CRY

Twitterには長いやつ

甲斐よしひろ 20 TWENTY STORIES

2007年4月14日(土) なんばHatch

 

 ツアーグッズを乗せたワゴンが運ばれていくのが、ガラス越しに見えた。いつもの位置、入って右の 端へ移動している。開場を待つファンの列には、パンフらしきものを持った人も。開場時間が近づくまでの 間、先にグッズの販売を行っていたのかもしれない。ファンは早くグッズを手に入れることができるし、 売り場の混雑も緩和される。いい試みやんな。

 開場。まずパンフとTシャツを買う。Tシャツは黒と白とピンクがあった。おねえさんに聞くと、 黒のみLサイズがあるという。大きいサイズをつくってくれるの、めっちゃうれしいな。でも、どの色も デザインが気に入ったし、結局黒のLと白とピンクのMを買った。

 客席には「タイガー&ドラゴン」が流れていた。ステージ上を紺のライトが照らし、客席へは白っぽい 肌色の光が斜めに伸びている。今日の席は右端に近いから、その光は僕には当たらない。 
 BGMに洋楽は少ない。「宙船」と「青春アミーゴ」が流れ、去年と今年の センバツ行進曲が両方使われてるなと思う。ジャニーズが多い気がする のは、「夜空ノムコウ」への布石か。あれはスガシカオのカヴァーって言ってたけど。

 アナウンスが流れ、開演は近づいてるのに、まだ甲斐のマイクがセットされていない。左奥のドラムス 台の左端に、アコギが見える。松藤の位置はあそこやな。ドラムが前のツアーとは違うように見える。 右奥にキーボード台。甲斐をはさんで左右にツインギター。ベースのノリオは右端らしい。 
 バックに、赤いライトが2段に並んでるライトを見つけ、「絶対・愛」で使うんじゃないかと予想 する。 
 ようやく甲斐のマイクが用意された。いつものと違うやん!マイクスタンドに乗せられたのは、 クラシカルな、丸みのある縦長の直方体。このマイクに合う曲を考える。「歌舞伎町の女王」や。今回は かなりの確率で「今宵の月のように」が1曲目と予想しててんけど、違うかもしれない。

  電話のベル。「もしもし、工藤探偵事務所ですが」と、松田優作の声。「バッシティ バッバッ シティー」の速く強い波。僕がいちばん好きなドラマ「探偵物語」のオープニングテーマや。そのかっこ よさにしびれながら、「ボリュームも大きくなったし、これで幕開けやんな」と手拍子しつつも確信が持て ないでいると、客電が落ちた。やっぱりこれで始まるんや! 
 メンバーが左手から歩んでくる。拍手と歓声。おおっ、その中に甲斐もいるぞ!いつもより早く出て 来て、後ろの方で背を向けている。気づいてない観客も多いかもしれない。

 アルバム通りのイントロ。青緑のライト。やっぱり1曲目はこれやったんや! 
 「今宵の月のように」 
 甲斐のサングラスは、「10 STORIES」のジャケットとは 違うやつ。ジャケットの中のシャツには、銀の飾り。黒のパンツの左側に三重のチェーン。鋲のあるベルト。 
 甲斐は体と逆の側にマイクスタンドを傾けたりしながら、歌っていく。ツインギターは右に西村、 左が亮。 
 「あーたーらしーいーーっ」など、語尾の伸ばし方がアルバムと違う。こういうところにも、ライヴ を感じるのだ。 
 「夜空にー 声も聞こえない 声も聞こえない」と、同じ詞を繰り返しもした。 
 最後のパートでも、「見慣れてる」の部分の詞をなくして歌った。歌い終えてからの「ウーーッ」の タイミングも、CDと変えている。やっぱり、ステージならではのアレンジとか、その瞬間の感覚によって 、同じ歌でも変わるもんやんな。

