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Twitterには長いやつ

甲斐よしひろ 20 TWENTY STORIES

2007年4月14日(土) なんばHatch

 

 ツアーグッズを乗せたワゴンが運ばれていくのが、ガラス越しに見えた。いつもの位置、入って右の 端へ移動している。開場を待つファンの列には、パンフらしきものを持った人も。開場時間が近づくまでの 間、先にグッズの販売を行っていたのかもしれない。ファンは早くグッズを手に入れることができるし、 売り場の混雑も緩和される。いい試みやんな。

 開場。まずパンフとTシャツを買う。Tシャツは黒と白とピンクがあった。おねえさんに聞くと、 黒のみLサイズがあるという。大きいサイズをつくってくれるの、めっちゃうれしいな。でも、どの色も デザインが気に入ったし、結局黒のLと白とピンクのMを買った。

 客席には「タイガー&ドラゴン」が流れていた。ステージ上を紺のライトが照らし、客席へは白っぽい 肌色の光が斜めに伸びている。今日の席は右端に近いから、その光は僕には当たらない。 
 BGMに洋楽は少ない。「宙船」と「青春アミーゴ」が流れ、去年と今年の センバツ行進曲が両方使われてるなと思う。ジャニーズが多い気がする のは、「夜空ノムコウ」への布石か。あれはスガシカオのカヴァーって言ってたけど。

 アナウンスが流れ、開演は近づいてるのに、まだ甲斐のマイクがセットされていない。左奥のドラムス 台の左端に、アコギが見える。松藤の位置はあそこやな。ドラムが前のツアーとは違うように見える。 右奥にキーボード台。甲斐をはさんで左右にツインギター。ベースのノリオは右端らしい。 
 バックに、赤いライトが2段に並んでるライトを見つけ、「絶対・愛」で使うんじゃないかと予想 する。 
 ようやく甲斐のマイクが用意された。いつものと違うやん!マイクスタンドに乗せられたのは、 クラシカルな、丸みのある縦長の直方体。このマイクに合う曲を考える。「歌舞伎町の女王」や。今回は かなりの確率で「今宵の月のように」が1曲目と予想しててんけど、違うかもしれない。

  電話のベル。「もしもし、工藤探偵事務所ですが」と、松田優作の声。「バッシティ バッバッ シティー」の速く強い波。僕がいちばん好きなドラマ「探偵物語」のオープニングテーマや。そのかっこ よさにしびれながら、「ボリュームも大きくなったし、これで幕開けやんな」と手拍子しつつも確信が持て ないでいると、客電が落ちた。やっぱりこれで始まるんや! 
 メンバーが左手から歩んでくる。拍手と歓声。おおっ、その中に甲斐もいるぞ!いつもより早く出て 来て、後ろの方で背を向けている。気づいてない観客も多いかもしれない。

 アルバム通りのイントロ。青緑のライト。やっぱり1曲目はこれやったんや! 
 「今宵の月のように」 
 甲斐のサングラスは、「10 STORIES」のジャケットとは 違うやつ。ジャケットの中のシャツには、銀の飾り。黒のパンツの左側に三重のチェーン。鋲のあるベルト。 
 甲斐は体と逆の側にマイクスタンドを傾けたりしながら、歌っていく。ツインギターは右に西村、 左が亮。 
 「あーたーらしーいーーっ」など、語尾の伸ばし方がアルバムと違う。こういうところにも、ライヴ を感じるのだ。 
 「夜空にー 声も聞こえない 声も聞こえない」と、同じ詞を繰り返しもした。 
 最後のパートでも、「見慣れてる」の部分の詞をなくして歌った。歌い終えてからの「ウーーッ」の タイミングも、CDと変えている。やっぱり、ステージならではのアレンジとか、その瞬間の感覚によって 、同じ歌でも変わるもんやんな。

 やっぱりこの曲順で来たか! 
 「歌舞伎町の女王」 
 「ママはそこの女王様」と、甲斐は歌った。「そこ」が当然のように聴こえてくる。 
 間奏。CDより早く、あのフレーズより先に「Ah-」の吐息。そして、甲斐はマイクスタンドを 離れ、ステージの奥へ。楽しみにしてた間奏後半のギターが記憶にない。前奏のサックスもや。興奮して てんな。 
 「全てを失うだろう」で語尾を上げない。と思ったら、「東口を出たらああーーあ」で張り上げた。 このヴァージョン違いも聴けてうれしい。

 イスが用意され、甲斐たちが座る。 
 カウントはなく、静かに曲が立ち上がる。「コンコン」という打ち込みの音で。 
 「くるみ」 
 甲斐の歌声に聴き入る。ライヴでは松藤がコーラスや。右端の僕からは、うたう甲斐越しにコーラス する松藤が見える。ベストポジションやな。この角度で見られてしあわせ。

 「ハナミズキ」 
 前奏のキーボードが、歌に影響しないぎりぎりまで過激なことをやってると感じた。CDでは気づけ へんかったな。これもまた、生ならではの発見。 
 この歌でもまた、ひたすら甲斐の声を聴く。深い詞が甲斐の声でしっかり届けられるのだ。 
 最後の部分。「よに」をうたわずに、「僕の我慢が」の繰り返しに入っていく。 
 全ての音が終わり切ってから、拍手が起こる。みんなじっくり聴いているのだ。

 「サンキュー」と観客に応えて、MCに入る。

 「大阪が、このツアー2番目の場所になります。この街に来たらいつも暴れるんだけど、今回は文珍 師匠からの電話もなく、静かな感じで」 
 でも、静かなまま過ごすつもりなんかないはず。そう聞こえるで。

 「座っていいんですよ。君たちの自由だ」と客に呼び掛け、ジョークも交えつつ話していく。吉本の 話題も出た。 
 すると、客席から甲斐に話しかける声があがる。大阪では特によくあることや。 
 「うるさい。殺す。なんでお前と一対一で会話しなきゃいけないんだ」 
 そこで子どものかわいらしい声がかかった。 
 甲斐もさすがにすごんでみせる訳にいかず、笑い出してしまう。

 自分のスタジオについて。 
 「使ったのが桜井くんと、長瀬くん。・・・・・・2組だけじゃん」と自分でツッコむ。

 「「10 STORIES」というカヴァーアルバムが出て。J-POPの若いアーティストの名曲を 10曲取り上げて。今回はそのプロモーションツアーです」 
 そして、「共同プロデューサーの西村智彦」と紹介。西村が立ち上がる。みんなで拍手。 
 この紹介は予定にはなかったみたい。 
 「西村が座ってほっとしてるのがむかついて、いきなり紹介してやった」なんて言ってみせる。

 「最新アルバムの曲が1曲目なのは、花園の「破れたハート・・・」以来。80年振り?」 
 もちろんそんなわけはないけど、1曲目からカヴァーが続くのは初めてかな。ここまでの4曲、 アルバムの1曲目から4曲目までをそのままの順番で歌ってる。このまま曲順通りに10曲やるのだろうか。

 と、思ってたら曲順が変わった。 
 「Swallowtail Butterfly~あいのうた~」 
 この歌はもとから好き。甲斐のカヴァーもめっちゃ好き。Gyaoで見たライヴヴァージョンはまた さらによかった。今日は生で聴けて最高に感激。甲斐の声が、うたい方が、ほんまにいいねんなあ。 
 松藤がコーラスしてる。甲斐は歌詞を違えもしつつうたう。 
 最後の「響きだして」の後、甲斐は「イェー ウォウウォー」と声をあげた。アルバムとは順序を 変えた感じ。ライヴではこっちでうたうねんな。

 甲斐たちが立ち上がり、イスが持っていかれる。短い前奏がわきあがる。ステージ奥に行ってた甲斐が 、急いで戻って歌い出す。 
 「接吻kiss」 
 アルバムの通り、演奏も歌もなめらかな感触。でも、CDで聴くよりずっといい。めっちゃ心地いい のだ。 
 2番が終わると、すぐにサビの繰り返し。あれ?CDでもこんなに短かったっけ?終わってしまうの がもったいないよ。 
 でも、曲は最後まで早くなめらかに流れ、「ジャジャッ」というビートでフィニッシュ。

 ようやくわかってきた。中村哲がアレンジに加わった2曲、「恋しくて」と「色彩のブルース」は やれへんのや。今日は西村しかおれへんもんね。となると、残りの曲は・・・思わず考えてしまうけど、 先に思いついてしまうのも惜しい気がする。 
 そんなことを思ってる間に細かいリズムが刻まれ始めた。 
 「すばらしい日々」 
 たくましいビートに燃える。やっぱりこの曲はノレるで。 
 甲斐のヴォーカルも、この歌を完全に自分のものに、甲斐よしひろのロックにしてる。 
 盛りあがりまくった曲が収束していくなか、甲斐は何度も「サンキュー!」と叫ぶ。まるでここで ライヴが終わってしまうかのように。

 暗転したステージ。マイクスタンドにいつものマイクが置かれた。きっとここからカヴァーじゃない、 甲斐自身の曲が始まるんや。いちだんとわくわくしてくる。さっきまでのカヴァー曲もめっちゃよかった のに。 
 聴こえてきたフレーズに、会場が大いに沸く。久々のあのバラードや! 
 「I.L.Y.V.M.」 
 「悪かったーよーーお はなーれていて」 
 その詞が、この曲から離れていたこと、長くライヴでうたっていなかったことをも意味してるように 響いた。なかなか聴かれへんかったもんね。 
 甲斐は語尾を伸ばさずにうたっていく。甲斐の声を堪能し、詞をかみしめ、演奏のすみずみまで耳を 傾ける。カヴァーもめっちゃいいけど、やっぱりオリジナルは特別や。最高やなあ。めちゃめちゃ感激する。 
 最後の音が消えていく前に、先走った拍手が沸き起こった。みんなが「もうたまらん!」と言ってる みたいに。

 前奏を聴いて、意外やと感じた。いつの間にか、蘭丸のいない今回はやれへんのやろうという気に なってしまってたから。 
 「レイン」 
 今日の「レイン」はずっと手拍子をしながら。「もっとうたっていいぜ」という甲斐のジェスチャー で、みんなでうたう。 
 「Call my name」で拳をあげる。「抱きしめて」の後でも。そうしたい力強さやった から、衝動に正直に。 
 「できはしなーいー」はもちろん、オーディエンスがうたうのだ。 
 間奏のギターがいい。西村だ。すごい技の披露。テクニックの細かいことまではわからなくても、 その音に感動する。蘭丸のイメージとは違う、新たな「レイン」のギターをつくり上げたね。おそれ入った。 
 この腕があるから、甲斐は西村をツアーメンバーに起用したのだろう。名刺代わりと言うには、 あまりに強烈な一曲。甲斐はあえて初参加のツアーで西村に「レイン」を弾かせたかったんやろう。西村の ギターで「レイン」をうたいたかったんやろう。 
 後奏。甲斐のファルセット。それだけにとどまらず、地の声での叫びもあげる。今夜もまた、今夜 だけの独特の「レイン」やった。

 「I.L.Y.V.M.」と「レイン」。「カオス」と「ストレート ライフ」から1曲ずつや。 もしかしたら、ソロとFIVEのアルバムから1曲ずつ歌っていくのだろうか。 
 そこへ襲って来た衝撃的なイントロ。この歌もやってくれるんや。そういえば、これもソロの曲 やもんね。そんなことに気づく前に、歓声をあげていた。 
 「マドモアゼル ブルース」 
 「ROCKUMENT V」と 「Series of Dreams Tour Vol.1」で 感激させられた曲や。今夜もすごいぞ。高いキーボードが「ヒュルルルルルルルールルルー」って、甲斐の 歌の間にあのフレーズを注ぎ込む。他の楽器も加わって、すごい分厚い音ができてる。 
 甲斐はサビで新しい歌い方だ。「シル クのー ドレ スをー」と間を空け、ずらしている。 
 間奏。今度は左の亮が前に出る。いいぞ、いいぞ。久々のツインギター、二人ともすごいもんね。 
 そして、今回もやってくれた!曲が終わったかに見え、拍手が沸いても、キーボードの心を刺す音色 がつながってる。JAH-RAHのドラムが太いビートを叩き出す。ギターがわきあがる。甲斐はその間に ドラムス台のグラスに口をつけたようだ。そして。 
 「たとえ どんなに」 
 甲斐がもう一度サビを歌い上げるのだ。強く。ほとばしる激情を、まさに振り絞るように。これぞ、 「マドモアゼル ブルース」

 激しいイントロ。野性味のある男っぽいビートが続く。ハードボイルドに違いない。けど、とっさに タイトルが出てこない。「キラー ストリート」か? 
 いや、同じアルバム「ラヴ マイナス ゼロ」でも違う曲やった。「野獣」だったのだ。 
 今夜初めての甲斐バンドナンバー。もう何でもありやもんね。楽しくってしかたがない。今日の 「野獣」がまた、めちゃめちゃかっこいいのだ。アルバムヴァージョンは久々ちゃうかな。 
 甲斐が吐息や唸りを聴かせる。「BEATNIK TOUR 1984  FINAL」で初めて聴いた野獣もそうやったやんな。 
 ライティングはピンクと赤。前野選手のサックスも俺らをますます駆り立てる。 
 このアレンジなら、フィニッシュはビートの2連打や。確信がある。いくら久々でも、 「ラヴ マイナス ゼロ ツアー」とか、体験が体に記憶に埋め込まれてるのだ。 
 「タララララララダダッ!」って果てるビートに合わせ、左右の拳で空を殴った。

 「おおーーーっ!」前奏で声をあげてしまった。これはほんまにめちゃめちゃ久々や。 
 「BLUE CITY」 
 「ストレート ライフ」から2曲目。アルバムから1曲ずつじゃなかった。そんなことはもうどうでも いい。すごいやん。すごいやん。「BLUE CITY」やで。「ストレート ライフ ツアー」より後に 聴けたことはあったのだろうか。 
 こんなに激しい曲やったんや。ライヴ終盤で歌われるのもさまになってる。改めてこの曲の魅力を 思い知らされた。甲斐の「カモン、ベイベー」も激しい。歌も詞も音も熱いのだ。

 前奏でさらにオーディエンスが燃える。 
 「三つ数えろ」 
 「Big Night」ヴァージョンやけど、ひときわ激しい。今の音になってるねんな。甲斐の ライヴはいつもそうや。めっちゃ攻撃的な「三つ数えろ」。昔ミニコミの名前にこの曲のタイトル使った ことを、勝手に誇りたくなる。それくらいいいぞ! 
 2番と間奏前にはキーボードの「キュルルルルル」がなかった。今日はもう無いんやと思ったら、 3番で2回やってくれた。これ、好きやねんな。前野選手の手が鍵盤の上を往復するところも見た。 
 甲斐はやはり「路上」と歌った。このヴァージョンでは「路上」で行くことにしてるのか。

 音が鳴った瞬間、また「おーーーっ!」って叫んでしまった。 
 「冷血(コールド ブラッド)」 
 白い大きな円いライト。途中から青に変わる。そして、甲斐が腕を振ると、ナイフで切ったように 赤に染まる。 
 3番に入るところは、もちろん肘を落とすアクション。今日は左肘から。 
 あのライトが斜めに回転する。右端にいる俺まで、白い光に顔を照らされた。いいなあ、この ライティング。 
 後奏。西村が前に出て弾きまくる。俺の位置からだと甲斐にかぶさるくらい出てる。ライティングを 尊重するイメージのある「冷血(コールド ブラッド)」で、ここまで前に出るギタリストは初めて。 ええぞお。遠慮なくガンガンやってくれえ。

 前奏で「最後の曲になりました」と甲斐。 
 「風の中の火のように」 
 初めから激しいヴァージョン。というより、今まででいちばん激しい「風の中・・・」じゃないのか と感じる。ビートが弾んでる。甲斐はアコギを弾くことなく、強く歌っていく。 
 JAH-RAHのビートが後半、さらに密度濃く強くなる。甲斐はそれに合わせて跳んでいる。 
 「愛なのに」で、赤一色の照明に。揺れる火は、今日はなかった。

 メンバーが左手へ去る。甲斐はマイクスタンドの右まで来て、長く残ってくれる。「甲斐ーっ!」の 叫びをふりそそぐ。 
 甲斐の姿が見えなくなると、すぐに速い手拍子。甲斐とバンドから浴びた熱を帯びたまま。

 バンドが戻って来る。音を出して確かめるようにしてから、いきなり激しい曲を生み出す。 
 甲斐はステージの奥から現れた。サングラスをドラムスの台に置き、前へ進んで来る。ボタンのある 灰色のベストになっている。 
 「漂泊者(アウトロー)」 
 カラフルな大きいライトが点滅してる。スリリングな電子音と激しい演奏がいっしょになって迫って 来る。甲斐はステージの前の端を動きまわる。甲斐の影がどこかに映るのが目に入る。手を打って一緒に 歌っている。燃えて燃えて、今日はもう思いっ切り反動をつけて大きく跳んでやった。そして拳で宙を 打つ。甲斐は俺らにマイクを向ける。「愛をくれえーよーー」「誰か俺に」そこへ向けて、甲斐の方へ、 全力で歌う。このバンドの「漂泊者(アウトロー)」、すごいで。

 JAH-RAHのドラムとカウベルが響く。この入り方、好きやねん。「ギャーギャッ ギャギャ ギャーギャッ」あのフレーズの前半だけを、右の西村が弾く。それからまたJAH-RAHのビートと俺ら の手拍子だけが続く。今度は左の亮が弾く。「ギャーギャッ ギャギャギャーギャッ」またそこまでで ギターは止まる。それから、ツインギターであのフレーズをフルに弾いていく。待ち焦がれてた オーディエンスが熱狂する。甲斐がマイクスタンドを蹴り上げる。 
 「きんぽうげ」 
 歓喜の騒ぎになってる。甲斐が動き歌い、俺らは手を打ち歌う。壁に甲斐の影が映ってる。「くーら やみのなか」甲斐は語尾を突き放して歌う。今日はそっちか。すぐに合わせて俺もその歌い方で声を出す。 甲斐は2番の後では、体を回転させなかった。ギターが動く。ノリオも動く。甲斐が歩み、煽り、手を あげる。「ひびー割れたガラス窓」の途中から、客席にマイクを向ける。いっそうの大声が会場全体から 放出される。

 「メンバーの紹介を」 
 右端。ベースギター、坂井紀雄。 
 右奥。キーボード、前野知常。 
 左奥。ドラムス、JAH-RAH。 
 左奥端。松藤英男。アコギやキーボード。ほかにも。 
 左。元Do As Infinity。ミサイルイノベーション大渡亮。 
 右。SING LIKE TALIKING。西村智彦。 
 ほんまにすごいバンドや!もうずっと感動させられっぱなし。

 今日の流れからしたら意外やった。 
 「HERO」 
 でも、やってくれたらうれしいもんね。今回の「HERO」もめっちゃかっこいいのだ。歌って 拳あげて、盛りあがる盛りあがる。 
 間奏。西村が前に出て弾きまくる。やっぱりいいよお。一郎の間奏もいいけど、西村のもすごいっ。 
 甲斐は「月は砕け散っても」でマイクスタンドを蹴って横廻し。しゃがんでスタンドをキャッチ した。

 甲斐バンドの3曲で、1回目のアンコールは終わり。 
 でも、しっかりもう一度戻って来てくれた。 
 西村が位置についてギターをかけるのを待って、「西村ーっ!」って叫んだ。プレイを讃えたい 気持ちと、ツアー参加に対する歓迎の意思を伝えたくて。ちょっとだけとまどったようにも見えたけど、 手を挙げて応えてくれて、うれしかった。

 そして甲斐がやって来る。左手から歩いて。ピンクのツアーTシャツを着ている。やっぱりピンクも 買うといてよかった。 
 オーディエンスに感謝の言葉を届けてから、MCに入る。

 「ソロになって20年目ということで。今回はソロとFIVEの曲がかなり入ってて」 
 そうか。「20 STORIES」というツアータイトルは、ダブルミーニングやったんや。物語の 見える歌を20曲歌うということと、ソロ20周年ということ。今気がついた。 
 KAI FIVEの曲はまだ「風の中の火のように」1曲しかやってないけどな。甲斐本人から すれば、いつどの形態で発表したかはそんなに意味がなくて、あまり覚えてないのかもしれない。「自分の CDを、自室の棚の目に付きやすいところに置いておくようなことはしない」って言ってたし。書いた時期 とリリースした時期が違うこともけっこうあるようやし。

 「影のプロデューサー」松藤は「HERO」をやることに反対したらしいけど、「やらなくちゃいけ ない状況になったんで」と甲斐が述べる。カヴァーされてCMで使われたりしてるからな。 
 今回は久々の曲とか特にいろいろ聴けてめっちゃうれしいねんけど、松藤もそれに貢献してくれた みたいや。ありがとう。

 「これはやったことあんのかな。わかんないんだけど」 
 甲斐はそう言って間をおいてから、曲名を告げた。 
 「「ノーヴェンバー レイン」を」 
 やったことあるで、甲斐。”Singer”で確かに聴いた。 あの時は大久保のドラムやった。今日はJAH-RAHが重量感のある音を響かせてくれる。 
 この歌が聴けて感激や。FIVEやソロのバラードの中でも、特に人気のある歌。もっともっと ライヴでうたわれていいやんな。詞が沁みるのだ。 
 間奏のあと。「バスが横切る」から、甲斐は前に出てうたっていく。切なさがこみ上げてくる。 
 最後のサビ。「抱きしめる夏の秘密」という詞に、不意に胸をつかまれた。今夜はなぜかその部分が 特別に刺さった。久々に生で聴いたからなんかな。曲の感じ方って、ほんまに毎回毎回ちがうもんやなあ。

 「最後の曲になりました」 
 それから、甲斐はその言葉を口にした。信じられへんぐらい、うれし過ぎる言葉を。 
 「「GUTS」をやるぜ」 
 「オオオオオオーオッ!」 
 俺はもうめちゃめちゃ叫んでしまった。大好きな歌。リリース前に甲斐が「「翼あるもの」と 「漂泊者(アウトロー)」を足したくらいのスケールがある」と言ってた名曲。それなのに、ずっと 聴きたかったのに、このところ歌われてなかったナンバー。それがついについに聴けるんや! 
 ギターのあのフレーズ。カウベルも響いてる。飛び跳ねずにはいられない。続くビートの連打に、 俺は足を踏み鳴らした。 
 甲斐が歌っていく。タフなメッセージを投げ付ける。俺はそれを全身で受け止める。 
 「ガーアーーッツ」甲斐は低い方で歌う。後奏では「ガッツ ガッツ」と繰り返す。 
 その後奏が長い。めっちゃうれしいぞ。西村が初めてステージ左へ行く。亮のもとへ。 「ギャーギャーギャギャー ギュンギュン」の繰り返し。西村が「ギャーギャーギャギャー」と弾くと、 すぐ左にいる亮が、西村のギターのアームを使って西村のギターで「ギュンギュン」と続ける。ひっついて 楽しそうに。その部分が来るたびに。 
 やがて後奏も終わっていく。甲斐がJAH-RAHの方を向き、ジャンプして着地ざま拳を突き上げ てフィニッシュ。 
 この歌を最後に歌ったということは、きっと俺らへの励ましの意味が込められているのだろう。 「Big Year’s Party 30」の前半最後で、 「ROLLING CIRCUS REVUE」のアンコール最後で 歌われた「嵐の季節」のように。 
 「勝つことを信じろ」 
 その言葉が自分に深く刻み込まれた。

 甲斐は前に出て、オーディエンスに応える。バンドはその後ろで肩を組む。気づかずに帰りかけた亮を 呼び戻して、みんなで肩を組んでおじぎをする。全員いきいきした顔してる。俺らも大満足や。 
 甲斐は最後に一人残って、歓声と叫びと拍手に応える。やがて左手へ軽く走って帰っていく。 スタッフが甲斐に大きなツアーバスタオルをかけた。

 ツレと思い切り強くハイタッチした。ほんまにものすごいライヴやったなあ。最高やで。 
 めちゃめちゃロックやった。めちゃめちゃバンドやった。ライヴハウスのノリやったなあ。王道の 展開でしびれさせるのとはまた違って、1曲ごとの激しさで盛りあげるのだ。曲のラストで跳んで、空を 殴る甲斐に燃えた。激しい曲は全てといっていいくらい最後にそうやって燃焼し尽くしたし、間奏でもよく 前に出てくれたのがうれしい。ギターを引き立てにまわる場面は少なめで、どんどん前に来て、左右にも 動きまくってくれた。

 右側の席からは、甲斐がメンバーと視線を交わす表情がよく見えた。ほんまに楽しそうな顔してた。 何回も。メンバーを見て、フッといい表情に変わったり。 
 マイクスタンドから離れたところで叫ぶのも見えた。汗が光ってるのも。キーボード台に上がった 場面。かすれさせた声。どんどん思い出す。 
 JAH-RAHは激しかったなあ。今日もまたすごかったよ。曲が果て、甲斐が「サンキュー!」 って叫んだ後に「ドシン!」「ドスン!ドスン!」って叩いたのにも興奮したなあ。 
 気づいてみれば、甲斐は全く楽器を使えへんかったな。ハーモニカも。これはめずらしいのでは。 その分、ツインギターの力を思い知らされた。よかったよお。これからもツインギターが見たい。

 ライトの色を覚えていない。よかった感触は残ってるねんけど、どの曲がどの色やったかまでは。 夢中になってるからな。バックはカーテンとか、シンプルやったと思う。また明日、味わおう。

 オープニングからカヴァー曲が続くのはもちろん、真ん中にアコギや小編成のバラードがないのも、 新しい構成やったな。「I.L.Y.V.M」でオリジナルの登場に沸き、「マドモアゼル ブルース」に 狂喜し、「野獣」で大爆発した。 
 思えば、「BLUE CITY」が決定打やった。「野獣」と「三つ数えろ」 「冷血(コールド ブラッド)」「風の中の火のように」をつなぐ位置に、久々の曲が入ったことが。 あそこが定番曲やったら、印象が違っていただろう。 
 しかも、アンコールで「ノーヴェンバー レイン」と「GUTS」も聴くことができた。王道の たたみかけももちろん好きやけど、なかなか生で聴けなかった歌や意外な曲がめちゃめちゃうれしいのだ。

 今日の一曲は、やっぱり「GUTS」やな。この歌が聴きたくて、今日も Welcome to the ”GUTS FOR LOVE” Tourのツアータオルで来てん もん。ツアータオルを掲げたい気分やった。 
 ALTERNATIVE STAR SET ”GUTS”の 思い出深い四国に行った今年、 再び「GUTS」が聴けたんやなあ。 
 それに。「GUTS」がアルバムのタイトルチューンになったのは、甲斐が野茂を見たから。今度は 松坂が海を渡った年に歌われたんや。

 明日も「GUTS」を聴くことができる。これ以上のことがあるか。

 

 

2007年4月14日 大阪なんばHatch

 

今宵の月のように 
歌舞伎町の女王 
くるみ 
ハナミズキ 
Swallowtail Butterfly~あいのうた~ 
接吻kiss 
すばらしい日々 
I.L.Y.V.M. 
レイン 
マドモアゼル ブルース 
野獣 
BLUE CITY 
三つ数えろ 
冷血(コールド ブラッド) 
風の中の火のように

 

漂泊者(アウトロー) 
きんぽうげ 
HERO

 

ノーヴェンバー レイン 
GUTS

甲斐よしひろ アコギなKILLER GIG 2006

2006年10月7日(土) 岸和田市立浪切ホール

 

 早起きして明石へ行き、 高校野球秋季兵庫大会準決勝の2試合を見た。JR・地下鉄・生まれて2回目の南海電車を乗り継い で、大阪南部の岸和田へ。今日は近畿を縦断してる気分や。 
 岸和田駅前の商店街には、だんじりグッズを売っている店もあった。アーケードを抜けると、歴史を 感じさせる町並み。その道を、海の手前までひたすら真っ直ぐ進んでいく。

 ショッピングモールの左に、浪切ホールはあった。外観はオペラハウスのようだ。とても立派で 美しい。 
 客席もきれいやった。左右にある桟敷席が魅力的だ。僕の席は右端に近いけど、どうせ端っこなら 桟敷席で特別な体験をしたかったと感じられるほど。同時に、少しでも真ん中寄りで見たいという欲求も 当然あるねんけど。 
 ステージには、メンバー3人のイス。キーボードが最初から左側に設置されている。 
 「セイリング」などのBGMが流れるなか、開演を待つ。

 「ウィスキーバー」の歌声が高まる。”アコギ”なPARTY 30 と同じ曲で入場するねんな。前方客席の左右、客席後方、二階席の壁、会場全体が光と影で浮き彫りに なる。 
 現れた甲斐は、サングラスをかけている。白のジャケット。黒のシャツ。英字デザインの黒い Tシャツ。凝ったバックルの白いベルト。ストライプの入ったズボン。 
 松藤と、サングラスのないクラッシャー木村もポジションについている。ギターの松藤が右。 ヴァイオリンを手にしたクラッシャーが、キーボードのある左。 
 ステージの左右で炎が揺れている。曇り空の背景が浮かび、虹のライトが「観覧車」を思わせる。

