CRY

Twitterには長いやつ

甲斐バンド BEATNIK TOUR 2001 ーDo you beat?ー

2001年7月13日(金) ひこね市文化プラザ

 本格的に滋賀に来るのは、初めてや。新快速と快速を乗り継いで、能登川へ。 そこからは甲斐友の車に乗せてもらった。 
 ひこね市文化プラザは、曲線を活かしたデザインと、外壁の落ち着いた色合い で、周囲の風景に溶け込んでいた。駐車場も充分な広さがある。 
 円筒形の建物の階段を上り、しばらく待っていると、予定時刻より前に開場 された。 
 僕の席は、「お列」の右端。前から5列目だ。ただし、ほんまに端の方。 いちばん右に2つだけ席があって、その左側である。 
 このツアーに参加するのは、今日で4回目。でも、こんなに横の席から見るのは 初めてや。今までとちがう角度から見ることができ、新しい発見もあるだろう。 それに、僕は滋賀でのライヴ初体験。甲斐にとっても、久々の土地ということになる。 さらに、今日は大森さんが体調不良で出られない。それによってステージはどう変わる のか。大森さんが弾いていたフレーズは誰が弾くのか。さまざまな「今日初めて」が ある。 
 そして、何よりも、僕は甲斐の歌が聴けるだけで最高にうれしいのだ。今夜も また、あの感動を味わうことができる。

 パーカッションが響くなか、甲斐の影が今日は早めにマイクスタンドの前へ 立っているのが見えた。 
 そこに白い光が浴びせられ、「破れたハートを売り物に」 
 甲斐は黒いジャケットを着てる。会場は今日も大合唱。そのまま「ちんぴら」、 「ダイナマイトが150屯」の熱狂へと突っ込んで行く。

 「今回のツアーは、みんなが知ってる曲をたくさんやる」というMCに、客席から あれをやってくれ、これが聴きたいというような声がたくさんかかる。 
 「(みんなの希望に全部応えていってたら、)そのうち時間がなくなって、小屋 のおじさんから出て行けって言われて、君たちは最後のミラーボールを見られずに 終わってしまうわけやね」

 前奏のライティングが、この席からだと、いつもとちがって見えた。甲斐が ステージ後方へ行った間に、僕は後ろを振り返ってみた。 
 すると、会場全体を何千もの光と影の波が揺れていた。めっちゃ美しい。 
 その光景を胸に歌う「ナイト ウェイヴ」 
 英二から一郎へ。間奏のギターがまたいいねんなあ。

 「ビューティフル エネルギー」で泣けてきた。 
 松藤はとても楽しそうに一郎と英二とならんでギターを弾いている。それを 見ながら。 
 大森さんが今日のステージに立てないという事実に直面しても、甲斐バンドって こんなにすごいんや。あらためてそんな想いがこみあげる。 
 甲斐が戻ってきて、右側のマイクへ。今日はこっちの方が近いぞ。 「ビューティフル エーナジー」というコーラスのなか、甲斐だけが 「きーんいろのー」とハモっているのが聴き分けられた。それが心地いい。 
 曲が終わると、松藤は「サンキュ!」と客席へ短く叫んだ。

 続く甲斐の「BLUE LETTER」と「テレフォン ノイローゼ」も胸を 突く。 
 「テレフォン ノイローゼ」の歌い出しは、ひと呼吸遅らせてのヴァージョン やった。

 甲斐バンドのツアーは、できるだけ初めての土地をスケジュールに組み込むように しているという。 
 今回の「行ったことなさげな街」は、「ここと桐生」 
 「県には来てたんだけどね」と言うと、すかさず「おかえりー!」の声が飛ぶ。 
 「湖のまわりがあまりに気持ちよくて、帰れなくなったこともあった」と、 滋賀の思い出も話してくれる。

 「今回のツアーメンバーは、打ち上げで二次会、三次会になっても誰も 帰らない」 
 こいつらにはあきれるぜという感じでそう言いながら、めっちゃうれしそうな 甲斐。 
 と、ここで、「大森さんはー?」という間延びした声が客席からかかる。 
 悪気はなさそうやったけど、これはあかんやろう。大森さんがいない今日、 みんながんばってすごいステージを見せてくれてるというのに。 
 甲斐は「はあーっ」と溜め息をつき、MCをおしまいにして、 コーラス隊を呼んだ。 
 あんな声がかからんかったら、もっとしゃべってくれそうやったのになあ。 
 しかし、甲斐はひどく怒ってしまったという風ではなかった。 
 ギターを弾き始める前に、「次の曲は、昨日大阪で初めて(コーラスと ぴったり)合った。でも、きっと1度かぎりでしょう」とジョークを言ったのだ。 
 その「円舞曲(ワルツ)」は、果たして今夜も素敵なハーモニーを響かせて くれた。

 次は、NHKホールで「STARS」、大阪で「VIOLET SKY」を やった、その日だけのスペシャルな1曲だ。 
 甲斐は、今夜も他の会場では歌っていない曲をやると告げる。 
 でも、「今までに何をやったかは言わない」 
 そう聞いて、いろんな曲名を叫ぶ声があがる。「バス通り!」というのも あった。 
 「こういうとき必ず名前が出てくるのが、だいたい2つくらいある。1つはもう 出ただろ」と甲斐が言うと、「アップル パイ!」の声も出た。 
 「これで出揃ったな」とちょっと笑ってから、「こういう場合、やりそうにない 曲をわざと言うっていうのがあるだろ?でも、それはちがうんだな。だって、いつか やるかもしんないじゃん」 
 それから、松藤と前野選手を招き入れた。 
 3人が並んでイスにすわる。前野選手はアコーディオンを抱えている。 
 甲斐による2人の紹介。前野選手のときは、「アコーディオン横森良造」と 言う。ここで僕は「前野ーっ!」と本当の名前を呼びたかったけど、タイミングを 逸して、できひんかった。おしい。

 「甘いKissをしようぜ」 
 甲斐の歌声。松藤のギター。それらをほのかに縁どるようなアコーディオン。 その世界に浸って、耳をすませる。 
 ああ、めっちゃよかったあ。今夜はこの曲をうたってくれるんちゃうかと期待 してた。滋賀でも流れてる甲斐のラジオ「21世紀通り」のエンディングテーマやし、 「甘いKissをしようぜ」を聴かせてくれた去年のツアーは彦根に来てなかった から。でも、アコーディオンを使うとはなあ。ニューアルバム「夏の轍」の1曲目 「眩暈のSummer Breeze」でも話題を呼んだ、前野選手のこの楽器を。 
 今日もほんまにスペシャルな1曲になった。

 佐藤英二のギターから始まる「安奈」 
 今夜は、より繊細にうたわれ、演奏されているように感じる。 
 ラストの甲斐のハーモニカが長い。その抒情的な音の最後の伸びを見届けて から、一郎がアコースティックギターで曲を終わらせた。名シーンやったなあ。

 「LADY」でまた泣けた。 
 とにかく甲斐の声だ。歌だ。そして、あの詞だ。 
 緑の照明を裂いて、ピンクのスポットライトがステージ右手を貫いているのを 視界にとらえながらも、僕の意識は甲斐に向かい続けていた。

 さあ、ここから怒涛の盛りあがりや! 
 「氷のくちびる」では、「タン タ タン」のリズムで手拍子をしている人が 多い。そうや、「ビューティフル エネルギー」の中盤でも、今日はこれやってる人が 多かったな。 
 間奏のあの見せ場では、甲斐と一郎が二色に染め抜かれた。 
 「翼あるもの」の2番に入るところで、坂井選手がまわってる!ベースを弾き ながら、ビートにノって。これ、見たかってんなあ!「夏の轍」特典のトークCDで、 そうやって弾くときがあると聞いてから。昨日の大阪でもまわってたらしいねんけど、 僕は見逃してたのだ。ついにやった! 
 間奏が終わりに近づき、ステージの右奥から甲斐が前に走って来る。マイク スタンドの前を過ぎて、左客席最前列へ。僕は右端にいるのに、今日の甲斐は左側へ 行くことが多い。あっちのお客さんはラッキーやなあ。そう思いかけた瞬間、甲斐は 踵を返してこっちへ走ってきてくれた!どう見てもあのまま左の方へ行く動きやった のに。これにはめちゃめちゃ感激した!いちばん右まで来てくれて、そのまま長く 近くで歌ってくれる。もう僕も周りも大熱狂なのだ!もしかしたら、ここで燃えさせる ために、今まで何度も左へ行ってたんかなあ。こころにく過ぎるで。 
 「漂泊者(アウトロー)」では、パーカッション台の上から青いシャツを ふわっと落として、それから前へ走るアクション。甲斐の一挙手一投足を目で追い ながら、歌い、手を打ち、跳びあがって拳をあげた。

 アンコールを求める手拍子。僕は何度も「甲斐ーっ!」と叫ぶ。 
 そのうち、「アンコール!アンコール!」という声が飛び、それが会場に 広がった。甲斐バンドのコンサートに初めて行った頃は、こういうコールやったっけ。 これも他の会場では体験できなかったことで、いい感じでした。

 ステージに戻ってきた甲斐は、「この街でやれてよかった」と言ってくれた。 
 この言葉、ほんまにうれしいよなあ。

 「HERO」でもやはり、「タン タ タン」の手拍子が多かった。気持ちが こもってるから、それもうれしいのだ。 
 「観覧車」を歌う間、身体にかけたバスタオル。甲斐はこれまでマイクスタンド にかけて行ったりしてたけど、今日は坂井選手の首にマフラーのように巻いてから、 ステージを後にする。坂井選手はもちろんそのままプレイ。 
 そして、今夜もこの後奏のギターがいい。一郎は右前へ来て、その音を聴かせ てくれた。

 再びの「アンコール」。ステージに白い照明がついて、メンバーが現れても、 手拍子は続く。甲斐の登場への歓声、「甲斐ーっ!」の声、さらに手拍子。

 甲斐の第一声を聞こうとオーディエンスがようやく静まると、甲斐は一言も 発さず、そのまま前奏が聴こえてきた。あのピアノの音が。 
 「100万$ナイト」 
 静かなままこの曲に入ったの、よかったな。情感が沁みてくる。また泣いた。

 「アナログ レザー」の流れるなか、余韻にひたる。 
 出口のそばに休憩所があり、そこの自動販売機でクリスタルカイザーを買った。 ライヴで歌い、叫んだ後やから、ごくごく飲めてしまう。ROCKUMENTで ステージに近い客席を初めて体験したとき、甲斐たちが曲の合間に飲んでいる ミネラルウォーターのペットボトルが独特の形をしているのが見えて、甲斐友たちとの 間で話題になったことがある。僕らは、どうやらクリスタルカイザーらしいと見当を つけた。それで今、ライヴ後にこれを選んだのだ。もっとも、甲斐のステージ上に 置かれるペットボトルの形はそれから毎回のように変わり、クリスタルカイザーに こだわりがあるわけではなさそうやと判明してんけど。 
 ちらっとそんなことも思い出しつつ、水を飲む。今日の甲斐友たちと話す。 
 ライヴの感動が全身を包んでいる。同じ曲を聴いても、熱く力が湧いてくる ときと、心に沁みて泣けてくるときがある。どちらも深い感動なのだ。 今日は泣けるライヴやったなあ。

 

2001年7月13日 ひこね市文化プラザ

 

破れたハートを売り物に 
ちんぴら 
ダイナマイトが150屯 
きんぽうげ 
フェアリー(完全犯罪) 
眩暈のSummer Breeze 
シーズン 
ナイト ウェイヴ 
ビューティフル エネルギー 
BLUE LETTER 
テレフォン ノイローゼ 
円舞曲(ワルツ) 
甘いKissをしようぜ 
安奈 
裏切りの街角 
LADY 
嵐の季節 
氷のくちびる 
翼あるもの 
漂泊者(アウトロー

 

HERO 
観覧車’82

 

100万$ナイト

甲斐バンド BEATNIK TOUR 2001 ーDo you beat?ー

2001年7月12日(木) グランキューブ大阪

 JR福島駅には、会場までの案内表示がなかった。先に乗り込んでいる甲斐友に 電話して、道順を聞く。ネットで調べたら徒歩10分て書いてあったけど、探しながら になったせいか、もっと歩いた気がした。大きな橋の向こうに聳えるのが大阪国際 会議場。その5階から9階が、グランキューブ大阪メインホールだ。

 会場ロビーは広い。客席への入り口がわかりにくくて、ちょっと変わった感じ。 
 ステージは低く、横幅は狭め。甲斐との距離が近く感じられそうや。客席は縦に 長い。僕の席は、10列目のど真ん中。ほぼマイクスタンドの正面や。感激。

 開演前から客が熱い。拍手。「甲斐ーっ!」の声。今夜は最高のライヴになるぞ という予感がしてくる。 
 楽器のチェックで、NHKホールと同じようにパーカッションが1音だけ鳴らさ れた。あの「破れたハートを売り物に」を思い出す。ギターの音には「思春期」を 連想した。

 最後のBGMとともに立ち上がる。手拍子。興奮。期待感。 
 前奏で歓声と拍手が弾ける。4本並ぶマイクスタンド。オーディエンスの 手拍子が始まる。みんなが手を打つものすごい音が、一体感とともに響く。 JAH-RAHのプレイが始まっても、それに負けないビートを叩き出す。 俺らの手が、パーカッションなのだ。 
 甲斐の影が左からマイクスタンドの前へ動くのが見えた。照明が当たる。さあ、 大合唱や。 
 「破れたハートを売り物に」に続くは、「ちんぴら」。「あー あー あー」と 歌いまくる。客席の声がでかい。みんなこういうの大好きなんや。 
 そして、「ダイナマイトが150屯」!今日のドラムは広島とNHKホールの 中間の速さ。これもまた絶好。 
 歌い、手を打ち、甲斐の名を叫び、歓声をあげ、拳で空を突く。ほんまに ほんまに、このオープニングはものすごかった!

 「今夜も目一杯やります。やるよ!」

 「眩暈のSummer Breeze」 
 今日の席、今日の会場は、ライティングがきれいに見える。 
 サビの最後で、光が真ん中から左右に分かれ、それからステージ全体が閃光に またたいた。

 「次の曲は、「BIG GIG」とかでやって。花園ではやってないのかな。 その頃はなかなかうまくいかないなあ、と思ってて。ひさしぶりにやったら、 よかったんで」 
 そう言って始められたのは、「シーズン」だ。 
 84年のツアーでも、よかったけどなあ。ともかく、このツアーの「シーズン」 は、とびきりいい。

 「ナイト ウェイヴ」 
 甲斐は「ウーウーウーウーウーウーウーウウー」とオリジナル通り歌ったり、 「ウウーウウ ウーウウ ウー ウーウウー」と歌ったり。自由に音の中を泳いでいる ような感じで、見ていて気持ちがいい。 
 間奏で坂井選手が前へ出てくる。客に正対する形ではなく、身体を斜めに構え ながら。ノってて、いいぞ。「夏の轍」のトークCDで言ってた、 ベースを弾きながらぐるぐる回る姿も、見てみたいなあ。 
 最後の歌の部分で、甲斐がいちばん前まで出てくる。僕の方へ真っ直ぐ 近づいて来る。甲斐が客席の中にまで下りてきたかと思えたほど。そんなふうに見えた のだ。甲斐が近いと感じられて、ぞくっとしたなあ。

 「テレフォン ノイローゼ」がすばらしかった! 
 最初の「出会ってひと月めー」を、タイミングをずらさずオリジナル通りに 入ったのに、まず感激。ギターに強弱をつけ、音を減らしたり、観客の手拍子だけに のせて歌ったり。このメリハリがたまらない。最高や。

 「円舞曲(ワルツ)」のコーラス隊は、「手裏剣トリオ」と紹介された。 
 「知ってる人も知らない人も、歌わないように」と甲斐が言う。 
 「これまで1回も(自分とコーラスが)合ってない。 コーラスが聴こえる方がいいだろ?」 
 観客の歌声なしの「円舞曲(ワルツ)」は、たしかにめっちゃよかったあ。 ハーモニーを堪能した。 
 前野選手は、間奏を弾いて戻ってくるとき、キーボードの台の端を真っ直ぐ 進んできた。あそこ通れるようにしたんやろうな。

 ここで一郎が登場。 
 甲斐の「首からバスの定期ぶら下げてた頃から知ってるんだ」という発言に、 一郎がウケる。 
 「あれ何色だった?みんなが黄色使ってるから、他の色にしたんでしょ?」と 甲斐がその話を続け、「説明しないとわからないじゃない」と言って一郎が 「俺たちの頃に初めて、黄色が注意を引く色だってなって、交通のいろんなもんに 使われだしたんですよ」と客席に話しかける。 
 「教科書が無償になったのも、1コ下の一郎の学年からなんだよね。どうなって たんだろう、あの頃のニッポンは」と甲斐が笑った。

 NHKホールでは「STARS」が聴けた、日替わりの1曲。きっと新曲 やろうから、この歌だと予想していた。 
 「VIOLET SKY」 
 一郎のアコースティックギター。激しく。「そう言い聞かせ」のところで 入るタイミングと音にしびれる。 
 「夏の轍」では多くの楽器がつくり出しているリズムを、甲斐がハーモニカで 表現する。これがいいねんなあ。 
 シンプルな灯りの下、甲斐と一郎だけの「VIOLET SKY」。かっこ よかったあ。聴けてしあわせ。

 右手から大森さんが現れる。客席に向かって、深々と一礼。歓声がひときわ 高まる。 
 ここから後半のスタート。熱狂している大阪のオーディエンスが、 さらに興奮していく。 
 特にすごかったのが、本編ラストの3曲。 
 「氷のくちびる」から、もう跳ばずにはいられない。すごいのだ。 
 「翼あるもの」では、甲斐が脱いだシャツを振りまわすアクション。あの間奏を さらに盛りあげる。 
 ここで続けて「漂泊者(アウトロー)」だ!あの「漂泊者(アウトロー)」 なのだ! 
 跳びあがり、歌い、拳をあげる。客席全体がものすごい熱気のなかで動いてる。 
 甲斐は間奏で台に上がり、そこからマイクスタンドへ突進してくる。すごい 勢い。腰からマイクを抜いて「誰か俺に」と歌い始める。 
 客席の熱狂は続く。何というあつさ。ほんまに今夜はすごいぞ。 
 後奏。「キューキュキュルキュ キューキュキュルキュ」と軋んだ音が ぐるぐるまわっている。重厚に曲が果てる。 
 あと1曲激しい曲が続いたら、倒れていたかもしれない。そう思うほど、 あつかったのだ。今年の夏は、「RED SUDDEN-DEATH TOUR」の 94年並みの猛暑になるとか言うてるみたいやけど、この「漂泊者(アウトロー)」の 時ほどあつくなるわけがない。間違いなく、今日がこの夏いちばんのあつさや。これを 思えば、気温がどれほど上がろうが、どうってことはない。

 アンコールも盛りあがらないはずがない。「HERO」や!「観覧車」や! 
 「観覧車」のイントロで、甲斐は身体を屈めて、バスタオルを折る。それを 右肩にかけてのヴォーカルや。 
 今夜のギターもいいぞ。そして、虹色のライトが舞うなか、甲斐が オーディエンスに挨拶をする。

 2度目のアンコール。 
 「途中歌が聴こえないとか、いろんな旅路があったけど」 
 ほんまに今日の客の歌声はすごかったもんなあ。強力なノリのまま、最後の曲に たどり着いた。 
 「こんなにたくさん来てくれて、感謝してる。サンキュー」

 「100万$ナイト」 
 静まった会場に、甲斐のバラードが響く。 
 ドラムが入って演奏が大きくなると、会場の床が揺れ始めた。曲の激しさを 体感している気になる。揺れる床の上で、甲斐を見つめ、その声を聴く。 
 そして、ミラーボール。光。甲斐の咆哮。

 メンバーが前へ出てきてくれる。松藤が全員を呼び、サポートの4人もそこへ 加わった。8人が一列に並んで、つないだ手をあげ、また、頭を下げる。 
 これにも感激したなあ。このツアーで初めて見る光景や。

 ああ、ほんまにすごかった!いくら書いても足りひんなあ。大阪のノリは 最高や。地元やということは抜きにして、心の底からそう思う。 
 指を上にした両手の甲をこちらに向けて、「来いよ!」と煽る甲斐。思い切り 歌う客。 
 この心地よさ。大阪のライヴは格別やなあ。今夜のことは忘れへんで。

 

2001年7月12日 グランキューブ大阪

 

破れたハートを売り物に 
ちんぴら 
ダイナマイトが150屯 
きんぽうげ 
フェアリー(完全犯罪) 
眩暈のSummer Breeze 
シーズン 
ナイト ウェイヴ 
ビューティフル エネルギー 
BLUE LETTER 
テレフォン ノイローゼ 
円舞曲(ワルツ) 
VIOLET SKY 
安奈 
裏切りの街角 
LADY 
嵐の季節 
氷のくちびる 
翼あるもの 
漂泊者(アウトロー

 

HERO 
観覧車’82

 

100万$ナイト

甲斐バンド BEATNIK TOUR 2001 ーDo you beat?ー

2001年6月30日(土) NHKホール

 雨の原宿駅。改札を出て右へ。歩道橋を渡り、競技場そばの並木道を 行く。 
 前にNHKホールへ行ったときは、渋谷から坂を上っていった。上りきった左手 に渋谷公会堂があり、その先にNHKホールが見えた。92年の「甲斐よしひろ HISTORY」。初めての東京遠征やった。 
 今日はホールの裏から近づく感じで、あの時とはかなり印象がちがう。会場周辺 に集うファンの群れ。中には、横断幕を広げているグループもあった。

 ロビーにたくさん花が飾ってある。贈り主を見てみると、ダウンタウンや白山眼鏡 の名前もあった。 
 グッズ売り場も通路も人で一杯や。5、6段の短い階段を上って扉を開けると、 紫と白のライトに照らされたステージが目に飛びこんできた。雰囲気あるぞ。 
 今日の席は1階C7列の真ん中。オーケストラピットにあたる部分が最前列なの で、実質的には12列目あたり。 
 BGMは、やはり甲斐がラジオで言うてたやつやった。歌謡曲のニューテイスト カヴァー。広島から今日までの間に、放送があったのだ。ちあきなおみ「星影の小径」 、矢野顕子丘を越えて」、サンディー「蘇州夜曲」、ディック・リー「SUKI YAKI」、宇崎竜童「悲しき口笛」が流れていく。「私は街の子 巷の子」と歌って るのは、泉谷しげるか? 
 舞台の上では、楽器のチェックが行われている。パーカッションが1音、 「トューン」と鳴らされ、「破れたハートを売り物に」が頭をかすめる。

 会場にはTVカメラが入っている。広島のときにも見たが、今日の方が台数が 多いようだ。 
 開演は遅れている。1階席左後ろに、人がたくさん立っている。なかなか整理 されない。同じ座席番号のチケットがだぶって発券されたとか、何かあったんかなあ。 これは、だいぶ開演が遅れるかもしれない。 
 そう思っているうちに、BGMの音量が上がった。

 「イサス、イサス、イサス」という歌。そうや、広島のときもこれがあったんや。 
 それから、あの手拍子のしやすい最後の曲に変わる。僕らはすぐに立ち上がる。 客電が落ち、11色ならんだカラフルなライトが客席を染めていく。真ん中は黄色だ。 あの小さな楕円形のミラーボールはない。ライティングが変わるということは、1曲目 も変わるのか?

