CRY

Twitterには長いやつ

甲斐よしひろ ROLLING CIRCUS REVUE

2006年2月9日(木) 大阪なんばHatch

 

 Classic Kai終演後にチラシを受け 取ってからおよそ5ヶ月。なんばHatchに帰って来た。 
 入場して左手に花が飾ってある。毎日放送ちちんぷいぷい角淳一より。甲斐が 先日ビデオ出演したからだろう。そのときは見ることができなかった。こういう情報も ちゃんと「K-メール」で教えてほしい。

 右手にあるいつものグッズ売り場で、パンフやTシャツ、ストラップなどを買う。 
 エスカレーターで階上へ。CD・DVD売り場の前を過ぎ、ドリンクチケットを 水と交換。自分の席が右前なのはわかってたけど、あえて左後方の扉から客席に入る。 席まで歩く間にステージや会場全体の感じを見たいから。

 ステージを見て最初に気づいたのは、キーボード台が左奥に変わってたこと。 前野選手が左奥で、松藤が右奥に位置するのだろうか。 
 ステージと客席1列目の間。その上にいくつも黄色い照明が設置されてある。 色は薄いのと濃いのがあり、ライトはひとつひとつ違う方を向いている。 
 BGMは懐かしい曲が多い。「甲斐バンド解散から20年」のツアーだから、 甲斐バンドが活動していた時期の曲を選んだのだろうか。佐野元春発泡酒のCMで 流れていた「シュガー・ベイビー・ラブ」。アグネス・チャン「ポケットいっぱいの 秘密」。「ア~イ・ショット・シェーリーフ」と聴こえるのは、「警官を撃っちまった」 ってやつか。「岬めぐり」。「スペース・カウボーイ」と歌ってる洋楽。アグネス・ チャンの歌がよくできてるなあと思う。演奏もいい。

 BGMが途切れた。始まるのか。しかし、まだチューニングの音が聴こえる。さっき と同じBGMの曲たちが、また最初から流れ始める。 
 3度目のアナウンスが入る。スモークの量が多くなってきた。まだ続々と客が 入って来る。平日やもんな。 
 BGMが変わった。西部劇のテーマらしき曲。口笛。馬を打つムチのピシッという 音。これで甲斐が登場するのか。まだ確信は持てない。 
 照明が落ちた。間違いない。拍手が起きる。やがて前方の客からひときわ大きな 拍手。メンバーが入場して来たのだ。その間に甲斐の背中が白く浮かび上がってる。 「甲斐ーっ!」

 ドラム。僕は「おおーっ!」と声をあげてしまった。これは!来た!久々や! 
 「キラー ストリート」 
 ゆっくりめのリズム。黄色とオレンジのライト。「シークレット ギグ」を始める のか?という思いも浮かんで、いっそううきうきしてくる。 
 甲斐は銀の縁のあるサングラス。白いジャケット。金の英字が入ったタンクトップ の上に、黒のシャツ。ズボンも黒でストライプ入り。ベルトの銀のバックルが印象的。 前髪を短く切って、上げている。 
 詞の合間にオフマイクで「カモン」と口が動いているのが見える。「闇に一筋 ジャックナイフ」で指を立てる。 
 1番を歌い終えると、マイクスタンドを殴るようにしてつかみ、持ち上げて体ごと 回転した。 
 レコードではブレイクする「気分はBLUES」からの2番前半。JAH-RAH のドラムと、少しずつ入る蘭丸のギターがかっこいい。 
 「闇に二筋」では指も二本。2番を歌い終えると、甲斐は体を回転させ、後ろへ 下がる。蘭丸の間奏や。ここでの音がめっちゃスリリング。ますます興奮してくるのだ。 
 甲斐の吼え声から3番へ。「燃え上がる」を、今夜ははっきりと早口で音に乗せて みせた。 
 後奏では「ゴーオホホー」の叫びだ。ラストは両肘を曲げ、親指と人差し指を立て た両手を、前に突き出す。それをビートとともに連打してフィニッシュ。新しい アクションや。

