CRY

Twitterには長いやつ

甲斐よしひろ Series of Dreams Tour Vol.3(1987-2003)

2004年1月9日(金) NHK大阪ホール

 仕事は休んだ。今日くらい休んでも、文句言わせへんのだ。開場時間前から、 NHK大阪ホール1階の、エスカレーター前に並ぶ。こうやって待ってる時間も楽しい ものだ。甲斐のツアーに通い始めた、高校生の頃が思い出される。

 自分の時計で6時28分開場。予定より早いとは。 
 場内に入ると、まずはロビー角のグッズ売り場へ。おなじみになってきたCD カード式パンフと、カレンダー、ストラップ、Tシャツを買う。Tシャツは黒で、胸に 水色と白の三重円。円の端には、1979・1986・2003という数字が入ってい る。つまり、このSeries of Dreams Tourを表しているわけだ。 背中にはVol.3のツアー日程がプリントしてある。このTシャツ、かなり気に 入った。そういえば、1984年に初めて買ったグッズがパンフとトレーナーで、その トレーナーにも 「BEATNIK TOUR ’84 FINAL」の日程がデザインされて いた。

 混み合うグッズ売り場を抜け出し、客席へと入って行く。今日の席は前のブロック ではないが、ほぼど真ん中や。 
 BGMは洋楽。「ウィークエンダー」でかかってた「チャッチャラッチャ ラッチャー」の音もある。 
 開演が近づいてくる。オープニングBGMにも興味津々や。 Vol.1がサッカー、 Vol.2が野球・バスケときて、今度は何の スポーツの音楽なのか。 
 大きな音で響きはじめたのは、低い音。これって、もしかしてブッチャーの テーマ曲じゃないのか。「吹けよ風、呼べよ嵐」。プロレスできたかあ。甲斐らしい で。

 手拍子のなか、メンバーがステージへ。ノリオ、蘭丸、前野選手、JAH-RAH 。いつもの最強メンバーや。 
 「吹けよ風、呼べよ嵐」がすんなり止まる。そのまますっと演奏が始まった。 
 明るい金属音が印象的。おお、やっぱりこの曲で来たか!手拍子。ビート。 そして、甲斐が走って来る。 
 「電光石火BABY」 
 甲斐は明るい青のジャケット。中は黒で、胸に銀のファスナー。黒のレザー パンツ。サングラス。 
 めずらしく1曲目予想が当たった。このシリーズでは、区切られた年代の初期を 代表するオープニングナンバーが、最初に歌われてきた。1987年からのVol.3 では、「電光石火BABY」やんなあ! 
 甲斐といっしょに、いや、思わずコーラス部分まで歌ってしまう。そうせずには いられない。 
 最後の繰り返しが4回で終わらない。JAH-RAHがさらに激しくドラムを 叩く。甲斐は「ベベベベイベー」をやったり、「電光石火ベイベー」と歌ったり。 右肘で宙を打ち、そのまま身体を回転させて、フィニッシュ!

 間髪入れず、あのビート。「タン!タン!タ!タ!タン!」の手拍子。 
 「レディ イヴ」 
 これはやるよなあ。20世紀末のツアーに欠かせなかった歌。イントロから 盛りあがる曲やし、最初のMCまでにやると予想してたが、2曲目に来たか。客席 みんなよろこんでるぞ。 
 「弾けて割れた」から照明が落ち、甲斐だけに白いスポットが当たる。 もちろんあの手拍子もありや。

 「サンキュー!」が今夜の第一声。 
 「Series of Dreams Tour Vol.3。KAI  FIVEと、僕のソロを中心に、ということになります」

 静かな曲調。早くもバラードか。「ウィークエンド ララバイ」やと思った。 
 「さあ おーどーりまーしょ」 
 しかし、甲斐はそううたい始めた。沸き起こる歓声。 
 「ハートをRock」 
 まさかやるとは思ってなかった。第一期ソロ前半のツアーがよみがえる。 
 甲斐は最初の「ステップで」を低めにうたう。やがて華やかなビート。手拍子。 さあ、行こう。 
 大盛りあがり大会や。甲斐は曲の中を泳ぐようにタイミングを変えて歌って いく。「辞書がなきゃ デイトもできない」と、オリジナル通りの詞で歌う。かつては 「会話もできない」と歌ってた。間奏に入り際、「カモン、SAX」と声をあげる。 前野選手がPARTNER TOURの「ランデヴー」でも見せた、サックスを奏でて いる。ああ、楽しい。甲斐が「わたしの心のこのドラム」で、右手で自分の胸を指す。 「ビートがなければつまらない」といっしょに歌いながら、僕の頬はしぜんとゆるんで しまう。 
 曲が終わる時の甲斐は、両の拳を上に向かって交互に3連打。