 BGMが終わった瞬間、あの美しい前奏が始まる。マイクスタンドが運ばれて くる。 
 もはやこれだけで感動しはじめている。 
 スポットを浴びて、JAH-RAHのパーカッション。 
 白いライトが点いたときには、4人はもうそこにいた。 
 僕にとっては、初めて1曲目で聴く「破れたハートを売り物に」 
 甲斐はグレーのスーツ。髪は伸ばして、パーマもかけたようだ。 
 甲斐と松藤をはさんで、一郎と佐藤英二。二人はギターを手にしている。 
 ビートを感じる。曲調が変わるところで振られる白いライトが、いい。間奏は、 一郎と英二のツインギターだ。この形は初めてちゃうかなあ。これもまたよし。

 キーボード。そして、ギターへ。イントロが長くなっている。歌入りで一瞬の ブレイク。甲斐がマイクスタンドの前で身を翻す。黄色いライトの中。 
 「ちんぴら」 
 キーボードの前野選手が「あー あー あー」とコーラスしている。広島では 気がつけへんかったなあ。

 「ダイナマイトが150屯」 
 松藤のドラムが、今日は重量感を感じさせる。同じ曲でも、音楽ってその時に よってほんとにちがうのだ。 
 甲斐は全て「ちくしょう 恋なんて吹き飛ばせ」と歌った。 
 最後は赤いライトだった気がする。いや、興奮していてそう思えただけだったの かもしれない。

 大歓声を受けて、甲斐のMC。 
 「最後まで目一杯やります。楽しんでってくれ。さあ、やるぜ」

 このツアーの「きんぽうげ」は、「くーらやみのなか だーきーしめても」の語尾 をやや突き放した歌い方。 
 最後の繰り返しで、甲斐が前にやって来る。腕を振って観客を煽り、マイクを 向ける。「街の色が」だけ歌わせて、あとは甲斐が自分で歌った。

 「フェアリー(完全犯罪)」 
 今日は、2番も「あなたのものよと来やがった」と歌う。 
 1番では胸を撃たれた仕草。2番ではマイクスタンドを傾け、その逆方向に 膝を突き上げるアクション。ROCKUMENTヴァージョンの「ダイナマイトが 150屯」でよく見せていた動きだ。3番からは、そういう動きはなくしていく。

 ニューアルバム「夏の轍」からの「眩暈のSummer Breeze」 
 広島のときはまだ出ていなかったアルバム、今日は聴き込んできたぞ。 ヴォーカルが入る直前のギターの咆哮は控えめ。きっちりライヴヴァージョンに 仕上げられてるねんなあ。 
 回転するライトは、光のまわりに緑や紫をまとって、刻々とその様相を変えて いる。甲斐は魅入られたように一点を見つめて歌う。 
 後奏が高鳴り、松藤のドラムが音を放出。この激しいラストも好きや。

 まず、きれいなキーボード。今日はこの音が印象的や。 
 「シーズン」 
 甲斐がせつない表情をして、せつない声でうたう。 
 「お前は幻だと言う 二人の仲は終わりだと」 
 「青き星の群れ きらめく海岸で 俺たちはいつも 出会うはずだった」 
 痛みが胸を突く。泣けた。これまでに聴いた「シーズン」のなかで、最高やった かもしれない。

 「ナイト ウェイヴ」が広島から変わっていた。 
 「波に落ちてく 二つの木の葉」に入る直前の演奏が長い。甲斐はその部分で 音楽と観客の手拍子に身をゆだね、それから歌へ入っていく。 
 その後の間奏は、パーカッションのソロからベースへ。そして、一郎と英二の ギター。ドラムやキーボードだけの部分はなくなり、新しい形にまとめられていた。

 ギターを持った松藤が前へ。甲斐はソデへ下がる。 
 「ビューティフル エネルギー」 
 ドラムはJAH-RAHが叩いていた。松藤が歌ってるんやから当たり前やねん けど、広島のときは目に入ってなかったなあ。 
 今日は一郎と英二がステージ右のマイクに集まることはなく、ギターの3人が ならんでいる。センターに松藤、左に一郎、右に英二だ。 
 甲斐は最後の繰り返しで戻ってくる。右中間のマイクでコーラスをした。

 右奥のパーカッションの前で、松藤がウィンドチャイムを揺らす。 
 「BLUE LETTER」 
 ベースの音のかたまりが、こっちへ向かって這ってくる。 
 甲斐は「暗い闇の中」と、レコードとちがう方でうたった。「シャツを脱ぎ 捨て」で、前に歩を進める。 
 松藤の歌から甲斐のバラードへの流れって、いいなあ。

 甲斐のアコギだけの「デレフォン ノイローゼ」 
 あの間奏に注目や。甲斐は右手の指を、ネックの真ん中からいちばん下まで ずらしていく。今度は逆に、真ん中からいちばん上まで。そして、いちばん上から ずーっと最後まで下げていった。歓声が沸く。みんな大よろこびや。 

 「テレビやラジオにいくつか出て、いっぱい話したいことはあるんだけど、 一人のときにとっとく」 
 そう言って笑って、MCは短め。 
 「街のちんぴらです」と紹介した松藤、英二、前野とともに 「円舞曲(ワルツ)」を歌う。 
 前野選手は今日も、コーラスのマイクの前から間奏を弾きに行き、また キーボードの台をまわって帰ってきた。

 まだメンバーは出てこない。 
 甲斐がアコースティックギターを鳴らす。 
 うたい始めたのは、「STARS」 
 ニューアルバムの中で、僕がいちばん好きな曲だ。 
 ギター一本で音が少ないから、CDよりも甲斐の声がむきだしで、直接胸に 届いてくる。 
 わずかな間奏で、「幾千万の死んだ星の下」というサビへ行く。 
 やがて、キーボードが重なりはじめる。 
 「ララララ」も短めやった。すべてがアコギでの演奏にぴったりなアレンジで、 素晴らしい。 
 聴くことができてうれしかった。このツアーでうたわれるべき名曲や。

 「ギタリストの大森信和を」 
 大きな歓声と拍手に迎えられ、大森さんが登場。 
 大森さんは自分でイスの位置を動かし、そこにすわった。 
 短いイントロで甲斐が「安奈」をうたい始める。 
 甲斐バンドの4人にベースの坂井選手を加えた編成だ。 
 続く「裏切りの街角」で8人が揃う。 
 僕は大森さんのギターに聴き入った。

 美しいキーボード。緑の光。甲斐は銀の長いジャケットをまとっている。 
 「LADY」 
 甲斐の歌。ピンクのスポットを浴びた大森さんのギター。 
 ステージが真紅に染まっていった。

 「嵐の季節」 
 そういう気分だったので、今日は拳の上げ方を変えた。「そうさコートの襟を 立て」の間に4回突き上げるのだ。かつてはこの上げ方が主流だったと聞いている。 これがすごくしっくりきた。上げる回数は半分だが、1回ごとに気合いを込めて。 力強く。 
 これから「嵐の季節」は、この拳で行こうかな。この方が気持ちを入れやすいと 感じられた。

 松藤のカウントから、劇的な前奏へ。光に照らし出された甲斐は、ジャケットを 脱ぎ、ギターをかけている。 
 「氷のくちびる」 
 黄緑のライト。間奏では、甲斐が赤に、大森さんが緑に染め抜かれる。 
 その名場面が終わって2番に入ると、松藤が縦笛を吹いているのが見えた。

 曲の始まりで一郎が跳ねる。 
 「翼あるもの」 
 甲斐は間奏でパーカッションの台に乗る。それからドラムスの台へ移った。 「俺の海に翼広げ」で飛び下りて、前へ踊り出る。一郎も左の前へ。甲斐も左へ行き そうだったが、踵を返して右へ。そして左へ。客席全体が沸騰する。

 「漂泊者(アウトロー)」 
 会場全体から甲斐の声が発せられているような感覚におそわれた。それだけ熱狂 してたってことなんやろうなあ。僕もみんなも大好きな歌なのだ。 
 後奏で音がきしる。これぞ、甲斐バンドの「漂泊者(アウトロー)」や!

 アンコール最初の音は、あのイントロ。オリジナル通りのドラムになってたから、 今日はすぐに「HERO」やとわかったぞ。盛りあがるのだ。 
 「月は砕け散っても」の直後、ギターが「ギュイーン!」と派手にうなりを 上げる。いいぞ、一郎!

 メンバー紹介。 
 「喝采を浴びていいと思う。なぜか15年振りにドラムを・・・」 
 甲斐がそこまで言うと、オーディエンスがものすごい歓声を上げる。みんな うれしいのだ。甲斐はもうそこで言葉を切り、松藤の名を呼び上げる。 
 さらに大歓声。前まで出てきた松藤は、2本のスティックを下からふわりと 客席へ投げ入れた!これ期待しててんなあ。かつて甲斐バンドのライヴでは、松藤は いつもスティックを投げていた。やってくれたかあ。

 「観覧車’82」 
 間奏にのって虹色のライトがまわる。甲斐はステージ上に寝転んでみせた。 暑そうだ。曲と手拍子に包まれて天井を見上げるのって、どんな気分なんかなあ。 きっと心地いいにちがいない。 
 ギターがめっちゃ印象的や。間奏でも、甲斐の歌声の裏でも。歌の間隙を縫って 跳ねる感触が気持ちいい。「観覧車」でこんなにギターを感じたのは初めてや。 
 後奏。甲斐は真ん中でおじぎをし、客席全体を見渡してから、ステージを後に した。 
 それからも一郎のギターが冴える。大森さんの方へ歩み寄りながら、あるいは、 松藤の方を向いて。 
 すごく気持ちのいい「観覧車」やった。一度、野外で聴いてみたいなあ。

 2回目のアンコールに現れた甲斐は、黒いツアーTシャツ姿。 
 「100万$ナイト」 
 碧と藍が色の層を成している。目に見えるのは甲斐だけ。そのほかのものは、 背景の色にとけている。 
 サビでその世界が赤に染まる。劇的なバラードに、それが血の赤に感じられた。 
 「100万$ナイト」とうたう甲斐。その瞬間、どこかでウィンドチャイムの 音がしていた。

 全ての曲を終え、甲斐バンドが前に進み出る。観客の声援に応え、そして、 4人が手を差し上げる。松藤が大森さんの腕をつかんで、高くかかげていた。 
 最後までステージに残ってくれた甲斐が、オーディエンスにアピールする。 「甲斐ーっ!」と何度も叫ばずにはいられない。 
 甲斐が手を挙げて去っていった。 
 「アナログ レザー」が降ってくる。甲斐バンドとファンたちの再会を祝う あの歌が。

 今日は「シーズン」と「観覧車’82」が特によかったなあ。 
 それに、「STARS」が初めてうたわれたライヴとしても、記憶されること になるだろう。 
 甲斐が観客の反応を見て、MCの言葉を飲み込む場面が多かったのも印象的 やった。これ以上言わなくてもこいつらはわかってるんだな、 という感じで話すのをやめる場面が。僕らのよろこびが伝わっていたのだろう。

 NHKホールでロックのライヴを行ったのは、甲斐バンドが最初だった。 
 甲斐バンドは今夜その場所で、また心に残るステージをやってのけた。

 

2001年6月30日 NHKホール

 

破れたハートを売り物に 
ちんぴら 
ダイナマイトが150屯 
きんぽうげ 
フェアリー(完全犯罪) 
眩暈のSummer Breeze 
シーズン 
ナイト ウェイヴ 
ビューティフル エネルギー 
BLUE LETTER 
テレフォン ノイローゼ 
円舞曲(ワルツ) 
STARS 
安奈 
裏切りの街角 
LADY 
嵐の季節 
氷のくちびる 
翼あるもの 
漂泊者(アウトロー

 

HERO 
観覧車’82

 

100万$ナイト

甲斐バンド BEATNIK TOUR 2001 ーDo you beat?ー

2001年6月2日(土) 広島アステールプラザ大ホール

 広島市民球場近くの紙屋町で路面電車を降り、しばらく歩いた。アステールプラザ は大きくて新しい、白い建物だった。 
 入ってすぐの広い階段が、大ホールへ続いているらしい。見上げると、たくさんの ファンが階上を埋めている。

 列に並んで入場。入念なカメラチェック。最初にあったCD・VIDEO・DVD のコーナーを覗いてみたが、新譜「夏の轍」は予約を受け付けているだけ。今日並べて ないかなあと期待しててんけど。 
 奥のツアーグッズ売り場は、かなり混雑していた。早く客席に入りたいから、 いつもなら終わってから買おうと思うところや。でも、今日は日帰り。ライヴが終わって から時間がないのだ。列に並び、パンフとフェイスタオルを買う。

 席に戻ると、もう開演時間間近。僕の席は、8列目の左寄りだ。1列ごとの段差が 大きいし、座席も舞台中央に向いていて、見やすそう。演劇でも何でもできそうな感じ の会場や。 
 BGMは、かつての歌謡曲をカヴァーしたようなのが続く。甲斐が ラジオ「21世紀通り」で特集したいと言ってた、あの曲たちなのかもしれない。 
 BGMが終わる度に拍手。アナウンスが開演が近いことを告げ、拍手が大きく なる。

 曲が洋楽に変わった。立ち上がる。客電が落ちる。表のタイミングで、みんな 大きな手拍子。ノリやすい曲や。 
 虹色のライトが降り注ぐ。上の方で小さな楕円形のミラーボールが、 光を反射しながら回転している。 
 舞台左手にメンバーらしき影が現れた。照明が暗くなり、ステージセット手前端 の坂の縁が緑色に光る。その中をメンバーが歩いていく。大歓声や。まだメンバーの 姿は影になっている。 
 BGMが消えた。ビートが生み出される。このリズムは、あの曲や!ギターが かぶさる。まちがいない。東京に出て数年経ってからやっと書けたという、博多のこと を描いた歌。会場じゅうから驚きの声があがる。 
 そこへ甲斐が飛び出してくる。歓声がさらに大きくなる。 
 甲斐はグレーっぽいスーツ。髪は短め。PARTYの頃より後ろが少し長いくらい。 前髪は下ろしている。なんだか、顔も若くてかっこいいぞ。この髪型が似合うねんなあ。 
 マイクスタンドの前に進み、歌いはじめる。 
 「ちんぴら」 
 生で聴くのはKAI FIVEの初期以来や。レコードに近いオリジナル ヴァージョンは初めて。1曲目にやってくれるとは! 
 3段階のコーラスはなく、甲斐は「あーお腹すかした」と歌う。僕は全部歌い たくて、「あー あー あーお腹すかした」と歌う。オーディエンスがコーラスする のだ。 
 甲斐は最初から左右に動きまわる。早くも坂を全部下りてしまいそうや。 そして、声がよく出てる。 
 最後にまた客席と甲斐とで「あー あー あー」と繰り返す。 
 曲のフィニッシュもかっこいい。甲斐のアクションに燃える。めっちゃロック!

 ビートが跳ねている。ジャンプせずにはいられない。 
 同時に僕は、「よっしゃ!」と叫んでいた。「おおっ!」とかはよく口に出る けど、こんなことは初めて。この曲、2曲目にやってほしいと思っててんもん。 
 マイクスタンドの前に立った甲斐が、両手を挙げ、「来いよ」というふうに指を 動かす。みんなの注目を集めると、マイクスタンドを蹴り上げた。 
 「ダイナマイトが150屯」 
 左手にいる一郎が、腕をぐるんぐるん廻しながら弾いている。「ポップコーンを ほおばって」のときのように。 
 間奏で左右に動いていた甲斐が、サビでマイクスタンドに戻ってくる。 
 最後の部分は、かつてよくそうしていたように「ちくしょう 恋なんて 吹き飛ばせ」と歌った。 
 そして、後奏。誰もが期待するなか、甲斐がマイクスタンドを廻す。これがまた、 今までで最高と思えるほどに、よく廻った。何度も何度も回転した。思わず起こる すごい歓声。盛りあがるっちゅうねん!

 照明がつく。「甲斐ーっ!」の叫びが飛び交っている。 
 「甲斐バンドのツアーが始まったよ」 
 みんなが拍手と大歓声で応える。その事実だけで感激やもんな。 
 「今日が初日」 
 それから後ろに下がりかけたが、もう1度マイクスタンドに歩み寄って、 こうつけ加えた。 
 「最後まで楽しんでくれ」

 ドラムとパーカッション。ステージ後方に網の目が浮かび上がり、シルエットと なったメンバーが頭上で手を打っている。 
 ギター。短めのイントロで甲斐が歌い出した。 
 「きんぽうげ」 
 ステージがオレンジに染まっていく。 
 1番と2番の歌い終わり、甲斐が力を込めて身を翻す。そして、マイクを手に 右へ左へと歩いていく。今日は左に来てくれることが多くてうれしいぞ! 
 客席にマイクを向ける部分は短め。3番の多くを甲斐自身が歌って、後奏へ突入。 1曲ごとにちがう、フィニッシュでのアクションがかっこいいぞ!いつもよりいっそう 鮮やかなのだ。

 コーラスの声。あらゆる色のライト。演奏が始まるとさらに、はなやかな色をした 小さなスポットライトがたくさん、辺り一面をまわり出す。PARTYを思い出さずに はいられないではないか。 
 「フェアリー(完全犯罪)」 
 一郎が加入して最初に発表した曲だ。今日はメロディーが心地いい。 
 2番の中盤では、ビートに合わせて、甲斐が胸を撃たれたような動きや、銃弾を 避けるような動きをして見せる。 
 いちばん最後の3連打で甲斐は、回転し、右腕を挙げ、両手を挙げた。

 15年振りのオリジナルアルバム「夏の轍」が出ると、甲斐が告げる。発売は 4日後だ。 
 次に歌うのは、その中からの新曲。 
 「「眩暈のSummer Breeze」をやるぜ」 
 紫の妖しいライトが、曲の雰囲気にぴったり。 
 サビの最後、「ブリーズ」と歌う瞬間に照明が変わり、甲斐が影になる。 
 ツアーに先立って、甲斐はラジオでこの曲をかけてくれた。でも、聴くのは 敢えて数回だけにとどめておいた。生で聴けるであろう今日のために。最初の演奏の 印象を鮮烈にしたかったのだ。そして、実際に体験してみると、「赤く染まった海岸線」 という詞が、甲斐バンドらしく響いた。

 新曲に対する拍手に、甲斐が「サンキュー」と応える。 
 アコースティックギターをかけている。 
 「次にやるのは、直前まで落ちかかってたんだけど。それはやらないとだめだと、 坂井君と松藤に言われて。昔は、言われたら余計切ったんだけど」 
 客席から、「やれ!」と偉そうな声が飛ぶ。 
 「うるさい。殺すぞ」と甲斐。 
 「ごめん」 
 さっきの声の主が、すぐに謝った。 
 「よし。お前が謝ったから、次の曲行ってやる」

 「君たちも歌わないといけないんだよ。知ってた?さっきからけっこう歌ってる ようではあるが。まだまだ」 
 僕はもちろん最初から声のかぎりに歌ってるし、会場全体もよく歌っていると 思う。それでも、煽られたからには、さらに気合い入れて歌ったんねん。

 甲斐のギターとともに、最初の音。続いて、ズズズというリズムが降ってくる。 その周りを、きれいな音が飛んでいる。そして、下からわき上がってくるようなドラム。 
 シングルヴァージョンに近い「シーズン」 
 甲斐といっしょに、コーラス部分も本編も強く歌った。「PARTNER」ツアー のアコースティックヴァージョンが思い出される。 
 音に、歌に、夏を感じた。