 やっぱりこの曲順で来たか! 
 「歌舞伎町の女王」 
 「ママはそこの女王様」と、甲斐は歌った。「そこ」が当然のように聴こえてくる。 
 間奏。CDより早く、あのフレーズより先に「Ah-」の吐息。そして、甲斐はマイクスタンドを 離れ、ステージの奥へ。楽しみにしてた間奏後半のギターが記憶にない。前奏のサックスもや。興奮して てんな。 
 「全てを失うだろう」で語尾を上げない。と思ったら、「東口を出たらああーーあ」で張り上げた。 このヴァージョン違いも聴けてうれしい。

 イスが用意され、甲斐たちが座る。 
 カウントはなく、静かに曲が立ち上がる。「コンコン」という打ち込みの音で。 
 「くるみ」 
 甲斐の歌声に聴き入る。ライヴでは松藤がコーラスや。右端の僕からは、うたう甲斐越しにコーラス する松藤が見える。ベストポジションやな。この角度で見られてしあわせ。

 「ハナミズキ」 
 前奏のキーボードが、歌に影響しないぎりぎりまで過激なことをやってると感じた。CDでは気づけ へんかったな。これもまた、生ならではの発見。 
 この歌でもまた、ひたすら甲斐の声を聴く。深い詞が甲斐の声でしっかり届けられるのだ。 
 最後の部分。「よに」をうたわずに、「僕の我慢が」の繰り返しに入っていく。 
 全ての音が終わり切ってから、拍手が起こる。みんなじっくり聴いているのだ。

 「サンキュー」と観客に応えて、MCに入る。

 「大阪が、このツアー2番目の場所になります。この街に来たらいつも暴れるんだけど、今回は文珍 師匠からの電話もなく、静かな感じで」 
 でも、静かなまま過ごすつもりなんかないはず。そう聞こえるで。

 「座っていいんですよ。君たちの自由だ」と客に呼び掛け、ジョークも交えつつ話していく。吉本の 話題も出た。 
 すると、客席から甲斐に話しかける声があがる。大阪では特によくあることや。 
 「うるさい。殺す。なんでお前と一対一で会話しなきゃいけないんだ」 
 そこで子どものかわいらしい声がかかった。 
 甲斐もさすがにすごんでみせる訳にいかず、笑い出してしまう。

 自分のスタジオについて。 
 「使ったのが桜井くんと、長瀬くん。・・・・・・2組だけじゃん」と自分でツッコむ。

 「「10 STORIES」というカヴァーアルバムが出て。J-POPの若いアーティストの名曲を 10曲取り上げて。今回はそのプロモーションツアーです」 
 そして、「共同プロデューサーの西村智彦」と紹介。西村が立ち上がる。みんなで拍手。 
 この紹介は予定にはなかったみたい。 
 「西村が座ってほっとしてるのがむかついて、いきなり紹介してやった」なんて言ってみせる。

 「最新アルバムの曲が1曲目なのは、花園の「破れたハート・・・」以来。80年振り?」 
 もちろんそんなわけはないけど、1曲目からカヴァーが続くのは初めてかな。ここまでの4曲、 アルバムの1曲目から4曲目までをそのままの順番で歌ってる。このまま曲順通りに10曲やるのだろうか。

 と、思ってたら曲順が変わった。 
 「Swallowtail Butterfly~あいのうた~」 
 この歌はもとから好き。甲斐のカヴァーもめっちゃ好き。Gyaoで見たライヴヴァージョンはまた さらによかった。今日は生で聴けて最高に感激。甲斐の声が、うたい方が、ほんまにいいねんなあ。 
 松藤がコーラスしてる。甲斐は歌詞を違えもしつつうたう。 
 最後の「響きだして」の後、甲斐は「イェー ウォウウォー」と声をあげた。アルバムとは順序を 変えた感じ。ライヴではこっちでうたうねんな。

 甲斐たちが立ち上がり、イスが持っていかれる。短い前奏がわきあがる。ステージ奥に行ってた甲斐が 、急いで戻って歌い出す。 
 「接吻kiss」 
 アルバムの通り、演奏も歌もなめらかな感触。でも、CDで聴くよりずっといい。めっちゃ心地いい のだ。 
 2番が終わると、すぐにサビの繰り返し。あれ?CDでもこんなに短かったっけ?終わってしまうの がもったいないよ。 
 でも、曲は最後まで早くなめらかに流れ、「ジャジャッ」というビートでフィニッシュ。

