CRY

Twitterには長いやつ

甲斐よしひろ BEAT VISION

2004年11月7日(日) 品川プリンスホテル クラブex

 

 武道館の一夜が明けた。何とか昼前に起きて、 飛天以来の品川へ。懐かしの坂をもう一度上ることに なるのかと思っていたが、また別の方だと甲斐友が教えてくれた。込み入った道を縫って、 たどり着いたのは品川プリンスホテルのエグゼクティブタワー。 
 そういえば、ここにはシネコンがあると聞いたことがあったな。タワーに入って から思い出した。 
 建物内の掲示板。3Fのところに、我らが甲斐よしひろファンクラブ「BEAT  VISION」の名前がある。今日はBEAT VISIONのイベントなのだ。 こういうことは、かなりめずらしい。ライヴではない会員限定イベントは初めてだろう。 2時からの回と4時からの回があって、僕は早い方に当たった。1時半に開場だ。

 3階に上がると、会場入口前から列が長ーく伸びていた。最後尾は廊下を突き 当たったまだ先、建物の外の坂にあった。ぐるっと曲がりながら下る傾斜の途中に並ぶ。 
 1時半を過ぎても開場されない。僕の後ろの列は坂を下りきり、また別の場所にも 長い列がつくられた。待ってる間に、ヤクルトのバスが続々と到着する。さっきの掲示板 に「5F ヤクルト関東大会」って表示されてたな。

 1時55分頃開場。入口で正装したボーイさんに迎えられる。なんかすごく豪華な 感じのとこやな。左にカーブした通路を行く。どうやら円形のホールの外側をまわって いるらしい。途中にバーカウンターがあったりもする。カーブの内側の壁にところどころ 扉があって、係員が「Dの席の方はこちらからどうぞ」というふうに呼び入れている。 Bの僕はだいぶ歩いてから客席に入った。

 円いホールのど真ん中に円いステージ。それを取り囲むように客席がある。 ステージの上にはイスが2つとテーブルがひとつ。左のイスの横にアコースティック ギターが一本立ててある。やった!やっぱり歌ってもくれるんや。 
 イスの向きからして、僕の席は正面や。でも、このステージは回転しそう。 
 奥からステージ後ろまで続く1本の花道を除いて、ほぼ360度に客がいる。 場内は濃い紅が基調。客席のいちばん後ろは、壁に埋め込まれた形の、テーブル付き ボックス席だ。 
 そして、ステージに上から覆いかぶさるように、たくさんのモニター画面が360 度並んでいる。僕の視界には3つのモニターが収まる。 
 やがてアナウンスがあり、映像が流れ始めた。

 「ジャンキーズ ロックンロール」 
 ライヴ映像や! 
 歌詞ちがいヴァージョン。やはり81年頃なのだろうか。「かわいいあの娘も」 「ドライチンザノのように」「だってこの世の地獄とやらで」と歌っていく。これ、好き やねん。昔、花園ラグビー場のライヴフィルムで見たことがある。ただ、花園ともまた 少し歌詞が違う気がする。ストロボもないから、ライティングも別だ。 
 甲斐は長髪。激しく動く。すごく攻撃的なステージだ。 
 甲斐の後ろのドラムセットに松藤。右に大森さん。左は佐藤英二か。 
 「撃たれても」で心臓を指す甲斐。「天国」では上を指差す。

 「ブライトン ロック」 
 もちろんこちらもライヴ映像。 
 甲斐は茶色と薄い黄色がグラデーションぽくならんだTシャツを着てる。 「今!」「さあ!」と激しく叫ぶ。 
 現在との歌い方のちがいを味わいながら聴く。短い語のメロディーや、音をどこで 伸ばすか、あるいは切るかなど。「今度は俺のばんーさー」という歌い方と、「一撃」の メロディーを変えたのが特に印象的。 
 2番。「熱いボディ」の詞が出ず、「吹き飛ばーせ」と1番の詞を続けた。 
 サビは身体を激しく揺すりながら。2番の2回目だけ、「俺の導火線に火がついて」 と観客に歌わせた。 
 マイクスタンドをぶっ倒し、後奏の途中で映像はブツッと切れてしまった。

 モニター群が天井へ上がっていく。みんな拍手。貴重なもの見せてくれたなあ。 
 アナウンス。「甲斐よしひろの登場です」 
 甲斐が奥から出て、花道をやって来る。拍手。「甲斐ーっ!」の叫び。