 続けてあのビートがやって来る。 
 「ダイナマイトが150屯」 
 サックスはなく、キーボードが期待を煽る前奏。甲斐がマイクスタンドを蹴る。 しかし、うまく上がらなかった。 
 ステージは白一色に照らし出されている。客席左右の壁に甲斐の影が映ってる。 JAH-RAHが上のドラムを叩く左スティックの持ち方が、独特な形に見える。 手を打って大声で歌い、甲斐の動きを追いかけながら、目に入ったもの全てを焼き付けて おきたいという思いになる。 
 甲斐がこちらへマイクを向ける。「ダイナマイトが150屯」と腹の底から歌い 返す。甲斐の顔は浅黒く見えた。 
 後奏でマイクスタンドをぐるぐる廻す。最後は膝で受け止めてから、スタンドを 持つ。前奏の分まで絶対に決めてやるという気合いの表われかと、勝手に想像してしま う。僕らも歓声で甲斐に応えた。

 「ギューーン!」という音が響く。さらにビートが叩かれ始め、印象的なフレーズ が繰り返されても、まだ何の曲かわからない。手拍子しながら、どの曲やったっけという わくわく感が高まってゆく。長くライヴで歌われていないことだけはわかるねんけど。 
 「黒い霧が流れ 冷たい雨が降る」 
 僕はまた「おーーっ!」と叫んでしまった。 
 「危険な道連れ」! 
 ついに初めて生で聴くことができた。甲斐が左右に動きながら歌っていく。前野 選手のサックス。ステージの左は緑のライト、右は赤のライトに染められ、クロスする形 で客席右の壁に緑が、左の壁に赤が映っている。 
 間奏の終わり際、JAH-RAHがドラムをクレッシェンドで連打する。 重量感のある音だ。燃え上がらずにいられない。そこへ甲斐の歌が再びかぶさって来る ねんから、もうほんまにすごいのだ。

 最初の3曲、ドラムとベースのビートがビンビン体感できた。右の鼓膜をも突いて 来る。 
 次の曲では、蘭丸は左サイドを向いてじっとしている。バラードが聴こえてきた。 僕がツアーに通い始めた頃、よくうたってくれていたバラードだ。 
 「荒野をくだって」 
 前野選手と松藤。両方のキーボードだけ。そこに甲斐の歌声がのる。アルバム 「TORIKIO」収録のヴァージョンとはちがって、はっきりと音を発する甲斐。 切なくて、打ちひしがれた痛みを感じさせる絶妙のヴォーカル。その声を堪能する。 
 「いつも・・・」とうたった次の詞が出てこない。あわてて何か言葉を継ぎ足す ことはせず、目を閉じ口を結んで待ち、「さみしげなエンジンの音が」からうたって いく。僕らはそれをじっと見つめ、聴き入っている。 
 キーボードから、この曲独特のかすれたような音が出される。その後ろでずっと 奏でられている静かな旋律が、漂っているようだ。 
 後奏で甲斐は「オー」とせつない声をあげた。それから、後ろへ歩き去る。 最後のキーボードが終わる。

 オーディエンスの拍手と声援に、甲斐は暗闇の中から「サンキュー」と返した。 今夜はMCがなく、どんどんと曲が差し出されて来る。 
 「デーデデデーデー」という妖しく力強い音が初めに。甲斐バンドライヴCD10 枚組「熱狂 ステージ」で聴いてたあのイントロだ。例のフレーズに入って、客席が あらためて沸く。 
 「地下室のメロディー」 
 甲斐はアコースティックギターを弾いている。蘭丸はやはりエレキシタールを 弾いているのだろうか。そのことも確認してみたいけど、甲斐から目が離せないから、 わからない。 
 黄色。赤紫。ステージの天井から床へ紺色の光がいくつも伸びていた。