 ギターの前奏でも、「観覧車」かと思った。そこへ、ヴァイオリンであのフレーズが届けられる。 
 「スウィート スムース ステイトメント」 
 ほんまに久々や!Series of Dreams Tour  Vol.3でもリハーサルはしたって言ってたから、編成の変わる今回こそやってくれるん ちゃうかと思ってはいたけど。1曲目とは! 
 深く愛し抜く、大好きな詞が、甲斐の声で沁みてくる。これが聴きたかったのだ。 
 「ザザザザッザザザ」と繰り返しているギターで、CDとは全く違った印象になっている。速めの 演奏で、勢いが感じられる。 
 1番の「君を見るまで愛していると告げたことさえなかった」だけ、ニューヴァージョンの詞だった。 
 サビは3人のハーモニー。 
 甲斐は2番も「too muchかい?」とうたった。「mismatchかい?」とうたっていた 第1期ソロのライヴヴァージョンから、オリジナルの詞に戻したのだ。 
 生で「スウィート スムース ステイトメント」が聴けるという感激。この1曲だけでも、今日来た 甲斐があったと感じる。甲斐のライヴは、いつもそう思わせてくれる。

 「裏切りの街角」 
 ヴァイオリンが入ることで、こんなに変わるんや。改めてそう強く感じる。チェロが特徴的だった Classic Kaiとも違って、また新鮮だ。 
 しかも、甲斐が吹くハーモニカとクラッシャーのヴァイオリンが、ケンカせずにとけ合ってる。 
 一旦イスに腰掛けたクラッシャーが、「チュッチュルル チュルルッチュチュチュチュ」の後から 再びヴァイオリンを奏で出す。 
 甲斐がラストをゆっくりうたってくる。松藤とクラッシャーが呼吸を合わせ、最後の一音を弾き 切った。

 「ビューティフル エネルギー」 
 甲斐がほぼワンフレーズごとに、ヴォーカルに強弱をつけていく。静かに響かせたり、声を高ならせ たり。その声が心地いい。言葉の印象も際立って胸に届いてくる。 
 甲斐は今回も「しれーなーいからーぁ」の語尾を下げてうたう。 
 2番は松藤がうたい出す。ヴァイオリンが1番と違った奏法。音を細かく震わせるトレモロで、 メロディーをつむぎ出す。 
 「もう 二度とーー」は甲斐と二人で。松藤は「しれーなーいからーーー」と声を伸ばす。 
 ヴァイオリンの間奏が、この曲も美しい。そして、「ビューーティフル エーーナジー」の ハーモニーも。

 甲斐は歓声に応え、このアコギツアーが沖縄宮古島まで続くことを告げる。 
 「最後まで楽しんでってほしいと思ってます」 
 その言葉が、最初のMCのしめくくり。

 ヴァイオリンの前奏。この音が聴きたかったから、やってくれると思ってたよ。この編成でやらない 手はない。 
 「かりそめのスウィング」 
 甲斐は手を打ったり体を揺すったりしながらうたう。いいノリだ。間奏に入ると、軽く踊ってみせる。 「軽くダンスしてね」という「PARTY」のMCを思い出す。 
 この曲も強弱をつけたうたい方だ。手を叩くように振る、新たなアクションも見ることができた。 
 フィニッシュで「オーイェー」の声。曲が終わると、甲斐がクラッシャーの名前を呼び上げた。

 「きんぽうげ」 
 松藤甲斐ヴァージョンで、穏やかに。 
 間奏のヴァイオリンが、やはりいい。オリジナルの音を感じさせながら、独自のメロディーを 連ねていく。アルバム「松藤甲斐」で松藤がやりたかったというフルートの音も、クラッシャーが ヴァイオリンで表現してる。 
 「ひびー割れーたガラスー窓」 
 このアレンジだと、ここからの部分の詞も、甲斐の声で聴くことができる。 
 後奏。甲斐と松藤が「ダダダダダ ダダダダダ」と声を重ね、やがて「フーフフー」という甲斐の ファルセット。 
 甲斐が今度は松藤の名前を呼び、松藤と松藤の曲を讃えた。

 今夜のオーディエンスを「大阪なのにカタい」と言う。「そういうのをほぐしていくのも好きなん だけど」と、雰囲気をほぐすMCへ。

 「きんぽうげ」が松藤の曲なのが悔しいと言ってみせる。 
 「その前にうたった「かりそめのスウィング」は、「裏切りの街角」ほど売れなかったとレコード 会社から文句を言われた。30万枚売れたんだからいいじゃないか」

 だんじりの街、ここ岸和田について。 
 「博多にも山笠があるから。(岸和田は)博多と似てると思ってる」 
 井筒監督の映画「岸和田少年愚連隊」 は10回見たという。「甲斐よしひろ ONE DAY IN OSAKA」という名作TV番組で、井筒 監督と対談もしてたね。 
 本当に石を投げつけるリンチのシーンを挙げたりしつつ、「あのイメージです。僕の岸和田に対する イメージは、あの映画からできてます」 
 「博多では、山笠の期間はあの山笠の格好が正装だからね。ホテルでも何でも、あの格好で入れる んだ。締め込みで」

 祭りの街は祭り好きの男たちが前面に出ているが、実は・・・という話。 
 博多でも表向きはそうだが、嫁が後ろから糸を引いているんだという。 
 「男たちが座敷で宴会して刺身やなんかを食べてるとき、女たちは台所で中落ちやふぐの皮を食べ てて。俺は末っ子だからどっちも行き来して、こっち(台所)の方が全然うまいじゃん!と」

 このツアーで巡ってる街のこと。 
 お兄さんが訪ねて来て驚いたが、その街が単身赴任先だった。 
 津の隣に阿漕(あこぎ)という、このツアーにぴったりの駅を見つけた。阿漕の漢字を説明する のに、「漕げよマイケル」を挙げていた。やはり音楽の教科書に載っていたそうだ。

 今日の会場もそうだけど、地方のホールはどこもきれいで施設がいいらしい。 
 「(歴史のある)京都会館なんて、ウォシュレット付いたの、つい最近なのに」 
 「十数年前の第三セクターあたりが絡んでるんじゃないかと睨んでるんだけど」

 不況で命名権を売ったホールについても言及する。 
 「渋公って言えないじゃん」 
 僕は、渋谷公会堂の名前が変わったの、知らなかった。新しい名前も含めて、びっくり。

 かつての外務大臣の発言に対するコメントも出た。僕もニュースで見て同じように思ってたし、 ごく真っ当な意見やと思う。

 「客がカタい」という話に戻って、大阪に遠慮は似合わないと言う。 
 「君たちに(激しいのと大人しいのの)中間は似合わない」 
 その言葉に、「ハイ!」というめっちゃ元気な返事が飛ぶ。 
 甲斐は「そういうの、ムカツク」と言ってみせてから、「どっちだ」と自分でツッコんだ。

 「再結成のときのシングルを」 
 「甘いKissをしようぜ」 
 甲斐はサビのみ、手を打つ仕草。 
 僕は歌に入り込み、甲斐の声を堪能したくて、2番の前半は手を打たなかった。 
 「アマイ大人になってさ いろんなもん削って つまんない顔していちゃ お前に逢えない」 「夢と罰みたいなKiss」詞が沁みる。 
 「キスをしたんだあーぁ」とうたいながら甲斐は、くちびるのあたりから右手をはなした。

 再びMC。福岡の小学生は、体育の時間などに動くとき、「やァ!」という掛け声をあげていた そうだ。「体操の隊形に開け」「やァ!」というふうに。 
 飲み屋でなぜかその話で盛りあがってた。そしたら、店の女の子が長崎で、「長崎でも「やァ!」 言いますよ」と教えてくれたという。 
 大阪のうちの小学校では、大運動会の組み立て体操のときだけ言うてたな。「サボテン、用意!」 「やァ!」とか。

 次は「安奈」だと告げてから、甲斐は「通常のツアーでこの曲をやるときは、カラオケ状態になっ てる」と言う。前奏が終わると、みんなが一斉に歌い出す。甲斐のライヴでは、バラード以外どの曲も みんなそうやけど。 
 「あのシステムは、おかしいよね」と笑う。 
 「今日は(アコースティックだから甲斐の歌声を)ちゃんと聴けるでしょう」

 そうして始まった「安奈」。ヴァイオリンとともに。 
 「Classic Kai」の後、クラッシャー木村が語っていた感想がよみがえる。「甲斐さんが、 ヴァイオリンの音色を聴いて「安奈」をいつもよりやさしくうたった、と言っていたのがうれしかった」 
 今夜も甲斐はやさしくうたっている。そのことをたしかめるようにしながら、聴き入ってゆく。 
 「安奈、お前に会いたい」はオーディエンスにうたわせる。それから「愛の灯をともしたい」まで、 客席にゆだねたり、甲斐もいっしょにうたったり。そして、「サンキュー」と言ってから、最後のサビを うたい始めた。

 緑の照明。甲斐の足元は赤く染まっている。 
 「LADY」 
 甲斐は強く歌う。激しいバラード。これが甲斐のバラードだ。松藤のギターもあくまで強く。 
 1番からすでに、サビ前の「ああ、LADY」を、「ああ」なしで後ろを上げるように呼び掛けた。 
 「からのポケットに」からが特にすさまじい。「にじーをー」と伸ばさず、「虹を」と詰めて歌う。 「だけどー今ー帆をー上げー高い波をくぐりーぬけー」声が濁ろうがかまわず、ひたすら強く歌い切る甲斐。 
 俺も船を出すぜ!

 「BLUE LETTER」 
 このバラードでも、松藤は初めから「ザカザーン」と分厚く大きな音を掻き鳴らす。 
 甲斐はヴォーカルに強弱をつけてうたっていく。 
 「恋におおーおち」「虜にいなったあー」「だけど心はなーれ いつか 別れてきーたー」 
 フレーズの区切りごとに、キーボードの高い音が曲を彩る。クラッシャーが奏でているのだ。 
 サビは最後を短く、「ブルーーレタ」。「”アコギ”なPARTY 30」から、このうたい方に なっている。 
 ホールにある音が甲斐の歌声だけになる、3番中盤がやはりたまらない。

 前奏のギター。歌入り前が今までにないアレンジになっている。甲斐にも新鮮に響いているようだ。 ヴァイオリン入りのアコースティックライヴだからと立つのをがまんしていたオーディエンスが、立ち 上がりはじめる。これからやって来る大合唱の波の兆しに、じっとしていられないのだ。甲斐がマイク スタンドに近づいた。「お前の髪に」 
 「ナイト ウェイヴ」 
 ヴァイオリンの調べが心地よい。「Classic Kai」の「破れたハート・・・」があんなに 素晴らしかってんもん。この三部作に合うはずやんな。 
 甲斐は「ウーウウー」となめらかに歌っていく。甲斐の歌声を聴き、ヴァイオリンとギターに包まれ、 手を打っての大合唱。気持ちよくって、うれしくて。甲斐はラストのみ、「ウォーオオーオ アーアアー」 と大きく声を伸ばした。

 ライトが点いた瞬間、スタッフ2人の姿も映し出された。しかし、甲斐はそんなことに構いやしない。 自らの衝動どおりに歌っていくのだ。 
 「漂泊者(アウトロー)」 
 ステージのバックでカラフルなライトが流れ、光が2つ回転している。アコースティックでも拳を 上げる。歌も演奏も力強いから。もはやすわってる奴なんているもんか。「漂泊者(アウトロー)」は 今夜も激しく熱いのだ。 
 間奏は甲斐のハーモニカ。そして、クラッシャーのヴァイオリン。互いが意識し合ってる。 相手を尊重しつつ、自分が音を出すとなったら存分に。

 「風の中の火のように」 
 初めから激しい。甲斐と松藤と、ギターも二つだ。 
 「そんなとき君の名を呼ーぶーー」「寒さに目が覚め自分をー抱くーー」「風の中の火のようにーー」 コーラスが重ね合わされる。 
 燃えるオーディエンスとともに曲も熱く突き進んでゆく。 
 甲斐が「愛なーのに」と歌うと、バックが真紅に染まる。それから、三人で「風の中の火のように」 と3回繰り返す。そして甲斐一人で、「火のーようにーー」を3回、最後は「火のーーーーっ」と 張り上げた。

 美しいメロディーが会場を渡る。ストリングスによる前奏が流されているのだ。これは 「Classic Kai」の音源に違いない。クラッシャーを待って、いっしょにコーラスから入って ゆく。 
 「破れたハートを売り物に」 
 アコギヴァージョンでも、「落ーとーしー」と遅くならない。オリジナルと同じく「落ーとし」と 詰めて歌うアレンジになっている。 
 甲斐はほほえんでいる。しあわせでしかたないって感じ。この瞬間、この場、この音が気持ちいい んやろう。 
 間奏の後も、甲斐は「今夜はここで静かにしなくていい、来いよ」という仕草。オーディエンスにも 「かなーしみやわらげ」「俺ーの愛はー」と、ところどころ歌わせていく。続いて三度訪れるサビの 大合唱で、本編は大団円へ。

 1回目のアンコール。甲斐とクラッシャーの二人がやって来る。クラッシャーはホルターネック。 ラメも見える。

 「冷血(コールド ブラッド)」 
 甲斐が激しくストロークするギターと、クラッシャーのヴァイオリン。ライトは緑と、下が赤だった か。「うらんでも」の前から鮮やかさを増すのが印象的だ。そこからのヴァイオリンがスリリング。 この曲独特の怖さ、冷たさを感じさせるのだ。 
 間奏で甲斐のアコギが高まる。それに連れてヴァイオリンの攻撃も強まってくる。上って、上りつめ ていく。 
 再び後奏で二つの楽器が絡みつく。速度を上げ、空気を震わせ、やがて果てた。

 甲斐がギターをスタッフに渡しかけてから、やっぱりまた肩にかける。 
 「松藤を呼び戻そう」の声で三人が揃った。 
 前奏は「観覧車」かと思った。1曲目に続いて、今日2回目や。でも、今度も別の歌やった。 
 「HERO」 
 おお、そうやったんか。それならもちろん、拳を2連打や!! 
 今夜も、「HERO」の熱さと快さが伝わってくるアレンジ。甲斐も詞を乗せるテンポを緩めたり しない。「砕け散っても」は客にゆだね、すぐに「HERO」と甲斐たちが続けるのもいいぞ。 
 いい歌やなあ。つくづく思う。ヒット曲だからとかは何も関係なく。ただ真っ直ぐ聴けば、ちゃんと 自分の胸に届くのだ。

 前奏は松藤のギターから。 
 「最後の夜汽車」 
 甲斐の歌だ。声のよさが、詞のよさが、沁みること。せつない。響かせる語尾の余韻がなおさらに。 
 しかも、ヴァイオリンがまたすごいのだ。間奏であのフレーズを奏でたかと思うと、2回目は それを高い音で聴かせてくれる。この抒情に満ちた調べ。この編成で歌うにふさわしいよなあ。

 余韻を胸に手を打ち、「甲斐ーっ!」って叫んでいると、2回目のアンコールが訪れた。甲斐は 白のTシャツに着換えている。

 甲斐と松藤が小さな楽器を手にしている。ウクレレだろうか。こういう楽器を見るといつも、 「Singer」の武道館を思い出す。「バス通り」やな。 
 ところが、始まったのは予想もしない曲だった。 
 「ハート」 
 おおお、ライヴで「ハート」なんて、初めてや!この歌に対する思いが一気に押し寄せて来る。 それと同時に、この貴重なステージを少しでも見逃すまいと、意識がさらに甲斐へ集中していく。 今この時だけの「ハート」を焼き付けるんや。 
 演奏と曲調に合わせて、甲斐は軽快な歌い方。力の抜け加減が絶妙やねんな。声も小さめで、口を マイクの方に突き出すようにして歌っている。 
 「天気雨」という言葉に、今日の明石を思い出した。それから、すぐに詞の本来の意味が伝わって きて、いつもうまくはいかない恋愛を思う。生で甲斐の歌を聴くと、ひときわしっかり感じられる ねんな。 
 甲斐は後奏で「ハ~ア~~~」「ハ~」と声を伸ばす。これが「ハート」のライヴヴァージョン なんや。 
 早めの暗転でフィニッシュ。

 オーディエンスへの感謝を述べる最後のMC。 
 会場のそこここから飛ぶ元気な「やァ!」の声に、甲斐は「「やァ!」禁止」と言って笑った。

 次にやる最後の曲は、長い間ステージで歌っていなかった。特別なイベントで歌ったら、泣いている ファンがいたらしい。 
 「この曲で泣くんだ」 
 それで思い直したのかな。最近はアコギで歌ってくれる機会が増えた。

 「バス通り」 
 甲斐がほほえんでる。 
 「まぶしかったのーーーーーー」 
 声の伸びがいい。思わず引き込まれていく。この歌声だけでも、聴く者を泣かせる力がある。 
 ヴァイオリンのトレモロが、「バス通り」と、ライヴの終わりを彩った。

 僕らは甲斐たちに目一杯の拍手と声をおくる。クラッシャーが去る。松藤はマイクスタンドに 近寄って、「甲斐よしひろ」って紹介して行った。こんなふうに、メンバーが甲斐の名前を呼び上げるの って、初めて見たな。拍手と歓声、「甲斐ーっ!」の叫びがまた激しくなる。 
 それらに応える甲斐。マイクスタンドの後方に離れて立っているけど、「サンキュー」と言っている のが小さく聴き取れる。それから、マイクスタンドに近付いて、あらためてみんなに聴こえるように 「サンキュー」と告げた。

 甲斐のいなくなったステージを眺めながら、今夜のシーンを思い返す。どの曲でのことだったか 思い出せない情景。 
 キーボードの高い音。客席横の壁に三人の影が映っていたところ。ヴァイオリンを指ではじく 奏法。甲斐にMCの途中で急に紹介され、驚きつつ立ち上がったクラッシャー。

 バンドツアーのROLLING CIRCUS REVUE との違いが際立って来たな。アコギツアーだから聴ける曲、バンドツアーだから歌う曲というのが、 できてきてる。しかも、それぞれにめったに聴けない曲を取り上げてくれるのだ。これから、ライヴで いろんな歌が聴けるぞ。 
 ますますおもしろくなってきた。

 

 

2006年10月7日 岸和田市立浪切ホール

 

スウィート スムース ステイトメント 
裏切りの街角 
ビューティフル エネルギー 
かりそめのスウィング 
きんぽうげ 
甘いKissをしようぜ 
安奈 
LADY 
BLUE LETTER 
ナイト ウェイヴ 
漂泊者(アウトロー) 
風の中の火のように 
破れたハートを売り物に

 

冷血(コールド ブラッド) 
HERO 
最後の夜汽車

 

ハート 
バス通り

甲斐よしひろ ROLLING CIRCUS REVUE

2006年2月10日(金) 大阪なんばHatch

 

 1階席最後方に立ち見の列ができていた。当日券で入場したファンだろうか。 
 昨日より客の入りが早い。開演前の歓声や拍手も多いぞ。 アナウンスが今日も3回入り、あのBGMが流れてくる。口笛。歌。ムチの音。僕はもちろんすぐに 立ち上がる。みんなの立ち方も早い。昨日でわかってるもんね。 
 手拍子がずれてくる。照明が落ちて、拍手に変わる。そして、より大きな手拍子へ。今度は しっかりと合っている。歓声が飛ぶ中、バンドがステージの上へ。

 甲斐は黒のスーツ。よく見るとピンストライプが入っている。白いシャツにネクタイ。黒の ベルトのバックルはシンプルな銀と思いきや、両端に飾りがあることに気づいた。

 あの低い音。いきなり曲の世界が立ち現れる。これが最初に攻めて来るとは。 
 「ALL DOWN THE LINE 25時の追跡」 
 ものすごい。歌も演奏も。引き込まれ、圧倒されるこの迫力。 
 間奏の無線。甲斐は背中を向け、左手にマラカスを2つ持って、手を打っている。 
 「ああ 運に見放され」からは、今日も声を張り上げて歌った。 
 なんでやろう。昨日もすごかったのに、1曲目だとさらに強烈に感じる。曲順の持つ力を あらためて体感。最高のオープニングやった。

 伸びる最初の一音。「BIG GIG」ヴァージョンとは高さがちがう。昨日気がつかなかった のも当然やな。 
 「危険な道連れ」 
 左と右は緑の照明で、真ん中は赤。サビに入ると、左が緑で右が赤になる。 
 甲斐は膝を高く上げて歩きながら歌う。手の指を開いて、マイクは曲げた親指にはさんでる。 もう一方の手は完全に5本の指を開いている。 
 前野選手のサックス。長い間奏だけでなく、サビでも効いている。 
 「俺は信じてる」の前に一瞬後ろを振り返り、また前を向いて歌うアクションがかっこよかった。

 イントロで「おおおっ!」と声をあげてしまった。はずむビートに合わせて跳ばずにはいられ ない。歌入り前にあの音で拳を上げる。 
 「ランデヴー」 
 ずっとドラムが叩いている。これがめちゃめちゃ燃えるのだ。しかもハイペース。僕は思わず、 1回目の「デッドメンズ カ~ヴ」をコーラスといっしょに歌う。甲斐は「夜の中裂ーけ入って~ ゆくーー」「闇の中」「嵐の中突き進んでゆくーー」とほぼオリジナル通りの詞で歌う。 
 「お前はあ笑ってーえる 俺の愛を信じてーええ」痛快に駆け続ける二人の姿が浮かぶ。 
 大好きな歌を久々にやってくれた。俺はこの曲好きやと実感した。それにしても、こんなに すごい「ランデヴー」も初めてや。どの曲もやる時はその時その時のベストのアレンジにつくり上げ てるやんな、いつも。

 最初から怒涛の3曲やった。ものすごい燃焼。曲の後半に、アフリカの太鼓を思わせる野性味の ある低いドラムが鳴ったのは、「危険な道連れ」だったか「ランデヴー」だったか、もはや思い出せ ない。 
 また、スーツ姿の甲斐がいい。やっぱりスーツでのアクションが最高に似合ってるよ。

 静かなバラード。かすれた笛のような音が漂う。 
 「荒野をくだって」 
 間奏でマイクスタンドが揺れる。甲斐は少しタイミングを遅らせてから、「二人を引き裂いた いくつかの」と2番をうたいはじめる。 
 「西へ」を響かせる甲斐の声。この情感。 
 甲斐は片手を胸に当て、ゆっくりと後ろへ歩み去った。

 このツアーのハイライトの一つ。あのメドレーが始まる。 
 「悪いうわさ」 
 昨日はダークな照明という印象やったけど、あらためて見てみると、それほど暗くはない。 それでいて、この曲の持つ苦さを表現している。 
 甲斐は背中にまわしたアコギを、2番後の間奏で弾き始める。今日も。 
 後奏。甲斐がアップストローク。それにともなって、バンドの音が一音ごとに高くなっていく。 そして、あのうねりへと連なっていく。 
 「ダニーボーイに耳をふさいで」 
 甲斐がせつない声をあげる。それが聴く者の胸を締め付ける。 
 後奏でさらにもう1回「いつものよーうにー いつものよーうにー ドアを閉ざーしてー」と 繰り返して、曲が終わりに向かう。

 キーボードのソロ。今日は短めに感じた。その音色を背に甲斐が言う。 
 「男も女もぬくもりがないとやっていけない。そんな物語の歌をやります」 
 蘭丸のギターがはじける。イントロの前半と歌入りの直前、キーボードが「キュルルル」と走る。 
 「港からやって来た女」 
 ステージもオーディエンスも大騒ぎ。甲斐は股間を手で押さえるようなアクションも。 
 2番のサビ。甲斐が蘭丸のところへ行く。右手にマイクを持ち、左腕は上げて振り廻し、 さらなる熱狂をあおる。マイクを左手に持ち替えて、右手を蘭丸の背中にあてる。 
 静かな3番前半では、「み、見つーめ」のうたい方。サビ前から再び盛りあがっていく。 
 「フーーっ!」は4回。甲斐は「バイー バイ バーーイっ」と早めのタイミングで仕掛けて 来ることが多かった。 
 さらに後奏は続く。甲斐がドラムスの台に上がる。蘭丸が弾きまくってる。甲斐が JAH-RAHにも言ったのか、蘭丸にもっと弾けよと合図する。いつもより長く聴けた蘭丸の 激しいプレイ。次のタイミングでついにフィニッシュ。

 甲斐の「まだまだやるよ!」に、歓声が応える。 
 「ダダダンダンダダン」あのフレーズが響く。最初の2つは間を置いて。そこから間隔が 詰まって続いていく。JAH-RAHのドラムが2回炸裂。 
 「ボーイッシュ ガール」 
 甲斐は「ダダダンダンダダン」のすき間で、妖しいため息を聴かせたりする。「ボーイッシュ ウーマン  マーーン」という歌い方が今夜も快感や。 
 燃える間奏の、その前半。引っ掻くような音がHatchに流れる。 
 後奏。甲斐はステージ左で、「シュバチュク」とか「ベイベー」とかの技を聴かせる。それを 短くとどめると、「ボーイッシュガーアアル」と音を高めながら繰り返す。それから右へ移って、 「シュバチュク」の声。JAH-RAHの2連打が「ボーイッシュ ガール」を終わりへと導く。

 ここで、MC。

 「デビューリリースした74年の頃は、チャートの7割が歌謡曲と演歌で、3割がニュー ミュージック。マイペースの「東京」とか。なんで今それが浮かんだのかわかんないけど」 
 「甲斐バンドの活動時期と同じくして、だんだん割合が変わってきて。甲斐バンドの長い旅は、 ロックのパーセンテージを獲得する旅でもあった。今じゃ逆転してる」

 「今思い出したけど、一昨日NODA-MAP見に行って、トイレに行って、用を足して、 洗面所に並ぶだろ。洗面台が3つあって、20代の若者が3人ともうがいしてんの。「ガラガラ、 ペーッ」て。1人ならわかるけど」 
 「人を笑わしてナンボの街だから、俺を笑わしにかかってんのかな、3人で。と思って見ても、 真剣な顔してて。笑わせるには冷静さとある種の読みが必要なわけで、逆にそういうことなのかなと」 
 確かに、ボケる時は自分が笑ってはいけないというのは、笑いの基本ではある。 
 「昨日は文珍と、・・・どこだっけ。2回焼けたとこ。包丁一本」 
 客席から「法善寺横町」という声が多くあがる。 
 「(自分は)思い出すのが遅いな。もうちょっとで、さらしに巻こうかと」と笑わせる。 
 「(文珍には)「野田くんの客やからちゃうかー」って、ひと言で片付けられたけど」 
 昨日言ってた「高名な落語家」って、文珍やったんか。 
 話題は楽屋ののれんへつながっていく。野田秀樹古田新太の楽屋ののれん、昨日はカトちゃん なのか志村けんなのかわからなかったけど、カトちゃんぺだとわかった。

 「博多から大阪へ。ちがう。なんで大阪なんだ。博多からから東京へ。東京からN.Y.へ」 
 「なんで行ったかというと、エコーが違う。日本にはエコールームがなかった。ヨーロッパでも アメリカでも、エコールームっていうのがちゃんとあって。ルームエコーっていうんだけど。日本は 機械でエコーをつけてた」 
 「俺の歌はこんなもんじゃない、と思ってて。松藤のドラムはこんなもんだと思ってたけど」 
 松藤が抗議のポーズを取ると、「すぐツッコんでくれて、よかった」 
 「それで向こうで録ったら、俺の歌、よくなってて。松藤のドラムもよくなってて。じゃあ、 俺がそれまでに何回か松藤にした説教は何だったんだ」 
 これに松藤がウケる。このやり取りの間松藤の姿を浮かび上がらせていたライトが、しばらく するとそっと消えた。 
 「ボブ・クリアマウンテンとやって。その後、ジェイソン・カーサロと3枚つくった。僕は N.Y.からロンドンにも行って。東へ東へ。で、この前は東京のO-EASTっていうところで やって。この程度の東かと」というジョーク。

 このツアーに関して。 
 まず、1か所で続けてやりたかったということ。 
 それに、甲斐バンド解散から20年。「それに何の意味があるのかって感じなんですけど、 「あなたはやる方だから」と言われて、甲斐バンドナンバーオンリーでやる」 
 「それがローリング・サーカス・レヴューの意味っちゃあ意味なんだけど。まあ、あって無い ような意味なんですけど。それくらいのことです。クリエイティヴって、そういうことだからね。 誰かをちょっとよろこばせたいとか、そういうところからだから」

 「その、ボブ・クリアマウンテンとの三部作の中からの曲をやりましょう」 
 客席から「キャーッ」という声があがる。 
 「「BLUE LETTER」を」 
 さらなる大歓声が起きる。

 白いライト。両横から青の光り。ステージ上方はオレンジ。 
 松藤は1番からアコギを「ザカザーン」と弾く。音のない間をつくり、ずっと続けては弾かない。 
 甲斐は「ブルーー レタ」と、語尾を伸ばさずに響かせる。 「”アコギ”なPARTY 30」もこのうたい方やったなあ。 
 少しためてうたったりもする。2番をうたい終えると、立ち上がってハーモニカを吹く。3番 では甲斐の声のみが会場に響く。 
 今夜のアレンジも素晴らしい。

 「シーズン」 
 甲斐はアコースティックギターを弾いている。 
 照明は水色。緑もあるが、水色に溶け込んでいる。 
 「ウーウウ」というコーラスが胸を突く。切なさを高めているのだ。

 この後が「ナイト ウェイヴ」だったら、サンストのハガキが言ってた「海辺の三部作」を全部 続けて歌うことになるなと思った。が、始まったのは別の曲。 
 「ビューティフル エネルギー」 
 ここでも昨日と曲順が変わってる。「シーズン」と「ビューティフル エネルギー」が逆に なっているのだ。 
 今日はこの曲を、「王道やな」と感じた。歌詞にダブルミーニングが多いし、シングルで松藤が 歌ってたし、やや異色の曲というイメージもあってんけど。なぜか今日は、キャッチーなラヴソングと して届いてきた。 
 「オーロラーが のぼっていくよーぉーー」と、甲斐はこの部分の語尾を下げながらも伸ばして いった。 
 今日もはっきり「声をたてようぜーー」と歌った。これからはこの詞でいくのかもしれない。 
 曲が終わると、甲斐が叫んだ。「ツインギター、松藤英男!」

 「氷のくちびる」 
 甲斐はオレンジの大きなボディのエレキ。照明はやはり、黄緑のイメージじゃない。このツアー から変わったのだ。サビで白が混じり、横の上から黄緑も射す。甲斐のギターに合わせての変更なの だろうか。 
 1番に続く間奏。甲斐が腕を曲線的に動かして、蘭丸に「どうぞ」と場所を示す。甲斐に赤、 蘭丸に紫のスポット。「夕暮れのカフェ」まで蘭丸は甲斐の右で弾く。松藤の縦笛が聴こえる。 「ヒュルルルルルルー」という調べも。 
 蘭丸は前へ出て、腰を落として弾きまくり。甲斐は「アアアアアアアアアアアアアアア」を フルで2セット。それから「フーーーーーーーッ」というファルセット。そして、右後ろへ行き、 ギターに没頭する。

 「ポップコーンをほおばって」 
 「埋れ陽の道にすべては消えうせた」「君は翼がある事を知って恐かったんでしょう」甲斐の メロディーが途切れるごとに、JAH-RAHのすごいドラムが入る。最初から大迫力や。 
 間奏で歓声が沸く。甲斐がマイクスタンドの右で左で、オーディエンスをいっそう煽る。 静かなパートに入っても、観客の手拍子は強いまま続く。蘭丸が細かく弾き続けてる。JAH-RAH のドラムは「ズシーン ズシーン」と重く響く。 
 サビの繰り返し。青いストロボ。拳を突き上げて歌う俺ら。白いライトが入るタイミングが つかめた。拳の三連打に合わせて赤のライトが光る。バンドのフィニッシュとともに拳を二連打!!