 甲斐は黒のスーツ。白いシャツ。赤いネクタイ。 
 「こんにちは」と挨拶し、みんなも「こんにちは」と返事する。 
 まずは、今日のこのイベントについて話し出す。 
 「間違った情報が飛び交ってる。「握手会なんでしょ」とか。そんなことしたら、 今までの30年は何だったんだってことになる。直接触れずに、少し距離を置いたところ から。のぞき部屋のような」

 昨夜の武道館ライヴから今までのこと。 
 「昨日は3時間40分?頭おかしいよね。 10時半に起こされて、体調最悪です。 武道館の打ち上げは、外での打ち上げが11時からで。ぐっさんやm.c.A・Tも ずっと。たぶん朝まで。僕は明日があるからってことで、2時半で帰されて。  今朝はジム行って。プールで普段は200歩いて800泳ぐのに、泳ぎ過ぎて。  みんなを見てると、俺の方が体調いいな、勝ってるなと」

 「もう1時過ぎ?」と客席に尋ね、「2時過ぎ」と返事がかえってきて、 「こんなやつなんです」

 「ファンクラブの集いなんでしょ。「俺も座って見たい。映像流すんでしょ?」 って言ったら、「あなたが出るんです」とか言われて」

 「さっきのは、武道館のアンコールで「ブライトン ロック」をいきなりやった とき。CDのプレゼント当選者に送るDVDに入るやつで。大森さんが亡くなって、 「甲斐バンドをおまけにすんなよ」と指摘してくる人がいたんだけど、「いや、ちがう んだ」って。俺しか映ってない。あとは、松藤の手と顔の一部が見えるだけ」 
 確かにその通りやった。

 「遠くからの人もいるんでしょ?」 
 客席から、「大阪」「三重県」「富山」「長崎」と声があがる。関東圏が出ると、 「近い」とツッコまれる。 
 甲斐は「ま、聞いただけなんですけど」と言ってみせる。めっちゃ甲斐らしい。

 ファンが投票した「過去のツアー ベスト20」の結果を書いた紙を、「この紙を 渡されて、どうしろっていうんでしょうか」と、テーブルの上に置いてしまう。中身 めっちゃ知りたいねんけどなあ。

 今日いっしょに話すゲストとして松藤を呼んだけど、都合が悪かったらしく 「キッパリ」断られたという。 
 「坂井紀雄はこういうとこに呼ぶと、アガるし」 
 そこで、「ずっと付き合ってるのは、この人しかいないでしょう。亀和田武を」と 紹介。 
 昨日東京に来る新幹線の中で、田家秀樹が甲斐トリビュートアルバムについて 書いてる新聞を読んだとこやねんけど、田家さんとはいっしょに飲みに行ったりする関係 ではないのかな。たしかに亀和田さんについては、松藤と3人で遊んだ話を MCで聞いたこともあったもんね。

 亀和田武が花道から登場。当たり前やけど、TVで見るのと同じや。スーツに青い シャツを着ている。ポケットから、折りたたんだ「過去のツアー ベスト20」のリスト を出す。 
 「すいません。甲斐さんがネクタイしてるのに」 
 「そんな集まりじゃないですから」 
 そう言ってから甲斐は、自分がネクタイを締めた理由を述べる。 
 「昨日お祭りでくだけたので、今日はビシッと。今日から次の31年目だから」

 「昔は顔が似てるとよく言われた。20代の頃」と、お互いに。 
 なぜ今日のイベントに亀和田武が最適なのか、甲斐が説明する。 
 「ツアーをよく見てるだけじゃなく、一緒にまわってる」

 1979年の「サーカス&サーカス」ツアー。亀和田さんは3月30日に新宿 厚生年金会館のステージを見た。それから、会社を辞めてツアーについて行く。 新潟、長岡、上越と。 
 「今は違うかもしれないけど、(雪対策で建物の)入口が高く造ってあるんだよね」 と甲斐。 
 当時のマネージャーが路地が好きで、飲みに行くと奥へ奥へと入って行った。 そんな思い出が語られる。佐藤剛は現在、THE BOOMの仕事をしているらしい。

 79年のツアーのことを亀和田さんが「初めて「ちんぴら」やった時」って表現 すると、甲斐は「初めてっていっても、その後「ちんぴら」やってないんだけどね」 
 そうかあ。じゃあ、俺が最初に生で「ちんぴら」を聴いた、KAI FIVE お披露目の「弥生の里フェスタ」での演奏は、相当久々やってんなあ。