 「地下室のメロディー」から「LOVE MINUS ZERO」まで、中後期の アルバムから1曲ずつ歌われているなと気づいた。各アルバムから1曲ずつ選んでいく という趣向があるのだろうか。 
 しかし、そう思ったところへ響いてきたイントロは、2曲目となる「GOLD」 からのナンバーだった。 
 「ダダダンダンダダン」あの音がして、今度はそのフレーズ1回分、間を空ける。 蘭丸のギターが少し。「ダダダンダンダダン ダダダンダンダダン」次からはレコード 通り、2回ずつセットで迫って来る。バックで、6つずつ並んだ円いライトが赤く光る。 甲斐が歩きまわる。 
 「ボーイッシュ ガール」 
 85年前後にツアーでよく歌われていた演奏でも、 「Series of Dreams Tour Vol.2」の”AGAIN”で 聴かせてくれたしぶいヴァージョンでもない。強さとしゃれた感じを兼ね備えた新しい 「ボーイッシュ ガール」だ。 
 ノリオと前野選手が高い声のコーラス。松藤も加わっているかもしれない。 
 甲斐は「ボーイッシュウーマン オア マーン」と初めの1回だけ歌い、あとは 全て「オア」抜きで歌った。「ボーイッシュウーマン  マーーン」という響き、 かっこよくて気持ちいい。 
 2番後の間奏。最初は長い音が伸びる。「ダーーンダダダーーン」の繰り返し。 甲斐が縦に首を振り、そこから激しく強烈なビートとギターに巻き込まれていく。 
 甲斐は後奏であのフレーズに合わせ、「ボーイッシュガーアアル ボーイッシュ ガーアアル」と声をあげ、それを高めていく。「シュビチュパ」とか「ベイベー」とかの ヴォーカル技もしっかり聴くことができた。

 刻まれ始めたリズムに心が沸き立つ。もしかしたらやってくれるんちゃうかと思って はいたけど。蘭丸のギターが入って、改めて客席から歓声があがる。 
 「悪いうわさ」 
 甲斐は肩にかけたアコギを後ろにまわしている。左上からのスポットだけが光を 差す、暗い照明。その下でうたっていく。松藤が低いコーラス。甲斐は1番の最後にも 「今日もー」をつけてうたった。 
 ついに初めて聴くことができた。レコードで聴いて自分に響いていたいくつかの 詞が、生でダイレクトに伝わって来る。 
 2番の後の長い間奏で、甲斐がアコギを弾き始める。蘭丸のギター。バックの サウンド。悲しい「悪いうわさ」の世界。もう一度最初の歌詞へ。そしてサビの繰り 返し。さらに後奏へと戻って行き、蘭丸がイントロのフレーズを聴かせる。と、音が 跳ねる。甲斐はアコギをアップストローク。一音ずつビートが打たれるごとに、音が 高くなって行く。これは!と思ったところへ、次の曲の前奏がつながる。高らかに奏で られるフレーズは、もちろんみんなを熱狂させた。 
 「ダニーボーイに耳をふさいで」 
 甲斐はアコギを弾きながらうたっていく。やっぱり詞がいいよ。いちいち僕に 突き刺さる。 
 「悪いうわさ」~「ダニーボーイに耳をふさいで」という、実際に聴いてみた かったメドレーを体験できているという感激をかみしめつつ、「ダニーボーイ・・・」の 詞にひたる。 
 後奏。倍加するリズムとともに演奏が高まるなか、甲斐は「いつものよーうにー  いつものよーうにー ドアを閉ざーしてー」と切ない声を振り絞った。やがてバックの 音が伸び、曲がゆっくりになって、それから再び音の放射。フィニッシュへ。

 ここで、今夜初めてのMC。

 同じ会場で数日間ずつ続けてライヴをやるこのツアーのことを、「芝居小屋みたい」 な形式で、やりたかったんだという。 
 芝居の連続公演みたいに、楽屋に長のれんを付けたい、とも。 
 「野田くんとは仲いいんで。NODA-MAP、昨日も実際行ってきた。(野田 秀樹は)古田新太と楽屋がいっしょで。カトちゃんの、ヘンなおじさんののれんが かかってた」 
 自分は銭湯の「ゆ」って入ったのれんでもかけようか、と言う。 
 「せんばか・・・通天閣・・・将棋会館の近く・・・で、買ってこよう。安いな」

 松竹新喜劇藤山寛美を皮切りに、吉本新喜劇の役者の名前も次々出てきて。 花紀京原哲男木村進。 
 木村進のことは「博多淡海の息子」という注釈付き。寛平ちゃんを操る猛獣使い にもたとえていた。

 こういう形のツアーの特徴として、「長く(同じ場所で)やってると、普段来られ ない人が来る。今日は高名な落語家が来てるし」 
 鶴瓶のことかな?

