「いい感じじゃないですか」と、甲斐が守山のお客さんをほめる。「リアクション が大きくていい。今日はずっと拍手が長くて」

 「北海道の上の方まで」行くという今回のツアーの旅話。 
 JR西日本の車掌の中に、「しんかんしぇん」と発音する人がいるという。福岡 出身の甲斐と松藤は、「それを聞いて、ポッと頬を赤らめるんだけど」

 「長く行ってないところ、京都も行ったんですけど。京都ではしのぶと呼ばれて ましたが、神戸じゃ・・・」 
 ここで客席の女性ファン2人組が「なぎさー」と叫ぶ。 
 「渚と名乗って。京都・滋賀、こまめに来ないといけないなと思って。磔磔から 出直します。滋賀は雄琴からでもいいんですが。そのときは別の源氏名で」

 「愛知万博、誰か行った?名古屋だけ反応大きかったんだけど。京都は都をどり やってて、「都をどり行くわー」って感じだったし。行った人がいたら、どうだったのか 感想を聞きたい」

 「こういうおだやかな、穏便なアコースティックだと、こわがらなくてもマイク スタンド蹴ったりしないから。このアコースティックセットだと、 「ダイナマイト・・・」はできない」

 「そうだ」と思い出した様子で、「2曲前に戻りますけど」と甲斐が曲解説を 始めて、みんなよろこぶ。 
 「スーパーゴールなみの「安奈」の後は、「レイニー ドライヴ」という曲で。 今回は、松藤の歌、多いんだけど。「レイニー ドライヴ」は、甲斐バンド解散前の最後 のシングル」

 「「愛のもえさし」はトリビュートアルバムの「グッドフェローズ」と同時期に 出た「アタタカイ・ハート」というアルバムに入ってる。前に「松藤甲斐」というのが あって、松藤がヴォーカルのはずだったんだけど、いつの間にか「松藤甲斐」に」 
 ここで松藤が「(甲斐が)歌いたいからな」とツッコむ。 
 「その「松藤甲斐」のアルバム1曲目に入ってた。詞は僕が書いたんだけど。いい 曲だからパクって。m.c.A・Tにアレンジしてもらって」

 「次の曲は、涙なくしては語れない。だから語らない。 「BLUE LETTER」を」 
 正面の席だからか、少し晴れ間がのぞく雲が、一昨日よりはっきり見える。 左はオレンジ、右は青の照明。 
 ラストの繰り返し。1回目を甲斐は「ブルーレターーー」と大きく伸ばした。 2回目は、このツアーからの「ブルーレタ」と語尾を響かせるうたい方。

 「花,太陽,雨」 
 「この白い光」、今日は甲斐はうたわず、松藤がうたう。 
 客席からは手拍子。僕は詞の内容などから、手拍子する歌じゃないと思うけど、 この強力なアコギとアコーディオンの演奏なら、それもありやなと思えた。 
 「はーなー たいよう あーめー」の繰り返し。それが終わるとステージは暗転 する。暗いなか、甲斐の「オーッ」という少しにごったような小さく切ない声が聴こえ た。そして、最後のうたが響く。 
 「まーよーえーる人およぉぉ」

 オーディエンスが立つ。甲斐も立ち上がる。 
 「漂泊者(アウトロー)」 
 激しい、激しい「漂泊者(アウトロー)」。ステージ下方は青緑。上はカラフルな ライトやけど、視界に入らない。甲斐だけを見て歌い、手を打ち、拳を上げているから。 
 甲斐のハーモニカもまた激しく。間奏は短い。後奏もすぐに果てた。

 歓声が一気に増大する。甲斐がギターをかける間も、ホールの空気は熱く。 
 「風の中の火のように」 
 前奏ですぐ手拍子が沸き起こる。ワインレッドのような紅色に、さらに真っ赤な ライト。 
 アコギの弾き方が激しい。甲斐がストロークのタイミングを増やしている。 
 シンプルな照明に変わった。オーディエンスが甲斐とともに大声で歌う。 「ララーラーラ ララーラーラ ララーラーラ ララーラーラ ララーラーラ  ララーラーラーアー」 
 後奏の高まり。いつもはドラムが増えていくところを、アコギで表現している。 手拍子だけでは足りず、足を踏み鳴らし、首を振る。そうせずにはいられない。

 曲の前に、「最後の曲になりました」の言葉。 
 「えーー」という声と満足感が入り混じった雰囲気から、手拍子と大合唱へ。 
 「破れたハートを売り物に」 
 3本のアコギ。甲斐が間隔をあけているときも、他のギターから効果的な音が している。 
 甲斐は強く歌う。僕も強く歌う。なんだかすごく声が出る。 
 2回目の「アーアーアー」後の「ウーー」を、京都では歌わなかった甲斐も 歌った。

 甲斐は曲が終わると立ち上がり、ピックをステージ後方へ投げた。大歓声に応えて から去っていく。 
 長く熱いアンコールが始まった。

 再び現れた甲斐は、灰色がかった黒のTシャツ。 
 「翼あるもの」 
 甲斐は1番の終わりでピックを落としてしまったが、何事もなかったように すっと、ギターにはさんである新しいピックを取って2番へ向かう。 
 あの間奏。手拍子がすごい。だって、甲斐のプレイが興奮させるから。 
 ラスト近くで、甲斐は利腕の左、肘のあたりでギターのボディを押さえる。 やはりこれはわざとやってたんや。音色や反響が変わったりするんやろうな。 
 曲が終わると、客席のあちこちからオーディエンスの叫ぶ声があがる。

 甲斐は静かにアコギを弾き始め、少しずつ強めていく。 
 「感触(タッチ)」 
 サビで「タッチ!」って歌う客がめっちゃ多い。手を上げるアクションつきの人も いる。 
 甲斐は後ろの腰ごとギターを前後に揺らしながら、リズムに乗ってストロークして いく。 
 今日は1・2番とも、歌詞はオリジナル通りやった。「あやーしく」の部分だけ、 少しトビそうになったけど。 
 後奏で甲斐が叫ぶ。「ウォーオオオオオオーーッ」最後を高く上げる感じで。 こういうの、大好きや。

 「テレフォン ノイローゼ」 
 1番のみ歌入りを遅らせるアコギヴァージョンの歌い方。 
 2番の途中は、上の音で歌う。「愚にもつかぬ甘い歌は」や「おねがい」を、 本来のメロディーに合わせて上下させず、平板気味に突き放した感じで。この方が、 詞がより辛辣に届いてくる。 
 2番のサビではアコギの音を少なくして、オーディエンスのコーラスを誘う。 
 間奏がまためっちゃ盛りあがる。「ザクザク」と刻む音が気持ちいい。 指を上下させるあの演奏に、「ヒュー!ヒュー!」と声が飛ぶ。例のフレーズも、甲斐が ストロークを増やして弾くから、いつも以上にかっこいい。 
 3番でも「世の中まわしてるのは」を、メロディーを変えて歌う。 
 最後のサビではもうギターなしや。甲斐とオーディエンスだけの声が響く。 そして、甲斐は今夜全編にわたって「鳴りっぱなし~いい」と強く歌ってる。 
 ラストでもあのフレーズをストローク増やして弾いて、フィニッシュ!

 松藤と前野選手が加わる。 
 「HERO」 
 歌い出す前に甲斐がオーディエンスを手であおる。 
 甲斐は「お前を愛してるうううーさ」という歌い方をする。 
 松藤は2番以降、ストロークを減らしたり自由な演奏。 
 曲が終わると、ものすごい拍手。鳴り止まない。何と、次の曲の前奏が始まっても まだ拍手がかぶっていた。

 拍手が続くなか、静かに奏でられるキーボード。それからアコギ。オーディエンス が手を叩くのをやめ、このバラードに聴き入ろうとする。 
 「熱狂(ステージ)」 
 1番のサビで泣けてくる。信じた道を行けばいいんだ。目指して、進んで、ゆく。 勇気をもらったという言い方は常套句になってしまってて好きじゃないけど、これは そういうことやんな。 
 甲斐は今夜もところどころ強く歌う。「すてきだあったーっ」というふうに。 
 キーボードによる間奏が、後奏が、いい。 
 松藤のアコギがゆっくりと曲をとじる。

 アンコールを求めるオーディエンス。甲斐の名前を呼ぶ声。叫び。歓声。それらが どんどん増えてくる。 
 ライトがつくと、すごい大反応。1回目のアンコールだけで5曲もやってくれてん し、2回目のアンコールはないかもしれないと思っていた人が多かったみたい。 めちゃめちゃよろこんでる。

 甲斐は黒のレザーシャツの中にツアーTを着て登場。 
 前野選手も黒いジャケットの下にツアーT。白い縁のあるサングラスに換えて いる。

 「嵐の明日」 
 壁に甲斐の影が映っているのがわかり、甲斐から視線をはずすのがもったいないと 思いつつ、一瞬だけその影を見た。 
 甲斐は今夜も、「シャララララララララ」とうたうとき、腰のあたりで両肘を 曲げ、伸ばした指先を右に向けている。「シャララララララー」に入って両手が左へ 向きを変えたと思ったら、すぐに右手でマイクをつかんだ。

 もう一度メンバー紹介。 
 松藤が「サンキュー」と言ってくれる。そうや、京都でも言ってくれたな。

 「今日はほんとに来てくれて感謝してる。サンキュー。ありがとう」 
 「丁寧で、あたたかい拍手で、いたみいります」 
 うん、ほんまに今日は拍手があたたかかったよ。心がこもってるねん。

 「かけがえのないもの#2」 
 「俺」と「君」の物語。一度はこわれかけた愛を取り戻そうとする二人の暮らし。 その歌に引き込まれていく。客席全体もそういう雰囲気。 
 後奏で繰り返される「ウォウウォウウォー」が印象に残る。

 「最新ニュースを」と、箱根・花園ラグビー場・「THE BIG GIG」・ 両国国技館・”PARTY”・SPECIAL LAST NIGHTを収録した、 甲斐バンド10枚組ライヴCD BOXについて告げる。 
 今日も入場する時に詳しいパンフレットをもらった。

 最後の曲へのフリで、フォークの話題になる。山本潤子の名前も出た。 
 「亡くなったけど、高田渡」と、京都でもほめてた高田さんの話へ。 
 松藤が「生きてるよ」とツッコんでしまう。 
 「知らないとは。松藤、昨日遊んでたんだ」 
 松藤は「遊んでた」と返してから、前野選手に顔で確認し、事実だと知って神妙な 表情になる。 
 甲斐は高田渡の話を続ける。 
 「19のとき、初めて会って。そのときから35みたいだったんだけど、後で4つ 上と知ってびっくりした」

 懐かしの歌みたいな番組については、「僕は現役感がナマナマしいから」と、 出ない宣言。

 「「裏切りの街角」が売れたからじゃなくて、あれが一生やっていきたいカラー だった」 
 「デビュー曲としては完成度の高いやつを」

 そう言って始まった。 
 「バス通り」 
 これが、このツアーで僕が最後に聴く歌になる。そのことが急に強く胸に迫って きた。 
 ラストの繰り返しは、「もう終わってしまうのか」と、さみしい思いで 聴いていた。

 前野選手はサムアップで帰って行った。 
 甲斐は、めっちゃ長くステージに残ってくれる。「25時の追跡」が流れてきて も。そして、マイクで「サンキュー」と言ってくれた。これは、5ヶ所行った今回の ツアーで、初めてのことやった。うれしかったなあ。

 客席を出ると、グッズ売り場とCD売り場に人だかりができていた。 
 守山って、素晴らしい。小さな町で聴くことで、さらに深く醍醐味を感じられる ツアーなんや。今、あらためてそう思う。 
 甲斐が好きで、ライヴに行って、1曲1曲を素直に体感する。それこそが全て。 甲斐のステージを冷静に語るなんて、僕には考えられない。思い入れと情熱を抱えて、 これからも甲斐のライヴに参加するぞ。

 

 

2005年4月17日 守山市民ホール

 

ちんぴら 
裏切りの街角 
きんぽうげ 
ビューティフル エネルギー 
かりそめのスウィング 
安奈 
レイニー ドライヴ 
愛のもえさし 
BLUE LETTER 
花,太陽,雨 
漂泊者(アウトロー) 
風の中の火のように 
破れたハートを売り物に

 

翼あるもの 
感触(タッチ) 
テレフォン ノイローゼ 
HERO 
熱狂(ステージ)

 

嵐の明日 
かけがえのないもの#2 
バス通り

KAI 30th ANNIVERSARY TOUR ENCORE ”アコギ”なPARTY 30

2005年4月15日(金) 京都会館第2ホール

 

 京都でのライヴは、1996年のミューズホール 以来。 
 京都会館となると、「ストレート ライフ」ツアー以来やなあ。あの日の 「ラヴ マイナス ゼロ」は忘れられない。第一期ソロ前半によく使っていた、濃紺のボディが小さくて四角くて、ネックの先がいきなり切れてないようなエレキギター。甲斐があれを静かに鳴らし、他にはキーボードが加わるくらいで、鈴木明男たちがならんで コーラスしてた。声を生かした、素晴らしいアレンジやったなあ。 
 あの頃はまだ京都に地下鉄はなく、友だちとタクシーで行ったんやった。

 今日は地下鉄で向かって行く。国際会館という駅があり、一瞬うっかりそっちを 目指しそうになったが、国際会館と京都会館は別物。事前に京都会館HPで調べておいた 通り、東西線東山駅で降りる。 
 改札を出たところに表示されてある、京都会館への最寄り出口が、HPに載って いた出口と違う。少しだけ考えて、駅の表示に従うことにした。 
 地上に出てすぐに地図があったけど、何か細くてわかりにくい道を行かな あかんみたい。おそらく、HPに載っていたのはわかりやすい大通りに近い出口で、 駅の方は物理的に近い出口を教えてくれていたのだろう。開場の6時半まであまり時間も なくて気が急くが、そのまま行くことにする。

 出口から左に進むとすぐ川があり、その手前を左折、京都らしい細い路地を歩く。 ほんまにこの道なんかいな。たよりなく感じつつも、たしかこっちの方角だと見当をつけて進む。 
 すると、小さな川沿いの狭い道に出た。桜の樹があったり、石の細い橋がかかった 向こう岸を着物の女のひとが歩いていたりする。めっちゃ風情があるねんけど、今は あまりそれを楽しんでいる余裕がない。 
 川に沿って進みきると、広い通りに出た。とりあえず右側の信号の方へ行ってみる と、いきなり向こうに巨大な鳥居が見えた。どうやら、この道で合っていたようだ。

 信号を渡ると、道は広くて大きな赤い橋になる。左右に桜も緑も多く見えて、趣の あること。観光客を乗せる人力車も停まっている。あの人力車の後ろが光るようになって るの、今初めて知った。 
 美術館、図書館と、その前を通り過ぎて行く。正面の奥は平安神宮らしい。それで あの鳥居か。京都会館とこんなに近かったとは。 
 平安神宮まで進まずに左折する。右手の桜が実にきれい。15日になってこんなに たくさん桜を見られるとは思ってもいなかった。 
 桜の公園の隣が、ついに京都会館。左手前の入口から入場。  

 甲斐バンドのライヴCD10枚組BOX「熱狂 ステージ」の豪華パンフレットを 手渡される。このツアー4ヶ所目にして初めてや。 初日の岡山から配るの間に合ってたらよかったのになあ。 
 パンフを手によろこぶ僕を見て、甲斐友が「曲目全部載ってんで」と教えてくれ た。ああ、危なかった。そう言うてもらえへんかったら、うっかり開いてしまうとこ やった。僕はCDを初めて聴く瞬間まで、収録曲目も曲順も一切知りたくないのだ。 1回目は何も情報を入れずに聴いて、実際のライヴのように驚きたいから。

 トイレに行くと、中にスタッフが立っていた。こういうの、やたら警備が厳し かった九州共立大学の、KAI FIVE 学園祭ライヴ以来やな。見たところ、 トイレ内に関係者用通路らしきものがあるので、その前をふさいでチェックしている らしい。

 客席では早くから口笛が鳴らされ、「甲斐ーっ!」の声が飛んでいる。めちゃ めちゃいい感じやん。今夜のライヴはひときわ熱くなりそうや。 
 BGMは「カントリー ロード」、「バイバイ ミス アメリカン パイ」、 マンダムのCMに使われていた曲。 
 最後のBGMが「ウィスキーバー」と歌い始めた。ステージに横から白い光が 射す。その中を甲斐の登場だ。

 「ちんぴら」 
 やはり今夜も、1番でも「そこは」を抜いて歌う。 
 「だから短く輝いては 消えてしまうというのかい」 
 ニューヴァージョンの歌詞も聴くことができた。

 松藤とともに、「裏切りの街角」 
 暗いステージに、白い光。歌い出しで拍手が起こる。 
 松藤は「わかってたよ」に入る前の部分を、オリジナルのように3つの音で 終わらせない。ラストが次につながっていくような抒情的なメロディーを奏でてくれる。 
 甲斐の声に思う存分聴き入る。今夜はハーモニカが強く吹かれている。 
 最後にみんなが拍手を始めても、僕はまだ動かない。もったいなく思えて、 音が完全に消えるのを待ってから拍手した。

 ここからは前野選手と3人で。 
 「きんぽうげ」 
 ライムグリーンの照明。1番では突き放してうたうところもあった甲斐。その後は やさしい声でうたっていく。 
 アコーディオンを這う前野選手の指が、「きんぽうげ」の間奏をつむぎ出す。 
 甲斐は「ひびわれた」の歌詞をトバしてしまう。よくオーディエンスに歌わせる 部分でもあるもんね。 
 後奏。甲斐の声は「デュデュデュ」からやがて「フフーフフー」とファルセットに 変わる。 
 ラストは松藤のアコギが「ザザザーン」と幕を引く。

 オープニングで立つ人と座ったままの人に分かれたことについて。 
 「変な生物(が生える)みたいにぼつぼつと(立って)。立って見ようが座って 見ようが自由ですから。ただ、(アコースティックライヴで)立った場合、どうやって 座るかって問題が出てくる」と、笑わせる。

 松藤にすごく大きな声援が飛ぶと、甲斐は「聞こえてるよ。近いんだから」。 松藤が「見えてるし」と続ける。 
 そういえば、2列目に、松藤に手を振っている人たちがいて、松藤も顔で反応して た。知り合いなんかな。 
 甲斐は「「家政婦は見た」のように見たくないものまで見えてしまうかもしれない けど、それはお互い様」というジョーク。

 「京都では、大都市を避けてやってるツアーとは言えないね」 
 「(京都でのライヴは久々だけど)プライベートでは来てた」と言うと、客席から 「エーッ」の声。 
 甲斐がそれに反応すると、松藤が「今日、耳いいな」 
 「昔は京都に何泊もして。丹後・・・丹後ちりめん、野村の母校・・・。豊岡 とか(にも行った)」 
 甲斐はさらに京都のことを、「今日の昼も、いいなあと。また、いい季節に来たな と」

 「ビューティフル エネルギー」 
 今夜も甲斐は短く響かせてうたい、松藤は伸ばして歌う。 
 前半を松藤が歌う2番も、サビは甲斐がうたう。そして、最後の繰り返しは、 2人のハーモニー。甲斐がサビをしめくくる。

 「かりそめのスウィング」 
 前野選手が指を鳴らして、客席の手拍子を誘う。歌に入ってからも、1番の前半は 指を鳴らし続けてる。 
 マフラーの詞は、「首に巻きつけた」でうたわれた。 
 「デューー ワッワッ」って感じで演奏されるアコーディオンが、この曲のムード を濃くしてて、いい。終盤には鍵盤を指が上へ走り「ギュルルー」と音を飾る。 
 甲斐がラストで「オーイェー!」と叫んだ。

 八坂神社に花見で来たときに、流しの人に「安奈」をうたってるのは自分だと告げ てびっくりさせたという笑い話。 
 京都ならではのMCがもうひとつ。 
 四条大橋の上。甲斐の姿を見た占い師が激しく反応し、「ちょっと、ちょっと、 君、見せて」と声を掛けてきた。「お金ない」と言っても、「いいから、いいから」と 甲斐の相を見て、「君は将来必ずビッグになる」と断言したらしい。 
 「ビッグになるっていっても、この程度か」と甲斐は茶化したけど、客席のみんな は拍手をおくる。俺らファンにとっては、甲斐は唯一無二の存在なのだ。 
 「「HERO」が売れた後、その人を探しに行ったんだけど、いなかったんだ よね」という後日談。

 「僕は磔磔から出直します。神戸はチキンジョージ から」 
 冗談ぽく言ってるけど、もしかしたら本当に地元のライヴハウスで甲斐が見られる かもしれないと、よろこびの拍手が起こる。 
 磔磔行ったなあ。甲斐友たちといっしょに。1994年だったか。店内に 「風の中の火のように」を作詞したときの甲斐の直筆ノート(CDとは少しだけ詞が ちがっていた)や、甲斐バンドのゴールドディスクが飾られてあるのだ。 
 「磔磔から始めて、磔磔で2daysできるようになったら、西部講堂行って」 
 「西部講堂、いいよねえ。浅川マキとか、俺持ってるもん。自分がそこに並んだ わけじゃないけど」

 「安奈」 
 3番あたりから、松藤のアコギの音が小さくなっていったみたいや。甲斐の歌声が 響く。そこへみんなの歌が重なって、コーラスとなる。 
 「クリスマスツリーに」で甲斐はうたうのをやめ、「あかりがとーもりー」からは オーディエンスだけにうたわせてくれた。 
 そして再び甲斐とサビを合唱する。

 「レイニー ドライヴ」 
 青緑のライティングのなか。 
 甲斐はうたい方にアクセントをつけている。「忘れてーいたー」の「いたー」や、 「ささやきーさえー」の「さえー」を強くうたい、その後の部分は静かにうたうのだ。 詞が沁みてくる。刺さってくる。 
 間奏でピアニカを聴かせてくれていた前野選手が、楽器を口から離すやすぐに 「サーチライー」のコーラスに加わっている。すごいなあ。

 「いい感じだな。・・・最後の曲になりました」 
 みんなが一斉に驚きの声をあげると、「今、(みんながあまりにも)集中してた から」と、いたずらっぽい表情をする。

 「アコースティックセットだと、甲斐のMCがたくさん聞けるだろうって勘違い してる人もいるみたいだけど。(いっぱいしゃべるかどうかは)会場によるんだよ。 かたくなな、曲が終わっても肩に力入ってるよう(な客席の雰囲気)だと、(そんなに はしゃべれない)ね。それを、いろんな角度からほぐすのも好きなんだけど」

 「磔磔から出直します」「(京都にも)こまめに来る」といううれしいセリフも 織り交ぜながらのMC。

 「神戸じゃ渚と、京都じゃ別の名前を名乗ってます」と、神戸のMCを受けての 話題も飛び出した。 
 松藤は「(京都でこのことを言うって神戸で宣言したのを)よく思い出したね」 って、感心するように驚きながらウケている。 
 甲斐は「MCで何か忘れてると思ってたんだ。それを探して、どうでもいいこと 話してた」とボケてから、「どうでもよかったのかよ!」と自分でツッコむ。

 暗転したステージ。ライトがつくより先に曲が始まる。 
 「愛のもえさし」 
 下の方で光が回っている。 
 甲斐のうた。それにコーラスも、よかったあ。歌も演奏も照明も素晴らしかった。

 「愛のもえさし」について、「松藤の歌を奪って、夜明け(という歌詞)を夜更け に変えて」 
 「歌いたい歌いたい病に時々なるんで。京都で店借り切って、朝までカラオケ 歌ったこともある」 
 そう甲斐が言うと、「彦根のときか」と 松藤が即座に反応する。

 麻生高校の名前を口にした甲斐。左の前野選手を見るも、無反応。 
 「いっしょにステージ出てるんだから」と言いつつ、仲のよさが伝わってくる シーン。

 「宣言したから、ほんとにやろう」 
 磔磔ライヴがほんまに見られるのか。感激の拍手が沸く。

 武道館のDVDの見どころは、「自分の出て ないDA PUMP(の出演部分)だ。自分は飛ばす」なんて言ってみせる。 
 アンコールの「HERO」での、DA PUMPとベースのノリオの対比もウリ だという。 
 「そういう秘蔵特典映像もあって」 
 「ぐっさんは、大友康平のマネしたときの方が音程いいんだよね」  

 「武道館で大友康平とやった時は、しぜんと歌い方が変わったんだけど。今日は 自分のうたい方でがんばる。当たり前だ。誰のコンサートだ」

 「BLUE LETTER」 
 背景に雲。左はオレンジの照明。右の松藤は青に染まってる。 
 「BLUE LETTER」の詞の舞台、この曲のモチーフとなった「道」、 「郵便配達は二度ベルを鳴らす」、さらにはグレアム・グリーンの小説 「ブライトン ロック」の海辺に今自分がいるような感覚になった。 
 歌って、照明って、こんなにもイメージを広げるもんやねんなあ。

 「花,太陽,雨」 
 客席から手拍子も聞こえた。僕は、ただ3人の歌を浴びる。 
 「この白い光」は松藤のパートだったが、甲斐もいっしょにうたった。それだけ のめり込んでいたのだろう。

 「漂泊者(アウトロー)」 
 甲斐が立ち上がって歌う。オーディエンスはもちろんすでに立っている。 
 ステージ上方でカラフルなライトが左から右へ2つずつ移動し、そのうえさらに 光を放つ。 
 1番では「SOSを流してる」から「テレビのヒーローが言ってる」まで間隔が あけられたが、2番は「愛こそ救いだとしゃべってる」に続けて 「希望の時代だと言ってる」と歌っていく。 
 間奏は甲斐のハーモニカ。強く。松藤のアコギも。前野選手のアコーディオンも。 
 ラストは急激に果てる。「漂泊者(アウトロー)」らしく。 
 熱狂の声がホールのあちこちから。「甲斐ーっ!」という叫び。オーディエンスの 熱が渦巻いてる。

 「風の中の火のように」 
 場内の興奮を受けとめてのことだろう。今夜の甲斐は、この歌を全部強く歌い 切る。 
 間奏のギターにも力がこもってるで。

 前奏で甲斐が言う。「最後の曲になりました」 
 「破れたハートを売り物に」 
 しっかり聴けるが、勢いもある、絶妙のテンポでの演奏だ。 
 「あのー雲を 払い落ーとし」と、オリジナルのタイミングで歌われた。これまで アコギヴァージョンのときは「落ーとーしー」って歌うことがほとんどやったけど。 
 後半、3人それぞれのギターの鳴り方が印象的や。そう感じながら、大合唱して いく。 
 ラストは2人が甲斐のギターを見て合わせ、完璧にそろってフィニッシュ!