 その頃は客席の男女比が1:9で、「HERO」から老若男女が来るようになった。 
 そこで甲斐はふるい分けをしたのだという。やり方は簡単。「HERO」を やらない。 
 「「HERO」だけを聴きに来てる人たちがいて。俺たちが見たい、ってならない とダメなわけだから。今考えると、どうしてそこまで厳しいふるい分けをしたのかって いう気もするんだけど(笑)」

 「ツアーで年に100日くらいステージをやってて、移動を含めると2日に1回と いう感じで。東京に戻って荷物を置くと、「門」に集合。渋谷のゴールデン街がまだ 盛んだった頃ね。5時か6時頃に行くと、もう亀和田さんがいる」

 京都では、十何時間同じバーテン相手に飲み続けたこともあったとか。しかも、 京都にいる間は毎日通った。 
 「飽きさせないんだから、ああいうのがバーテンの腕だよね」

 大阪でライヴの合間、物売りの口上をずっと聞いてたことがある、という話。 バナナホールのMCでも言っていた。でも、「長く 見てるとサクラがわかる」というのは初めて聞いたな。

 当時、マンガ家がよくツアーに来ていたという話題。 
 「こち亀」の秋本治とか。倉持ふさ子とか少女マンガ家も多かったらしい。 今プライベートで付き合いがあるのは、萩尾望都のみ。だけど、その頃はまだ「萩尾望都 の前の時代」。 
 「あと、作家も多かった」と、亀和田さんが川又千秋らの名前を挙げる。 
 音楽関係はなかったみたい。

 「過去のツアー ベスト20」の結果を、ついに教えてくれた。 
 「「100万$ナイト」とか、高くないんだよね」という前振りに続いて発表 されたランキングは・・・

 1位 甲斐バンド解散のFINAL CONCERT TOUR ”PARTY” 
 2位 THE BIG GIG 
 この2つが3位以下を引き離していたらしい。

 3位 Big Night 
 「POP-STOCKは、やりづらかった」と甲斐。ライヴ用の音響設備があまり 整ってなかったのかな。

 以下、”My name is KAI” やパワステ時代の”ROCKUMENT”などが続く。 ”ROCKUMENT”のランクインには、甲斐も納得の様子。僕はパワステの ”ROCKUMENT”には全日参加して、めちゃめちゃ大好きやけど、それ以上と 言ってもいいほど”ROCKUMENT V”が 好きやなあ。

 他には花園ラグビー場、BEATNIK TOUR、 ”Singer”Series of  Dreams TourKAI FIVE、 サーカス&サーカスなどが入っていたようだ。順位までは覚えきれなかった。

 箱根の芦ノ湖畔が意外に低いのは、「見てる絶対数が少ないからでしょう」。 
 亀和田さんによると、「急坂を上ったりして、客にはつらい」会場だったそうだ。 ”BEFORE THE Big Night”で永井美奈子も言ってたなあ。 
 「対岸にサーチライトを設置して、ミラーボールを上げるのと光を当てるタイミン グを、秒刻みで合わせて」と、甲斐もその日の状況を話す。

 ずっと「きんぽうげ」が1曲目だった(1回「100万$ナイト」もあった)なか、 「ブライトン ロック」が1曲目になった時の衝撃を、亀和田さんが語る。自分が出した 本で、曲のリストをチェックしてきたという。亀和田さんが「自分が出した本」と言った だけで、みんなが頭の中に「愛を叫んだ獣。」を思い浮かべてるのが、雰囲気でわかる。 
 ちょうど僕が初めて行ったツアーから、1曲目は 「ブライトン ロック」ではなくなった。こういう話にはすごく興味がある。 「破れたハートを売り物に」が1曲目の時期のことなんかも聞きたい。 
 甲斐はじっくりとその頃を思い出すように間を置いて、「”BIG GIG”の 頃はそうですね」とだけ言った。

 「俺は怒って帰りそうだと思われてるだろうけど、帰ったことない。公平に聞いた ら、スライダーズのハリーは3回帰ったらしい。公平は1回。小さいとこで、客が後ろ から押されたんでしょうか、倒れて、マイクスタンド持ったのが公平の歯に当たって。 すごく痛かったんだって。エレキ持ってるわけだから、アースとか、命にかかわる」

 「客席に下りて行ったことはあるけどね。四国で、最前列の女の子を警備員が なぐってるのよ。嬉々として。目がランランとしてて。サディストっているんだよね。 それで、大森さんに間奏長く弾いといてって頼んで。大森さんも見てたからわかってるし。 普通動くとピンスポットがついて来るのに、スタッフも当てない。で、暗闇で・・・」