 暗転の中、キーボードが少しだけ鳴ってとまる。そして、もう1度奏ではじめる。 ステージ後方から白い光。 
 「ナイト ウェイヴ」 
 間奏で甲斐がステップをとめ、手でパーカッションの方を示す。続いて、ベース。 そして、松藤のドラム。それぞれの楽器がソロを聴かせる。やがてキーボードが豊かな うねりをつくり出す。次はギターだ。左に一郎。右に佐藤英二。それから、あらためて 全ての音が重ねられる。「ああ、バンドや」って感じる瞬間。快感や。

 7曲目に「ナイト ウェイヴ」が演奏されたことに、僕には思い入れがある。 
 84年暮れの大阪城ホール。初めて体験する甲斐バンド。内容を忘れてしまうの が惜しくて、曲順を頭に叩き込みながら見た。「ランデヴー」で幕を開けたそのライヴ の、7曲目が「ナイト ウェイヴ」だったのだ。そして、「ナイト ウェイヴ」を境に、 ステージの流れが変わった。バラードが続き、それから後半の盛りあがりへと突入して 行く。 
 2曲目に「ダイナマイトが150屯」、4曲目が「フェアリー(完全犯罪)」 というのも、あのときと同じや。そして、1曲目の「ちんぴら」にも、84年の 「ランデヴー」と似た匂いを感じる。あの年はアルバムが出なかった年であり、この ツアーと同じように、新しいアルバムの曲をがんがんやるというステージではなかった。 そこでオープニングに抜擢された、以前のアルバムの曲。それも、それまではあまり 目立ってなくて、ライヴでも歌われることが少なかった、だけど多くのファンが愛して いる歌。 
 自分が初めて行ったライヴを思い出して、うれしかった。この曲順、ほんまに 甲斐バンドそのものや。 
 果たして、今日も「ナイト ウェイヴ」の後に変化があった。

 「松藤が歌ってくれる」と言って、甲斐が左ソデへ歩み去る。 
 代わって、松藤がギターを手に、前へやって来る。黒のベスト。「BEFORE  THE BIG NIGHT」で着てたやつ。あのときは、剥き出しの両腕に イラストを描いてた。それがTVに映らないように、甲斐が舞台裏でインタビュー されてる後ろを、腕を隠して通ってたっけ。 
 「行くよ」と、松藤らしいやわらかな声。 
 「ビューティフル エネルギー」 
 2番の途中で、甲斐が戻ってくる。サビを舞台左の一郎のマイクでコーラスする が、あまり聴こえない。間奏の間に、英二や一郎が集まってる右のマイクへ移動。 ほんとは元からこっちでいっしょにコーラスするはずやったんかな? 
 「ビューティフル」「きーんいろのー」というハーモニーが響き、ほかは 松藤がひとりで歌った。 
 「松藤ーっ!」「まつふじさーん!」の声が飛ぶ。

 松藤はドラムセットではなく、パーカッションのところへ行った。パーカッション 奏者がドラムに移っている。 
 彼が骨太なビートを叩き出す。重量感もタイトさもある、絶好のプレイだ。 バラードなのに激しい。この曲の前奏って、こんなふうに演奏することもできてんなあ。 
 「BLUE LETTER」 
 甲斐は「あれたドライブインの」とうたった。 
 白い大きなライト。やがて、後ろから夕陽のようなオレンジが射してくる。 
 「シャツを脱ぎ捨て」のところで、甲斐はシャツのボタンをひとつはずした。

 メンバーが姿を消し、甲斐ひとりがステージに残る。 
 「今回のツアーは(代表曲が多いから)僕らも君たちも楽」とジョークを言って から、「ほんとは、楽をするというんじゃなくて、いっしょに楽しむという、ね」 
 昨日スタートしたばかりの、新しい公式サイトについても語ってくれた。 
 「BBSへの書き込みは、送信する前に1度読んでから。性格が出るからね。 アブナイ感じだと、結局は相手にされない」

 力強く弾くアコースティックギター。イントロのあのフレーズも激しく。 
 「テレフォン ノイローゼ」 
 みんなも大きな手拍子と歌声で応じる。もちろん、コーラスも全部歌い続ける。 「殺すこともできる」は、客席に歌わせてくれた。 
 間奏もすごい!甲斐の指が何度もネックを渡る。見せ場充分、盛りあがる 盛りあがる。 
 最後まで激しく。ラストはあのフレーズで切ってくれた。この終わり方、好きな のだ。

 「リハでやってない曲を」という言葉に、うれしくてみんな拍手。 
 「やってなくても、うまくいかないはずがない」 
 もう1曲アコースティックだ。舞台左のマイクに、松藤、英二、前野選手がつく。 甲斐を含めた4人ともがサングラスをかけている。 
 甲斐がギターを弾き始める。おお、この曲をやってくれるとは!ライヴアルバム では聴いてたけど、ついに生で聴くことができる! 
 「円舞曲(ワルツ)」 
 しかし、すぐに中断。3人のコーラスがよく聴こえなかったのだ。甲斐がマイク のことをスタッフに指示して、再開。 
 前野選手は、2番が終わると舞台左奥のキーボードへ行って間奏を弾き、また コーラスのために急いで前へ戻ってくる。松藤が笑顔で迎えてる。 
 レコードよりも繰り返しの多いライヴヴァージョン。みんなと声を合わせながら も、詞のかなしみが伝わってきた。

 「ここで大森信和を」という甲斐の紹介に、大歓声が捲き起こる。 
 大森さんが現れ、甲斐の右に位置を取る。左には一郎、もちろんドラムは松藤だ。 いよいよ4人が全員そろった。 
 イントロを聴いても、どの曲か気がつかなかった。聴き覚えのあるメロディに 観客から拍手が起きても、まだわからない。 
 「安奈」 
 今まで聴いたどの「安奈」とも全く印象がちがう。リズムが強いのだ。 今ツアーのサブタイトル「Do you beat?」を思い出した。これが甲斐バンド の「安奈」やねんなあ。 
 今夜大森さんが加わって最初に演奏する曲に選ばれた。バンドにとってこだわりの ある歌なのだろう。長岡さんがいた時代の最後の曲でもある。 
 甲斐とギターの2人はイスにすわっている。甲斐はハーモニカを吹き、最後まで 客には歌わせずに自分でうたいきった。

 大森さんにスポットが当たる。あのフレーズを奏でている。客席が沸く。 
 「裏切りの街角」 
 ゆっくりしたテンポで。最後の繰り返しはひときわ粘る。これが、甲斐が言ってた 「味」なのだろう。「甲斐バンド」のプレイなのだ。

 静かだが、劇的な音。緑の光がいく筋も伸びている。 
 「LADY」 
 バラードは、深い痛みと悲しみから、踏み出す勇気、強い希望へと移ってゆく。 緑色のなかで、ひとり赤いライトに染め抜かれた大森さんが、間奏のギターを叫ばせる。 
 危うくはあるけど懸命な決意を、甲斐が歌う。 
 別れの歌が多かった甲斐バンドにあって、ほんとうの愛を手にしているふたりを 描いた歌だと言われてた。今まさにそのことを感じてる。そして、去年のMCの 「熱い恋をしようぜ」という言葉も思い出していた。 
 曲が終わる頃、ステージを照らす明かりは、真っ赤に変わっていた。

 アコースティック ギターからの前奏。 
 「嵐の季節」 
 あついのだろう。甲斐はときどきジャケットをずらせて、肩を出している。 
 僕らは拳を突き上げる。 
 2番の後はサビの繰り返しだ。3回目に甲斐がドラムを制し、オーディエンス だけに歌わせる。そのときもパーカッションは効かされている。このアレンジは 初めてちゃうかなあ。合唱と拳、甲斐のアクション、それらを彩るビート。 気持ちよかったあ。それからもう一度、全ての楽器とともに歌声を重ねる。

 前奏で客席が吼える。 
 「氷のくちびる」 
 ゆっくりめのリズム。曲の後半から燃えあがる。 
 間奏は二人のギターだ。左に甲斐、右に大森さん。甲斐は身体を起こし、きつく 宙を睨んでいる。大森さんは身を沈め、陶酔した表情をうかべている。ファンの間から 歓声がわき起こる。 
 歌い終えた甲斐は、「アアアアアアアアアアアアアアア」と叫ぶ。ファルセット の長い声をあげる。ギターを持ってのフィニッシュのアクションもいいぞ!

 松藤のカウント。音の放出。一郎が跳んでいる。 
 「翼あるもの」 
 熱狂から一転、後奏はゆっくりと。一音ずつ間隔を開けて振り絞る。甲斐が腕を 広げ、それを頭上に差し上げて指を組む。影が甲斐の腕を上っていく。まだ静かな 演奏が続いている。甲斐が身体を前に屈め、伸ばして手を組んだままの両腕を真下に 下げる。やがて上体を起こし、両腕を真横に伸ばす。最後の大きな音が湧きあがる。

 ここですぐに「漂泊者(アウトロー)」! 
 僕は跳ぶ、跳ぶ。「翼」から「漂泊者(アウトロー)」、この流れを望んでたんや! 
 2番の頭、甲斐が舞台左へマイクスタンドを蹴った。飛ばされたスタンドは 弾みながらも、ちょうど一郎の前に、倒れず立った。そして、甲斐も左の前に やって来る。 
 「ひとりぼっちじゃあ」で跳び上がり、拳を上げる。手拍子をする。甲斐に 向かって歌う。 
 この「漂泊者(アウトロー)」で本編は終わる。やっぱりこの曲順はたまらん なあ。めっちゃ甲斐バンドを感じる。

 メンバーが去ると、すぐに速い手拍子や。興奮して、自分の手がとまらない。 もちろん、元からとめる気なんかあるわけないしな。

 大歓声に迎えられて、メンバーたちがやって来る。 
 最後に登場した甲斐は、白いTシャツ姿だ。 
 皮切りのドラムだけでは、どの曲かわからなかった。「おっ!」と思ったとき には、レコードの通りに短い前奏から甲斐が歌い始めた。 
 「HERO」 
 みんなはとっくにこの曲やとわかってたみたいや。すぐに拳を上げて、僕も いっしょに歌う。 
 甲斐はTシャツをめくり上げて歌ってる。ステージの上も熱いんやろう。 
 「月は砕け散っても」の後の間とギターはあった。客席のすぐ前まで来ていた 甲斐が、そこで坂を上り、マイクスタンドを振り廻した。

 メンバー紹介も、シンプルな、甲斐バンドらしいものだった。 
 まずは、キーボードの前野選手!一昨年までのソロツアーに続いての登場だ。 
 「BLUE LETTER」のドラムもよかったパーカッション奏者 JAH-RAH! 
 ニューアルバム「夏の轍」の共同プロデューサーでもあるベーシスト、坂井! 
 「なぜか花園ラグビー場もBIG GIGにもいた。VIDEO見たら映ってるよ」 と告げられた、ギター佐藤英二! 
 それから、以前の楽器に復帰した、甲斐バンドのドラマー松藤英男!松藤はドラム セットをはなれて、前まで出てきてくれた。 
 続いて、「ギター田中一郎!」の声とともに、一郎が右手を上げて前に進み出る。 
 そして、最後に大歓声に包まれたのは、もうひとりのギタリスト大森信和!

 ドラムの音といっしょに、下から虹色の太いライト。上では別の虹色のライトが 回っている。 
 「観覧車’82」 
 間奏の音が豊かだ。甲斐はステージじゅうを動きまわる。 
 続く「若さではずんでた頃の・・・」のところを、「手をのばせば届きそな・・・」 のパートで歌った。そこの詞は2回聴くことができたわけだ。 
 「こらえきれずに」より先に「断ちきれず俺は」を歌ったのも、ニュー ヴァージョンや。 
 後奏で甲斐は、前の左にやって来て、ステージの縁に腰掛けてみせた。 客席に足を垂らして。近くの客が大よろこびや。 
 甲斐はやがて立ち上がり、ステージ右へ歩をすすめる。後方の客席を見て、 手を上げる。ぞくぞくっとした。かつてそうしていたように、左右の客席に手を振り、 お辞儀をしていくのでは、と思ったのだ。あれ、めっちゃうれしかってんなあ。 
 以前のように少しずつ立ち止まって感謝の気持ちを表す形ではなかったが、 客席にアピールし、最後に真ん中で礼をして、甲斐はステージを下りた。 
 甲斐への拍手と声援。そして、後奏は続いている。オーディエンスの手拍子も 続くのだ。 
 最後の音で盛りあがる。ステージ上では一郎と大森さんが、「最後を締めろよ」 というふうに、お互いにうながしている。結局、大森さんが一郎を指差して、 一郎がフィニッシュを決めた。

 今度のアンコールは、ゆっくりめの手拍子。大きく手を叩く。甲斐の名前を叫ぶ。

 美しい調べ。それから、パーカッション。すごい手拍子。白い照明。 マイクスタンドが4つ並べてあった。絶妙のタイミングで、4人がその前に歩いてくる。 大きなアクションを見せたわけでも、観客にアピールしたわけでもない。ただ、 歩いてくるだけだ。でも、それがめちゃめちゃかっこよかった! さり気ないとこではあるけど、名シーンでした。 
 「破れたハートを売り物に」 
 やってくれたか!「「破れたハート・・・」から全てが始まった」という言葉も あった。1986年6月、最後の最後に歌ったのもこの歌だった。 
 左から、一郎、松藤、甲斐、佐藤英二。大森さんは右後ろのポジションだ。 
 甲斐は黒のツアーTシャツ。サングラスをかけていたが、1番で頭に上げて しまった。 
 間奏は大森さんのギターだ。甲斐はその音に聴き入って、身を任せている。 
 曲が終わりに近づいて、暗転。最後は、JAH-RAHがスティックで ビートを叩き出した。

 これでライヴは終わってしまうんかなあ。「観覧車’82」「破れたハートを 売り物に」と続いたし。満足しながらも1曲でも多く聴きたい!という、例の感情が 胸をつまらせる。 
 しかし、松藤がドラムセットに戻っているように見えるぞ。まだ照明は点かない。 もうちょっとの間、点かんといてくれ!あと1曲やってくれ!

 その願いは通じた。 
 悲しみをたたえたキーボード。今はこの音だけを聴いていたい。拍手や歓声で かき消してほしくはない。果たして、会場は静まり返り、存分に聴き入ることが できた。 
 やがて、キーボードのメロディが、あの前奏へと入っていく。 
 「100万$ナイト」 
 世界に入り込んで聴いていた。やっぱり、ものすごい曲や。 
 甲斐の叫び。ファルセット。大きなミラーボールが縦に、横に、速く、光を 振りまわしてる。

 酔いしれている観客たちの前に、甲斐バンドの4人が進み出る。横にならんで 肩を組み、いっしょに頭を下げる。オーディエンスも拍手で応える。「甲斐ーっ!」の 声も、さかんに飛ぶ。 
 何度も手を振ってから、甲斐バンドが左ソデへと向かう。 
 流れてきた音楽は、甲斐の歌声。「また一緒に楽しもうぜ 昔のように」と 呼びかけている。新しいアルバムの曲なのだろう。今夜にふさわしい歌や。

 これこそ甲斐バンド!というステージやった。 
 「ラヴ マイナス ゼロ」の後に「夏の轍」を出して、始まったツアーのよう。 
 甲斐バンドのアレンジ、バンドならではの味がある演奏、甲斐の歌がよく 聴こえるところ。それらがことごとく甲斐バンドらしさを感じさせる。 
 「Do you beat?」っていいセリフやなあって思ってたけど、 そう銘打ったのがうなずける場面が、ライヴ中何度となくあった。ビートを感じたで。 
 甲斐は最近のインタビューで、「甲斐バンドのライヴ盤では「流民の歌」が 気に入ってる」と言っていた。それを裏打ちするように、今日のパ-カッションは よかったな。ウィンドチャイムも印象的やった。 
 サンストで言ってた「海辺の三部作」も、全部歌ってくれたな。「シーズン」、 「ナイト ウェイヴ」、「BLUE LETTER」。

 帰りの新幹線で、パンフレットを読んだ。 
 「ゆっくりとした長いスパンで質の転換を図ってもよかったのだ」 
 86年当時の甲斐バンドについて、甲斐がそう書いていた。これは、もう解散は しない、ということだろう。これからは甲斐バンドを続けて行くという宣言ではないか! 
 うれしいなあ。今夜のライヴで、これは一時の再結成ではなく、甲斐バンドは これからも続くんやと確信したけど、やっぱりそうなんや!甲斐バンド完全復活!

 新大阪から急いで帰り、「21世紀通り」の放送に間に合った。 
 甲斐がこの日最初にかけたのは、「アナログ レザー」。ライヴ終了後に 流されたあの曲だった。 
 また一緒に楽しもうぜ!

 

2001年6月2日 広島アステールプラザ

 

ちんぴら 
ダイナマイトが150屯 
きんぽうげ 
フェアリー(完全犯罪) 
眩暈のSummer Breeze 
シーズン 
ナイト ウェイヴ 
ビューティフル エネルギー 
BLUE LETTER 
テレフォン ノイローゼ 
円舞曲(ワルツ) 
安奈 
裏切りの街角 
LADY 
嵐の季節 
氷のくちびる 
翼あるもの 
漂泊者(アウトロー

 

HERO 
観覧車’82

 

破れたハートを売り物に 
100万$ナイト

甲斐よしひろ 新世紀前夜 SPECIAL GIG ”MY NAME IS KAI” ーENCOREー

2000年12月30日(土) サンケイホール

 3階にあるホールから、ビルの玄関まで長い列が続いていた。僕は3階で、 さまざまな甲斐ファンたちを眺めながら待つことにした。2時間しか寝ていないが、 眠気などない。燃えているのだ。 
 あんまり列が伸び過ぎたためだろうか、開場時間の10分ほど前に扉が開放 された。こんなこと、初めてや。 
 ロビーに入るとすでに、グッズ売り場はすごい人だかり。どんなものが 売られているのか見ることもできなかった。

 僕の席は、C列5番。3列目の左から4番目だ。 
 が、あえて右の通路から会場内を行く。できるだけ全部味わいたいやん。 
 真ん中にミキサー卓。その右端には、ノートPCのようなものが載っている。 こういうの前からあったかなあ。きっと、どんどん進化してるんやろうな。 
 いちばん前まで行って、じっくりステージを見ながら左へ。このセットから したら、今夜も松藤来てくれるみたいや。

 「間もなく開演時間ですから、お席にお戻りくださーい。終演後もグッズの販売 ございます」 
 係員が呼びかけている。 
 僕は座席で、7月と同じ「アイズ ワイド シャット」の曲を聴いている。 
 BGMが1曲終わるたびに、拍手をする。「甲斐ーっ!」と叫ぶ。やらずには いられない。開演前からたくさん声が飛んでて、いいぞ。立ち見のお客さんもいっぱい や。 
 ブザーが鳴って、場内大拍手。開演のアナウンスが終わると、さらに 「甲斐ーっ!」の声が多くなる。拍手が高まり、手拍子が起こる。 
 あの曲が鳴り出して、僕はすぐに立ちあがった。やはりオープニングBGMも 7月と同じやった。今日はギターの音の方が印象的や。アコースティック ギターだけ のライヴにふさわしい。 
 みんな立っている。ピアノの音が迫ってくる。いつの間にか暗くなっていた。 客が手を打つ音。「甲斐ーっ!」の叫び。

 舞台左手にスポットライトが伸びたとき、僕の席から甲斐の姿を見ることは できなかった。真ん中と右の客席が沸いている。 
 やがてマイクスタンドの前に歩んでくる甲斐が見え、僕ら左前の客たちも歓声を 放つ。 
 甲斐は焦げ茶色のスーツ。今日もサングラスをしている。ギターはもう肩に かけていて、「サンキュー」と言って拍手と歓声に応えてから、それを力強く 弾きはじめた。

 「ブライトン ロック」 
 やっぱり1曲目はこれで来たかあ。アコースティック ギターでロックする この形が確立されてるもんなあ。めちゃめちゃ格好いいのだ。 
 「Ah 凍りついたお前の鼓動」のとこから僕は、手拍子して歌うだけじゃ なく、足を踏み鳴らし頭を振った。どでかいスピーカーの前やから、振動でジーパンが 震えている。「オーイェー」で右の拳を突き上げ、固く握り締めた。手拍子にもどり、 「甲斐ーっ!」と叫ぶ。すぐに2番へ突入だ。 
 甲斐は「さびついちまった 二人の鼓動」と、新しい方の歌詞で歌う。 
 2番後の間奏は長く弾いてくれる。あの高らかな前奏の音、このツアーを 象徴するようなあのフレーズも姿を見せる。 
 「ブライトン ロック、答はどこだ」は今日も歌われない。何度も 「オー イェー」と繰り返す。生ギター1本とは思えない骨太さでフィニッシュ!