 「もうひとつ、盛りあげようかな」 
 甲斐がマイクスタンドに近づいて、そう言った。客席が歓声と拍手で応える。 
 衝撃的なギターのイントロ。これも第二期ソロの中心ナンバー。 
 「渇いた街」 
 甲斐もアコギを弾きながら。サングラスは外していた。 
 飛天以来の「渇いた街」。あの日は「ダニー ボーイに耳をふさいで」とのメドレーだったが、今夜はもちろんフルに歌ってくれる。 久々に聴いたという感じはしない。身体に沁みついているというか。何度も経験して きた曲なのだ。 
 ラストはイントロの音が再度演奏される。その分後奏がコンパクトになった ようだ。これが2004年、Series of Dreams Tour  Vol.3の「渇いた街」。

 いきなり耳をひきつけるイントロが続く。サイレンを思わせるあの音。 
 「風吹く街角」 
 これも久々とは思えない。1995年秋、コンベンションライヴで新曲として 披露された時の、星の照明。翌年2月のWelcome  to the ”GUTS FOR LOVE” Tour。3月の ALTERNATIVE STAR SET  ”GUTS”。さらにはGUY BAND。 いつの時もこの曲があった。 
 甲斐は「何にも起こらない」の後、間を空けて「こーのまーちかーらー」と 歌う。今まで通り「この まーちかーどかーらー」と歌った僕は、甲斐が声を出して ないところで「この」と言う形になってしまった。甲斐は2番以降もそう歌った。 「街角」という言葉を口にするのは、サビの最初の部分だけになる。今回からのニュー ヴァージョンらしい。同じ曲でも、その時々の歌い方、甲斐の衝動というものがある のだ。 
 後奏も初めて聴くショートヴァージョン。「ローーンリネス」が2回やった。 最後にメロディーを変えるのもなし。

 最新のカヴァーアルバムに関するMC。 
 アルバムタイトルを「続・翼あるもの」や「新・翼あるもの」とする案もあった らしい。「一つちょっと惹かれた」のが、「帰って来た翼あるもの」という松藤案。 でも、思いとどまって「翼あるもの2」になった。「いろいろ考えたのに、結局まるで 何も考えてないようなタイトルになった」 
 「ここからは、買ってない人はちょっと地獄」と笑う。 
 「ニューアルバムを出しといて、その曲をやらないのは人としてどうか」と 思いを述べてから、いざ、「翼あるもの2」収録のカヴァー曲へ。

 「沖縄ベイ・ブルース」 
 今度は白いエレキギターに持ち変えた甲斐。再びサングラスをかけている。女性 が主人公の歌を歌う時は、サングラスをかけることが多い気がする。かつて 「ハートをRock」では、バンド全員がサングラス姿やった。あの印象が強くて、 そう思うだけなのかもしれないが。 
 甲斐は汗ばんだ髪を耳にかけている。悲しい歌詞やのに、音は楽しくて、揺れ ながら聴いていた。

 「満州娘」 
 なんとなくライヴではやりにくいかもと思っていた、女性の歌が続く。甲斐には いつも驚かされるな。 
 「は ずか しいやあら」と間を取って歌う。高らかな「は」の響きに引き 込まれる。 
 甲斐のお母さんの思い出の歌や。その想いのために、このツアーで歌いたかった のだろうか。いや、違うかもしれない。ファンの感傷とは別に、間奏の甲斐はにこやか だ。とにかく今の気持ちで、最高の演奏するだけやんな。

 妖しい色の光。打ち込みの音。m.c.A・T、富樫明生の音だ。 
 「「祭りばやしが聞こえる」のテーマ」 
 ギターを置いた甲斐。マイクスタンドを廻し、引き寄せ、ステージをゆっくり 歩いて、歌い上げていく。 
 ライヴヴァージョンに生まれ変わっているラスト。曲が果てると、メンバーが ステージを去っていく。