 本編が終わったとこやけど、甲斐はステージに長く残って歓声に応えてくれる。 今夜のオーディエンスは特に燃えてるもんなあ。

 再び出て来てくれた甲斐は、黒のTシャツ。首のところを切ってあるようだ。銀の ネックレスが覗いている。

 「翼あるもの」 
 静かなアコギと歌。それでも僕らは拳を上げる。詞と歌声をかみしめながら。 
 間奏がすごいのだ。ギターの高まりにつれてオーディエンスも盛りあがる 盛りあがる。 
 その勢いで突っ込んで行った繰り返しは、「俺の海に翼濡らし」とニュー ヴァージョンや。 
 「たーどりいーい つーーくまでー」と歌った甲斐は、左腕で押さえてギターの 角度をずらした。音の反響を変えるように。 
 早めに「俺の声が聞こえるかい」と歌い始めた。 
 「ハーウェー フラウウェー」と声をあげる。ギターの音をわき上げる。 オーディエンスの拍手が捲き起こる。甲斐はそれから最後の音をキメた。

 やはり静かな前奏から。 
 「感触(タッチ)」 
 客席からの「タッチ!」の声が多い。ええやん、ええやん。 
 「お前がすがる」のとこからは「タン タ タン」の手拍子をする人たちも。 このシングルが発表された当時のライヴでは、その手拍子が多かったんかな。 
 1番を「胸はこんなにも」から「永遠に続く口づけ交わしながら」、2番を 「腕はこんなにも」から「二人だけのこの痛み守りながら」と、クロスさせて歌う ニューヴァージョンやった。

 大歓声にうなずく甲斐。やっぱりもう1曲やってくれる! 
 「テレフォン ノイローゼ」 
 甲斐のギター!イントロからめっちゃかっこいい。あのフレーズを生かして、強く 弾いていく。 
 1番は歌入りのタイミングを遅らせる。 
 2番はオリジナル通りに歌い出す。サビの2回目ではギターの音を減らして、 「鳴りっぱなしーいいー」と力強い歌いっぷりや。 
 間奏のギターもまた強し。「ザクザク」というストロークからすでにすごい。 さらに指が上下しまくるあの奏法を畳み掛けてくるのだ。 
 3番もオリジナル通りに入った。そして、後奏がバッチリで、俺らファンが 求めてるそのものの音で、またまたかっこよかった。

 「2人を呼ぼう」の言葉に拍手。 Welcome to the ”GUTS FOR LOVE” Tourの 2回目のアンコールを連想させもするセリフやなあ。こういうのにも燃えるのだ。 
 拍手に迎えられて、2人の登場。松藤はツアーTシャツを着ている。全体は黒で、 胸の部分に、赤をバックに刀を持ったニイさんのイラストがプリントされているやつ。

 「HERO」 
 甲斐が前奏から両手で煽り、みんなタイミングを違えずに最初から拳をあげる。 
 松藤のアコギは「ザザザザザッ」って全部弾いていながらも、独特の音をつくり 出す。2番からは少しストロークを変化させた感じ。 
 間奏で甲斐が立ち上がる。「空はひび割れ」のところで照明が暗くなる。 アコースティックでもマイクスタンドを蹴り上げるのかと思ったが、それはなかった。

 「熱狂(ステージ)」 
 前奏。前野選手が右手でキーボードを奏で、左手は指揮をするように振っている。 松藤のアコギが入ると、振るのをやめる。歌入りで拍手。 
 「雨が降るその前に 歩き出す」 
 この詞が心を打つ。とにかく毎日がんばっとく。そうしとかないとな。 
 1番の区切りで再び拍手が起こる。 
 甲斐は強弱をつけてうたっていく。 
 「むかーし」の語尾を響かせ、「ホールで」とうたい、「まばーらなー客ーをー」 で声を張り上げる。 
 「こんやーの」も語尾を響かせる。「ショーは」を少し小さな声でうたう。 「すてーきだあったあー」は力強く張る。 
 「次の町へ 次の町へ」 
 30周年やこれまでのツアーのことじゃなく、これから行くぞとうたってるんだ と感じる。「進んで ゆく」

 甲斐たちが去って行く。前野選手がサムアップして見せる場面が多かったから、 両手でサムアップしたら、片手をサムアップで返してくれた。

 アンコールを欲する大きな大きな手拍子。「甲斐ーっ!」という叫びがいくつも。 これが「俺たちを呼ぶ声」やんな。

 松藤。前野選手。そして、ツアーTの上に白いジャケットを着て、甲斐が現れた。 
 「嵐の明日」 
 背景にはもう一度雲が映し出されている。 
 2番の最初は、「なぜ 不安が」とうたうニューヴァージョンの詞で。 
 二段に並んだ赤いライトが燃えるようにステージを染める。その真ん中で、甲斐は 交差した白いスポットと、さらに他の角度からも白い光を受けている。 
 腰のあたりで肘を曲げ、両手を左に向けた甲斐。右手は胴の横にそえるような 感じ。その体勢で「シャララララララララ」と美しいシャウト。今度は両手を逆向きに して「シャララララララー」。さらにもう1回そのまま声をあげた。

 すぐに演奏が始まった。 
 「かけがえのないもの#2」 
 松藤が弦をはじく。はじく。 
 1ヵ所だけ「俺」を「君」に変えたニューヴァージョンの歌詞。 
 「炎が その目にもどる時まで」 
 繰り返されるこの詞が胸に残る。 
 甲斐と松藤が後奏で、「ウォウウォウウォーっ」と声を重ねる。

 「今夜はワキアイアイと、最後まで楽しんでくれて、感謝してる。ほんとだよ。 サンキュー。ありがとう」 
 そう言ってからもう1度、「磔磔から出直します」のセリフ。

 甲斐バンドのライヴCD10枚組BOXに関して。 
 「箱根から、イベントは全部入ってます。ラグビーよりうるさかったと言われた 花園ラグビー場」 
 客席から「行ったよー」の声が飛ぶ。 
 「両国国技館。BIG GIG。解散コンサート。黒澤フィルムスタジオまで」 
 「解散コンサートのは、全部曲順通りに、全部会場を変えて。 「THE 甲斐バンド」はほとんど大阪城ホールの音だったんだけど、武道館のにした。 関西のみなさん、スイマセンて感じで」

 「3人でしかやらない曲があって。それは、デビュー曲なんですけど」 
 そう聞いて拍手が起こる場内。 
 「曲の完成度は高いんだけど。やらないにはやらない理由がある。相撲取りでも 野球選手でもサッカー選手でも、銭のとれる選手っているだろ? これは銭のとれない曲 だったわけです。次の、今日2曲目にやった「裏切りの街角」から自分たちの一生の カラーを出した曲を書いた。フォークバンドと呼ばれた過去があるから」

 そこから懐かしのフォークを特集したテレビ番組の話になって。 
 「高田渡とか、めちゃくちゃうまい。あの人たちと会いたい。楽屋には行きたい。 でも、出たくはない」 
 「あそこは自分を古典にしないと出られない場所なんだ。現役感バリバリの僕には 無理」 
 この言葉はうれしいよなあ。しびれたオーディエンスたちから拍手がおくられる。  

 デビュー曲の話に戻って。 
 「いい曲なんだよ。やっててときどきぐっとくるもん。ただ、一生やりたい色じゃ ない」 
 「30周年のツアーとかフルバンドでやって て、アコギのコーナーになると、(客席から)「バス通り」「アップル パイ」とか、 やりたくないのばっかり挙げやがって。そっちにいたら、しめ殺してやりたい」と 笑わせる。 
 「バス通り」のことは、「青春のひとつの断片」とまとめる。  

 最後は今夜重ねられたジョーク。 
 「磔磔に渚って名前で出てたら、それは僕です」 
 両脇の2人を示して、「渚スリー」なんていうバンド名も出た。

 今夜を楽しみつくした和やかな雰囲気のなかで。 
 「バス通り」 
 切ない、いい曲を、存分に味わう。 
 ラストは甲斐が、ダウンストロークとアップストロークを1回ずつ聴かせて、 曲を終えた。

 甲斐はサングラスを外し、前に出て来て、ステージの上に長くとどまってくれる。 大森さんの「25時の追跡」が始まっても。 
 「25時の追跡」に合わせて手拍子が起こる。「今夜のコンサートは全て終了 しました」とアナウンスが流れる。そんなもの、かき消してしまえ。

 

 

2005年4月15日 京都会館第2ホール

 

ちんぴら 
裏切りの街角 
きんぽうげ 
ビューティフル エネルギー 
かりそめのスウィング 
安奈 
レイニー ドライヴ 
愛のもえさし 
BLUE LETTER 
花,太陽,雨 
漂泊者(アウトロー) 
風の中の火のように 
破れたハートを売り物に

 

翼あるもの 
感触(タッチ) 
テレフォン ノイローゼ 
HERO 
熱狂(ステージ)

 

嵐の明日 
かけがえのないもの#2 
バス通り

KAI 30th ANNIVERSARY TOUR ENCORE ”アコギ”なPARTY 30

2005年4月2日(土) 三郷市文化会館

 

 前日から三郷に乗り込んだ。”Singer”の初日 以来、ほぼ10年振りになる。駅前の風情はあまり変わっていないか。しかし、 いろんな店が増えているようだ。あの日、甲斐友と乗った電車は武蔵野線だったことが わかった。新三郷あたりの車窓からの風景は、あの夕刻を思い出させた。 
 前夜は 千葉マリンスタジアムで、マリーンズ対ホークスを観戦。今日も ロッテ浦和球場で、マリーンズ対ファイターズのファーム公式戦を途中まで観戦して からの、ライヴ行きだ。

 野球場のある武蔵浦和の駅から三郷駅に戻り、会場への道を歩む。10年前にお 世話になった薬局が今もあれば、記念に何か薬を買おうと思っててんけど、なくなって しまったようで、残念。 
 大きめの道路を進み、やがて左折する。そうすると、あの懐かしい三郷市文化会館 が見えてくる。向かいの公園も健在や。前回のライヴ終了後、初めて生で聴くことができ た「ブライトン ロック」について、この公園前の道で熱く語ったっけ。

 客席に入ると、昔のマンダムのCM曲が流れている。 
 自分の席で落ち着いて、ふと目に入った場内の時計は「17:02」。開演予定 時間を2分過ぎている。 
 アナウンスがあったのは、「17:06」。 
 そして、「17:10」、いよいよBGMが高まった。「ウィスキーバー」って 歌っているように聴こえる。

 ステージ左から甲斐、右からアコギを持ったスタッフが進んで来た。 
 ギターをかけ、マイクスタンドの前に立つ甲斐。手拍子、拍手、「甲斐ーっ!」の 叫びに、「サンキュー」と応えてから、アコギを弾き始めた。

 高らかな鐘の音のような前奏は、やはり ”My name is KAI”の「ブライトン ロック」や「三つ数えろ」を 思い出させる。 
 「ちんぴら」 
 1番の最初、「恋をささやくことさえも 窮屈すぎる街」と、甲斐は「そこは」を 抜いて歌う。 
 「お前にすがりついーたー」「思いもしなかあったー」「溺れていったー のおさー」甲斐は今日も、最後を歌うタイミングを変えている。このツアーはこれで行く のだろう。 
 客席の手拍子は小さめで、会場全体が息をつめて甲斐に見入っているような 雰囲気だ。 
 「あー あー あー」と力を込めて歌っていく甲斐。ラストも「そこは」なしで 歌った。 
 後奏の最後は短め。「ちんぴら」独特の「タンタン」という2音を弾かず、 その前に音を伸ばしてフィニッシュに入る。

 「松藤英男を紹介しましょう」 
 拍手で迎え入れられた松藤は、エンジのシャツ。今日もはだけ気味や。

 「裏切りの街角」 
 前奏。1番の後。2番の後。すべてで甲斐がハーモニカを聴かせてくれる。2番後 の間奏でだけ、ハーモニカの入りを遅らせ、その音を伸ばしていく。 
 最後は松藤のアコギとともに、「あのー人がー 見え なく なあったー」と ゆっくりうたって終える。

 次に加わった前野選手は、今日は縁なしの角張ったサングラスをかけている。 
 「きんぽうげ」 
 ステージ下方はライムグリーンの照明に染まっている。 
 アコーディオンの黒いボディに、赤紫の、青紫のライトが映っているのが見える。 アコーディオンの蛇腹が震え、「きんぽうげ」のあの間奏が生み出されてゆく。

 「このツアーは、去年やった30周年ツアーのアンコールツアーということで。 十何年行ってなかった岡山から始まって。 島根とか。福岡でも中心から離れたところでやったりとか」 
 「三郷は来てたんだ。ゲネプロで。ゲネプロって、ツアー前にホール借りて通し リハーサルするんだよ。今日は「本番、本番」と自分に言い聞かせて」というジョーク。  

 「ビューティフル エネルギー」 
 甲斐のサングラスに青紫のライトが映っている。 
 甲斐は1番で、「のぼってゆくよーーーーぉ」と声を張り上げた。 
 「もう二度とこの」からアコーディオンの音色がからんでくる。 
 後奏で甲斐が、「ウー」「ウォーエー」と切なくささやいた。

 「かりそめのスウィング」 
 前野選手がはじく指に合わせて、みんなの手拍子が始まる。 
 注目のマフラーの詞、今日は「首に巻きつけた」とうたわれた。

 うたい終えた「かりそめのスウィング」について。 
 「ほとんど二十歳のときに書い て。老成してたってことですね。(今の自分が)そんな二十歳見たら、ぶっとばしたく なるだろうけど」

 三郷のお客さんに、「今日、変」とツッコむ甲斐。 
 「ふつう1・2曲目が拍手長いのに、3曲目くらいからで。(客席が)緊張し てる」 
 「関東、変。厚生年金(会館)も武道館も 行けるのに、地元になると及び腰になって」 
 笑いも起こった場内の反応からすると、地元の人たちの気持ちはその通りやった みたいや。

 「去年のツアーは、夏に山梨でリハをやって。そのときは三郷じゃなかったんだ けど」と、校名の話に入る。 
 福島の小名浜二中出身の人はフリーライターで、わざわざ電話をかけてきたと いう。  

 「前の曲は冬の歌で。次も。これはみんなで」 
 「安奈」 
 甲斐がうたいながら、みんなもうたっていいんだと示す。そのジェスチャーが だんだん大きくなっていき、みんなの歌声も大きくなる。 
 「クリスマスツリーに」からの部分は、客席だけにうたわせてくれた。

 「レイニー ドライヴ」 
 前半は松藤のアコギだけの演奏で、甲斐がうたう。 
 やがて前野選手のピアニカが、あのメロディーを重ねてくる。

 「次の曲もいい曲なんだけど、行きたくない」と、MCでたっぷり話す甲斐。 
 もう1度今日の雰囲気を「変」と言ってから、「今回のツアーは大都市では やらない。だから、三郷。もうはっきり言った方が」と笑わせる。 
 「「東京はやらない」って言ったんだけど、イベンターが「違うんですよ、 甲斐さん、東京っていっても荒川ですよ」って。荒川は遠い。うちの家から」 
 「埼玉とは相性いいから、次は大宮か浦和。浦和でやろう」 
 この予告に拍手がわく。 
 「千葉は相性悪いから」と言うと、客席から「エーーッ」って大きな声が飛んだ。 
 「千葉の人?言ってはいけない言葉?「熊の木本線」みたいな」 
 甲斐が両隣の2人と顔を見合わせる。甲斐のMCで、筒井康隆作品の中でも僕が 特に大好きな「熊の木本線」のタイトルが出るとは。3人とも読んでるみたいや。 
 「今日は質疑応答ありなのか。じゃあ、そこの端の君から」なんて言ってみせる 甲斐。 
 客席から「待ってるよー」と声が掛かると、「言ってしまった。待ってるんだ。 責任を感じる」と、埼玉ライヴが現実味を帯び始めた気配。 
 松藤がすかさず「ディスクガレージ、よろしく」

 「愛のもえさし」 
 ほんまにいい曲やんなあ。 
 ラストで背景が真紅になった。

 武道館のDVDの話題。ぐっさん、大友康平、m.c.A・T、大友・・・じゃな い大黒摩季、DA PUMPと、ゲストの名前を挙げていく。 
 「大友くんとやった曲をDVDで見て、俺はエライと思ったよ。(大友康平に 合わせて)歌い方、変えてるんだよね。今日は元に戻して」 
 と、その曲「BLUE LETTER」 
 たしかに、武道館では歌い方を変えていたのがよくわかった。あれもあの時あの場 ならではの、「BLUE LETTER」やんな。ライヴやもんね。  

 「花,太陽,雨」 
 ただただ3人の声に陶然となる。歌に詞に入り込んでいく。感動としか言い表せ ない。今日特に心に響いた1曲。絶品やった。

 松藤の刻みがすごい。アコギだけでこの音、リズム。もちろんみんな立ち上がる。 
 「漂泊者(アウトロー)」 
 甲斐はオーディエンスに「愛をくれーよー」と歌わせる。ラストは「誰か俺に」と 歌わせて、甲斐が「愛をくれーー」 
 もう完全にあの「漂泊者(アウトロー)」を体現してるのだ。ただ3人の歌と音 で。

 「風の中の火のように」 
 今日は甲斐が強弱をつけて歌う。武道館翌日の イベントほど極端ではなかったけど。それでも、詞がより伝わってきて、この歌の 言うぬくもりが、愛が感じられて、胸が熱くなる。

 3人ならんだギター。前奏の間に甲斐が言う。「最後の曲になりました」 
 「破れたハートを売り物に」 
 みんなで歌う。甲斐の歌と。3人のハーモニーを聴きながら。それでも強く。 声をかぎりに。

 1回目のアンコール。甲斐がアコギを奏で始める。 
 「翼あるもの」 
 間奏がすごい!甲斐のギターが次第に激しく熱を発し、オーディエンスも燃えて いく。 
 「俺の声が聞こえるかい」 
 甲斐が今日は大きな声でそう歌う。不意に泣けてきた。詞に胸がしめつけられる。 
 オーディエンスの想いを喚起するように間をあけてから、「ザカザカザカザカ」と もう一度音を高めていった。

 甲斐は静かに前奏を弾き始めた。だんだん激しくしていって、あのサビに入る。 
 「感触(タッチ)」 
 「お前がすがる俺の」「お前が叩く俺の」からの部分を、1番と2番を入れ換えて 歌うニューヴァージョン。僕らもそれに呼応して歌っていく。その日にしか体験でき ない、こういうことがまたうれしい。

 甲斐一人のアコギ2曲に熱烈な拍手がおくられる。僕も手を打ち、「甲斐ーっ!」 って叫びまくり。 
 みんなの反応にこたえるように、甲斐がもう1曲弾いてくれる。 
 「テレフォン ノイローゼ」 
 2番の前半から音を減らしていく。ブレイクもあり、甲斐とオーディエンスの 歌声が、「テレフォンノイローゼーアハ」という合唱が、合間に甲斐が叫ぶ声が、会場に 響く。 
 2番の最後は静かに弾いて、「暗闇にーーー」と声を伸ばす。今日はここで終わっ てしまうショートヴァージョンなのかと思いきや、そこから演奏が激しくなってあの間奏 へ突入していく。もうネック全体を指が上下し、往復して。 
 ああ、めちゃめちゃ燃える「テレフォン ノイローゼ」やった!

 ここから再び3人でのステージになる。 
 「HERO」 
 「ザザザザザッ」のストローク、今日は松藤が全部残さず弾いているように 感じる。 
 アコギの音色が何だか”My name is KAI”の「観覧車’82」 ふうに聴こえた。弾き方が変わったのか、こちらの受け取り方がちがうのか。同じ曲を 聴いても、毎回僕の感じ方はさまざまだ。その意味でも、ライヴは毎回毎回ちがうもん やんな。

 「熱狂(ステージ)」 
 甲斐が歌に入った瞬間、泣けてしまった。その声を聴いただけで。詞の意味を言葉 として理解する以前に。すでに心をつかまれていた。 
 客がうたう場面もあった。 
 間奏で拍手せずにはいられない。 
 特に感動した「熱狂(ステージ)」やったなあ。

 心酔したオーディエンスの前へ、2回目のアンコールに3人が帰って来る。 
 「嵐の明日」 
 今日は速いテンポでの演奏だ。 
 終盤、甲斐は激しく、強く歌う。壮烈なバラードが出現する。

 「今日だけの曲を・・・とにかく、このツアー初めての」 
 その甲斐の言葉に、みんな大よろこびで拍手! 
 「ダメだったら、途中でやめる」なんて言うから、「エーーッ」って声があがる。 
 「飽きたら(やめる)」「練習だ」なんて言ってから、「うそ。本当はすごく 練習したんだよ」 
 そして、話をやめ、「ちゃんとやろ」と切り換える。

 「かけがえのないもの#2」 
 「ドゥン ドゥン」という音を松藤のアコギが響かせる。そのリズムの上で、 甲斐がうたっていく。 
 「ウォウウォウウォー」というハーモニーを3人で。甲斐と松藤でのコーラスも あった。 
 ライヴで「かけがえのないもの」を聴けたのは、きっと ROCKUMENT以来じゃないか。ニューアルバム 「アタタカイ・ハート」からの曲やということも、曲数が増えたということも 合わせて、とにかくうれしい。

 「今夜はほんとに来てくれて感謝してる。ありがとう」 
 僕らはもちろん、拍手と「甲斐ーっ!」の声で応える。

 前半のMCで、最後の曲を「バス・・・」と言いかけてしまったので、 
 「さっきもらしてしまった「バスルーム」という曲を」 
 松藤が「愛を込めるか?」とかぶせる。

 そのデビュー曲「バス通り」について。 
 「曲の完成度は高いんだよ。でも、プロ野球選手でもサッカー選手でも、 ”銭にならない選手”ってダメじゃない」 
 神戸のときみたいに、「不憫な子ほど かわいい」と言えば伝わりやすいのではと思ったけど、今日はそうは言わなかった。 
 「「フォークバンド?」って思われてしまう。10年そのスタイルでやらないと いけないわけだから。半年間タメてタメて、「裏切りの街角」を書いた」 
 「なんで3人で(「バス通り」を)やるかっていうと、この背景に合ってる。 JAH-RAHがいて、土屋公平がいるのに、(「バス通り」をやるって)言えない。 「裏切りの街角」が限界だった」と笑わせる。  

 アコースティックライヴという形態に関して。 
 「いいなあ。俺が座って、君らが立ってる」とジョークを言ってから、 
 「歌唱力や人間性が見える。はだか。ヌードっぽい状態で」と表現する。 
 「きついんだ。松藤なんて、(終わると)へとへとになってるもんね」 
 「3人でまわるって言ったら、(最初は周りに)冗談かと思われた」 
 「スタッフの数が少ないから、みんなを待って打ち上げする」のが通常のツアーと ちがうという、舞台裏の話も。  

 歌い続けていくのに大切なこと。 
 「歌に対する純粋さ。歌っていくということへの」 
 客席が感動してる雰囲気になると、 
 「ボクにだまされちゃいけません。人間性の悪さで残ってきたとこあるから」 
 と、照れ隠しのようなセリフ。  

 「さっきの曲はすごくよかったので、またどこかでやります」という宣言が、MC のしめくくり。 
 たしかによかったもんね。またうれしさがこみあげてきて、拍手。

 マンドリンが前奏で「ポロポロ」と音を出す。 
 「バス通り」 
 MCの内容も全て受けとめて、いい歌やとあらためて感じながら聴いていく。 
 素敵だったライヴの時間が終わりに近づいていく。

 曲が終わるとすぐに、甲斐はサングラスを外して台に置き、前へ出て来る。 オーディエンスの声援に応えてくれるのだ。 
 松藤はステージを去るとき、甲斐の方を手で示していた。いい光景やったな。

 

 

2005年4月2日 三郷市文化会館

 

ちんぴら 
裏切りの街角 
きんぽうげ 
ビューティフル エネルギー 
かりそめのスウィング 
安奈 
レイニー ドライヴ 
愛のもえさし 
BLUE LETTER 
花,太陽,雨 
漂泊者(アウトロー) 
風の中の火のように 
破れたハートを売り物に

 

翼あるもの 
感触(タッチ) 
テレフォン ノイローゼ 
HERO 
熱狂(ステージ)

 

嵐の明日 
かけがえのないもの#2 
バス通り

KAI 30th ANNIVERSARY TOUR ENCORE ”アコギ”なPARTY 30

2005年3月12日(土) 神戸チキンジョージ

 

 仕事の時間を変更してもらい、早めにあがる。駅で腹ごしらえをしてから、神戸は 三宮へ。開場時間を過ぎたチキンジョージに滑り込んだ。

 早々にSOLD OUTの報が流れていたチキンジョージは、すでに混みまくって いた。客席左後方の扉を抜けると、すぐ脇に何とか場所を確保したといった趣きの グッズ売り場。段の高い後方スペースに、立ち見の観客たち。右端のカウンターへ ドリンクチケットを引き換えに行く余裕もない。人々の間を縫って、前のイス席へ。 
 僕の席は右寄り。イス席の中ではだいぶ後ろの方。最前列からぎっしりとイスが 詰め込まれていて、かなり窮屈だ。しかも、僕の前のあたりは列が歪んでいて、前列の イスが自分の足元まで迫っている。イスにも種類があったみたいやけど、僕の席はただの 円イス。何とかイスの下にカバンを置くと、もはや自分の足を下ろす場所もない。イスの 脚の途中の輪っかに両方のつま先を乗せるという不安定な体勢で、ライヴに参加するしか ないようだ。イス席でも最後尾だけは一段高くなっていて、席まわりにもゆとりがある ねんけど、僕のイスは前後左右びっちりと取り囲まれている。 
 これだけ人が密集していると、暑い。空気もよどんでいるように感じる。天井高く で大きな羽根が廻されているが、用をなしているとは思えない。気分が悪くなる人が出る んじゃないか。そんな心配をしつつ、開演を待つ。

 ステージ奥上方には、「CHICKEN GEORGE」の文字が光っている。 1996年のライヴを思い出す右手の階段は黒い幕で 覆われている。

 甲斐がステージの中央に現れた。大歓声。僕は立ちたかったけど、立てない。それ 以前に、足を床に置くことさえできひんねんから。何人か立ち上がっているファンもいる が、やはりぎゅうぎゅうづめで立てない人も多いようだ。何とか気持ちは伝えたくて、 僕は繰り返し叫んだ。「甲斐ーっ!」

 甲斐のアコギが”My name is KAI” の「ブライトン ロック」を思わせるように高く響く。しかし、この移り行く音色は 間違いなくあの曲のコードや。初日の岡山では 舞い上がって気づけへんかったけど。小節の最後を2音ずつ弾くところも、まさにこの 歌だと告げている。 
 「ちんぴら」 
 「お前にすがりついーたー」「溺れていったーのーさ」甲斐はサビ前の最後を 伸ばして歌う。この歌い方はこのツアーが初めてかもしれない。 
 「傷つけることも」からはストロークを減らして、じっくり聴かせる。 
 ラストの繰り返し。「恋をささやくことさえも」を、甲斐はささやく声で うたった。

 松藤が加わる。岡山で言ってた通り、「感触(タッチ)」はアンコールにまわった のだろうか。松藤の出番が1曲早まると、それだけでもライヴの印象がけっこう変わる。 
 「裏切りの街角」 
 甲斐は語尾を伸ばさずに響かせる。甲斐の声にひたれるうれしさ。 
 「チュッチュルル チュルルッチュチュチュチュ」の後は甲斐のハーモニカ。 
 ラストはゆーっくりになって、曲が去っていく。

 「飲み物、下に置けよ。 ステージの上に置いてんだよ」 
 甲斐が最前列の客に注意する。 
 「(ステージ上に)腕置いてたとこもあったな。昔なら蹴ってたかもしれない。 まるくなったもんだ」と笑う。  