 甲斐が、ステージ左寄りに置かれたテーブルに近づく。こちらから顔がよく 見える。 
 準備を終え、中央に戻って奏ではじめたのは、静かで、しかし野性的な雰囲気を 漂わせる曲。明らかに前ツアーの2曲目「三つ数えろ」とはちがう。でも、どの歌かは わからなかった。 
 甲斐が歌い出すと、歓声が起こる。僕は一瞬気づくのが遅れた。まさかこれを やってくれるとは。 
 久々、甲斐バンド解散の大阪城ホール3日目以来の「デッド ライン」や。 
 演奏が激しくなり、「これから先は 果てない闇の淵」へ。 
 「15の街抜け40時間」のところで、不思議な感覚に襲われた。頭の中でCD ヴァージョンのドラムの連打が聴こえるのだ。しかし、今実際に目にし、耳にしている 甲斐のギターにも完全に満足している。この二つが同時に起こるのだ。これも 「MY NAME IS KAI」の醍醐味や。間奏をはさんだ後の「シートベルトは セットアップ」でも、同じことが起こった。 
 演奏がまた静かになっていく。甲斐は「トゥントゥトゥントゥトゥントゥ トゥントゥトゥトゥトゥ」と口ずさみ、それから「ウォーオオ ウォーオオ」と レコードのラスト部分の叫びをやってみせる。 
 ギターだけでここまでできるなんて。前のツアーで痛感したはずやのに、 またもや思い知らされた。

 「サンキュー」と声援に応えてから、短いMC。 
 「25年をひとくくりして、26年目を見せるには、ということで1人で やってます」 
 「同じパッケージのアンコールツアーというのは、初めてなんで」

 ハーモニカとギターで「港からやって来た女」 
 左端に近い席からなので、甲斐の右半身がよく見える。身体のどこに力を入れ ているか。間奏を終えてマイクスタンドに寄るときの感じ。正面からでは気づか ないことが伝わってきた。 
 いつものように、3番に入るところは静かに弾く。「み、見つーめ」という うたい方も。激しく転じるポイントは、これまでよりちょっとだけ遅く。 「まだ待あーってるのさー」の「あ」のあたりから。 
 「フーッ!」は今日も2回やることができた。

 紫のライト。甲斐の大きな影が会場右側の壁に映っているのが見える。 
 弾むギターは、「一世紀前のセックスシンボル」 
 2フレーズ目を、「キャメロン・ディアス 叶姉妹にも負けやしない」と歌い、 「言ってやったぜ」というふうに口を開けてみせた。 
 「手管は10万馬力さ」のところは、「BIG NIGHT」ヴァージョンと ちがって、オリジナル通り。 
 2番が終わるとギターを止め、観客の手拍子に任せながら「酒場の外は  太陽がギラギラ」と歌う。次第にギターを加えていき、「OH YEAH ,  OH NO」と歌って、軽快に身体を揺する。「BIG NIGHT」ツアーで 踏んでたステップを思い出したなあ。

 「ここは因縁のホールで」と、かつて甲斐バンドのライヴで、前から5列分 ぐらいの床が沈んでしまった話。長らく出入り禁止になっていたらしい。 
 「国際フォーラムとかより、このツアーはこういう感じのホールが合うかなあ と」 
 これまでにないというほどギターの練習をして、「マイクスタンドの蹴り方を 忘れてしまいそうなくらい」と笑う。 
 リハーサル期間に、「本番をやってしまうのがいちばんいいわけだから」と、 夏にフリーコンサートをやった沖縄・宮古島でシークレット ライヴをやったそうだ。 今度は野外ではなく、ライヴハウスで。行きたかったなあ。 
 シークレット ライヴのはずが、でかでかとポスターが貼られ、 地元紙の1面を飾り、TVでも告知されていた、というのに笑った。「お忍びで シークレット ライヴ」って書いて知らせるって、どんなポスターやねん。

 夏のツアー前に最初に練習したというのが、次の曲。夏のツアーでは季節に 合わないと、前回ははずされた歌だ。 
 弦を1本ずつ弾いて、レコード通りの音を出す。しかし、ちょっとミスして しまい、最初からやり直し。2回目も行けそうやったけど、気に入らないようで、 やめてしまった。 
 「「かりそめのスウィング」という曲をやります」と言って拍手を浴び、 気をとり直してから、3回目。 
 イントロのあのフレーズを弾いてから、ストロークへと移行。歌が近づくに つれて盛りあがり、客席の手拍子もさらに大きくなる。 
 いい演奏やったなあ。

 右上からの白い光が甲斐を射つ。ギターを弾く甲斐の顔が、逆光で影になる。 この画はいいジャケットになるなあ、と思った。 
 その中を「昨日鳴る鐘の音」 
 「僕の前に 僕の荒野と海が 果てしなく 続いている」 
 孤独を見つめた詞、自分と向き合った歌。涙が出てくる。この歌、ほんまに 好きや。自分の支えになる。 
 レコードより、ゆっくりめのリズム。「それもいいさ」「僕を友として  歩きはじめる」のところで、ギターの音を減らす。 
 甲斐が間奏で身体を少し引くと、顔が見えるようになる。うたいはじめると、 また影になる。 
 闇と光のなかで聴く「昨日鳴る鐘の音」。世界にひたった。

 甲斐が松藤を呼び入れる。「松藤ーっ!」「まつふじさーん」の歓声。 
 ギターを受け取った松藤は、甲斐の右側やや後ろのイスに腰を下ろす。 
 松藤がギターを弾きかけたところで、「まつふじさーん」という声が飛び、 甲斐が演奏をとめる。もう1度改めて松藤の紹介。大きな拍手が贈られる。

 海を思わせるあのレコードの音を、松藤が奏でる。甲斐のギターが入る。 この曲の前奏を、アコースティック ギターで表現するとは。2回ずつ弾かれ合う メロディーが、曲名を告げている。 
 「ナイト ウェイヴ」 
 きれいな水色のライト。「ナーイト ウェーイヴ ナーイト ウェーイヴ」 の大合唱。甲斐と僕ら客席は、その後を「ウーウーウーウーウーウーウーウウー」と 続け、その間松藤は「ウーーーーウーーーーウーーーー」とコーラスしている。 
 2番が終わったところで演奏が静かになっていく。甲斐が微かな高い音を 弾いて、曲を飾ったりする。観客の手拍子も弱まって、やがてとまった。そして、 甲斐が「波に落ちてく ふたつの木の葉ー」と歌っていく。 
 最後のサビの前で甲斐が「来ていいぜ」と示し、ふたたび大合唱へ。

 汽車が走る音を、2人のギターが刻む。休符のところで、甲斐が左手の指先で ギターを2回叩き、松藤に次入るタイミングを知らせている。 
 またギターの端を2回叩いてから、甲斐がうたう。「1番目の汽車が来たら」 
 「二色の灯」 
 この歌には胸を絞めつけられる。 「行かないで 行かないで」と松藤のコーラス。 
 2番のサビでは、コーラスが入る部分が長くなる。甲斐が切ない声をあげる。 
 最後の音を弾くとき、松藤の視線が甲斐の指をとらえているのが、自分の 正面に見えた。明かりは歌のとおり、青と赤の二色に変わっていた。 
 こういうバラードに聴き入ったあとは圧倒されて、「甲斐ーっ!」と叫ぶことが できない。ただできるだけ強く拍手するのみ。 
 うたい終えた甲斐も、「この歌うたってると、入り込んでしまう。今気持ちが あっちの方へとんでた」と、右手の指で左客席上空のあたりを差した。

 「名刺代わりの1曲っていうやつを」 
 「HERO」やってくれるとはちょっと意外やなあと思っていると、 「かなり久しぶりにレコードと同じキーで歌うんだ。24年ぶりくらいかな。 やってみると、歌いづらくておどろいた」と付け加えられた。 
 じゃあ、「HERO」じゃないねんな。「安奈」でもないぞ。

 松藤が弾き始めたのは、「裏切りの街角」のイントロやった。 
 なるほど、これまでのステージで聴いてきた「裏切りの街角」より、少し低く うたってるみたいや。 
 ヴォーカルの低さに注目しながらじっくり聴いていると、2番の後でメロディー が変わった。 
 「シールクーの髪を 指で さぐりながーら」と松藤が歌い出して、会場が 沸く。 
 「ビューティフル エネルギー」 
 そうや。前回のツアーでも、「裏切りの街角」から「安奈」へ、メドレーに なったんやった。このライヴが近づいてから、前ツアーの曲順は意識して思い出さない ようにしてたから、僕には新鮮な驚きやった。 
 1番の中盤から、甲斐が歌う。松藤はコーラスに。そして、もちろんみんなも 歌ってる。やわらかに、声を合わせて。 
 繰り返しが短い、新たなショートヴァージョンやった。これがまた、 アコースティック ギターで歌うのにはまっててんなあ。

 今夜もっとも長いMCは、松藤と亀和田武といっしょに、国立の山口瞳ゆかり の地を訪ね歩いたときのこと。O・J・シンプソンに判決が下された日のアメリカに まで、話が及ぶ。 
 山口瞳の本が読みたくなった。国立にも興味がわいてくる。

 「明日はこのままこっちに残って、大阪ドームで桜庭の試合見ようか迷ってる。 おせち料理はもう頼んであるんだ」 
 そのまま博多風雑煮の話題に行くかと思った。サンストみたいに。

 週刊誌で小林信彦がほめてたから、「ケイゾク」の再放送を1回目から見てる という。竜雷太と「引っ越しのサカイの男」による駄洒落のシーンが毎回あるらしい。 俺も「ケイゾク」見ることに決定。 
 それよりも、甲斐がずっと小林信彦が書くものを読んでいるとわかったのが、 収穫や。「甲斐よしひろが選んだ100冊」にも、「日本の喜劇人」が入っている。 僕も好きな本や。続編の「喜劇人に花束を」も読んだ。これからも、小林信彦を 追いかけよう。

 「こうやって立ってしゃべって、水飲むだろ?何か、講演やってるような気に なってくるんだよね」と笑う。 
 「甲斐よしひろ一人会」とつぶやいたのには笑ってしまった。ここは、大きな 落語会にもよく使われるホールなのだ。枝雀さんの独演会や米朝一門会を、僕も見に 来たことがある。

 松藤の「ナイト ウェイヴ」の前奏が、リハーサルでずっとやってきたのとは ちがうアドリブだと明かされる。

 このツアーのVIDEOについては、「時代と逆行してるって非難浴びそうな 白黒」 
 でも、もちろん本当は井出情児の撮影に全幅の信頼を置いているのが感じられる。 
 「そのとき撮った写真も、たくさんあるんで」 
 写真と楽譜をつけて、3月にこのツアーのCDを出すという。めちゃめちゃ うれしい!

 前ツアーのMCを受けて、「酒飲むんだったら煙草やめるとか、何かひとつ 我慢しなきゃ」

 「年をとる、と思うからだめなんだよ。キャリアを積むんだと思えば、楽しい。 年なんて関係ないよ」

 ステージの上で、火がゆれている。うたがはじまる。 
 「甘いKissをしようぜ」 
 甲斐が腰の高さで手を打つ。ときには、マイクスタンドを包むように。 
 「甘い大人になってさ いろんなもん削って つまんない顔していちゃ  お前にあえない」 
 もちろん。わかってるで。そんなふうにはなれへん。

 「against the wind」 
 いつも以上に沁みてくる。めずらしく忙しい日々が続いてたから、少し 疲れていたのかもしれない。自分でも気がつかないうちに。 
 甲斐のうた。詞。松藤のコーラス。「くちおしいこと」という言葉の響き。 後奏でささやく甲斐の声。 
 この曲、必ずCDにしてほしい。ほんとうにそう思う。

 深碧の海の底から、あぶくといっしょに浮かんでくるような音。静かな前奏や。 
 どの曲なのかわからない。 
 「とある小さな 海岸沿いの町」 
 それは、「PARTY」ヴァージョンの「BLUE LETTER」やった。 
 甲斐の厚みのある、それでいて澄んだ声が、客席の上にのびていく。その歌と、 ハーモニカの音を、ただじっと聴いていた。

 松藤が送り出されて行く。 
 ステージには、ふたたび甲斐が一人。 
 速く激しいストローク。この場面はやっぱりこの歌や。 
 「冷血(コールド ブラッド)」 
 「1時間前の彼女が 電話で言った嫌な筋書き」と歌ったように聴こえた。 2番のサビ前も、「彼女は横たわる」と歌う。3番の途中にも間奏があった。その日 その時によって、いろんな歌われ方があるのだ。 
 フィニッシュでものすごい歓声と拍手。すさまじい。

 その勢いのまま、短い前奏で「観覧車’82」。ここへもって来たか! 
 客の声がすごい。途中で弦が切れたけど、甲斐がギターを代える間、 「俺はお前を抱きしめー 二度と離さないと かたく 心に決めた」と大合唱。 もちろん僕も、声のかぎりに歌った。マイクスタンドの前に戻った甲斐が、 「サンキュー」と言って間奏を弾き始める。 
 「胸に こみあげる 狂うような想い」のときに、白い光。今日も「想い」が 先で、「何か」が後だ。 
 そして、あの叫び。甲斐といっしょに。また、甲斐がギターをとめ、客席 だけで。 
 「ウォーオオオオオ ウォーオオオー ウォーオオオオー」 
 何度も「ワン モア タイム!」と言って、客に長く歌わせてくれる。最高や。 甲斐とオーディエンスが一体となっている素晴らしい時間。 この歌が好きでよかったあ!

 いつもより力強いギターで、「風の中の火のように」 
 「君」「僕」という呼び方が、真摯さを印象づける。 
 間奏が高まり、バンドヴァージョンでは叫ぶところで、ハーモニカが入る。 
 エンディングに向かって、照明が赤くなっていく。

 「漂泊者(アウトロー)」 
 「世界中から声がする」から熱狂。僕は思い切り歌う。声なんか、とっくに かすれているけど。ここで声を出し切れへんかったら、俺の20世紀は何もなかった ことになる。そういう思いに突き動かされた。 
 「誰か俺に 愛をくれよ 誰か俺に 愛をくれ」 
 アコギ1本でも、「ひとりぼっちじゃあ」で高く跳ぶ。右の拳を突き上げる。 
 断ち切るのではなく、音がふたつ弾んで果てた。「漂泊者(アウトロー)」の 新たなフィニッシュや。

 甲斐が、客席から飛び交う声に「サンキュー」と言って応え、それから 「最後の曲になります」と告げる。 
 本編が終わってしまう寂しさより、今は熱さの方がうわまわってる。

 「翼あるもの」 
 細かく、とても強い手拍子。拳。 
 ラスト。スピードが緩まっていく。1音ずつの間隔が長くなる。最後の音が 鳴らされ、みんなが拍手をする。 
 そのとき、またギターがかき鳴らされ、「翼あるもの」のほんとうの エンディングが湧きあがる。歓声がひときわ大きくなる。

 前に進み出た甲斐が客席に向かい、何度も手を上げてから、ステージを去る。 
 すぐに速い手拍子。このツアーは特に、アンコールが熱い。「甲斐ーっ!」と 叫ぶ声。

 ステージに白い光。その明るさの中へ、甲斐と松藤。 
 「今日はみんな来てくれて、感謝してる。サンキュー。 こんなに感謝してるのに、つい悪態をついてしまう」

 白いシャツの甲斐。後ろ向きにギターをかけている。あの曲や。 
 「熱狂(ステージ)」 
 甲斐の声。しっとりと。 
 サビの前から演奏が大きくなる。「次の街へーー 次の街へ」松藤もコーラス。 
 やはり、「今夜のショーは 素敵だった」とうたわれた。 
 後奏。2本のギターの音が小さくなっていく。照明が消える。曲を終わらせる タイミングをはかっていた甲斐は、最後の音を松藤にまかせた。

 甲斐がサングラスをはずしている。 
 「最後の夜汽車」 
 「スポットライトは どこかのスターのもの」 
 うたいながら甲斐は、のばした右手で客席の彼方を指差す。 
 「降りそそぐ白い 月明かりにさえ」では、両手を掲げる。 
 今日は2番の詞が痛い。 
 最後のハーモニカに入る前、甲斐はそれを1度小さく吹いた。そして、 ハーモニカの上下を反対にしてから、あのメロディーを奏でた。 
 演奏が終わり、舞台が暗くなる。甲斐は2・3歩後ずさりして、それから おじぎをした。

 先に松藤が姿を消す。 
 しっかり声援に応えてから、甲斐もステージを下りる。 
 また速くて強い手拍子。続く。何度も「甲斐ーっ!」と叫ぶ。会場全体の 手拍子が重なる。

 甲斐が現れて、大歓声。一人であと1曲やるんやろうと思ってるところへ、 松藤も登場。新たな歓声が沸く。 
 「30日だというのに。サンキュー」と甲斐。

 曲をはじめた松藤を、甲斐がとめる。 
 「もっとノッてから、やろう」 
 じっくり聴く構えになっていた客席を、「メンバーの紹介を。松藤英男!」と 言って、沸かせる。 
 そして、もう1度演奏がはじまる。

 「安奈」 
 いい歌やなあ。希望へと向かって行く詞。やわらかなメロディー。あたたかい 声とライト。 
 「安奈 お前にあいたい」は、客席にうたわせてくれた。 
 愛するひとのもとへ旅をはじめる。今夜は、その部分が胸にひろがった。 こういう歌やってんなあ。甲斐の歌には悲しいものが多いけど、「安奈」はこんなにも しあわせな歌やったんや。ハートがみたされている。 
 21世紀に向けて、20世紀の最後にうたわれるのにふさわしい。

 大きな拍手と歓声のなか、松藤が帰っていく。 
 甲斐がすぐにギターを弾きだした。「安奈」でしめくくるもんやとばかり 思っていたけど、まだうたってくれるんや! 
 しかも、この曲は、「吟遊詩人の唄」! 
 甲斐が10代の頃、好きだったメロディーに詞をつけたもの。好きで好きで 歌いこんでいるうちに、自分がこの曲を書いたような気にさえなったという。 
 「そうさおいらは 君を探し歩く 愛を奏でながら 街から街へと」 
 「すべての人よ 思い出しておくれ 苦しいときや悲しい ときのために  人生につきものの うそやいつわりなどは 何もないこのあわれなギター弾きの 唄を」 
 詞も今世紀最後を飾るのに、すごく合っている。希望を抱いて次の世紀へ。 
 しかも、みんなで大合唱。これ以上のことはないよなあ。 
 サビを歌っている最中に、弦が切れてしまう。僕らは演奏なしで歌い続ける。 
 「そうさおいらは 君を探し歩く 愛を奏でながら 街から街へと」 
 甲斐が新しいギターで、歌を続けられるタイミングで入ってくれた。いっしょに 何度も繰り返す。 
 「そうさおいらは 君を探し歩く 愛を奏でながら 街から街へと」

 演奏を終えた甲斐が、ギターをスタンドに立てかける。しかし、ギターは倒れて しまう。甲斐は、スタンドをステージの隅へ蹴飛ばしてみせた。「ヒューッ!」と 歓声があがる。前へ出てきた甲斐が、オーディエンスに手を振る。 そして、「甲斐ーっ!」の声を浴びる。

 甲斐が左のソデへ去り、客席は熱い手拍子を始める。けれど、BGMが流れて きた。これで今夜のライヴは、ほんとうにおしまい。 
 BGMにのせて、みんなで「甘いKissをしようぜ」をうたう。ライヴの余情 の残った、穏やかであたたかな声を合わせる。これがまた、いい感じ。

 満足や。甲斐が「今夜のステージは長くなってしまうかもしれない」とか 「3時間行きそうだ」なんて言うたびに、「このまま来世紀までやってくれ!」と 願ってたけど。いいライヴやったあ。 
 「昨日鳴る鐘の音」「観覧車’82」「漂泊者(アウトロー)」、今夜特に 感動した歌がよみがえってくる。 
 ライトで青い影ができた甲斐の横顔。バラードの静けさを破るように大きく ハーモニカを鳴らす甲斐と、それに触発されて松藤がギター弾く手に力を入れた瞬間。 激しい曲が終わり、客が拍手した後で、「ザカザン!」ともう1度鳴らされたギター。 弦が切れたギターを交換してから、マイクスタンドの前へ戻るときの、少しだけ急いだ ステップ。バラードの後奏で甲斐があげる、切ない声。 
 さまざまな場面が、僕に焼きついている。世紀の終わりにまた大切な思い出が 増えたな。

 ロビーに出るとき、何度も振り返って、ステージを見た。左右にひとつずつ、 火がゆれていた。僕の席からは見えなかった左端にも、火があったんやなあ。 
 もう1度「甲斐ーっ!」と叫びたくなった。でも、やめておいた。僕らの気持ち は甲斐に伝わってるはずや。そう思えたから。

 

2000年12月30日 サンケイホール

 

ブライトン ロック 
デッド ライン 
港からやって来た女 
一世紀前のセックスシンボル 
かりそめのスウィング 
昨日鳴る鐘の音 
ナイト ウェイヴ 
二色の灯 
裏切りの街角 
~ビューティフル エネルギー 
甘いKissをしようぜ 
against the wind 
BLUE LETTER 
冷血(コールド ブラッド) 
観覧車’82 
風の中の火のように 
漂泊者(アウトロー) 
翼あるもの

 

熱狂(ステージ) 
最後の夜汽車

 

安奈 
吟遊詩人の唄

My name is KAI 一人きりの甲斐よしひろ

2000年7月15日(土) IMPホール

 KAI FIVEファーストツアー以来の、IMPホール。開場時間の前に行くと、すでに 多くのファンが集結していた。当日券を求める列もできている。今日のチケットは完売 やったけど、当日券出ることになってんな。よかった。甲斐のライヴ見たいのに断念し なければならないという人が、これで少なくなるもんね。

 開場されると、まずはグッズ売り場へ。 
 Tシャツは2種類。どっちもデザイン気に入った。ところが、Mサイズしかないという。 めっちゃショック。身体のでかいファンのこともよろしく頼むで。

 客席に入る。オールスタンディングにもできるホールだが、今日は全席指定。イスが ならんでいて、真ん中から後ろには段があった。当日券のファンたちは、いちばん後ろの スペースに立つようだ。 
 僕の席は、CC列の真ん中あたり。チケットが届いたときは、どのへんなのか わからずに心配やったけど、AA列、BB列、CC列・・・は、A列より前にあった。つまり、 僕の席は前から3列目だったのだ。やったあ!