 「初日だからって、カタいよ。みんな。出て来た瞬間、「カタっ」って思ったもん。 そういうのをほぐしていくのも、またいいんだけど」

 「Series of Dreams Tour  Vol.1Vol.2とかでも、 甲斐よしひろの活動を振り返るとなると、シングルが多くなったりするんで。どうしても 落ちてしまう曲が出てくる。ボクの好きな「危険な道連れ」とか、「悪いうわさ」から 「ダニーボーイに耳をふさいで」のメドレーとか」 
 いろんな曲が聴けるのは大歓迎。もちろん、定番曲も大好きやねんけど。

 「東京は結局、5日間。大阪・名古屋は3DAYS。これに味をしめて、また追加 したくなりそう」 
 この発言に拍手が起こる。 
 甲斐は「いたみいります」

 「毎日メニューを変えて。途中からいろいろあるんだけど。ツアーやってく中での 変更とか」 
 「厚生年金1日っていうのもいいけど。・・・考えたら、全部知ってるんだもん ね。大阪城ホールも、花園ラグビー場も・・・花園ラグビー場から、なんばHatch まで」

 「俺たちは74年にデビューして。80年代の初めにN.Y.へ行って。ボブ・ クリアマウンテンというエンジニアと三部作をつくって」 
 ボブ・クリアマウンテンは当時、12組のミュージシャンと仕事をしてて、 甲斐バンドはそのローテーションの8番目だったそうだ。ストーンズやスプリング スティーン、ホール&オーツらのレコーディングが終わるのを待っていたと。 
 「キタノホテルっていう、日本人スタッフのいるところに泊まって。1ドルが 360円とかで、まだ大変だった。税関ではDDTかけられて。これはウソ」 
 なんていうジョークもはさみながら、「今回は、その頃の曲も多くて」

 「今年は甲斐バンド解散から20年っていうことなんだけど。そう聞いて「それに 何の意味が?」って言ったんだけど、「あなたはやる方だけど、見る方にはあるんです」 と言われて」 
 そう言われたことと、N.Y.三部作の曲を多く歌いたいという甲斐の想いの二つ が合わさって、このツアーの内容が決まったという。 
 「その、N.Y.三部作の中からもう1曲、 やりましょう。「BLUE LETTER」」

 海の底から浮かんでくる泡のような静かな前奏。”PARTY”を思わせる 「BLUE LETTER」だ。 
 前野選手のキーボードと、松藤のアコギだけで。イスにすわってうたい始めた甲斐 は、いつしか立ってうたっている。 
 3番。甲斐の歌の後ろで、「ザカザーン」という松藤のアコギだけが鳴っている。 やがてそれも消え、甲斐の声のみが会場に響く。 
 「かつて輝いてた 二人だけの浜辺 今は跡もなく 深い闇の中」 
 大阪城ホールの名演が再現された。静まりかえった会場で、甲斐の声だけを聴く。 この「BLUE LETTER」の感激、大きなホールにかぎったものじゃなかってん なあ。あらためて甲斐の歌の素晴らしさを痛感した。

 再びバンドによる演奏。一瞬、どの曲かわからなかった。オリジナルに近いアレンジ は久し振りやったから。 
 「ビューティフル エネルギー」 
 「シルクの髪」で、甲斐は髪にさわる。 
 全編甲斐のヴォーカルで聴けるのがうれしい。今夜も、「のぼっていくよーーぉ」 と、この部分はラストを下げて余韻を響かせる歌い方。 
 両手を頭の後ろにつけて、両肘を張るアクションも見ることができた。 
 3番の最後は「声を立てようぜーー」

 「シーズン」 
 中盤のバラードより後に歌われるのは久々なんじゃないか。パッと思い出すのは、 初めて行った「BEATNIK TOUR 1984  FINAL」。 
 曲順のためもあるのだろう、 「Big Year’s Party 30」のときよりも、じっくり聴くことが できた気がする。 
 イントロのあの音が帰って来る後奏の最後まで。