 「このツアーは、30周年のアンコールツアーということで。 去年とはだいぶ曲変えてるんだけど」 
 「大都市をはずして。いつも行かない街ばかり。神戸は違うわけじゃない。でも、 今日は島根から来た。福岡(の会場)でも、中心から車で1時間。大垣は、「HERO」 を初めて録音した場所で。そこは旅館だったんだけど」 
 「他は10時以降、飲み屋探すの大変で。ここは人が歩いてる。ネオンは輝い てる。客引きに声掛けられて、うれしかったよ」 
 「地方はどこも拍手が長いんだよ。(今日は)あっさりしたもんだよね」という ジョーク。 
 そんなことないよ!今夜のこのライヴにめっちゃ感動してる。拍手するのさえ ちょっと大変なくらい、狭いし。 
 みんながそう思っている気配になると、「思いはあるのかもしれないけど、 ありがたみがちがう」と説明する。 
 「(このツアーは)恋をささやくことさえも窮屈すぎる街で、やってるわけ だよ。ここはちがうよね。大声で語れるよね」

 アコーディオンの前野選手も参加して。 
 「きんぽうげ」 
 上は青、下は緑のライト。 
 甲斐はやはり語尾を伸ばさず、響かせる。いつもの激しい「きんぽうげ」のよう に、「くーらやみの なかーぁ」と下げたり、「くーらやみの なか」と切って突き放す ことはしない。アコギヴァージョンならではのヴォーカルなのだ。

 「物置じゃないんだから」と、甲斐が再び最前列の飲み物の件に触れる。 
 松藤は「舞台だもんね。踊らないけど」

 「ここがいちばん(このツアーで)距離近い。だからといって、上がって来るな よ」と甲斐。 
 後ろの立見席から声が飛ぶと、「(俺は)そこらへんまで跳べるんだから。  後ろから走ったら。 結局届かず、寸前で朽ち果てていく気がするけど」 
 「去年はフルバンドで、最後は武道館まで 行って。今日はアコースティックだからといって、親密な感じだとは思わないで」と 言ってみせる。  

 「80年代・90年代はバランスがよくて。バブルのせいもあったんだろうけど。 俺はおもしろくないなと思ってて。 最近、10代で暴れる奴が出てきて」と、 スキャンダルになった若者2人の話をする。 
 「30代になっても」と、別のスキャンダルの話題になり、「何やっても、あんな ふうに書かれたくない」  

 甲斐が曲名を告げる。 
 「「ビューティフル エネルギー」という曲を、やりましょう」 
 「あーえないーかも しれーなーいからーーぁ」と、甲斐が語尾を下げた。 いつももそうやけど、アコースティックだと甲斐の声をすみずみまで味わいつくせる なあ。

 前野選手がフィンガースナップ。それを見て、客席が手拍子をする。 
 「かりそめのスウィング」 
 甲斐は「口に巻きつけた マフラー」とうたう。 
 間奏ではハーモニカだ。

 「今の季節にぴったりの曲をやりました」 
 もう春の雰囲気になってはきてるけど、「外は寒い」 
 「「口に巻きつけたマフラー」とうたってしまいました。この歌は、アマチュア 時代の曲「師走」が原形になってて。それに引っ張られてしまう。詞は70%、曲は全部 変えて。”PARTY”でも、いい感じで「口に巻きつけたマフラー」ってうたったんだ けど。俺としては、「口に巻きつけた」にしたかったんだけど、わかりにくいかなと 思って、首に巻きつけました」 
 思いがけず、「かりそめのスウィング」秘話が聞けて、めっちゃうれしい。 ”PARTY”以降、ライヴで「首」とうたうのか「口」とうたうのかいつも気をつけて 聴いててんけど、そういう事情があったとは。

 「去年のツアーは、30周年・3時間・30曲ということで。武道館は3時間40 分くらいやって。DVDでは、それを2時間にまとめて。1枚組の予定が2枚組に なった。「グッドフェローズ」からのゲストがあんまりおもしろいんで、それも入れて」 
 「ぐっさんとのステージを舞台裏で見てる大友康平とm.c.A・Tが、「ウケ てるな、ヤだな」とか言ってんの。A型の考え方だよね。B型は、「(後に出る自分の ために)あっためてくれてるな」と思う」  

 チキンジョージに関して。 
 「ここは、いつもやりたくて。(ステージ上に)飲み物置かれたのはイメージが 違うんですけど」と笑わせる。 
 早々のSOLD OUTに、「2daysにするべきだったと、イベンターが 言っていた」 
 「全部お客さん代わるなら、2日やってもいい」という意地悪なジョークも。

 通常のツアーでは客の歌声が、「すごい声」だと言う。 
 「JAH-RAHがカウント出して、俺らは合図かよ。DVDのミックスも大変 だった」 
 客席のみんなと「提携してもいいよ」と甲斐。 
 松藤が「ライブドアみたいに」とかぶせる。 
 「2番まで、俺、歌わないとか」 
 「それは長い」 
 「俺、ほんとにやったことあるんだよ。花園のアンコールでの「翼あるもの」。 2番まで歌わずに、全部客に歌わせてんの」 
 ああ、「今夜限りね」という詞をその夜どうしても歌いたくなくて、アンコールで 歌う予定だった「きんぽうげ」を、その日2度目の「翼あるもの」に変更したという、 そのときのことやな。 
 ここで甲斐バンドライヴCD10枚組BOXの話をすればと思ったが、なぜか 今日はその話は出なかった。

 「みんなとうたう。いつもと同じように。生き方はひとつだろう」 
 その言葉に続いて始められたのは、「安奈」 
 岡山と曲順が変わったから、「もう「安奈」とは、早いな」という感覚になる。 
 ああいうMCの後やったから、今夜はみんなが大きく歌う「安奈」や。 
 甲斐も3番をみんなにたくさん歌わせてくれる。オーディエンスだけが歌う部分が 終わると、甲斐が曲の途中で「サンキュー」と声を入れる。これ、久しぶりやなあ。

 「レイニー ドライヴ」 
 前野選手がピアニカで、前奏のあのメロディーをつづっていく。 
 「サーチライ」「ウェイアウトゥ」英語的にどうなのかは僕にはわからないけど、 音の響きが実にいい。ハーモニーが心地よくもあり、詞が迫ってきて悲しくもあり。 
 その声とともに上から白い光が放射状に照らす。それから、青と緑の雨の道へ 戻っていく。

 4度目のMCにして一転、「(ステージの上に飲み物を)置いてもらってもいいん ですよ」と、甲斐は前の客に声をかけ、「あんだけ言っといて」と自分でツッコむ。

 「いろんな楽器ができるからって」とかって、前野選手をいじり始める。 
 「本人はミシェル・ポルナレフを意識してるみたいなんですけど、円いサングラス してると、あんまする人とか溶接工に見える。ミシェル・ポルナレフのは六角形とか なのに。それで、白山眼鏡に頼んでつくってもらったのがこれ」 
 今日の前野選手は、白い縁のある六角形のサングラスをかけている。そういう展開 があったのか。たしかに、今日のサングラスの方がかっこいいかも。

 「今回(のツアー)は大阪がないんだよね。神戸ではなぎさと名乗ったんです けど、京都じゃしのぶって名前で出ます。安易に考えたこんなMCでいい?」と言い つつ、「これ京都でも言おう」

 去年のMCと同じ「南アルプス中学」の話を少しだけしゃべって止め、 「曲行こうか」と間を置いてから、続きを話す。 
 そのMCを聞いた知り合いが、「自分は小名浜二中出身だ」と言って来た後日談を 追加。「一中と三中は略すけど、二中は絶対略さないらしい」 
 松藤に「(こんな話の後じゃ)曲行きづらいか」と言っておいて、「麻生高校 というのがあって」

 神戸ならではのMCもたくさん。 
 「異人館の近くによく行くフランス料理屋があって。男3人だけど、行ってきた。 打ち合わせのふりして」

 「今日食事に行ったところでは、両脇のお客さんが日本人じゃなくて。40代 くらいの中国の男の人と、中国の上品な老夫婦で。いいよね、この街」 
 独特の言葉が耳に快かったという。 
 「で、楽屋入ったら、松藤がガーッとしゃべりかけてきて」というオチ。

 デビュー間もない頃、神戸のプールで歌う仕事もやったという。 
 「みんなプールに飛び込んでるわけよ。聴いてない客をどうやって聴かせるかと いう状況で。マネージャーに文句言った」 
 そのときも当然いっしょにいた松藤が、「でも、ゲームもやってたじゃん」 
 そう聞いて、甲斐は「ああ、やった!やった!俺、ゲームコーナーまで。松藤、 よく覚えてるなあ!」 
 今この瞬間久々に思い出した甲斐が興奮。

 もうひとつ神戸での仕事の思い出。 
 「サンチカって今もあるのかな。サンチカってところにスタジオがあって」と 甲斐が話し出すと、松藤は「ラジオ関西?」 
 「あそこで演奏までした。モニターがないからイヤホン使って」 
 当日のことがよみがえってきたらしい甲斐は、「なんなんだよ、サンチカ。なんで サンチカなんだよ」と繰り返す。 
 「俺は神戸に来て、頭がヘンになってるな」  

 甲斐が曲名を口にする。 
 「愛のもえさし」 
 松藤のギターがよい。 
 ラストは不意に切れるアルバムヴァージョンではなく、ギターとアコーディオンで しめくくられる。しっかりと”アコギ”なライヴヴァージョンに仕上げられているのだ。

 このあたりからはもうMCはなく、歌を聴かせていく。 
 「BLUE LETTER」 
 甲斐はやはり「ブルー レタ」と伸ばさずに、語尾を響かせる。今回の アコースティックツアーでは、このうたい方でいくようだ。

 「花,太陽,雨」 
 この歌では、3人の歌声が前へ出て来る。松藤が強く歌っているのが印象に残る。 
 繊細な詞でありながら、甲斐らしい激しいバラードになっている。それでいて、 声の魅力も存分に感じさせてくれるのだ。

 松藤のギター。一音目は岡山より小さかったように感じた。それに続くストローク が激しい。 
 「漂泊者(アウトロー)」 
 チキンジョージが一瞬にして燃え上がる。僕は立ち上がりこそできひんけど、 思いきり歌い、手を打ち、拳を上げる。これが「漂泊者(アウトロー)」やねんから。

 「風の中の火のように」 
 燃えるオーディエンスとともに、力強く歌う甲斐。 
 「激しい叫び押し隠し あああーーーーーっ」と伸ばしていく声。アコギと アコーディオンの演奏のなかで、むき出しになった甲斐の生の声に触れられた思いが した。 
 ラストの繰り返しが今夜も多い。いいぞ、いいぞ。

 甲斐が最後の歌の名前を教える。さあ、みんなで行こう。 
 「破れたハートを売り物に」 
 「アーアーアー アーアーアー ウー ウウー」 
 歌詞はもちろん、そういう声のひとつひとつまで、ステージの上も客席のみんなも 一体となって合わせていく。それが気持ちいい。それがうれしい。

 アンコールは甲斐一人のアコギから。 
 「翼あるもの」 
 甲斐がその声を聴かせるアコースティックヴァージョン。それでも、僕らは拳を 三度突き上げる。 
 後奏。甲斐は早めにゆっくりなテンポにしていった。「ハーウェイ フラウウェイ  ハーウェイ」と切ない声をあげる。一瞬「テレフォン ノイローゼ」アコギ ヴァージョンの間奏のように、甲斐がネックに指を滑らせてから、「ザカザカザカザカ」 というあの高まりへ入っていった。

 「感触(タッチ)」 
 初日ですでにアンコールへまわすと宣言していたが、ここで来たか。 
 「走りつーづーけよーおー」の後の「ウォーオオオー」が多い。熱いのだ。 
 「タッチ 今触れたいのさ」からギターが小刻みになり、声も小さく歌う。 「拒まない」を強めに歌うと、「でーくれーえー」の「で」から力強く歌っていく。 
 ラストのコード展開は何度聴いてもほれぼれする。

 これで甲斐が一人でやる曲は終わりと思いきや、甲斐がアコギを弾き始める。 
 おおお、1曲増えたぞ! 
 「テレフォン ノイローゼ」 
 いやあ、やっぱりいいよなあ。めちゃめちゃ盛りあがる。 
 甲斐はピンと高い音の弦だけ鳴らして弾いて、みんなの声をメインにしたり。 あるいは例のフレーズを聴かせ、ギターで興奮させたり。あの間奏ももちろんありで、 もう歓声飛びまくりや。

 これだけ燃えてるところへ、松藤と前野選手が入るねんもん。もう熱くなる一方 や。 
 しかも、「HERO」 
 再びみんなで拳を上げる。手を打つ。声をかぎりに歌う。 「ウォーオオオオ オオ」甲斐といっしょに叫ぶ。燃焼の時が続く。

 オーディエンスの熱を鎮めるかのような美しい音色がキーボードから。 
 「熱狂(ステージ)」 
 ひたすら甲斐の歌に聴き入り、詞をかみしめ、甲斐のあげるちょっとした切ない声 も聴きもらすまいとする。 
 さっきまでと打って変わって完全に静かだった客席から、曲が終わると一斉に 大きく激しい拍手。

 甲斐はソデに下がる前に、ステージの両サイドまで行って、感謝の気持ちを示して くれた。俺たちは拍手と「甲斐ーっ!」の声でそれに応える。感激のひとときや。

 前野選手が、松藤が、そして甲斐が帰って来る。 
 「嵐の明日」 
 最初の「なぜ」はうたわれず、「つかの間だという気がする」から甲斐がうたい 出す。 
 甲斐は間奏で、「シャララララララララ」と声をあげる。 
 このバラードでも、甲斐の生の声をそのままで聴くことができてると感じた。 「嵐でもーーーー」と伸ばすところで。ややあって「ウォーーーーーッ」というシャウト で。 
 後奏。甲斐は「シャララララララララ」と2回うたい、曲の終わり際、「イェー」 と切なく声を発した。

 甲斐がデビュー曲について話す。 
 周りの反応から、「10年後につながらない」曲だと感じたという。 
 「プロなら10年稼がないと。それで、10年後を見据えて書いたのが、次の 「裏切りの街角」という曲で」 
 それでも、「不憫な子ほどかわいい」という言葉とか、口調の端々にこの曲への 愛着が滲み出ていた。

 「バス通り」 
 前野選手のマンドリンは、初めは少なめ。次第にマンドリンの調べが増えていく。 
 聴きながらひしひしと感じる。甲斐も松藤も前野選手も、もちろん僕らだって 「バス通り」が大好きなのだ。

 甲斐がサングラスを外す。それからまた何度も何度も、オーディエンスの声援に 応えてくれた。僕は「甲斐ーっ!」「甲斐ーっ!」と叫び続ける。

 今夜も素晴らしいステージやった。 
 長く活動を続けられていることについて、「いい人なだけじゃダメなんだ」とも 言ってたな。「俺も悪かった」と甲斐が以前を思い返したふうに言うと、松藤が 「昔だけ?」とツッコんでいた。   
 松藤はシャツのボタンを多めに外して、少しはだけた感じに着ていた。ギターで 濁ったような音を出してたのが印象深い。 
 客席から声が飛ぶことが多く、今夜はまた外した内容のが目立ったけど、僕は そんなに腹は立たなかった。甲斐を好きな気持ちは感じられたし、これが関西、みたいな とこもあるし。甲斐はそんな声を黙殺したり、「曲行こう」と切り換えたり、 タイミングの合ったときだけちょっと相手してみたり。そんな声くらいで揺らぐような 甲斐じゃないのだ。

 

 

2005年3月12日 神戸チキンジョージ

 

ちんぴら 
裏切りの街角 
きんぽうげ 
ビューティフル エネルギー 
かりそめのスウィング 
安奈 
レイニー ドライヴ 
愛のもえさし 
BLUE LETTER 
花,太陽,雨 
漂泊者(アウトロー) 
風の中の火のように 
破れたハートを売り物に

 

翼あるもの 
感触(タッチ) 
テレフォン ノイローゼ 
HERO 
熱狂(ステージ)

 

嵐の明日 
バス通り

KAI 30th ANNIVERSARY TOUR ENCORE ”アコギ”なPARTY 30

2005年2月25日(金) 岡山市民文化ホール

 

 狙っていたのぞみに乗り遅れた。しばらくのぞみが来ないことを確認してから、 停車中のひかりに飛び乗る。 
 岡山までの停車駅は、新神戸西明石・姫路・相生。これやったらこだまと いっしょやがな。しかも、相生で後ろのひかりに抜かれて5分待ち。ひかりがひかりに 抜かれることがあるなんて、初めて知った。さらにその後、何か飛来物があったとかで 徐行運転。岡山到着まで案外時間がかかってしまった。

 甲斐友と待ち合わせしてる岡山駅西口へ。瀬戸大橋線のホーム上にかかる渡り廊下 を行く。あああ、めちゃめちゃ懐かしいー!初めて四国へ行くとき、ここを使ったもん なあ。葉山村高知、 高松松山。 1996年3月のALTERNATIVE STAR SET ”GUTS”。どこも 素晴らしかった。

 東口にいた甲斐友とようやく落ち合い、急いで岡山県野球場へ。球場正面へまわる 時間もなく、周りの木々の間からスコアボードの写真を撮る。「H・E・Fc」の ランプの上に「只今ノハ」っていう文字があって、特にそれが見たかったのだ。

 大急ぎで岡山駅に戻る。西口と東口との行き来は、慣れていないと時間がかかる。 なんせ岡山の駅から外に出たのは、今日が初めてなのだ。 
 もう1人の甲斐友と路面電車の駅で待ち合わせててんけど、それが全然見つから ない。携帯で連絡してようやく3人揃った頃には、開場時間の6時が迫っていた。軽い 夕食を食べてから路面電車でのんびりと、なんていう計画は吹っ飛んで、何も食べずに タクシーで会場へ向かうことに。 
 駅前のメインストリートは、「桃太郎大通り」っていう名前やってんな。岡山城の お堀のあたりで右折して、会場へ近づいて行く。

 会場前にできている列につく。左手が会場。道路をはさんだ向かい側は川。 ちょっとめずらしい景観や。こういうのがまた、旅の思い出になるねんな。 
 岡山市民文化ホールは、小さめの建物やった。もともとこのツアーは、去年の 30周年ツアーBig Year’s Party 30 武道館の後を受け、あえて大都市をはずして 小さめのホールでやるアコースティックツアーやもんね。

 入場。建物の1Fは、もぎりとグッズ売り場のみ。Tシャツと写真立てを買って、 階段を上がる。2Fが1階席、3Fが2階席という造り。

 僕の席は左寄り。前が通路なのがうれしい。 
 BGMの洋楽もアコギっぽい。女性ヴォーカルが「バイバイ ミス・・・」と 歌い、男性ヴォーカルに変わり、ピアノの音で曲が静まって、再び「バイバイ ミス ・・・」の歌。これがいちばん印象に残った。 
 おとなしめなのかなと思える岡山のファンの雰囲気に、初日の緊張感が重なって、 開演前の客席はわりと静か。開演が近いことを告げるアナウンスが流れると、拍手が 起こる。 
 BGMが大きくなる。拍手と手拍子。大阪ならきっと、この時点で アコースティックライヴでもみんな立つやろう。 しかし、今日は座ってじっくり聴こうと思ってる人も多いのかもしれない。後ろに遠慮 しつつ、立ち上がる。僕の席からセンターマイクまでを結ぶ線上の人はちょうど全員 立っているから、僕も立てへんかったら見えへんし。

 甲斐が現れた。白のスーツに、中は黒のVネック。サングラスをかけている。 
 僕は何度も「甲斐ーっ!」って叫ぶ。拍手と歓声でツアーの幕開けだ。

 前奏では何の曲かわからなかった。予想していた範囲の曲ではないようだ。甲斐が 歌い始めたのは・・・ 
 「ちんぴら」 
 「アーアーアー」も全部1人で甲斐が歌っていく。アコギでの「ちんぴら」なんて 、初めてやもんなあ。すごい。 
 間奏の最後は2音ずつ弾いて、「傷つけることも」に入っていく。 
 KAI FIVE初期に僕としては初めてライヴで聴けて、 BEATNIK TOUR 2001では1曲目に 選ばれ、Series of Dreams Tour  Vol.1(1974-1979)でもアンコールで歌われた曲やけど、まさか。 
 しかし、思えば、「千人いたら千人の動機で聴いて くれた方がうれしい」という言葉とともに語られたことのあるこの「街の歌」は、 今日からいろんな街を旅して行くこのツアーの1曲目にふさわしい。

 一瞬だけ「風の中の火のように」かと思った。が、コードが展開していくと、あの 曲だとわかる。思い出される徳島の夜。 
 「感触(タッチ)」 
 甲斐はサビの「タッチ」を低く歌う。コーラスのいない、一人きりのステージ やもんね。「タッチ」を抜いて歌うところもあった。前の詩を伸ばしたりして、大きく 歌ってる感じなのだ。 
 ラストは「100万$ナイト」ライヴアルバムヴァージョン。これ好きやねん。 アコギやから、時々ストロークをとばして音を切ってるように聴こえる。めっちゃ かっこいいぞ。

 「今日がツアー初日」というMCに、拍手がおくられる。 
 「初日は何やったっていいんだから。原石のままぶつける」

 「岡山は甲斐バンドでよく来てて。ひどいときは年に2回くらい」 
 行ってたというファンの声が飛ぶ。 
 「ソロで1回来て。十何年ぶり」 
 「どうしても同じところが多くなるんで、(今回のツアーは)普段行ってない ところへ。はっきり言うとローカル・・・」 
 ここまで言って、うなずいて聞いてる岡山のファンに、「自分で認めるな」

 松藤が呼び入れられ、甲斐の右に座る。明るいワインレッドのシャツ。 
 「裏切りの街角」 
 松藤がアコギを弾き、甲斐はここから歌に専念。「駅への道 駆け続けた」の後、 レコードのフレーズを溶け込ませた抒情的な音色が沁みる。 
 甲斐は語尾を響かせてうたう。時折語尾を短めに切ることもあるけれど、そこでも 最後の音は響く。この余韻がたまらない。 
 ”My name is KAI”のツアーでは、2番の後からメドレーになった 「裏切りの街角」やけど、今日は最後までうたってくれた。

 前野選手も登場。上下黒のレザー。円いサングラス。向かって左から、前野選手、 甲斐、松藤とならんで座る形になる。 
 武道館DVDのMC。大黒摩季、m.c.A・T、大友康平と出演したゲストの 名前を挙げていくと、ぐっさんのところで少し笑いが起きる。名前だけで笑ってもらえる なんて、芸人冥利につきるな。 
 DA PUMPの捕まった子については、「いいやつなんだけど」と言っていた。

 松藤のアコギに前野選手のアコーディオンも加わった。前奏ではどの曲か気づかな かった。 
 「きんぽうげ」 
 アルバム「松藤甲斐」に収録されたAORヴァージョンだ。高い音など、 アコーディオンが「きんぽうげ」らしさを奏でている。 
 この歌の詞が本来持っている切なさ、寂しさが、より伝わってくるようだ。 
 後奏で、甲斐は「ドゥドゥドゥダダ」と、あのメロディーを聴かせる。

 韓流ブームの話から、甲斐が「よし様」、松藤は「松英サンバ」ということに なり、前野選手は「ミシェル・ポルナレフ」。「はやってないじゃん!」と松藤が ツッコむ。

 去年の30周年ライヴについて、オーディエンスに「悪い慣習」があると笑う。 うるさすぎると。 
 「俺、いらないじゃん。ある列を見たら、下向いて歌いまくってて」 
 だって、いっしょに歌いたいねんもんな。ちゃんと甲斐のこと見てるよ。甲斐 だってうれしいくせに。

 「今日はじっくり聴いてくれてる。アコギだし、ゆっくりとね。でも、いつまで そのままでいられるか。そうはいかない。ずっと立ってると、アンコールあたりで疲れる 人もいるのかもしれないけど、ずっと座ってると、立ちたくなるんだよね」 
 と、やっぱり後半の盛りあがりを予感させる言葉がある。

 「アコースティックだと、(客席にも光が当たって)明るいじゃない。1、2曲目 やってる間、客席がよく見えるんだよね。途中から入って来る人が多いのとか」と告白。 
 「スポーツ見に行くときでも、早めに行って練習から見たりするじゃない」 
 ステージ向かって右側に客席への入口があり、遅れて来た人がそっちから入って くるから、「今日はもうこっちから半分(ステージ向かって左側の客席)に向かって やろうかな」なんて言ってみせる。 
 左半分の客から拍手がわいたりするが、「そうか。普段も(遅れて来る人は)いる けど、(ライティングの加減で)見えないんだ。許そう」

 「アコースティックだからって、フォークミュージックみたいに思ってたら、 大間違い。1曲目から違うんだから」 
 「「感触(タッチ)」はアンコールにまわそ。これはスタッフに言ってるわけ ですが」 
 「今日はしゃべり過ぎてる。俺は岡山に来て、浮かれてるな」 
 そう聞いて、地元ファンが拍手。

 「ビューティフル エネルギー」 
 1番を甲斐がうたい、2番を松藤が歌い出す。松藤のヴォーカルが始まると、拍手 が起きた。 
 去年のツアーではショートヴァージョンだったこの歌も、今回はフルに聴かせて くれる。 
 甲斐は1番でも繰り返しでも、「しれーなーいからぁ」と語尾を響かせる。2番の 松藤だけが「しれーなーいからーー」と伸ばし、声も大きく張った。

 すぐに「かりそめのスウィング」が続く。 
 アコーディオンが効いてるよ。めっちゃいい雰囲気。 
 甲斐はラストで「オ イェー」と声をあげた。

 ここでまた遅れてきたお客さんが入ってきて、甲斐は「いらっしゃい」 
 「じゃあ、(今来た人のためにライヴを)もう1度最初から」というジョークに、 ほんまにそうしてくれたらすごくうれしいなあと、みんな拍手。

 「かりそめのスウィング」のことを、「冬の歌なんで、2月のうちにやりました」 
 「「ビューティフル エネルギー」は松藤の歌だけど、俺のソロライヴだから、 俺が1番を歌って」

 去年出したアルバム「アタタカイ・ハート」と、トリビュートアルバム 「グッドフェローズ」の話。 
 「グッドフェローズ」のメンバーがゲスト出演した武道館の打ち上げについて、 「ぐっさんがといっしょで不思議な感覚だった。大黒摩季はチーママかと。僕は途中で 帰ったんですけど」 
 甲斐は翌日イベントがあったもんね。 
 松藤が「俺も(途中で帰った)」と言い、甲斐は「じゃあ、誰の打ち上げなんだ」 と笑う。

 話題にあがったニューアルバム「アタタカイ・ハート」から、「愛のもえさし」 
 甲斐は「夜 更けに 目が覚 めて」と、アルバムヴァージョンの詞でうたう。 
 サビでは甲斐に前野選手がコーラス。甲斐が「愛」とうたうと、松藤が「あ~い」 と高い声を続ける。 
 3人ともが「前へ!」という意識を感じさせ、バラードでありながら激しい。 
 後奏は甲斐の「ディデュビダ ディ」ありやった。

 「みなさんといっしょに歌うコーナー」だと甲斐が告げる。 
 「安奈」 
 曲の途中でもサビでも、甲斐が観客に手で示す。うたっていいんだ。会場の合唱が 高まってゆく。

 「レイニー ドライヴ」 
 前野選手が奏でているのはピアニカか。 
 「サーチライーー」で、右後方上から白い光が射す。そこから雨のドライヴを 思わせる青緑のライティングになった。

 「「BLUE LETTER」という曲をやりましょう」 
 甲斐のうたい方がこれまでの「BLUE LETTER」とちがっている。 「ブルーーレター」と伸ばさない。「ブルー レタ」と短くうたって、語尾を響かせる。 甲斐の声の繊細さと、この曲の持つはかなさを思い切り感じながら聴いていく。 
 後奏。甲斐は最後だけ「ブルーーレターー」と伸ばしてうたい、「オーオオオ」と 切ない声をあげる。いつもより後からハーモニカを吹きはじめた。

 「花,太陽,雨」 
 3人の声が攻めてくる。他のメンバーに合わせようとか、遠慮したような気持ちは 全く感じられず、甲斐が、松藤が、前野選手が、それぞれ思いきりうたをぶつけて来る。 その声が渾然となってオーディエンスを襲い、ホールを掴む。 
 ラスト。暗転したステージにカウントを刻む声があり、「まーよーえーる人ぉよぉ ー」が響き渡る。前野選手の1本の指が押さえる鍵盤のひとつの音だけが、余韻を引く。

 それを切り裂くように、松藤のギターが激しく掻き鳴らされる。ライトは赤。 座っていたオーディエンスも一気に立ち上がる。松藤のギターが今はリズムを刻んで いる。あくまでも強く。 
 「漂泊者(アウトロー)」 
 アコギの「漂泊者(アウトロー)」では、これまでで最も激しいに違いない。 甲斐はブルースヴァージョンのように低く歌うこともあるが、ほとんどの部分で声を 張り上げていく。こうなると、もちろんアコギだろうがオーディエンスの拳も突き 上がる。「愛をくれーよー」と、サビを客に歌わせるのもありや。 
 ラストも激しくいきなり果てる。フルバンドでやってるみたいや。まさしくロック の「漂泊者(アウトロー)」。すごい!