 自分の席に着いた瞬間、「アイズ ワイド シャット」の曲が流れはじめた。ニコール・ キッドマンが鏡の前に立ってるシーンで使われたやつだ。去年は「2001年宇宙の旅」と 「時計じかけのオレンジ」やったし、今回もキューブリックできたかあ。 
 ライヴに通いはじめた頃、開演前の場内に流れていた「ブレードランナー」のテーマ が印象的やったこともあって、ステージが始まるまでのBGMも毎回楽しみにしているのだ。 
 特に、このツアーは「My name is KAI」と題されている。去年のイギリス映画の 秀作「マイ ネーム イズ ジョー」から取ったのだろう。いい映画やったもんなあ。タイトル に込められたものも胸に響いた。 
 5月に出たVIDEOのタイトル「STORY OF US」も、ロブ・ライナーの映画 「ストーリー オブ ラブ」の原題だ。「US」という言葉が、甲斐と、バンドのメンバー、 スタッフ、家族、オーディエンスを指しているのだなあ。 
 これは、今回も映画音楽がオープニングBGMに使われそうではないか。

 舞台の上では、ツアーTシャツを着たスタッフが準備をしている。 
 中央に、マイクスタンド。その左後ろに小さなテーブル。後ろには、2本のギターが 立てかけてある。ステージの右の方にもマイクが用意されている。 
 小さな円いライトが、いちばん前の上方にならんでいる。アコースティックのライヴ やから、ライティングもこれまでのツアーとは変わるんやろうな。左右の端から中央を 向いている大きめの照明を見つけ、2つの真っ赤な光の帯の中で「愛と呼ばれるもの」を うたう甲斐を想像した。 

 ピアノの曲。それまでのBGMより大きな音で。これが今日のオープニングにつながる 音楽にちがいない。緊迫感を高めていく旋律。ライヴ開始寸前の緊張と興奮が増幅されて くる。何に使われていた曲なのか、僕にはわからない。客電が落ちた。立ち上がる。 アコースティック ギター1本のライヴだろうが、立つのだ。一昨年のGUY BANDライヴで 甲斐自身が、アコースティックでも最初から立ってほしいと言ったのを聞いている。 
 曲が聴こえなくなった。いきなり、ステージの左端にスポットライト。甲斐の姿が 浮かびあがる。 
 拍手と「甲斐ーっ!」の声。こういうスタイルのライヴで立っていいのか迷っていた 人たちも、みんな立ちあがる。 
 甲斐は、ステージ後方のギターを1本手にする。黒いスーツ。茶色で、カールさせた 髪。四角いサングラス。 
 マイクスタンドの前の、立ち姿がいい。シンプルな白い照明のなか、サウスポーの ギターをかき鳴らしはじめる。 
 激しい曲だ。手拍子が起こる。だが、どの歌の前奏なのかわからない。 
 「今 銃撃の街のなーか」 
 僕は感激と興奮で跳びあがった。 
 「ブライトン ロック」や! 
 「俺の導火線に火がついて」からのサビでは、ギターの音をかすれさせる。甲斐が 「オーイェー」と叫んで1番が終わると、大歓声。 
 2番の後には長い間奏。たっぷりと聴かせる。甲斐のギターは大好きや。高音の ストロークが続いてから、低音へ。そこから低い音を使った間奏が展開するのかと思った 途端、「ああ 土砂降る雨の 轍の中に」に突入。 
 後奏で「オーイェー」と何度も叫ぶ。「ブライトン ロック、答はどこだ」とは歌わない。 ラストもギターを激しく鳴らす。バンドで曲をフィニッシュさせるときと同じだ。アコースティック の大人しさなどない。ロックなのだ!

 歓声を浴びながら、甲斐はギターを、立てかけてあったもう一方のものに換える。 
 高い音の前奏。これも、甲斐が歌い出すまで、どの曲かわからなかった。 
 「三つ数えろ」 
 やはりマイクスタンドの前に立っている姿がいい。スーツのボタンはきっちり留めてい る。真っ直ぐに立ち、ギターを弾き、引き締まった表情で、あの歌声で、言葉を投げつける。 
 白いままのバックに、甲斐の影が写っていることに気がついた。甲斐とその影を 見ながら、「三つ数えろ」を聴き、手拍子をし、歌いまくる。生の楽器に合わせて歌うのは、 ただでさえ気持ちいいもんや。それが、今夜は甲斐がギターを弾いていて、いっしょに 歌うのである。最高の気分や。甲斐が自分のためにギターを弾いてくれていると 錯覚しそうになる瞬間さえある。 
 今回は、オリジナル通り「いつも路上に転がってるさ」と歌った。

 「サンキュー」の言葉から、MCがはじまる。 
 声を張って、めずらしく気負ったような語り口だ。観客の勢いに圧倒されまいと、 勝負に出ているような。 
 「25年分を歌い上げ、26年目の甲斐を見せる」ツアーであり、「初めての オーディエンスの前でやる気持ちで歌う」と告げる。 
 「ロックと語らいの夕べ」とも言って笑わせていた。やはり、今日はたくさんしゃべって くれるようだ。ツアー前の甲斐の発言や、ライヴ告知の文章からして、「サウンドストリート」 みたいに話してくれるステージになりそうやったもんなあ。GUY BANDの初ライヴでも、 たっぷりMCしてくれたし。 
 アコースティックでもいつものように立っている客席に向かって、「最初から立つな よな」とも言ってみせたが、明らかにうれしそうや。

 今度の前奏は低音だ。 
 「港からやって来た女」 
 「お前を 忘れ られず」や「髪を 振り乱し ながら」の後に、ジャン!とギターに アクセントをつける。ハーモニカもいい。 
 「GUTS」のツアーあたりでやっていたように、3番の前半は静かに演奏。 「み、みつーめー」という歌い方もした。そして、「まだ待あーってるのさー」から 再び力強いノリに。 
 甲斐が後奏を弾きながら、「カモン!」と客席に呼びかける。そうか、いつもは 身振りで示すけど、今日はそれができないのだな。 
 「バイン、バイン、バイン!」 
 「フーッ!」 
 指を立てて2回突き上げた。アコースティックでこれができるとは。めっちゃ うれしい。 
 ストロークがだんだんゆっくりになって行き、フィニッシュ。

 一瞬「胸いっぱいの愛」か?と思ったが、やがて気がついた。 
 「観覧車’82」 
 下手なギターを弾いていた高校生の頃、この曲をこのリズムでやっていた。 もちろん、甲斐のように弾けたわけではなく、前奏がちょっと似ていただけのことだ。 それでも、あの頃が思い出されて、感慨がわいてきた。 
 肌色のライト。今日初めてステージに色がついたような気がする。 
 「雨 の 日 に ふ たり 式を あ げた」 
 甲斐は、ことばを切るように語尾を少しはずませた。 
 アコギ1本とは思えないような豊かな音だ。間奏もみんなで盛りあがる。 
 もちろん後奏でも、「ウォーオオオオオ ウォーオオオー」の叫びを繰り返す。 その時、弦が切れてしまった。甲斐がギターを弾けなくなり、演奏が消える。けれど、 客席の叫びは途切れない。甲斐がギターを取り換える間も、音楽なしで 「ウォーオオオオオ ウォーオオオー」と歌い続ける。甲斐が新しいギターを弾き始め、 もう1度「ウォーオオオオオ ウォーオオオー」の大合唱へ。 
 甲斐とオーディエンスがいっしょにステージをつくっていると感じられた。 うれしかったなあ。

 曲が終わって消えたライトが再び甲斐をとらえると、 「命あるものは死ぬ。弦があるものは切れる」と一言。 
 「弦切れたって、どこで止めるかじゃなくて、どこで入るかだもんね」と、今日の客に 感心したような言い方をする。うれしくなって客席が拍手。

 「さっきの「港からやって来た女」は、神戸で書いたんだ。メリケン波止場という ところのバーで。いい女がいて」 
 そして、次は福岡の街を書いてる曲をやるという。このMCから僕の頭に浮かんだ のは、「ちんぴら」だった。

 一音ずつ弾いていく前奏。「そばかすの天使」や。 
 しかし、甲斐は、うたいはじめる前にギターをやめる。指がすべりやすくなっていた という。万全を期して、もう一度。 
 やっぱり「そばかすの天使」やと思った。不意を突かれた。 
 その歌は、「東京の一夜」だったのだ。 
 痛すぎるほどの詞が、胸をしめつける。今日は「僕は 僕だけのために  ただ生きようとし」とうたった。 
 後奏。ハーモニカ。甲斐は「あーあー」というせつない声をあげる。松藤がいっしょに コーラスしているみたいに響いた。

 インターネットについても語る。 
 公式サイトのBBSは、しっかり読んでくれていて、 「中途半端なやつが中途半端に書き込むと、こういうふうに錯綜するんだな」とわかった という。「完全に、人間性が出るからね」 
 僕にはすぐに、公式のBBSに的外れないちゃもんをエラソーな口調で垂れ流して、 心ある甲斐ファンに不快極まりない思いをさせた輩の名前が2、3浮かんだ。 
 「腹立つから、よっぽど書き込んでやろうかと思ったんだけど。そうすると、「お返事 ありがとうございます!」とかって言うんだろうね。そういう手があるから、書くのをがまん してるんだ」

 暮れから正月にかけて、映画出演の依頼が2件あったという話。 
 1本は「浅草の月」。黒木瞳がヒロインで、すでに「月」というタイトルで公開された 作品だ。 
 これは、役柄が寿司職人だったから、すぐに断ったらしい。寿司握って、高下駄 履いて、髪を切らなくちゃならないと。 
 もうひとつは、浅田次郎原作の「天国までの100マイル」 
 「SPEEDの「アンドロメディア」っていういいのつくったり、ヤクザ映画をこれまでに ない感じで撮ってる、好きな監督がいて、その監督の指名だっていうから」 
 三池崇史のことだ。去年の僕のベスト監督。甲斐も好きやってんなあ。甲斐は 「DEAD OR ALIVE 犯罪者」を見ただろうか。 
 こちらの難点は、車を運転しなければならないこと。 
 「俺の周りは、10人中7人が教習所の教官なぐってるという。残りの3人も、 胸ぐらはつかんだって。類は類を呼ぶ」 
 そう笑って、「イエロー キャブ」のプロモーションビデオ撮影秘話も教えてくれた。

 5枚組CD BOX「HIGHWAY25」から始まった25年ものは、TVの特番、 飛天ライヴ、「STORY OF US」ときて、飛天のVIDEOで打ち止め。 
 飛天のライヴVIDEOは、まずファンクラブ最優先。そして、しばらくしたら インターネットで売るそうだ。 
 「去年の秋くらいから甲斐バンドが地味に始まってて。それはイーストウェストから 出てる。僕の所属はソニーなんだけど。「STORY OF US」っていうVIDEOは 東芝EMIで、飛天のVIDEOはインターネット」 
 この状況を、甲斐は「天衣無縫」と笑った。 
 「甲斐バンドは徐々にあっためていくやり口で、順調に行けば暮れにアルバムを 出して、年明けにはツアーに出るという感じで」 
 この言葉に会場が沸き、大きな拍手が起きる。

 「このところのTVには、昔の深夜ラジオの雰囲気があると思ってたんだけど」 
 いくつか出てみたら、「やっぱりTV体質は変わってないな。体育会系だな」と感じた そう。「ウチくる?」にはハメられたというし。それで、「TVに出るのには、うんざりしてきてる」 
 「ザ ベストテン」に出たときの話も。あの映像は二度と流さないという密約が あったらしい。

 そういうMCに続いて歌われたのは、「噂」 
 まさかこの歌が聴けるとは。今日はほんとにいろんな曲をやってくれる。 
 ストローク。レコードよりも速いテンポ。1番が終わると、「アイウェーイ」の声。 
 かつて「あのピンクレディーが2分間の」と歌った、2番のあの部分。注目してたら、 「プッチモニイカした2分間の」になっていた。 
 後奏はほとんどなし。「だからTVまでも切っちまった」と最後の部分を歌うと、 その小節のあと3音だけ弾いてさらっと終わってみせた。

 甲斐が、ゲストの松藤を呼び入れる。 
 やっぱり、あの右のマイクは松藤のためやったんや。 
 大きな拍手と、「松藤ーっ!」の声。甲斐が「よかったね、拍手があたたかくて」と 言うほどに。

 甲斐が指先でギターの弦を叩く。レコードのあの音は、こうやって出していたのか。 低く響く、しかし決して強すぎないその音が、情感を呼ぶ。 
 「薔薇色の人生」 
 松藤のギター。甲斐がギターを叩く音。そして、それに乗った甲斐の声が伸びて いく。 
 「君の手がいつの間にか はなれてしまった」からは、松藤の声も重ねられる。 悲しい曲での、ぞくっとするようなハーモニー。 
 「つかの間のしあわせは」のあとの「フッ」という声は、甲斐が出す。また曲の世界に 引き込まれていく。 
 ギターの音色が弱まっていく。ゆっくりになる。ふたりが呼吸を合わせる。 松藤のギターが最後の音符を奏で、甲斐の左手が二度弦に触った。

 心に沁み入る「薔薇色の人生」だったが、当初はラインアップに入っていなかった という。 
 「ほんとに初日の名古屋の前日までは、「昨日鳴る鐘の音」をやるつもりだった んだ。で、ちょっと「薔薇色の人生」をやってみたら、これがよくて。こっちだ!と」 
 「「かりそめのスウィング」も惜しかった。今回、俺、最初に練習した曲だったんだよ。 3週間ぐらいみっちりやって、これで行けると思ったのに、季節に合わないと言われて」 
 「昨日鳴る鐘の音」聴きたかったなあ。「かりそめのスウィング」も、季節に とらわれることないのに。でも、あの「薔薇色の人生」が聴けたからいいねん。大満足。

 甲斐が、スタッフから渡されたギターを、ほんの少しだけ小さな音で弾いてみる。 そして、「やっぱり今夜は、この曲では弾かないことにする」というふうに、首を振って、 スタッフにギターを返した。次の曲の用意をする間の、ちょっとした瞬間やったけど、 そのときのギターの音で、これから何をうたうのかがわかった。 
 松藤が弦をひとつひとつはじいていく。そうやって、あの印象的な前奏をやわらかに つむぎ出す。雨だれのように。 
 レコードよりもずっと静かな、「裏切りの街角」 
 甲斐が2番までうたい、「チュッチュルルー チュルルッチュチュチュチュ  チュッチュルルー チュルルッチュチュチュチュ」がおわったところで、松藤の演奏に 変化が。あのフレーズを弾いている。 
 それは、間奏を飾るためのものではなかった。曲は「安奈」に移っていった。 
 「安奈 寒くはないかい お前を包むコートは ないけどこの手で あたためて あげたい」を、今夜は客にうたわせてくれた。うたいながら、この歌を聴きはじめた頃、 ここの詞がいちばん好きやったことを思い出した。そして、「ふたりで泣いた夜を覚えている かい わかちあった夢も 虹のように消えたけど」から受けた感慨も。 
 「もう一度ふたりだけの愛の灯をともしたい」も、いつものように客にうたわせて くれる。甲斐も声を合わせる。ハーモニカを聴かせる。

 MCがめっちゃ盛りあがる。甲斐もノッてて、「何か、次の曲行く気がしないんだ よね」というくらい。 
 1枚だけ残っている添乗員時代の写真。一郎のエピソード。今日泊まってる大阪の ホテルのプールであったこと。 
 松藤とのリハ期間にTVで見た、オリンピック出場をかけた女子バレーについても。 
 「今はパワーバレーの時代で、「拾って拾って」っていうコンビバレーは10年も前に 終わってるんだよね」 
 僕はこんなふうに、スポーツを見る視点を聞くのも好きだ。

 花園ラグビー場の話も出た。 
 「この中にも、あの日シートをぶつけたやつが数人いると思うけど」

 MCの最中に、客席で携帯の着メロが鳴った。 
 「そこで俺の曲流すと、いいんだよ」と、甲斐が一瞬緊張した会場の空気を和らげる。 
 「(今の着メロは)「バス通り」やで」という声があがる。 
 甲斐は「バカモン。反省しろ。ひとが救ってあげてるのに」と一喝。 
 バラードをうたってるときじゃなくてまだよかった。気つけろよなあ。

 このツアーは、いわゆるアコースティックっぽいものにはしたくなかったという。 
 「こじんまりとまとまったんじゃなく、スケールのあるものを」 
 それで、デモテープの段階からエレキでしか弾いたことのなかった曲も、 アコギでやってみたと。 
 「関西フォークも好きだったんだけどね。専門のレーベルがあって、学生のときから 通信販売でずっと買ってたから。その頃から、イロモノの人たちにすり寄られる運命 だったのかもしれない」

 「このところ、周りがバタバタ倒れていってる。俺は20代の終わりに気づいて、 節制しててよかった。人間何かひとつ我慢しないとね」

 「何らかの事情でリリースされないやつを」と紹介して、「against the wind」 
 いつの間にかステージの左の方に、脚の長い台が置いてあった。 そこに火がともされている。暗い舞台に炎が揺らめく。甲斐の歌声。 
 アコースティックではやってくれないのではと思っていた。それが、 松藤の演奏で、松藤のコーラスで聴くことができるとは。

 甲斐が1枚の紙片を手にし、その内容を読み上げる。公式サイト「KAI WEB」への 書き込みだ。 
 「アップル パイ」という名前の風俗店を見つけたという報告やった。 
 ファンの投稿を、みんなの前で甲斐が読む。サンストみたいで、いいなあ。また やってほしいぞ。

 新しいシングルをうたってくれるという。 
 初めて知ったけど、曲は松藤が書いたそうだ。「悔しいけど、いい曲なんだよね」 と甲斐。 
 詞は、甲斐がここ数年でいちばん気に入っているという作詞家、前田たかひろ。 
 オーケストラとホーンセクションを入れてレコーディングをした。 
 今夜はそれをアコギだけで。 
 「甘いKissをしようぜ」 
 静かな曲やった。甲斐のうたが会場中にひろがっていく。その声にじっと聴き入る。 
 サビでは、甲斐が軽く手拍子を打つ。客席からも、曲の雰囲気をこわさないくらいの 手拍子が。

 たしかにいい歌やった。その余韻のなか、松藤がステージを下りる。またあたたかい 拍手につつまれて。

 再び甲斐が一人きりになった。さあ、ここで何をやるのか。「愛と呼ばれるもの」 なんてかっこいいと思うが。 
 激しいストローク。「らせん階段」が始まるのかと思った。 
 ところが、何と、甲斐が歌い出したのは、「冷血(コールド ブラッド)」やった。 
 驚きと興奮の歓声。そして手拍子と歌声。 
 「奴のガールフレンドが狂言自殺謀った晩 外はスコールのように激しい雨」と 歌ってから、間をあけてギターだけを弾く。「ポリス呼び出し 事件を 告げて車に 飛び乗る  鼓動は早鐘のよう 悪い予感振り払い」の後でも歌を切って、短い間奏を入れる。 
 「恨んでも」の「ん」のところから、新たな曲調へ。「うーらーんーでもー うーらんー でもー」と、オリジナルとはちがった歌い方。 
 「体の中を流れてゆく 冷たい血」に続けて、「コールド ブラーッド」と咆える。 
 客席が沸く。これまで見たことのない「冷血(コールド ブラッド)」だ。 
 間奏では、アコースティック ギターの演奏なのに、この曲独特の、あの迫ってくる ような音が再現される。燃えるっちゅうねん!それに、僕には、「冷血(コールド ブラッド)」 だろうが「キラー ストリート」だろうが無理やりフォークギターで毎日歌っていた、自分の 高校時代がよみがえるというよろこびがあった。 
 3番からは途中のギターがなくなって、次々と言葉を吐き出していく。 
 後奏でもまたあの音が聴こえる。熱気のなかでフィニッシュ。すごい歓声だ。

 短い前奏で続けざまに、「嵐の季節」 
 1番が終わったところで拍手が起こる。 
 僕は、サビが終わるごとに、拳を握り締めた腕を甲斐に見せるように掲げる。 そうせずにはいられない。 
 ラスト、ギターをとめての大合唱も、もちろんあり。甲斐はときどき一音だけ 鳴らしてみたり、少し歌ってみたり。僕は、そしてほかのファンたちも、声をかぎりに歌った。

 「風の中の火のように」 
 アコギから始まる例のヴァージョンやけど、今夜はそれで最後まで行くのだ。 
 「君なんだ」と歌ったときの歓声や、歌声がすごい。もちろん僕も、思いきり歌って いる。 
 バックには、96年期間限定甲斐バンドのときの、青空と雲。そして、あの火が もう一度揺れている。