 「翼あるもの」 
 「俺の声が聞こえるかい」から最後まで、甲斐は強く歌い切った。 
 「フラウウェイ  ハウウェイ  フラウウェイ」 
 甲斐が両手を広げる。今日は下げずに、そのまま上へ。甲斐の腕を影が上る。音が高鳴る。 両手を下へ。再び音が高まる。甲斐が両手を広げる。 
 何の涙かわからないうちに泣けてきた。泣ける「翼あるもの」やった。

 「漂泊者(アウトロー)」 
 イントロのギターが弾む感じ。バックにカラフルなライト。白い光が横へ横へ走る。 
 「誰か俺に」の時に聴こえるピコピコという音がいい。「冷血(コールド ブラッド)」の 血のしたたるような音を、もっと明るい高さにしたような。これが切羽詰まった感覚に追い討ちを 掛けてくるのだ。 
 「爆発」から「しそう」までのアクション。甲斐は今日もすぐに立ち上がった。 
 甲斐が後ろを向いて、両手を下の方で広げる。すると、バンドから大音量が湧き上がった。 
 甲斐たちの迫力に圧倒されたまま、本編が終わった。

 歓声と拍手、名前を呼ぶ声のなか、メンバーが再び位置につく。 
 甲斐が左ソデから歩み出て来る。黒いジャケットに少しラメが入っている。ズボンは変わらず か。 
 「キラー ストリート」 
 おお、今日も聴くことができるんや!このツアーで久々に取り上げられた、昨日の1曲目。 
 ステージの両端は黄色、真ん中はオレンジに染め上げられている。 
 「闇に一筋ジャアックナイーフ」で、今日は右手で空をひと掻き。 
 2番の前半もブレイクしてない感じやったけど、興奮して思い違いしてる可能性もあるな。

 メンバー紹介。 
 前野選手は印象的な白い服。 
 JAH-RAHは笑顔で前へ。僕は「ジャラ!」と叫んだ。後ろへ戻ったJAH-RAHは、 縦長のタイコの前に立つ。 
 「お前ら、曲の間に暴れ過ぎて、拍手が小さい。逆だろ」と甲斐。 
 「ツインリードギター。というより、ツインリーダー。何のリーダーかよくわかんないけど。 松藤英男」 
 さっきまでも拍手が小さいとは思わなかったけど、ひときわ大きな拍手が起きる。両手を 合わせて指を組み、それを掲げて見せる松藤。松藤らしい仕草や。エレキを振り下ろす決めポーズも、 昨日に続いて。 
 ノリオは紹介されると、胸の前で手を合わせる。甲斐に促されて前に進み、ステージの左・右・ 真ん中それぞれで手を合わせて頭を下げた。 
 最後に蘭丸。僕は今日も、「コーヘイ!」と叫んだ。

 「松藤がドラムを叩いていただけるそうで」と甲斐。さっきのノリオのノリで、「あやかりたい、 あやかりたい」というふうに体をなでるジェスチャー。 
 和んだところで気持ちを切り換え、「松藤のドラムで「安奈」をやりましょう」

 蘭丸はイントロをゆっくり弾く。2番は刻む感じで。「ヒュールルルーー」というキーボード。 昨日ほどはドラムが目立っていない。ギターが特徴的。 
 手拍子する気分じゃなくて、手のひらをズボンに置いてたら、ベースの音で生地がビンビン 揺れてるのがわかった。 
 昨日とさえちがう。やる度にその時だけの「安奈」が生まれるのだ。 
 甲斐がオーディエンスにうたわせる。僕らは「あんなーあ」と声を束ねる。 
 後奏で、甲斐は「あんなーあ」とうたうことはせず、切ない声をあげた。

 「ドラムス 松藤英男!」 
 歓声と拍手に、松藤がスティックを掲げて応える。

 甲斐が後ろへ行く。蘭丸に話もしているようだ。 
 マイクスタンドの前に戻って、「今ミーティングしてるから」 
 興味津々の客席に向かい、「聞かさない」といたずらっぽく。

 「観覧車’82」 
 間奏で両手を挙げる甲斐。華やかに回るカラフルなライト。僕のところにもその色は届く。 
 詞の切なさが痛い。それなのに、舞台を照らす光は結婚式の華やぎ。甲斐が回る。バンドによる 分厚い音の層。全部がないまぜになって、泣けてきた。 
 後奏。甲斐がマイクを使わなくても、観客の叫びは続く。「ウォーオオオオオ」 
 ビートが効いてる。松藤が平たいパーカッションを叩いてる。 
 回り続けるライトの下。甲斐はおじぎをして、両サイドの床を指差してから、去って行った。

 2度目のアンコールに応えた甲斐は、白のTシャツの上に黒のTシャツを重ね着。胸元は開いて いて、クロスがのぞいている。 
 出て来てすぐに、曲の開始をJAH-RAHに求める。 
 「ダイナマイトが150屯」 
 甲斐はイントロでマイクスタンドを縦に蹴り上げる。それからリズムに乗って身体を揺さぶる。 
 間奏の後半で、マイクスタンドを横廻し。そのまま歌へ。まだ回転してるうちに歌い出すねん から燃える。 
 後奏。ステージは真っ白な光にさらされる。その中心で甲斐はマイクスタンドをぐるぐる廻す。 今日は膝を使わずに止めてみせた。左右を真剣な目で見たかと思うと、次の瞬間、マイクスタンドを 横に振り廻す。リズムに乗って跳ねる。叫ぶ。 
 最高のアクションや。盛りあがりまくったで。

 「今夜は、大阪3日間2DAYS目。本当に、こんなに来てくれて、ありがとう。感謝してる」 
 オーディエンスの拍手が止まらない。メンバーも手を振ったり、蘭丸はオーディエンスの方を 指差したりして応える。 
 鳴り続ける拍手をさえぎるように、甲斐が話し出す。 
 「去年、ライヴCD10枚組が出て。今度、3月8日にDVD6枚組という重量感のあるのが。 俺の体重と反比例するように」 
 見ていて感じてた通り、甲斐は体を絞り直したらしい。 
 「今夜は本当にサンキュー」

 左上から細いライト。右上から太いライト。甲斐がマイクスタンドの前に立つと、左の光も 太くなった。 
 「嵐の季節」 
 甲斐はサビをあまり歌わず、オーディエンスにゆだねて行く。大合唱の狭間に叫びをあげる。 
 「じっと風をやり過ごせ」「じっと雨をやり過ごせ」という言葉が、今夜は胸に響く。 
 渾身の力を込めて、2回に1回突き上げていた拳。繰り返しからはしぜんと、毎回突き上げず にはいられなくなっていた。 
 これで次のツアーまで何があっても耐えられる。この歌が終わった時、そう思った。

 甲斐が去ったステージを見つめたまま、今日のライヴを反芻する。間奏で甲斐がツインギターを 指した場面。JAH-RAHの後方下の白いライトが、爆発するように点滅した様子。今夜だけの ニューヴァージョンの歌詞は、「ランデヴー」の2番ラストのみか。

 別の歌が加わり、曲順が変動すると、ライヴの印象もまるで違うものになった。思いっ切り燃え たなあ。こういうツアーって、めちゃめちゃうれしい!

 

 

2006年2月10日 大阪なんばHatch

 

ALL DOWN THE LINE 25時の追跡 
危険な道連れ 
ランデヴー 
荒野をくだって 
悪いうわさ 
~ダニーボーイに耳をふさいで 
港からやって来た女 
ボーイッシュ ガール 
BLUE LETTER 
シーズン 
ビューティフル エネルギー 
氷のくちびる 
ポップコーンをほおばって 
翼あるもの 
漂泊者(アウトロー

 

キラー ストリート 
安奈 
観覧車’82

 

ダイナマイトが150屯 
嵐の季節

甲斐よしひろ ROLLING CIRCUS REVUE

2006年2月9日(木) 大阪なんばHatch

 

 Classic Kai終演後にチラシを受け 取ってからおよそ5ヶ月。なんばHatchに帰って来た。 
 入場して左手に花が飾ってある。毎日放送ちちんぷいぷい角淳一より。甲斐が 先日ビデオ出演したからだろう。そのときは見ることができなかった。こういう情報も ちゃんと「K-メール」で教えてほしい。

 右手にあるいつものグッズ売り場で、パンフやTシャツ、ストラップなどを買う。 
 エスカレーターで階上へ。CD・DVD売り場の前を過ぎ、ドリンクチケットを 水と交換。自分の席が右前なのはわかってたけど、あえて左後方の扉から客席に入る。 席まで歩く間にステージや会場全体の感じを見たいから。

 ステージを見て最初に気づいたのは、キーボード台が左奥に変わってたこと。 前野選手が左奥で、松藤が右奥に位置するのだろうか。 
 ステージと客席1列目の間。その上にいくつも黄色い照明が設置されてある。 色は薄いのと濃いのがあり、ライトはひとつひとつ違う方を向いている。 
 BGMは懐かしい曲が多い。「甲斐バンド解散から20年」のツアーだから、 甲斐バンドが活動していた時期の曲を選んだのだろうか。佐野元春発泡酒のCMで 流れていた「シュガー・ベイビー・ラブ」。アグネス・チャン「ポケットいっぱいの 秘密」。「ア~イ・ショット・シェーリーフ」と聴こえるのは、「警官を撃っちまった」 ってやつか。「岬めぐり」。「スペース・カウボーイ」と歌ってる洋楽。アグネス・ チャンの歌がよくできてるなあと思う。演奏もいい。

 BGMが途切れた。始まるのか。しかし、まだチューニングの音が聴こえる。さっき と同じBGMの曲たちが、また最初から流れ始める。 
 3度目のアナウンスが入る。スモークの量が多くなってきた。まだ続々と客が 入って来る。平日やもんな。 
 BGMが変わった。西部劇のテーマらしき曲。口笛。馬を打つムチのピシッという 音。これで甲斐が登場するのか。まだ確信は持てない。 
 照明が落ちた。間違いない。拍手が起きる。やがて前方の客からひときわ大きな 拍手。メンバーが入場して来たのだ。その間に甲斐の背中が白く浮かび上がってる。 「甲斐ーっ!」

 ドラム。僕は「おおーっ!」と声をあげてしまった。これは!来た!久々や! 
 「キラー ストリート」 
 ゆっくりめのリズム。黄色とオレンジのライト。「シークレット ギグ」を始める のか?という思いも浮かんで、いっそううきうきしてくる。 
 甲斐は銀の縁のあるサングラス。白いジャケット。金の英字が入ったタンクトップ の上に、黒のシャツ。ズボンも黒でストライプ入り。ベルトの銀のバックルが印象的。 前髪を短く切って、上げている。 
 詞の合間にオフマイクで「カモン」と口が動いているのが見える。「闇に一筋 ジャックナイフ」で指を立てる。 
 1番を歌い終えると、マイクスタンドを殴るようにしてつかみ、持ち上げて体ごと 回転した。 
 レコードではブレイクする「気分はBLUES」からの2番前半。JAH-RAH のドラムと、少しずつ入る蘭丸のギターがかっこいい。 
 「闇に二筋」では指も二本。2番を歌い終えると、甲斐は体を回転させ、後ろへ 下がる。蘭丸の間奏や。ここでの音がめっちゃスリリング。ますます興奮してくるのだ。 
 甲斐の吼え声から3番へ。「燃え上がる」を、今夜ははっきりと早口で音に乗せて みせた。 
 後奏では「ゴーオホホー」の叫びだ。ラストは両肘を曲げ、親指と人差し指を立て た両手を、前に突き出す。それをビートとともに連打してフィニッシュ。新しい アクションや。

 続けてあのビートがやって来る。 
 「ダイナマイトが150屯」 
 サックスはなく、キーボードが期待を煽る前奏。甲斐がマイクスタンドを蹴る。 しかし、うまく上がらなかった。 
 ステージは白一色に照らし出されている。客席左右の壁に甲斐の影が映ってる。 JAH-RAHが上のドラムを叩く左スティックの持ち方が、独特な形に見える。 手を打って大声で歌い、甲斐の動きを追いかけながら、目に入ったもの全てを焼き付けて おきたいという思いになる。 
 甲斐がこちらへマイクを向ける。「ダイナマイトが150屯」と腹の底から歌い 返す。甲斐の顔は浅黒く見えた。 
 後奏でマイクスタンドをぐるぐる廻す。最後は膝で受け止めてから、スタンドを 持つ。前奏の分まで絶対に決めてやるという気合いの表われかと、勝手に想像してしま う。僕らも歓声で甲斐に応えた。

 「ギューーン!」という音が響く。さらにビートが叩かれ始め、印象的なフレーズ が繰り返されても、まだ何の曲かわからない。手拍子しながら、どの曲やったっけという わくわく感が高まってゆく。長くライヴで歌われていないことだけはわかるねんけど。 
 「黒い霧が流れ 冷たい雨が降る」 
 僕はまた「おーーっ!」と叫んでしまった。 
 「危険な道連れ」! 
 ついに初めて生で聴くことができた。甲斐が左右に動きながら歌っていく。前野 選手のサックス。ステージの左は緑のライト、右は赤のライトに染められ、クロスする形 で客席右の壁に緑が、左の壁に赤が映っている。 
 間奏の終わり際、JAH-RAHがドラムをクレッシェンドで連打する。 重量感のある音だ。燃え上がらずにいられない。そこへ甲斐の歌が再びかぶさって来る ねんから、もうほんまにすごいのだ。

 最初の3曲、ドラムとベースのビートがビンビン体感できた。右の鼓膜をも突いて 来る。 
 次の曲では、蘭丸は左サイドを向いてじっとしている。バラードが聴こえてきた。 僕がツアーに通い始めた頃、よくうたってくれていたバラードだ。 
 「荒野をくだって」 
 前野選手と松藤。両方のキーボードだけ。そこに甲斐の歌声がのる。アルバム 「TORIKIO」収録のヴァージョンとはちがって、はっきりと音を発する甲斐。 切なくて、打ちひしがれた痛みを感じさせる絶妙のヴォーカル。その声を堪能する。 
 「いつも・・・」とうたった次の詞が出てこない。あわてて何か言葉を継ぎ足す ことはせず、目を閉じ口を結んで待ち、「さみしげなエンジンの音が」からうたって いく。僕らはそれをじっと見つめ、聴き入っている。 
 キーボードから、この曲独特のかすれたような音が出される。その後ろでずっと 奏でられている静かな旋律が、漂っているようだ。 
 後奏で甲斐は「オー」とせつない声をあげた。それから、後ろへ歩き去る。 最後のキーボードが終わる。

 オーディエンスの拍手と声援に、甲斐は暗闇の中から「サンキュー」と返した。 今夜はMCがなく、どんどんと曲が差し出されて来る。 
 「デーデデデーデー」という妖しく力強い音が初めに。甲斐バンドライヴCD10 枚組「熱狂 ステージ」で聴いてたあのイントロだ。例のフレーズに入って、客席が あらためて沸く。 
 「地下室のメロディー」 
 甲斐はアコースティックギターを弾いている。蘭丸はやはりエレキシタールを 弾いているのだろうか。そのことも確認してみたいけど、甲斐から目が離せないから、 わからない。 
 黄色。赤紫。ステージの天井から床へ紺色の光がいくつも伸びていた。

 「地下室のメロディー」から「LOVE MINUS ZERO」まで、中後期の アルバムから1曲ずつ歌われているなと気づいた。各アルバムから1曲ずつ選んでいく という趣向があるのだろうか。 
 しかし、そう思ったところへ響いてきたイントロは、2曲目となる「GOLD」 からのナンバーだった。 
 「ダダダンダンダダン」あの音がして、今度はそのフレーズ1回分、間を空ける。 蘭丸のギターが少し。「ダダダンダンダダン ダダダンダンダダン」次からはレコード 通り、2回ずつセットで迫って来る。バックで、6つずつ並んだ円いライトが赤く光る。 甲斐が歩きまわる。 
 「ボーイッシュ ガール」 
 85年前後にツアーでよく歌われていた演奏でも、 「Series of Dreams Tour Vol.2」の”AGAIN”で 聴かせてくれたしぶいヴァージョンでもない。強さとしゃれた感じを兼ね備えた新しい 「ボーイッシュ ガール」だ。 
 ノリオと前野選手が高い声のコーラス。松藤も加わっているかもしれない。 
 甲斐は「ボーイッシュウーマン オア マーン」と初めの1回だけ歌い、あとは 全て「オア」抜きで歌った。「ボーイッシュウーマン  マーーン」という響き、 かっこよくて気持ちいい。 
 2番後の間奏。最初は長い音が伸びる。「ダーーンダダダーーン」の繰り返し。 甲斐が縦に首を振り、そこから激しく強烈なビートとギターに巻き込まれていく。 
 甲斐は後奏であのフレーズに合わせ、「ボーイッシュガーアアル ボーイッシュ ガーアアル」と声をあげ、それを高めていく。「シュビチュパ」とか「ベイベー」とかの ヴォーカル技もしっかり聴くことができた。

 刻まれ始めたリズムに心が沸き立つ。もしかしたらやってくれるんちゃうかと思って はいたけど。蘭丸のギターが入って、改めて客席から歓声があがる。 
 「悪いうわさ」 
 甲斐は肩にかけたアコギを後ろにまわしている。左上からのスポットだけが光を 差す、暗い照明。その下でうたっていく。松藤が低いコーラス。甲斐は1番の最後にも 「今日もー」をつけてうたった。 
 ついに初めて聴くことができた。レコードで聴いて自分に響いていたいくつかの 詞が、生でダイレクトに伝わって来る。 
 2番の後の長い間奏で、甲斐がアコギを弾き始める。蘭丸のギター。バックの サウンド。悲しい「悪いうわさ」の世界。もう一度最初の歌詞へ。そしてサビの繰り 返し。さらに後奏へと戻って行き、蘭丸がイントロのフレーズを聴かせる。と、音が 跳ねる。甲斐はアコギをアップストローク。一音ずつビートが打たれるごとに、音が 高くなって行く。これは!と思ったところへ、次の曲の前奏がつながる。高らかに奏で られるフレーズは、もちろんみんなを熱狂させた。 
 「ダニーボーイに耳をふさいで」 
 甲斐はアコギを弾きながらうたっていく。やっぱり詞がいいよ。いちいち僕に 突き刺さる。 
 「悪いうわさ」~「ダニーボーイに耳をふさいで」という、実際に聴いてみた かったメドレーを体験できているという感激をかみしめつつ、「ダニーボーイ・・・」の 詞にひたる。 
 後奏。倍加するリズムとともに演奏が高まるなか、甲斐は「いつものよーうにー  いつものよーうにー ドアを閉ざーしてー」と切ない声を振り絞った。やがてバックの 音が伸び、曲がゆっくりになって、それから再び音の放射。フィニッシュへ。

 ここで、今夜初めてのMC。

 同じ会場で数日間ずつ続けてライヴをやるこのツアーのことを、「芝居小屋みたい」 な形式で、やりたかったんだという。 
 芝居の連続公演みたいに、楽屋に長のれんを付けたい、とも。 
 「野田くんとは仲いいんで。NODA-MAP、昨日も実際行ってきた。(野田 秀樹は)古田新太と楽屋がいっしょで。カトちゃんの、ヘンなおじさんののれんが かかってた」 
 自分は銭湯の「ゆ」って入ったのれんでもかけようか、と言う。 
 「せんばか・・・通天閣・・・将棋会館の近く・・・で、買ってこよう。安いな」

 松竹新喜劇藤山寛美を皮切りに、吉本新喜劇の役者の名前も次々出てきて。 花紀京原哲男木村進。 
 木村進のことは「博多淡海の息子」という注釈付き。寛平ちゃんを操る猛獣使い にもたとえていた。

 こういう形のツアーの特徴として、「長く(同じ場所で)やってると、普段来られ ない人が来る。今日は高名な落語家が来てるし」 
 鶴瓶のことかな?

 「初日だからって、カタいよ。みんな。出て来た瞬間、「カタっ」って思ったもん。 そういうのをほぐしていくのも、またいいんだけど」

 「Series of Dreams Tour  Vol.1Vol.2とかでも、 甲斐よしひろの活動を振り返るとなると、シングルが多くなったりするんで。どうしても 落ちてしまう曲が出てくる。ボクの好きな「危険な道連れ」とか、「悪いうわさ」から 「ダニーボーイに耳をふさいで」のメドレーとか」 
 いろんな曲が聴けるのは大歓迎。もちろん、定番曲も大好きやねんけど。

 「東京は結局、5日間。大阪・名古屋は3DAYS。これに味をしめて、また追加 したくなりそう」 
 この発言に拍手が起こる。 
 甲斐は「いたみいります」

 「毎日メニューを変えて。途中からいろいろあるんだけど。ツアーやってく中での 変更とか」 
 「厚生年金1日っていうのもいいけど。・・・考えたら、全部知ってるんだもん ね。大阪城ホールも、花園ラグビー場も・・・花園ラグビー場から、なんばHatch まで」

 「俺たちは74年にデビューして。80年代の初めにN.Y.へ行って。ボブ・ クリアマウンテンというエンジニアと三部作をつくって」 
 ボブ・クリアマウンテンは当時、12組のミュージシャンと仕事をしてて、 甲斐バンドはそのローテーションの8番目だったそうだ。ストーンズやスプリング スティーン、ホール&オーツらのレコーディングが終わるのを待っていたと。 
 「キタノホテルっていう、日本人スタッフのいるところに泊まって。1ドルが 360円とかで、まだ大変だった。税関ではDDTかけられて。これはウソ」 
 なんていうジョークもはさみながら、「今回は、その頃の曲も多くて」

 「今年は甲斐バンド解散から20年っていうことなんだけど。そう聞いて「それに 何の意味が?」って言ったんだけど、「あなたはやる方だけど、見る方にはあるんです」 と言われて」 
 そう言われたことと、N.Y.三部作の曲を多く歌いたいという甲斐の想いの二つ が合わさって、このツアーの内容が決まったという。 
 「その、N.Y.三部作の中からもう1曲、 やりましょう。「BLUE LETTER」」

 海の底から浮かんでくる泡のような静かな前奏。”PARTY”を思わせる 「BLUE LETTER」だ。 
 前野選手のキーボードと、松藤のアコギだけで。イスにすわってうたい始めた甲斐 は、いつしか立ってうたっている。 
 3番。甲斐の歌の後ろで、「ザカザーン」という松藤のアコギだけが鳴っている。 やがてそれも消え、甲斐の声のみが会場に響く。 
 「かつて輝いてた 二人だけの浜辺 今は跡もなく 深い闇の中」 
 大阪城ホールの名演が再現された。静まりかえった会場で、甲斐の声だけを聴く。 この「BLUE LETTER」の感激、大きなホールにかぎったものじゃなかってん なあ。あらためて甲斐の歌の素晴らしさを痛感した。

 再びバンドによる演奏。一瞬、どの曲かわからなかった。オリジナルに近いアレンジ は久し振りやったから。 
 「ビューティフル エネルギー」 
 「シルクの髪」で、甲斐は髪にさわる。 
 全編甲斐のヴォーカルで聴けるのがうれしい。今夜も、「のぼっていくよーーぉ」 と、この部分はラストを下げて余韻を響かせる歌い方。 
 両手を頭の後ろにつけて、両肘を張るアクションも見ることができた。 
 3番の最後は「声を立てようぜーー」

 「シーズン」 
 中盤のバラードより後に歌われるのは久々なんじゃないか。パッと思い出すのは、 初めて行った「BEATNIK TOUR 1984  FINAL」。 
 曲順のためもあるのだろう、 「Big Year’s Party 30」のときよりも、じっくり聴くことが できた気がする。 
 イントロのあの音が帰って来る後奏の最後まで。

 スティックの音。そして、劇的なイントロ。大歓声。おお、早くも来たか! 
 「氷のくちびる」 
 照明が変わっている。最近は黄緑を中心としたライティングやったけど。今度のも いいぞ。 
 間奏。蘭丸が甲斐の左手から右にまわる。左の甲斐が青に、右の蘭丸が赤紫に 染め抜かれる。右奥でエレキを弾いていた松藤が、縦笛を吹く。蘭丸は、「夕暮れの カフェ」までじっと右側で演奏している。 
 蘭丸がそっと元の位置へ戻り、再びビートがはじけ、会場じゅうに火がつく。 
 甲斐は後奏で「アアアアアアアアアアアアアアア アアアアアアアアララララー」 と2回全部歌う。「アーーーー」「フーーー」のファルセットも聴かせてくれる。 もう僕らはどんどん燃えていくばかり。

 「氷のくちびる」の果てからややあって、三連打!!!「ジキジキジキジキ」という 刻みに続いて、僕らも拳を三連打!!! 
 「ポップコーンをほおばって」 
 サビでストロボの光。そのまたたきは一瞬止まったかと思うと、また始まってる。 激しい演奏。三連打!!!ステージを染めるのは青だ。赤だ。またストロボだ。ギターを 手にした甲斐のアクションが、閃きの向こうで、ずれたストップモーションのように独特 の動きとして目に映る。左腕をかき上げる甲斐。僕らも拳を三連打!!!