 アコースティックギター。そして、アコーディオン。 
 「八月の濡れた砂」 
 3人がイスに座っている。真ん中に甲斐。左にアコーディオンの前野選手。 右がギターの松藤。松藤はいつの間にか、「翼あるもの2」の曲のどこかで、 キーボードに加わっていた。 
 アコーディオンとギターの描き出す音色に、甲斐の声。この「八月の濡れた砂」 は絶品!必ずやってくれるはずやと期待していた。聴けてほんまにうれしい。 
 サンストで竹田かほりがゲストで来た時、この曲をかけてたな。松藤もいて、 甲斐が「ここにいる人はみんなこの歌好きです」って言うてたっけ。

 MCの途中で、甲斐が客を座らせる。立ってるのがメインじゃなくて、MC聞くの がメインだろう、と。 
 ALTERNATIVE STAR SET  ”GUTS”の四国を思い出すなあ。 
 立ちたい人は立ったままで、というので、客席にはところどころ立ってる人たち もいる。自分の後ろの人たちが座ってたので、僕は座ることにした。

 「ミュージックフェア」に出たときの話。「あんたのバラード」と書いてあるの を、知り合いが「安奈のバラード」と見間違えたという。 
 あゆの番組のことなど。若井はんじ・けんじの名前まで飛び出して。

 昨年末の秋田ライヴ。 
 「雪がこんなに」と身ぶりで示してから、自分の説明に、「って、小学生か」 
 「秋田なんて十数年振り。俺にとっては戦前の出来事みたい。阪神の優勝みたい に・・・スイマセン」 
 大阪ではきっと、阪神優勝の話題があると思ってた。85年暮れのライヴでも、 「街が元気でいいね」と言ってたし。

 「そして僕は途方に暮れる」 
 座って聴いている。ひたすら甲斐の声に溶け込んでいく。 
 間奏の「フーウウ」という声は1度だけ。そのまま演奏に聴き入って、甲斐は 次の詞まで声を発さない。いちばん痛いと言っていた、 「君の選んだことだから・・・」まで。

 再びMC。 
 「昨日はマジメに大阪へ前乗りして、プールで泳いでた」 
 でも、夜は新地で飲むことに。くじら鍋にヒレ酒で崩壊した一夜。 
 「ファンです」というホステスがいたが、「明日からハワイ」と言ったとか。 
 「どこがファンなんだよ。来いよ、コンサートに」と言いつつ、いいキャラ だったと笑う。 
 その後の話で甲斐が「(俺たちは)酔っぱらいじゃないんだから」と口にする と、松藤がすかさず「酔っぱらいだ」

 「髪が暴発してる」と、甲斐が前野選手をいじる。 
 「この頃、前野をいじってると、松藤がいじけるんだよね」 
 いつもながら、メンバーめちゃめちゃ仲良さそう。

 「安奈」 
 アコギとアコーディオンの静かな「安奈」。この形、実は久し振りだ。「安奈」 はVol.1から通して歌われているが、すべてアレンジが違う。Vol.2はレゲエ ヴァージョンやったしなあ。 
 静かに堪能していた「安奈」。サビ前で甲斐が手を振って合図する。それで みんなも「あんなー」と声を合わせる。

 前野選手と松藤を拍手で送り出す。 
 甲斐一人、アコースティックギターでうたってくれるんや。 
 今年福岡で行われる国民文化祭について。そのテーマ曲を甲斐が作曲・ プロデュースして、氷川きよしが歌うのだ。氷川きよしKIYOSHI名義で ポップスも歌っているそうで、その路線で行こうとしたけど、出来あがってきた詞は 股旅物だったという。 
 また、この仕事をするとTVで流れてから、街のおばさんたちが愛想いい、 とも。 
 「「氷川クンの味方だ」と思われてるらしい」 
 あゆのTVに出た後は、10代から声かけられることが多くて、 
 「「ヨシヒロー」って。うるせえ。今の10代、全部下の名前だからな」 
 と笑った。

 そんないくつかのジョークの後やったから、甲斐が「その曲をサクッとやろう かな」と言ったときも、ほんとかどうかわからなかった。 
 ファンの反応が遅れると、「あんまり聴きたくなさそうだね」 
 すぐにみんなの拍手が増える。新曲やってくれるんや。