 スティックの音。そして、劇的なイントロ。大歓声。おお、早くも来たか! 
 「氷のくちびる」 
 照明が変わっている。最近は黄緑を中心としたライティングやったけど。今度のも いいぞ。 
 間奏。蘭丸が甲斐の左手から右にまわる。左の甲斐が青に、右の蘭丸が赤紫に 染め抜かれる。右奥でエレキを弾いていた松藤が、縦笛を吹く。蘭丸は、「夕暮れの カフェ」までじっと右側で演奏している。 
 蘭丸がそっと元の位置へ戻り、再びビートがはじけ、会場じゅうに火がつく。 
 甲斐は後奏で「アアアアアアアアアアアアアアア アアアアアアアアララララー」 と2回全部歌う。「アーーーー」「フーーー」のファルセットも聴かせてくれる。 もう僕らはどんどん燃えていくばかり。

 「氷のくちびる」の果てからややあって、三連打!!!「ジキジキジキジキ」という 刻みに続いて、僕らも拳を三連打!!! 
 「ポップコーンをほおばって」 
 サビでストロボの光。そのまたたきは一瞬止まったかと思うと、また始まってる。 激しい演奏。三連打!!!ステージを染めるのは青だ。赤だ。またストロボだ。ギターを 手にした甲斐のアクションが、閃きの向こうで、ずれたストップモーションのように独特 の動きとして目に映る。左腕をかき上げる甲斐。僕らも拳を三連打!!!

 バンドはさらに畳み掛けてくる。 
 「翼あるもの」 
 甲斐は1番から、「明日はどこへ」と歌い放ち、僕らに「ゆ!こ!う!」と歌わせ る。拳とともに。 
 甲斐がステージじゅうを歩く。そうしながら歌って行く。2番の前にマイク スタンドを持ち上げ、後ろめに置く。 
 間奏。甲斐が乗っていたバックの台から、前へ飛び出して来る。すごい勢いや。 いつもよりマイクスタンドが近いが、猛然と突進してマイクを奪う。そのままステージの 前の端へ。左右へ進む。踵を返す。ステップを踏む。そうやって激しく歌う。僕らは いっしょに歌いながら、跳び上がらんばかりのノリで手を打っている。 
 うたい終えた甲斐がマイクスタンドの前に戻ってゆく。両腕を広げる。両の手の ひらを下へ向ける。これがまさに翼のように見えた。ここまで感じたことは、かつて なかった。甲斐は両手を上で組む。やがて身体を折って下へ。と同時に、メンバーが腰を 落とすようにして、大音量を解き放った。

 こうなったらトドメの1曲。これを聴かずにすまされようか。 
 「漂泊者(アウトロー)」 
 蘭丸のイントロは、一音ずつしっかり重く、聴かせる感じ。 
 甲斐が歌ってる。動いてる。バックでバンドの演奏とさまざまな照明が渾然と なっている。オーディエンスも騒ぎ放題。僕はその熱の中で、歌い手を打ち拳とともに 跳んだ。 
 甲斐は「爆発」で腰を落とし、すぐ立って「しそおーー」と続けた。 
 またサビがやって来る。僕らは歌う。甲斐が突き出したマイク目掛けて。

 甲斐が拳をかかげて去る。長くステージに残ってくれた後、大きく弾むように ステップを起こして、左ソデへ。スタッフが待っている。バスタオルが掛けられる。 
 僕らはそこへ何度も「甲斐ーっ!」の叫びを投げ、すぐに手を打ち鳴らし、 さらなる熱狂を要求する。

 メンバーが再び登場。「ノリオーっ!」って叫んだら、叫ぶように大きく口を開けて リアクションしてくれた。

 静かなピアノ。「スローなブギにしてくれ」かと思った。いや、ちがう。これは 「シークレット ギグ」で中島みゆきを呼び入れたときの音楽や。そのロング ヴァージョン。 
 蘭丸が松藤を指差して、松藤のギターソロ。蘭丸は松藤に「もっと来い」って感じ で何度もアピールする。JAH-RAHのドラム。蘭丸のギターも鳴らされる。 
 その中を甲斐が左ソデから歩いて登場。胸元の開いた黒いTシャツ。その下は白の Tシャツだ。 
 「「港からやって来た女」をやるぜ」 
 オーディエンスの拍手と歓声が応える。甲斐は蘭丸と向かい合って立ち、 うつむいて伸ばした手を蘭丸の肩に置く。その体勢で蘭丸があのイントロを発する。 さあ、狂乱の始まりや。 
 甲斐はベースを弾くノリオにも正面から覆いかぶさるようにする。歩き、回り、 向きを変え、滑るように、またリズムに乗って、あるいは曲調を破るように強く歩を 進め、歌っていく。 
 甲斐が右前でサビを歌う。僕らは大よろこびで声をあげる。甲斐は両手の指を左の 蘭丸へ向ける。ギターたっぷりの間奏へと突入していく。 
 もう蘭丸もノリオも前に出て弾いている。興奮の場内、さらにまだ最後のお楽しみ があるもんね。左右に動く甲斐と声を合わせて「バイ!バイ!バイ!」と叫ぶ。 「フーーーっ!」 
 指を突き立てての叫びが4回。ラストで甲斐はステージ中央のいちばん前まで 出て来ていた。