 「風の中の火のように」 
 甲斐は全編激しく歌う。武道館翌日のイベントとはちがって。そうやんな。その場 の空気に応じて、歌も演奏も変わる。これがライヴなんや。 
 甲斐は最後「風の中の火のように」を4回繰り返し、それから「火のーーーーっ」 とシャウトした。

 「破れたハートを売り物に」 
 前野選手もアコギを弾いている。ギターが3人ならんでのハーモニー。 
 みんなで声を尽くして歌い、ステージはひとつのクライマックスを迎える。 
 本編はここで一旦終了。熱いアンコールに突入や。ここまでの流れ、歌、MC。 あっという間やったような気もするけど、すごく充実した時間やった。

 再び甲斐が一人で登場する。 
 アコギ一本の「翼あるもの」 
 みんな表のタイミングで手拍子してる。曲と合っていない気がして、僕は手拍子は せず、身体でリズムを取りながら甲斐の歌を聴く。 
 間奏。甲斐がアコギで盛りあげていく。歓声。ここでオーディエンスのノリも アフタービートになって、僕もいっしょに手を打ち鳴らす。この熱狂で「俺の海」に 飛び込んで行く。 
 甲斐は後奏で一音だけ鳴らす。その音の伸びを聴かせ、さらに間を置いてから、 「ザカザカザカザカザカザカザカザカ」とアコギを刻んでいく。だんだん強く。あの 「翼あるもの」ラストの高まりが、ギターひとつで表現されているのだ。最後に 「ザザッ」という音を残して、全てが終わる。興奮の拍手、歓声。「甲斐ーっ!」の声。

 松藤と前野選手も戻って来て、3人での演奏へ。 
 「HERO」 
 アコギのストロークは、徳島でのイベントに近いか。しかし、松藤は 「ザザザザザッ」というリズムの途中をときどき抜く自由なプレイ。これもその場その 瞬間の感覚なんやろう。 
 しかも前野選手のアコーディオンも入ってるから、また新たなアレンジの 「HERO」や。同じ曲でも毎回、毎ステージ、その色合いは全て異なるのだ。

 前野選手が左ソデを向く形で、キーボードを弾き始める。アンコールの間に用意 されていたらしい。 
 「熱狂(ステージ)」 
 詞が沁みる。聴けてしあわせや。 
 甲斐はやはり「今夜の ショーは」とうたった。 
 「長い列をつくって くれた」で、ぐっとくる。雨は降っていなくても、 僕らの気持ちは同じなのだ。 
 「バスに乗って 夜汽車に揺られ」 
 今夜からそうやって、甲斐たちは小さな町まで西へ東へ旅して行くんやなあ。 このツアーでうたわれるべき、歌やんな。

 2度目のアンコールは、3人そろっての登場やった。 
 「嵐の明日」 
 ”My name is KAI”のツアーを終えた後、甲斐は「今度はオルガン を入れてやりたい」と言ったそうだ。 
 そのとき念頭にあったのがこの曲なのでは、と思えた。松藤のアコギと 前野選手のキーボードが、”My name is KAI”にオルガンを加えた 心地よさとスケールアップを感じさせたから。 
 その音のなか、ただ甲斐の姿を見つめ、その歌声を聴いていた。照明は赤だった 気がするが、よく思い出せない。 
 甲斐が「シャララララララララ」と2回声をあげた。 
 去年の30周年ツアーでは聴くことができなかった名曲。アンコールツアーで、 アコースティックで聴かせてくれたなあ。

 甲斐がイスに座る。まだもう1曲あるんや! 
 「順調に行けば、春、4月頃、甲斐バンドのライヴCD10枚組が出る」という ビッグニュースが告げられた。 
 収録されているステージは、「箱根。花園」そうやって甲斐がイベントの名前を 挙げるたび、思わず客席からよろこびの拍手が飛ぶ。「BIG GIG。両国国技館。 解散ツアーの”PARTY”。最後の黒澤フィルムスタジオ」 
 これは甲斐ファンにとって夢のような話じゃないか!めちゃめちゃ聴きたいぞ!

 前野選手が小さなマンドリンを手にしている。そういえば、 この曲を初めて聴けたときも、 甲斐が独特な楽器を弾いていた。 
 「バス通り」 
 マンドリンの弦が細かくふるえる。間奏に入ると、それがさらに増していく。 
 30周年をしめくくるツアーの最後に、デビュー曲をうたう。僕らはまた、甲斐に やられてもうた。心が動かないはずがない。

 甲斐はサングラスを外し、前の右に行く。続いて左寄りに。最後は真ん中だ。 大歓声と拍手を一身に浴びて。「甲斐ーっ!」「甲斐ーっ!」の声を受けて。 
 甲斐が左ソデへ去ると、大森さんが弾く「25時の追跡」ライヴヴァージョンが かかった。そうやんな。みんなつながってるんやんな。

 余韻にひたりつつ、今夜のライヴを反芻してみる。 
 ステージの背景はシンプルやった。1度だけ雲の空に見えたような。でも、これは 僕が甲斐ばかり見ていて、たくさん見落としているからなのかもしれない。 
 甲斐が観客に「サンキュー」と言うと、さらに拍手が大きくなったシーン。 
 メンバー紹介が3回あった。いいステージやったからやろうな。 
 甲斐が2番頭の歌詞が出ず、松藤が少し歌ったことがあった。 
 曲のいちばん最後の音を、甲斐がアコギを傾けてアップストロークで決めた瞬間。

 「この形は年に1・2回やってて。ツアーとしては初めて」って言ってたけど、 これまでのアコースティックライヴから、しっかりアレンジを変えてきた。歌い方も 練られていた。 
 どの曲にも、今の息吹きが込められてる。これが甲斐のステージなのだ。

 

 

2005年2月25日 岡山市民文化ホール

 

ちんぴら 
感触(タッチ) 
裏切りの街角 
きんぽうげ 
ビューティフル エネルギー 
かりそめのスウィング 
愛のもえさし 
安奈 
レイニー ドライヴ 
BLUE LETTER 
花,太陽,雨 
漂泊者(アウトロー) 
風の中の火のように 
破れたハートを売り物に

 

翼あるもの 
HERO 
熱狂(ステージ)

 

嵐の明日 
バス通り

甲斐よしひろ BEAT VISION

2004年11月7日(日) 品川プリンスホテル クラブex

 

 武道館の一夜が明けた。何とか昼前に起きて、 飛天以来の品川へ。懐かしの坂をもう一度上ることに なるのかと思っていたが、また別の方だと甲斐友が教えてくれた。込み入った道を縫って、 たどり着いたのは品川プリンスホテルのエグゼクティブタワー。 
 そういえば、ここにはシネコンがあると聞いたことがあったな。タワーに入って から思い出した。 
 建物内の掲示板。3Fのところに、我らが甲斐よしひろファンクラブ「BEAT  VISION」の名前がある。今日はBEAT VISIONのイベントなのだ。 こういうことは、かなりめずらしい。ライヴではない会員限定イベントは初めてだろう。 2時からの回と4時からの回があって、僕は早い方に当たった。1時半に開場だ。

 3階に上がると、会場入口前から列が長ーく伸びていた。最後尾は廊下を突き 当たったまだ先、建物の外の坂にあった。ぐるっと曲がりながら下る傾斜の途中に並ぶ。 
 1時半を過ぎても開場されない。僕の後ろの列は坂を下りきり、また別の場所にも 長い列がつくられた。待ってる間に、ヤクルトのバスが続々と到着する。さっきの掲示板 に「5F ヤクルト関東大会」って表示されてたな。

 1時55分頃開場。入口で正装したボーイさんに迎えられる。なんかすごく豪華な 感じのとこやな。左にカーブした通路を行く。どうやら円形のホールの外側をまわって いるらしい。途中にバーカウンターがあったりもする。カーブの内側の壁にところどころ 扉があって、係員が「Dの席の方はこちらからどうぞ」というふうに呼び入れている。 Bの僕はだいぶ歩いてから客席に入った。

 円いホールのど真ん中に円いステージ。それを取り囲むように客席がある。 ステージの上にはイスが2つとテーブルがひとつ。左のイスの横にアコースティック ギターが一本立ててある。やった!やっぱり歌ってもくれるんや。 
 イスの向きからして、僕の席は正面や。でも、このステージは回転しそう。 
 奥からステージ後ろまで続く1本の花道を除いて、ほぼ360度に客がいる。 場内は濃い紅が基調。客席のいちばん後ろは、壁に埋め込まれた形の、テーブル付き ボックス席だ。 
 そして、ステージに上から覆いかぶさるように、たくさんのモニター画面が360 度並んでいる。僕の視界には3つのモニターが収まる。 
 やがてアナウンスがあり、映像が流れ始めた。

 「ジャンキーズ ロックンロール」 
 ライヴ映像や! 
 歌詞ちがいヴァージョン。やはり81年頃なのだろうか。「かわいいあの娘も」 「ドライチンザノのように」「だってこの世の地獄とやらで」と歌っていく。これ、好き やねん。昔、花園ラグビー場のライヴフィルムで見たことがある。ただ、花園ともまた 少し歌詞が違う気がする。ストロボもないから、ライティングも別だ。 
 甲斐は長髪。激しく動く。すごく攻撃的なステージだ。 
 甲斐の後ろのドラムセットに松藤。右に大森さん。左は佐藤英二か。 
 「撃たれても」で心臓を指す甲斐。「天国」では上を指差す。

 「ブライトン ロック」 
 もちろんこちらもライヴ映像。 
 甲斐は茶色と薄い黄色がグラデーションぽくならんだTシャツを着てる。 「今!」「さあ!」と激しく叫ぶ。 
 現在との歌い方のちがいを味わいながら聴く。短い語のメロディーや、音をどこで 伸ばすか、あるいは切るかなど。「今度は俺のばんーさー」という歌い方と、「一撃」の メロディーを変えたのが特に印象的。 
 2番。「熱いボディ」の詞が出ず、「吹き飛ばーせ」と1番の詞を続けた。 
 サビは身体を激しく揺すりながら。2番の2回目だけ、「俺の導火線に火がついて」 と観客に歌わせた。 
 マイクスタンドをぶっ倒し、後奏の途中で映像はブツッと切れてしまった。

 モニター群が天井へ上がっていく。みんな拍手。貴重なもの見せてくれたなあ。 
 アナウンス。「甲斐よしひろの登場です」 
 甲斐が奥から出て、花道をやって来る。拍手。「甲斐ーっ!」の叫び。

 甲斐は黒のスーツ。白いシャツ。赤いネクタイ。 
 「こんにちは」と挨拶し、みんなも「こんにちは」と返事する。 
 まずは、今日のこのイベントについて話し出す。 
 「間違った情報が飛び交ってる。「握手会なんでしょ」とか。そんなことしたら、 今までの30年は何だったんだってことになる。直接触れずに、少し距離を置いたところ から。のぞき部屋のような」

 昨夜の武道館ライヴから今までのこと。 
 「昨日は3時間40分?頭おかしいよね。 10時半に起こされて、体調最悪です。 武道館の打ち上げは、外での打ち上げが11時からで。ぐっさんやm.c.A・Tも ずっと。たぶん朝まで。僕は明日があるからってことで、2時半で帰されて。  今朝はジム行って。プールで普段は200歩いて800泳ぐのに、泳ぎ過ぎて。  みんなを見てると、俺の方が体調いいな、勝ってるなと」

 「もう1時過ぎ?」と客席に尋ね、「2時過ぎ」と返事がかえってきて、 「こんなやつなんです」

 「ファンクラブの集いなんでしょ。「俺も座って見たい。映像流すんでしょ?」 って言ったら、「あなたが出るんです」とか言われて」

 「さっきのは、武道館のアンコールで「ブライトン ロック」をいきなりやった とき。CDのプレゼント当選者に送るDVDに入るやつで。大森さんが亡くなって、 「甲斐バンドをおまけにすんなよ」と指摘してくる人がいたんだけど、「いや、ちがう んだ」って。俺しか映ってない。あとは、松藤の手と顔の一部が見えるだけ」 
 確かにその通りやった。

 「遠くからの人もいるんでしょ?」 
 客席から、「大阪」「三重県」「富山」「長崎」と声があがる。関東圏が出ると、 「近い」とツッコまれる。 
 甲斐は「ま、聞いただけなんですけど」と言ってみせる。めっちゃ甲斐らしい。

 ファンが投票した「過去のツアー ベスト20」の結果を書いた紙を、「この紙を 渡されて、どうしろっていうんでしょうか」と、テーブルの上に置いてしまう。中身 めっちゃ知りたいねんけどなあ。

 今日いっしょに話すゲストとして松藤を呼んだけど、都合が悪かったらしく 「キッパリ」断られたという。 
 「坂井紀雄はこういうとこに呼ぶと、アガるし」 
 そこで、「ずっと付き合ってるのは、この人しかいないでしょう。亀和田武を」と 紹介。 
 昨日東京に来る新幹線の中で、田家秀樹が甲斐トリビュートアルバムについて 書いてる新聞を読んだとこやねんけど、田家さんとはいっしょに飲みに行ったりする関係 ではないのかな。たしかに亀和田さんについては、松藤と3人で遊んだ話を MCで聞いたこともあったもんね。

 亀和田武が花道から登場。当たり前やけど、TVで見るのと同じや。スーツに青い シャツを着ている。ポケットから、折りたたんだ「過去のツアー ベスト20」のリスト を出す。 
 「すいません。甲斐さんがネクタイしてるのに」 
 「そんな集まりじゃないですから」 
 そう言ってから甲斐は、自分がネクタイを締めた理由を述べる。 
 「昨日お祭りでくだけたので、今日はビシッと。今日から次の31年目だから」

 「昔は顔が似てるとよく言われた。20代の頃」と、お互いに。 
 なぜ今日のイベントに亀和田武が最適なのか、甲斐が説明する。 
 「ツアーをよく見てるだけじゃなく、一緒にまわってる」

 1979年の「サーカス&サーカス」ツアー。亀和田さんは3月30日に新宿 厚生年金会館のステージを見た。それから、会社を辞めてツアーについて行く。 新潟、長岡、上越と。 
 「今は違うかもしれないけど、(雪対策で建物の)入口が高く造ってあるんだよね」 と甲斐。 
 当時のマネージャーが路地が好きで、飲みに行くと奥へ奥へと入って行った。 そんな思い出が語られる。佐藤剛は現在、THE BOOMの仕事をしているらしい。

 79年のツアーのことを亀和田さんが「初めて「ちんぴら」やった時」って表現 すると、甲斐は「初めてっていっても、その後「ちんぴら」やってないんだけどね」 
 そうかあ。じゃあ、俺が最初に生で「ちんぴら」を聴いた、KAI FIVE お披露目の「弥生の里フェスタ」での演奏は、相当久々やってんなあ。

 その頃は客席の男女比が1:9で、「HERO」から老若男女が来るようになった。 
 そこで甲斐はふるい分けをしたのだという。やり方は簡単。「HERO」を やらない。 
 「「HERO」だけを聴きに来てる人たちがいて。俺たちが見たい、ってならない とダメなわけだから。今考えると、どうしてそこまで厳しいふるい分けをしたのかって いう気もするんだけど(笑)」

 「ツアーで年に100日くらいステージをやってて、移動を含めると2日に1回と いう感じで。東京に戻って荷物を置くと、「門」に集合。渋谷のゴールデン街がまだ 盛んだった頃ね。5時か6時頃に行くと、もう亀和田さんがいる」

 京都では、十何時間同じバーテン相手に飲み続けたこともあったとか。しかも、 京都にいる間は毎日通った。 
 「飽きさせないんだから、ああいうのがバーテンの腕だよね」

 大阪でライヴの合間、物売りの口上をずっと聞いてたことがある、という話。 バナナホールのMCでも言っていた。でも、「長く 見てるとサクラがわかる」というのは初めて聞いたな。

 当時、マンガ家がよくツアーに来ていたという話題。 
 「こち亀」の秋本治とか。倉持ふさ子とか少女マンガ家も多かったらしい。 今プライベートで付き合いがあるのは、萩尾望都のみ。だけど、その頃はまだ「萩尾望都 の前の時代」。 
 「あと、作家も多かった」と、亀和田さんが川又千秋らの名前を挙げる。 
 音楽関係はなかったみたい。

 「過去のツアー ベスト20」の結果を、ついに教えてくれた。 
 「「100万$ナイト」とか、高くないんだよね」という前振りに続いて発表 されたランキングは・・・

 1位 甲斐バンド解散のFINAL CONCERT TOUR ”PARTY” 
 2位 THE BIG GIG 
 この2つが3位以下を引き離していたらしい。

 3位 Big Night 
 「POP-STOCKは、やりづらかった」と甲斐。ライヴ用の音響設備があまり 整ってなかったのかな。

 以下、”My name is KAI” やパワステ時代の”ROCKUMENT”などが続く。 ”ROCKUMENT”のランクインには、甲斐も納得の様子。僕はパワステの ”ROCKUMENT”には全日参加して、めちゃめちゃ大好きやけど、それ以上と 言ってもいいほど”ROCKUMENT V”が 好きやなあ。

 他には花園ラグビー場、BEATNIK TOUR、 ”Singer”Series of  Dreams TourKAI FIVE、 サーカス&サーカスなどが入っていたようだ。順位までは覚えきれなかった。

 箱根の芦ノ湖畔が意外に低いのは、「見てる絶対数が少ないからでしょう」。 
 亀和田さんによると、「急坂を上ったりして、客にはつらい」会場だったそうだ。 ”BEFORE THE Big Night”で永井美奈子も言ってたなあ。 
 「対岸にサーチライトを設置して、ミラーボールを上げるのと光を当てるタイミン グを、秒刻みで合わせて」と、甲斐もその日の状況を話す。

 ずっと「きんぽうげ」が1曲目だった(1回「100万$ナイト」もあった)なか、 「ブライトン ロック」が1曲目になった時の衝撃を、亀和田さんが語る。自分が出した 本で、曲のリストをチェックしてきたという。亀和田さんが「自分が出した本」と言った だけで、みんなが頭の中に「愛を叫んだ獣。」を思い浮かべてるのが、雰囲気でわかる。 
 ちょうど僕が初めて行ったツアーから、1曲目は 「ブライトン ロック」ではなくなった。こういう話にはすごく興味がある。 「破れたハートを売り物に」が1曲目の時期のことなんかも聞きたい。 
 甲斐はじっくりとその頃を思い出すように間を置いて、「”BIG GIG”の 頃はそうですね」とだけ言った。

 「俺は怒って帰りそうだと思われてるだろうけど、帰ったことない。公平に聞いた ら、スライダーズのハリーは3回帰ったらしい。公平は1回。小さいとこで、客が後ろ から押されたんでしょうか、倒れて、マイクスタンド持ったのが公平の歯に当たって。 すごく痛かったんだって。エレキ持ってるわけだから、アースとか、命にかかわる」

 「客席に下りて行ったことはあるけどね。四国で、最前列の女の子を警備員が なぐってるのよ。嬉々として。目がランランとしてて。サディストっているんだよね。 それで、大森さんに間奏長く弾いといてって頼んで。大森さんも見てたからわかってるし。 普通動くとピンスポットがついて来るのに、スタッフも当てない。で、暗闇で・・・」

 「昔はギター壊してましたね」と亀和田さんが振ると、「人ではなくて、地面に 当たってたんだ」と返す。

 「ここ、飛天やったから、借りられたんですよ。普段はショーとかやるとこで。 僕ら、芸じゃないじゃないですか」 
 「昨日のぐっさんみたいに、蝉しぐれとかできないとダメなんだ」

 回転させることのできる舞台を、回してみることに。後ろ側のファンが大よろこび。 
 亀和田さんは「ちょっと気持ち悪い」と言う。 
 甲斐は「ハイになる」と言って、初めて正面を向いた後ろのファンに、「やあ!」 と声をかけてみせる。 
 舞台は一周して元の位置で止まった。 
 ビルの上にある、こんなふうにゆっくり回るバーのことを、亀和田さんがしゃべる。 
 「たしか2時間で一周するんだけど、書き物してて、ふと目を上げると、景色が 違うんですよね」

 スタッフのおねえさんが出てきて舞台前にしゃがみ、「10分前」という紙を出す。 客席からもそれが目に入り、なんとなくほのぼのとした笑いがもれる。

 次のツアーの告知。”Big Year’s  Party 30”のアンコールツアーがあるという。松藤と前野選手と3人での アコースティック編成で、タイトルは 「”アコギ”なPARTY 30」。大都市以外ばかり12ヶ所くらい。 
 早くも次のツアーが決まってることに、みんな大拍手!めっちゃ楽しみ!

 亀和田武が送り出され、再び甲斐一人になる。 
 「じゃあ、何かやりますか」という言葉に、大よろこびの拍手。 
 スタッフがギターをセッティングして帰ろうとするが、「これをやらないと」と、 甲斐に呼びとめられる。ギターのボディの端っこに接続するのを忘れていたみたい。

 「他の人の歌じゃイヤ?僕の歌の方がいいの?」 
 そう客席に尋ねる。みんな甲斐自身の曲が聴きたいとうなずく。 
 「僕は他の人のがいいんだけど」と言ってから少し考えて、「じゃあ、昨日でき なかったんで」

 そうして奏でられたのは、「風の中の火のように」 
 詞のひとことひとことに、甲斐が強弱をつけてうたっていく。それがほんとうに 絶妙で、聴き入ってしまう。心をつかまれる。この繊細さは、近い会場ならではか。 いや、今日この日ならではかもしれない。 
 「嫌だ一人きりは このぬくもりが 愛なのに」 
 やはりこの歌はKAI FIVEの「漂泊者(アウトロー)」だと、いま一度 痛感する。 
 ラストは「風の中の火のように」を3回繰り返してから、「火のーー」と声を あげた。 
 実に素晴らしい「風の中の火のように」やったなあ。これは忘れられへんな。

 間髪を入れず、甲斐のアコギが鳴らされる。「ザンザザンザーン」というストローク で、すぐにあの歌だとわかる。久々に聴けてうれしい。 
 「ポスター カラー」 
 詞がいいねんなあ。 
 今日は「ミルクは どおーーーーしますかー」の、伸ばす音の微妙な上げ下げが 沁みてくる。

 「ポスター カラー」を弾き終えた甲斐は、大きな拍手と「甲斐ーっ!」の歓声の なか、花道を去って行った。

 もう一度、あの360度モニターにライヴ映像が流れる。今度は編集し終わった ばかりだという、昨日の武道館ライヴからだ。 
 ゲストたちと一緒にやった、アンコールの「HERO」だ。ゲストを呼び入れる ところから始まった。昨夜の興奮がよみがえる。 
 また、改めて映像で見てみると、昨日はわからなかったことに気づいた。 
 ぐっさんはちゃんと1番を大友康平の声で、2番は自分の地声で歌っていた。 
 2番の後半を高い声で歌っていたのは、何とm.c.A・Tやった。どうりで 大黒摩季じゃないはずや。 
 甲斐が「DA PUMP!DA PUMP!」と連呼したところで、映像は 終わった。

 大満足でホールを出る。ロビーには何ヶ所か、「過去のツアー ベスト20」の 結果が貼り出されていた。みんなそれをケータイで撮っている。じっくり見ることが できて、よかった。

 しあわせにつつまれた気分で、外へ。廊下には次の回のファンたちが列をつくって いる。

 今日強く強く感じた。本当にこの人のファンでよかった!真摯な生き方。ファンを 思うあたたかさ。そして、あの歌。 
 最高のイベントやったなあ。是非またこういう機会を。お願いします。

 

 

2004年11月7日 品川プリンスホテル クラブex

 

風の中の火のように 
ポスター カラー

甲斐よしひろ PARTY30 in 日本武道館

2004年11月6日(土) 日本武道館

 

 改札からエスカレーターまで、こんなに長かったんや。久しぶりに降りた 地下鉄九段下駅で、まずそう思った。エスカレーターが長いのは覚えててんけど。 
 これまで武道館に来たこと は3回。1995年1月の”Singer”、 3月のMARCH OF THE MUSIC、 1996年のBig Night。 
 エスカレーターを上りきり、8年振りの武道館へはやる気持ちを抑え、まずは一旦 回れ右。30周年・3時間・30曲のステージを前に腹ごしらえに行く。昼間は神宮球場東都大学野球入れ替え戦を見たりしてて、早めの夕食を摂る時間がなかったのだ。

 お腹もふくれたところで、仕切り直し。武道館へ向かう坂を上っていく。大通り から左に折れると、風情あるお城の佇まい。せっかくの風景、武道館へ気持ちも 高まっているのに、ダフ屋の声がジャマや。想い出の門をくぐると、いよいよそこは 武道館。

 左手前に白いテント。グッズが売られているのだ。早く武道館へ入りたいから、 並ぶのはライヴが終わってからにする。 
 武道館正面にはピンクの看板。黒い文字で 「KAI 30TH ANNIVERSARY PARTY 30 in  日本武道館」、そしてさらに大きく「KAI YOSHIHIRO」と書いてある。 
 携帯でそれを写真に収める。8年前はこんなことできひんかったよな。 
 甲斐ファン仲間との記念撮影を終えるや、入場の列へ向かった。