 ようやくわかってきた。中村哲がアレンジに加わった2曲、「恋しくて」と「色彩のブルース」は やれへんのや。今日は西村しかおれへんもんね。となると、残りの曲は・・・思わず考えてしまうけど、 先に思いついてしまうのも惜しい気がする。 
 そんなことを思ってる間に細かいリズムが刻まれ始めた。 
 「すばらしい日々」 
 たくましいビートに燃える。やっぱりこの曲はノレるで。 
 甲斐のヴォーカルも、この歌を完全に自分のものに、甲斐よしひろのロックにしてる。 
 盛りあがりまくった曲が収束していくなか、甲斐は何度も「サンキュー!」と叫ぶ。まるでここで ライヴが終わってしまうかのように。

 暗転したステージ。マイクスタンドにいつものマイクが置かれた。きっとここからカヴァーじゃない、 甲斐自身の曲が始まるんや。いちだんとわくわくしてくる。さっきまでのカヴァー曲もめっちゃよかった のに。 
 聴こえてきたフレーズに、会場が大いに沸く。久々のあのバラードや! 
 「I.L.Y.V.M.」 
 「悪かったーよーーお はなーれていて」 
 その詞が、この曲から離れていたこと、長くライヴでうたっていなかったことをも意味してるように 響いた。なかなか聴かれへんかったもんね。 
 甲斐は語尾を伸ばさずにうたっていく。甲斐の声を堪能し、詞をかみしめ、演奏のすみずみまで耳を 傾ける。カヴァーもめっちゃいいけど、やっぱりオリジナルは特別や。最高やなあ。めちゃめちゃ感激する。 
 最後の音が消えていく前に、先走った拍手が沸き起こった。みんなが「もうたまらん!」と言ってる みたいに。

 前奏を聴いて、意外やと感じた。いつの間にか、蘭丸のいない今回はやれへんのやろうという気に なってしまってたから。 
 「レイン」 
 今日の「レイン」はずっと手拍子をしながら。「もっとうたっていいぜ」という甲斐のジェスチャー で、みんなでうたう。 
 「Call my name」で拳をあげる。「抱きしめて」の後でも。そうしたい力強さやった から、衝動に正直に。 
 「できはしなーいー」はもちろん、オーディエンスがうたうのだ。 
 間奏のギターがいい。西村だ。すごい技の披露。テクニックの細かいことまではわからなくても、 その音に感動する。蘭丸のイメージとは違う、新たな「レイン」のギターをつくり上げたね。おそれ入った。 
 この腕があるから、甲斐は西村をツアーメンバーに起用したのだろう。名刺代わりと言うには、 あまりに強烈な一曲。甲斐はあえて初参加のツアーで西村に「レイン」を弾かせたかったんやろう。西村の ギターで「レイン」をうたいたかったんやろう。 
 後奏。甲斐のファルセット。それだけにとどまらず、地の声での叫びもあげる。今夜もまた、今夜 だけの独特の「レイン」やった。

 「I.L.Y.V.M.」と「レイン」。「カオス」と「ストレート ライフ」から1曲ずつや。 もしかしたら、ソロとFIVEのアルバムから1曲ずつ歌っていくのだろうか。 
 そこへ襲って来た衝撃的なイントロ。この歌もやってくれるんや。そういえば、これもソロの曲 やもんね。そんなことに気づく前に、歓声をあげていた。 
 「マドモアゼル ブルース」 
 「ROCKUMENT V」と 「Series of Dreams Tour Vol.1」で 感激させられた曲や。今夜もすごいぞ。高いキーボードが「ヒュルルルルルルルールルルー」って、甲斐の 歌の間にあのフレーズを注ぎ込む。他の楽器も加わって、すごい分厚い音ができてる。 
 甲斐はサビで新しい歌い方だ。「シル クのー ドレ スをー」と間を空け、ずらしている。 
 間奏。今度は左の亮が前に出る。いいぞ、いいぞ。久々のツインギター、二人ともすごいもんね。 
 そして、今回もやってくれた!曲が終わったかに見え、拍手が沸いても、キーボードの心を刺す音色 がつながってる。JAH-RAHのドラムが太いビートを叩き出す。ギターがわきあがる。甲斐はその間に ドラムス台のグラスに口をつけたようだ。そして。 
 「たとえ どんなに」 
 甲斐がもう一度サビを歌い上げるのだ。強く。ほとばしる激情を、まさに振り絞るように。これぞ、 「マドモアゼル ブルース」