 バンドはさらに畳み掛けてくる。 
 「翼あるもの」 
 甲斐は1番から、「明日はどこへ」と歌い放ち、僕らに「ゆ!こ!う!」と歌わせ る。拳とともに。 
 甲斐がステージじゅうを歩く。そうしながら歌って行く。2番の前にマイク スタンドを持ち上げ、後ろめに置く。 
 間奏。甲斐が乗っていたバックの台から、前へ飛び出して来る。すごい勢いや。 いつもよりマイクスタンドが近いが、猛然と突進してマイクを奪う。そのままステージの 前の端へ。左右へ進む。踵を返す。ステップを踏む。そうやって激しく歌う。僕らは いっしょに歌いながら、跳び上がらんばかりのノリで手を打っている。 
 うたい終えた甲斐がマイクスタンドの前に戻ってゆく。両腕を広げる。両の手の ひらを下へ向ける。これがまさに翼のように見えた。ここまで感じたことは、かつて なかった。甲斐は両手を上で組む。やがて身体を折って下へ。と同時に、メンバーが腰を 落とすようにして、大音量を解き放った。

 こうなったらトドメの1曲。これを聴かずにすまされようか。 
 「漂泊者(アウトロー)」 
 蘭丸のイントロは、一音ずつしっかり重く、聴かせる感じ。 
 甲斐が歌ってる。動いてる。バックでバンドの演奏とさまざまな照明が渾然と なっている。オーディエンスも騒ぎ放題。僕はその熱の中で、歌い手を打ち拳とともに 跳んだ。 
 甲斐は「爆発」で腰を落とし、すぐ立って「しそおーー」と続けた。 
 またサビがやって来る。僕らは歌う。甲斐が突き出したマイク目掛けて。

 甲斐が拳をかかげて去る。長くステージに残ってくれた後、大きく弾むように ステップを起こして、左ソデへ。スタッフが待っている。バスタオルが掛けられる。 
 僕らはそこへ何度も「甲斐ーっ!」の叫びを投げ、すぐに手を打ち鳴らし、 さらなる熱狂を要求する。

 メンバーが再び登場。「ノリオーっ!」って叫んだら、叫ぶように大きく口を開けて リアクションしてくれた。

 静かなピアノ。「スローなブギにしてくれ」かと思った。いや、ちがう。これは 「シークレット ギグ」で中島みゆきを呼び入れたときの音楽や。そのロング ヴァージョン。 
 蘭丸が松藤を指差して、松藤のギターソロ。蘭丸は松藤に「もっと来い」って感じ で何度もアピールする。JAH-RAHのドラム。蘭丸のギターも鳴らされる。 
 その中を甲斐が左ソデから歩いて登場。胸元の開いた黒いTシャツ。その下は白の Tシャツだ。 
 「「港からやって来た女」をやるぜ」 
 オーディエンスの拍手と歓声が応える。甲斐は蘭丸と向かい合って立ち、 うつむいて伸ばした手を蘭丸の肩に置く。その体勢で蘭丸があのイントロを発する。 さあ、狂乱の始まりや。 
 甲斐はベースを弾くノリオにも正面から覆いかぶさるようにする。歩き、回り、 向きを変え、滑るように、またリズムに乗って、あるいは曲調を破るように強く歩を 進め、歌っていく。 
 甲斐が右前でサビを歌う。僕らは大よろこびで声をあげる。甲斐は両手の指を左の 蘭丸へ向ける。ギターたっぷりの間奏へと突入していく。 
 もう蘭丸もノリオも前に出て弾いている。興奮の場内、さらにまだ最後のお楽しみ があるもんね。左右に動く甲斐と声を合わせて「バイ!バイ!バイ!」と叫ぶ。 「フーーーっ!」 
 指を突き立てての叫びが4回。ラストで甲斐はステージ中央のいちばん前まで 出て来ていた。

 「ここでメンバーの紹介を」 
 キーボード、前野知常。今夜のライヴ前半で、ピアノの音で攻めて来たのが印象 強い。ああ、どの曲だったのか思い出せないのがもったいない。 
 ドラムス、JAH-RAH。立って前に出て来てくれる。甲斐が手を取って、 JAH-RAHがドラムスの台から下りる。両耳のピアスが本当にジャラジャラ。甲斐が ひと言、「どんなやつでも親になれる」。わあ、子ども生まれたんやあ。後ろへ戻って 松藤の左に立ったJAH-RAHに、祝福の拍手。 
 ツインギター。いや、ツインリードギターと紹介されたのか。よく聞き取れ なかった。松藤英男。いつものようにキーボードも弾いているが、今回はギターを担当 する曲が多い。「場末で売れたバンドにいたらしい」と甲斐。松藤は、ギターを振り 下ろす、曲終わりでの決めポーズをしてみせる。 
 ベースギター、坂井紀雄。両手を合わせ、お辞儀をしながら前へ進み出る。ノリオ らしいユーモアのある動き。 
 リードギター土屋公平。僕は「コーヘイ!」って叫んだ。今夜は何だかその 呼び方が合ってる気がしたから。

 JAH-RAHがなかなか座らないなと思って見ていると、松藤がドラムセットへ 移動した。 
 「松藤のドラムで「安奈」をやりましょう」 
 「がんばって」「がんばれー」の声援が多く飛ぶ。 
 甲斐は「病気の人にがんばれって言っちゃダメなんだぞ。がんばれなくなるんだ から」と応えてみせる。「松藤はギリギリ大丈夫だけど」 
 「俺みたいな人は、がんばれって言われると、よし!ってなる」 
 途端に、甲斐への「がんばれ」の声が多数。 
 「ほんとに君たちは、土砂降りの雨の中で墓石に水かけてすがって泣く街に生まれ 育ってるな」 
 それは横山やすしのエピソード。知っていたらしい蘭丸が反応すると、甲斐は蘭丸 を指差して笑う。うれしそうや。 
 客席の僕らもうれしい気分。大阪の人間って、大阪人は強烈だみたいに言われる のが好きなのだ。

 「安奈」 
 松藤のドラムは強く。JAH-RAHは縦に細長いタイコを叩いている。 キーボードの「ヒュルル」という調べが曲をすき間なく埋め、蘭丸がエレキであの フレーズを奏でる。甲斐は立って、詞の区切りに合わせるようになめらかに腕を振り ながらうたう。 
 ほんまにいつもとちがう「安奈」や。いつ聴いても何回聴いても、そのツアー その日その時だけの、オリジナルの「安奈」がそこにある。

 「ドラムス松藤。拍手を。少しつんのめったけど、関係ない」 
 うん。音楽って、楽譜通り忠実に再現することよりもっと大きなものがある もんね。もっとも、僕には松藤のドラムが乱れたようには感じられなかったけど。

 低いうなり。予測からやや遅れて来るような、「コン コン」という重い音。 
 「ALL DOWN THE LINE 25時の追跡」 
 久々に生で聴くことができた。やはり甲斐の歌がいい。 
 ピシッというムチのような音が、オープニングのBGMを思い出させる。無線の 交信。オーディエンスの手拍子が鳴っている。蘭丸のギターが甲斐のヴォーカルをなお 引き立てる。歌にギターが活かされているのだ。これこそ、僕の好きな甲斐のロックの あるべき姿や。 
 終盤、「ああ 運に見放され」から、甲斐は高く声を張り上げて歌う。めちゃ くちゃ激しい。それまでの歌い方とは一変だ。そうせずにはいられない衝動を感じて、 ぞくぞくする。 
 「ああ 厳しい冬が来る」からはまた、低く歌う。JAH-RAHのドラムが 炸裂し、曲は終わりへと向かっていった。

 「ALL DOWN THE LINE」にしびれたまま、2回目のアンコール。 
 メンバーが三度やって来る。

 甲斐が歩いて登場する。紺のTシャツになっている。 
 曲を始めようとするJAH-RAHに、「早いよ」と言って、指でノーの ジェスチャーをする。さらに水のペットボトルをJAH-RAHへふわっと投げた。 JAH-RAHが受け取る。ちゃんとフタはしてあった。甲斐は白いジャケットを はおる。 
 「3DAYSの初日ということで。今日しか来られない人には、今日しかやらない 曲もあるから。ちゃんとそうなってるから」 
 「ほんとうに、今日はみんな来てくれて、感謝してる」 
 「「観覧車」をやるぜ」

 「観覧車’82」 
 甲斐がジャケットを着るのは、結婚式の歌だからか。そう思うと、詞のひとつ ひとつが、いつもとはまたちがった光と影をたたえて立ち上がってくる。 
 間奏が華やかだ。セレモニーやもんな。照明はもちろん虹色。さらにその中を カラフルな円が舞っている。 
 曲が完全に終わってから、甲斐はステージ左で 「ウォーオオオオオ ウォーオオオー」と叫び出す。後奏のあの叫びだ。 「ウォーオオオオオ ウォーオオオー」と続ける。もちろん僕らも声を合わせる。 会場に響く「観覧車」の叫び。メンバーも楽器を鳴らして加わってくる。 甲斐とみんなで思い切り叫ぶ。 
 「OK」と甲斐が言って、今夜の「観覧車’82」が本当に終わる。大拍手や。 こういうの、めちゃめちゃうれしい!

 蘭丸があの前奏をつむぐ。最後に来たか。 
 「嵐の季節」 
 前半は2回に1回のタイミングで拳をあげる。そうやって、甲斐の声で届く詞を じっくり聴きたい気分やったから。 
 しかし、繰り返しからは、しぜんに倍の拳を突き上げていた。奮い立っている のだ。 
 オーディエンスだけの歌声がこだまする。松藤が揺すり出すシャカシャカという音 だけに乗せて、もう一回。そして、バンドとともにもう一度。 
 甲斐は客席のみんなといっしょに歌うことが多かった。この歌をステージの最後に 歌うってこと。それぞれ毎日大変なみんなを、歌で力づけてくれてるねんな。

 甲斐はステージに長く残ってくれた。「観覧車」の後奏でするように、あらゆる席の オーディエンスに応える。眉のあたりにつけた手をこちらに向かって伸ばす仕草も。 
 やがて左ソデへ去って行く。Tシャツの腹をめくる後ろ姿が見えた。

 「アヴェ・マリア」が場内に広がる。 「ROCKUMENT」がよみがえる。そうや。今日のライヴって、 ROCKUMENTと通常のツアーの融合みたいやったなあ。あまり聴けない歌を たくさん取り上げてくれた。また新たなライヴ像。

 あっという間に感じられるステージやった。それでいて、内容はぎっしり濃くて、 曲数もあって。 
 今日の甲斐を思い返す。頭の後ろに手を組んで両肘を張るアクション、久し振りに 増えてたな。バックの台に上がって背中を向けたシーン。まぶしそうに正面斜め上を 向いて歌う姿。

 ステージを眺め渡し、「明日もここに来るんやあ」としみじみ思う。 
 うん、いいな。レヴュー形式って。

 

 

2006年2月9日 大阪なんばHatch

 

キラー ストリート 
ダイナマイトが150屯 
危険な道連れ 
荒野をくだって 
地下室のメロディー 
ボーイッシュ ガール 
悪いうわさ 
~ダニーボーイに耳をふさいで 
BLUE LETTER 
ビューティフル エネルギー 
シーズン 
氷のくちびる 
ポップコーンをほおばって 
翼あるもの 
漂泊者(アウトロー

 

港からやって来た女 
安奈 
ALL DOWN THE LINE 25時の追跡

 

観覧車’82 
嵐の季節

Classic Kai

2005年9月15日(木) 大阪なんばHatch

 

 もう2年以上経つというのに、地下鉄なんば駅ホームには、26番出口への案内 表示がまだ出ていない。なんばHatchの最寄り出口やのに。記憶と改札外の目立た ない小さな矢印を頼りに、地下街を歩く。

 Hatchの地下モニターに「Classic Kai 2005.09.15  open18:30/start19:00」の文字を見つけた。画面右端には縦書き で「甲斐よしひろ」。

 ほぼ時間通りに開場。甲斐バンドライヴCD10枚組BOX「熱狂 ステージ」の パンフレットやアンケート用紙を受け取って、まずはグッズ売り場へ。 
 東名阪だけのツアーやから新しいグッズはないかもなと思っていたが、ワインや CDケースなどが出ていた。ワイン2本にソムリエナイフとバッグがついたセットも ある。 
 他に”アコギ”ツアーのグッズや 「松藤甲斐」のビデオもあるみたいやけど、人が 多過ぎてちゃんと見ることができない。グッズは終演後にまわして、エスカレーターで 客席まで上ることにした。

 1階席最後尾の両端に、当日券のお客さんの立ち見エリアが設けられていた。 
 そこ以外にはイスが置かれて、これまでとは違った印象のなんばHatch客席 内を進む。今日の席はかなり前なのだ。左寄りやけど、かえって甲斐の表情がよく見える かもしれない。 
 ステージの両端奥には炎が揺れている。今までライヴ中にもよく使われてたやつ や。前の席からだと、本物の炎ではないことがわかった。赤いゆらめきの中に青く灯った 部分も見えて、よくできてるなと感心する。

 ステージ上を隣の甲斐友といっしょに観察。左側にキーボードが置かれている。 春の”アコギ”ツアーではアンコールからやったから、やはり構成もアレンジもかなり 変わるのだろう。 
 右のイスの後ろにギターが立てかけてある。左から前野選手、甲斐、松藤という 並びはそのままらしい。 
 後方に薄い幕があるようだ。これは背景を映し出したりするためのものなのか、 それとも他の意味があるのか。 
 キーボードのそばにサックスがあるのを見つけて、ちょっと興奮。前回のツアー では使われてなかったやんな。前野選手のサックスといえば、1曲目の「ランデヴー」 で甲斐より早くステージ中央に躍り出て来た「パートナー」ツアーを思い出す。それに、 「ラヴ マイナス ゼロ」もあるな。「ストレート ライフ」ツアーの京都で聴くことが できた、ごく静かなアレンジの「ラヴ マイナス ゼロ」が再び披露されることはあるの だろうか。

 場内には南方系の音楽が流れている。マンボとかも。甲斐初のクラシカルなツアー ということで、開始前からそういう曲がかかるのかなとも思っていたが。 
 果たして「Classic Kai」とはどんなライヴになるのか。開演時間が 近づくにつれ、緊張感がぐんぐん高まってくる。予想もつかない初めての試みの、しかも 初日なのだ。

 オープニングBGMは春といっしょやった。「ウィスキー バー」と歌う声が 聴こえる。僕らはもちろん手拍子。クラシカルなツアーやというし、ツレの甲斐友は 背が高いから、立つのは遠慮しておいた。 
 ステージが紫に染められ、そこにあるものが黒いシルエットとなって浮かびあが る。後方に段があって、そこにイスが3つ、いや、4つや。これは本格的にストリングス が入るってことやんな。

 ステージ前方には上から紺のライトが差している。そこへメンバーがやって来る。 最初から3人や。 
 「甲斐ーっ!」と叫ぶ。手を叩く。歓声があがる。 
 甲斐は黒のジャケット。少しラメが入っている。中はストライプの黒いシャツ。 黒の皮のパンツ。黒いサングラス。

 松藤のアコギ。前野選手のキーボード。”アコギ”ツアーでは 三郷のアンコールで初披露されたあの曲が、堂々の 1曲目だ。 
 「かけがえのないもの#2」 
 甲斐のヴォーカルは、語尾の響きがやさしく。コーラスが入って3人でうたう ところは強く。 
 松藤と前野選手だけがコーラスする部分でも、甲斐はオフマイクでいっしょに 口ずさんでいる。「ウォウウォウウォー」の「ウォウウォウ」のあたりとか。それから 「ウォー」と伸ばす音の後半に、「かけがえのないもの」と重ねてうたっていく。 
 甲斐のサングラスは黒に見えたが、こちらを向くと青みがかっているのがわかる。 
 「一生分の約束をする 君とぉ」 
 詞が次々と胸の中に届いてくる。 
 一瞬のブレイクからキーボードが入るところの、はずんだ感じがいい。 
 後奏。3人による「ウォウウォウウォー」のハーモニー。

 1曲目の終盤に、ストリングス奏者たちがステージ後段のイスに向かうのが目に 入った。曲が終わってからそっちを見てみると、黒い衣装でサングラスをかけた女性が 4人座っていた。

 演奏が始まる。暖かい風景を思わせる前奏。「ホリデー」か? 
 その中で、ちょっと変わった音も効果的に使われている。どの楽器から出ているの か見渡す。左から2人目のお姉さんが、弦を指ではじいている。その音なのか?いや、 あれは自分の楽器の音を確かめているだけだろうか。じゃあ、キーボードが操作されて いるのか。 
 歌入りで拍手が起きた。 
 「僕の前に 僕の荒野と海が・・・」 
 僕はもうすでに泣けてくる。この歌は沁みるのだ。 
 「昨日鳴る鐘の音」 
 甲斐のうたい方は、アコギのみの ”MY NAME IS KAI”とはまたちがっている。サビの後には「んーん」 と低い声を出す。 
 「アタタカイ・ハート」の甲斐自身によるライナーノーツに、この歌の詞が引用 された箇所があった。甲斐が今この歌をうたいたい気持ちになっていることを、あの 一文が示していたのかもしれない。 
 後奏でストリングスが高まる。それから、サビの繰り返しがあった。しかも、 続けて2回。 
 「昨日鳴るうー 鐘の音は今日を過ぎてー明日はーないー 昨日鳴るうー 鐘の音 は今日を過ぎてー明日はーないー」 
 甲斐と松藤のコーラスでだ。この繰り返し方は初めて聴けた。ストリングスの加入 を抜きにしても、全く新しいアレンジではないのだろうか。 
 前野選手がストリングスに手で合図をして、曲が終えられる。やはり指揮者の役割 を果たす人が必要なんかな。

 ストリングスによる見事な前奏。甲斐が立ち上がる。 
 「かりそめのスウィング」 
 前野選手が指を鳴らす。甲斐も両手でフィンガースナップしたり、ダンスするよう に動きながらうたっていく。 
 前野選手の赤いアコーディオン。横の黒いボタンまで見える。 
 そのアコーディオンの「ワッワッ」っていう音が春は印象的だったが、今回はそれ 以上にストリングスが効いている。 
 2番の「生きてきたむなしさ」が出ず、甲斐は音のみのヴォーカル。 
 後奏もストリングスによって強く、それでいて悲しい音になっている。甲斐が 「オーイェー!」と叫んでフィニッシュ。 
 甲斐がうれしそうや。ストリングスを入れたアレンジは大成功やし、うたってても 新鮮やろうし。 
 僕らもまた、ストリングスの音の強さと、こんなにノれるんやということが わかって、めっちゃうれしい。これはすごいライヴやぞ。

 「甲斐ーっ!」と飛ぶ声に、「サンキュー」と応える。 
 「ちゃんと立ってうたわないとな、と思って。「かりそめのスウィング」という 曲をやりました」 
 「その前は、「コンドルは飛んで行く」という、フォークロア調というか。 そんなこと言っても仕方ないか」

 「初日が大阪ということで」と、このツアーについてのMC。 
 「”Kai Classic”だと、自分の昔の歌やるみたいだし。 ”Classic Kai”と。発表会みたいになって」 
 松藤が「Classicかい?」と言うと、甲斐もかぶせて「さらに疑問形で、 ”Classic会?”」とノった。

 新しい試みにも、「チケットもすぐはけたらしくて」と感謝を表す。 
 「うまく行けば、この形で大きいとこでやるかもしれない」という。 TVにもこのメンバーで出る話があるらしい。

 「こうやってストリングス入れてやってるのに、人の曲やるのも何だけど」 なんて、心にもないことを言いつつ、次の曲へ。 
 どの曲か待ち構えているところへ聴こえてきたのは・・・ 
 「甘いKissをしようぜ」 
 詞が、声が、演奏が、ハーモニーが素晴らしい。 
 キーボードが美しくも気高いオルガンのような音を出していたのは、この曲のとき だったか。 
 さらに、開演前に見て普通のサックスだと思っていたあの楽器を、前野選手が 吹いたのもこの曲だったか。実際には、金色やけど思ったより細くて、下までまっすぐに なっていた。 
 やはりいちばん心を打ったのは、「つまんない顔していちゃ お前に逢えない」と いう一節。 
 しばらく聴けてなかった名曲をうたってくれて、うれしい。

 「この聴き慣れた曲がどうなるか」 
 今度はこの言葉から始まった。 
 「安奈」 
 サビの前、「そんなとき お前が」あたりから、ストリングスが入る。めっちゃ 新鮮や。「安奈」にかぎらずどの曲でも、ツアーごとにアレンジは生まれ変わっている けど、今回のは特にいいなあ。 
 「安奈、寒くはないかい」もストリングスでぐっと引き立っている。 
 きれいな歌と音色に聴き入っているオーディエンスに、甲斐が手で合図をする。 それで、みんなで「あんなーあ」とうたう。最後は「クリスマスキャンドルの灯は」以降 も。サビをすべて。甲斐とみんなで。

 ストリングスの4人の前にあった薄い幕が上がったのは、このあたりだっただろう か。

 これも全く新たな前奏やった。 
 「LADY」 
 甲斐は立ちあがってうたう。マイクを左手に持つ。歌に情感を込め、右手が動く と、しぜんと左手も動いて、コードが舞うようにうねる。と思うと、今度は右手にマイク を持ち変え、コードを上に向けた左手に置いてうたう。 
 「だからあー」の直後に高鳴るストリングス。さらに、甲斐の歌声の間を縫うよう に奏でられていく。 
 1番の最後。「僕のてのひらは とても小さ すぎるけど」とうたいながら甲斐 は、てのひらを上に向ける。 
 2番が終わると、「ああ、LADY」という切ないささやき。 
 いちばん最後の「僕らのてのひらは とても小さ すぎるけど」では、両の てのひらでマイクを包んでいた。 
 弦の音が伸びて曲が終わるとき、甲斐は挙げた片手を下げながらおじぎをした。

 前奏は松藤のアコギと甲斐のハーモニカ。 
 「裏切りの街角」 
 「突き刺さる吐息をはいて 駅への道 駆け続けた」の後のフレーズを、4人の ストリングスのいちばん右、大きな楽器が低音で奏でる。この楽器って、チェロやんな。 この夏たまたま映画「セロ弾きのゴーシュ」を見る機会があって、よかった。 
 この曲は甲斐たち3人と、チェロだけで演奏された。これもまた記憶に残る なあ。 
 甲斐が間奏でハーモニカを吹く。その前にちょっと口につけて、くちびるの上を すべらせる。暗めの照明のなか、そんな仕草が見えたのがちょっとうれしかったりする。

 「前野知常、拍手を」と甲斐。 
 「こっちを紹介したから、仕方なく紹介します。ギターのMくんです。十代からの 知り合いで」なんて言うと、松藤が「そうだね、Kくん」とやり返す。 
 ストリングスのカルテットも紹介され、盛大な拍手がおくられる。両端の2人は 小さく手を振って応えた。右から2番目の人は、弓を弦に何度も当てるような動き。 つまり、楽器を使って拍手を返してくれたんや。左から2番目の人は、目に見える反応を 示さなかった。おとなしいのかな。

 「今夜はおごそかに、つつましく、たおやかに・・・いろんな言葉知ってんだぞ」 と笑わせてから、「でも、クラシカルっていうと、何か構えてかしこまったりする感じ があるだろ?そういうのを壊したくて」 
 やっぱりそうなんや。甲斐のことやから、ただのクラシカルなツアーじゃない はずやと、多くのファンも思ってたことやろう。 
 「こういう感じでやって、客席がさびしかったらイヤだなと思ってたら、いっぱい 来てくれて」 
 「この後もすごいんだぞ。アンコールとかも。やがて君らは遠くへイってしまう わけやね」 
 前に甲斐がMCで話してた「遠い海へ旅に出た私の恋人」を思わせる表現やな。

 「まだ曲に行きたくない。だって、すごくいいんだもん」 
 そう言って、長いMCに入る。途中、ストリングスの女性4人に、「まだまだ行く 気ないですから、休憩してていいですよ」、「もうジレてるかな」と2回声を掛け ながら。

 「この(春からの)ツアーは、大都市を避けるということだったんで。 京都とかも行ったんだけど、それは大きいだろうと。 でも、長い間行けてなかったんで」 
 「最後は北海道の紋別まで行って」と、湧別町ライヴ前後の二夜の話。 
 「バー ホルスタイン」っていう店があると聞いて、先乗りしたライヴ前夜に 夜の街を探しまわった。 
 「太めの女性ばっかりいるのかなとか、絶対行ってみたいじゃない」 
 しかし、見つけることができず、別の店へ。そこのママに、「地元の人じゃない でしょう。旅人?」って聞かれたらしい。「旅人って・・・」 
 さらに、数日後近くにオープンするホストクラブの応援だろうと言われたそうだ。 「違う」と言っても、「オープンするときは東京から応援のホストを呼ぶんだよね。 それで、早めに来たら近くの店をリサーチさせるんだ」と、信じてくれなかったという。

 しかし、2日目の夜、ついに「バー ホルスタイン」を見つけることができた。 
 「前野、よろこんでたよねえ」 
 入ってみると、そこの女性たちのスタイルは普通で。店名の由来は、ママの実家が 酪農をやっているということだった。 
 「バー ホルスタイン」はそんなに遅くまで開けてないという。そこで、店の娘 たちを誘って、別の店へ繰り出した。 
 「ミュージシャンのやりそうなことだろ? でも、これがその街で遅くまで開いて る店を見つけるコツなんだ」

 「そんな奴が(こういうステージを)やってちゃいけないよね。チケットははけた けど、内容が」 
 いいえ、いいえ。最高のライヴやん! 
 そう思っていると、「いちばん問題なのは、MCか」というオチがつけられて、 みんな笑う。 
 客席から「サウンドストリートや!」という声が飛び、MCはおしまい。

 急に振られた松藤が、あわてて用意をして、アコギを弾きはじめる。 
 「花,太陽,雨」 
 先に松藤のソロ。「色のない花」 
 次に甲斐のソロ。「水のない雨」 
 詞の世界にのめり込み、3人の歌声と演奏に吸い付けられて、ストリングスの様子 を覚えていない。もったいなくもあるけど、それほど3人がすごかったということだ。 
 甲斐が「オーーッ」と小さい声をあげてから、「まーよーえーる人ぉよぉー」

 松藤のアコギ。甲斐はサングラスを外して、立ちあがる。 
 「イエロー キャブ」 
 白い小さなライトが左右に動く。赤や青や黄色、カラフルな円いライト。車の ヘッドライトを思わせる光が、後段の4人をかすめて行き過ぎる。客席の壁、そこに 映る影をも使ったライティングだ。 
 そして、間奏!「キュッ!キュッ!」と4人のストリングスが、生であの音を 現出させる。何と、こういうことができるのか。「ヒュールルー ヒュールルー  ヒュールルー  キュッ キュッ ヒュールルー ヒュールルー ヒュールルー   キュッ キュッ」前野選手が吹く、灰紺色のやや平べったいホーンの音が漂う。 さらに「キュッ!キュッ!」と、4つの弦楽器が一体となって襲ってくる。とてつもない 迫力や。しかも、松藤はベースになる音をずーっと弾きまくっているのだ。 
 今回「イエロー キャブ」をやるとは予想してなくて意外やったけど、ここで誰も が納得したはずや。甲斐はこの生の間奏が欲しかったのにちがいない。 
 再び松藤のアコギだけになる。 
 「幸運はなぜ あるものだけにほほえみ」 
 甲斐が静かにうたい始めた。

 今度は最初からストリングスによる演奏や。静かだが、やがて来る昂ぶりを予感 させるプロローグ。それが終わると、いよいよまたストリングスの威力が見せつけられ る。「ザザン ザザン ザンザンザン ザザン ザザン ザンザンザン ザザン ザザン  ザンザンザン ザザン ザザン ザンザンザン ザザン ザザン ザンザンザン  ザザン ザザン ザンザンザン ザザンザザンザザンザザンザザンザザンザザンザザン ヒューーーーーン」次第に高まったその調べの、最後の音が伸びる。松藤がカウントを 数える。そして、ついに甲斐の歌が入る。強く。 
 「かげろうに」 
 この瞬間、オーディエンスの興奮が爆発した。ものすごい歓声と拍手。己の よろこびと驚きと感激と、とにかくすごいものを見てるという思いをぶつけずにはいられ ないのだ。 
 「風が唄った日」 
 甲斐は「拾いあげーねば」と唄った後、声が多少かすれ気味になっても構わず、 吼えるように唄い上げる。 
 「怒りのーっ 鐘はいつ鳴りひーびくう 風がうたあーーーった日ーーっ」 
 ストリングスの間奏が毎回素晴らしい。ほんまにここまですごいとは。 
 聴き入りながら、世相を感じたりもする。ラヴソングではない、社会を時代を世界 を思わせる唄。わざとではないと思うが、3番の最初は「敵にしばられる大人達」に近く 聴こえるような発音やった。 
 けわしい表情でギターを弾く甲斐が、荒々しくかっこいい。後奏でもストリングス のうねりに合わせ、けわしく引き締めた顔でギターを弾いていた。が、前野選手の方を 向いているうちに笑顔になった。充実感が伝わってくる。 
 ストリングスは高まるだけ高まってから、急激に止まった。曲が終わったことを 確信してから、オーディエンスの大歓声と拍手が捲き起こる。