 ハーモニカホルダーとアコースティック ギター。 
 歌うは、「漂泊者(アウトロー)」 
 「BIG NIGHT」にも収録されたブルース調のアンプラグド ヴァージョンとはちがう。 力強いのだ。激しいのだ。 
 「SOSを 流してるー」のところは低く下げて歌ったが、「イライラしながらー 踊る だけー」では、バンドでやるときのように声を張り上げた。 
 「一人ぼっちじゃあ やりきれないさ」と歌ったところで、低いベース音をひとつ ドーンと鳴らす。これがものすごくかっこいい。 
 間奏では、歌詞をのせるメロディーを切ったようなハーモニカ。これがまたいいのだ っ。 
 「愛をくれよ」や「一人ぼっちじゃあ」を客席にも歌わせる。弦が切れてしまっても、 弾き続ける。一音ずつ鳴らす奏法を織り交ぜもするが、曲と会場の熱さは変わらない。 
 後奏は突然断たれた。まさに「漂泊者(アウトロー)」そのものだ。

 自らギターを手にして、マイクスタンドの前に立つ甲斐。 
 今夜つめかけたオーディエンスへ感謝の言葉をかける。 
 そして、「「一人きり、弾き語り、一万円」という形を借りて、エンターテイメントの ショーをやろうと思ってたんだ」と告げた。

 今日どうしてもやってほしかった歌だ。 
 「翼あるもの」 
 「STORY OF US」での演奏も素晴らしかったが、今夜生のステージで歌うのは、 たくましい「翼あるもの」だ。 
 ものすごいノリ。歌、手拍子、拳。間奏もアコギとは思えない盛りあがりや。 
 最後は静かに、しかし、いつものあの高まりをギター1本で表現してくれる。 そこで甲斐がギターを弾いているのに、両手を組んで頭上に伸ばしている甲斐の姿が 見えるようだった。

 甲斐がソデに姿を消しそうになったときから、速くて強い手拍子が続く。ふつう アンコールの手拍子は、だんだんゆっくりになって、みんながいっしょに大きく叩けるような リズムに変わっていく。でも、今夜の手拍子はゆるまらない。ずっと速いリズムのままだ。 みんなの興奮とよろこびが伝わってくる。もちろん僕も、手を叩き続ける。汗を拭いてる 間なんかない。そして、何度も「甲斐ーっ!」と叫ぶ。

 スーツを脱いで白いシャツ姿になった甲斐が現れる。松藤もいっしょだ。 
 「押してくるねえ。熱気で押してくる」 
 甲斐にも客席の熱さが伝わってたんや。めっちゃうれしい。

 「熱い恋をしようぜ。熱い恋を。いっしょに住んでる人にでもいいし。住んでる人を 奪っても、リスクを背負えば」 
 この言葉から、「BLUE LETTER」へ。 
 碧青の光がステージを照らす。甲斐がハーモニカを吹く。 
 いつもとはちがう部分の詞に、感じるところがあった。ライヴ前に「郵便配達夫は 二度ベルを鳴らす」を読み直したからだ。「BLUE LETTER」には、この本と、フェリーニの 映画「道」のイメージが込められている。読んでおいてよかった。 
 「シャツを脱ぎ捨て 海に入ってゆく」で、甲斐は2、3歩前へ足をすすめた。 歌に入り込んでいるように、弱い足どりで。 
 後奏のハーモニカ。やがて曲は静かに終わっていった。

 「生きてる実感てやつは、日常の中では感じにくいもんで。かすかにでも 感じられればいいくらいでね」 
 甲斐は、ライヴで歌うことにそれを感じていた。 
 「あちこちの街に出かけて行ったのは、TVに出たくなかったからじゃなくて、 ステージが好きだったから。20代・30代の身体がいちばん動く時期にツアーに出てて、 よかった。きつかったけど、それは余熱のように自分の中に残ってる」

 甲斐は肩からかけたギターを、身体の後ろの方にまわしている。松藤がギターを 奏でる。そして、甲斐がうたい出す。 
 「熱狂(ステージ)」 
 ついにこの歌を生で聴くことができた。その感激と、MCから感じた思いを 抱きながら、甲斐の歌声を聴く。きれいに伸びていく歌声だ。 
 「次の街へ」からは、甲斐もギターを弾く。みんなじっと聴き入っている。 
 「今夜の客は素敵だった」のところは、手振りを加えながら 「今夜のショーは素敵だった」とうたった。もしオリジナル通りにうたったら、みんなすごく 敏感に反応したことだろう。歌の途中でも拍手とかしたかもしれない。そういうのを 避けるために、「今夜のショーは」とうたったんちゃうかな。今回の詞でも、僕は感激や。 
 ギター2本だけやけど、レコードに近い音を出す。後奏が盛りあがるところでは、 甲斐が「エーイ」と声をあげ、2人で「タタタタタターン」と弾いてみせた。

 この曲で終わりかと思ったけど、舞台が明るくなっても、甲斐も松藤も動かない。 
 「もう1曲やってくれ!」 
 そう願いながら拍手を続けた。やった!まだ歌ってくれるぞ!

 「この形態は、自分で飽きがこないようにしないと。何しろ一人だけだから」 
 甲斐はその話を、「甲斐のつぶやき」と小さく笑ってしめくくった。 
 すると、絶妙の間をおいて、松藤がぼそっと「つぼやき?」と言った。 
 「今の、行って帰ってまた行く、ぐらいの勢いあったよね」と甲斐がウケる。 
 松藤は今夜ずっと、甲斐の話をじゃましないように気を配りながら、タイミングを はかってしゃべっていた。松藤の性格が出てる気がしたなあ。 
 「何かもう、ライヴ中に2人だけで話しててもいいって思う瞬間があるもんね」 と甲斐。 
 それでも、曲に入ると戦いなのだそうだ。ハモるからといって、相手に合わせようと してはいけない。それぞれが強く、自分が前に出ると思っていないとだめだ。甲斐はそう 言った。

 MCでは、「みんなに言いたいのは、体に気をつけて」とも言っていた。 
 「サウンドストリート」の最終回を思い出したなあ。

 甲斐がハーモニカだけを持って、マイクスタンドの前に立つ。 
 これは前奏ですぐにわかった。やってくれたか。 
 「最後の夜汽車」 
 ライトを浴びた甲斐は、今夜初めてサングラスをはずしている。少し上の方を 見つめながら、うたっていく。 
 「白い月明かりの」では、肘をまげた両手を広げた。それから、右手でマイクを 持ち、左手は身体にそって真下におろした。 
 ハーモニカが、あの切ないメロディーをうたっている。 
 甲斐は、曲が終わると同時におじぎをした。

 まず松藤が送り出され、客席に何度も手をあげてから、甲斐も去った。 
 バラードが続いたので、最初はしっとりしたムードが残っていたが、客席からの 手拍子は1回目のアンコールと同じく、強くて速い。だんだん熱を増していく。 「甲斐ーっ!」の叫び。 

 ツアーTシャツを着た甲斐が、ステージに戻ってくる。 
 一人でギターを弾きはじめる。何の曲だかわからない。アップストロークを効かせて いるような低音が響く。弦の張り方が反対やからな。演奏が高い音に変わり、甲斐がうたい はじめる。 
 それでもまだ、どの歌かわからなかった。詞が沁みてきて、じわじわと気がついた。 これは、いちばん痛い曲だと。 
 「CRY」 
 ここでやるとは思ってなかった。いつもいつも聴きたいと願いながら、アコースティック のライヴではやらないかとも思った。それに、今夜は甲斐バンドの曲と新曲を歌っていたし。 
 いや、このときはそんなことを考えてはいなかったはずだ。アンコールのバラード 3曲の余韻にひたっていて、そういう余裕などなかった。 
 「悲しいと思わないかい 唄いかける君への唄もなく 俺はだれのものでもない」 に続けて、甲斐は「CRY」とうたった。 
 2番では、「あざやかなあの頃の笑顔」を「あの頃のあざやかな笑顔」と、入れ換えて うたう。 
 前の席のイスが太ももにあたる。それぐらい前のめりの姿勢になっていた。 そして、ただただ甲斐の姿を見つめ、「CRY」を聴いていた。 
 「悲しいと思わないか 唄いかける君の姿もなく 俺はだれのものでもない CRY」 
 ROCKUMENT IVでうたったときとちがって、最後はオリジナル通りの歌詞で うたった。 
 後奏で「なくすことのできない傷あと」とはうたわない。「CRY」「CRY」と何度も 繰り返した。

 ステージの上に長くとどまって、甲斐はまた手をあげたりしてくれた。そして、 去っていく。「甲斐ーっ!」という叫びがたくさんかかる。 
 また速くて強い手拍子。しかし、BGMが流れはじめた。「甘いKissをしようぜ」だ。 もう1曲やってくれなんて言えない。ほんまにすごいステージやったから。 
 「甘いKissをしようぜ」を聴きながら、余韻にひたりきる。

 これまでのツアーでの弾き語りや、GUY BANDのライヴとは、完全にちがった 内容やった。これほどまでに、前にやったアコギの曲をやらないとは。すごいなあ。 
 「噂」「薔薇色の人生」「熱狂(ステージ)」と、初めて生で聴けた歌が3曲もあった。 久々の曲もあったし、新曲もあった。いつも聴きたい曲たちもしっかりやってくれた。 アコースティックのアレンジ、演奏は強力やったし、サンストふうのMCも堪能した。 話が多くても、きっちり20曲歌ってくれたし。「ブライトン ロック」が聴けて、最後は 「CRY」。言うことないよなあ。陶酔したあ。

 切ないバラードも多く聴けたけど、今夜のライヴの感動は僕にとって、涙が出てくる ような感じとはまたちがっていた。 
 「熱狂(ステージ)」の前のMCで言えば、生きてる実感があったということだ。 今日ライヴを見ていて、「俺はこのときのために生きてるんや」と思えた瞬間が何度も あった。すごい充実感や。 
 ほかの趣味は犠牲にしていい。ほかにやりたいことはがまんしても、甲斐の ライヴに1度でも多く足を運ぼう。そう決めた。

 会場の出口で、このツアーだけのおみやげをもらった。CDだ。 
 夜遅く家に帰って聴いてみると、古い方の「ランデヴー」やった。 「RENDEZ-VOUS (ある愛の物語)」と表記されている。 
 有吉じゅんに提供した曲。そして、甲斐が10代の頃に書いた曲や。 
 甲斐の25年、そして26年目を、僕は抱きしめた。

 

2000年7月15日 IMPホール

 

ブライトン ロック 
三つ数えろ 
港からやって来た女 
観覧車’82 
東京の一夜 
噂 
薔薇色の人生 
裏切りの街角 
~安奈 
against the wind 
甘いKissをしようぜ 
冷血(コールド ブラッド) 
嵐の季節 
風の中の火のように 
漂泊者(アウトロー) 
翼あるもの

 

BLUE LETTER 
熱狂(ステージ) 
最後の夜汽車

 

CRY

HIGHWAY25 Standing in 飛天 甲斐よしひろ Golden Thunder Review

1999年11月13日(土) 新高輪プリンスホテル 飛天

 暑い日になった。新幹線からは、ほんとうに見事な富士山を見ることができた。  
 品川駅を出て、道路を渡り、歩道橋を通って、ざくろ坂を上っていく。開場時間が近い ため、坂には甲斐ファンらしき人ばかり。けっこう上ったところで、右手の飛天へ通じる短い 道が現れた。見上げると、何とすでに飛天の周りには長大な列が取り巻いていた。 
 指定されたブロックごとに、整理番号順で並ぶもんやとばっかり思っていた。しかし、 まずはブロックや番号に関係なく、ロビー開場だけするという。ということは、これだけの人数 を入れて、中で並びなおすほど、ロビーが広いのか? 
 僕がついた列の最後尾は、ほぼ入り口の真ん前やった。そこからぐるーっと一周して、 入場するのだ。開場時間の4時に入り口が開き、列はどんどん進んでいった。ブロックの 確認などしないから、はやかったのだろう。 
 入り口でチケットを切られ、中に入る。左の壁際に、贈られた花がたくさん飾ってある。 もりばやしみほ吉岡秀隆、浜田雅利、加藤晴彦、中曽根氏など。 
 テーブルのそばに係員がいて、カメラチェック。僕は大きな荷物を抱えていたが、 カメラはないと言うと、中を見ないで通してくれた。アンケートやチラシ類、ドリンクチケットを 受け取る。 
 そこからは、ゆっくりと右にカーブするスロープになっている。左の壁には、歴代の 甲斐の写真がかけてあった。髭をのばしたもの、ミラーボールの下で吼えているもの。 25周年のイベントなんや!という気持ちが盛りあがってくる。 
 さらに、スロープが折れる地点には白いボードがあり、リクエストの集計結果が 発表されている。甲斐バンド時代のランキングでは、「翼あるもの」が「この夜にさよなら」を かわしてトップに立っていた。KAI FIVEの1位は、中間発表から変わらず「嵐の明日」。 ソロの「CRY」は、「レイン」に抜かれて2位やった。惜しい。「HIGHWAY25にもう1曲 加えるなら」というアンケートでは、「別離の黄昏」の健闘が目についた。 
 スロープを下りきったところには噴水。ドリンクコーナー、グッズ売り場、クローク。 かなり広い。ディスコグラフィーを映すモニター、甲斐の活動の歴史を流すモニターもある。 柱には、甲斐の写真パネルがたくさんかかっている。花園ラグビー場、BIG GIG・・・。 よくぞここまでやってくれた。ほんとうに甲斐一色や。25年間の歴史が刻み込まれている。 
 カバンを預け、トイレを済ませると、すでに入場の列ができていた。Cブロックの列に 並び、さあ、いよいよ入るぞ!

 「うわあっ」と、思わず声を出してしまった。「観覧車」を思わせるステージの虹色の ライトが、天井のシャンデリアを照らしている。これは素晴らしい。 
 ブロックは、前からA・B・C・D・E、左から1・2・3・4・5という並びだ。それぞれ、銀色の 柵で囲われている。その間の通路を縫って、C5へ。 
 ブロックの入り口でチケットを確認してもらい、中へ入る。右端なので、ブロック内の できるだけ左前に位置を取った。みんなステージ中央が見たいから、斜めを向いて立っている。 おお、充分よく見えるぞ。ステージも高いし。入ってきたときの感じでは、Eブロックからでも 見やすいんちゃうかなあ。 
 左から、赤・オレンジ・黄・緑・青・紫・ピンクの照明。真横からステージを照らしている のは、紺と紫のライト。客席にも、1・2ブロック、4・5ブロックの間にライトの列が後ろまで 連なって吊されている。これが、客席の真ん中のあたりをさまざまな色に染めているのだ。 
 なめらかなうねりがたくさんある天井には、いくつもの豪華なシャンデリア。そのそば に、ミラーボールのようなかさに包まれた、小さな灯りがならんでいる。  
 ここが飛天かあ。芸能人の披露宴などどうでもいい僕にとっては、プロ野球の イベントが行われる場所におるねんなあ、という感慨の方が大きかった。しかし、足もとには 絨毯が敷きつめられているとはいえ、今の飛天は完全に、巨大なライヴ会場と化している。 広いステージ、ブロック制の客席。虹色の照明にスモーク。まさにスタジアムツアーの 雰囲気なのだ。

 ロビーから中に入ったのが4時半ごろだったので、会場の様子を味わっていると、 すぐに開演予定の5時になった。 
 アナウンスが入り、みんなが拍手。舞台上では、飲み物が配置されている。という ことは、楽器のチェックはすんでいるのか。もうすぐやぞ! 
 BGMに合わせて、手拍子が起こる。何曲か続いて、まだ時間がかかりそうだと、 手拍子が弱まる。しかし、俺は手拍子をやめない。今日はいつも以上に気合いが入って いるのだ。何度も「甲斐ーっ!」と叫ぶ。 
 楽器のチェックがはじまった。これからやったんか。キーボードの高い音を聴いて、 にわかに「デッド ライン」が聴きたくなる。「HIGHWAY25」に入ってたライヴ ヴァージョン、 かっこよかったもんなあ。 
 マイクがセットされ、各楽器のチェックも終わり、2度目のアナウンス。そしてまた、 BGMにのせて手拍子。 
 5時半になった。虹色の照明が落ちる。大歓声。低い音の多いクラシックが鳴り わたる。紺の照明と相まって、荘厳な雰囲気だ。 
 拍手と歓声のなか、左手からメンバーがやって来る。いくつかの影がステージを 横切っていく。

 大音量がほとばしる。そのなかに潜んでいる、軽快なビートと鈴のようなきれいな 音色を、耳にした。これはあの曲や! 
 甲斐が躍り出てくる。さらなる大歓声。6月のZepp Tourのような銀髪と、銀の ジャケット。今や全面に押し出てきたビートのなか、左右に歩を進めて腕を挙げ、客席全部 にアピール。歓声と手拍子、「甲斐ーっ!」の叫びが渦巻く。中央のマイクスタンドに戻って、 さあ、「電光石火BABY」! 
 甲斐バンド解散前に甲斐が考えていたように、これからソロと甲斐バンドを並行して 活動していくならば、まさにこの曲こそ今日の幕開けにふさわしい。今日は新たなスタート なのだ。僕はそう感じて、興奮にうち震えた。 
 「電光石火BABY!」と甲斐が歌うのに合わせて、拳を6連打した。1番が終わると、 会場じゅうから大歓声。 
 間奏に入るところで、甲斐が「ハアーッ!」と叫ぶ。一瞬、アルヴィンがベースを弾き ながらステージを通り抜けるんじゃないかという錯覚に陥る。今日はステージ右前から ジョージが出てきて、弾いてくれた。 
 甲斐がマイクを口元からはずして、コーラスの部分を歌っているのが見える。 「クールなやつさ ロッキン クイーン」という詞も復活。 
 「ベイベー、ベイベー、ベ、ベ、ベイベー!」の繰り返し。フィニッシュのところで拳を あげたら、前の人に少し当たってしまった。

 甲斐がギターをかけ、ビートの3連打。「ウォーッ!」という大歓声。 
 「ポップコーンをほおばって」 
 甲斐は1番のサビから、左腕で宙をかく。それで、こっちも燃えて、振り上げる拳に いっそう熱がこもる。 
 盛りあがった間奏が静まる部分で、歓声。甲斐は、「歌ってもいいぜ」の仕草。 
 ストロボの嵐。一瞬途切れては、また閃きはじめる。甲斐がギターを弾く左手をかか げる。

 前奏に合わせて、頭上で大きく手拍子。メンバーもやっている。ステージ左奥の台上で 手を叩く、またろうのシルエットが目立ってる。 
 「レディ イヴ」 
 サビの後、1番の歌詞を甲斐がトバしてしまう。客席にマイクを向けたりしながら、 ステージの上を動く。僕は歌い続けた。 
 サビ前に、「愛に 生きろ 高ぶる胸で」という2番の詞で復活。その後は、さらに 気合いを入れた感じで、細かい詞まで完璧やった。2番の最後も、1番と入れ換えること なく、もう1度「愛に 生きろ」と歌った。

 最初に、甲斐バンド、KAI FIVE、甲斐よしひろソロ、全時代の曲をやってみせるの では、と思っていた。第1期ソロ、甲斐バンド、第2期ソロで来たかあ。 
 ステージ後方のV字型の照明もかっこいい。メンバーは、6月のツアーと同じようだ。 右にジョージ、左にサングラスをつけたメッケン。後ろは台になっていて、左から、 またろう、カースケ、右端が前野選手のキーボード。

 歓声に「サンキュー!」と応え、最初のMCは「相変わらず待たせて・・・」と いう言葉から始まった。「待たせたときの方が調子がいいって話もあるけど」と聞いて、 みんなよろこぶ。 
 「とにかく今夜は最後まで楽しんで。目一杯やるからね」 
 そう言って、ステージの奥に向かうかに見えた甲斐が、もうひとこと。 
 「25年分まるごとやるから」 
 これで大歓声に拍車がかかる。

 そこへ、あのイントロ!レコードよりも分厚いサウンドで。 
 「ダニーボーイに耳をふさいで」 
 泣ける。「あの歌が聞こえてきた」のところで駆け上がるキーボードも印象的。 
 2番のサビの後半で、ドラムのタイミングが変わる。そして、甲斐が「あーの日ーっ」と 叫んだ刹那、衝撃的な音が飛び込んできた。 
 「渇いた街」 
 「ウォウウォウウォ ウォーオオオ」と甲斐が低く呻る。「HIGHWAY25」を聴いて、 やってほしいと思っていたが、こういう形でやるとは! 
 伝えきれてないワンワードと言ってた「生まれなかった命」という詞も、そのまま歌い 切る。「抱いてくれ」のところは「抱きしめて」と歌う。 
 短い間奏で、2番へ。デモ ヴァージョンの歌詞はなく、「自分を見失い 街を 彷徨い歩いた」から。 
 2番のサビも、「抱きしめて」と歌い、「信じようとしない くちづけでもいいからーっ」と 甲斐が声をのばしたところで、ポツポツポツポツというリズムに変わる。「ダニーボーイに 耳をふさいで」の繰り返しの部分に戻ったのだ! 
 「いーくつーかのー ああ悲しーみと いーくつーかのー ああ楽しーみがー」という ニュー ヴァージョンの詞。 
 後奏で甲斐が「ウォーオーっ」と吼える。「渇いた街」の呻り声が耳によみがえる。 どちらも愛をなくした男の孤独な叫びだ。この2曲を、その視点で結びつけたのだろう。 同時に、デモの段階では長すぎたという「渇いた街」を、こういうふうに料理してみせたわけだ。