 激しいイントロ。野性味のある男っぽいビートが続く。ハードボイルドに違いない。けど、とっさに タイトルが出てこない。「キラー ストリート」か? 
 いや、同じアルバム「ラヴ マイナス ゼロ」でも違う曲やった。「野獣」だったのだ。 
 今夜初めての甲斐バンドナンバー。もう何でもありやもんね。楽しくってしかたがない。今日の 「野獣」がまた、めちゃめちゃかっこいいのだ。アルバムヴァージョンは久々ちゃうかな。 
 甲斐が吐息や唸りを聴かせる。「BEATNIK TOUR 1984  FINAL」で初めて聴いた野獣もそうやったやんな。 
 ライティングはピンクと赤。前野選手のサックスも俺らをますます駆り立てる。 
 このアレンジなら、フィニッシュはビートの2連打や。確信がある。いくら久々でも、 「ラヴ マイナス ゼロ ツアー」とか、体験が体に記憶に埋め込まれてるのだ。 
 「タララララララダダッ!」って果てるビートに合わせ、左右の拳で空を殴った。

 「おおーーーっ!」前奏で声をあげてしまった。これはほんまにめちゃめちゃ久々や。 
 「BLUE CITY」 
 「ストレート ライフ」から2曲目。アルバムから1曲ずつじゃなかった。そんなことはもうどうでも いい。すごいやん。すごいやん。「BLUE CITY」やで。「ストレート ライフ ツアー」より後に 聴けたことはあったのだろうか。 
 こんなに激しい曲やったんや。ライヴ終盤で歌われるのもさまになってる。改めてこの曲の魅力を 思い知らされた。甲斐の「カモン、ベイベー」も激しい。歌も詞も音も熱いのだ。

 前奏でさらにオーディエンスが燃える。 
 「三つ数えろ」 
 「Big Night」ヴァージョンやけど、ひときわ激しい。今の音になってるねんな。甲斐の ライヴはいつもそうや。めっちゃ攻撃的な「三つ数えろ」。昔ミニコミの名前にこの曲のタイトル使った ことを、勝手に誇りたくなる。それくらいいいぞ! 
 2番と間奏前にはキーボードの「キュルルルルル」がなかった。今日はもう無いんやと思ったら、 3番で2回やってくれた。これ、好きやねんな。前野選手の手が鍵盤の上を往復するところも見た。 
 甲斐はやはり「路上」と歌った。このヴァージョンでは「路上」で行くことにしてるのか。

 音が鳴った瞬間、また「おーーーっ!」って叫んでしまった。 
 「冷血(コールド ブラッド)」 
 白い大きな円いライト。途中から青に変わる。そして、甲斐が腕を振ると、ナイフで切ったように 赤に染まる。 
 3番に入るところは、もちろん肘を落とすアクション。今日は左肘から。 
 あのライトが斜めに回転する。右端にいる俺まで、白い光に顔を照らされた。いいなあ、この ライティング。 
 後奏。西村が前に出て弾きまくる。俺の位置からだと甲斐にかぶさるくらい出てる。ライティングを 尊重するイメージのある「冷血(コールド ブラッド)」で、ここまで前に出るギタリストは初めて。 ええぞお。遠慮なくガンガンやってくれえ。