 曲の前に、何かの楽器が音を発した。それを聴いて「ナイト ウェイヴ」か?と 思った。当たりはしなかったが、そう遠くもなかった。ストリングスが奏で始めたの は、同じ三部作の歌だったのだ。 
 「破れたハートを売り物に」 
 あの美しい前奏を生の音で聴くことができるなんて、感動や。オーディエンスから 拍手がおくられる。 
 それから、甲斐や松藤たちの弾くアコギヴァージョンに入っていく。 
 白いライトが客席まで照らす。手拍子。ステージの上も下も一斉に歌い出す。 後ろの列の人たちが立ち上がるのが目に入った。そうや、立ってもいいやんな。僕も すぐに立ち上がった。 
 何か、めっちゃ歌える!気持ちいい!「アーアーアー アーアーアー  ウーウウー」まで全部歌う。思い切り。それでも声は合っている。 
 ステージと最前列の間にカメラマンが現れたのは、おそらくこの曲のとき。その姿 も気にならず、ひたすら歌声をあげる。 
 いつものように、「破れたハートを売り物にして」で合唱が終わる。でも、終わる のがもったいないような、もっともっと繰り返し歌いたい気分やった。

 「カルテットに拍手を!」 
 甲斐の言葉に、心からの盛大な拍手がおくられる。ほんまにめちゃめちゃいい演奏 やったで。 
 その拍手を浴びながら、4人が帰って行く。

 「風の中の火のように」 
 もう勢いがすごい。ギターとともにすぐに大きな手拍子。ステージの両端で、あの 炎が燃えている。 
 甲斐のギターも歌も強く。しかし、ときには静かにうたう。僕らも甲斐といっしょ に歌う。歌う。 
 ステージの背景は黄褐色のグラデーション。上の方ほど白っぽい。 
 甲斐が間奏で、ギターを弾きながら何度も跳び上がる。やる側もオーディエンスも ノりにノっている。今この時がうれしくてたまらない。 
 ステージが真っ赤に染まる。甲斐が「いやだ 一人きりは」と、ささやくように うたう。そして、「愛なのに」とうたった瞬間、歓声がはじけた。 
 後奏。ラストに向かってぐんぐん盛りあがっていく様を、アコギだけで表現して くれる。曲がフィニッシュして、拍手と歓声が沸いた後、甲斐だけがもう一度 「ザザッ!」とギターを鳴らした。

 「漂泊者(アウトロー)」 
 松藤がイスから腰を浮かせ、その体勢でアコギを弾きまくる。 
 1番からオーディエンスに「愛をくれよ」「誰か俺に愛をくれ」と歌わせてくれ る。どうにかなってしまいそうなくらい思い切り歌う。拳を突き上げる。 
 甲斐が途中でサングラスをかけたのは、この曲やったと思う。間奏ではハーモニカ だ。 
 歌も手拍子も拳も松藤の演奏も、最後まで激しいまま駆け抜けた。 
 そして、3人は手を挙げて声援に応えてから、左ソデへ消えて行った。

 アンコール。誰もがこのライヴに満足しているようだ。甲斐初のクラシカルな ツアーって、想像つけへんかったけど、こんなに力強いステージやってんなあ。

 甲斐が歩み出て来る。「甲斐ーっ!」「甲斐ーっ!」の声が降る。 
 ジャケットは脱いでいて、中に着ていたストライプのシャツ姿。このシャツにも 少しラメが入っていた。はだけた胸元には、ペンダントなのか銀色のものが見える。

 「翼あるもの」 
 甲斐は静かにギターを弾きはじめた。僕らは歌詞をかみしめて聴き、拳を上げて 歌う。 
 「明日はどこへ行こう 明日はどこへ行こう」 
 2番では、その部分の後半でギターをブレイク。これは初めての体験や。 驚きと新鮮さへのよろこびを胸に、僕らは歌った。 
 「明日はどこへ行こう」 
 オーディエンスの声が響く。甲斐がまた歌い始める。 
 それから、あの間奏や。めちゃめちゃ盛りあがる!長く弾きまくってくれる! 
 「俺の声が」からも静まらなくていいと、強いギターが言ってる。僕は甲斐の声を 大事に聴きながら、その部分をうたった。 
 甲斐はギターにのせて、いつもとちがうように「ハウ ウェーーイ」と声をあげ た。静かにゆっくりになっていく演奏。甲斐がギターを肘で押さえて響きを変える。 それからや。「ザカザカザカザカザカザカザカザカ」と細かく弾かれる音が強まり、 「ウォーッ」とか「甲斐ーっ!」という叫びと拍手が湧き上がる。 
 甲斐は最後にもう1度「ザカ!」と強く弾いて曲を閉じた。

 ストリングスのカルテットが席に戻っている。今夜初めて、甲斐のアコギと ストリングスだけの演奏になる。 
 この形で始まったのは、何と「冷血(コールド ブラッド)」! 
 ”My name is KAI” ヴァージョンだ。久々に聴くことができた。あの激しい曲を、甲斐がアコギ掻き鳴らし 歌っていくのだ。 
 ストリングスが入ったのは「うらんでも」の前。「ドアを蹴破って」からのパート あたりから。 
 あのアコギヴァージョンにストリングスが加わって。こんなハードな曲で見事に 一体化して。すごい、すごいぞ。 
 甲斐は3番の初めだけ静かめに弾く。またストロークを強めてから、 「押し寄せる地獄の炎」に入る。僕らも再び歌声を高めていった。

 「もう1度、松藤と前野を呼ぼう!」 
 甲斐の言葉に大きな拍手。 
 全員揃っての甲斐の第一声は、「見ろ。まんまと立ってる」 
 甲斐の予告してた通りや。だって、これだけの音を聴かされてんもん。当然立つ って。

 左端のお姉さんがサングラスを外した。暑いのかな。汗でも拭くのかと思ったが、 そのままやった。 
 「ちゃんと1人ずつ紹介しましょう」と甲斐が言う。 
 そういうことか。4人全員がサングラスをとった。 
 右端から1人ずつ名前を呼び上げていく。チェロの名前は、かおりさんといった か。輪郭のはっきりした美人だ。「甲斐ーっ!」って言うように名前を叫んであげたか った。でも、全員の名前をしっかり聞き取らないといけないし、雰囲気をこわしても いけない。そう思って躊躇してる間にタイミングを逸してしまった。 
 続いてはヴィオラ。あっさり系の美人。 
 「セカンド・ヴァイオリン」と紹介された彼女は、やはり客席に手を振ったりと いうことはしない。やや地味な印象ながら本当にかわいらしくて、控えめな態度が いっそう魅力的。唯一ズボンをはいていた。

 最後の4人目こそは名前を呼ぼうと思っていたが、すぐには紹介されなかった。 
 「なんでこの名前か、いまだにわからない」 
 えっ。そんなに変わった名前なん? 
 「ファースト・ヴァイオリン クラッシャー木村」 
 確かにすごい名前や。下の名前を呼ぼうと思ったのに、下ないやん。 
 「ラッシャー木村から来てるんだろうけど。ラッシャー板前もあるわけで。 クラッシャー板前とだけは言わないように気を付けてた」 
 僕は「クラッシャーっ!」って叫んでみたけど、拍手にかき消されて届かなかった ようだ。 
 クラッシャーは目立つ美人で、メイクをとってもきれいやろうなあと思う。顔付き からも、プレイぶりからも、パワーを感じる。

 カルテットはそれぞれイヤホンをしていた。これで演奏の音を聴いていたのか。 
 4人の前に置いてあるペットボトルには、ストローがついている。口紅への配慮 かな。 
 甲斐たち3人のところには、水のペットボトル。それと、琥珀色の液体が入った グラス。

 4人にサングラスをかけさせたのは、甲斐のアイディアだった。 
 「(サングラスをとって)ギャップがあったら、かけさせません」と、甲斐が全員 の美しさを称える。 
 それから、「前野はかけとけ」というジョークで、メンバー紹介がしめくくら れた。

 今日はやらないのかと思っていたけど、しっかりストリングス入りで聴かせて くれた。 
 「レイニー ドライヴ」 
 甲斐の影がステージ前方の床に映っている。 
 間奏で前野選手のピアニカに聴き入った。吹き終わると即、3人でのハーモニー へ。 
 「サーチライ」 
 白い光が放たれる。 
 うたい終えた甲斐は、曲の最後に右手を下げながらおじぎをし、さらに左腕を しなやかにくるくると動かして下げながらもう1度おじぎをした。

 2回目のアンコール。興奮した細かく速い手拍子が、もっと歌ってくれとせがむ。 
 「今の曲がいちばん最後でもよかったわあ」と「レイニー ドライヴ」に陶酔した 女性ファンの声も聞こえた。 
 速い手拍子のなか、隣の甲斐友が半分の速度で大きな手拍子を始めた。僕もその タイミングに合わせて叩く。やがてそのリズムが会場じゅうに広まっていった。全体の この大きな手拍子を大切にしたくて、「甲斐ーっ!」って叫ぶのもガマンして手を 打ち続けた。

 その分、ステージに現れた甲斐に向かって、何度も何度も「甲斐ーっ!」の声を おくった。 
 甲斐は白のタンクトップになっていた。首のあたりに銀の飾りが少しついたタンク トップだ。 
 前野選手はゴーグル風の横長のサングラス。黒の”アコギ”ツアーTを着ている。 
 松藤は髪にサングラスをのせていた。

 「熱狂(ステージ)」 
 前野選手が左手を振りながらキーボードを弾き始める。”アコギ”ツアー ヴァージョンだ。 
 甲斐のヴォーカルを堪能する。この、のびやかな声はどうだ。 
 「バスに揺られ 夜汽車に揺られ」という詞もあった。 
 間奏で拍手が起こる。キーボードが漂っている。ギターが刻まれている。 甲斐を見ながらそれを感じてる。 
 甲斐は今夜も「ショー」とうたった。

 甲斐がオーディエンスに感謝の言葉を述べる。みんなの拍手がなかなか鳴り止ま ない。こんなにすごいライヴを見せてくれてんから。 
 甲斐はうなずいて拍手を受けとめ、話しはじめる。

 カルテットも席についている。まずそのことについて。 
 「「イエロー キャブ」とか「風が唄った日」ですごかったのに、次の曲には弦 いらないじゃん。でも、悪い癖で。最後はみんなでいっしょに行きたい。四男だから。 長男・長女、第一子の発想にはない」 
 最後もすごいストリングスといっしょで、僕もうれしいよ。ほんまに画期的な ライヴにしてくれたもん。 
 甲斐は「「アップルパイ」という曲を」なんて言ったりもして、場内を沸かせる。

 甲斐バンドライヴCD10枚組BOX「熱狂 ステージ」の話題。 
 「作業に2ヶ月かかった。萩原健太の提案に乗ったらエライ目に」とか言いつつ、 出来映えに自信満々なのがうかがえる。実際、めちゃめちゃいいもんなあ、このBOX。 
 「全部のイベントが入ってる。メンバーが1人欠けてから出ることになって しまって、残念なんだけど。情熱と精力を傾けて、やったよ。よかったら、聴いて ほしい」

 「みんな、今日は大人で。大阪は今まで、騒いだり、暴れたり、壊したり」 
 そう言われて、みんなウケる。床が沈んだのも大阪やったんやんな。 
 「俺は大阪城ホールがどんな大変だったか知ってる。大阪城ホールの2階から飛び 下りた奴もいた」 
 「これだけ大阪にも知識人がいるってことだよね」と笑って言う。

 「大変だったんだから」とMCをまとめかかってから、「もう言っちゃおうか、 今日しかないし」と、また新たに話し始める。 
 「花園ラグビー場の(ライヴCD作製)作業、大変だったんだ」 
 「15分から20分、客席に向けて説教した。それも許そう。BOXでは、聴き やすいように短くしてるけどね」 
 「前に押し寄せて暴動になった。それも許そう」 
 「ビニールシートが俺に30枚くらい当たった。それも許そう。俺の顔にまともに 当たった場面は、フィルム切った。それ見ると殺意を覚えるから」 
 「でも。あのくらいの広さだと、客席の声を拾うのに何本かマイクが立ててある んだよ。それが倒されてて。そこに向かって男3人が10分くらい延々、言っては いけないスリーワードを」 
 初めて聞いた強烈な事実。甲斐も今回初めてわかってびっくりしたそうや。 
 「おめX、おめX、おめX、おめX・・・って、ずっとだよ!俺、何かと思った もん。それは慌てて下げて。確認したら、他のマイクにまわってなくて、曲にかぶって なかったからよかったけど」 
 松藤が「歓声が小さくなってたら、そこだな」とかぶせる。 
 甲斐は「それを上げたテープをもらおうかと思ったんだけど、むなしくなるから やめました」 
 爆笑の続く会場に、「今日来てたら、恥ずかしいよね」と松藤。 
 「25年前だから、当時15歳だったとしても、今40?いや、もっと上か。 あの時20歳だったとしたら・・・」と、甲斐は年齢を想像し始める。 
 それから、ゆっくりと間を置きながら呼び掛けた。 
 「もう過ぎたことだし。 俺は怒らないから。 手を挙げて」 
 これが絶妙におかしくて、みんな笑わずにいられない。 
 「とか言って、手ぇ挙げた瞬間、躍りかかったりするんだよね」 
 さすがに手を挙げた人はいなかったようだ。

 甲斐は「最後の曲だあ」とやんちゃに言い放って、ギターを弾き始めた。が、すぐ に止める。マイクスタンドとの位置が近すぎたみたいや。「マイクの位置が違うと、 怒られる」と言って、スタンドを直す。ミキサーの調節の加減とかがあるんやろうな。 
 「イエー」という声をあげて、あらためてイントロ。 
 「バス通り」 
 前野選手はエレキマンドリンを弾いていた。 
 最後の曲が、何だか早く終わってしまうように感じられた。繰り返しに入るのが もったいない感じ。ずっと聴いていたかった。この素晴らしいライヴが終わってほしく なかった。

 「クラッシャー木村カルテットに、もう1度拍手を」 
 僕は「クラッシャーっ!」と大きな声で叫んだ。今度は手を振ってくれたけど、 目線は僕より後方へ送られていた。どこからの声か、わからなかった様子。でも、 よろこんでくれたみたいで、よかった。 
 大きなチェロも奏者によって持ち上げていかれる。 
 前野選手は得意のサムアップを見せて行く。 
 そして甲斐は、マイクスタンドより前、ステージの端まで出て来てくれる。拍手と 「甲斐ーっ!」の声に応える。こちら側、ステージ左前を通る。僕は「甲斐ーっ!」 「甲斐ーっ!」って何度も叫んだ。甲斐は片手を挙げ、もう1度こちらを見てから、 左ソデへ去って行く。スタッフがその肩にバスタオルをかけた。

 心地よい洋楽が流れてくる。どこかで聴いたことがあるような気がする。 でも今は、今夜のライヴの様子を思い起こすのが先やった。この感動にひたっていたい。 
 ものすごかったなあ。春のツアーから大幅に進化してた。ストリングスは期待を はるかに超える強力な音を聴かせてくれた。めったに聴けない曲もあったし、定番曲も いつも以上にアレンジ一新で、ほんまに新鮮やった。 
 新鮮やったのは聴いてる僕らの方だけじゃなく、甲斐にとってもそうやったん やろうな。生き生きしてて、ほんまにうれしそうやった。充実感にあふれていた。甲斐は いつもそうやけどね。今回は特に。また新しいやり口を手に入れたっていう感覚があった んちゃうかな。このスタイルにずっしり手応えを感じてることやろう。 
 これはもはやROCKUMENTだと言ってもいいんじゃないか。 「ROCKUMENT VI -Classic-」、そんな感じや。本当にしっかり Classicで、なおかつ燃えるロックやったで!さすが甲斐!

 「昨日鳴る鐘の音」、「イエロー キャブ」、「風が唄った日」と、今日のベスト と思える曲が次々と更新されていくあの感じ。また味わったなあ。 
 甲斐を見てる視界の端に、4人が弓を構える動きが見えて、「さあ、ストリングス が来るぞ!」と思った瞬間の期待感。 
 甲斐がラストでダウンストロークを連発し、松藤がそれに合わせてフィニッシュ した場面。 
 「最初に書いた譜面通りにやりました」と甲斐が言った曲。 
 甲斐の真上から降り注ぐ印象的なライト。 
 前野選手が、ときには松藤が、カルテットに合図して曲をしめくくるところ。 
 感激の連続やったなあ。日々暮らしてるなかで、これ以上のものはない。他の 楽しみよりとにかく甲斐のライヴがいちばんやと、あらためて感じたよ。 
 ああ、もう1度見たい!しっかり確かめたい名シーンがいっぱいあるし、新たな 発見もできるやろうし、何よりあの曲たちをもう1度味わいたい。名古屋にも東京にも 行けそうにないのが、ほんまに惜しい。

 会場の外に出ると、チラシを渡された。そこにはこう書いてあった。 
 「甲斐よしひろ 2年ぶりのバンドライヴ! 2006年ツアー決定!!  2/9(木) 10(金) 11(土) なんばHatch」 
 何としても3日間来なければ!

 

 

2005年9月15日 大阪なんばHatch

 

かけがえのないもの#2 
昨日鳴る鐘の音 
かりそめのスウィング 
甘いKissをしようぜ 
安奈 
LADY 
裏切りの街角 
花,太陽,雨 
イエロー キャブ 
風が唄った日 
破れたハートを売り物に 
風の中の火のように 
漂泊者(アウトロー

 

翼あるもの 
冷血(コールド ブラッド) 
レイニー ドライヴ

 

熱狂(ステージ) 
バス通り

KAI 30th ANNIVERSARY TOUR ENCORE ”アコギ”なPARTY 30

2005年4月17日(日) 守山市民ホール

 

 守山市民ホールHPのFLASH道案内を見て、JR守山駅から歩いて行く準備を 整えていた。けれど、ありがたいことに、滋賀の甲斐友が車で送ってくれることに なった。 
 守山駅前のバスにはライオンズのマークが入っていたりして、滋賀やなあと思う。 
 車に乗せてもらってみると、歩くにはちょっと遠い距離やったかも。高校のそばを 通ったりして行く。近くに野球場もあるらしい。

 会場は新しくきれいでおしゃれな建物やった。道路を隔てた向かいにはのどかな 風景が広がっている。 
 入場時、スタッフがしきりに「お席が変更になるお客様がございまーす」と知らせ ている。ロビーからホールへの入口には、変更になる座席の番号が掲示されていた。 チケットをもぎる際にも確認してくれる。ミキサー席の位置が変更になったための措置 らしい。 
 客席に入ると、10列目の後ろくらいだろうか、いちばん前のブロックと2番目の ブロックの間の通路に、ずらーっと補助席がつくられていた。これが変更になった人の ためのイスなんやろう。ここなら近くて見やすくて、不満も出ないことでしょう。

 映画「リアリティ バイツ」の曲が流れていて、BGMが変わったのかと思った が、そんなことはなかった。今日も「バイバイ ミス アメリカン パイ」が流れて くる。 
 客席は地元の方がほとんどみたい。おとなしそうな人々に見える。おじいさんも いらっしゃって、客層は幅広い。

 甲斐は赤のジャケットっぽいシャツで現れた。岡山 神戸三郷 、京都と見てきたが、これまでは全て白の衣装 やった。鮮やかで、この”アコギ”ツアーのイラストから想起される荒っぽさも感じられ て、すごくいい。 
 シャツの中は灰色がかった黒のTシャツ。鈍く光る黒のレザーパンツ。

 「ちんぴら」 
 歌入りで、近くの男が隣の女性に「かっこいいなぁー」と囁いてるのが聞こえた。 その人は最初の数曲、甲斐が歌い始める度にため息をつかんばかりにそう繰り返して いた。 
 甲斐が弦を押さえる右手の指先を見る瞬間がわかる。青っぽいサングラスをかけて いても。僕の席は思ったより真ん中で、甲斐のことが細かいところまでよく見えた。 茶髪の感じとかも。 
 フィニッシュで甲斐は「イェー!」と叫んだ。拍手が起きる。ライトがつくと、 またあらためて拍手が起きた。

 松藤のアコギで、「裏切りの街角」 
 甲斐がうたい出すと、じょじょに拍手がわいて大きくなっていく。 
 ラストでは先にステージのライトが消え、暗いなかに甲斐がゆっくりうたう声が 響いた。

 前野選手と3人になる。 
 「きんぽうげ」 
 甲斐は突き放したうたい方を1度もせず、全て語尾を響かせる。 
 1番の後は間奏が短い。松藤が弦をはじく。2番後の間奏で、あのアコーディオン の音色が流れてくる。 
 後奏は松藤のアコギ。「ザザザザーン」

 甲斐はやはり守山のことを、「恋をささやくことさえも窮屈すぎる街」と呼んだ。 
 「楽屋入って、窓開けたら、いいなあ。昼寝しそうになった」と、なごませる。

 ツアーの説明をしてから、今日歌った曲のタイトルを告げ、さらに「1曲ずつ 曲紹介をしようかな。書いたときのこととか、今日は言っていく」と言う。 
 冗談かと思ったら、ほんとにやってくれた。今思いついたみたい。こんなことって 初めて。めっちゃうれしい。

 「「きんぽうげ」は、僕が書いたんじゃない。甲斐バンドのオープニングを飾って た曲で。甲斐がなかなか出て来なくて、計ったら3分だったことがあって。まるまる1曲 分じゃん」 
 ここで松藤が「きんぽうげ」オリジナルヴァージョンのイントロを弾いてみせる。 客席から沸く拍手。 
 甲斐は「もうやった。またやるのかよ。違うキーで」と、松藤に返す。

 「次の曲は、某化粧品メーカーとのタイアップで。と言うと、間違えてる人がいる かもしれないけど、「君のひとみは10000ボルト」じゃないですよ」 
 「アリスじゃないし」と松藤が言う。「3人だけど」 
 甲斐は、「NSPとかガロと勘違いしたまま帰ってもらっても構いません」 
 おとなしくきちんとして見えた守山のお客さんの、雰囲気が変わってきてる。 話に引き込まれ、リラックスして楽しむ感じになっているのがわかる。

 「ビューティフル エネルギー」 
 甲斐は「のぼってゆくよーーぉ」「しれーなーいからーぁ」と語尾を下げて響かせ る。 
 「ビューーティフル エーーナジー」からコーラスが重ねられる。 
 2番。松藤がうたい出して、拍手がおくられる。 
 松藤の声がやらしい。もしかしたら、女性の松藤ファンはこういうところに 惹かれるのだろうか。 
 「ああ ごらんーよー」は、甲斐と松藤がいっしょにうたう。「もう二度とー」 からは松藤だけで。「しれーなーいからーー」と声を絞り上げる。 「ビューーティフル エーーナジー」の後は甲斐がうたっていく。 
 「ああ ごらんーよー」からの繰り返し。ずっと甲斐と松藤が声を合わせる。 「きーんいろのー」の後の部分は、甲斐が一人でうたう。 
 曲が終わったとき、微妙な色合いをした背景の下に、3人の影が映っていた。

 「かりそめのスウィング」 
 イントロの前半で前野選手が指を鳴らす。観客の手が打たれ始める。前野選手は 歌入り後も、アコーディオンの入らない1番前半は指を鳴らし続ける。 
 間奏の甲斐のハーモニカが激しい。 
 ”PARTY”と同じタイミングで、甲斐が「オーイェー!」と強く叫んで フィニッシュ。

 うたい終えた甲斐の第一声は、「カンペキ」 
 「(ビデオ)シューティングしたときよりよかった」 
 すると、松藤は「音だけでも(差し換えて使ってもらおうか)」

 今夜ならではの曲解説。 
 「二十歳の頃に書いたのをバラバラにして、つくった」 
 「30万枚売れたんですけど、「裏切りの街角」の後だから、売れなかったって 言われた曲。「HERO」の後の「感触(タッチ)」とか、ガロの「学生街の喫茶店」後 の「君の誕生日」とか、みたいなもんですね」

 「前の曲は冬の歌だった。今日こんなに暑いのに、さらに冬の歌を掘り下げて。 みんなでうたう」 
 ワールドカップを見に行った札幌ドームでのエピソードを話す。トイレに立った とき、客が沸いたから一瞬見たら、ベッカムがPKを蹴るところだったという。 
 「そのときのように、今トイレに立った人が帰ってこないうちに」のジョークが ウケる。

 「安奈」 
 サビ前に甲斐が手で示し、みんなで「あんなーあ」と声を合わせる。 
 「二人で泣いた夜を覚えているかい わかち合った夢も虹のように消えたけど」 
 もともと好きな詞やったけど、今夜はまた別の感慨が心に沁みた。たとえ夢が 叶わなくても、という希望の歌に聴こえた。夢は消えてもいいんだ。またちがう夢を 見つけられる時が来るだろう。 
 「クリスマスツリーに」から、だんだん客席だけにうたわせる曲調になっていく。 甲斐はみんなといっしょに「あかりが」を大きな声でうたう。そして、「とーもりー」 からはオーディエンスにゆだねる。シャイなお客さんにもうたいやすくするための配慮 やったんやろう。 
 甲斐はみんなの合唱に「サンキュー」と声をかけてから、「あんなー お前に  あーいたい」とうたい始める。 
 曲が終わると、ホールじゅうからものすごい大拍手。みんな感激してるんや。

 「レイニー ドライヴ」 
 前奏で、さっき甲斐が触れた、トイレに行ってた人が帰ってきて、客席にざわめき が起きてしまう。たまたま目立つ席だったのが、災いしてしまった。 
 甲斐は反応を見せず、客席をしずめるように、1番を静かにうたう。 
 2番からは、ところどころ強くうたう。「ささやきーさえー」の「さえー」の部分 などで声を張り上げ、続くパートは静かにうたうのだ。最近の「レイニー ドライヴ」 は、こういうふうにうたわれている。 
 「サーチライー」。横と斜め上から白い光。 
 その後、青緑のライトに戻る。もう雨の道にしか見えない。雨の日の、最後の、 ドライヴ。そのせつなさを実感する。

 松藤のカウントが聴こえてきた。CDとちがって、前奏から間があって、うたに 入る。 
 「愛のもえさし」 
 座っている甲斐が、脚の間で両手の指を鳴らす。手拍子が始まる。僕は、手拍子 ありヴァージョン聴きたさと、甲斐の声だけを聴きたい気持ちの間で迷ったが、手拍子 せずに甲斐の歌声に聴き入ることにした。前野選手も指を鳴らし、全体の手拍子は増えて いく。 
 左右両側の壁に甲斐の影が映っていた。 
 ラストの「デデュビ」の部分は、こころなしか一昨日の京都とちがっているように 聴こえた。こういうのも、その瞬間の想いなんやろうな。

 「いい感じじゃないですか」と、甲斐が守山のお客さんをほめる。「リアクション が大きくていい。今日はずっと拍手が長くて」

 「北海道の上の方まで」行くという今回のツアーの旅話。 
 JR西日本の車掌の中に、「しんかんしぇん」と発音する人がいるという。福岡 出身の甲斐と松藤は、「それを聞いて、ポッと頬を赤らめるんだけど」

 「長く行ってないところ、京都も行ったんですけど。京都ではしのぶと呼ばれて ましたが、神戸じゃ・・・」 
 ここで客席の女性ファン2人組が「なぎさー」と叫ぶ。 
 「渚と名乗って。京都・滋賀、こまめに来ないといけないなと思って。磔磔から 出直します。滋賀は雄琴からでもいいんですが。そのときは別の源氏名で」

 「愛知万博、誰か行った?名古屋だけ反応大きかったんだけど。京都は都をどり やってて、「都をどり行くわー」って感じだったし。行った人がいたら、どうだったのか 感想を聞きたい」

 「こういうおだやかな、穏便なアコースティックだと、こわがらなくてもマイク スタンド蹴ったりしないから。このアコースティックセットだと、 「ダイナマイト・・・」はできない」

 「そうだ」と思い出した様子で、「2曲前に戻りますけど」と甲斐が曲解説を 始めて、みんなよろこぶ。 
 「スーパーゴールなみの「安奈」の後は、「レイニー ドライヴ」という曲で。 今回は、松藤の歌、多いんだけど。「レイニー ドライヴ」は、甲斐バンド解散前の最後 のシングル」

 「「愛のもえさし」はトリビュートアルバムの「グッドフェローズ」と同時期に 出た「アタタカイ・ハート」というアルバムに入ってる。前に「松藤甲斐」というのが あって、松藤がヴォーカルのはずだったんだけど、いつの間にか「松藤甲斐」に」 
 ここで松藤が「(甲斐が)歌いたいからな」とツッコむ。 
 「その「松藤甲斐」のアルバム1曲目に入ってた。詞は僕が書いたんだけど。いい 曲だからパクって。m.c.A・Tにアレンジしてもらって」

 「次の曲は、涙なくしては語れない。だから語らない。 「BLUE LETTER」を」 
 正面の席だからか、少し晴れ間がのぞく雲が、一昨日よりはっきり見える。 左はオレンジ、右は青の照明。 
 ラストの繰り返し。1回目を甲斐は「ブルーレターーー」と大きく伸ばした。 2回目は、このツアーからの「ブルーレタ」と語尾を響かせるうたい方。

 「花,太陽,雨」 
 「この白い光」、今日は甲斐はうたわず、松藤がうたう。 
 客席からは手拍子。僕は詞の内容などから、手拍子する歌じゃないと思うけど、 この強力なアコギとアコーディオンの演奏なら、それもありやなと思えた。 
 「はーなー たいよう あーめー」の繰り返し。それが終わるとステージは暗転 する。暗いなか、甲斐の「オーッ」という少しにごったような小さく切ない声が聴こえ た。そして、最後のうたが響く。 
 「まーよーえーる人およぉぉ」

 オーディエンスが立つ。甲斐も立ち上がる。 
 「漂泊者(アウトロー)」 
 激しい、激しい「漂泊者(アウトロー)」。ステージ下方は青緑。上はカラフルな ライトやけど、視界に入らない。甲斐だけを見て歌い、手を打ち、拳を上げているから。 
 甲斐のハーモニカもまた激しく。間奏は短い。後奏もすぐに果てた。

 歓声が一気に増大する。甲斐がギターをかける間も、ホールの空気は熱く。 
 「風の中の火のように」 
 前奏ですぐ手拍子が沸き起こる。ワインレッドのような紅色に、さらに真っ赤な ライト。 
 アコギの弾き方が激しい。甲斐がストロークのタイミングを増やしている。 
 シンプルな照明に変わった。オーディエンスが甲斐とともに大声で歌う。 「ララーラーラ ララーラーラ ララーラーラ ララーラーラ ララーラーラ  ララーラーラーアー」 
 後奏の高まり。いつもはドラムが増えていくところを、アコギで表現している。 手拍子だけでは足りず、足を踏み鳴らし、首を振る。そうせずにはいられない。

 曲の前に、「最後の曲になりました」の言葉。 
 「えーー」という声と満足感が入り混じった雰囲気から、手拍子と大合唱へ。 
 「破れたハートを売り物に」 
 3本のアコギ。甲斐が間隔をあけているときも、他のギターから効果的な音が している。 
 甲斐は強く歌う。僕も強く歌う。なんだかすごく声が出る。 
 2回目の「アーアーアー」後の「ウーー」を、京都では歌わなかった甲斐も 歌った。

 甲斐は曲が終わると立ち上がり、ピックをステージ後方へ投げた。大歓声に応えて から去っていく。 
 長く熱いアンコールが始まった。

 再び現れた甲斐は、灰色がかった黒のTシャツ。 
 「翼あるもの」 
 甲斐は1番の終わりでピックを落としてしまったが、何事もなかったように すっと、ギターにはさんである新しいピックを取って2番へ向かう。 
 あの間奏。手拍子がすごい。だって、甲斐のプレイが興奮させるから。 
 ラスト近くで、甲斐は利腕の左、肘のあたりでギターのボディを押さえる。 やはりこれはわざとやってたんや。音色や反響が変わったりするんやろうな。 
 曲が終わると、客席のあちこちからオーディエンスの叫ぶ声があがる。

 甲斐は静かにアコギを弾き始め、少しずつ強めていく。 
 「感触(タッチ)」 
 サビで「タッチ!」って歌う客がめっちゃ多い。手を上げるアクションつきの人も いる。 
 甲斐は後ろの腰ごとギターを前後に揺らしながら、リズムに乗ってストロークして いく。 
 今日は1・2番とも、歌詞はオリジナル通りやった。「あやーしく」の部分だけ、 少しトビそうになったけど。 
 後奏で甲斐が叫ぶ。「ウォーオオオオオオーーッ」最後を高く上げる感じで。 こういうの、大好きや。

 「テレフォン ノイローゼ」 
 1番のみ歌入りを遅らせるアコギヴァージョンの歌い方。 
 2番の途中は、上の音で歌う。「愚にもつかぬ甘い歌は」や「おねがい」を、 本来のメロディーに合わせて上下させず、平板気味に突き放した感じで。この方が、 詞がより辛辣に届いてくる。 
 2番のサビではアコギの音を少なくして、オーディエンスのコーラスを誘う。 
 間奏がまためっちゃ盛りあがる。「ザクザク」と刻む音が気持ちいい。 指を上下させるあの演奏に、「ヒュー!ヒュー!」と声が飛ぶ。例のフレーズも、甲斐が ストロークを増やして弾くから、いつも以上にかっこいい。 
 3番でも「世の中まわしてるのは」を、メロディーを変えて歌う。 
 最後のサビではもうギターなしや。甲斐とオーディエンスだけの声が響く。 そして、甲斐は今夜全編にわたって「鳴りっぱなし~いい」と強く歌ってる。 
 ラストでもあのフレーズをストローク増やして弾いて、フィニッシュ!