 「ここでメンバーの紹介を」 
 キーボード、前野知常。今夜のライヴ前半で、ピアノの音で攻めて来たのが印象 強い。ああ、どの曲だったのか思い出せないのがもったいない。 
 ドラムス、JAH-RAH。立って前に出て来てくれる。甲斐が手を取って、 JAH-RAHがドラムスの台から下りる。両耳のピアスが本当にジャラジャラ。甲斐が ひと言、「どんなやつでも親になれる」。わあ、子ども生まれたんやあ。後ろへ戻って 松藤の左に立ったJAH-RAHに、祝福の拍手。 
 ツインギター。いや、ツインリードギターと紹介されたのか。よく聞き取れ なかった。松藤英男。いつものようにキーボードも弾いているが、今回はギターを担当 する曲が多い。「場末で売れたバンドにいたらしい」と甲斐。松藤は、ギターを振り 下ろす、曲終わりでの決めポーズをしてみせる。 
 ベースギター、坂井紀雄。両手を合わせ、お辞儀をしながら前へ進み出る。ノリオ らしいユーモアのある動き。 
 リードギター土屋公平。僕は「コーヘイ!」って叫んだ。今夜は何だかその 呼び方が合ってる気がしたから。

 JAH-RAHがなかなか座らないなと思って見ていると、松藤がドラムセットへ 移動した。 
 「松藤のドラムで「安奈」をやりましょう」 
 「がんばって」「がんばれー」の声援が多く飛ぶ。 
 甲斐は「病気の人にがんばれって言っちゃダメなんだぞ。がんばれなくなるんだ から」と応えてみせる。「松藤はギリギリ大丈夫だけど」 
 「俺みたいな人は、がんばれって言われると、よし!ってなる」 
 途端に、甲斐への「がんばれ」の声が多数。 
 「ほんとに君たちは、土砂降りの雨の中で墓石に水かけてすがって泣く街に生まれ 育ってるな」 
 それは横山やすしのエピソード。知っていたらしい蘭丸が反応すると、甲斐は蘭丸 を指差して笑う。うれしそうや。 
 客席の僕らもうれしい気分。大阪の人間って、大阪人は強烈だみたいに言われる のが好きなのだ。

 「安奈」 
 松藤のドラムは強く。JAH-RAHは縦に細長いタイコを叩いている。 キーボードの「ヒュルル」という調べが曲をすき間なく埋め、蘭丸がエレキであの フレーズを奏でる。甲斐は立って、詞の区切りに合わせるようになめらかに腕を振り ながらうたう。 
 ほんまにいつもとちがう「安奈」や。いつ聴いても何回聴いても、そのツアー その日その時だけの、オリジナルの「安奈」がそこにある。

 「ドラムス松藤。拍手を。少しつんのめったけど、関係ない」 
 うん。音楽って、楽譜通り忠実に再現することよりもっと大きなものがある もんね。もっとも、僕には松藤のドラムが乱れたようには感じられなかったけど。

 低いうなり。予測からやや遅れて来るような、「コン コン」という重い音。 
 「ALL DOWN THE LINE 25時の追跡」 
 久々に生で聴くことができた。やはり甲斐の歌がいい。 
 ピシッというムチのような音が、オープニングのBGMを思い出させる。無線の 交信。オーディエンスの手拍子が鳴っている。蘭丸のギターが甲斐のヴォーカルをなお 引き立てる。歌にギターが活かされているのだ。これこそ、僕の好きな甲斐のロックの あるべき姿や。 
 終盤、「ああ 運に見放され」から、甲斐は高く声を張り上げて歌う。めちゃ くちゃ激しい。それまでの歌い方とは一変だ。そうせずにはいられない衝動を感じて、 ぞくぞくする。 
 「ああ 厳しい冬が来る」からはまた、低く歌う。JAH-RAHのドラムが 炸裂し、曲は終わりへと向かっていった。