 前奏で「最後の曲になりました」と甲斐。 
 「風の中の火のように」 
 初めから激しいヴァージョン。というより、今まででいちばん激しい「風の中・・・」じゃないのか と感じる。ビートが弾んでる。甲斐はアコギを弾くことなく、強く歌っていく。 
 JAH-RAHのビートが後半、さらに密度濃く強くなる。甲斐はそれに合わせて跳んでいる。 
 「愛なのに」で、赤一色の照明に。揺れる火は、今日はなかった。

 メンバーが左手へ去る。甲斐はマイクスタンドの右まで来て、長く残ってくれる。「甲斐ーっ!」の 叫びをふりそそぐ。 
 甲斐の姿が見えなくなると、すぐに速い手拍子。甲斐とバンドから浴びた熱を帯びたまま。

 バンドが戻って来る。音を出して確かめるようにしてから、いきなり激しい曲を生み出す。 
 甲斐はステージの奥から現れた。サングラスをドラムスの台に置き、前へ進んで来る。ボタンのある 灰色のベストになっている。 
 「漂泊者(アウトロー)」 
 カラフルな大きいライトが点滅してる。スリリングな電子音と激しい演奏がいっしょになって迫って 来る。甲斐はステージの前の端を動きまわる。甲斐の影がどこかに映るのが目に入る。手を打って一緒に 歌っている。燃えて燃えて、今日はもう思いっ切り反動をつけて大きく跳んでやった。そして拳で宙を 打つ。甲斐は俺らにマイクを向ける。「愛をくれえーよーー」「誰か俺に」そこへ向けて、甲斐の方へ、 全力で歌う。このバンドの「漂泊者(アウトロー)」、すごいで。

 JAH-RAHのドラムとカウベルが響く。この入り方、好きやねん。「ギャーギャッ ギャギャ ギャーギャッ」あのフレーズの前半だけを、右の西村が弾く。それからまたJAH-RAHのビートと俺ら の手拍子だけが続く。今度は左の亮が弾く。「ギャーギャッ ギャギャギャーギャッ」またそこまでで ギターは止まる。それから、ツインギターであのフレーズをフルに弾いていく。待ち焦がれてた オーディエンスが熱狂する。甲斐がマイクスタンドを蹴り上げる。 
 「きんぽうげ」 
 歓喜の騒ぎになってる。甲斐が動き歌い、俺らは手を打ち歌う。壁に甲斐の影が映ってる。「くーら やみのなか」甲斐は語尾を突き放して歌う。今日はそっちか。すぐに合わせて俺もその歌い方で声を出す。 甲斐は2番の後では、体を回転させなかった。ギターが動く。ノリオも動く。甲斐が歩み、煽り、手を あげる。「ひびー割れたガラス窓」の途中から、客席にマイクを向ける。いっそうの大声が会場全体から 放出される。

 「メンバーの紹介を」 
 右端。ベースギター、坂井紀雄。 
 右奥。キーボード、前野知常。 
 左奥。ドラムス、JAH-RAH。 
 左奥端。松藤英男。アコギやキーボード。ほかにも。 
 左。元Do As Infinity。ミサイルイノベーション大渡亮。 
 右。SING LIKE TALIKING。西村智彦。 
 ほんまにすごいバンドや!もうずっと感動させられっぱなし。

 今日の流れからしたら意外やった。 
 「HERO」 
 でも、やってくれたらうれしいもんね。今回の「HERO」もめっちゃかっこいいのだ。歌って 拳あげて、盛りあがる盛りあがる。 
 間奏。西村が前に出て弾きまくる。やっぱりいいよお。一郎の間奏もいいけど、西村のもすごいっ。 
 甲斐は「月は砕け散っても」でマイクスタンドを蹴って横廻し。しゃがんでスタンドをキャッチ した。

 甲斐バンドの3曲で、1回目のアンコールは終わり。 
 でも、しっかりもう一度戻って来てくれた。 
 西村が位置についてギターをかけるのを待って、「西村ーっ!」って叫んだ。プレイを讃えたい 気持ちと、ツアー参加に対する歓迎の意思を伝えたくて。ちょっとだけとまどったようにも見えたけど、 手を挙げて応えてくれて、うれしかった。