 以前と同じく、武道館に向かって右につくられた列につく。アリーナと1階席の 観客はそこから左へ、2階席の観客は右へと分かれて進んで行く。僕は最初の ”Singer”以来のアリーナ。正面入口に近づくと、 数多くのお祝いの花が目に入ってきた。甲斐トリビュートアルバム「グッドフェローズ」 に参加したメンバーや、さまざまな人たち、TV局や会社などからの。

 入口を抜ける。表示にしたがって左へ進む。入口の左端あたりに人だかりがあっ た。見ると、某有名人が入場手続きをしているところやった。 
 階段を下りて行く。武道館、通路も階段も狭いな。久々やから忘れていた。これ は中でグッズ売られへんはずやな。 
 階段下のトイレはとてつもない混みようやった。僕も自分の席に行く前にトイレを 済ませておこうと、けっこう離れた男子トイレまで移動してんけど、そっちまで ずーーーっと女性ファンの列が続いていた。男子トイレでさえかなり待たされた。さっき のサンドイッチ屋で行っといたらよかったな。

 ようやくアリーナへと歩を踏み入れる。感慨を胸に。 
 今日は何と4列目で見ることができるのだ。・・・あれ、あの「R」と書いた白い 看板は何や。・・・あ!そうや。武道館はブロック指定やったんや。完全に忘れてた。 チケットが届いた時から、Dという文字を見て4列目やと思い込んでよろこんでいた。 
 ショックを受けながら、自分の席を探す。Dブロックはそれでもわりと前の方、 少し左寄りやった。ファンクラブで申し込んでもアリーナ取れなかった人もたくさん いてはるんやし、ここやったら御の字。八角形の天井を見上げてみる。自分の席が 八角形の前半分内に位置していることが確認できた。日の丸も目に入る。

 武道館のステージはやはり広い。左右への出っ張りもある。出っ張り部分は スロープになっていて、その端は高くそれぞれスタンド席のすぐそばまで伸びている。 ”BIG GIG”や”PARTY”ではリフトが用いられたが、今回は坂がその役目 を果たすのだ。ステージ前の壁は黒く、客席から見ると、左右がぐんと高くなった形は 黒い羽のよう。 
 ステージ後方には網がしつらえてある。XXXのライトはその後ろ。それより低い 位置に、XXXを中心として、円いライトが左右に数多くならんでいる。特大会場なら ではやなあ。 
 マイクの場所からすると、メンバーの位置はわりと中央に寄っている感じ。 ステージが左右に長いからそう見えるのだろうか。僕の席は蘭丸のほぼ正面らしい。 いいぞ。 
 流れているのは洋楽で、甲斐トリビュートアルバムではない。今夜は生で聴ける からかな。広い場内のあちこちを見渡し、しかしステージからは目を離しすぎない ようにしつつ、開演を待つ。

 客電が落ちる。が、真っ暗にはならない。スタンドに設置された柱状の肌色の照明 が、四方から客席を照らしているのだ。オーディエンスもライヴの一員だと言ってくれ ているように。前島さんが「武道館でやってみたい、初めての照明プランがある」って 言ってたのは、これのことやったんかなあ。 
 ステージは青に染まる。大森さんの「25時の追跡」が響き出す。立ち上がっての 手拍子。ギターの音をかみしめながら。 
 赤い光が一つずつ混じっていく。それから、あのXXXの真っ赤が放たれる。 メンバーが入ってくる。歓声のなか、JAH-RAHが金色にした髪をかなり短く 切っているように見えた。

 悲しげなキーボードの前奏。拍手と歓声に包まれて現れた甲斐が、うたい始める。 「思い出話は」のあたりで少しメロディーを変え、一瞬演奏が消える。 
 「ポップコーンをほおばって」 
 一転して、あの3連打!早くも白いストロボだ。赤も混ざって閃く。武道館全体が 一気に熱狂や。 
 甲斐は1番を歌い終えたところでもう「アーアーアー」と叫びをあげる。 
 2番の前。ギターが刻まれている。歓声が沸きあがる。甲斐がふたたび歌い出す。 ドラムが「ズシーン、ズシーン」と響いてくる。JAH-RAHのプレイでは初めての 感触かもしれない。 
 3連打が押し寄せる後奏。赤と白のストロボがもう一度、甲斐や蘭丸の影を刻む。 松藤のアコギも聴こえてくる。めっちゃ燃えたで。

 あの前奏がギターから。 
 「きんぽうげ」 
 蘭丸が左で間奏を弾く間、甲斐は右へ行って観客へアピール。会場全体を巻き込ん で行く。普通のホールではドラムスの前へ行ったりもするとこやけど、これだけ大きな 会場だと動きも変わってくるやんな。 
 サビの繰り返し。客席には「きのーおを」と歌わせてくれる。 
 「オーイェー!」とかって、後奏で甲斐がたくさん声を発した。

 いつもの弾む感じじゃなくて、ゆっくりめのリズム。ここでも重量感のある、 JAH-RAHのドラム。サックスの音を表現する、ギターとキーボードがスリリング。 
 「ダイナマイトが150屯」 
 「死にかけた奴らも消えうせろ」というニューヴァージョンの歌詞も聴けた。 
 後奏の照明は、やはり全体的に明るめ。そこで甲斐がくるくるとマイクスタンドを 廻す。スタンドを両手に受けてからのアクションも激しい。頭上で振り廻していく。

 「目一杯やるから。楽しんで。やるよ!」

 「電光石火BABY」 
 甲斐が左右に動く。特に右だ。坂を上って行き、歓声に迎えられスタンド席へ 近づく。すると、そこの照明が初めて点いた。端まで行った甲斐を捉える専用のライトが あってんなあ。 
 コーラスは前野選手とノリオが担当しているようだ。甲斐はオリジナルと同じ タイミングで「ハーッ!」と叫んだ。 
 今日は確かに「体震わせ」と歌った。プロモーションビデオで見せた、頭の上で 両手を合わせて体を揺らすポーズが、久々に登場。歩きながらで、挙げるのは片手だけ やったけど。

 イントロがブレイクした瞬間だけ、赤いXXXが現れた。 
 「FIGHT THE FUTURE」 
 力強いサビは、赤やオレンジや黄色のライトに彩られて。 
 甲斐は手のひらを見せるようなアクション。肘を曲げて頭の上で。あるいは、 前へ突き出して。 
 最後に「FIGHT THE FUTURE」と歌う時、甲斐は両手を交差させ、 それから解き放った。

 短いMCで、「ちょうど中盤あたりでゲストがある」と告げられる。 
 甲斐トリビュートアルバムに参加したミュージシャンが何人か来るらしい。でも、 僕は誰が来るのかあえて情報を入れないようにしてきた。今夜の楽しみのために。

 「東京の一夜」 
 「ダンダンダンダン」のリズムの、2拍目と4拍目が高くなっている。演奏全体 も激しい。「BIG GIG」ヴァージョンとはいえ、音は進化しているのだ。 そうやろうとは思ってたけど、名古屋と 大阪では、そこまで実感できる余裕が自分になくて。 甲斐はいつの歌でも、「今」の感覚を吹き込んで歌うもんね。 
 「口にーしたー」の後の「ジャーン」が抒情的。今回の「東京の一夜」は、ここも 特徴やんな。 
 「遠く離れて暮らす二人の・・・」と松藤のコーラスがかぶさる。 
 ラストの繰り返し。松藤の「東京の一夜は」が大きく響く。後奏で甲斐が切ない 声をあげた。

 「くだけたネオンサイン」 
 前奏は大森さんのオリジナル通り、静かに立ちあがる。蘭丸のギターが入るところ から、音が激しくなっていく。 
 甲斐はタイミングを変えてうたっている。「そうでもないさっ てー」というふう に、切るところがレコードと違うのだ。 
 「くだけたー ネオンサーインー」と、甲斐は1番で、「サイン」の部分のみ 上げてうたった。 
 後奏。ステージの左奥で、松藤がギターを奏でている。大森さんのギターだ。 甲斐はその松藤を見つめる。それから、そちらを手で示した。大森さんのギターを弾く 松藤。甲斐は天を見上げるようにしていた。

 「シーズン」 
 大きく手を叩いて歌う気分じゃなかった。小さく手拍子して、甲斐の歌に聴き 入った。ただひたすら。

 ライティングを見るために振り向いた。武道館のスタンド席に円が描き出され、 その中に波の影が揺れている。 
 「ナイト ウェイヴ」 
 今夜は前奏が少し長い気がした。みんなで波の照明を味わう時間なのかもしれ ない。手拍子を始める。「ナイトウェイヴ ナイトウェイヴ」とシンセの声が聴こえる。 やがてビートの波が寄せてくる。 
 間奏では蘭丸が、ドラムス、ベース・・・と順番に、ソロパートを演奏する メンバーの方を指差していく。ノリオのソロは、印象的だった Vol.2ツアーの東京のように細かく弾きまくるの ではなく、また新たなベースラインやった。蘭丸が、自分にスポットが当たる一瞬前から 弾き始めたのが、かっこいい。 
 バンドが静まり、甲斐が戻って来て、最後の「ナーーーイト ウェーーイヴ」で しめくくる。

 ここでゲストを呼び入れるかと思った。「ナイト ウェイヴ」の後にライヴの展開 が変わることはよくある。でも、今夜はちがった。 
 「地下室のメロディー」 
 甲斐がアコギを縦に持って弾くアクション、今日は特にたっぷり見せてくれた。

 ギターのイントロにみんな大興奮。 
 「港からやって来た女」 
 蘭丸が口火を切る曲が、今回多いやんな。それで一気に盛りあがれてうれしい。 ギターのいい曲がたくさんあるってことやんなあ。 
 甲斐はもう動く動く。坂を上って右へ左へ。どこもかしこも熱狂しまくり。 
 右端で2番を歌う。「泣かないでも」で目に手をやる。「ハナをーー」で鼻に手を 当てる。 
 甲斐は走って3番を左端でうたう。「み、見つーめ」と。 
 「オーレーはあー」から再び声を張り上げ、坂を下りて蘭丸のそばへ。最後の サビは甲斐と蘭丸が一つのマイクで歌う。「バイ!バイ!バイ!」でのギターも激しい。 俺らは「フーッ!」って叫んで跳び上がる。このシーン、今日も4回やったけど、もっと やるかと感じた。甲斐もバンドも、多分オーディエンスも、すごかったから。

 「嵐の季節」 
 レコードに入ってる音が、バックでかすかに流れている。静かやけど熱さを感じ させるやつ。これがまたいいねんなあ。 
 今日は全部のタイミングで拳を突き上げる。そうしないでいられるか。 
 武道館に、客の声と拳だけ。

 甲斐が後ろのドラムス台で靴紐を直してる。前へ出て来て、モニターに足をかけて もう一度じっくり直す。 
 今日は10月までのツアーと違って、ここでインターバルはないようだ。 
 甲斐と松藤が前のイスに座り、MCに入った。

 「30周年、3時間、30曲。武道館31回目」 
 そう甲斐が言うと、松藤が間髪入れずに「惜しい!」と声をあげる。 
 武道館も30回目だったら完璧だったのにという話になり、「どこが多かったん だろう」なんて言ってみせる。 
 「ストレートライフツアーかなあ」と言って、「今笑ったのは知ってる奴だ」 
 「解散コンサートが4日間でよかったのか」 
 言ってる方も聞いてる方も、心の中では「もっとどんどんライヴやろうよ」って 思ってる。 
 「いつか一人で武道館やろ。松藤とも縁を切らないと」とも言ってみせる。 ほんまはめちゃめちゃ仲がいいからこそ。

 「「安奈」をやりましょう」 
 甲斐、松藤、前野選手がイスに座り、メンバーも後ろに残っての演奏だ。 
 特別な「安奈」やった。30年と今日の日を祝うように。みんなであたたかに。 甲斐の歌声を聴き、「あんなーあ」と声を合わせて。

 ここからゲストコーナーの幕開け。 
 「最初を誰にしようか考えた」と甲斐。 
 「どこでもやれる奴。遊園地でもNHKでも」という言葉で、芸人としての キャリアがある者だとわかる。 
 「大河ドラマを初めて1年全部見てる。昔、「樅の木は残った」を半年見て。 それは主人公がカイっていう名前だから見てたんだけど、それだけで」

 期待が高まったところで、DonDokoDonのぐっさん、山口智充登場。 アコギを携えて。 
 歌う前に一つネタをやらせて下さい、と申し出る。 
 「”音飛びするCD”というのを、今日は甲斐さんヴァージョンで」の言葉に、 みんなよろこぶ。 
 「「東京の一夜」で、さっきも歌われていましたけども、やらしていただきたいと 思います」 
 「とーきょーーのいちーやは この街で過ごす一年のょにょにょにょにょにょにょ にょにょにょにょにょにょ・・・・・・」 
 ばっちりウケた。すかさず「続きましてー」と演芸口調でやって、ツッコまれる。

 「やっていいですか?」の問いに甲斐がOKすると、「ネタの方ですけど」と、 マジでもう一つネタをやりたいらしい。 
 そして、”蝉しぐれ”と”ヒグラシ”のモノマネを披露。 
 「笑いのない、感動だけのモノマネなんですけど」ってしめくくってたけど、 ほんまに上手くてよかったよ。

 それから、いよいよ「陽の訪れのように」 
 ステージ中央にぐっさん。客席から向かって右に甲斐。そして松藤。 
 ぐっさんがアコギを弾いて歌い、甲斐はハーモニカ、松藤はアコギで参加する。 そして、甲斐と松藤のコーラス。 
 2番で甲斐がぐっさんに寄っていく。しかし、ぐっさんのギターが当たりそう。 これでは弾きにくくなってしまうと判断したのだろう、甲斐は体を引き、最後の繰り返し でぐっさんの左にまわって、いっしょに歌った。

 思えば、結婚式ネタの漫才に爆笑して1998年度 笑芸MVPとか言ってたDonDokoDonのぐっさんを、こういう形で見る ことになるとは。「東京の一夜」や「陽の訪れのように」を選ぶあたり、ほんまに聴いて るねんなあと思えて、好感度アップやな。

 いつかのMCでも言ってた、「トリビュートは本人が動き過ぎると失敗する」との 逸話を甲斐が紹介する。 
 そういう考えがあったから、「彼が手を挙げたとき、キスしてやりたいくらいの 気持ちになったんですが」 
 そんな言葉で呼び入れられたのは、HOUND DOGの大友康平

 「デビュー曲をある番組でよくかけてて」と、大友とのつながりを話す甲斐。 「嵐の金曜日」、ラジオでほめてたやんなあ。LOOKの鈴木トオルを評価するときも、 「こんなにすごいと思った新人は、HOUND DOG以来」とか言うてたし。 
 「何か、ひとこと」と、甲斐に促された大友は、「甲斐さんあっての大友です」と 謙遜。

 松藤のアコースティックギターで、「BLUE LETTER」 
 まず大友が歌い出す。トリビュートアルバム「グッドフェローズ」では、予想 してたより抑えめな歌い方やったけど、今日は激しい。イメージ通りの大友節だ。と 思っていると、時折は語尾で力を抜いて歌う。これが大友のスタイルやねんな。 
 2番は甲斐がうたう。一瞬、ここで大友が語りをかぶせたらどうしようと思った が、今日はなかった。このアレンジやもんね。ちゃんと甲斐の声を聴かせてくれる。 
 3番は前半を甲斐が、後半を大友が歌う。大友との調和を図ったのか、それとも 触発されたのか、甲斐のヴォーカルもいつもの「BLUE LETTER」より激しく なっている。 
 もちろんサビでは2人が歌う。「BLUE LETTER」と繰り返して曲が 終わっていく。

 次のゲストとは「2週間に1回会ってる」という。ほんまによく飲んでるみたい や。呼ばれた名前はもちろん、m.c.A・T。 
 開口一番「キンチョウしてます」。普段いっぱい会ってても舞台は別物なんやろう な。 
 甲斐が「先に言っとくけど、次の曲は最初の1分、原形ない。トリビュートって いうのは、いかに裏切るかだから」と賛辞をおくる。恐縮しているふうのm.c.A・T に、客席のみんなからも拍手がおくられる。もちろん僕も心からの拍手を捧げる。 トリビュートアルバムの中でもこの歌がいちばん好きなのだ。斬新やし、かっこいいし、 リスペクトが強く感じられて。 
 甲斐がその曲名を告げる。 
 「裏切りの街角」

 「Boy!Boy!」の連呼に、俺らは拳をあげる。m.c.A・Tが歌い、早口 で捲くし立てる。もちろん甲斐も、m.c.A・Tの右側少し後ろでステップを踏み、 手を挙げ、「Boy!Boy!」って歌ってる。「Sexy Voice」のところで 甲斐が生の声をあげることはなかった。 
 やがてあのフレーズが降ってくる。m.c.A・Tが歌い出す。甲斐と2人が 左右に別れ、ステージを所狭しと動きながら。「しとしと五月雨」からは2人で声を 合わす。「君さえいてくれたならば」は甲斐だけが歌う。その裏で、m.c.A・Tが 「イェー!」「ヤー!」とシャウトを挟む。ここの2人が絶妙や。それから、「アーー」 の高い音。 
 甲斐とm.c.A・Tを目で追いながら、歌い、手を打ち、あるいは踊る。武道館 全部が興奮してる。 
 ラストは「発車のベル 叫び声のなか」を、m.c.A・Tと甲斐が交互に歌う。 そして、m.c.A・Tが「あの人がーーー」と最後の熱唱を決める。再びビートが 渦巻き、「Boy!Boy!」の波に拳の嵐。 
 「KAI BAND NOW ALIVE!」

 「今夜唯一の姫を」との紹介で、代わって大黒摩季が姿を見せる。 
 「NHKのBS見てたら、「HERO」歌ってんの。で、後ろには公平がいて。 何だ、このバンドは」 
 そういう甲斐の言葉で、みんな蘭丸に対して拍手。蘭丸も応えてくれる。 
 大黒は「ことわり入れたじゃないですかあ」と笑ってる。 
 なんか、みんな甲斐が好きって雰囲気。いいなあ。

 「HERO」 
 音も歌もトリビュートヴァージョンだ。 
 大黒は、マイクを持って伸ばした左手の手首に右手を打ちつける手拍子。 
 甲斐もところどころいっしょに歌っていく。キーとか、同じにしたのかな。

 「ISSAのソロに曲を書いて」と、甲斐がDA PUMPとのつながりを話す。 そして、4人が現れる。

 甲斐はソデへ下がり、DA PUMPによる「風の中の火のように」 
 4人が横に並ぶ。ISSAはいちばん右。右と左の2人がヴォーカルを取り、 真ん中の2人はダンスに専念。 
 4人のダンスがぴったりや。素晴らしい。深夜のTV「少年チャンプルー」を 偶然見つけて、甲斐とのつながりからその後何度か見ててんけど、おかげで「あれは 難易度の高い技やな」とか少しわかった。 
 動きまわってのラップのパート。メッセージを込めた内容がいいのだ。 
 ダンスの2人が、床に手をついてバランスを取り、ポーズを決める。おお、また 大技やってくれたなあ。

 DA PUMPよかったよ。そういえば、俺がDA PUMPの歌をちゃんと 聴いたのも、甲斐がラジオで「Rhapsody in Blue」かけた時が最初 やったな。

 これで、ゲスト5組とのステージは終わり。戻って来た甲斐が言う。 
 「30周年だ。こういうのもいいだろう。楽しくて。俺はあそこ(左ソデを指し て)にいてすごく楽しかったもん」 
 ひと呼吸おいてから、「バラードをやりましょう」

 「最後の夜汽車」 
 武道館の雰囲気が一転。甲斐の声に聴き入ってゆく。 
 3番の前に短い間奏があるのが、今日は新鮮に感じられる。 
 最後の繰り返し1回目。「おー とおざかーるーう」の語尾がいい。

 「レイン」 
 バックに光の描く円が回っている。広い場内に印象的だ。 
 甲斐は今日も、肘を直角に曲げて手を打つ。

 尖った音が炸裂。ここからラッシュが始まるのだ。 
 「幻惑されて」 
 今日はゆっくりしたリズム。ひとつひとつの音が存在感を見せつける。 
 間奏がすごい!細かく掻き鳴らされるギター。全楽器一斉の音の放出。甲斐の アクション。光と闇。その波が寄せては返す。やがて静かにイントロのフレーズが 帰ってくる。その中でギターが糸を引く。もう一度音がはじけ、あの凶暴な 「幻惑されて」のうねりになる。二本のギターが。ドラムスが。

 「三つ数えろ」 
 初めから「ウフッフー」のコーラスがよく聴こえる。 キーボードの「キュルルルル」も効いている。 
 客席がさらにその熱を増してゆく。

 「氷のくちびる」 
 前奏のシンバルの金属音がやはり印象的だ。 
 2番の前で、甲斐が蘭丸に、手で自分の隣のスペースを示す。甲斐とならんで 間奏を弾いた蘭丸は、ライトが消えてもしばらくそこにじっとしてから、左へ戻る。 
 「白い指がともーす キャンドルライートーおお」の裏に滑り込む、悲しげな 「ヒュルルルルルルー」という音が胸に迫る。 
 甲斐は後奏で「アアア アアア アアア アアア アアア アアア アアア  アアララララー」と二まわり続けて全部歌う。最高や。

 「翼あるもの」 
 前奏がものすごい。このスケールが、音の太さが、昂揚感がたまらない。ひときわ 熱狂するオーディエンスたち。 
 甲斐がステージを走る。坂を駆け上がる。間奏後の「おーれのーーうーーみーい につーばさひろーげーー」は右端で。最後の「おーれのーこーえーーがきーこえるー かい」では左にいる。そしてあのエンディングに向けて、マイクスタンドへ帰ってゆく。

 「漂泊者(アウトロー)」 
 数多くの小さな円いライト各々の中を、虹が横切っていく。興奮のさなか目に映る その光景に、さらに狂乱する。 
 サビでは青緑のライトが一斉に、左右斜め上から甲斐のもとへ射す。

 「冷血(コールド ブラッド)」 
 縦に回転した白い光が手前下を照らした時、甲斐が歌に入る。 
 青から白へ、白から赤へ。照明が歌にともなって劇的に、その色を変えていく。 
 甲斐は1番では、サビ前にジャンプしなかった。 
 3番前の甲斐のアクション。向かって左の右肘から、叩き落していく。 
 後奏での、手で腕を払う仕草が多かった。肩の方も払いのける。寒気を振り払って いるのだろうか。

 「破れたハートを売り物に」 
 大ラスから移るなら、やっぱりここがいいやんな。 
 みんなでみんなで大合唱や。甲斐とメンバーと甲斐を好きなみんなで。

 アンコール。俺は手拍子をしつつ、時々思い切り「甲斐ーっ!」と叫ぶ。最近は こうやって好きな時に衝動をぶつけるのが気に入っててんけど、後方から聞こえてくる 気合いの入った甲斐コールに、「かーい!   かーい!」といっしょに声をあげずに はいられなくなった。

 メンバーが現れる。蘭丸がノリオと間合いをはかるようにしてプレイし始めた。 
 「ブライトン ロック」 
 甲斐が躍り出てくる。銀のラメのTシャツを着ている。 
 歌が、音が、動きが、強い。あああ、やっぱり「ブライトン ロック」は燃える で!