 海を思わせるきれいなイントロ。エメラルド グリーンの照明。わき上がってくるような ドラムが、あの曲だと告げる。 
 「シーズン」 
 悲しみと、かすかな望み。発表当時の事情がどうであれ、まぎれもない名曲だ。 
 最後の繰り返し。「波打ち際 ラララララララララ」「この痛み ラララララララララ」と、 甲斐は早めに詞を切って、切ない声をあげた。

 前奏で場内が沸く。あの回転するライトが、うねる光と影の波を描き出す。今日は、 客席後方の天井までが揺れている。海の中にいるような。 
 「ナイト ウェイヴ」 
 刻まれはじめたビートにのって、大合唱。甲斐は、身体を傾けてステップを踏み、 ステージ両サイドまで進んでいく。「ナーイト ウェーイヴ」と歌ったあとは、いつものように 「ウーウーウーウーウーウーウーウウー」と歌うのではなく、「ウウーウウ」とPARTYのように 短く切るのでもない。その中間くらい。 
 真ん中の前に出てきた甲斐が、会場じゅうからのコーラスを浴びる。心地よさそうだ。 間奏に入ってもしばらく、客たちの「ナーイト ウェーイヴ」の声はやまなかった。 天井から降ってくる照明は、海の中に射してくる光のようだ。 
 ラストは、甲斐がマイクスタンドを持ってすわり込む。後ろを向いて「ナーイト  ウェーイヴ・・・」と最後のささやきを。タイミングをためたドラムがはじけると、甲斐は一気に 振り向きざま、立ち上がった。

 レコードのあの音に、ドラムが入る。 
 「BLUE LETTER」 
 泣いた。この歌と同じ経験をしたわけではないが、思うところがあった。 沁みてくるのだ。 
 「ふたり 海を眺めてた」「穏やかに晴れた 夏は続いた」「今は跡もなく」「脆かった 月日」「きれぎれの文字」核心とは別の詞が、次々と胸に突き刺さってくる。 
 「深い闇のなか」「深くうねる波の」と、甲斐は今日は「暗い」ということばではなく、 「深い」とうたった。両手でマイクを握り締め、身体を揺らして、前のめりになる姿勢でことば を叩きつける。痛烈だ。 
 かつてサンストで「否定はしない」と言ってた、海辺の三部作を続けたことになる。が、 それについて考えている余裕などとてもなかった。

 「こんな感じでずっとつき合えるとは思ってなかった」と、甲斐がうれしそうに話す。 
 「土屋公平こと、スライダーズの蘭丸を!」 
 黄色いギターを持って、蘭丸が現れる。たくさんの「蘭丸ーっ!」の声。もちろん僕も 叫んだ。 
 さり気ない感じで、蘭丸が弾きはじめる。そのギターだけが響き、観客がそれに 合わせて手拍子をはじめる。他の楽器がかぶさってくる前に、早くも甲斐が歌いだした。 
 「とっぽい野郎、どいていなーっ」 
 間をとって、「スカしたまぬけめ、気をつけろーっ」 
 ROCKUMENTヴァージョンのタイミングで歌う「ダイナマイトが150屯」。しかも、 蘭丸のギターと甲斐の歌だけや! 
 客も大合唱になり、次第にバンドが加わっていく。気づくと、ジョージが煙草をくわえて いる。この曲のプロモーションビデオで、大森さんが煙草を吸っていたのを思い出す。 
 キーボードは、ぎりぎりのところであのフレーズを出してこない。刺激的や。マイク スタンドは廻さない。けれど、ほんまにかっこいい! 
 最後も蘭丸のギターでフィニッシュ。 
 大歓声と拍手。甲斐は、「こんな風にもできるんだぜ。見たか、どうだ」とでも言うように、 「ハ ハ!」と声をあげてみせた。

 「レイン」がはじまる。 
 この曲が聴けるよろこびと、蘭丸はもう帰ってしまうのかという気持ちが入り交じる。 
 今日は「Call my name」のところで、僕は拳をあげなかった。切ない歌に 聴き入っていたかったのだ。 
 甲斐がファルセットを聴かせ、曲が終わっていく。もう1度、甲斐が蘭丸の名前を 呼び上げる。大きな拍手。甲斐が右手を差し出した。蘭丸は、ギターを持っていない左手で、 それを握った。そして、ギターを抱え、いつものように客席に真っ直ぐ手を伸ばしながら、 左のソデへと姿を消した。

 黒いイスが運び出される。小さなドラムスのようなものも見える。ミニ編成コーナーを やってくれるのか? 
 松藤が登場し、甲斐が紹介すると、ものすごい歓声。 
 甲斐をはさんで、左に松藤、右にジョージ。GUY BANDの形だ。「今日はもう、 何でもありだからね」という甲斐の言葉に、観客が沸く。「野生の馬」でもやってくれそうな 雰囲気や。 
 甲斐が松藤に関する冗談を言うと、松藤は指で2回バツ印をつくってみせた。これに は甲斐が大ウケ。「ダメ!ダメ!」というさんまのギャグなのだ。 
 松藤がアコースティック ギターを奏ではじめる。「レイニー ドライヴ」のように思えた。 が、演奏がすすむにつれ、「ミッドナイト プラス ワン」だとわかる。 
 しかし、甲斐が演奏を止めた。「だって、ノイズが気になるんだもん」 
 僕は、何の曲なのかということばかりに集中してたから、聞こえなかった。が、松藤が 試しに音を出してみると、やはりバチバチというノイズが出る。二度、三度とやり直しても、 消えない。 
 「ギター代えようよ」と甲斐が言い、別のギターが松藤に渡される。 
 「ふつう、ステージでこういうことになったら、緊張するじゃない?俺、全然平気だもん ね。リラックスできるもん。ああ、松藤らしいなあって(笑)」

 新たなギターで、仕切り直し。 
 「ミッドナイト プラス ワン」 
 甲斐の歌声がのびて、静かな会場に響いていく。「愛は溺れるもの 海のように」と いう詞に、感じた。 
 1番が終わると、すぐに「潮が引くように・・・」につながっていく。ショート ヴァージョン だ。「君が恋しい」とはうたわずに、今日はすべて「君がほしい」とうたった。 
 そのままメドレーで「I.L.Y.V.M.」へ。 
 第1期ソロの後半にやっていた、激情の「I.L.Y.V.M.」も決して忘れることが できないが、このアコースティック ヴァージョンもいい! 
 ほんとうに甲斐の声がよく響く。聴かせてくれるなあ。「アコースティックの方がむしろ パワーが要るんだ」と言ってたことがあったけど、あらためてそれを感じた。 
 1番の終わりで、松藤がギターの先を触っている。トラブルか?と思ったが、どうやら カポをずらしているだけのようだ。 
 ジョージのギターから、松藤のギターへ演奏が移る。またろうが、3人の後ろに やって来る。 
 松藤が弾いた弦は、今度こそ「レイニー ドライヴ」。 
 甲斐がうたいはじめる。2本のギターの間、またろうの楽器がアクセントをつける。 脇に抱えた長い太鼓を、釘抜きのような形の物で叩くのだ。バラードの色を損なわない ように、静かに空気をふるわせる。 
 コーラスを聴かせてくれていた松藤が、2番ではヴォーカルに。拍手が起きる。 
 「ささやきさえ」の詞が出ない。フォローしようと甲斐がすかさずマイクを握るが、 松藤はすぐに次を続けた。レコードとはタイミングを変え、よりメロディアスなうたい方を する。 
 「サーチライト」からは、2人のハーモニー。サビに戻り、やがてアコースティック  ギターの音色が、静かに、そしてきれいに消えていった。

 キーボードの前野選手が、アコーディオンで参加。またろうは、すわって脚の間に はさんで叩く小さな太鼓。ギターの2人を合わせた4人に囲まれた甲斐は、「いいだろう。 劇団、って感じで」と笑った。「バルト三国にいそうな」 
 きっと、楽団って言いたかったんちゃうかなあ。それとも、僕の聞きまちがいか。 ともかく、いい雰囲気や。甲斐がメンバーを紹介し、僕は「またろーっ!」と叫んだ。 
 「安奈」 
 Singerのときに近いアレンジ。しかし、あのときの黄昏色の照明はなく、演奏も 少しちがう。最初からずっとパーカッションが入ってるし。 
 甲斐は切ないうたい方。ひとことだけの手紙に思いを馳せながら、聴き入った。 
 3番になって、甲斐が「うたってくれよ」のポーズ。「燃え尽きたローソクに」を、客席に マイクを向けて、うたわせてくれた。いつもとはちがう部分やったなあ。 
 「安奈」は甲斐バンドの新曲のカップリングになるらしいと聞いてたから、今日は こういう編成でやるとは思ってなかった。しかし、このヴァージョン、めっちゃよかった。

 通常のバンド形態に戻る。甲斐と松藤が並んで立っている。 
 「5枚組のBOXセットにも、そのヒントは隠されてた。はじめ俺が歌って、後で松藤が 歌って、おいしいとこ全部もってかれた」 
 僕は、歌詞を分けて歌ったことを言っているのかと思って、「ダイヤル4を廻せ」を 連想していた。けれど、そうではなかった。 
 「ビューティフル エネルギー」 
 1番は甲斐が歌い、2番は松藤。「やーさしい雨ーが ぼーくらを 濡ら すーうう」 と歌わずに、「やーさしい雨ーが ぼーくらを  濡ーらーす」と歌った。 
 繰り返しは、ふたりで。曲が終わると、甲斐がもう1度、松藤の名を呼ぶ。拍手と 大歓声に送られた松藤は、ソデには下がらず、舞台奥へと向かって行った。

 「どんどん出てくる」というゲスト。次は、「幼稚園のときからの・・・」という紹介だ。 一郎がやって来る! 
 前奏とともに、白い円に紫の炎が縁取りしたような模様がふたつ、天井に映し出され た。おお、これ聴きたかってん! 
 「幻惑されて」 
 手拍子はもちろん、ビートにノって頭も振ってしまう。ほんまにかっこいい曲な のだ。ギターのフレーズに合わせて、腕を動かすのがやめられへん。快感や。 
 間奏でも、一郎の見せ場たっぷり。ラストも、重厚なサウンドでフィニッシュ!

 !いつの間にか右端に、大森さんがいるではないか!あの黒い帽子をかぶってる。 驚いてる間にも、あのリズムが叩き出され、「おおーっ!」と叫んでしまう。ギターが入って、 さらに歓声が炸裂! 
 「きんぽうげ」 
 甲斐が歌い、大森さんが、一郎が、ジョージがギターを弾いている。甲斐が大森さん の方へ寄っていく。大森さんのそばで歌う甲斐の姿に、熱狂してしまう。 
 最後の繰り返し。甲斐が前に出てくる。客席にマイクを向けたのは、少しの間だけ。 ほとんどを自分で歌い切って、ステージ中央に帰っていく。演奏が終わった瞬間、「大森 信和!」と叫ぶ甲斐の紹介に、いっそうの拍手と歓声がまき起こる。大森さん、3年前より 元気そうや。

 最初は何の曲かわからなかった。が、激しい音のなかに、あのフレーズを聴きとること ができた。これは、「裏切りの街角」や! 
 そう気づいた瞬間、僕は松藤の姿を探していた。やはり!松藤は、カースケの右で ドラムを叩いていた。久々のツイン ドラムや!甲斐バンド後期のツアーは、いつもこう やった。そして、甲斐バンドのメンバー全員が揃ったことになる!いや、もしかしたら、松藤 は「きんぽうげ」にも参加していたのかもしれない。待てよ。今日の序盤、キーボードの ところに、髪を両側に垂らした人物を見た気がする。あれも松藤やったんかなあ。 
 今日の「裏切りの街角」は、甲斐のせつない声に、客席がじっと聴き入ってる。 甲斐の手が「来いよ」と示し、みんなで「チュッチュルルー」と声を合わせた。

 「3年前にアンプラグドで、「Big Night」というセルフカヴァー アルバムをつくって。 次は、オリジナルしかないだろうと」 
 「僕はソニーに所属してるアーティストなわけですが、この甲斐バンドの新曲は、 EastWestから出る。こういう柔軟なアプローチの仕方をさせてくれた、ソニーの太っ腹な ところに感謝を。・・・いや、ほんとうに」 
 「「トレーラーハウスで」という曲を」 
 「無法者の愛」や「ナイト ウェイヴ」を思わせるきれいな曲に、せつない想いと固い 決意を込めた歌だ。自分の人生を賭けた夢と、それを一緒に実現させていくひとについての 物語。 
 「守れるはずのない 約束などしない」「守れるはずのない くちづけなどしない」という 詞が、屈強な意志を感じさせる。

 短いピアノ。それだけで甲斐がうたいだす。青と碧のライト。 
 「LADY」 
 今、この歌を聴くことができて、泣かずにはいられなかった。 
 照明が紅くなっていく。そのなかをピンクの光線がいくつも貫いている。 
 「空のポケットに満たされた虹を 強く握っては今にも壊しそう だけど 今帆を揚げ  高い波をくぐり抜け 荒れた海のなかに ふたり舟を出す」 
 右の拳をつよくつよく握り締めながら、その歌を聴いた。 
 青と碧の世界に戻る。甲斐が、ゆっくりと右手を下ろし、頭をさげる。僕のてのひらは、 とても小さすぎるけど。だけど。

 劇的な音。これもやってくれるんや。 
 「氷のくちびる」 
 客席は前半静かに息をひそめ、「抱かれてもひとつに なりはしない心で」から爆発 する。 
 甲斐と大森さんが間奏で並び立つ。音が弾けた。右の大森さんは、腰を沈め、ギター に全身の力を込めるようにうつむいている。左の甲斐は、顔を上に向け、魅入られたように 空を見つめている。 
 そして、この悲しげな音は?松藤がリコーダーを吹いていた。生でその瞬間を目に したのは、初めてや。 
 この曲の持つ痛みが、生々しく胸に迫ってくる。歌い終えた甲斐がファルセットで 吼える。後奏が激しさを増す。

 そのままパーカッションのソロが連なる。甲斐は一旦姿を消し、またろうの独壇場だ。 そして、「流民の歌」のリズムから、「翼あるもの」へ!今日はやや低めの音が炸裂。 
 拳!攻め立てるギター。甲斐はドラムスの台に上る。飛び降りて前へ走り出て来る。 速いサビ。一転、静まる音楽。甲斐はステージの先端から真ん中に戻りながら、「ウォッ」と 叫び、その後をのみ込む。それから、悲しい咆吼が二回。甲斐が両手を組んで頭上へと 伸ばす間、音数はごく少ない。そこから、おびただしい数のドラム。

 甲斐がまた右ソデに消える。またろうのパ-カッション。たっぷり聴かせて、ガッツ ポーズをしてみせる。歓声。間髪入れず、カースケが受ける。そして、これに松藤が加わる。 3人がひたすら叩く。彼らを目立たせるために左端へ寄った一郎が、煙草を吸っている。 隣のメッケンも。 
 三つのリズムが「ダ!ダ!ダ!ダ!ダ!ダ! ダ!ダ!ダ!ダ! ダ! ダ!」と、 ひとつの塊と化してゆく。それが果てたその時、ギターが響く。甲斐が現れる。 
 「漂泊者(アウトロー)」 
 あまり客席にはマイクを向けず、甲斐が歌う。僕は、「ひとりぼっちじゃあ」のとこで 弾みをつけ、思いっ切り跳んでやった。何度も。

 「25っていう数字にどんな意味があるのかわかんないけど、ひとつ確かなのは、 今日をちゃんとやるからこそ、明日がある」 
 「今日は25年目の誕生日みたいなもんだね。・・・今夜にふさわしい、これ一点、 という曲を」 
 悲しいピアノがはじまる。 
 「100万$ナイト」 
 きれいに響いていた甲斐の声が、1番の最後の部分では、つらい気持ちを絞り出す ような表情になる。静かな拍手がある。 
 「いつからふたりのベッドが 涙でいっぱいに なったのかと気づいて」という詞が、 のしかかってくる。2番の終わりでは、もう拍手はおきない。 
 「ふたりだけの誓いを もう一度だけ口にして 祈る言葉はありはしない」が、また 刺さる。「俺は、俺は叫んでる」とうたう甲斐。「25年目の誕生日」と言ってたけど、 誕生日と葬式を兼ねていると思わせるほどの、重く、壮大な曲だ。 
 バックにあるV字型の照明の間を、ミラーボールがゆっくりと上がっていく。光を放ち、 回りはじめる。甲斐が吼える。身体を伸ばして、あるいは、揺さぶりながら。そして、あの ピアノに戻っていく。

 手を振って、メンバーが去る。すぐにアンコールを求める手拍子が起こるが、すごい 大騒ぎにはならない。まだみんなの心の中では「100万$ナイト」が流れているのだ。

 短いインターバルで出てきてくれた。 
 前奏で叫び声が沸騰し、会場全体が一気に興奮状態に。ここでいきなりやってくれる とは! 
 「冷血(コールド ブラッド)」 
 正面後方からだけでなく、左右の斜め後ろからも白い光が差す。着がえてきた甲斐の 白いシャツを、ライトが赤に、青に染める。「Cold Blood」の低い呻り。 
 3番に入る前は、もちろんあの、肘を落とすアクションだ。僕も同じ動きで、燃え上がる。

 「みんなを呼んで、「HERO」をやろうぜ!」 
 甲斐のこの言葉に客席が応え、蘭丸と甲斐バンドのメンバーが入ってくる。大森さん は、黒のカウボーイハット。 
 「この人数分、馬力出して行こうぜ」甲斐がバックに声をかける。 
 もう、歌いまくり。拳上げまくり。「ウォーオオ、ウォオ、ウォオ」とかいうのも全部、 甲斐といっしょに叫ぶのだっ。 
 「甲斐バンドと蘭丸に拍手を!」のセリフに送られて、4人が帰っていく。

 しかし、他のメンバーは残っている。まだやってくれるのだ! 
 「サンキュー。今夜はみんな、来てくれて、ほんとに感謝してる」 
 「TKも来るはずだったんだけど、外国へ行っちまって。「ゲストのand moreって 誰なんですか?」って、よく聞かれたんだけど。ほんとは、and moreっていうのは、君たち オーディエンスのことで。全国で、それぞれに曲を謳歌してくれてる」 
 これ以上の言葉があるだろうか?感激の拍手と、「甲斐ーっ!」の声。 
 「TKとの最後の4枚目のやつを。太っ腹のソニーが、来年出してくれるでしょう」と 言ってから、迫力ある声で、「何でもいいから、出してくれよ」 
 「その名作をやるぜ」 
 「Against the wind」 
 ついに聴くことができた。口ずさみやすいが、決して軽くはない。「人の波に逆らって  どこかで また吼えてる」「優しさに 逆らって どこかで また吼えてる」という、強い部分の 詞に惹かれる。 
 「against the wind・・・」甲斐が囁く。

 メンバーがステージを後にする。客席を、暗めの灯りが照らす。 
 「電光石火BABY」に始まって、新曲「Against the wind」まで。ここで終わっても、 ふしぎはない。しかし、アナウンスは流れない。BGMは聞こえない。いいぞ!もっとやって くれるかもしれん!願いを込めて手を叩く。叩き続ける。手拍子が甲斐コールに変わりかけ たとき、ステージが明るくなった。

 メンバーが位置につく。左ソデに立ってる人が、何か合図を送っているのが見える。 甲斐が出てくるのが遅れてるのか?そんな想像をしてみたが、すぐに演奏は始まった。 そして、甲斐が走り出てくる! 
 「風の中の火のように」 
 今夜も、ROCKUMENTヴァージョンとはちがった。KAI FIVEの曲は「幻惑されて」 だけにすんねんなあ、と思っていたが、そうや、これを歌わないはずはない。甲斐が「90年 代の「漂泊者(アウトロー)」だ」と言った、この曲を。 
 前に出ていた甲斐が、間奏で元の場所に戻る。ぎりぎりのタイミングでマイクスタンド に口を近づけ、「ウォー、オーッ!」と叫んだ。 
 火をイメージした真っ赤なライティングもあった。最後の盛りあがりで、僕は手拍子し ながら跳び続けた。「甲斐ーっ!」と声のかぎりに叫ぶ。

 さすがに、もう終わってしまうんやと思った。しかし、甲斐はまだマイクスタンドの前に いてくれた。 
 静かにリズムを刻む音がしはじめる。そこへ、あのギター!驚きと歓びの声が、 飛天に響く。 
 「この夜にさよなら」 
 「暗く果てない 道のはずれを 僕は泣きながら 流れてゆく 暗く果てない 夜の 終わりを 僕は泣きながら 漂ってゆく」 
 涙が流れる。大好きな曲。初めて生で聴くことができた。そして、今いちばん聴き たかった歌。 
 「時には朝の星のように そっとやさしく ほほえんでくれた 時には夜の太陽の ように 後ろ姿で 消えていった」 
 痛切な2番と4番にはさまれたこの3番の詞に、今日はやさしい印象を受けた。 
 「抱きしめたくて 何かに触れてみた 確かめたくて 誰かをもとめた 凍てついた心 の中の階段を 僕はいつまで 歩き続ける」 
 この曲独特のうねりを背に、甲斐がうたっていく。そして、あのハーモニカ。 
 5番を突き放したうたい方にはしなかった。1番と同じように、「ひとりぼおっちでー」と うたう。最後も、「この夜にさよなら」とうたった。 
 「ルルルルルルル ルルル ルルル・・・」と切ない歌声を聴かせる。それが終わると、 マイクスタンドを離れ、左右の客席前まで進んで、手を上げ、声援に応え、おじぎをする。 最後に中央でもう一度、オーディエンスに感謝の気持ちを表し、甲斐は立ち去った。