 そして甲斐がやって来る。左手から歩いて。ピンクのツアーTシャツを着ている。やっぱりピンクも 買うといてよかった。 
 オーディエンスに感謝の言葉を届けてから、MCに入る。

 「ソロになって20年目ということで。今回はソロとFIVEの曲がかなり入ってて」 
 そうか。「20 STORIES」というツアータイトルは、ダブルミーニングやったんや。物語の 見える歌を20曲歌うということと、ソロ20周年ということ。今気がついた。 
 KAI FIVEの曲はまだ「風の中の火のように」1曲しかやってないけどな。甲斐本人から すれば、いつどの形態で発表したかはそんなに意味がなくて、あまり覚えてないのかもしれない。「自分の CDを、自室の棚の目に付きやすいところに置いておくようなことはしない」って言ってたし。書いた時期 とリリースした時期が違うこともけっこうあるようやし。

 「影のプロデューサー」松藤は「HERO」をやることに反対したらしいけど、「やらなくちゃいけ ない状況になったんで」と甲斐が述べる。カヴァーされてCMで使われたりしてるからな。 
 今回は久々の曲とか特にいろいろ聴けてめっちゃうれしいねんけど、松藤もそれに貢献してくれた みたいや。ありがとう。

 「これはやったことあんのかな。わかんないんだけど」 
 甲斐はそう言って間をおいてから、曲名を告げた。 
 「「ノーヴェンバー レイン」を」 
 やったことあるで、甲斐。”Singer”で確かに聴いた。 あの時は大久保のドラムやった。今日はJAH-RAHが重量感のある音を響かせてくれる。 
 この歌が聴けて感激や。FIVEやソロのバラードの中でも、特に人気のある歌。もっともっと ライヴでうたわれていいやんな。詞が沁みるのだ。 
 間奏のあと。「バスが横切る」から、甲斐は前に出てうたっていく。切なさがこみ上げてくる。 
 最後のサビ。「抱きしめる夏の秘密」という詞に、不意に胸をつかまれた。今夜はなぜかその部分が 特別に刺さった。久々に生で聴いたからなんかな。曲の感じ方って、ほんまに毎回毎回ちがうもんやなあ。

 「最後の曲になりました」 
 それから、甲斐はその言葉を口にした。信じられへんぐらい、うれし過ぎる言葉を。 
 「「GUTS」をやるぜ」 
 「オオオオオオーオッ!」 
 俺はもうめちゃめちゃ叫んでしまった。大好きな歌。リリース前に甲斐が「「翼あるもの」と 「漂泊者(アウトロー)」を足したくらいのスケールがある」と言ってた名曲。それなのに、ずっと 聴きたかったのに、このところ歌われてなかったナンバー。それがついについに聴けるんや! 
 ギターのあのフレーズ。カウベルも響いてる。飛び跳ねずにはいられない。続くビートの連打に、 俺は足を踏み鳴らした。 
 甲斐が歌っていく。タフなメッセージを投げ付ける。俺はそれを全身で受け止める。 
 「ガーアーーッツ」甲斐は低い方で歌う。後奏では「ガッツ ガッツ」と繰り返す。 
 その後奏が長い。めっちゃうれしいぞ。西村が初めてステージ左へ行く。亮のもとへ。 「ギャーギャーギャギャー ギュンギュン」の繰り返し。西村が「ギャーギャーギャギャー」と弾くと、 すぐ左にいる亮が、西村のギターのアームを使って西村のギターで「ギュンギュン」と続ける。ひっついて 楽しそうに。その部分が来るたびに。 
 やがて後奏も終わっていく。甲斐がJAH-RAHの方を向き、ジャンプして着地ざま拳を突き上げ てフィニッシュ。 
 この歌を最後に歌ったということは、きっと俺らへの励ましの意味が込められているのだろう。 「Big Year’s Party 30」の前半最後で、 「ROLLING CIRCUS REVUE」のアンコール最後で 歌われた「嵐の季節」のように。 
 「勝つことを信じろ」 
 その言葉が自分に深く刻み込まれた。