 甲斐がギターをかき鳴らす。ストレートでスケールを感じさせる曲調。王道の ロックという手ざわり。 
 詞もいいやん。こんな時代やけど、みんな元気出して行こうぜ、と呼びかける 内容。 
 「あーーらしのー うみーをーっ」からの力強いサビもいい。 
 と、2番のサビ後からメロディーが変わる。そのまま「THANK YOU」が うたわれ出す。 
 「THANK YOU」は第一期ソロの作品中、特によくうたわれる歌や。今回 やるとしたらレゲエ風でかと思っててんけど、アコースティックやったか。それも、 予測できないタイミングでのメドレーとは。これは急遽曲を変更したのか、それとも 計画通りなのか。 
 1番をうたい終えると「ブルーウィンドウ」に入る、ショートヴァージョン。 その部分になると、メンバーがステージに帰って来る。この「THANK YOU」 で、アコースティックコーナーは幕を下ろすのだ。

 ステージのイスが片付けられる。僕らオーディエンスもまた立ち上がる。 
 僕は心の中で「幻惑されて」のイントロに備えていた。バラードから一転、 後半盛りあがりの先鞭を告げるのは、あの曲やろうと予想していた。だって、ぴったり やん。 
 しかし、暗転したステージから聴こえてきたのは、意外にも・・・ 
 「オーイェー オーイェー Love is No.1」のコーラス。 
 白い照明。そこにカラフルな灯たち。一気にビートの渦の中へ。この歌やって くれるんや! 
 ギターを弾いて歌う甲斐。この曲は久々感あるな。手を打ち、「オーイェー!  オーイェー!」と叫び、息をつがずに「カモンカモンカモンカモン」と歌い続ける。 叫びも歌もラップも全力で。またこれを体験できてうれしい。 
 ビートがどんどん強まっていく。絶頂に達したところで、曲が果てる。

 グーーーンとわきあがってくる音。思わず「おーーーーっ!」って叫んでもうた。 まさかやってくれるとは。「ドン!ドン!ダン!」のドラムの響き。 
 「激愛(パッション)」 
 FIVEのツアーでは1曲目に歌われたこともある。そうか、今日もFIVEの 曲の中では1曲目やねんな。 
 「ウォーオーオオオオウォーオオ! ウォーオオ! ウォーオオ!」俺ら、 渾身の力で吼えるのだ。 
 2番の最後に「ウォオーっ」と叫んだ、甲斐の動きに注目する。FIVE時代は ここからリズムに身を委ねて、上体を反らし頭を大きく前後に揺さぶるアクションを していたのだ。今夜はまず正面を向いてその動きをする。それからさらに、FIVEの 時のように横を向いてのアクションだ。こちらも身体を揺らさずにはいられない。 
 まだまだ続きそうに思っていた後奏が、3連打の最後の音を伸ばして終局に 向かう。

 次は「絶対・愛」か。「激愛(パッション)」の後に続けてやるのが、FIVE ツアーの定番やった。「激愛(パッション)」で吼えた直後だと、自分が出せると 思った以上にデカい声で「ウォウウォウウォー」と叫べてしまう。その頃よく遭遇し た、不思議な感覚。 
 けれど、始まったのは「絶対・愛」ではなかった。蘭丸のギターがいきなり 直撃!光が左右にふたつずつ、緑や紫に妖しく色を変えながらまわっている。甲斐が ギターを持っている。さらに蘭丸の音が一閃、バンド全体が激しくうねり出す。俺たち はそれを受けとめ、手を打つ、身体を縦に揺さぶる。 
 「幻惑されて」 
 さっきまで予測してた時じゃなく、今きたか。それも、ドラムだけがビートを 刻む序章なく。この前奏から一気に場内の熱狂が増す。「vの字」や「X」で挑発する ような甲斐のヴォーカル。サビの前、甲斐がワンフレーズ歌う度にうなるギターが たまらない。炸裂する間奏。気を持たせるように一旦音を鎮めてから、さらなる激しい 嵐へ突っ込んでいく。三度甲斐が歌う。裏でギターが襲いかかる。たくましくも妖しく 跳ねる後奏は、激しく絶えてはまた寄せてくる。甲斐が絶妙のタイミングで左腕を 振り上げる。最後は音を伸ばさず、バンドとオーディエンスの昂ぶりをぶつけるように 短く果てた。