 松藤と前野選手が加わる。 
 「HERO」 
 歌い出す前に甲斐がオーディエンスを手であおる。 
 甲斐は「お前を愛してるうううーさ」という歌い方をする。 
 松藤は2番以降、ストロークを減らしたり自由な演奏。 
 曲が終わると、ものすごい拍手。鳴り止まない。何と、次の曲の前奏が始まっても まだ拍手がかぶっていた。

 拍手が続くなか、静かに奏でられるキーボード。それからアコギ。オーディエンス が手を叩くのをやめ、このバラードに聴き入ろうとする。 
 「熱狂(ステージ)」 
 1番のサビで泣けてくる。信じた道を行けばいいんだ。目指して、進んで、ゆく。 勇気をもらったという言い方は常套句になってしまってて好きじゃないけど、これは そういうことやんな。 
 甲斐は今夜もところどころ強く歌う。「すてきだあったーっ」というふうに。 
 キーボードによる間奏が、後奏が、いい。 
 松藤のアコギがゆっくりと曲をとじる。

 アンコールを求めるオーディエンス。甲斐の名前を呼ぶ声。叫び。歓声。それらが どんどん増えてくる。 
 ライトがつくと、すごい大反応。1回目のアンコールだけで5曲もやってくれてん し、2回目のアンコールはないかもしれないと思っていた人が多かったみたい。 めちゃめちゃよろこんでる。

 甲斐は黒のレザーシャツの中にツアーTを着て登場。 
 前野選手も黒いジャケットの下にツアーT。白い縁のあるサングラスに換えて いる。

 「嵐の明日」 
 壁に甲斐の影が映っているのがわかり、甲斐から視線をはずすのがもったいないと 思いつつ、一瞬だけその影を見た。 
 甲斐は今夜も、「シャララララララララ」とうたうとき、腰のあたりで両肘を 曲げ、伸ばした指先を右に向けている。「シャララララララー」に入って両手が左へ 向きを変えたと思ったら、すぐに右手でマイクをつかんだ。

 もう一度メンバー紹介。 
 松藤が「サンキュー」と言ってくれる。そうや、京都でも言ってくれたな。

 「今日はほんとに来てくれて感謝してる。サンキュー。ありがとう」 
 「丁寧で、あたたかい拍手で、いたみいります」 
 うん、ほんまに今日は拍手があたたかかったよ。心がこもってるねん。

 「かけがえのないもの#2」 
 「俺」と「君」の物語。一度はこわれかけた愛を取り戻そうとする二人の暮らし。 その歌に引き込まれていく。客席全体もそういう雰囲気。 
 後奏で繰り返される「ウォウウォウウォー」が印象に残る。

 「最新ニュースを」と、箱根・花園ラグビー場・「THE BIG GIG」・ 両国国技館・”PARTY”・SPECIAL LAST NIGHTを収録した、 甲斐バンド10枚組ライヴCD BOXについて告げる。 
 今日も入場する時に詳しいパンフレットをもらった。

 最後の曲へのフリで、フォークの話題になる。山本潤子の名前も出た。 
 「亡くなったけど、高田渡」と、京都でもほめてた高田さんの話へ。 
 松藤が「生きてるよ」とツッコんでしまう。 
 「知らないとは。松藤、昨日遊んでたんだ」 
 松藤は「遊んでた」と返してから、前野選手に顔で確認し、事実だと知って神妙な 表情になる。 
 甲斐は高田渡の話を続ける。 
 「19のとき、初めて会って。そのときから35みたいだったんだけど、後で4つ 上と知ってびっくりした」

 懐かしの歌みたいな番組については、「僕は現役感がナマナマしいから」と、 出ない宣言。

 「「裏切りの街角」が売れたからじゃなくて、あれが一生やっていきたいカラー だった」 
 「デビュー曲としては完成度の高いやつを」

 そう言って始まった。 
 「バス通り」 
 これが、このツアーで僕が最後に聴く歌になる。そのことが急に強く胸に迫って きた。 
 ラストの繰り返しは、「もう終わってしまうのか」と、さみしい思いで 聴いていた。

 前野選手はサムアップで帰って行った。 
 甲斐は、めっちゃ長くステージに残ってくれる。「25時の追跡」が流れてきて も。そして、マイクで「サンキュー」と言ってくれた。これは、5ヶ所行った今回の ツアーで、初めてのことやった。うれしかったなあ。

 客席を出ると、グッズ売り場とCD売り場に人だかりができていた。 
 守山って、素晴らしい。小さな町で聴くことで、さらに深く醍醐味を感じられる ツアーなんや。今、あらためてそう思う。 
 甲斐が好きで、ライヴに行って、1曲1曲を素直に体感する。それこそが全て。 甲斐のステージを冷静に語るなんて、僕には考えられない。思い入れと情熱を抱えて、 これからも甲斐のライヴに参加するぞ。

 

 

2005年4月17日 守山市民ホール

 

ちんぴら 
裏切りの街角 
きんぽうげ 
ビューティフル エネルギー 
かりそめのスウィング 
安奈 
レイニー ドライヴ 
愛のもえさし 
BLUE LETTER 
花,太陽,雨 
漂泊者(アウトロー) 
風の中の火のように 
破れたハートを売り物に

 

翼あるもの 
感触(タッチ) 
テレフォン ノイローゼ 
HERO 
熱狂(ステージ)

 

嵐の明日 
かけがえのないもの#2 
バス通り

KAI 30th ANNIVERSARY TOUR ENCORE ”アコギ”なPARTY 30

2005年4月15日(金) 京都会館第2ホール

 

 京都でのライヴは、1996年のミューズホール 以来。 
 京都会館となると、「ストレート ライフ」ツアー以来やなあ。あの日の 「ラヴ マイナス ゼロ」は忘れられない。第一期ソロ前半によく使っていた、濃紺のボディが小さくて四角くて、ネックの先がいきなり切れてないようなエレキギター。甲斐があれを静かに鳴らし、他にはキーボードが加わるくらいで、鈴木明男たちがならんで コーラスしてた。声を生かした、素晴らしいアレンジやったなあ。 
 あの頃はまだ京都に地下鉄はなく、友だちとタクシーで行ったんやった。

 今日は地下鉄で向かって行く。国際会館という駅があり、一瞬うっかりそっちを 目指しそうになったが、国際会館と京都会館は別物。事前に京都会館HPで調べておいた 通り、東西線東山駅で降りる。 
 改札を出たところに表示されてある、京都会館への最寄り出口が、HPに載って いた出口と違う。少しだけ考えて、駅の表示に従うことにした。 
 地上に出てすぐに地図があったけど、何か細くてわかりにくい道を行かな あかんみたい。おそらく、HPに載っていたのはわかりやすい大通りに近い出口で、 駅の方は物理的に近い出口を教えてくれていたのだろう。開場の6時半まであまり時間も なくて気が急くが、そのまま行くことにする。

 出口から左に進むとすぐ川があり、その手前を左折、京都らしい細い路地を歩く。 ほんまにこの道なんかいな。たよりなく感じつつも、たしかこっちの方角だと見当をつけて進む。 
 すると、小さな川沿いの狭い道に出た。桜の樹があったり、石の細い橋がかかった 向こう岸を着物の女のひとが歩いていたりする。めっちゃ風情があるねんけど、今は あまりそれを楽しんでいる余裕がない。 
 川に沿って進みきると、広い通りに出た。とりあえず右側の信号の方へ行ってみる と、いきなり向こうに巨大な鳥居が見えた。どうやら、この道で合っていたようだ。

 信号を渡ると、道は広くて大きな赤い橋になる。左右に桜も緑も多く見えて、趣の あること。観光客を乗せる人力車も停まっている。あの人力車の後ろが光るようになって るの、今初めて知った。 
 美術館、図書館と、その前を通り過ぎて行く。正面の奥は平安神宮らしい。それで あの鳥居か。京都会館とこんなに近かったとは。 
 平安神宮まで進まずに左折する。右手の桜が実にきれい。15日になってこんなに たくさん桜を見られるとは思ってもいなかった。 
 桜の公園の隣が、ついに京都会館。左手前の入口から入場。  

 甲斐バンドのライヴCD10枚組BOX「熱狂 ステージ」の豪華パンフレットを 手渡される。このツアー4ヶ所目にして初めてや。 初日の岡山から配るの間に合ってたらよかったのになあ。 
 パンフを手によろこぶ僕を見て、甲斐友が「曲目全部載ってんで」と教えてくれ た。ああ、危なかった。そう言うてもらえへんかったら、うっかり開いてしまうとこ やった。僕はCDを初めて聴く瞬間まで、収録曲目も曲順も一切知りたくないのだ。 1回目は何も情報を入れずに聴いて、実際のライヴのように驚きたいから。

 トイレに行くと、中にスタッフが立っていた。こういうの、やたら警備が厳し かった九州共立大学の、KAI FIVE 学園祭ライヴ以来やな。見たところ、 トイレ内に関係者用通路らしきものがあるので、その前をふさいでチェックしている らしい。

 客席では早くから口笛が鳴らされ、「甲斐ーっ!」の声が飛んでいる。めちゃ めちゃいい感じやん。今夜のライヴはひときわ熱くなりそうや。 
 BGMは「カントリー ロード」、「バイバイ ミス アメリカン パイ」、 マンダムのCMに使われていた曲。 
 最後のBGMが「ウィスキーバー」と歌い始めた。ステージに横から白い光が 射す。その中を甲斐の登場だ。

 「ちんぴら」 
 やはり今夜も、1番でも「そこは」を抜いて歌う。 
 「だから短く輝いては 消えてしまうというのかい」 
 ニューヴァージョンの歌詞も聴くことができた。

 松藤とともに、「裏切りの街角」 
 暗いステージに、白い光。歌い出しで拍手が起こる。 
 松藤は「わかってたよ」に入る前の部分を、オリジナルのように3つの音で 終わらせない。ラストが次につながっていくような抒情的なメロディーを奏でてくれる。 
 甲斐の声に思う存分聴き入る。今夜はハーモニカが強く吹かれている。 
 最後にみんなが拍手を始めても、僕はまだ動かない。もったいなく思えて、 音が完全に消えるのを待ってから拍手した。

 ここからは前野選手と3人で。 
 「きんぽうげ」 
 ライムグリーンの照明。1番では突き放してうたうところもあった甲斐。その後は やさしい声でうたっていく。 
 アコーディオンを這う前野選手の指が、「きんぽうげ」の間奏をつむぎ出す。 
 甲斐は「ひびわれた」の歌詞をトバしてしまう。よくオーディエンスに歌わせる 部分でもあるもんね。 
 後奏。甲斐の声は「デュデュデュ」からやがて「フフーフフー」とファルセットに 変わる。 
 ラストは松藤のアコギが「ザザザーン」と幕を引く。

 オープニングで立つ人と座ったままの人に分かれたことについて。 
 「変な生物(が生える)みたいにぼつぼつと(立って)。立って見ようが座って 見ようが自由ですから。ただ、(アコースティックライヴで)立った場合、どうやって 座るかって問題が出てくる」と、笑わせる。

 松藤にすごく大きな声援が飛ぶと、甲斐は「聞こえてるよ。近いんだから」。 松藤が「見えてるし」と続ける。 
 そういえば、2列目に、松藤に手を振っている人たちがいて、松藤も顔で反応して た。知り合いなんかな。 
 甲斐は「「家政婦は見た」のように見たくないものまで見えてしまうかもしれない けど、それはお互い様」というジョーク。

 「京都では、大都市を避けてやってるツアーとは言えないね」 
 「(京都でのライヴは久々だけど)プライベートでは来てた」と言うと、客席から 「エーッ」の声。 
 甲斐がそれに反応すると、松藤が「今日、耳いいな」 
 「昔は京都に何泊もして。丹後・・・丹後ちりめん、野村の母校・・・。豊岡 とか(にも行った)」 
 甲斐はさらに京都のことを、「今日の昼も、いいなあと。また、いい季節に来たな と」

 「ビューティフル エネルギー」 
 今夜も甲斐は短く響かせてうたい、松藤は伸ばして歌う。 
 前半を松藤が歌う2番も、サビは甲斐がうたう。そして、最後の繰り返しは、 2人のハーモニー。甲斐がサビをしめくくる。

 「かりそめのスウィング」 
 前野選手が指を鳴らして、客席の手拍子を誘う。歌に入ってからも、1番の前半は 指を鳴らし続けてる。 
 マフラーの詞は、「首に巻きつけた」でうたわれた。 
 「デューー ワッワッ」って感じで演奏されるアコーディオンが、この曲のムード を濃くしてて、いい。終盤には鍵盤を指が上へ走り「ギュルルー」と音を飾る。 
 甲斐がラストで「オーイェー!」と叫んだ。

 八坂神社に花見で来たときに、流しの人に「安奈」をうたってるのは自分だと告げ てびっくりさせたという笑い話。 
 京都ならではのMCがもうひとつ。 
 四条大橋の上。甲斐の姿を見た占い師が激しく反応し、「ちょっと、ちょっと、 君、見せて」と声を掛けてきた。「お金ない」と言っても、「いいから、いいから」と 甲斐の相を見て、「君は将来必ずビッグになる」と断言したらしい。 
 「ビッグになるっていっても、この程度か」と甲斐は茶化したけど、客席のみんな は拍手をおくる。俺らファンにとっては、甲斐は唯一無二の存在なのだ。 
 「「HERO」が売れた後、その人を探しに行ったんだけど、いなかったんだ よね」という後日談。

 「僕は磔磔から出直します。神戸はチキンジョージ から」 
 冗談ぽく言ってるけど、もしかしたら本当に地元のライヴハウスで甲斐が見られる かもしれないと、よろこびの拍手が起こる。 
 磔磔行ったなあ。甲斐友たちといっしょに。1994年だったか。店内に 「風の中の火のように」を作詞したときの甲斐の直筆ノート(CDとは少しだけ詞が ちがっていた)や、甲斐バンドのゴールドディスクが飾られてあるのだ。 
 「磔磔から始めて、磔磔で2daysできるようになったら、西部講堂行って」 
 「西部講堂、いいよねえ。浅川マキとか、俺持ってるもん。自分がそこに並んだ わけじゃないけど」

 「安奈」 
 3番あたりから、松藤のアコギの音が小さくなっていったみたいや。甲斐の歌声が 響く。そこへみんなの歌が重なって、コーラスとなる。 
 「クリスマスツリーに」で甲斐はうたうのをやめ、「あかりがとーもりー」からは オーディエンスだけにうたわせてくれた。 
 そして再び甲斐とサビを合唱する。

 「レイニー ドライヴ」 
 青緑のライティングのなか。 
 甲斐はうたい方にアクセントをつけている。「忘れてーいたー」の「いたー」や、 「ささやきーさえー」の「さえー」を強くうたい、その後の部分は静かにうたうのだ。 詞が沁みてくる。刺さってくる。 
 間奏でピアニカを聴かせてくれていた前野選手が、楽器を口から離すやすぐに 「サーチライー」のコーラスに加わっている。すごいなあ。

 「いい感じだな。・・・最後の曲になりました」 
 みんなが一斉に驚きの声をあげると、「今、(みんながあまりにも)集中してた から」と、いたずらっぽい表情をする。

 「アコースティックセットだと、甲斐のMCがたくさん聞けるだろうって勘違い してる人もいるみたいだけど。(いっぱいしゃべるかどうかは)会場によるんだよ。 かたくなな、曲が終わっても肩に力入ってるよう(な客席の雰囲気)だと、(そんなに はしゃべれない)ね。それを、いろんな角度からほぐすのも好きなんだけど」

 「磔磔から出直します」「(京都にも)こまめに来る」といううれしいセリフも 織り交ぜながらのMC。

 「神戸じゃ渚と、京都じゃ別の名前を名乗ってます」と、神戸のMCを受けての 話題も飛び出した。 
 松藤は「(京都でこのことを言うって神戸で宣言したのを)よく思い出したね」 って、感心するように驚きながらウケている。 
 甲斐は「MCで何か忘れてると思ってたんだ。それを探して、どうでもいいこと 話してた」とボケてから、「どうでもよかったのかよ!」と自分でツッコむ。

 暗転したステージ。ライトがつくより先に曲が始まる。 
 「愛のもえさし」 
 下の方で光が回っている。 
 甲斐のうた。それにコーラスも、よかったあ。歌も演奏も照明も素晴らしかった。

 「愛のもえさし」について、「松藤の歌を奪って、夜明け(という歌詞)を夜更け に変えて」 
 「歌いたい歌いたい病に時々なるんで。京都で店借り切って、朝までカラオケ 歌ったこともある」 
 そう甲斐が言うと、「彦根のときか」と 松藤が即座に反応する。

 麻生高校の名前を口にした甲斐。左の前野選手を見るも、無反応。 
 「いっしょにステージ出てるんだから」と言いつつ、仲のよさが伝わってくる シーン。

 「宣言したから、ほんとにやろう」 
 磔磔ライヴがほんまに見られるのか。感激の拍手が沸く。

 武道館のDVDの見どころは、「自分の出て ないDA PUMP(の出演部分)だ。自分は飛ばす」なんて言ってみせる。 
 アンコールの「HERO」での、DA PUMPとベースのノリオの対比もウリ だという。 
 「そういう秘蔵特典映像もあって」 
 「ぐっさんは、大友康平のマネしたときの方が音程いいんだよね」  

 「武道館で大友康平とやった時は、しぜんと歌い方が変わったんだけど。今日は 自分のうたい方でがんばる。当たり前だ。誰のコンサートだ」

 「BLUE LETTER」 
 背景に雲。左はオレンジの照明。右の松藤は青に染まってる。 
 「BLUE LETTER」の詞の舞台、この曲のモチーフとなった「道」、 「郵便配達は二度ベルを鳴らす」、さらにはグレアム・グリーンの小説 「ブライトン ロック」の海辺に今自分がいるような感覚になった。 
 歌って、照明って、こんなにもイメージを広げるもんやねんなあ。

 「花,太陽,雨」 
 客席から手拍子も聞こえた。僕は、ただ3人の歌を浴びる。 
 「この白い光」は松藤のパートだったが、甲斐もいっしょにうたった。それだけ のめり込んでいたのだろう。

 「漂泊者(アウトロー)」 
 甲斐が立ち上がって歌う。オーディエンスはもちろんすでに立っている。 
 ステージ上方でカラフルなライトが左から右へ2つずつ移動し、そのうえさらに 光を放つ。 
 1番では「SOSを流してる」から「テレビのヒーローが言ってる」まで間隔が あけられたが、2番は「愛こそ救いだとしゃべってる」に続けて 「希望の時代だと言ってる」と歌っていく。 
 間奏は甲斐のハーモニカ。強く。松藤のアコギも。前野選手のアコーディオンも。 
 ラストは急激に果てる。「漂泊者(アウトロー)」らしく。 
 熱狂の声がホールのあちこちから。「甲斐ーっ!」という叫び。オーディエンスの 熱が渦巻いてる。

 「風の中の火のように」 
 場内の興奮を受けとめてのことだろう。今夜の甲斐は、この歌を全部強く歌い 切る。 
 間奏のギターにも力がこもってるで。

 前奏で甲斐が言う。「最後の曲になりました」 
 「破れたハートを売り物に」 
 しっかり聴けるが、勢いもある、絶妙のテンポでの演奏だ。 
 「あのー雲を 払い落ーとし」と、オリジナルのタイミングで歌われた。これまで アコギヴァージョンのときは「落ーとーしー」って歌うことがほとんどやったけど。 
 後半、3人それぞれのギターの鳴り方が印象的や。そう感じながら、大合唱して いく。 
 ラストは2人が甲斐のギターを見て合わせ、完璧にそろってフィニッシュ!

 本編が終わったとこやけど、甲斐はステージに長く残って歓声に応えてくれる。 今夜のオーディエンスは特に燃えてるもんなあ。

 再び出て来てくれた甲斐は、黒のTシャツ。首のところを切ってあるようだ。銀の ネックレスが覗いている。

 「翼あるもの」 
 静かなアコギと歌。それでも僕らは拳を上げる。詞と歌声をかみしめながら。 
 間奏がすごいのだ。ギターの高まりにつれてオーディエンスも盛りあがる 盛りあがる。 
 その勢いで突っ込んで行った繰り返しは、「俺の海に翼濡らし」とニュー ヴァージョンや。 
 「たーどりいーい つーーくまでー」と歌った甲斐は、左腕で押さえてギターの 角度をずらした。音の反響を変えるように。 
 早めに「俺の声が聞こえるかい」と歌い始めた。 
 「ハーウェー フラウウェー」と声をあげる。ギターの音をわき上げる。 オーディエンスの拍手が捲き起こる。甲斐はそれから最後の音をキメた。

 やはり静かな前奏から。 
 「感触(タッチ)」 
 客席からの「タッチ!」の声が多い。ええやん、ええやん。 
 「お前がすがる」のとこからは「タン タ タン」の手拍子をする人たちも。 このシングルが発表された当時のライヴでは、その手拍子が多かったんかな。 
 1番を「胸はこんなにも」から「永遠に続く口づけ交わしながら」、2番を 「腕はこんなにも」から「二人だけのこの痛み守りながら」と、クロスさせて歌う ニューヴァージョンやった。

 大歓声にうなずく甲斐。やっぱりもう1曲やってくれる! 
 「テレフォン ノイローゼ」 
 甲斐のギター!イントロからめっちゃかっこいい。あのフレーズを生かして、強く 弾いていく。 
 1番は歌入りのタイミングを遅らせる。 
 2番はオリジナル通りに歌い出す。サビの2回目ではギターの音を減らして、 「鳴りっぱなしーいいー」と力強い歌いっぷりや。 
 間奏のギターもまた強し。「ザクザク」というストロークからすでにすごい。 さらに指が上下しまくるあの奏法を畳み掛けてくるのだ。 
 3番もオリジナル通りに入った。そして、後奏がバッチリで、俺らファンが 求めてるそのものの音で、またまたかっこよかった。

 「2人を呼ぼう」の言葉に拍手。 Welcome to the ”GUTS FOR LOVE” Tourの 2回目のアンコールを連想させもするセリフやなあ。こういうのにも燃えるのだ。 
 拍手に迎えられて、2人の登場。松藤はツアーTシャツを着ている。全体は黒で、 胸の部分に、赤をバックに刀を持ったニイさんのイラストがプリントされているやつ。

 「HERO」 
 甲斐が前奏から両手で煽り、みんなタイミングを違えずに最初から拳をあげる。 
 松藤のアコギは「ザザザザザッ」って全部弾いていながらも、独特の音をつくり 出す。2番からは少しストロークを変化させた感じ。 
 間奏で甲斐が立ち上がる。「空はひび割れ」のところで照明が暗くなる。 アコースティックでもマイクスタンドを蹴り上げるのかと思ったが、それはなかった。

 「熱狂(ステージ)」 
 前奏。前野選手が右手でキーボードを奏で、左手は指揮をするように振っている。 松藤のアコギが入ると、振るのをやめる。歌入りで拍手。 
 「雨が降るその前に 歩き出す」 
 この詞が心を打つ。とにかく毎日がんばっとく。そうしとかないとな。 
 1番の区切りで再び拍手が起こる。 
 甲斐は強弱をつけてうたっていく。 
 「むかーし」の語尾を響かせ、「ホールで」とうたい、「まばーらなー客ーをー」 で声を張り上げる。 
 「こんやーの」も語尾を響かせる。「ショーは」を少し小さな声でうたう。 「すてーきだあったあー」は力強く張る。 
 「次の町へ 次の町へ」 
 30周年やこれまでのツアーのことじゃなく、これから行くぞとうたってるんだ と感じる。「進んで ゆく」

 甲斐たちが去って行く。前野選手がサムアップして見せる場面が多かったから、 両手でサムアップしたら、片手をサムアップで返してくれた。

 アンコールを欲する大きな大きな手拍子。「甲斐ーっ!」という叫びがいくつも。 これが「俺たちを呼ぶ声」やんな。

 松藤。前野選手。そして、ツアーTの上に白いジャケットを着て、甲斐が現れた。 
 「嵐の明日」 
 背景にはもう一度雲が映し出されている。 
 2番の最初は、「なぜ 不安が」とうたうニューヴァージョンの詞で。 
 二段に並んだ赤いライトが燃えるようにステージを染める。その真ん中で、甲斐は 交差した白いスポットと、さらに他の角度からも白い光を受けている。 
 腰のあたりで肘を曲げ、両手を左に向けた甲斐。右手は胴の横にそえるような 感じ。その体勢で「シャララララララララ」と美しいシャウト。今度は両手を逆向きに して「シャララララララー」。さらにもう1回そのまま声をあげた。

 すぐに演奏が始まった。 
 「かけがえのないもの#2」 
 松藤が弦をはじく。はじく。 
 1ヵ所だけ「俺」を「君」に変えたニューヴァージョンの歌詞。 
 「炎が その目にもどる時まで」 
 繰り返されるこの詞が胸に残る。 
 甲斐と松藤が後奏で、「ウォウウォウウォーっ」と声を重ねる。