 「ラヴ マイナス ゼロ」 
 甲斐は黒のジャケット姿。 
 オーディエンスに向けて、甲斐が声をかける。 
 「サンキュー30周年 サン!キュー!」 
 最後はそう叫んだ。

 JAH-RAHのドラム。それとともに武道館に虹ができる。 
 「観覧車’82」 
 間奏。指を1本突き出した手を、交互に挙げるようにして、甲斐が回りながら 右前へすすんでいく。

 甲斐が去り、メンバーが姿を消した後も、虹の照明は残っている。メインステージ 上だけでなく、その左右にも虹色が長くつづいている。中央の照明は、左から右へ 桃色から紫までならんでいる。左右両翼は逆の順序で、紫から桃色へ連なっている。 虹は後方の客席にまで届いている。 
 今度は最初から甲斐コールに加わる。声を合わせて甲斐の名前を呼ぶの、やっぱり いいもんや。甲斐の登場を切望しながら。

 甲斐が一人、ステージに帰って来た。アコギを手にする。うおお、今日もやって くれるんや!ゲストがあったし、すでに30曲行ってるから、もう聴かれへんと思って たよ。感激や。 
 「テレフォン ノイローゼ」 
 イントロでちょっと演奏をやめかけたりする。ギターから手を放して。間を 取って。そこから音を高めていって、あのフレーズへ。 
 「 出会ってーひと月め」と、タイミングをずらした方で歌い始める。 
 渾身の声で「テレフォンノイローゼーアハ」と歌うあまり、僕は息が続かず次の 部分を歌えなくなったりした。

 甲斐がゲストを1組ずつ呼び入れていく。歌ったときと反対に、DA PUMP、 大黒摩季、m.c.A・T、ぐっさんの順番だ。甲斐は1人ずつ握手していく。 
 大友康平は岐阜で主演ドラマの撮影があるため、先に武道館を発ったと説明が ある。みんなで少しずつ歌うのだが、ぐっさんが大友の声を出せるから、大友のパートも ぐっさんが歌うという。 
 ここでぐっさんがひとこと。「大友さん、帰る時「新幹線待たしてあるから」 って、わけわからんこと言うてましたよ」 
 左から、ぐっさん、m.c.A・T、大黒摩季、甲斐、DA PUMPが ならんだ。 
 ツアーヴァージョンの「HERO」が始まる。 
 前奏で、ヴォーカルたちの後ろに一郎が見えた。僕は思わず「一郎ーっ!」って 叫んだけど、その瞬間歌入りになる。 
 ぐっさんが大友の声で歌ってるかどうかはわからなかった。甲斐もいっしょに 歌ってるから、どうしてもそっちの声が聴きたいし。 
 大黒摩季のマイクの入りがいまいちか。甲斐が右ソデへ向かって、もっと上げる ようにさかんにアピールする。大黒は黒の甲斐ツアーT。武道館限定版。裾にたくさん 切れ目を入れて、ひらひらさせている。 
 サビはもちろん全員で歌い、2番はぐっさんが歌い出す。サビの前ですごく高い 声が響く。女性やろうと思って大黒摩季を見たけど、彼女は歌っていない。誰の声やった んかなあ。 
 間奏に入るところで、甲斐が「田中一郎」と告げる。黒いロングジャケットを 着た一郎に、オーディエンスの歓呼の声が降り注ぐ。ステージ左に蘭丸。一郎は右へ 出てプレイする。 
 甲斐がマイクスタンドを蹴り上げた。左隣の大黒が目を大きく見張ってみせる。 
 ラストは甲斐が左から順にゲストのもとへ行き、いっしょに「ヒーローー」と 歌っていく。いちばん右端のDA PUMPメンバー2人のところへは間に合わず、 ISSAら左の2人と2回歌った。

 曲が果てると、甲斐は「DA PUMP!DA PUMP!」と名前を2度呼び 上げた。ゲスト全員の名前を呼んでオーディエンスの拍手を誘い、1人ずつと握手して いく。甲斐と抱き合う人もいる。去年の夏、なんばHatchでのイベントで、チャボ がサンタラの美人ヴォーカル田村キョウコに抱きついて見せたシーンを思い出したが、 甲斐は大黒摩季とは抱き合わなかった。甲斐らしい。

 もしかしたら、「逝ってしまった大森信和のために」と、甲斐が言うかもしれない と思っていた。 
 しかし、曲は静かに流れはじめた。はかなげなピアノの音が奏でられる。長く 続いた旋律がやがてあのメロディーに代わると、拍手が起きた。 
 「100万$ナイト」 
 初めは大森さんのことを考えて聴いていた。実際にこうやって見るまでは、一郎の ギターにも注目しようと思っていた。だけど、聴いていくうちに、甲斐が歌で描き出す すさまじい恋愛に、曲自身の持つ世界に、僕は完全にとり込まれてしまった。その中へ のめり込んでいった。 
 詞が胸に突き刺さる。彼女の悲しさがリアルに沁みてきた。 
 甲斐は「100 万 ドーーール ナイーーツ」と、最後のツの音をわずかに 感じさせるようにうたった。 
 「俺の胸にとまった天使」とまで呼んだ女が、「稲妻の走る道を 罪人のような目 をして 俺の名だけを呼んでいる」この結果。こんなことにしてしまったつらさ。なんて 悲しい歌なんだろう。 
 甲斐がまた静かにうたいはじめる。「どこで二人が」の後からしだいに声を高めて いく。それにつれて高鳴るピアノ。 
 ふたたび甲斐が「俺の胸にとまった天使」と呼ぶ。「二人だけの誓いを  もう一度だけ口にして 祈る言葉はありはしない」 
 「俺は 俺は」甲斐が繰り返す。「さけんーでる 100 万 ドーーール  ナイーーツ」 
 悲しみの後奏へと入っていく。暑さと焦燥感まで伝えるキーボード。ドラムが強く 叩き出される。甲斐のシャウトの始まりだ。 
 「ウォーオーーオオオーーーっ」 
 その瞬間、ミラーボールが光を放つ。おびただしい白い光の球を、ステージに、 客席に、天井に、武道館全体へ吹き出している。ミラーボールがまわる。全ての光の球も まわる。甲斐がその下で叫んでいる。全身に力を込めて。身体を反らして。叩きつける ように。高く放つように。首を振って。首を後ろに倒して。ファルセットをあげる。 またシャウトする。痛みをこらえ切れないように叫んでる。

 甲斐たちがステージを去り、俺ももう武道館から出て行かなければならない。 
 主のいなくなったステージの上にはミラーボールが残り、そこへ向かって白い光が 伸びている。紺のライトが舞台を照らし、赤いXXXが熱を帯びている。 
 そんな景色を目に焼きつけながら、左前方の出口へと向かう。しゃべる気には なれなかった。 
 3時間をどれだけ過ぎたのだろう。ほんとうにたっぷりやってくれた。さまざまな 歌。甲斐の声。細かなシーンもいろいろ覚えている。甲斐がハーモニカを舞台後方へ投げ てしまったこと。蘭丸がゆっくり前へ歩いて出てきながら激しく弾きまくる様子。甲斐が 「そして、松藤英男」と紹介したところ。 
 しかし、今はただ、「100万$ナイト」だけが俺の中で鳴っている。あの歌の 衝撃がまだまだずっしりと残っている。

 武道館を出たところに、また人だかりができていた。今度は誰を見てるのか。そう 思いつつ歩を進めると、あたりには白い光の球がまわっていた。はっとして見上げる と、甲斐からオーディエンスへのとびきりのプレゼントが目に入った。 そこにはもう一つのミラーボールが光を受けてまわっていた。

 

 

2004年11月6日 日本武道館

 

ポップコーンをほおばって 
きんぽうげ 
ダイナマイトが150屯 
電光石火BABY 
FIGHT THE FUTURE 
東京の一夜 
くだけたネオンサイン 
シーズン 
ナイト ウェイヴ 
地下室のメロディー 
港からやって来た女 
嵐の季節 
安奈 
陽の訪れのように(トリビュートヴァージョン +山口智充) 
BLUE LETTER(+大友康平) 
裏切りの街角(トリビュートヴァージョン +m.c.A・T) 
HERO(トリビュートヴァジョン +大黒摩季) 
風の中の火のように(トリビュートヴァージョン DA PUMP) 
最後の夜汽車 
レイン 
幻惑されて 
三つ数えろ 
氷のくちびる 
翼あるもの 
漂泊者(アウトロー) 
冷血(コールド ブラッド) 
破れたハートを売り物に

 

ブライトン ロック 
ラヴ マイナス ゼロ 
観覧車’82

 

テレフォン ノイローゼ 
HERO(+DA PUMP、大黒摩季、m.c.A・T、山口智充、田中一郎) 
100万$ナイト(+田中一郎)

Big Year’s Party 30 KAI YOSHIHIRO 30th ANNIVERSARY

2004年9月22日(水) 大阪厚生年金会館

 

 小雨が降っている。厚年には雨のイメージがある。例えば、「嵐の明日」ツアーも そうやったな。 
 ダフ屋を黙殺し、公園を突っ切って、会場に入って行く。

 席は前の方。右端から2番目やった。端の席になるとまずいつも思うのは、甲斐は 近くまで来てくれるだろうか、ということだ。ステージの前には、一段低くなった スペースがある。けっこう広い。ここに甲斐が下りて来て、最前列の客の頭をつかんだ ことがあったっけ。そのスペースの左右はまた一段高くて、壁づたいに客席の方に伸び ている。その細長い部分は僕の席の近くも通っているから、もし甲斐が来てくれたら 至近距離で見ることができる。ただし、ステージからそこまでの間には、左右とも 大きなスピーカーがあって、道をふさぐ格好になっている。つまり、甲斐が僕の近くまで 来てくれるには、一旦ステージ前の低いスペースに下りて、そこからまた右の方へ上る しかない。チャンスは少なそうや。

 場内には今日も、甲斐トリビュートアルバム「グッドフェローズ」が流されて いる。いちばん好きなm.c.A・T「裏切りの街角」が、楽器チェックのために音を 絞られ、思わずもったいなく感じてしまう。楽器のチェックをしないとライヴが始まら ないというのに。

 スピーカーからの歓声。僕は立ち上がる。名古屋 で気になった「大森さーん」という女性ファンの声を確かめようとしたが、聴き 取れなかった。まだこれがオープニングなのだとわかっていない客もいる。一昨日の僕 もそうやったか。 
 大森さんのギターでみんなが気づく。2004年秋、甲斐30周年のツアーは、 「25時の追跡」で幕を開けるのだ。一気に手拍子が捲き起こる。 
 真っ赤なXXXのライトが浮かびあがる。だが、僕の席からは左のXしか見え ない。 
 紺の灯が上からステージを照らし、メンバーがそこを通って進んで来る。右の方 に位置するメンバーは死角になるだろうと覚悟していたが、ノリオも前野選手もぎりぎり で視界に収まった。ちゃんと考えられてるねんな。よかった。

 キーボードによる前奏。ギターをかけた甲斐が現れる。歓声と叫びと拍手を一身に 浴びて。名古屋と同じ黒のジャケットは少しラメ入りで、照明の当たり方によって ところどころ光って見える。中は白のVネック。黒のパンツ。そしてサングラス。 
 「ポップコーンをほおばって」 
 今夜ももちろん、デビューヴァージョンからライヴヴァージョンへ連なる、 30周年ならではの形だ。大阪のファンも大よろこび。はやる心で手拍子の乱れ打ち。 
 サビで白い光が射す。あらゆる方向から、次々と。端の席だからこそ感じられる 迫力や。 
 僕の席からは、甲斐の後方にステージの左ソデも見える。そこではスタッフが拳 の3連打をやっていた。こういうのもうれしいよなあ。みんな燃えてるで。

 ギター。ドラムス。松藤のカウベルも効いている。甲斐がマイクスタンドを蹴り 上げるタイミングも、前奏の長さも、今日はいつも通りやった。 
 「きんぽうげ」 
 バックに影。甲斐の影だ。客席右横の壁にも大きく映っている。名古屋では素の 照明やと感じたけど、そうや、最近のツアーでは壁まで使った影のライティングがあった んやったなあ。 
 歌のラスト。客席へマイクを向けるのは、今日も短く2回。 
 後奏で蘭丸が前に出る。甲斐は客席後方へアピールしてる。ライヴ序盤はいつも、 いちばん後ろのお客さんを意識してるんやんな。蘭丸がイントロのフレーズ。 「オーイェー!」と甲斐が叫ぶ。曲がゆっくりになり、閉じられてゆく。

 ビートの中、見事に高く蹴上げられたマイクスタンド。 
 「ダイナマイトが150屯」 
 後奏で照明は全体に暗めにはなるが、甲斐の姿は見える。前はもっと暗くして、 スタンドを廻すところで甲斐にスポットが当たった気がする。このツアーから 変えたのかな。とにかく甲斐はマイクスタンドをぐるぐる廻し、横に振り廻し、両手で 持ってステップを踏んだ。

 短い「目一杯」宣言に観衆が応え、すぐに曲が続く。

 今日はイントロを飾るきれいな音が印象的や。 
 「電光石火BABY」 
 甲斐はサングラスをはずしている。ステージの前の縁まで出る。客席との間にある あの低いスペースに落ちそうな体勢にわざとなり、バランスを取る振りをしてみせる。 でも、まだ下りない。 
 2番を歌い終えると、「ハーッ」の声。オリジナルよりも早く。 
 3番前のコーラス、今日は前野選手がしていた。 
 やっぱり「体震わせ」と歌ったように思えたな。

 新曲「FIGHT THE FUTURE」 
 バックに回転する羽のような模様が映ってる。 
 繰り返し前の「嵐の中」を、甲斐が入りそこねる。が、すぐに「突き進もう」から 歌っていった。

 「30周年・3時間・30曲」と告げるMC。 
 「今夜は最後まで楽しんで」

 イントロで拍手が起きる。ずっとずっと愛されてる曲やねんな。 
 「裏切りの街角」 
 名古屋で新鮮だった最後の繰り返しを、ふたたびじっくり味わった。

 今夜もあの前奏に歓声が飛ぶ。 
 「東京の一夜」 
 ここからの2曲は、このツアーの大きな見せ場の一つ。泣けるのだ。 
 甲斐の歌を聴き、詞に浸り、演奏に溶け込む。「口にーしたー」、 「それをー愛と呼んだー」に続く「ジャーン」というギターの音色が、切なく沁みる。

 大森信和作品。「くだけたネオンサイン」 
 過去形になる2番の歌詞が悲しい。その中で現在を語る「バラ」のくだりを、 今夜の甲斐はきれいに響かせた。 
 「本気でつくった」からやや間をつめて、「君の曲さーー」と歌う。後奏が 高鳴る。それからもう一度、レコードを思い起こさせる静かな演奏へ。松藤がギターを 弾いている。曲の終わりで、甲斐はおじぎをした。

 ステージが水色に変わる。 
 「シーズン」 
 1番から「痛んだハート」と歌う、ニューヴァージョンの歌詞を 聴くことができた。

 前奏で甲斐がゆったりと身体を揺らしてる。振り返ると、客席後方に波の影。 甲斐はそれに合わせて揺れてるんや。 
 「ナイト ウェイヴ」 
 今日も「ウーウーウーウーウーウーウーウーウー」は中間くらいの長さ。 
 甲斐が左ソデへ消える間奏。キーボードがよく聴こえる。やっぱり右側の席や からなんかな。 
 名古屋とはラストが違ってた。戻ってきた甲斐が蘭丸のマイクでうたったのだ。 
 「ナーーーーイト ウェーーーイヴ」

 「地下室のメロディー」 
 歌入りからは、僕は普通に手拍子する。激しさを増していくJAH-RAHの プレイを感じながら。でも、最後まで「タン タタン」の手拍子で通す人も少なくない。 
 2番を甲斐は「階段を」と歌い出してしまった。間違いに気づき、歌を止めるが、 なかなか本来の歌詞に戻れない。「引き連れ」と歌うが、この詞もまだ早かった。 ギターを弾きながら待ち、「しーてーいるー」から入って歌っていった。

 「港からやって来た女」 
 甲斐が前に出て動く動く。会場じゅうが熱く沸く。 
 3番前の間奏では、甲斐は左にいた。 客席に「静まれ」のジェスチャー。キーボードと ベースを聴かせる。「手拍子はいいぜ」の素振りを見て、オーディエンスが再び手を 打ち始める。甲斐はその中で静かにうたい、「オーレーはー」からまた強く歌っていく。 右へと動いて来ながら。おお、「港」のサビで甲斐が近くに来てくれた感激!もう 思いっきり歌うもんね。 
 左に戻った甲斐は、一段低いスペースへ下りていった。そこで「バイン!バイン! バイン!」「フーーッ!」 
 まだまだもったいぶって終盤までとっとくのかと思ってたけど、ここで初めて 下りるとは。厚生年金会館、ものすごい騒ぎになってるのだ。

 蘭丸のギター。大森さんとはまた違った、独自の味を出してる。 
 「嵐の季節」 
 拳をあげて歌うオーディエンス。左ソデでもスタッフが拳をあげている。 「ポップコーン・・・」の時の人やろうな。 
 繰り返し歌うオーディエンス。甲斐は静かになった演奏を完全にとめさせ、俺らに たっぷりと歌わせてくれる。そして、みんなでもう一度バンドと共に歌うのだ。 
 「今は嵐の季節」

 15分の休憩。

 客電が落ちる。ステージのライトがつく。甲斐が左ソデから歩み出てくる。 白のタンクトップ。サングラス。スタッフから、アコギを受け取る。正面を向く。 
 「テレフォン ノイローゼ」 
 「 出会ってーひとつきめどれーほどー」と、歌い出しを遅らせる アコースティックヴァージョン。2番からはオリジナルのタイミングで入る。 
 間奏は甲斐の指の動きに注目しながら。真ん中から上へ。真ん中から下へ。これを 繰り返し、最後は上からいちばん下まで下りてくる。 
 3番のサビ。「暗闇にーーー」と伸ばす部分は、静かにうたった。

 甲斐が松藤を呼び入れる。次にアコーディオンの前野選手も。左から、前野選手、 甲斐、松藤と並んで座る。 
 「甲斐しゃべってー!」とMCを求める声が飛ぶ。 
 しかし甲斐はしゃべらない。「ビューティフル エネルギー」、 「BLUE LETTER」を静かに聴かせてくれた。

 それから今夜初めての本格的なMCに入る。 
 「今回唯一のウリは、休憩があることで」というジョークから。 
 「(休憩後は)ちゃんとわかりやすく、ライトつけて、歩いて出てきた。思いやり だよ。走って出てきたらわからない」と言うと、松藤が「ザカザーン!」とアコギを 鳴らし、「残念!」 
 甲斐は気に入った様子で、「これ、どこかでやろ」

 オリンピックの話。 
 「ヨーロッパ選手権、オリンピック、パラリンピックと、俺はずっと続いてて」 
 「友人がアテネに見に行ってたから、テレビで探したんだけど、見つけられ なかった」 
 その人は野球だけを観戦したそうだ。 
 「みんな若いのに格言とか持ってて、すごいよね。柔道の阿武は「努力は人を 裏切らない」」

 ツアーのリハーサルをやった山梨のロフトが暑くて、開けて涼んでた時に松藤が 言ったという、「(南アルプス市の中学は略して)みなアル中」について、話が広がる。 
 「中学校のホームページに、名前を嫌がってる書き込みがあったりして。俺なら よろこぶけどなあ。”みなアル中 甲斐”って胸にゼッケンつけて。四隅はピンで 留めて」 
 次の瞬間、「お母さんが縫ってくれなかった」と、甲斐と松藤が同時に言った。 このセリフがかぶるとは、めちゃめちゃ息合いまくりやなあ。 
 「(こういう冗談は)やめよ」「やめよ」とお互いに言って、ひと段落。 
 最後に甲斐が、「そのゼッケン、ほんとに作る。スタッフに作らせよ、いつか。 ・・・今夜、打ち上げで」

 蘭丸、JAH-RAH、ノリオが戻り、全員が揃う。 
 「みなさんといっしょに静かにうたう時間が訪れました」「手拍子とかしない ように」 
 「安奈」 
 フルバンドにアコギとアコーディオン。この形で聴く「安奈」は、今回が初めて かもしれない。 
 ハーモニカはなし。手拍子もなし。僕は自分がうたうのがもったいなくて、声 出さないぎりぎりの小ささでささやくようにうたった。「あんなーあ」だけは大きく。

 前野選手と松藤をもう一度紹介し、後ろへ送った甲斐。マイクスタンドの前に 立つ。 
 「最後の夜汽車」 
 白い長袖のシャツ。袖のボタンは留めていないようだ。 
 ラストの繰り返しが、「この夜にさよなら」のアルバムを思い起こさせる。 
 タイミングをずらして「ララララララ」と声をあげた。

 「レイン」 
 美しい前奏に聴き惚れていると、甲斐は下を向いた姿勢で、肘を直角に曲げて 手を打ち始める。トレーニングにも似た体勢や。それを見て僕らも手拍子を始める。

 JAH-RAHの4カウントが聴こえる。いざ、一斉に音の放出。震える。 うねる。尖る。前奏のあのギターで跳ねたくなる。FIVE時代の、身体を前に倒したり 起こしたりしたくなる音とも違う。これが今のアレンジ、今のこの曲。 
 「幻惑されて」 
 間奏でまたひときわ盛りあがる。甲斐もギターを弾いている。 
 サビの繰り返しで甲斐が発する「タブー」の声が、何度も何度もこだました。

 ノリオが回転してる。 
 「三つ数えろ」 
 ギターを放した甲斐の、動くこと。ステージ前にも下りてくるのだ。 
 間奏のピアノが効いてる。その音色に飾られてから、「ワン!ツー!スリー!」 
 甲斐は今日も「路上」と歌う。「ファッションだけが」でタンクトップを触ること はなかった。

 今回特にすごい「氷のくちびる」 
 最後のサビを歌い終えた甲斐が、「アアア アアア アアア アアア アアア  アアア アアア」と声をあげる。そしてファルセットの叫びをあげる。 
 甲斐は時に宙を仰ぎ、時に手を揚げて、ギターを弾く。蘭丸はひたすら弾き まくる。JAH-RAHのビートが高まっていく。

 「翼あるもの」 
 甲斐が歌い方を変えている。「今わあきっとー」「うつろなきょーう」と、途中で 間を取らず早めに歌うのだ。少し前の拍に合わせて。 「たどーりーつーくまでー」は、「り」と「つ」と「で」をドラムの3連打に乗せる ように。 
 間奏。前へ下りるか、横まで来てくれるか、とも思ったが、甲斐はステージ右奥の キーボード台に上った。 
 「さーけびーーい つーーづけるーー」と歌い終えた甲斐。咆哮する。 オーディエンスから拍手が沸き、音が静まる。甲斐はマイクスタンドに戻っていく。 両手を広げる。指を組んで頭上に伸ばす。影が訪れ、その指をゆっくりと上りきった。 甲斐が身体を折り、頭を下げる。それから全ての音が湧き上がる。身体を起こした甲斐が 横殴りのアクションをしたところでフィニッシュ!

 「漂泊者(アウトロー)」 
 ライトがあちこちから次々射しては消えるのが見えた。 
 「爆発!」での腰の落としは今日も浅め。間を置かず「しそうーーっ」で前へ 飛び出していく。

 「冷血(コールド ブラッド)」 
 白。青。赤。壮絶な三つの色が、あるいは冷たく、あるいは強く、曲の世界を 映し出す。 
 甲斐はサビに入る前の瞬間、小さくジャンプして回転する。着地するや片手を 挙げ、「うらんーでもー」と歌って行く。また照明が変わる。 
 後奏ではやはり、腕を払う仕草を見せた。

 「HERO」 
 間奏の甲斐は、蘭丸を目立たせてる感じ。そこからまた、視線を一身に集めて 歌い出す。マイクスタンドを蹴り廻す。動く。マイクを突き出す。吼える。感謝の言葉を 叫び、本編を閉じる。

 すぐに激しいアンコール。盛りあがりの余韻そのままに。すごい手拍子や。

 「ブライトン ロック」 
 「答はどこだあぁ」甲斐が語尾を下げて響かせる。「どこだっ」と突き放さない。 今夜も4回全部歌ってくれた。全てその歌い方やった。

 「風の中の火のように」 
 初めから激しい演奏。激しい手拍子。僕ももちろん手を打ち、歌う。詞をかみしめ ながら。 
 甲斐が叫ぶ間奏から、音がまださらに激しさを増す。客席が、ステージが、 燃えあがっていく。

 メンバー紹介。JAH-RAH。前野選手。松藤は「もう一人のキーボード」と 紹介された。ノリオ。蘭丸。 
 前野選手のキーボード、今日はよく聴こえてきた。やっぱり席が右か左かで ちがうよなあ。 
 松藤はギターを弾く曲が多かったな。 
 ノリオが横回転してるの、この角度からはよく見えた。いろんな曲でまわってた ねえ。うれしい。

 「サンキュー。今夜は、熱烈な声援で、こんなにたくさん来てくれて、 感謝してる。サンキュー」 
 甲斐の言葉に、オーディエンスがものすごい拍手で応える。ほんとに並大抵の 叩き方じゃない。心からの、力一杯の、最大限の拍手や。しかも、その拍手はおさまる どころかさらに高鳴っていく。止まらない終わらない。メンバーたちも手を挙げ、 おじぎをし、手を振って応えてくれる。30年間の甲斐に対する感謝と支持の思い。 オーディエンスの気持ちは必ず伝わったはずや!甲斐たちと通じ合えたと実感できる、 特別な時間やった。 
 まだまだ拍手が続いているうちに、甲斐が話し始める。 
 「アルバムを2枚出して。トリビュートアルバムには、高橋克典くんや、 キンモクセイ、ぐっさんたちが参加してくれて。大黒摩季は「HERO」を歌ってて、 (甲斐のツアーと)どっちもギターは公平だっていう」 
 蘭丸にみんなから拍手が贈られる。ピースサインを見せてくれた。 
 「トリビュートだけだと、「今の甲斐は?」ってことになるんで、オリジナル アルバムをぶつけて」 
 「武道館 はお祭り的な色合いも濃くなると思うんで」

 「観覧車’82」 
 間奏で甲斐が舞う。長く。ステージの左前へ、くるくると進んでいく。

 拍手と観覧車の余韻を胸に、2度目のアンコール。場内に残された虹のなか。 右端から振り仰ぐと、二階のあたりはやはりオレンジに染まっていた。

 「ラヴ マイナス ゼロ」 
 甲斐の言葉が一昨日とちがった。 
 「サンキュー30周年。また会おう」 
 これ、最高やったなあ。うん、もちろんこれからも会いに来るで。30周年で 終わるわけじゃ決してないのだ。

 「破れたハートを売り物に」 
 30周年の大阪の夜、フィナーレはみんなで大合唱や。甲斐が歌う。一列に並んだ メンバーと。松藤と。前野と。オーディエンスと。JAH-RAHもカウベルで いっしょに。

 甲斐たちの去ったステージに、「甲斐ーっ!」「甲斐!ありがとーっ!」の声が 飛ぶ。 
 今夜のライヴを思い出すとき、まず浮かんでくるのは、あの拍手。ふつうなら そろそろおさまると思えるところからさらに強くなって続いていくあの感じ。 忘れられへん。ファンの間で語り草になっていくにちがいない。地元大阪でこの夜を 体験できたことが誇らしい。

 

 

2004年9月22日 大阪厚生年金会館

 

ポップコーンをほおばって 
きんぽうげ 
ダイナマイトが150屯 
電光石火BABY 
FIGHT THE FUTURE 
裏切りの街角 
東京の一夜 
くだけたネオンサイン 
シーズン 
ナイト ウェイヴ 
地下室のメロディー 
港からやって来た女 
嵐の季節

 

テレフォン ノイローゼ 
ビューティフル エネルギー 
BLUE LETTER 
安奈 
最後の夜汽車 
レイン 
幻惑されて 
三つ数えろ 
氷のくちびる 
翼あるもの 
漂泊者(アウトロー) 
冷血(コールド ブラッド) 
HERO

 

ブライトン ロック 
風の中の火のように 
観覧車’82

 

ラヴ マイナス ゼロ 
破れたハートを売り物に

Big Year’s Party 30 KAI YOSHIHIRO 30th ANNIVERSARY

2004年9月20日(月) 愛知厚生年金会館

 KAI FIVEの後期に2回ほど来たことのある愛知厚生年金会館。駅を出て すぐ右の建物やったな。駅名は忘れてたので、調べてメモしておいた。地下鉄の池下駅 だ。にも関わらず、池下ではなくひとつ手前の今池で降りてしまった。早めに着けそう やったのに、これで開場時間ぎりぎりになる。メモも見なければ意味がない。 
 池下駅のエレベーターを上っていく。ああ、こんな雰囲気やったと、懐かしさを 覚える。 
 並んで開場と同時に入りたかったけど、ここで考えた。今回は30周年のツアー で、3時間・30曲のボリュームだという。何か食べておかなければ、6時に開演して 9時まで持てへんやろう。まだ腹は減っていないが、会場の左向かいにあるミスドに 行くことにした。 
 ミスド店内でトイレに立つ。トイレのドアの前で甲斐友に呼びとめられる。挨拶 をして、トイレのドアを押し開ける。すると、ドアの向こうにいきなり道路が広がって いた。ああ、びっくりしたあ。当然トイレの中につながってると思ってたのに、店の表 に出るねんもん。道を挟んだ向かいのビルに、トイレはこのビルの2階にあると 貼り紙がしてあった。

 会場の外には、待ち合わせをしているらしいファンが多かった。その前を通って、 ホールへ入場。ロビーに「ぐっさん家」というTV番組からの花が飾ってあった。 
 まずは自分の席へ。客席内には甲斐トリビュートアルバム「グッドフェローズ」 が流れていて、僕が入った時は高橋克典が「漂泊者(アウトロー)」をつぶやいて いた。僕の席は左寄り。左隣が通路とはラッキー。思う存分動けそうや。 
 ロビーに戻ってグッズ売り場。パンフレットとTシャツ2種類を買う。パンフが 本になっているのが、久しぶりだと感じられる。青のTシャツはプリントの色が 白と赤。ドラゴンズカラーやな。名古屋やし。黒のTシャツは甲斐のモノクロ写真も 入っている。背にはツアースケジュール。これ好きやねん。 
 ブザーとアナウンスで、自分の席へ急ぐ。さあ、始まるぞ。

 「グッドフェローズ」の曲が消え、スピーカーから歓声が聴こえてくる。女性 ファンの「大森さーん」という叫びも聴こえた気がする。低く唸る前奏を破って、 ギターの音色が高らかに放たれる。 
 「25時の追跡」! 
 7月に亡くなられた大森さんの曲、大森さんの演奏だ。 
 僕らは立ちあがり、表のタイミングで手拍子をする。思い出すあの 「PARTY」。そして、胸に来る大森さんへの想い。 
 あの無線の交信音もある。乾いたビートとみんなの手拍子が重なる。甲斐と バンドはこれから3時間、歌と音楽で怒涛の攻撃をしかけてくるにちがいない。 また僕らオーディエンスにも、この手拍子という武器があるのだ。 
 ステージ後方は金網。左右の端は手前側へ斜めに伸びている。 ステージはフラットで、床下からの照明はない。 
 メンバーが入ってくる。甲斐はスタッフとともに後ろへ行ったようだ。 蒼だったライトが赤に変わる。ステージ奥中央に、真っ赤なXXXのライトがひときわ 映えている。三つ並んだXは、これが30周年を記念するツアーだと告げているのだ。 
 蘭丸は左、ノリオは右に位置を取る。右奥のキーボード台に前野選手。左寄りの 奥にJAH-RAH。松藤はさらにその左にいた。 
 大森さんのギターが曲を閉じていく。歓声が高まる。

 「25時の追跡」に続く1曲目は、やはり「ナイト ウェイヴ」なのか? 
 そう思っているところへ、静かな前奏がはじまった。もしかして、大森さんに 捧げる「100万$ナイト」だろうか。僕がライヴに参加し始める前やけど、 「100万$ナイト」が1曲目だったことがあった。 
 ステージ中央奥から甲斐が進んでくる。歓声と拍手がまた一気に押し寄せる。 ギターを持った甲斐。サングラス。黒の上着、中は白。黒のパンツ。 
 「映画を見るなら フランス映画さ」 
 甲斐は静かにそううたいだした。「ポップコーンをほおばって」!それも、 ハッピーフォークコンテストを思わせるデビューヴァージョンや!まさに30周年。 このツアーの1曲目を飾るのに、これほどふさわしい曲もないだろう。 
 「思い出話は」の後をデビューヴァージョンの詞でうたうのか、注目していた。 すると、ちょうどそこで静かなメロディーは消え、甲斐もうたうのをやめた。代わって あのビートの3連打!再びオーディエンスの叫びと歓声。甲斐はもう一度「映画を見る ーなあらー」と歌い始める。今度は強く。ここからは、ファン熱狂のライヴ ヴァージョンだ。 
 2番に入る前。歓声が集中する。この静かな部分が今日は長い。その間も客席は ずっと手拍子。めちゃめちゃ熱いのだ。 
 後奏も長くてうれしい。松藤がアコースティックギターを弾いている。蘭丸は 早くもステージ右へ行く。僕は拳をあげ、甲斐を見ながら、激しさを増していく JAH-RAHのドラムに耳を傾ける。曲のフィニッシュとともに拳を2連打。

 蘭丸のギターがうなりをあげる。 ファンを狂喜させるあのビート。松藤のカウベルが絡みつく。 
 「きんぽうげ」 
 甲斐がいつものタイミングでマイクスタンドを蹴り上げた。と思ったが、前奏が もうひとまわりあった。今回は長いアレンジなのだろうか。 
 素のライト、と感じさせる照明。白くステージを照らすだけ。この曲では甲斐と 客席の熱狂を見せるだけでいいだろう、と言うように。 
 甲斐はステージを動く。左の前へ。あるいは右へ。 「くーらやみのなか」は語尾を突き放した歌い方。間奏前にはもちろん、肘で 宙を打つようにして身を翻す。ラストは短く2回、客席にマイクを向けてくれた。

 打ち続けられるビートに身体が弾む。 
 「ダイナマイトが150屯」 
 前奏で、甲斐は決然とマイクスタンドを持ち上げて、強く置き直す。怒っている のか?表情も不機嫌そうや。マイクスタンドを蹴り上げるが、あまり高くは廻らない。 コードに不具合でもあったのだろうか。でも、僕らは歓声をあげる。だって、充分 燃えてるねんから。 
 後奏。ステージはあまり暗くならない。甲斐の様子がしっかり見える。甲斐は ぐるぐるぐるぐると長い間マイクスタンドを廻し、片足を1歩引くようにして キャッチ。そして、そのまま頭の上でスタンドを横にぶん廻す。いいぞ!