 すぐに前奏。キーボードの二人が頭上で手拍子している。いつもより速いテンポ や。俺たちも手拍子し、声を限りに「ウォウウォウウォウウォウ ウォウウォウウォウウォウウォーーっ!」と叫ぶ。マイクスタンドが蹴り上げられる。 歓喜の声がはじける。 
 「絶対・愛」 
 オーディエンスが「HEY!」と拳をあげる時、甲斐も拳を突きあげる。遠投を するように、勢いをつけて大きく。 
 ステージを動く甲斐。間奏の最後でマイクスタンドを置き直し、マイクを刺した 瞬間、それを蹴り廻した。 
 甲斐とみんなの、歌と叫び。拳と手拍子。あくまで攻撃的なバンド。誰しもが 燃えているのだ。「絶対 あーい!」「絶対 あーああい!」の後奏繰り返し。甲斐は 三度目を「絶対愛さ」とは歌わない。全て「さ」なしで歌う。これが今夜のオリジナル ヴァージョン。ライヴは毎回違うもんなのだ。

 音が放たれる。ここで歌われるべき歌。 
 「風の中の火のように」 
 最初から力強い演奏。甲斐の声も強く。間奏での「ウォーイェーー」の叫びも ある。 
 真っ赤に燃える照明。かつてバックで炎が揺れていることもあったが、 今夜は光だけで火を表現している。

 きれいな前奏。光と影がつくり出す何本かの細長い帯。それがステージの左右に それぞれ映り、大きなストライプの長方形を描いている。ゆっくりと回転すると、 傾いた平行四辺形になる。翼のようだ。「最後の曲になります」甲斐がそう告げる。 
 「レイン」 
 ずっと聴こえているキーボードが印象的だ。雨の中に光が射すような。 二人の道を照らしてくれるような。そこへ蘭丸のギター。JAH-RAHが刻んで いる。ノリオのベースがうねる。そして、甲斐の声だ。

 歓声を受けて甲斐たちが去る。 
 手拍子。口ぐちに、思い思いの「甲斐ーっ!」の声。手拍子。僕も何度も 叫んだ。

 白いライトがあふれる。アンコールの始まりや。 
 前奏と手拍子の中へ、甲斐が走って来る。鮮やかなブルーのTシャツ。 
 Vol.2ではどの曲か気づかなかったが、今回はすぐにわかる。最初から拳 あげて歌えるぞ。 
 「HERO」 
 1番の出だし、甲斐がオリジナルのタイミングで「生きるってことは」って歌い 出しそうになる。ギターを待って、あらためて歌い始める。 
 会場中が歌い、手を打ち、拳をあげている。甲斐は歌いながら動く、動く。左へ 行くと、蘭丸に「前へ出ろよ」と顔で促す。甲斐はそのまま身体を回転、振り返ると 笑顔やった。間奏でキーボードの台に上る。ドラムスの台に移る。前へ出て来る。俺、 心の底から楽しいよ。音楽に理屈なんていらないと感じる。こんなに気持ちいいねん から、これが正解なのだ。

 メンバー紹介。 
 アコースティックのところで既に紹介された前野選手と松藤は、いっしょに 「ザ・キーボーダーズ」と呼ばれる。

 「キュルルルルル!」細かく速い最初のビート。「おおおーっ!」思いっきり叫ん でしまう。これ、めちゃめちゃ聴きたかってん!イントロで燃えまくる。 
 「ラヴ ジャック」 
 全編にわたるサックスの音を聴け!FIVE後期のミニ編成デジホヴァージョン もよかったけど、今日この熱気はものすごいぞ。ノリオの満足気な口元が、 「どうだ!」っていうメンバーの気持ちを表してる。 
 フルバンドの「ラヴ ジャック」は一体いつ以来になるのか。今回やってほし かったけど、もうアンコールで無理かと思ってたよ。ほんまにほんまに、うれしい! Vol.1に「メモリー グラス」があり、Vol.2に「暁の終列車」があったなら ば、俺にとってVol.3は「ラヴ ジャック」をやったツアーや。 
 熱狂を照らし出すライトは、ピンクに赤に紫。蘭丸に黄色のスポットが浴びせ られたりする。歌い終えた甲斐は、アルバムと同じタイミングで「ラヴ ジャーック」 の囁き。そして、吐息。曲のフィニッシュは、あのFIVEライヴヴァージョン。 これ、好きやねん。ビート4連打による終幕。最後の2つで左右の拳を突き上げた。