 「今夜はワキアイアイと、最後まで楽しんでくれて、感謝してる。ほんとだよ。 サンキュー。ありがとう」 
 そう言ってからもう1度、「磔磔から出直します」のセリフ。

 甲斐バンドのライヴCD10枚組BOXに関して。 
 「箱根から、イベントは全部入ってます。ラグビーよりうるさかったと言われた 花園ラグビー場」 
 客席から「行ったよー」の声が飛ぶ。 
 「両国国技館。BIG GIG。解散コンサート。黒澤フィルムスタジオまで」 
 「解散コンサートのは、全部曲順通りに、全部会場を変えて。 「THE 甲斐バンド」はほとんど大阪城ホールの音だったんだけど、武道館のにした。 関西のみなさん、スイマセンて感じで」

 「3人でしかやらない曲があって。それは、デビュー曲なんですけど」 
 そう聞いて拍手が起こる場内。 
 「曲の完成度は高いんだけど。やらないにはやらない理由がある。相撲取りでも 野球選手でもサッカー選手でも、銭のとれる選手っているだろ? これは銭のとれない曲 だったわけです。次の、今日2曲目にやった「裏切りの街角」から自分たちの一生の カラーを出した曲を書いた。フォークバンドと呼ばれた過去があるから」

 そこから懐かしのフォークを特集したテレビ番組の話になって。 
 「高田渡とか、めちゃくちゃうまい。あの人たちと会いたい。楽屋には行きたい。 でも、出たくはない」 
 「あそこは自分を古典にしないと出られない場所なんだ。現役感バリバリの僕には 無理」 
 この言葉はうれしいよなあ。しびれたオーディエンスたちから拍手がおくられる。  

 デビュー曲の話に戻って。 
 「いい曲なんだよ。やっててときどきぐっとくるもん。ただ、一生やりたい色じゃ ない」 
 「30周年のツアーとかフルバンドでやって て、アコギのコーナーになると、(客席から)「バス通り」「アップル パイ」とか、 やりたくないのばっかり挙げやがって。そっちにいたら、しめ殺してやりたい」と 笑わせる。 
 「バス通り」のことは、「青春のひとつの断片」とまとめる。  

 最後は今夜重ねられたジョーク。 
 「磔磔に渚って名前で出てたら、それは僕です」 
 両脇の2人を示して、「渚スリー」なんていうバンド名も出た。

 今夜を楽しみつくした和やかな雰囲気のなかで。 
 「バス通り」 
 切ない、いい曲を、存分に味わう。 
 ラストは甲斐が、ダウンストロークとアップストロークを1回ずつ聴かせて、 曲を終えた。

 甲斐はサングラスを外し、前に出て来て、ステージの上に長くとどまってくれる。 大森さんの「25時の追跡」が始まっても。 
 「25時の追跡」に合わせて手拍子が起こる。「今夜のコンサートは全て終了 しました」とアナウンスが流れる。そんなもの、かき消してしまえ。

 

 

2005年4月15日 京都会館第2ホール

 

ちんぴら 
裏切りの街角 
きんぽうげ 
ビューティフル エネルギー 
かりそめのスウィング 
安奈 
レイニー ドライヴ 
愛のもえさし 
BLUE LETTER 
花,太陽,雨 
漂泊者(アウトロー) 
風の中の火のように 
破れたハートを売り物に

 

翼あるもの 
感触(タッチ) 
テレフォン ノイローゼ 
HERO 
熱狂(ステージ)

 

嵐の明日 
かけがえのないもの#2 
バス通り

KAI 30th ANNIVERSARY TOUR ENCORE ”アコギ”なPARTY 30

2005年4月2日(土) 三郷市文化会館

 

 前日から三郷に乗り込んだ。”Singer”の初日 以来、ほぼ10年振りになる。駅前の風情はあまり変わっていないか。しかし、 いろんな店が増えているようだ。あの日、甲斐友と乗った電車は武蔵野線だったことが わかった。新三郷あたりの車窓からの風景は、あの夕刻を思い出させた。 
 前夜は 千葉マリンスタジアムで、マリーンズ対ホークスを観戦。今日も ロッテ浦和球場で、マリーンズ対ファイターズのファーム公式戦を途中まで観戦して からの、ライヴ行きだ。

 野球場のある武蔵浦和の駅から三郷駅に戻り、会場への道を歩む。10年前にお 世話になった薬局が今もあれば、記念に何か薬を買おうと思っててんけど、なくなって しまったようで、残念。 
 大きめの道路を進み、やがて左折する。そうすると、あの懐かしい三郷市文化会館 が見えてくる。向かいの公園も健在や。前回のライヴ終了後、初めて生で聴くことができ た「ブライトン ロック」について、この公園前の道で熱く語ったっけ。

 客席に入ると、昔のマンダムのCM曲が流れている。 
 自分の席で落ち着いて、ふと目に入った場内の時計は「17:02」。開演予定 時間を2分過ぎている。 
 アナウンスがあったのは、「17:06」。 
 そして、「17:10」、いよいよBGMが高まった。「ウィスキーバー」って 歌っているように聴こえる。

 ステージ左から甲斐、右からアコギを持ったスタッフが進んで来た。 
 ギターをかけ、マイクスタンドの前に立つ甲斐。手拍子、拍手、「甲斐ーっ!」の 叫びに、「サンキュー」と応えてから、アコギを弾き始めた。

 高らかな鐘の音のような前奏は、やはり ”My name is KAI”の「ブライトン ロック」や「三つ数えろ」を 思い出させる。 
 「ちんぴら」 
 1番の最初、「恋をささやくことさえも 窮屈すぎる街」と、甲斐は「そこは」を 抜いて歌う。 
 「お前にすがりついーたー」「思いもしなかあったー」「溺れていったー のおさー」甲斐は今日も、最後を歌うタイミングを変えている。このツアーはこれで行く のだろう。 
 客席の手拍子は小さめで、会場全体が息をつめて甲斐に見入っているような 雰囲気だ。 
 「あー あー あー」と力を込めて歌っていく甲斐。ラストも「そこは」なしで 歌った。 
 後奏の最後は短め。「ちんぴら」独特の「タンタン」という2音を弾かず、 その前に音を伸ばしてフィニッシュに入る。

 「松藤英男を紹介しましょう」 
 拍手で迎え入れられた松藤は、エンジのシャツ。今日もはだけ気味や。

 「裏切りの街角」 
 前奏。1番の後。2番の後。すべてで甲斐がハーモニカを聴かせてくれる。2番後 の間奏でだけ、ハーモニカの入りを遅らせ、その音を伸ばしていく。 
 最後は松藤のアコギとともに、「あのー人がー 見え なく なあったー」と ゆっくりうたって終える。

 次に加わった前野選手は、今日は縁なしの角張ったサングラスをかけている。 
 「きんぽうげ」 
 ステージ下方はライムグリーンの照明に染まっている。 
 アコーディオンの黒いボディに、赤紫の、青紫のライトが映っているのが見える。 アコーディオンの蛇腹が震え、「きんぽうげ」のあの間奏が生み出されてゆく。

 「このツアーは、去年やった30周年ツアーのアンコールツアーということで。 十何年行ってなかった岡山から始まって。 島根とか。福岡でも中心から離れたところでやったりとか」 
 「三郷は来てたんだ。ゲネプロで。ゲネプロって、ツアー前にホール借りて通し リハーサルするんだよ。今日は「本番、本番」と自分に言い聞かせて」というジョーク。  

 「ビューティフル エネルギー」 
 甲斐のサングラスに青紫のライトが映っている。 
 甲斐は1番で、「のぼってゆくよーーーーぉ」と声を張り上げた。 
 「もう二度とこの」からアコーディオンの音色がからんでくる。 
 後奏で甲斐が、「ウー」「ウォーエー」と切なくささやいた。

 「かりそめのスウィング」 
 前野選手がはじく指に合わせて、みんなの手拍子が始まる。 
 注目のマフラーの詞、今日は「首に巻きつけた」とうたわれた。

 うたい終えた「かりそめのスウィング」について。 
 「ほとんど二十歳のときに書い て。老成してたってことですね。(今の自分が)そんな二十歳見たら、ぶっとばしたく なるだろうけど」

 三郷のお客さんに、「今日、変」とツッコむ甲斐。 
 「ふつう1・2曲目が拍手長いのに、3曲目くらいからで。(客席が)緊張し てる」 
 「関東、変。厚生年金(会館)も武道館も 行けるのに、地元になると及び腰になって」 
 笑いも起こった場内の反応からすると、地元の人たちの気持ちはその通りやった みたいや。

 「去年のツアーは、夏に山梨でリハをやって。そのときは三郷じゃなかったんだ けど」と、校名の話に入る。 
 福島の小名浜二中出身の人はフリーライターで、わざわざ電話をかけてきたと いう。  

 「前の曲は冬の歌で。次も。これはみんなで」 
 「安奈」 
 甲斐がうたいながら、みんなもうたっていいんだと示す。そのジェスチャーが だんだん大きくなっていき、みんなの歌声も大きくなる。 
 「クリスマスツリーに」からの部分は、客席だけにうたわせてくれた。

 「レイニー ドライヴ」 
 前半は松藤のアコギだけの演奏で、甲斐がうたう。 
 やがて前野選手のピアニカが、あのメロディーを重ねてくる。

 「次の曲もいい曲なんだけど、行きたくない」と、MCでたっぷり話す甲斐。 
 もう1度今日の雰囲気を「変」と言ってから、「今回のツアーは大都市では やらない。だから、三郷。もうはっきり言った方が」と笑わせる。 
 「「東京はやらない」って言ったんだけど、イベンターが「違うんですよ、 甲斐さん、東京っていっても荒川ですよ」って。荒川は遠い。うちの家から」 
 「埼玉とは相性いいから、次は大宮か浦和。浦和でやろう」 
 この予告に拍手がわく。 
 「千葉は相性悪いから」と言うと、客席から「エーーッ」って大きな声が飛んだ。 
 「千葉の人?言ってはいけない言葉?「熊の木本線」みたいな」 
 甲斐が両隣の2人と顔を見合わせる。甲斐のMCで、筒井康隆作品の中でも僕が 特に大好きな「熊の木本線」のタイトルが出るとは。3人とも読んでるみたいや。 
 「今日は質疑応答ありなのか。じゃあ、そこの端の君から」なんて言ってみせる 甲斐。 
 客席から「待ってるよー」と声が掛かると、「言ってしまった。待ってるんだ。 責任を感じる」と、埼玉ライヴが現実味を帯び始めた気配。 
 松藤がすかさず「ディスクガレージ、よろしく」

 「愛のもえさし」 
 ほんまにいい曲やんなあ。 
 ラストで背景が真紅になった。

 武道館のDVDの話題。ぐっさん、大友康平、m.c.A・T、大友・・・じゃな い大黒摩季、DA PUMPと、ゲストの名前を挙げていく。 
 「大友くんとやった曲をDVDで見て、俺はエライと思ったよ。(大友康平に 合わせて)歌い方、変えてるんだよね。今日は元に戻して」 
 と、その曲「BLUE LETTER」 
 たしかに、武道館では歌い方を変えていたのがよくわかった。あれもあの時あの場 ならではの、「BLUE LETTER」やんな。ライヴやもんね。  

 「花,太陽,雨」 
 ただただ3人の声に陶然となる。歌に詞に入り込んでいく。感動としか言い表せ ない。今日特に心に響いた1曲。絶品やった。

 松藤の刻みがすごい。アコギだけでこの音、リズム。もちろんみんな立ち上がる。 
 「漂泊者(アウトロー)」 
 甲斐はオーディエンスに「愛をくれーよー」と歌わせる。ラストは「誰か俺に」と 歌わせて、甲斐が「愛をくれーー」 
 もう完全にあの「漂泊者(アウトロー)」を体現してるのだ。ただ3人の歌と音 で。

 「風の中の火のように」 
 今日は甲斐が強弱をつけて歌う。武道館翌日の イベントほど極端ではなかったけど。それでも、詞がより伝わってきて、この歌の 言うぬくもりが、愛が感じられて、胸が熱くなる。

 3人ならんだギター。前奏の間に甲斐が言う。「最後の曲になりました」 
 「破れたハートを売り物に」 
 みんなで歌う。甲斐の歌と。3人のハーモニーを聴きながら。それでも強く。 声をかぎりに。

 1回目のアンコール。甲斐がアコギを奏で始める。 
 「翼あるもの」 
 間奏がすごい!甲斐のギターが次第に激しく熱を発し、オーディエンスも燃えて いく。 
 「俺の声が聞こえるかい」 
 甲斐が今日は大きな声でそう歌う。不意に泣けてきた。詞に胸がしめつけられる。 
 オーディエンスの想いを喚起するように間をあけてから、「ザカザカザカザカ」と もう一度音を高めていった。

 甲斐は静かに前奏を弾き始めた。だんだん激しくしていって、あのサビに入る。 
 「感触(タッチ)」 
 「お前がすがる俺の」「お前が叩く俺の」からの部分を、1番と2番を入れ換えて 歌うニューヴァージョン。僕らもそれに呼応して歌っていく。その日にしか体験でき ない、こういうことがまたうれしい。

 甲斐一人のアコギ2曲に熱烈な拍手がおくられる。僕も手を打ち、「甲斐ーっ!」 って叫びまくり。 
 みんなの反応にこたえるように、甲斐がもう1曲弾いてくれる。 
 「テレフォン ノイローゼ」 
 2番の前半から音を減らしていく。ブレイクもあり、甲斐とオーディエンスの 歌声が、「テレフォンノイローゼーアハ」という合唱が、合間に甲斐が叫ぶ声が、会場に 響く。 
 2番の最後は静かに弾いて、「暗闇にーーー」と声を伸ばす。今日はここで終わっ てしまうショートヴァージョンなのかと思いきや、そこから演奏が激しくなってあの間奏 へ突入していく。もうネック全体を指が上下し、往復して。 
 ああ、めちゃめちゃ燃える「テレフォン ノイローゼ」やった!

 ここから再び3人でのステージになる。 
 「HERO」 
 「ザザザザザッ」のストローク、今日は松藤が全部残さず弾いているように 感じる。 
 アコギの音色が何だか”My name is KAI”の「観覧車’82」 ふうに聴こえた。弾き方が変わったのか、こちらの受け取り方がちがうのか。同じ曲を 聴いても、毎回僕の感じ方はさまざまだ。その意味でも、ライヴは毎回毎回ちがうもん やんな。

 「熱狂(ステージ)」 
 甲斐が歌に入った瞬間、泣けてしまった。その声を聴いただけで。詞の意味を言葉 として理解する以前に。すでに心をつかまれていた。 
 客がうたう場面もあった。 
 間奏で拍手せずにはいられない。 
 特に感動した「熱狂(ステージ)」やったなあ。

 心酔したオーディエンスの前へ、2回目のアンコールに3人が帰って来る。 
 「嵐の明日」 
 今日は速いテンポでの演奏だ。 
 終盤、甲斐は激しく、強く歌う。壮烈なバラードが出現する。

 「今日だけの曲を・・・とにかく、このツアー初めての」 
 その甲斐の言葉に、みんな大よろこびで拍手! 
 「ダメだったら、途中でやめる」なんて言うから、「エーーッ」って声があがる。 
 「飽きたら(やめる)」「練習だ」なんて言ってから、「うそ。本当はすごく 練習したんだよ」 
 そして、話をやめ、「ちゃんとやろ」と切り換える。

 「かけがえのないもの#2」 
 「ドゥン ドゥン」という音を松藤のアコギが響かせる。そのリズムの上で、 甲斐がうたっていく。 
 「ウォウウォウウォー」というハーモニーを3人で。甲斐と松藤でのコーラスも あった。 
 ライヴで「かけがえのないもの」を聴けたのは、きっと ROCKUMENT以来じゃないか。ニューアルバム 「アタタカイ・ハート」からの曲やということも、曲数が増えたということも 合わせて、とにかくうれしい。

 「今夜はほんとに来てくれて感謝してる。ありがとう」 
 僕らはもちろん、拍手と「甲斐ーっ!」の声で応える。

 前半のMCで、最後の曲を「バス・・・」と言いかけてしまったので、 
 「さっきもらしてしまった「バスルーム」という曲を」 
 松藤が「愛を込めるか?」とかぶせる。

 そのデビュー曲「バス通り」について。 
 「曲の完成度は高いんだよ。でも、プロ野球選手でもサッカー選手でも、 ”銭にならない選手”ってダメじゃない」 
 神戸のときみたいに、「不憫な子ほど かわいい」と言えば伝わりやすいのではと思ったけど、今日はそうは言わなかった。 
 「「フォークバンド?」って思われてしまう。10年そのスタイルでやらないと いけないわけだから。半年間タメてタメて、「裏切りの街角」を書いた」 
 「なんで3人で(「バス通り」を)やるかっていうと、この背景に合ってる。 JAH-RAHがいて、土屋公平がいるのに、(「バス通り」をやるって)言えない。 「裏切りの街角」が限界だった」と笑わせる。  

 アコースティックライヴという形態に関して。 
 「いいなあ。俺が座って、君らが立ってる」とジョークを言ってから、 
 「歌唱力や人間性が見える。はだか。ヌードっぽい状態で」と表現する。 
 「きついんだ。松藤なんて、(終わると)へとへとになってるもんね」 
 「3人でまわるって言ったら、(最初は周りに)冗談かと思われた」 
 「スタッフの数が少ないから、みんなを待って打ち上げする」のが通常のツアーと ちがうという、舞台裏の話も。  

 歌い続けていくのに大切なこと。 
 「歌に対する純粋さ。歌っていくということへの」 
 客席が感動してる雰囲気になると、 
 「ボクにだまされちゃいけません。人間性の悪さで残ってきたとこあるから」 
 と、照れ隠しのようなセリフ。  

 「さっきの曲はすごくよかったので、またどこかでやります」という宣言が、MC のしめくくり。 
 たしかによかったもんね。またうれしさがこみあげてきて、拍手。

 マンドリンが前奏で「ポロポロ」と音を出す。 
 「バス通り」 
 MCの内容も全て受けとめて、いい歌やとあらためて感じながら聴いていく。 
 素敵だったライヴの時間が終わりに近づいていく。

 曲が終わるとすぐに、甲斐はサングラスを外して台に置き、前へ出て来る。 オーディエンスの声援に応えてくれるのだ。 
 松藤はステージを去るとき、甲斐の方を手で示していた。いい光景やったな。

 

 

2005年4月2日 三郷市文化会館

 

ちんぴら 
裏切りの街角 
きんぽうげ 
ビューティフル エネルギー 
かりそめのスウィング 
安奈 
レイニー ドライヴ 
愛のもえさし 
BLUE LETTER 
花,太陽,雨 
漂泊者(アウトロー) 
風の中の火のように 
破れたハートを売り物に

 

翼あるもの 
感触(タッチ) 
テレフォン ノイローゼ 
HERO 
熱狂(ステージ)

 

嵐の明日 
かけがえのないもの#2 
バス通り

KAI 30th ANNIVERSARY TOUR ENCORE ”アコギ”なPARTY 30

2005年3月12日(土) 神戸チキンジョージ

 

 仕事の時間を変更してもらい、早めにあがる。駅で腹ごしらえをしてから、神戸は 三宮へ。開場時間を過ぎたチキンジョージに滑り込んだ。

 早々にSOLD OUTの報が流れていたチキンジョージは、すでに混みまくって いた。客席左後方の扉を抜けると、すぐ脇に何とか場所を確保したといった趣きの グッズ売り場。段の高い後方スペースに、立ち見の観客たち。右端のカウンターへ ドリンクチケットを引き換えに行く余裕もない。人々の間を縫って、前のイス席へ。 
 僕の席は右寄り。イス席の中ではだいぶ後ろの方。最前列からぎっしりとイスが 詰め込まれていて、かなり窮屈だ。しかも、僕の前のあたりは列が歪んでいて、前列の イスが自分の足元まで迫っている。イスにも種類があったみたいやけど、僕の席はただの 円イス。何とかイスの下にカバンを置くと、もはや自分の足を下ろす場所もない。イスの 脚の途中の輪っかに両方のつま先を乗せるという不安定な体勢で、ライヴに参加するしか ないようだ。イス席でも最後尾だけは一段高くなっていて、席まわりにもゆとりがある ねんけど、僕のイスは前後左右びっちりと取り囲まれている。 
 これだけ人が密集していると、暑い。空気もよどんでいるように感じる。天井高く で大きな羽根が廻されているが、用をなしているとは思えない。気分が悪くなる人が出る んじゃないか。そんな心配をしつつ、開演を待つ。

 ステージ奥上方には、「CHICKEN GEORGE」の文字が光っている。 1996年のライヴを思い出す右手の階段は黒い幕で 覆われている。

 甲斐がステージの中央に現れた。大歓声。僕は立ちたかったけど、立てない。それ 以前に、足を床に置くことさえできひんねんから。何人か立ち上がっているファンもいる が、やはりぎゅうぎゅうづめで立てない人も多いようだ。何とか気持ちは伝えたくて、 僕は繰り返し叫んだ。「甲斐ーっ!」

 甲斐のアコギが”My name is KAI” の「ブライトン ロック」を思わせるように高く響く。しかし、この移り行く音色は 間違いなくあの曲のコードや。初日の岡山では 舞い上がって気づけへんかったけど。小節の最後を2音ずつ弾くところも、まさにこの 歌だと告げている。 
 「ちんぴら」 
 「お前にすがりついーたー」「溺れていったーのーさ」甲斐はサビ前の最後を 伸ばして歌う。この歌い方はこのツアーが初めてかもしれない。 
 「傷つけることも」からはストロークを減らして、じっくり聴かせる。 
 ラストの繰り返し。「恋をささやくことさえも」を、甲斐はささやく声で うたった。

 松藤が加わる。岡山で言ってた通り、「感触(タッチ)」はアンコールにまわった のだろうか。松藤の出番が1曲早まると、それだけでもライヴの印象がけっこう変わる。 
 「裏切りの街角」 
 甲斐は語尾を伸ばさずに響かせる。甲斐の声にひたれるうれしさ。 
 「チュッチュルル チュルルッチュチュチュチュ」の後は甲斐のハーモニカ。 
 ラストはゆーっくりになって、曲が去っていく。

 「飲み物、下に置けよ。 ステージの上に置いてんだよ」 
 甲斐が最前列の客に注意する。 
 「(ステージ上に)腕置いてたとこもあったな。昔なら蹴ってたかもしれない。 まるくなったもんだ」と笑う。  

 「このツアーは、30周年のアンコールツアーということで。 去年とはだいぶ曲変えてるんだけど」 
 「大都市をはずして。いつも行かない街ばかり。神戸は違うわけじゃない。でも、 今日は島根から来た。福岡(の会場)でも、中心から車で1時間。大垣は、「HERO」 を初めて録音した場所で。そこは旅館だったんだけど」 
 「他は10時以降、飲み屋探すの大変で。ここは人が歩いてる。ネオンは輝い てる。客引きに声掛けられて、うれしかったよ」 
 「地方はどこも拍手が長いんだよ。(今日は)あっさりしたもんだよね」という ジョーク。 
 そんなことないよ!今夜のこのライヴにめっちゃ感動してる。拍手するのさえ ちょっと大変なくらい、狭いし。 
 みんながそう思っている気配になると、「思いはあるのかもしれないけど、 ありがたみがちがう」と説明する。 
 「(このツアーは)恋をささやくことさえも窮屈すぎる街で、やってるわけ だよ。ここはちがうよね。大声で語れるよね」

 アコーディオンの前野選手も参加して。 
 「きんぽうげ」 
 上は青、下は緑のライト。 
 甲斐はやはり語尾を伸ばさず、響かせる。いつもの激しい「きんぽうげ」のよう に、「くーらやみの なかーぁ」と下げたり、「くーらやみの なか」と切って突き放す ことはしない。アコギヴァージョンならではのヴォーカルなのだ。

 「物置じゃないんだから」と、甲斐が再び最前列の飲み物の件に触れる。 
 松藤は「舞台だもんね。踊らないけど」

 「ここがいちばん(このツアーで)距離近い。だからといって、上がって来るな よ」と甲斐。 
 後ろの立見席から声が飛ぶと、「(俺は)そこらへんまで跳べるんだから。  後ろから走ったら。 結局届かず、寸前で朽ち果てていく気がするけど」 
 「去年はフルバンドで、最後は武道館まで 行って。今日はアコースティックだからといって、親密な感じだとは思わないで」と 言ってみせる。  

 「80年代・90年代はバランスがよくて。バブルのせいもあったんだろうけど。 俺はおもしろくないなと思ってて。 最近、10代で暴れる奴が出てきて」と、 スキャンダルになった若者2人の話をする。 
 「30代になっても」と、別のスキャンダルの話題になり、「何やっても、あんな ふうに書かれたくない」  

 甲斐が曲名を告げる。 
 「「ビューティフル エネルギー」という曲を、やりましょう」 
 「あーえないーかも しれーなーいからーーぁ」と、甲斐が語尾を下げた。 いつももそうやけど、アコースティックだと甲斐の声をすみずみまで味わいつくせる なあ。

 前野選手がフィンガースナップ。それを見て、客席が手拍子をする。 
 「かりそめのスウィング」 
 甲斐は「口に巻きつけた マフラー」とうたう。 
 間奏ではハーモニカだ。

 「今の季節にぴったりの曲をやりました」 
 もう春の雰囲気になってはきてるけど、「外は寒い」 
 「「口に巻きつけたマフラー」とうたってしまいました。この歌は、アマチュア 時代の曲「師走」が原形になってて。それに引っ張られてしまう。詞は70%、曲は全部 変えて。”PARTY”でも、いい感じで「口に巻きつけたマフラー」ってうたったんだ けど。俺としては、「口に巻きつけた」にしたかったんだけど、わかりにくいかなと 思って、首に巻きつけました」 
 思いがけず、「かりそめのスウィング」秘話が聞けて、めっちゃうれしい。 ”PARTY”以降、ライヴで「首」とうたうのか「口」とうたうのかいつも気をつけて 聴いててんけど、そういう事情があったとは。

 「去年のツアーは、30周年・3時間・30曲ということで。武道館は3時間40 分くらいやって。DVDでは、それを2時間にまとめて。1枚組の予定が2枚組に なった。「グッドフェローズ」からのゲストがあんまりおもしろいんで、それも入れて」 
 「ぐっさんとのステージを舞台裏で見てる大友康平とm.c.A・Tが、「ウケ てるな、ヤだな」とか言ってんの。A型の考え方だよね。B型は、「(後に出る自分の ために)あっためてくれてるな」と思う」  

 チキンジョージに関して。 
 「ここは、いつもやりたくて。(ステージ上に)飲み物置かれたのはイメージが 違うんですけど」と笑わせる。 
 早々のSOLD OUTに、「2daysにするべきだったと、イベンターが 言っていた」 
 「全部お客さん代わるなら、2日やってもいい」という意地悪なジョークも。

 通常のツアーでは客の歌声が、「すごい声」だと言う。 
 「JAH-RAHがカウント出して、俺らは合図かよ。DVDのミックスも大変 だった」 
 客席のみんなと「提携してもいいよ」と甲斐。 
 松藤が「ライブドアみたいに」とかぶせる。 
 「2番まで、俺、歌わないとか」 
 「それは長い」 
 「俺、ほんとにやったことあるんだよ。花園のアンコールでの「翼あるもの」。 2番まで歌わずに、全部客に歌わせてんの」 
 ああ、「今夜限りね」という詞をその夜どうしても歌いたくなくて、アンコールで 歌う予定だった「きんぽうげ」を、その日2度目の「翼あるもの」に変更したという、 そのときのことやな。 
 ここで甲斐バンドライヴCD10枚組BOXの話をすればと思ったが、なぜか 今日はその話は出なかった。

 「みんなとうたう。いつもと同じように。生き方はひとつだろう」 
 その言葉に続いて始められたのは、「安奈」 
 岡山と曲順が変わったから、「もう「安奈」とは、早いな」という感覚になる。 
 ああいうMCの後やったから、今夜はみんなが大きく歌う「安奈」や。 
 甲斐も3番をみんなにたくさん歌わせてくれる。オーディエンスだけが歌う部分が 終わると、甲斐が曲の途中で「サンキュー」と声を入れる。これ、久しぶりやなあ。

 「レイニー ドライヴ」 
 前野選手がピアニカで、前奏のあのメロディーをつづっていく。 
 「サーチライ」「ウェイアウトゥ」英語的にどうなのかは僕にはわからないけど、 音の響きが実にいい。ハーモニーが心地よくもあり、詞が迫ってきて悲しくもあり。 
 その声とともに上から白い光が放射状に照らす。それから、青と緑の雨の道へ 戻っていく。