 「ALL DOWN THE LINE」にしびれたまま、2回目のアンコール。 
 メンバーが三度やって来る。

 甲斐が歩いて登場する。紺のTシャツになっている。 
 曲を始めようとするJAH-RAHに、「早いよ」と言って、指でノーの ジェスチャーをする。さらに水のペットボトルをJAH-RAHへふわっと投げた。 JAH-RAHが受け取る。ちゃんとフタはしてあった。甲斐は白いジャケットを はおる。 
 「3DAYSの初日ということで。今日しか来られない人には、今日しかやらない 曲もあるから。ちゃんとそうなってるから」 
 「ほんとうに、今日はみんな来てくれて、感謝してる」 
 「「観覧車」をやるぜ」

 「観覧車’82」 
 甲斐がジャケットを着るのは、結婚式の歌だからか。そう思うと、詞のひとつ ひとつが、いつもとはまたちがった光と影をたたえて立ち上がってくる。 
 間奏が華やかだ。セレモニーやもんな。照明はもちろん虹色。さらにその中を カラフルな円が舞っている。 
 曲が完全に終わってから、甲斐はステージ左で 「ウォーオオオオオ ウォーオオオー」と叫び出す。後奏のあの叫びだ。 「ウォーオオオオオ ウォーオオオー」と続ける。もちろん僕らも声を合わせる。 会場に響く「観覧車」の叫び。メンバーも楽器を鳴らして加わってくる。 甲斐とみんなで思い切り叫ぶ。 
 「OK」と甲斐が言って、今夜の「観覧車’82」が本当に終わる。大拍手や。 こういうの、めちゃめちゃうれしい!

 蘭丸があの前奏をつむぐ。最後に来たか。 
 「嵐の季節」 
 前半は2回に1回のタイミングで拳をあげる。そうやって、甲斐の声で届く詞を じっくり聴きたい気分やったから。 
 しかし、繰り返しからは、しぜんに倍の拳を突き上げていた。奮い立っている のだ。 
 オーディエンスだけの歌声がこだまする。松藤が揺すり出すシャカシャカという音 だけに乗せて、もう一回。そして、バンドとともにもう一度。 
 甲斐は客席のみんなといっしょに歌うことが多かった。この歌をステージの最後に 歌うってこと。それぞれ毎日大変なみんなを、歌で力づけてくれてるねんな。

 甲斐はステージに長く残ってくれた。「観覧車」の後奏でするように、あらゆる席の オーディエンスに応える。眉のあたりにつけた手をこちらに向かって伸ばす仕草も。 
 やがて左ソデへ去って行く。Tシャツの腹をめくる後ろ姿が見えた。

 「アヴェ・マリア」が場内に広がる。 「ROCKUMENT」がよみがえる。そうや。今日のライヴって、 ROCKUMENTと通常のツアーの融合みたいやったなあ。あまり聴けない歌を たくさん取り上げてくれた。また新たなライヴ像。

 あっという間に感じられるステージやった。それでいて、内容はぎっしり濃くて、 曲数もあって。 
 今日の甲斐を思い返す。頭の後ろに手を組んで両肘を張るアクション、久し振りに 増えてたな。バックの台に上がって背中を向けたシーン。まぶしそうに正面斜め上を 向いて歌う姿。

 ステージを眺め渡し、「明日もここに来るんやあ」としみじみ思う。 
 うん、いいな。レヴュー形式って。

 

 

2006年2月9日 大阪なんばHatch

 

キラー ストリート 
ダイナマイトが150屯 
危険な道連れ 
荒野をくだって 
地下室のメロディー 
ボーイッシュ ガール 
悪いうわさ 
~ダニーボーイに耳をふさいで 
BLUE LETTER 
ビューティフル エネルギー 
シーズン 
氷のくちびる 
ポップコーンをほおばって 
翼あるもの 
漂泊者(アウトロー

 

港からやって来た女 
安奈 
ALL DOWN THE LINE 25時の追跡

 

観覧車’82 
嵐の季節