 ドラム。バックで白い光が明滅する。 
 「イエロー キャブ」 
 甲斐は銀のロングジャケットを着ている。マイクスタンドの前に立ち、うたって いく。 
 後ろの灯は赤、黄、白、青。時折、車が通り過ぎるようにライトが左右に 振られていく。その光がやや遅れて壁にも映し出される。 
 間奏。甲斐は後ろを向き、「ターララー」と伸びる音を自らの身体の中から 絞り出すように、力を込めて腕を振る。横ざまに。繰り返し。指を曲げた掌を宙にぶつ ける。 
 この歌は、甲斐よしひろハードボイルドの一つの頂点を成す作品だと思って いる。世間の古く偏ったイメージの中にある、超人のような男の物語ではなく。 生身の男を描いた、ネオハードボイルド。すごい。生きているなら、こういう作品を 浴びていないと嘘だ。人を励ますのは、メッセージソングだけじゃないんだ。

 二度目のアンコールは、「イエロー キャブ」の余韻でしっとりと。

 メンバーのコーラスが、曲名を告げる。 
 「ミッドナイト プラス ワン」 
 いつもより長めの前奏で、甲斐が真ん中の後ろから歩いて来る。 黒いジャケット。中に黒のツアーT。 
 第一期ソロの歌はここまで、「ストレート ライフ」を代表する3曲と 「サンキュー」以外うたわれていなかった。ここに入れててんな。気持ちが弱ってる ときに聴くとやばいバラード。

 「今夜は来てくれて、たいへん感謝してる。サンキュー。サンキュー」 
 「今年はオリジナルアルバムが出て、華々しくツアーに出るでしょう。8月の 終わりくらいに。30周年なんやらかんやら」 
 「今夜はほんとうにサンキュー。最後の曲になりました」

 バラードの雰囲気が漂っている。甲斐がマイクスタンドを蹴り、廻す。 
 「嵐の明日」 
 マイクスタンドを持ち上げ、傾けてうたう甲斐。一度だけ大きくスタンドを 振って、最初に廻したときに絡んだコードを払った。 
 壮大で劇的なバラード。強い決意をにじませる詞。甲斐の声。それらと一体に なった激しい演奏。最後はどの曲かいろいろ考えてたけど、今となってはこの曲こそ いちばんふさわしいんやと感じる。俺らには「嵐の明日」があるやんけ。あらためて この歌の力を思い知らされる。蘭丸のギターが響く。甲斐が声をあげている。

 メンバー全員が前へ。横一列になっての挨拶。左から蘭丸、甲斐、JAH-RAH の並びになり、JAH-RAHが「オレがこんな真ん中でいいんすか」って感じで ちょっと恐縮。他のメンバーが「いいんだ、いいんだ」とそのままの場所にいさせる。 
 全員でのお辞儀が終わり、メンバーが右手へ去っても、甲斐は残ってくれる。 今夜もしっかりファンの声援に応えてくれる。「甲斐ーっ!」「甲斐ーっ!」の声が やまない。もちろん僕も叫んでる。 
 やがて甲斐も行く。いつものように左手へ行きかけてから、方向転換。照れた ようなやんちゃな笑顔で右手へ消えた。

 今日はシングル曲が多かったな。「翼あるもの2」からの曲をのぞくと、かなりの 割合になるのでは。FIVEのシングルは全部聴けたわけやし、第二期ソロのシングル もたくさん歌ってくれた。 
 年代別のSeries of Dreams Tourが終わったら、シングル をテーマにしたライヴもいいかもしれんな。A面・タイトル曲を集めたステージを やり、AGAINではB面・カップリング曲をやるのだ。

 それにしても、甲斐のライヴは沁みる。去年は後半仕事がんばったけど、それ ばっかりじゃつまらな過ぎた。こういう楽しみを感じていかないと。好きなことやら な。自分の人生や。 
 今日の甲斐は、腕を伸ばして客席後方を指差すアクションが目立った。希望を 感じたな。 
 甲斐、俺はこれからも楽しんで生きて行くで。まだまだふけ込んだりせえへん からな。

 

 

2004年1月9日 NHK大阪ホール

 

電光石火BABY 
レディ イヴ 
ハートをRock 
渇いた街 
風吹く街角 
沖縄ベイ・ブルース 
満州娘 
「祭りばやしが聞こえる」のテーマ 
八月の濡れた砂 
そして僕は途方に暮れる 
安奈 
人生号 JINSEI-GO! 
~THANK YOU 
Love is No.1 
激愛(パッション) 
幻惑されて 
絶対・愛 
風の中の火のように 
レイン

 

HERO 
ラヴ ジャック 
イエロー キャブ

 

ミッドナイト プラス ワン 
嵐の明日