 甲斐は前に出て、オーディエンスに応える。バンドはその後ろで肩を組む。気づかずに帰りかけた亮を 呼び戻して、みんなで肩を組んでおじぎをする。全員いきいきした顔してる。俺らも大満足や。 
 甲斐は最後に一人残って、歓声と叫びと拍手に応える。やがて左手へ軽く走って帰っていく。 スタッフが甲斐に大きなツアーバスタオルをかけた。

 ツレと思い切り強くハイタッチした。ほんまにものすごいライヴやったなあ。最高やで。 
 めちゃめちゃロックやった。めちゃめちゃバンドやった。ライヴハウスのノリやったなあ。王道の 展開でしびれさせるのとはまた違って、1曲ごとの激しさで盛りあげるのだ。曲のラストで跳んで、空を 殴る甲斐に燃えた。激しい曲は全てといっていいくらい最後にそうやって燃焼し尽くしたし、間奏でもよく 前に出てくれたのがうれしい。ギターを引き立てにまわる場面は少なめで、どんどん前に来て、左右にも 動きまくってくれた。

 右側の席からは、甲斐がメンバーと視線を交わす表情がよく見えた。ほんまに楽しそうな顔してた。 何回も。メンバーを見て、フッといい表情に変わったり。 
 マイクスタンドから離れたところで叫ぶのも見えた。汗が光ってるのも。キーボード台に上がった 場面。かすれさせた声。どんどん思い出す。 
 JAH-RAHは激しかったなあ。今日もまたすごかったよ。曲が果て、甲斐が「サンキュー!」 って叫んだ後に「ドシン!」「ドスン!ドスン!」って叩いたのにも興奮したなあ。 
 気づいてみれば、甲斐は全く楽器を使えへんかったな。ハーモニカも。これはめずらしいのでは。 その分、ツインギターの力を思い知らされた。よかったよお。これからもツインギターが見たい。

 ライトの色を覚えていない。よかった感触は残ってるねんけど、どの曲がどの色やったかまでは。 夢中になってるからな。バックはカーテンとか、シンプルやったと思う。また明日、味わおう。

 オープニングからカヴァー曲が続くのはもちろん、真ん中にアコギや小編成のバラードがないのも、 新しい構成やったな。「I.L.Y.V.M」でオリジナルの登場に沸き、「マドモアゼル ブルース」に 狂喜し、「野獣」で大爆発した。 
 思えば、「BLUE CITY」が決定打やった。「野獣」と「三つ数えろ」 「冷血(コールド ブラッド)」「風の中の火のように」をつなぐ位置に、久々の曲が入ったことが。 あそこが定番曲やったら、印象が違っていただろう。 
 しかも、アンコールで「ノーヴェンバー レイン」と「GUTS」も聴くことができた。王道の たたみかけももちろん好きやけど、なかなか生で聴けなかった歌や意外な曲がめちゃめちゃうれしいのだ。

 今日の一曲は、やっぱり「GUTS」やな。この歌が聴きたくて、今日も Welcome to the ”GUTS FOR LOVE” Tourのツアータオルで来てん もん。ツアータオルを掲げたい気分やった。 
 ALTERNATIVE STAR SET ”GUTS”の 思い出深い四国に行った今年、 再び「GUTS」が聴けたんやなあ。 
 それに。「GUTS」がアルバムのタイトルチューンになったのは、甲斐が野茂を見たから。今度は 松坂が海を渡った年に歌われたんや。

 明日も「GUTS」を聴くことができる。これ以上のことがあるか。

 

 

2007年4月14日 大阪なんばHatch

 

今宵の月のように 
歌舞伎町の女王 
くるみ 
ハナミズキ 
Swallowtail Butterfly~あいのうた~ 
接吻kiss 
すばらしい日々 
I.L.Y.V.M. 
レイン 
マドモアゼル ブルース 
野獣 
BLUE CITY 
三つ数えろ 
冷血(コールド ブラッド) 
風の中の火のように

 

漂泊者(アウトロー) 
きんぽうげ 
HERO

 

ノーヴェンバー レイン 
GUTS