 「やるよ、目一杯」 
 短い言葉やけど、この「目一杯」がうれしいのだ。声援で応える客席。甲斐は すぐに後ろへ下がり、次の曲が始まった。

 「電光石火BABY」 
 3番の前。CDなら女性コーラスが入るところを、松藤が低めにコーラスして る。 
 今日は「体震わせ」と歌ったように聴こえた。その後の「Hey」はやさしく。 ああ、Vol.3ツアー でもこんなふうに言ってたよなあ。

 「新曲をやるぜ」の言葉に拍手。 
 「FIGHT THE FUTURE」 
 ニューアルバム「アタタカイ・ハート」の1曲目だ。熱いサビを、甲斐は手の ひらをこちらに向けながら歌う。僕もともに歌う。甲斐の声はややかすれ、それでも あくまで強く歌って行く。甲斐の激しさを堪能できる新曲が生まれてきてることに 感謝。ライヴではさらに力強いねんから。 
 ラストはもう1度「FIGHT THE FUTURE」と歌い、 「ジャーーン!」と音がわき上がる。かっこよかったな。

 このツアーについてのMC。これも短かった。 
 「30周年・3時間・30曲」という声が、よろこびの歓声で聴こえづらく なる。 
 「最後まで目一杯楽しんで」

 「裏切りの街角」 
 イントロの2回目、蘭丸が少し低く弾いた気がした。 
 m.c.A・Tの手で生まれ変わった、トリビュートアルバムの「裏切りの 街角」を聴き込んだ後やから、通常のアレンジで聴くと、久しぶりの感覚。ゆっくりに なって終わっていくラストが、新鮮に感じられた。

 まず最初の音が長く響く。それに続く「ダンダンダンダンダンダンダンダン」と いうリズムに、僕は「おおーっ!」と声を出してしまった。客席のあちこちから歓声が あがり、それが増えていく。つまり、演奏もオーディエンスの反応も、 「BIG GIG」の通りだったのだ。 
 「東京の一夜」 
 僕が初めてツアーに参加した84年暮れには、 もうこの歌はうたわれていなかった。後にROCKUMENT IIIや ”My name is KAI”の アコースティックなど、何度か「東京の一夜」を聴くことができたけど、ここまで BIG GIGに近いヴァージョンは初めてやった。 
 感激したのは、それだけが理由じゃない。「口にーしたー」の後に入る音の やさしさ。BIG GIGと違った、オリジナル通りの歌詞。それに何といっても甲斐 の声とバンドの演奏が、「東京の一夜」の繊細な切なさと哀しみを伝えてきたから。 泣けないわけがない。 
 最後のサビの繰り返しに、松藤が「東京の一夜は」とかぶせ、甲斐がまた 「この街で過ごす一年のよう」とうたっていく。

 レコードに忠実なイントロだった。たまらず「大森ーっ!」「大森ーっ!」の声が 飛ぶ。演奏が激しくなっていく。けれど、その裏でオリジナルの素朴な音もちゃんと 奏でられている。甲斐がうたいはじめた。「ねえ、あなーた さみしいひとーねー」 
 「くだけたネオンサイン」 
 甲斐のうたう、大森さんの詞が沁みる。痛い。隠れた佳作という ふうに位置づけられてた曲やけど、こうして聴くとあらためてほんまに名曲やと思う。 
 甲斐は1番からもう「くだけたー ネオンサーイーンー」と後半を上げ気味に うたう。「ぼくーはー うたい続けるー」での歌声が、それにぴったり合った曲の展開 が、それに続く間奏が、さらに胸を締めつける。 
 「二人で買ってきたー」からの部分だけ、甲斐は低く重くうたった。 
 後奏。激しかったバンドの音が、オリジナルの静かさに帰っていく。 JAH-RAHが最後にシンバルを、なでるように静かに揺らした。 
 この曲、やってほしかってん。甲斐たちはもちろん、僕らにとっても特別な人 やったから。甲斐はオリジナルを活かしつつ、今の音で表現してくれた。大森さんへの 敬意と想いを込めて。ステージの上も客席の中も、同じ想いやったよ。 大森さんに届いたかな。

 この雰囲気のまま、大森さんのことを話すMCに入るか、もう1曲ゆかりの ナンバーをやるかとも少し思ったけど、ステージは次の歌へと進んでいく。 そうやんな。あえて触れないんじゃないかという気もしてた。いつも言ってるもんね。 その曲をやることそのものが、自分のメッセージだと。 
 水色の光。Vol.2ツアーヴァージョンの 「シーズン」。 
 別れを目前にしながらも、希望を探す歌だ。「くだけたネオンサイン」の次の曲 にふさわしいと感じた。

 きれいな前奏。緑のライト。シンセの声が曲名を歌ってる。前方の観客が後ろを 振り向いてるから、僕も振り返ってみた。光と影がたくさんの波形を描いていた。 そうそう、最近はこうやって客席までも利用したライティングがあるんや。二階席の オーディエンスも見える。開演前は死角になってたけど、今はみんな立っているから。 
 「ナイト ウェイヴ」 
 手拍子と大合唱。甲斐の「ウーウーウーウー」の声は、オリジナル通りでも、 PARTYのように短くもない。6割くらいの長さ。 
 甲斐が手拍子のアクションをしたから、「波に落ちてく」の ところも手拍子が続く。甲斐も強く歌っていく。 
 「ドラムス、JAH-RAH」という甲斐の声から、長い間奏に突入。甲斐は 左のソデへ姿を消す。JAH-RAHのドラムがすごい!ノリオのベース、前野選手 のキーボードと、ソロが移っていく。松藤は三つ並んだ平たいドラムを叩く。そして、 蘭丸が前へ。身体を傾け、激しく弾きまくる。 
 甲斐はステージに戻ってきたが、ラストのヴォーカルはなし。シンセの声が 「ナイトウェイヴ」と2回繰り返した。ニューアルバムの「ショック アブソーバー」 を連想した。

 「地下室のメロディー」 
 イントロで沸いた客席。まずは「タン タタン」の手拍子を始める。 
 蘭丸は変わったギターを奏でている。銀色で円いボディ。あれもシタールと言う のだろうか。 
 この曲も、JAH-RAHの間奏がいい。タイミングをつめ、オリジナルより ずっと多く叩くのだ。 
 甲斐は間奏では目を閉じて曲を聴き、アコースティックギターを縦に持って 奏でる。

 このイントロでさらに熱狂。やってくれるとは思ってたけど、ここで来るとは。 
 「港からやって来た女」 
 ほんまに盛りあがる曲や。今日はサビで蘭丸と一緒に歌うことはしない。 
 一転して3番の頭は静かになる。それでも手拍子は続く。甲斐は「オーレー はー」から再び強く歌い始める。これまでは「まだ待ってるのさ」からやったけど、 今夜は早かったのだ。 
 「フーッ!」は4回。これがやれてうれしい。 
 騒ぎながらも、弱った男の姿を書き切る強さ、を感じた。

 蘭丸の前奏に会場が聴き入る。 
 「嵐の季節」 
 僕はゆっくりと拳を突き上げる。2回に1回のタイミングで。今日は1回1回の 拳に、いっそう想いを込めたい気分やったから。 
 1番が終わると拍手が沸く。2番の詞がいつも以上に僕をとらえる。「その 気持ちが、お前の愛なんや」と感じる。 
 サビ。繰り返し。ありったけの声をあげ、拳を打つ。左手でも胸で拳を握り 締め。

 感動の拍手のなか、甲斐は「15分後に会おうぜ」と言って去って行った。 
 15分休憩というアナウンスも入る。もしかしたらとは思ってたけど、休憩 あってんな。初めての経験や。 
 それにしても、ここまで13曲、すごかったあ。まだ30曲の半分もいってない のに、盛りあがる曲をこんなに連発してくれるとは。周りのファンの顔も昂揚してる。

 白に着換えた甲斐が、左手から歩み出てくる。再び、拍手と「甲斐ーっ!」の声。 甲斐はアコースティックギターを受け取った。 
 「テレフォン ノイローゼ」 
 今日はオリジナルに近い歌い方。もちろん僕らもいっしょに歌い、コーラス する。いや、コーラスとは言えないほど大きな声で「テレフォン ノイローゼー アハ」。 
 間奏。ネックの端から端まで指を渡らせてから、あのフレーズへ。これ盛り あがるやんなあ。

 松藤と前野選手を呼び入れる。松藤が右、前野選手は左、甲斐も真ん中のイスに、 それぞれ座る。 
 今夜初めての本格的なMC。 
 オリンピックの話題。イメージの違う有名人と名前が1字違いの選手について。 選手の格言についても。 
 このツアーのリハーサルを山梨県のロフトでやったこと。そこは初めてカタカナ が使われた「南アルプス市」だったという。ここの中学校は略すと「みなアル中」だ と松藤が指摘した、リハ休憩中のエピソード。ようそんなん気づくわ。松藤やるな。

 「ビューティフル エネルギー」 
 松藤のアコースティックギターで”My name is KAI”のように。 今夜は前野選手のアコーディオンも加わって。 
 2番は松藤がうたい始めた。拍手が送られる。「ああ、ごらんよ」から、再び 甲斐のうたと2人のコーラス。繰り返しのないショートヴァージョンやった。甲斐が 「汗を流そうぜぇ」と語尾を響かせて曲をしめくくった。

 短い前奏で、甲斐がハーモニカを聴かせる。 
 「BLUE LETTER」 
 やっぱり甲斐の歌声は胸に刺さる。 
 後奏も短かった。「ブルー レター」の甲斐の声。

 3人はそのままで、後ろにノリオとJAH-RAHと蘭丸が戻る。 
 「3時間・30曲は・・・今日は「テレフォン」やっちまったから、31曲に なるんだけど」 
 そうやたんや!みんな大よろこびで拍手。 
 「大変なんだ。定刻通りやらなくちゃいけないだろ。あまりしゃべれないし」 
 今度は、甲斐のMCも聞きたいぞ、という拍手がわく。 
 「そう言ってるうちに早くやれと、バンドも会場もサンデーフォークも思って る。この感じがいい」

 「「安奈」をやるぜ」 
 甲斐の声を聴き、詞をかみしめる。そのときそのときで、沁みる場所はちがう のだ。 
 甲斐が手で示したから、「あんなーあ」と声をあわせる。ほかに客だけに うたわせる部分はつくらず、甲斐が最後までうたい終えた。

 前野選手も松藤も、拍手を浴びて後ろに戻っていった。 
 ピアノの音に歓声があがる。やってくれるとは。 Vol.1ツアーではアンコールで、長方形のパネルがあったなあ。 
 「最後の夜汽車」 
 「僕が寂しいって言ったら」からの詞が沁みる。その3番が終わって間奏に入る ところで、拍手が起きた。 
 ラストはサビを2度繰り返し。甲斐は1度目も少し上げてうたった。 「夜汽車がああー」とうたう声が、まさにこの歌にぴったりで、切なくて。

 「レイン」 
 初めて蘭丸とやった曲。今日はここで来たか。 
 拳で宙を叩く。30周年のツアーや、ファンのアクションもたっぷりあるのだ。

 「ジャーーーン!」といきなり最初の音が響く。KAI FIVEから進化した あのヴァージョンや!甲斐もギターを持ってる。バラードの静けさを一掃するのに 打ってつけの歌。これが後半盛りあがりの幕開けに違いない! 
 「幻惑されて」 
 揺れるオーディエンス。縦に、縦に。僕も身体を縦に揺さぶり、手を打って、 歌う。3番のギターとともに、腕を動かさずにはいられない。続いて襲ってくるサビ 前のリズムに、頭を振って身をゆだねる。「タブー」と歌った甲斐の声が響く。狂乱の 後奏へ。蘭丸がギュワギュワ言わせながら細かく弾きまくる。リズムがはじけ、甲斐が 腕を挙げる。その激しい波が繰り返す。短いフィニッシュが快感。

 続くイントロに「おおーっ!」と声をあげてしまった。 
 「三つ数えろ」 
 虚を突かれた。それがまた意外でうれしいねん。後半ラッシュでこの歌を聴く の、俺は初めてちゃうかなあ。 
 「ワン!ツー!スリー!」で手を挙げ、指を動かした。今までは拳を突き上げて たけど、今日はそうしたい気分やってん。周りにも、やってるファンが多かった。 
 甲斐はオリジナル通りに「いつも路上に」と歌った。「ファッションだけが」で タンクトップに触る。最後の「おっぱじめるさあーーっ」は高く張る。「ウフッフー」 のコーラスが降ってきて、さらに燃える。

 「氷のくちびる」 
 劇的な前奏は、ギターのみならず、JAH-RAHのシンバルの金属音が効いて る。静かに甲斐の歌に聴き入る前半、そしてドラムスから手拍子へ。 あの黄緑のライトが印象的。蘭丸のギターが攻めてる。尖ってる。 
 間奏。ステージ中央に赤と青の照明。左に立つ甲斐、赤に染まる。右に腰を 落とした蘭丸、青に映し出される。 
 甲斐が歌い出すと、松藤のたてぶえが聴こえてくる。 
 熱くも痛いサビの繰り返し。甲斐の声が最高や。後奏は 「アアア アアア アアア アアア アアア」を2回全部歌い切り、すぐに ファルセット。これもフルに。すごいすごいっ!めちゃめちゃ燃える! 
 ラストは「ダダダ ダダダ ダダダ ダダダ ダダダッダーーーン!」のビート に、蘭丸も同じ音をぶつける。ギターを左脚に何度も叩きつけるようにして。おおお! 
 ほんまに名演やった!これほどの「氷のくちびる」は、ちょっと思い出せない。

 「翼あるもの」 
 俺はもう声がかすれてる。もちろんそれでも手を打ち、歌う。甲斐といっしょ に。みんなとともに。 
 間奏。蘭丸が左前に出て来る。甲斐は右奥のキーボード台の上。飛び下りて前へ 走り出る。マイクスタンドが倒れるが、甲斐はすでにマイクを奪っていた。 「俺の海に翼広げ」と歌いながら左右へ動いていく。 
 ラストのポーズ。両手を広げ、それを組み、上へ長く伸ばす。演奏はゆっくり だ。甲斐の手を影が上る。最後まで上らないうちに、甲斐は手を下へ、身体を前に 折る。最後の音がわき上がる。甲斐は身体を起こし、宙を横殴りにしてフィニッシュ!

 間があってから、蘭丸ヴァージョンのイントロ。 
 「漂泊者(アウトロー)」 
 大きな色のかたまりが右へ走ってる。身体を揺すり、手を打って歌いながら甲斐 を見てるねんから、全体のライティングは視界に入らない。 
 「爆発!」で甲斐の腰の落とし方は浅めやった。 「愛をくれー」「誰か俺に」で客席にマイクを向ける甲斐。最後はやはり自分で、 「愛をくれ」と歌った。

 おお、やってくれた! 
 「冷血(コールド ブラッド)」 
 3番前の間奏で、白い光が斜めに回転する。ステージを、壁を、客席を、天井 を。それを左の客席で浴びる。肘を叩き下ろして、歌に向かう。 
 甲斐は後奏で、腕を手で払う動きを見せる。片方の腕ごとに、2回ずつ。それを 繰り返す。このアクションは初めて見た。何かを振り払おうとしているのだろう。 寒さか。どうしてもとれない血なのか。プロモーションビデオでボツになった案に、 甲斐に血の雨が降りかかるというのがあったはずで、それも思い出した。よくよく 考えたら、それは「フェアリー(完全犯罪)」のビデオやったか。この時はそこまで 思い至らなかった。

 「最後の曲になりました」 
 蘭丸のイントロで、さあ行くぞ! 
 「HERO」 
 「そーらはひび割れー」からが特にいい。その勢いのまま、甲斐はマイク スタンドを蹴って横廻し。その時、蘭丸が「ギャン!ギャン!ギャン!ギャン! ギャン!」と煽るのだ。甲斐が、蘭丸が、ノリオが、動き、歌い、弾き、マイクを客席 へ突き出す。 
 ここで本編、全26曲が終結

 激しく、間隔の短い手拍子。まとまった大きな手拍子になっても、間隔は短いまま 。みんな燃えてるのだ。甲斐コールも始まった。 
 長めのアンコールを経て、ステージに白い光が戻る。手を挙げて声援に応え ながら、メンバーが帰って来る。

 蘭丸とノリオが顔を見合わせて、イントロへ。途端に会場中すごい熱気!だって、 この曲やねんもん。 
 「ブライトン ロック」 
 甲斐が左手から走り出て来る。ステージ右へ行って、「イェー!」と叫ぶ。 真ん中の前で「今!」と歌い始める。 
 サビは手で下を指差すアクションだ。大きく、力強く。 
 一度アンコールのいちばん最後に聴いてみたいと思ってるねんけど、 「ブライトン ロック」をアンコールで聴くこと自体俺は初めて。やっぱり最高や。 
 「ブライトン ロック、答はどこだ」を4回とも全部歌う甲斐。これでますます 燃えてしまう。

 「風の中の火のように」 
 最初からずっと激しい演奏だ。甲斐もアコースティックギターを弾いている。 
 「そんなとき君の名を呼ーぶー」 
 蘭丸がサビで歌と同じメロディーを弾く。それも あくまで激しく。

 「メンバーの紹介を」 
 「ドラムス、JAH-RAH!」 今日も激しく叩きまくってくれてる。 シンバルも印象的やった。 
 「キーボード、前野知常!」 席からいちばん遠かったからか、いつもよりは キーボードの音が目立ってないように感じた。でも、もちろん好きや。アコーディオン もうれしい。 
 「もう一人、松藤英男!」 キーボードだけじゃなく、ギターにパーカッション も叩く。松藤がスティック持ってるだけでも、うれしくなってしまう。曲の終わりを、 いろんなパーカッションで味つけしてたな。茶髪の髪は短いが、甲斐バンド後期よりは 長め。 
 「ベースギター、坂井紀雄!」 よく動いてる。甲斐と顔を見合わせたり、甲斐 がノリオのそばに行くことも多かったな。ステージ左前で弾く蘭丸の元へ、甲斐が ノリオを引き連れて来て3人並んだのは、名場面やった。左の甲斐は両手を頭の後ろで 組んで、身体でリズムを取る。真ん中の蘭丸と右のノリオは、身体を合わせての プレイ。 
 「リードギター土屋公平!」 大きな帽子とサングラス。今日は声援にピース サインで応える。左の席でスピーカー正面だったからか、ギターがよく聴こえて めちゃめちゃいい!

 30曲がクセになりそう、というところからMC。 
 「これ以上にならないようにしないと」なんて言ってみせる。 
 それを聞いたノリオと松藤が、顔を見合わせてほほえんでる。30曲以上になり そうなんかな?毎年1曲ずつ増やしていくのもええやん。聴きたい歌ばっかりやねん から。俺は何十曲でも大歓迎や。

 「大黒摩季はまるで自分の歌のようにのびのびと「HERO」を歌ってて」と、 トリビュートアルバム「グッドフェローズ」について。 
 「DA PUMPや、Don Doko Donのぐっさん。 高橋克典くん。ハウンドドッグ」参加メンバーの名前を挙げる。 
 「役者の藤原竜也と飲んだ時に、「ぐっさん好きって、ヤバいっすよ」って 言われた」と笑う。甲斐と藤原竜也の関係は、パンフレットを読めばわかるように なっていた。 
 続いて、最新オリジナルアルバム「アタタカイ・ハート」を出したと告げる。 
 「この30周年のツアーは東京から始まって、福岡で一旦終わる。その後に 日本武道館。 これは、トリビュートのメンバーもゲストで出てくれて。そこまで堪能 してほしい」 
 30周年イベントの武道館、めっちゃ楽しみ。ゲストがあるとは初めて知った。 それも、けっこう多そうやな。 
 「最後のあの長いソロは、誰が弾くんだろう・・・田中一郎になるでしょう」 
 !これは、武道館のアンコールの最後で「100万$ナイト」をやるってこと なんちゃうん!大森さんに捧げるんやろうなあ。絶対見たい。もちろん、チケットは すでに予約してある。

 「「観覧車」をやるぜ」 
 ステージ奥から虹色の光が射す。ここはやっぱりこの歌やんな。 
 間奏の音が分厚いねん、このバンド。素晴らしい。甲斐は両手をあげ、軽やかに まわる。左前へ進む。 
 後奏。「ウォーオオオー」の叫びは、今日は少なめ。甲斐は右へ行き、 オーディエンスに挨拶をする。これ、好きやねん。次は真ん中へ。それから、手を 挙げて、去って行った。

 虹色の照明が放たれたままだ。アンコールを求める者たちに向かって。左から、 桃、赤、橙、黄、緑、青、紫。七色の大きな円がそれぞれ2つずつ。 
 見上げると、客席の空中に虹がのびている。それがやがてぼやけ、二階席の方は オレンジっぽく染まっている。 
 手拍子は早めに大きなゆったりとしたものになる。甲斐コールが叫ばれる。

 リズムを刻む音。三度登場したメンバーが奏ではじめる。甲斐はステージ後ろから 現れた。緑色のタンクトップ。黒のパンツは灰色がかって見える。 
 「ラヴ マイナス ゼロ」 
 俺は揺れながらステージを見る。今日は手拍子してもいい感じに聴こえる。 前野選手のサックスの音色が、こちらに届いてくる。 
 今回はないかなと思ってたけど、演奏は静まった。 
 「サンキュー30周年。じゃあね、また」 
 拍手が起こり、音楽が高まってゆく。

 フィナーレを感じさせる盛りあがりやけど、31曲ならもう1曲歌ってくれる はずや。 
 暗転のなか、きれいなメロディーが流れてきた。スタッフの影がマイクスタンド を並べてる。そうか、「PARTY」やもんね。 
 「破れたハートを売り物に」 
 4本のマイクスタンド。甲斐は左から2番目。甲斐の右が松藤。いちばん右が ノリオ。左端には2人が立っている。スタンドをはさんで右に前野選手、左に蘭丸だ。 JAH-RAHはドラムスのところにいる。 
 1番は甲斐と松藤のハーモニー。2番に入ると、甲斐と前野選手に代わる。 「お前とゆきたい」から、松藤も加わった。 
 蘭丸が後ろへ下がり、ギターをとどろかせる。その蘭丸を前野選手が呼び入れ て、また5人の合唱だ。いや、ちがった。5人と観客全部の合唱や。楽器を手にした JAH-RAHも立ち上がってる。みんなで歌ってるんや。

 このところ定番だった、全員が肩を組んでのおじぎはなし。メンバーそれぞれが オーディエンスに応える。甲斐は前に出て、拍手と声援に何度も応えてくれた。

 甲斐のいなくなったステージに、XXXのライトが赤く残っている。今夜何度も その光で興奮させてくれた。 
 流れる音楽は、ニューアルバムから「かけがえのないもの#2」。僕は席に 座り、天井を仰いで余韻にひたった。

 甲斐ライヴの醍醐味連発やったなあ。「肉体の裏付けがあるカタルシスってものを ちゃんと見せていく」って言うてたけど、まさにその通りやった。俺らは何度拳を 挙げ、叫び、飛び跳ねたことか。充実感でいっぱいや。 
 思った以上に「30周年のスペシャル」を感じさせるステージでもあったな。 
 トリビュートアルバムを聴いてたおかげで、アレンジに敏感に聴くことがで きた。これは意外な収穫。 
 定番曲+新曲+めったにやらないそのツアーのスペシャル曲という布陣は 鉄壁や。初めて見に行った甲斐バンド時代からずっと続く名ライヴ。 これぞ甲斐!