 「昔はギター壊してましたね」と亀和田さんが振ると、「人ではなくて、地面に 当たってたんだ」と返す。

 「ここ、飛天やったから、借りられたんですよ。普段はショーとかやるとこで。 僕ら、芸じゃないじゃないですか」 
 「昨日のぐっさんみたいに、蝉しぐれとかできないとダメなんだ」

 回転させることのできる舞台を、回してみることに。後ろ側のファンが大よろこび。 
 亀和田さんは「ちょっと気持ち悪い」と言う。 
 甲斐は「ハイになる」と言って、初めて正面を向いた後ろのファンに、「やあ!」 と声をかけてみせる。 
 舞台は一周して元の位置で止まった。 
 ビルの上にある、こんなふうにゆっくり回るバーのことを、亀和田さんがしゃべる。 
 「たしか2時間で一周するんだけど、書き物してて、ふと目を上げると、景色が 違うんですよね」

 スタッフのおねえさんが出てきて舞台前にしゃがみ、「10分前」という紙を出す。 客席からもそれが目に入り、なんとなくほのぼのとした笑いがもれる。

 次のツアーの告知。”Big Year’s  Party 30”のアンコールツアーがあるという。松藤と前野選手と3人での アコースティック編成で、タイトルは 「”アコギ”なPARTY 30」。大都市以外ばかり12ヶ所くらい。 
 早くも次のツアーが決まってることに、みんな大拍手!めっちゃ楽しみ!

 亀和田武が送り出され、再び甲斐一人になる。 
 「じゃあ、何かやりますか」という言葉に、大よろこびの拍手。 
 スタッフがギターをセッティングして帰ろうとするが、「これをやらないと」と、 甲斐に呼びとめられる。ギターのボディの端っこに接続するのを忘れていたみたい。

 「他の人の歌じゃイヤ?僕の歌の方がいいの?」 
 そう客席に尋ねる。みんな甲斐自身の曲が聴きたいとうなずく。 
 「僕は他の人のがいいんだけど」と言ってから少し考えて、「じゃあ、昨日でき なかったんで」

 そうして奏でられたのは、「風の中の火のように」 
 詞のひとことひとことに、甲斐が強弱をつけてうたっていく。それがほんとうに 絶妙で、聴き入ってしまう。心をつかまれる。この繊細さは、近い会場ならではか。 いや、今日この日ならではかもしれない。 
 「嫌だ一人きりは このぬくもりが 愛なのに」 
 やはりこの歌はKAI FIVEの「漂泊者(アウトロー)」だと、いま一度 痛感する。 
 ラストは「風の中の火のように」を3回繰り返してから、「火のーー」と声を あげた。 
 実に素晴らしい「風の中の火のように」やったなあ。これは忘れられへんな。

 間髪を入れず、甲斐のアコギが鳴らされる。「ザンザザンザーン」というストローク で、すぐにあの歌だとわかる。久々に聴けてうれしい。 
 「ポスター カラー」 
 詞がいいねんなあ。 
 今日は「ミルクは どおーーーーしますかー」の、伸ばす音の微妙な上げ下げが 沁みてくる。

 「ポスター カラー」を弾き終えた甲斐は、大きな拍手と「甲斐ーっ!」の歓声の なか、花道を去って行った。

 もう一度、あの360度モニターにライヴ映像が流れる。今度は編集し終わった ばかりだという、昨日の武道館ライヴからだ。 
 ゲストたちと一緒にやった、アンコールの「HERO」だ。ゲストを呼び入れる ところから始まった。昨夜の興奮がよみがえる。 
 また、改めて映像で見てみると、昨日はわからなかったことに気づいた。 
 ぐっさんはちゃんと1番を大友康平の声で、2番は自分の地声で歌っていた。 
 2番の後半を高い声で歌っていたのは、何とm.c.A・Tやった。どうりで 大黒摩季じゃないはずや。 
 甲斐が「DA PUMP!DA PUMP!」と連呼したところで、映像は 終わった。

 大満足でホールを出る。ロビーには何ヶ所か、「過去のツアー ベスト20」の 結果が貼り出されていた。みんなそれをケータイで撮っている。じっくり見ることが できて、よかった。

 しあわせにつつまれた気分で、外へ。廊下には次の回のファンたちが列をつくって いる。

 今日強く強く感じた。本当にこの人のファンでよかった!真摯な生き方。ファンを 思うあたたかさ。そして、あの歌。 
 最高のイベントやったなあ。是非またこういう機会を。お願いします。

 

 

2004年11月7日 品川プリンスホテル クラブex

 

風の中の火のように 
ポスター カラー