 4度目のMCにして一転、「(ステージの上に飲み物を)置いてもらってもいいん ですよ」と、甲斐は前の客に声をかけ、「あんだけ言っといて」と自分でツッコむ。

 「いろんな楽器ができるからって」とかって、前野選手をいじり始める。 
 「本人はミシェル・ポルナレフを意識してるみたいなんですけど、円いサングラス してると、あんまする人とか溶接工に見える。ミシェル・ポルナレフのは六角形とか なのに。それで、白山眼鏡に頼んでつくってもらったのがこれ」 
 今日の前野選手は、白い縁のある六角形のサングラスをかけている。そういう展開 があったのか。たしかに、今日のサングラスの方がかっこいいかも。

 「今回(のツアー)は大阪がないんだよね。神戸ではなぎさと名乗ったんです けど、京都じゃしのぶって名前で出ます。安易に考えたこんなMCでいい?」と言い つつ、「これ京都でも言おう」

 去年のMCと同じ「南アルプス中学」の話を少しだけしゃべって止め、 「曲行こうか」と間を置いてから、続きを話す。 
 そのMCを聞いた知り合いが、「自分は小名浜二中出身だ」と言って来た後日談を 追加。「一中と三中は略すけど、二中は絶対略さないらしい」 
 松藤に「(こんな話の後じゃ)曲行きづらいか」と言っておいて、「麻生高校 というのがあって」

 神戸ならではのMCもたくさん。 
 「異人館の近くによく行くフランス料理屋があって。男3人だけど、行ってきた。 打ち合わせのふりして」

 「今日食事に行ったところでは、両脇のお客さんが日本人じゃなくて。40代 くらいの中国の男の人と、中国の上品な老夫婦で。いいよね、この街」 
 独特の言葉が耳に快かったという。 
 「で、楽屋入ったら、松藤がガーッとしゃべりかけてきて」というオチ。

 デビュー間もない頃、神戸のプールで歌う仕事もやったという。 
 「みんなプールに飛び込んでるわけよ。聴いてない客をどうやって聴かせるかと いう状況で。マネージャーに文句言った」 
 そのときも当然いっしょにいた松藤が、「でも、ゲームもやってたじゃん」 
 そう聞いて、甲斐は「ああ、やった!やった!俺、ゲームコーナーまで。松藤、 よく覚えてるなあ!」 
 今この瞬間久々に思い出した甲斐が興奮。

 もうひとつ神戸での仕事の思い出。 
 「サンチカって今もあるのかな。サンチカってところにスタジオがあって」と 甲斐が話し出すと、松藤は「ラジオ関西?」 
 「あそこで演奏までした。モニターがないからイヤホン使って」 
 当日のことがよみがえってきたらしい甲斐は、「なんなんだよ、サンチカ。なんで サンチカなんだよ」と繰り返す。 
 「俺は神戸に来て、頭がヘンになってるな」  

 甲斐が曲名を口にする。 
 「愛のもえさし」 
 松藤のギターがよい。 
 ラストは不意に切れるアルバムヴァージョンではなく、ギターとアコーディオンで しめくくられる。しっかりと”アコギ”なライヴヴァージョンに仕上げられているのだ。

 このあたりからはもうMCはなく、歌を聴かせていく。 
 「BLUE LETTER」 
 甲斐はやはり「ブルー レタ」と伸ばさずに、語尾を響かせる。今回の アコースティックツアーでは、このうたい方でいくようだ。

 「花,太陽,雨」 
 この歌では、3人の歌声が前へ出て来る。松藤が強く歌っているのが印象に残る。 
 繊細な詞でありながら、甲斐らしい激しいバラードになっている。それでいて、 声の魅力も存分に感じさせてくれるのだ。

 松藤のギター。一音目は岡山より小さかったように感じた。それに続くストローク が激しい。 
 「漂泊者(アウトロー)」 
 チキンジョージが一瞬にして燃え上がる。僕は立ち上がりこそできひんけど、 思いきり歌い、手を打ち、拳を上げる。これが「漂泊者(アウトロー)」やねんから。

 「風の中の火のように」 
 燃えるオーディエンスとともに、力強く歌う甲斐。 
 「激しい叫び押し隠し あああーーーーーっ」と伸ばしていく声。アコギと アコーディオンの演奏のなかで、むき出しになった甲斐の生の声に触れられた思いが した。 
 ラストの繰り返しが今夜も多い。いいぞ、いいぞ。

 甲斐が最後の歌の名前を教える。さあ、みんなで行こう。 
 「破れたハートを売り物に」 
 「アーアーアー アーアーアー ウー ウウー」 
 歌詞はもちろん、そういう声のひとつひとつまで、ステージの上も客席のみんなも 一体となって合わせていく。それが気持ちいい。それがうれしい。

 アンコールは甲斐一人のアコギから。 
 「翼あるもの」 
 甲斐がその声を聴かせるアコースティックヴァージョン。それでも、僕らは拳を 三度突き上げる。 
 後奏。甲斐は早めにゆっくりなテンポにしていった。「ハーウェイ フラウウェイ  ハーウェイ」と切ない声をあげる。一瞬「テレフォン ノイローゼ」アコギ ヴァージョンの間奏のように、甲斐がネックに指を滑らせてから、「ザカザカザカザカ」 というあの高まりへ入っていった。

 「感触(タッチ)」 
 初日ですでにアンコールへまわすと宣言していたが、ここで来たか。 
 「走りつーづーけよーおー」の後の「ウォーオオオー」が多い。熱いのだ。 
 「タッチ 今触れたいのさ」からギターが小刻みになり、声も小さく歌う。 「拒まない」を強めに歌うと、「でーくれーえー」の「で」から力強く歌っていく。 
 ラストのコード展開は何度聴いてもほれぼれする。

 これで甲斐が一人でやる曲は終わりと思いきや、甲斐がアコギを弾き始める。 
 おおお、1曲増えたぞ! 
 「テレフォン ノイローゼ」 
 いやあ、やっぱりいいよなあ。めちゃめちゃ盛りあがる。 
 甲斐はピンと高い音の弦だけ鳴らして弾いて、みんなの声をメインにしたり。 あるいは例のフレーズを聴かせ、ギターで興奮させたり。あの間奏ももちろんありで、 もう歓声飛びまくりや。

 これだけ燃えてるところへ、松藤と前野選手が入るねんもん。もう熱くなる一方 や。 
 しかも、「HERO」 
 再びみんなで拳を上げる。手を打つ。声をかぎりに歌う。 「ウォーオオオオ オオ」甲斐といっしょに叫ぶ。燃焼の時が続く。

 オーディエンスの熱を鎮めるかのような美しい音色がキーボードから。 
 「熱狂(ステージ)」 
 ひたすら甲斐の歌に聴き入り、詞をかみしめ、甲斐のあげるちょっとした切ない声 も聴きもらすまいとする。 
 さっきまでと打って変わって完全に静かだった客席から、曲が終わると一斉に 大きく激しい拍手。

 甲斐はソデに下がる前に、ステージの両サイドまで行って、感謝の気持ちを示して くれた。俺たちは拍手と「甲斐ーっ!」の声でそれに応える。感激のひとときや。

 前野選手が、松藤が、そして甲斐が帰って来る。 
 「嵐の明日」 
 最初の「なぜ」はうたわれず、「つかの間だという気がする」から甲斐がうたい 出す。 
 甲斐は間奏で、「シャララララララララ」と声をあげる。 
 このバラードでも、甲斐の生の声をそのままで聴くことができてると感じた。 「嵐でもーーーー」と伸ばすところで。ややあって「ウォーーーーーッ」というシャウト で。 
 後奏。甲斐は「シャララララララララ」と2回うたい、曲の終わり際、「イェー」 と切なく声を発した。

 甲斐がデビュー曲について話す。 
 周りの反応から、「10年後につながらない」曲だと感じたという。 
 「プロなら10年稼がないと。それで、10年後を見据えて書いたのが、次の 「裏切りの街角」という曲で」 
 それでも、「不憫な子ほどかわいい」という言葉とか、口調の端々にこの曲への 愛着が滲み出ていた。

 「バス通り」 
 前野選手のマンドリンは、初めは少なめ。次第にマンドリンの調べが増えていく。 
 聴きながらひしひしと感じる。甲斐も松藤も前野選手も、もちろん僕らだって 「バス通り」が大好きなのだ。

 甲斐がサングラスを外す。それからまた何度も何度も、オーディエンスの声援に 応えてくれた。僕は「甲斐ーっ!」「甲斐ーっ!」と叫び続ける。

 今夜も素晴らしいステージやった。 
 長く活動を続けられていることについて、「いい人なだけじゃダメなんだ」とも 言ってたな。「俺も悪かった」と甲斐が以前を思い返したふうに言うと、松藤が 「昔だけ?」とツッコんでいた。   
 松藤はシャツのボタンを多めに外して、少しはだけた感じに着ていた。ギターで 濁ったような音を出してたのが印象深い。 
 客席から声が飛ぶことが多く、今夜はまた外した内容のが目立ったけど、僕は そんなに腹は立たなかった。甲斐を好きな気持ちは感じられたし、これが関西、みたいな とこもあるし。甲斐はそんな声を黙殺したり、「曲行こう」と切り換えたり、 タイミングの合ったときだけちょっと相手してみたり。そんな声くらいで揺らぐような 甲斐じゃないのだ。

 

 

2005年3月12日 神戸チキンジョージ

 

ちんぴら 
裏切りの街角 
きんぽうげ 
ビューティフル エネルギー 
かりそめのスウィング 
安奈 
レイニー ドライヴ 
愛のもえさし 
BLUE LETTER 
花,太陽,雨 
漂泊者(アウトロー) 
風の中の火のように 
破れたハートを売り物に

 

翼あるもの 
感触(タッチ) 
テレフォン ノイローゼ 
HERO 
熱狂(ステージ)

 

嵐の明日 
バス通り

KAI 30th ANNIVERSARY TOUR ENCORE ”アコギ”なPARTY 30

2005年2月25日(金) 岡山市民文化ホール

 

 狙っていたのぞみに乗り遅れた。しばらくのぞみが来ないことを確認してから、 停車中のひかりに飛び乗る。 
 岡山までの停車駅は、新神戸西明石・姫路・相生。これやったらこだまと いっしょやがな。しかも、相生で後ろのひかりに抜かれて5分待ち。ひかりがひかりに 抜かれることがあるなんて、初めて知った。さらにその後、何か飛来物があったとかで 徐行運転。岡山到着まで案外時間がかかってしまった。

 甲斐友と待ち合わせしてる岡山駅西口へ。瀬戸大橋線のホーム上にかかる渡り廊下 を行く。あああ、めちゃめちゃ懐かしいー!初めて四国へ行くとき、ここを使ったもん なあ。葉山村高知、 高松松山。 1996年3月のALTERNATIVE STAR SET ”GUTS”。どこも 素晴らしかった。

 東口にいた甲斐友とようやく落ち合い、急いで岡山県野球場へ。球場正面へまわる 時間もなく、周りの木々の間からスコアボードの写真を撮る。「H・E・Fc」の ランプの上に「只今ノハ」っていう文字があって、特にそれが見たかったのだ。

 大急ぎで岡山駅に戻る。西口と東口との行き来は、慣れていないと時間がかかる。 なんせ岡山の駅から外に出たのは、今日が初めてなのだ。 
 もう1人の甲斐友と路面電車の駅で待ち合わせててんけど、それが全然見つから ない。携帯で連絡してようやく3人揃った頃には、開場時間の6時が迫っていた。軽い 夕食を食べてから路面電車でのんびりと、なんていう計画は吹っ飛んで、何も食べずに タクシーで会場へ向かうことに。 
 駅前のメインストリートは、「桃太郎大通り」っていう名前やってんな。岡山城の お堀のあたりで右折して、会場へ近づいて行く。

 会場前にできている列につく。左手が会場。道路をはさんだ向かい側は川。 ちょっとめずらしい景観や。こういうのがまた、旅の思い出になるねんな。 
 岡山市民文化ホールは、小さめの建物やった。もともとこのツアーは、去年の 30周年ツアーBig Year’s Party 30 武道館の後を受け、あえて大都市をはずして 小さめのホールでやるアコースティックツアーやもんね。

 入場。建物の1Fは、もぎりとグッズ売り場のみ。Tシャツと写真立てを買って、 階段を上がる。2Fが1階席、3Fが2階席という造り。

 僕の席は左寄り。前が通路なのがうれしい。 
 BGMの洋楽もアコギっぽい。女性ヴォーカルが「バイバイ ミス・・・」と 歌い、男性ヴォーカルに変わり、ピアノの音で曲が静まって、再び「バイバイ ミス ・・・」の歌。これがいちばん印象に残った。 
 おとなしめなのかなと思える岡山のファンの雰囲気に、初日の緊張感が重なって、 開演前の客席はわりと静か。開演が近いことを告げるアナウンスが流れると、拍手が 起こる。 
 BGMが大きくなる。拍手と手拍子。大阪ならきっと、この時点で アコースティックライヴでもみんな立つやろう。 しかし、今日は座ってじっくり聴こうと思ってる人も多いのかもしれない。後ろに遠慮 しつつ、立ち上がる。僕の席からセンターマイクまでを結ぶ線上の人はちょうど全員 立っているから、僕も立てへんかったら見えへんし。

 甲斐が現れた。白のスーツに、中は黒のVネック。サングラスをかけている。 
 僕は何度も「甲斐ーっ!」って叫ぶ。拍手と歓声でツアーの幕開けだ。

 前奏では何の曲かわからなかった。予想していた範囲の曲ではないようだ。甲斐が 歌い始めたのは・・・ 
 「ちんぴら」 
 「アーアーアー」も全部1人で甲斐が歌っていく。アコギでの「ちんぴら」なんて 、初めてやもんなあ。すごい。 
 間奏の最後は2音ずつ弾いて、「傷つけることも」に入っていく。 
 KAI FIVE初期に僕としては初めてライヴで聴けて、 BEATNIK TOUR 2001では1曲目に 選ばれ、Series of Dreams Tour  Vol.1(1974-1979)でもアンコールで歌われた曲やけど、まさか。 
 しかし、思えば、「千人いたら千人の動機で聴いて くれた方がうれしい」という言葉とともに語られたことのあるこの「街の歌」は、 今日からいろんな街を旅して行くこのツアーの1曲目にふさわしい。

 一瞬だけ「風の中の火のように」かと思った。が、コードが展開していくと、あの 曲だとわかる。思い出される徳島の夜。 
 「感触(タッチ)」 
 甲斐はサビの「タッチ」を低く歌う。コーラスのいない、一人きりのステージ やもんね。「タッチ」を抜いて歌うところもあった。前の詩を伸ばしたりして、大きく 歌ってる感じなのだ。 
 ラストは「100万$ナイト」ライヴアルバムヴァージョン。これ好きやねん。 アコギやから、時々ストロークをとばして音を切ってるように聴こえる。めっちゃ かっこいいぞ。

 「今日がツアー初日」というMCに、拍手がおくられる。 
 「初日は何やったっていいんだから。原石のままぶつける」

 「岡山は甲斐バンドでよく来てて。ひどいときは年に2回くらい」 
 行ってたというファンの声が飛ぶ。 
 「ソロで1回来て。十何年ぶり」 
 「どうしても同じところが多くなるんで、(今回のツアーは)普段行ってない ところへ。はっきり言うとローカル・・・」 
 ここまで言って、うなずいて聞いてる岡山のファンに、「自分で認めるな」

 松藤が呼び入れられ、甲斐の右に座る。明るいワインレッドのシャツ。 
 「裏切りの街角」 
 松藤がアコギを弾き、甲斐はここから歌に専念。「駅への道 駆け続けた」の後、 レコードのフレーズを溶け込ませた抒情的な音色が沁みる。 
 甲斐は語尾を響かせてうたう。時折語尾を短めに切ることもあるけれど、そこでも 最後の音は響く。この余韻がたまらない。 
 ”My name is KAI”のツアーでは、2番の後からメドレーになった 「裏切りの街角」やけど、今日は最後までうたってくれた。

 前野選手も登場。上下黒のレザー。円いサングラス。向かって左から、前野選手、 甲斐、松藤とならんで座る形になる。 
 武道館DVDのMC。大黒摩季、m.c.A・T、大友康平と出演したゲストの 名前を挙げていくと、ぐっさんのところで少し笑いが起きる。名前だけで笑ってもらえる なんて、芸人冥利につきるな。 
 DA PUMPの捕まった子については、「いいやつなんだけど」と言っていた。

 松藤のアコギに前野選手のアコーディオンも加わった。前奏ではどの曲か気づかな かった。 
 「きんぽうげ」 
 アルバム「松藤甲斐」に収録されたAORヴァージョンだ。高い音など、 アコーディオンが「きんぽうげ」らしさを奏でている。 
 この歌の詞が本来持っている切なさ、寂しさが、より伝わってくるようだ。 
 後奏で、甲斐は「ドゥドゥドゥダダ」と、あのメロディーを聴かせる。

 韓流ブームの話から、甲斐が「よし様」、松藤は「松英サンバ」ということに なり、前野選手は「ミシェル・ポルナレフ」。「はやってないじゃん!」と松藤が ツッコむ。

 去年の30周年ライヴについて、オーディエンスに「悪い慣習」があると笑う。 うるさすぎると。 
 「俺、いらないじゃん。ある列を見たら、下向いて歌いまくってて」 
 だって、いっしょに歌いたいねんもんな。ちゃんと甲斐のこと見てるよ。甲斐 だってうれしいくせに。

 「今日はじっくり聴いてくれてる。アコギだし、ゆっくりとね。でも、いつまで そのままでいられるか。そうはいかない。ずっと立ってると、アンコールあたりで疲れる 人もいるのかもしれないけど、ずっと座ってると、立ちたくなるんだよね」 
 と、やっぱり後半の盛りあがりを予感させる言葉がある。

 「アコースティックだと、(客席にも光が当たって)明るいじゃない。1、2曲目 やってる間、客席がよく見えるんだよね。途中から入って来る人が多いのとか」と告白。 
 「スポーツ見に行くときでも、早めに行って練習から見たりするじゃない」 
 ステージ向かって右側に客席への入口があり、遅れて来た人がそっちから入って くるから、「今日はもうこっちから半分(ステージ向かって左側の客席)に向かって やろうかな」なんて言ってみせる。 
 左半分の客から拍手がわいたりするが、「そうか。普段も(遅れて来る人は)いる けど、(ライティングの加減で)見えないんだ。許そう」

 「アコースティックだからって、フォークミュージックみたいに思ってたら、 大間違い。1曲目から違うんだから」 
 「「感触(タッチ)」はアンコールにまわそ。これはスタッフに言ってるわけ ですが」 
 「今日はしゃべり過ぎてる。俺は岡山に来て、浮かれてるな」 
 そう聞いて、地元ファンが拍手。

 「ビューティフル エネルギー」 
 1番を甲斐がうたい、2番を松藤が歌い出す。松藤のヴォーカルが始まると、拍手 が起きた。 
 去年のツアーではショートヴァージョンだったこの歌も、今回はフルに聴かせて くれる。 
 甲斐は1番でも繰り返しでも、「しれーなーいからぁ」と語尾を響かせる。2番の 松藤だけが「しれーなーいからーー」と伸ばし、声も大きく張った。

 すぐに「かりそめのスウィング」が続く。 
 アコーディオンが効いてるよ。めっちゃいい雰囲気。 
 甲斐はラストで「オ イェー」と声をあげた。

 ここでまた遅れてきたお客さんが入ってきて、甲斐は「いらっしゃい」 
 「じゃあ、(今来た人のためにライヴを)もう1度最初から」というジョークに、 ほんまにそうしてくれたらすごくうれしいなあと、みんな拍手。

 「かりそめのスウィング」のことを、「冬の歌なんで、2月のうちにやりました」 
 「「ビューティフル エネルギー」は松藤の歌だけど、俺のソロライヴだから、 俺が1番を歌って」

 去年出したアルバム「アタタカイ・ハート」と、トリビュートアルバム 「グッドフェローズ」の話。 
 「グッドフェローズ」のメンバーがゲスト出演した武道館の打ち上げについて、 「ぐっさんがといっしょで不思議な感覚だった。大黒摩季はチーママかと。僕は途中で 帰ったんですけど」 
 甲斐は翌日イベントがあったもんね。 
 松藤が「俺も(途中で帰った)」と言い、甲斐は「じゃあ、誰の打ち上げなんだ」 と笑う。

 話題にあがったニューアルバム「アタタカイ・ハート」から、「愛のもえさし」 
 甲斐は「夜 更けに 目が覚 めて」と、アルバムヴァージョンの詞でうたう。 
 サビでは甲斐に前野選手がコーラス。甲斐が「愛」とうたうと、松藤が「あ~い」 と高い声を続ける。 
 3人ともが「前へ!」という意識を感じさせ、バラードでありながら激しい。 
 後奏は甲斐の「ディデュビダ ディ」ありやった。

 「みなさんといっしょに歌うコーナー」だと甲斐が告げる。 
 「安奈」 
 曲の途中でもサビでも、甲斐が観客に手で示す。うたっていいんだ。会場の合唱が 高まってゆく。

 「レイニー ドライヴ」 
 前野選手が奏でているのはピアニカか。 
 「サーチライーー」で、右後方上から白い光が射す。そこから雨のドライヴを 思わせる青緑のライティングになった。

 「「BLUE LETTER」という曲をやりましょう」 
 甲斐のうたい方がこれまでの「BLUE LETTER」とちがっている。 「ブルーーレター」と伸ばさない。「ブルー レタ」と短くうたって、語尾を響かせる。 甲斐の声の繊細さと、この曲の持つはかなさを思い切り感じながら聴いていく。 
 後奏。甲斐は最後だけ「ブルーーレターー」と伸ばしてうたい、「オーオオオ」と 切ない声をあげる。いつもより後からハーモニカを吹きはじめた。

 「花,太陽,雨」 
 3人の声が攻めてくる。他のメンバーに合わせようとか、遠慮したような気持ちは 全く感じられず、甲斐が、松藤が、前野選手が、それぞれ思いきりうたをぶつけて来る。 その声が渾然となってオーディエンスを襲い、ホールを掴む。 
 ラスト。暗転したステージにカウントを刻む声があり、「まーよーえーる人ぉよぉ ー」が響き渡る。前野選手の1本の指が押さえる鍵盤のひとつの音だけが、余韻を引く。

 それを切り裂くように、松藤のギターが激しく掻き鳴らされる。ライトは赤。 座っていたオーディエンスも一気に立ち上がる。松藤のギターが今はリズムを刻んで いる。あくまでも強く。 
 「漂泊者(アウトロー)」 
 アコギの「漂泊者(アウトロー)」では、これまでで最も激しいに違いない。 甲斐はブルースヴァージョンのように低く歌うこともあるが、ほとんどの部分で声を 張り上げていく。こうなると、もちろんアコギだろうがオーディエンスの拳も突き 上がる。「愛をくれーよー」と、サビを客に歌わせるのもありや。 
 ラストも激しくいきなり果てる。フルバンドでやってるみたいや。まさしくロック の「漂泊者(アウトロー)」。すごい!

 「風の中の火のように」 
 甲斐は全編激しく歌う。武道館翌日のイベントとはちがって。そうやんな。その場 の空気に応じて、歌も演奏も変わる。これがライヴなんや。 
 甲斐は最後「風の中の火のように」を4回繰り返し、それから「火のーーーーっ」 とシャウトした。

 「破れたハートを売り物に」 
 前野選手もアコギを弾いている。ギターが3人ならんでのハーモニー。 
 みんなで声を尽くして歌い、ステージはひとつのクライマックスを迎える。 
 本編はここで一旦終了。熱いアンコールに突入や。ここまでの流れ、歌、MC。 あっという間やったような気もするけど、すごく充実した時間やった。

 再び甲斐が一人で登場する。 
 アコギ一本の「翼あるもの」 
 みんな表のタイミングで手拍子してる。曲と合っていない気がして、僕は手拍子は せず、身体でリズムを取りながら甲斐の歌を聴く。 
 間奏。甲斐がアコギで盛りあげていく。歓声。ここでオーディエンスのノリも アフタービートになって、僕もいっしょに手を打ち鳴らす。この熱狂で「俺の海」に 飛び込んで行く。 
 甲斐は後奏で一音だけ鳴らす。その音の伸びを聴かせ、さらに間を置いてから、 「ザカザカザカザカザカザカザカザカ」とアコギを刻んでいく。だんだん強く。あの 「翼あるもの」ラストの高まりが、ギターひとつで表現されているのだ。最後に 「ザザッ」という音を残して、全てが終わる。興奮の拍手、歓声。「甲斐ーっ!」の声。

 松藤と前野選手も戻って来て、3人での演奏へ。 
 「HERO」 
 アコギのストロークは、徳島でのイベントに近いか。しかし、松藤は 「ザザザザザッ」というリズムの途中をときどき抜く自由なプレイ。これもその場その 瞬間の感覚なんやろう。 
 しかも前野選手のアコーディオンも入ってるから、また新たなアレンジの 「HERO」や。同じ曲でも毎回、毎ステージ、その色合いは全て異なるのだ。

 前野選手が左ソデを向く形で、キーボードを弾き始める。アンコールの間に用意 されていたらしい。 
 「熱狂(ステージ)」 
 詞が沁みる。聴けてしあわせや。 
 甲斐はやはり「今夜の ショーは」とうたった。 
 「長い列をつくって くれた」で、ぐっとくる。雨は降っていなくても、 僕らの気持ちは同じなのだ。 
 「バスに乗って 夜汽車に揺られ」 
 今夜からそうやって、甲斐たちは小さな町まで西へ東へ旅して行くんやなあ。 このツアーでうたわれるべき、歌やんな。

 2度目のアンコールは、3人そろっての登場やった。 
 「嵐の明日」 
 ”My name is KAI”のツアーを終えた後、甲斐は「今度はオルガン を入れてやりたい」と言ったそうだ。 
 そのとき念頭にあったのがこの曲なのでは、と思えた。松藤のアコギと 前野選手のキーボードが、”My name is KAI”にオルガンを加えた 心地よさとスケールアップを感じさせたから。 
 その音のなか、ただ甲斐の姿を見つめ、その歌声を聴いていた。照明は赤だった 気がするが、よく思い出せない。 
 甲斐が「シャララララララララ」と2回声をあげた。 
 去年の30周年ツアーでは聴くことができなかった名曲。アンコールツアーで、 アコースティックで聴かせてくれたなあ。

 甲斐がイスに座る。まだもう1曲あるんや! 
 「順調に行けば、春、4月頃、甲斐バンドのライヴCD10枚組が出る」という ビッグニュースが告げられた。 
 収録されているステージは、「箱根。花園」そうやって甲斐がイベントの名前を 挙げるたび、思わず客席からよろこびの拍手が飛ぶ。「BIG GIG。両国国技館。 解散ツアーの”PARTY”。最後の黒澤フィルムスタジオ」 
 これは甲斐ファンにとって夢のような話じゃないか!めちゃめちゃ聴きたいぞ!

 前野選手が小さなマンドリンを手にしている。そういえば、 この曲を初めて聴けたときも、 甲斐が独特な楽器を弾いていた。 
 「バス通り」 
 マンドリンの弦が細かくふるえる。間奏に入ると、それがさらに増していく。 
 30周年をしめくくるツアーの最後に、デビュー曲をうたう。僕らはまた、甲斐に やられてもうた。心が動かないはずがない。

 甲斐はサングラスを外し、前の右に行く。続いて左寄りに。最後は真ん中だ。 大歓声と拍手を一身に浴びて。「甲斐ーっ!」「甲斐ーっ!」の声を受けて。 
 甲斐が左ソデへ去ると、大森さんが弾く「25時の追跡」ライヴヴァージョンが かかった。そうやんな。みんなつながってるんやんな。

 余韻にひたりつつ、今夜のライヴを反芻してみる。 
 ステージの背景はシンプルやった。1度だけ雲の空に見えたような。でも、これは 僕が甲斐ばかり見ていて、たくさん見落としているからなのかもしれない。 
 甲斐が観客に「サンキュー」と言うと、さらに拍手が大きくなったシーン。 
 メンバー紹介が3回あった。いいステージやったからやろうな。 
 甲斐が2番頭の歌詞が出ず、松藤が少し歌ったことがあった。 
 曲のいちばん最後の音を、甲斐がアコギを傾けてアップストロークで決めた瞬間。

 「この形は年に1・2回やってて。ツアーとしては初めて」って言ってたけど、 これまでのアコースティックライヴから、しっかりアレンジを変えてきた。歌い方も 練られていた。 
 どの曲にも、今の息吹きが込められてる。これが甲斐のステージなのだ。

 

 

2005年2月25日 岡山市民文化ホール

 

ちんぴら 
感触(タッチ) 
裏切りの街角 
きんぽうげ 
ビューティフル エネルギー 
かりそめのスウィング 
愛のもえさし 
安奈 
レイニー ドライヴ 
BLUE LETTER 
花,太陽,雨 
漂泊者(アウトロー) 
風の中の火のように 
破れたハートを売り物に

 

翼あるもの 
HERO 
熱狂(ステージ)

 

嵐の明日 
バス通り