 甲斐の激しい歌い方を堪能した。ニューアルバムにはあたたかい曲も多かった けど、ライヴは激しいやろうなと予想はしてた。けれど、ここまで激しく来るとは。 
 後奏で何度もこだまする甲斐の声。 
 間奏で気配を消す甲斐。でも見てしまう。 
 2番への入り際、甲斐の顔に右から青いライトがぽつぽつと当たる曲があった なあ。 
 たっぷり30曲のボリューム。それでいて、名曲が続々と歌われていくスピード 感もすごい。 
 これほどのステージを見ることができたしあわせ。大阪と武道館でも見ることが できるよろこび。心の底から涌いてくる満足感が身体の隅々にまで行き渡っていく。

 

 

2004年9月20日 愛知厚生年金会館

 

ポップコーンをほおばって 
きんぽうげ 
ダイナマイトが150屯 
電光石火BABY 
FIGHT THE FUTURE 
裏切りの街角 
東京の一夜 
くだけたネオンサイン 
シーズン 
ナイト ウェイヴ 
地下室のメロディー 
港からやって来た女 
嵐の季節

 

テレフォン ノイローゼ 
ビューティフル エネルギー 
BLUE LETTER 
安奈 
最後の夜汽車 
レイン 
幻惑されて 
三つ数えろ 
氷のくちびる 
翼あるもの 
漂泊者(アウトロー) 
冷血(コールド ブラッド) 
HERO

 

ブライトン ロック 
風の中の火のように 
観覧車’82

 

ラヴ マイナス ゼロ 
破れたハートを売り物に

甲斐よしひろ Series of Dreams Tour Vol.3(1987-2003)

2004年1月9日(金) NHK大阪ホール

 仕事は休んだ。今日くらい休んでも、文句言わせへんのだ。開場時間前から、 NHK大阪ホール1階の、エスカレーター前に並ぶ。こうやって待ってる時間も楽しい ものだ。甲斐のツアーに通い始めた、高校生の頃が思い出される。

 自分の時計で6時28分開場。予定より早いとは。 
 場内に入ると、まずはロビー角のグッズ売り場へ。おなじみになってきたCD カード式パンフと、カレンダー、ストラップ、Tシャツを買う。Tシャツは黒で、胸に 水色と白の三重円。円の端には、1979・1986・2003という数字が入ってい る。つまり、このSeries of Dreams Tourを表しているわけだ。 背中にはVol.3のツアー日程がプリントしてある。このTシャツ、かなり気に 入った。そういえば、1984年に初めて買ったグッズがパンフとトレーナーで、その トレーナーにも 「BEATNIK TOUR ’84 FINAL」の日程がデザインされて いた。

 混み合うグッズ売り場を抜け出し、客席へと入って行く。今日の席は前のブロック ではないが、ほぼど真ん中や。 
 BGMは洋楽。「ウィークエンダー」でかかってた「チャッチャラッチャ ラッチャー」の音もある。 
 開演が近づいてくる。オープニングBGMにも興味津々や。 Vol.1がサッカー、 Vol.2が野球・バスケときて、今度は何の スポーツの音楽なのか。 
 大きな音で響きはじめたのは、低い音。これって、もしかしてブッチャーの テーマ曲じゃないのか。「吹けよ風、呼べよ嵐」。プロレスできたかあ。甲斐らしい で。

 手拍子のなか、メンバーがステージへ。ノリオ、蘭丸、前野選手、JAH-RAH 。いつもの最強メンバーや。 
 「吹けよ風、呼べよ嵐」がすんなり止まる。そのまますっと演奏が始まった。 
 明るい金属音が印象的。おお、やっぱりこの曲で来たか!手拍子。ビート。 そして、甲斐が走って来る。 
 「電光石火BABY」 
 甲斐は明るい青のジャケット。中は黒で、胸に銀のファスナー。黒のレザー パンツ。サングラス。 
 めずらしく1曲目予想が当たった。このシリーズでは、区切られた年代の初期を 代表するオープニングナンバーが、最初に歌われてきた。1987年からのVol.3 では、「電光石火BABY」やんなあ! 
 甲斐といっしょに、いや、思わずコーラス部分まで歌ってしまう。そうせずには いられない。 
 最後の繰り返しが4回で終わらない。JAH-RAHがさらに激しくドラムを 叩く。甲斐は「ベベベベイベー」をやったり、「電光石火ベイベー」と歌ったり。 右肘で宙を打ち、そのまま身体を回転させて、フィニッシュ!

 間髪入れず、あのビート。「タン!タン!タ!タ!タン!」の手拍子。 
 「レディ イヴ」 
 これはやるよなあ。20世紀末のツアーに欠かせなかった歌。イントロから 盛りあがる曲やし、最初のMCまでにやると予想してたが、2曲目に来たか。客席 みんなよろこんでるぞ。 
 「弾けて割れた」から照明が落ち、甲斐だけに白いスポットが当たる。 もちろんあの手拍子もありや。

 「サンキュー!」が今夜の第一声。 
 「Series of Dreams Tour Vol.3。KAI  FIVEと、僕のソロを中心に、ということになります」

 静かな曲調。早くもバラードか。「ウィークエンド ララバイ」やと思った。 
 「さあ おーどーりまーしょ」 
 しかし、甲斐はそううたい始めた。沸き起こる歓声。 
 「ハートをRock」 
 まさかやるとは思ってなかった。第一期ソロ前半のツアーがよみがえる。 
 甲斐は最初の「ステップで」を低めにうたう。やがて華やかなビート。手拍子。 さあ、行こう。 
 大盛りあがり大会や。甲斐は曲の中を泳ぐようにタイミングを変えて歌って いく。「辞書がなきゃ デイトもできない」と、オリジナル通りの詞で歌う。かつては 「会話もできない」と歌ってた。間奏に入り際、「カモン、SAX」と声をあげる。 前野選手がPARTNER TOURの「ランデヴー」でも見せた、サックスを奏でて いる。ああ、楽しい。甲斐が「わたしの心のこのドラム」で、右手で自分の胸を指す。 「ビートがなければつまらない」といっしょに歌いながら、僕の頬はしぜんとゆるんで しまう。 
 曲が終わる時の甲斐は、両の拳を上に向かって交互に3連打。

 「もうひとつ、盛りあげようかな」 
 甲斐がマイクスタンドに近づいて、そう言った。客席が歓声と拍手で応える。 
 衝撃的なギターのイントロ。これも第二期ソロの中心ナンバー。 
 「渇いた街」 
 甲斐もアコギを弾きながら。サングラスは外していた。 
 飛天以来の「渇いた街」。あの日は「ダニー ボーイに耳をふさいで」とのメドレーだったが、今夜はもちろんフルに歌ってくれる。 久々に聴いたという感じはしない。身体に沁みついているというか。何度も経験して きた曲なのだ。 
 ラストはイントロの音が再度演奏される。その分後奏がコンパクトになった ようだ。これが2004年、Series of Dreams Tour  Vol.3の「渇いた街」。

 いきなり耳をひきつけるイントロが続く。サイレンを思わせるあの音。 
 「風吹く街角」 
 これも久々とは思えない。1995年秋、コンベンションライヴで新曲として 披露された時の、星の照明。翌年2月のWelcome  to the ”GUTS FOR LOVE” Tour。3月の ALTERNATIVE STAR SET  ”GUTS”。さらにはGUY BAND。 いつの時もこの曲があった。 
 甲斐は「何にも起こらない」の後、間を空けて「こーのまーちかーらー」と 歌う。今まで通り「この まーちかーどかーらー」と歌った僕は、甲斐が声を出して ないところで「この」と言う形になってしまった。甲斐は2番以降もそう歌った。 「街角」という言葉を口にするのは、サビの最初の部分だけになる。今回からのニュー ヴァージョンらしい。同じ曲でも、その時々の歌い方、甲斐の衝動というものがある のだ。 
 後奏も初めて聴くショートヴァージョン。「ローーンリネス」が2回やった。 最後にメロディーを変えるのもなし。

 最新のカヴァーアルバムに関するMC。 
 アルバムタイトルを「続・翼あるもの」や「新・翼あるもの」とする案もあった らしい。「一つちょっと惹かれた」のが、「帰って来た翼あるもの」という松藤案。 でも、思いとどまって「翼あるもの2」になった。「いろいろ考えたのに、結局まるで 何も考えてないようなタイトルになった」 
 「ここからは、買ってない人はちょっと地獄」と笑う。 
 「ニューアルバムを出しといて、その曲をやらないのは人としてどうか」と 思いを述べてから、いざ、「翼あるもの2」収録のカヴァー曲へ。

 「沖縄ベイ・ブルース」 
 今度は白いエレキギターに持ち変えた甲斐。再びサングラスをかけている。女性 が主人公の歌を歌う時は、サングラスをかけることが多い気がする。かつて 「ハートをRock」では、バンド全員がサングラス姿やった。あの印象が強くて、 そう思うだけなのかもしれないが。 
 甲斐は汗ばんだ髪を耳にかけている。悲しい歌詞やのに、音は楽しくて、揺れ ながら聴いていた。

 「満州娘」 
 なんとなくライヴではやりにくいかもと思っていた、女性の歌が続く。甲斐には いつも驚かされるな。 
 「は ずか しいやあら」と間を取って歌う。高らかな「は」の響きに引き 込まれる。 
 甲斐のお母さんの思い出の歌や。その想いのために、このツアーで歌いたかった のだろうか。いや、違うかもしれない。ファンの感傷とは別に、間奏の甲斐はにこやか だ。とにかく今の気持ちで、最高の演奏するだけやんな。

 妖しい色の光。打ち込みの音。m.c.A・T、富樫明生の音だ。 
 「「祭りばやしが聞こえる」のテーマ」 
 ギターを置いた甲斐。マイクスタンドを廻し、引き寄せ、ステージをゆっくり 歩いて、歌い上げていく。 
 ライヴヴァージョンに生まれ変わっているラスト。曲が果てると、メンバーが ステージを去っていく。

 アコースティックギター。そして、アコーディオン。 
 「八月の濡れた砂」 
 3人がイスに座っている。真ん中に甲斐。左にアコーディオンの前野選手。 右がギターの松藤。松藤はいつの間にか、「翼あるもの2」の曲のどこかで、 キーボードに加わっていた。 
 アコーディオンとギターの描き出す音色に、甲斐の声。この「八月の濡れた砂」 は絶品!必ずやってくれるはずやと期待していた。聴けてほんまにうれしい。 
 サンストで竹田かほりがゲストで来た時、この曲をかけてたな。松藤もいて、 甲斐が「ここにいる人はみんなこの歌好きです」って言うてたっけ。

 MCの途中で、甲斐が客を座らせる。立ってるのがメインじゃなくて、MC聞くの がメインだろう、と。 
 ALTERNATIVE STAR SET  ”GUTS”の四国を思い出すなあ。 
 立ちたい人は立ったままで、というので、客席にはところどころ立ってる人たち もいる。自分の後ろの人たちが座ってたので、僕は座ることにした。

 「ミュージックフェア」に出たときの話。「あんたのバラード」と書いてあるの を、知り合いが「安奈のバラード」と見間違えたという。 
 あゆの番組のことなど。若井はんじ・けんじの名前まで飛び出して。

 昨年末の秋田ライヴ。 
 「雪がこんなに」と身ぶりで示してから、自分の説明に、「って、小学生か」 
 「秋田なんて十数年振り。俺にとっては戦前の出来事みたい。阪神の優勝みたい に・・・スイマセン」 
 大阪ではきっと、阪神優勝の話題があると思ってた。85年暮れのライヴでも、 「街が元気でいいね」と言ってたし。

 「そして僕は途方に暮れる」 
 座って聴いている。ひたすら甲斐の声に溶け込んでいく。 
 間奏の「フーウウ」という声は1度だけ。そのまま演奏に聴き入って、甲斐は 次の詞まで声を発さない。いちばん痛いと言っていた、 「君の選んだことだから・・・」まで。

 再びMC。 
 「昨日はマジメに大阪へ前乗りして、プールで泳いでた」 
 でも、夜は新地で飲むことに。くじら鍋にヒレ酒で崩壊した一夜。 
 「ファンです」というホステスがいたが、「明日からハワイ」と言ったとか。 
 「どこがファンなんだよ。来いよ、コンサートに」と言いつつ、いいキャラ だったと笑う。 
 その後の話で甲斐が「(俺たちは)酔っぱらいじゃないんだから」と口にする と、松藤がすかさず「酔っぱらいだ」

 「髪が暴発してる」と、甲斐が前野選手をいじる。 
 「この頃、前野をいじってると、松藤がいじけるんだよね」 
 いつもながら、メンバーめちゃめちゃ仲良さそう。

 「安奈」 
 アコギとアコーディオンの静かな「安奈」。この形、実は久し振りだ。「安奈」 はVol.1から通して歌われているが、すべてアレンジが違う。Vol.2はレゲエ ヴァージョンやったしなあ。 
 静かに堪能していた「安奈」。サビ前で甲斐が手を振って合図する。それで みんなも「あんなー」と声を合わせる。

 前野選手と松藤を拍手で送り出す。 
 甲斐一人、アコースティックギターでうたってくれるんや。 
 今年福岡で行われる国民文化祭について。そのテーマ曲を甲斐が作曲・ プロデュースして、氷川きよしが歌うのだ。氷川きよしKIYOSHI名義で ポップスも歌っているそうで、その路線で行こうとしたけど、出来あがってきた詞は 股旅物だったという。 
 また、この仕事をするとTVで流れてから、街のおばさんたちが愛想いい、 とも。 
 「「氷川クンの味方だ」と思われてるらしい」 
 あゆのTVに出た後は、10代から声かけられることが多くて、 
 「「ヨシヒロー」って。うるせえ。今の10代、全部下の名前だからな」 
 と笑った。

 そんないくつかのジョークの後やったから、甲斐が「その曲をサクッとやろう かな」と言ったときも、ほんとかどうかわからなかった。 
 ファンの反応が遅れると、「あんまり聴きたくなさそうだね」 
 すぐにみんなの拍手が増える。新曲やってくれるんや。

 甲斐がギターをかき鳴らす。ストレートでスケールを感じさせる曲調。王道の ロックという手ざわり。 
 詞もいいやん。こんな時代やけど、みんな元気出して行こうぜ、と呼びかける 内容。 
 「あーーらしのー うみーをーっ」からの力強いサビもいい。 
 と、2番のサビ後からメロディーが変わる。そのまま「THANK YOU」が うたわれ出す。 
 「THANK YOU」は第一期ソロの作品中、特によくうたわれる歌や。今回 やるとしたらレゲエ風でかと思っててんけど、アコースティックやったか。それも、 予測できないタイミングでのメドレーとは。これは急遽曲を変更したのか、それとも 計画通りなのか。 
 1番をうたい終えると「ブルーウィンドウ」に入る、ショートヴァージョン。 その部分になると、メンバーがステージに帰って来る。この「THANK YOU」 で、アコースティックコーナーは幕を下ろすのだ。

 ステージのイスが片付けられる。僕らオーディエンスもまた立ち上がる。 
 僕は心の中で「幻惑されて」のイントロに備えていた。バラードから一転、 後半盛りあがりの先鞭を告げるのは、あの曲やろうと予想していた。だって、ぴったり やん。 
 しかし、暗転したステージから聴こえてきたのは、意外にも・・・ 
 「オーイェー オーイェー Love is No.1」のコーラス。 
 白い照明。そこにカラフルな灯たち。一気にビートの渦の中へ。この歌やって くれるんや! 
 ギターを弾いて歌う甲斐。この曲は久々感あるな。手を打ち、「オーイェー!  オーイェー!」と叫び、息をつがずに「カモンカモンカモンカモン」と歌い続ける。 叫びも歌もラップも全力で。またこれを体験できてうれしい。 
 ビートがどんどん強まっていく。絶頂に達したところで、曲が果てる。

 グーーーンとわきあがってくる音。思わず「おーーーーっ!」って叫んでもうた。 まさかやってくれるとは。「ドン!ドン!ダン!」のドラムの響き。 
 「激愛(パッション)」 
 FIVEのツアーでは1曲目に歌われたこともある。そうか、今日もFIVEの 曲の中では1曲目やねんな。 
 「ウォーオーオオオオウォーオオ! ウォーオオ! ウォーオオ!」俺ら、 渾身の力で吼えるのだ。 
 2番の最後に「ウォオーっ」と叫んだ、甲斐の動きに注目する。FIVE時代は ここからリズムに身を委ねて、上体を反らし頭を大きく前後に揺さぶるアクションを していたのだ。今夜はまず正面を向いてその動きをする。それからさらに、FIVEの 時のように横を向いてのアクションだ。こちらも身体を揺らさずにはいられない。 
 まだまだ続きそうに思っていた後奏が、3連打の最後の音を伸ばして終局に 向かう。

 次は「絶対・愛」か。「激愛(パッション)」の後に続けてやるのが、FIVE ツアーの定番やった。「激愛(パッション)」で吼えた直後だと、自分が出せると 思った以上にデカい声で「ウォウウォウウォー」と叫べてしまう。その頃よく遭遇し た、不思議な感覚。 
 けれど、始まったのは「絶対・愛」ではなかった。蘭丸のギターがいきなり 直撃!光が左右にふたつずつ、緑や紫に妖しく色を変えながらまわっている。甲斐が ギターを持っている。さらに蘭丸の音が一閃、バンド全体が激しくうねり出す。俺たち はそれを受けとめ、手を打つ、身体を縦に揺さぶる。 
 「幻惑されて」 
 さっきまで予測してた時じゃなく、今きたか。それも、ドラムだけがビートを 刻む序章なく。この前奏から一気に場内の熱狂が増す。「vの字」や「X」で挑発する ような甲斐のヴォーカル。サビの前、甲斐がワンフレーズ歌う度にうなるギターが たまらない。炸裂する間奏。気を持たせるように一旦音を鎮めてから、さらなる激しい 嵐へ突っ込んでいく。三度甲斐が歌う。裏でギターが襲いかかる。たくましくも妖しく 跳ねる後奏は、激しく絶えてはまた寄せてくる。甲斐が絶妙のタイミングで左腕を 振り上げる。最後は音を伸ばさず、バンドとオーディエンスの昂ぶりをぶつけるように 短く果てた。

 すぐに前奏。キーボードの二人が頭上で手拍子している。いつもより速いテンポ や。俺たちも手拍子し、声を限りに「ウォウウォウウォウウォウ ウォウウォウウォウウォウウォーーっ!」と叫ぶ。マイクスタンドが蹴り上げられる。 歓喜の声がはじける。 
 「絶対・愛」 
 オーディエンスが「HEY!」と拳をあげる時、甲斐も拳を突きあげる。遠投を するように、勢いをつけて大きく。 
 ステージを動く甲斐。間奏の最後でマイクスタンドを置き直し、マイクを刺した 瞬間、それを蹴り廻した。 
 甲斐とみんなの、歌と叫び。拳と手拍子。あくまで攻撃的なバンド。誰しもが 燃えているのだ。「絶対 あーい!」「絶対 あーああい!」の後奏繰り返し。甲斐は 三度目を「絶対愛さ」とは歌わない。全て「さ」なしで歌う。これが今夜のオリジナル ヴァージョン。ライヴは毎回違うもんなのだ。

 音が放たれる。ここで歌われるべき歌。 
 「風の中の火のように」 
 最初から力強い演奏。甲斐の声も強く。間奏での「ウォーイェーー」の叫びも ある。 
 真っ赤に燃える照明。かつてバックで炎が揺れていることもあったが、 今夜は光だけで火を表現している。

 きれいな前奏。光と影がつくり出す何本かの細長い帯。それがステージの左右に それぞれ映り、大きなストライプの長方形を描いている。ゆっくりと回転すると、 傾いた平行四辺形になる。翼のようだ。「最後の曲になります」甲斐がそう告げる。 
 「レイン」 
 ずっと聴こえているキーボードが印象的だ。雨の中に光が射すような。 二人の道を照らしてくれるような。そこへ蘭丸のギター。JAH-RAHが刻んで いる。ノリオのベースがうねる。そして、甲斐の声だ。

 歓声を受けて甲斐たちが去る。 
 手拍子。口ぐちに、思い思いの「甲斐ーっ!」の声。手拍子。僕も何度も 叫んだ。

 白いライトがあふれる。アンコールの始まりや。 
 前奏と手拍子の中へ、甲斐が走って来る。鮮やかなブルーのTシャツ。 
 Vol.2ではどの曲か気づかなかったが、今回はすぐにわかる。最初から拳 あげて歌えるぞ。 
 「HERO」 
 1番の出だし、甲斐がオリジナルのタイミングで「生きるってことは」って歌い 出しそうになる。ギターを待って、あらためて歌い始める。 
 会場中が歌い、手を打ち、拳をあげている。甲斐は歌いながら動く、動く。左へ 行くと、蘭丸に「前へ出ろよ」と顔で促す。甲斐はそのまま身体を回転、振り返ると 笑顔やった。間奏でキーボードの台に上る。ドラムスの台に移る。前へ出て来る。俺、 心の底から楽しいよ。音楽に理屈なんていらないと感じる。こんなに気持ちいいねん から、これが正解なのだ。

 メンバー紹介。 
 アコースティックのところで既に紹介された前野選手と松藤は、いっしょに 「ザ・キーボーダーズ」と呼ばれる。

 「キュルルルルル!」細かく速い最初のビート。「おおおーっ!」思いっきり叫ん でしまう。これ、めちゃめちゃ聴きたかってん!イントロで燃えまくる。 
 「ラヴ ジャック」 
 全編にわたるサックスの音を聴け!FIVE後期のミニ編成デジホヴァージョン もよかったけど、今日この熱気はものすごいぞ。ノリオの満足気な口元が、 「どうだ!」っていうメンバーの気持ちを表してる。 
 フルバンドの「ラヴ ジャック」は一体いつ以来になるのか。今回やってほし かったけど、もうアンコールで無理かと思ってたよ。ほんまにほんまに、うれしい! Vol.1に「メモリー グラス」があり、Vol.2に「暁の終列車」があったなら ば、俺にとってVol.3は「ラヴ ジャック」をやったツアーや。 
 熱狂を照らし出すライトは、ピンクに赤に紫。蘭丸に黄色のスポットが浴びせ られたりする。歌い終えた甲斐は、アルバムと同じタイミングで「ラヴ ジャーック」 の囁き。そして、吐息。曲のフィニッシュは、あのFIVEライヴヴァージョン。 これ、好きやねん。ビート4連打による終幕。最後の2つで左右の拳を突き上げた。

 ドラム。バックで白い光が明滅する。 
 「イエロー キャブ」 
 甲斐は銀のロングジャケットを着ている。マイクスタンドの前に立ち、うたって いく。 
 後ろの灯は赤、黄、白、青。時折、車が通り過ぎるようにライトが左右に 振られていく。その光がやや遅れて壁にも映し出される。 
 間奏。甲斐は後ろを向き、「ターララー」と伸びる音を自らの身体の中から 絞り出すように、力を込めて腕を振る。横ざまに。繰り返し。指を曲げた掌を宙にぶつ ける。 
 この歌は、甲斐よしひろハードボイルドの一つの頂点を成す作品だと思って いる。世間の古く偏ったイメージの中にある、超人のような男の物語ではなく。 生身の男を描いた、ネオハードボイルド。すごい。生きているなら、こういう作品を 浴びていないと嘘だ。人を励ますのは、メッセージソングだけじゃないんだ。

 二度目のアンコールは、「イエロー キャブ」の余韻でしっとりと。

 メンバーのコーラスが、曲名を告げる。 
 「ミッドナイト プラス ワン」 
 いつもより長めの前奏で、甲斐が真ん中の後ろから歩いて来る。 黒いジャケット。中に黒のツアーT。 
 第一期ソロの歌はここまで、「ストレート ライフ」を代表する3曲と 「サンキュー」以外うたわれていなかった。ここに入れててんな。気持ちが弱ってる ときに聴くとやばいバラード。

 「今夜は来てくれて、たいへん感謝してる。サンキュー。サンキュー」 
 「今年はオリジナルアルバムが出て、華々しくツアーに出るでしょう。8月の 終わりくらいに。30周年なんやらかんやら」 
 「今夜はほんとうにサンキュー。最後の曲になりました」

 バラードの雰囲気が漂っている。甲斐がマイクスタンドを蹴り、廻す。 
 「嵐の明日」 
 マイクスタンドを持ち上げ、傾けてうたう甲斐。一度だけ大きくスタンドを 振って、最初に廻したときに絡んだコードを払った。 
 壮大で劇的なバラード。強い決意をにじませる詞。甲斐の声。それらと一体に なった激しい演奏。最後はどの曲かいろいろ考えてたけど、今となってはこの曲こそ いちばんふさわしいんやと感じる。俺らには「嵐の明日」があるやんけ。あらためて この歌の力を思い知らされる。蘭丸のギターが響く。甲斐が声をあげている。

 メンバー全員が前へ。横一列になっての挨拶。左から蘭丸、甲斐、JAH-RAH の並びになり、JAH-RAHが「オレがこんな真ん中でいいんすか」って感じで ちょっと恐縮。他のメンバーが「いいんだ、いいんだ」とそのままの場所にいさせる。 
 全員でのお辞儀が終わり、メンバーが右手へ去っても、甲斐は残ってくれる。 今夜もしっかりファンの声援に応えてくれる。「甲斐ーっ!」「甲斐ーっ!」の声が やまない。もちろん僕も叫んでる。 
 やがて甲斐も行く。いつものように左手へ行きかけてから、方向転換。照れた ようなやんちゃな笑顔で右手へ消えた。

 今日はシングル曲が多かったな。「翼あるもの2」からの曲をのぞくと、かなりの 割合になるのでは。FIVEのシングルは全部聴けたわけやし、第二期ソロのシングル もたくさん歌ってくれた。 
 年代別のSeries of Dreams Tourが終わったら、シングル をテーマにしたライヴもいいかもしれんな。A面・タイトル曲を集めたステージを やり、AGAINではB面・カップリング曲をやるのだ。

 それにしても、甲斐のライヴは沁みる。去年は後半仕事がんばったけど、それ ばっかりじゃつまらな過ぎた。こういう楽しみを感じていかないと。好きなことやら な。自分の人生や。 
 今日の甲斐は、腕を伸ばして客席後方を指差すアクションが目立った。希望を 感じたな。 
 甲斐、俺はこれからも楽しんで生きて行くで。まだまだふけ込んだりせえへん からな。

 

 

2004年1月9日 NHK大阪ホール

 

電光石火BABY 
レディ イヴ 
ハートをRock 
渇いた街 
風吹く街角 
沖縄ベイ・ブルース 
満州娘 
「祭りばやしが聞こえる」のテーマ 
八月の濡れた砂 
そして僕は途方に暮れる 
安奈 
人生号 JINSEI-GO! 
~THANK YOU 
Love is No.1 
激愛(パッション) 
幻惑されて 
絶対・愛 
風の中の火のように 
レイン

 

HERO 
ラヴ ジャック 
イエロー キャブ

 

ミッドナイト プラス ワン 
嵐の明日