 メンバーも帰ってゆき、飛天に「歓喜の歌」が流れる。後で教えてもらったところに よると、オープニングの曲とともに、キューブリックの「時計じかけのオレンジ」に使われて いるそうだ。 
 その後には、あの女性コーラスと、時を刻むような音、そして甲斐の歌。これが、 「トレーラーハウスで」のカップリングになる「安奈」のニュー ヴァージョンなのだろう。 
 余韻に浸りながら、ステージを眺める。最初の虹色の光が、飛天に降りそそいでいる。 客席上のライトは、黄昏の色に染まっていた。

 たっぷり3時間。実に、全29曲。ほんまに心から満足したあ。 
 こういう会場やけど、ロックにこだわってくれたし。甲斐バンドをさりげなく出した展開 も、かっこよかった。それに、最初と最後はソロのメンバーで決めてくれた。甲斐バンドに 強い思い入れはあるけど、僕は、今のジョージたちも大好きなのだ。甲斐が自分の音楽を 表現するために選んだメンバーであり、何より数々のステージで感動のプレイを見せて くれてるんやから。 
 今夜のステージから感じたのは、生きるうえでの悲しみ、望んでいる愛をいつも得られ るわけではないという孤独、しかし、それでも生きていく勇気。

 何でもこの言葉でかたづけるのは、好きじゃない。でも、今夜は他に言葉が見つかれ へんから。 
 甲斐さん、ありがとう。

 

1999年11月13日(土) 新高輪プリンスホテル 飛天

 

電光石火BABY 
ポップコーンをほおばって 
レディ イヴ 
ダニーボーイに耳をふさいで 
渇いた街 
シーズン 
ナイト ウェイヴ 
BLUE LETTER 
ダイナマイトが150屯 
レイン 
ミッドナイト プラス ワン 
I.L.Y.V.M. 
レイニー ドライヴ 
安奈 
ビューティフル エネルギー 
幻惑されて 
きんぽうげ 
裏切りの街角 
トレーラーハウスで 
LADY 
氷のくちびる 
翼あるもの 
漂泊者(アウトロー) 
100万$ナイト

 

冷血(コールド ブラッド) 
HERO 
Against the wind

 

風の中の火のように 
この夜にさよなら

甲斐よしひろ ~SPECIAL ACOUSTIC SET~ GUY BAND

1999年8月12日(木) 那智勝浦シンボルパーク野外特設ステージ

 朝6時半に家を出た。和歌山とはいえ、那智勝浦は遠いのだ。三重県に近い。しかも、 節約のため特急には乗らないことにしたから、時間がかかる。 
 天王寺-和歌山-御坊-紀伊田辺と乗り換えて行く。ほとんど寝ててんけど、途中 目を覚ましたら、窓の外はすでに海。青碧色でめちゃめちゃきれいや。どこまでも続く水平線。 砕ける白い波。振り返れば、山側には「これが入道雲じゃあっ!」てな感じの雲がもくもく。絵に 描いたような夏やった。眺めてるだけでしあわせになる景色。 
 紀伊勝浦よりも会場に近いらしい那智駅で電車を降りる。1時半頃だったか。駅のすぐ 裏に海水浴場が広がっている。ほんまにきれいな海や。考えたら、太平洋に入ったことない ねんなあ。ライヴ会場の那智勝浦シンボルパークへと海沿いに歩きながら、僕は本気で泳ぐ ことを考えはじめていた。海パン持ってきてないけど、短パンに着替えて入ればいいや。

 シンボルパークはすぐだった。あまり広くはない。野外特設ステージもすぐに見つかっ た。ここまで海から近いとは。 
 小さいのを想像していたが、立派なものやった。ふつうの野外音楽堂くらいはある。 舞台上方には白い屋根。照明もきっちり組まれ、吊されている。客席はすべて芝生。細い 丸太が横たわっているのが座席になっている。客席の後方、舞台正面には照明や音響の スタッフが作業をするらしい小屋がある。客席の右手には巨大スクリーン。他のイベントで 使うらしい。 
 強烈な日射しの中を、すでにファンがたくさん並んでいる。甲斐のTシャツを着ている者。 水着姿。地元の若い女の子。子ども。下に敷くビニールシートを持っている人が多い。 
 ステージにはスタッフが数人立っていて、リハーサルが始まろうとしていた。周りに 遮る物などないので、並んでいる客席最後方から全て見ることができる。 
 驚いた。パーカッションがあるではないか。今日は3人ではないのだ。6月のツアーに も参加していたまたろうが楽器の音をたしかめている。パーカッションが加わったGUY BAND はどんなだろう。ああ、わくわくする。 
 短パンの松藤、帽子をかぶり地味な服装をしたジョージも現れる。「ジョージ君の音、 もらいまーす」「250から315」などというスタッフの声が飛び、チェックが進んでいく。その 過程で何曲かが一部分だけ奏でられた。おっ、「破れたハートを売り物に」があるらしいぞ。 そうかあ、「風吹く街角」やるんかあ。GUY BANDヴァージョンめっちゃいいもんなあ。 「レイニー ドライヴ」は聴きたかったのだ。 
 いつの間にか、甲斐もいる。キャップとサングラスで、顔ははっきりと見えない。今日 もあの髪型なのだろうか。グレーのTシャツを着ている。 
 3人で「ザザザザッ ザザザザッ」というストロークが続く曲を弾く。コードの移り変わり に耳をすますが、どの曲なのかわからない。謎だ。そして、楽しみだ。 
 歌も入れて「野生の馬」。1曲まるまる聴けて得した気分。海辺の方まで響いていた だろう。 
 演奏が終わると、並んでるファンから拍手。リハの最中に騒いでいいのかわからず、 控えめな拍手にとどめた。 
 ヴォーカルがあったのは「野生の馬」1曲だけ。メンバーはこれで姿を消し、残った スタッフがチェックを続ける。僕は海のことなどすっかりどうでもよくなってしまった。太陽の 下、ひたすら開場を待つ。近くで見たい。

 ファンの列にスタッフが1人近づいてくる。「木の下の辺りの方、雫に気をつけてください」 
 木に巻き付けてある装置から霧のような細かな水が噴き出される。会場まわりの 何本かの木から一斉に。白い霧が風に乗って芝生の上を流れていく。日射しにさらされ続け ていたから、ありがたい。 
 3時に開場。3列目の真ん中を確保できた。リハを見て、今日は甲斐が真ん中に 立つことを確認してある。左に松藤、右にジョージだ。パーカッションは左後ろ。GUY BANDの ときにはジョージが真ん中にくることが多いのだが。甲斐のイスもロッキングチェアーではない。 
 客席は芝生に丸太が埋めてあった。細いのが3本ならんでいて、そこに腰を下ろす ようになっている。3列目は影になっていて、風もあり、ぐっとすずしくなった。 
 すわってファンクラブの会報を読む。シンボルパークには、食べ物や南紀名物の 売り場、テーマ館などがあるけれど、ライヴに集中や。

 開演が近づく。傾いた日射しがまぶしい。何度かあの霧が撒かれている。 
 ステージのすぐ後ろを列車が通っていく。その音でBGMがかき消される。こういう ステージもめったにないだろう。 
 5時を少しまわった。特急が警笛を鳴らして通り過ぎる。舞台左手奥の幕から、 ジョージ、松藤、またろうの3人が歩いて出てくる。BGMもなく、ごくしぜんに。拍手が起こる。 
 そして、甲斐も歩いて登場。「甲斐ーっ!」の声。白のTシャツに黒のベスト。黒の ズボン。青いサングラス。そして、髪は肩にかかるくらい。色も黒に戻している。これがかっこ よかった。 
 「野生の馬」の前奏。甲斐はまずペットボトルの水を口にふくんでからうたいだす。 
 「風を聞いて」のところもすべて「風を切って」とうたう。パーカッションの、鮮やかな 青い短冊みたいのがならんだ楽器が出す、シャラシャラいう音が心地よい。 
 今日はほんとうに「青い空の」「自然の中で」の「野生の馬」だ。 
 甲斐はサビをうたうとき、右肘を曲げ、上に向けた指に力を込める。何度聴いても このハーモニーにはしびれるなあ。

 甲斐がギターを持つ。パーカッションと甲斐のギターではじめ、ジョージと松藤のギター も加わる。 
 「破れたハートを売り物に」 
 ここへ持ってきたか。客席も手拍子と歌声で応える。甲斐も「サンキュー」と言ってくれる。

 アコースティックでもレゲエなのだ!「安奈」 
 うたい出しで拍手が起こる。今日は甲斐フリーク以外のお客さんも多いから、有名な 曲には反応が大きい。 
 「安奈 お前に逢いたい」をタイミングを変えてうたった。今日は客にうたわせること なく、すべて甲斐がうたい切る。

 「こんばんは」と言ってから、甲斐は笑う。ふつうの挨拶からはじめたのが何だか自分で おかしくなったみたい。 
 「汽車の汽笛は鳴ってるし。ここは、いいよ」 
 みんな笑顔で拍手。 
 「特急が行ってから出ようと。BGMいらないね」 
 あれはやっぱり特急を待ってから出てきたんや。こういうのは最初で最後かもなあ。 
 四分の一世紀経ってしまったと笑いながらBOXの話。NHKのBSでやる特番に ついても。鶴瓶がインタビュアーで、小林よしのり、さんま、TKのメッセージが入り、全体の ナレーションはダウンタウンの浜田だという。このメンバーには甲斐も「濃い」とうなった。

 「もう1曲昔のナンバーを」 
 拍手が起きる。「新宿」か「ブラッディ マリー」かと思ったが、続いてもヒット曲やった。 前奏でさらに大きな拍手。 
 「裏切りの街角」 
 通常のアコースティック ヴァージョンにパーカッションが利いている。甲斐の声に 聴き入った。

 メンバー紹介。 
 「ベースとアコースティック。松藤英男」と言ってから、「昔某有名バンドでドラムを 叩いてた」とつけ加える。今日の松藤は、右足を踏み踏みベースを弾いている姿が印象的 やった。腕の筋肉が意外に盛り上がっていた。鍛えているのだろう。 
 「それは(君も)いっしょだね」と笑って、甲斐がパーカッションのまたろうを紹介。 またろうは投げキッスでおどけてみせた。今日はタンバリンでシンバルを叩くという技も 見せてたなあ。 
 最後にジョージの名を呼びあげる。リハとは打って変わって、白の豹柄の衣装だ。 
 「このアコースティックの編成は2年くらい前からやってて、気に入ってます」

 「バラードをやりましょう」 
 繊細にはじかれるギター。「レイニー ドライヴ」 
 甲斐はギターを取らず、ヴォーカルに専念。この曲では左手の指を上に向け、 情感をこめてうたう。 
 「サーチライート」からの甲斐と松藤のハーモニー。レコードとはちがうこのアレンジも 大好きや。「スリッピーン トゥー ザ レーイエーン」というふうにうたうのだ。

 「レイニー ドライヴ」の余韻にひたっているところへ、いきなり激しい曲が始まる。 
 「風吹く街角」 
 パーカッションが入って、なぜかよりメロディアスになったように感じた。 
 間奏の最後、ジョージのギターが一撃。「ふたり破裂したのさ」へ。

 続けて「風の中の火のように」 
 静かなギターから入るROCKUMENTヴァージョンだ。 
 「君なんだ」とうたったところでパーカッションが加わり、演奏が激しくなる。同時に バックのずっと青だったライトがオレンジに変わる。太陽が出ている中でのライヴだけに 照明が目立つことはなかったが、これは鮮やかやった。 
 間奏。甲斐はいつもより一瞬遅らせて「イエーエエー」と叫んだ。

 「漂泊者(アウトロー)」 
 BIG NIGHTヴァージョンなのに激しいのは、パーカッションのせいだけではない。 甲斐の歌い方も、ギターもそうなのだ。客席も熱い。

 「ザザザザッ ザザザザッ」というストロークが響く。リハでやってたあの謎の曲や。 
 甲斐が低く歌いはじめても、最初はまだわからなかった。「ワンナイトショー」という詞が 耳に届く。最初のサビをとばして歌い出されたのだ。まさかこの曲が「HERO」だったとは! 
 このアレンジはまったく初めてや。新鮮で、かっこいい。やっぱりいい曲なのだ。 拳を突き上げる。またろうも歌いながら人差し指を突き上げている。いいぞ。 
 最後も「ザザザザッ」というストロークでフィニッシュ。 
 甲斐はイベントのときも必ず1曲特別なことをやってくれるけど、今日はこれが スペシャルだ。「HERO」にまた新たな息吹がふきこまれた。ほんまによかった。

 「かき氷持ってるやつがいるけど、それも今日は許そう」という声に会場が沸く。 
 「もっと混雑してるのかと思ったら、ちゃんと聴いてくれて」 
 客席は後ろもいっぱいになっていて、横の方にも立ち見が出ていた。 
 「あっという間に最後の曲」 
 「えーーっ!」という大きな声があがる。 
 「とにかく長く見たい?」と言うと、大拍手。 
 しかし、「だって、これ以上やると怒られるんだもん」 
 このステージと横のスクリーンを使った「生命と海のシンフォニー」というイベントが 毎晩あるのだ。 
 「みんなに感謝してます。サンキュー。ありがとう」

 「新しくレコードをリリースするって話もあるけど、それは置いといて。いちばん古い 歌をやりましょう」 
 「バス通り」 
 甲斐の声が切なく響く。特に、甲斐がひとりでうたう部分の語尾。「寝ぼけまなこの 僕を見てぇ」とか。沁みた。

 メンバーが去っていく。後ろに遠慮してすわっていた僕も立ち上がって拍手し、 「甲斐ーっ!」と叫んだ。大きな拍手と歓声。甲斐ははじめてサングラスを取り、にこやかに 手を振ってくれた。ファンクラブ会報のブライアン・ウィルソンについての日記が頭をよぎる。 
 すぐにBGMが流れはじめたが、手拍子はやまない。「甲ー斐!甲ー斐!」のコール。 「アンコール!アンコール!」の叫び。僕も何度も「甲斐ーっ!」と声をあげた。アナウンスが 二度入ったが、観客は動かない。 
 しかし、スタッフがステージに現れ、作業に入る。 
 いくらでも聴いていたいけど、今日はしかたがない。大いに満足した。特に「HERO」 と「バス通り」がよかったなあ。

 夕方の海は水色に変わり、こまかな波をたくさん浮かべていた。浜に人影もない。 
 那智の駅も無人になっていた。だれもいない改札を抜け、帰りのホームに降りると、 ライヴを見てきたらしい家族連れがいた。おばあちゃんと娘たち、そしてお孫さん。 
 おばあちゃんがしゃべっている。「最後から2番目の歌は知ってる。今の流行歌は わからんけど、あれは覚えてる。流行歌はよっぽど歌のうまい人のじゃないと、よう覚えんが」 
 列車が入ってきた。まだ6時半になっていないが、今日中に大阪へ帰れる最後の 列車だ。 
 7時を過ぎると、紀勢線の車窓から見えるのは闇ばかりになった。来たときの美しい 景色はもはやない。それでも僕はみたされていた。

 

1999年8月12日(木) 那智勝浦シンボルパーク野外特設ステージ

 

野生の馬 
破れたハートを売り物に 
安奈 
裏切りの街角 
レイニー ドライヴ 
風吹く街角 
風の中の火のように 
漂泊者(アウトロー) 
HERO 
バス通り

甲斐よしひろ Highway25 ”UP”

1999年6月4日(金) Zepp Osaka

 そういう時間やと思っていた。それで、コスモスクエア駅を降りると、まず海を眺めた。 きれいな夕陽が水平線に沈んで行くところやった。その景色をしばらく見てから、会場へ。

 このZepp Osakaで昨年暮れに行われたライヴでは、全部自由席で整理番号順の入場 やった。が、今回は指定席。ファンクラブで獲ったにもかかわらず、二階だ。しかし、前から 2列目のど真ん中。見やすいし、どんな席でも燃えることに変わりはない。 
 ステージをひと目見て気がつくのは、パーカッションがあること!いつものように真ん中 後方にドラムの台。右奥にキーボードの台、左奥にベースの台がある。右前にギター。そして、 左前にパーカッションがあるのだ。それを見て今日やるであろう曲をひとつすぐに思いついた。 「氷のくちびる」だ。近年本格的にパーカッションを起用したステージは、BEFORE The  BIG NIGHTのみ。そのときアルバム「Big Night」のヴァージョンで歌った「氷のくちびる」が 印象に残っていたのだ。

 開演が遅れている。大阪の開演前にしては、客席は静かめ。やがて湧きあがってきた BGMは、壮大なクラシック。このところ続いていた西部劇のテーマではない。 「2001年宇宙の旅」に使われていた「ツァラトゥストラはかく語りき」。暗転した会場に、 真っ白なステージのドラム台下から光がのび、高まる曲と相まってセットがUFOのイメージ に見えてくる。 
 メンバーが出てくる。一郎はいない。ステージ左前のマイクは、パーカッションのための ものだったのか。甲斐も、もういるではないか。ギターをかけている。「ポップコーンを ほおばって」か?

 最高潮に達したBGMが消え、さあ、激しいビートが襲って来るぞ!と身構えた。ところが、 聞こえてきたのは、あのフレーズ。まさかの「安奈」! 
 完全に裏をかかれた。暮れのライヴを見て、やはり1曲目は激しい曲で来ると思い 込んでいた。このところ中盤に「安奈」を歌うのが定着していたが、こういう形でそれを破る とは。92年の「甲斐よしひろHISTORY」では、1曲目に「HERO」、1番最後に「安奈」を 歌ってみせたが、その逆をやろうというのか? 
 しかも、今日の「安奈」はレゲエ ヴァージョンである。マイクスタンドの前に立った 甲斐は、髪型がちがう。驚いたことに、色も銀だ。 
 みんなで声を合わせてうたう雰囲気ではなく、レゲエのリズムを感じながら甲斐の声 を聴く。1番が終わると拍手。歓声。 
 2番後の間奏でハーモニカ。じっくり聴いていた会場に、甲斐が「うたっていいんだぜ」 と手で示し、客席の歌声がだんだんひろまっていく。「愛の灯をともしたい」は客たちだけに 歌わせてくれた。

 続いて、きれいな音の前奏。レコードより高めに感じられた。甲斐はまたギターを 弾いている。 
 「無法者の愛」 
 ひさびさや。ついにやってくれたかあ。客席はサビになっても、コーラスよりも、圧倒的 に甲斐と同じところをうたっている。気持ちはわかるぞ。俺も甲斐といっしょにうたいたいもん。 
 3番の最後も、甲斐は2番までとおなじ歌詞でうたった。みんなもそれにあわせて うたう。

 間髪を入れず、印象的なアコースティック ギター。 
 「KI-RA-ME-I-TE」 
 暮れのライヴが終わってから、甲斐は「やっぱりTKとの曲は打ち込みを活かした方が よさそうだ」と語っていたはずだ。しかし、今夜のこの曲も、ギターの音が暖かい。CDよりも たくましい。 
 小室と組むことに拒絶反応を見せ、ろくに曲を聴こうともしない人もいるようだが、 この演奏を何の先入観もなく聴いたら、甲斐はまたいい曲書いたなと思うのではないだろうか。

 ミディアム テンポの曲が3つ続くという意外なオープニングが終わる。マイクスタンドへ 向かう甲斐を歓声が包む。甲斐の今夜の第一声だ。 
 「25周年の話は後でゆっくりやるから。とにかく今夜は最後まで楽しんで。やるよ」

 光の波。キーボード。 
 ここから激しい曲をやるのかと思ったが、またもやちがった。だけど、みんなで大合唱 する曲や。 
 「ナイト ウェイヴ」 
 サビを繰り返したあと、12インチ テイクの長い間奏へ。軽快なビートが響く。その 間も客は「ナーイト ウェーイヴ ナーイト ウェーイヴ」の合唱を止めない。間奏の曲調が 変わったところで合唱がしずまっていき、音がひろがる。いい感じや。 
 再びサビの波が戻ってくる。最後の静かな部分を、甲斐は座り込みながらうたう。 マイクスタンドの後ろに立ちあがり、おじぎをするように身体を折る。そして、曲のフィニッシュ と同時に身体を起こして右手で宙をかいた。これはよかった!

 あの弾むリズムに、パーカッションの明るい金属的な高い音が加わってる。 これはもう跳びはねずにはいられない! 
 「電光石火BABY」 
 跳ねながら合唱だ。キーボードの前野選手がファルセットでコーラスをかぶせてくる。 
 「クールなやつさ ロッキン クイーン」という詞はなし。「タフな野性の女なのさ」と 甲斐は歌う。 
 暗転した場内に「ベイベー、ベイベー、ベ、ベ、ベイベー」という声が響き、またライトが ついて「電光石火ベイベー!」の繰り返しへ。

 低くうなるようなドラムが響く。キーボードが襲いかかる。ビートの連打に身体が自然に ジャンプする。これはまぎれもなく、アルバム ヴァージョンの「ダイナマイトが150屯」! 
 一瞬、PARTYの大阪城ホールが脳裏によみがえった。ROCKUMENTヴァージョン も大好きやけど、このアレンジも盛りあがるのだ。まさかやってくれるとは。中盤でやるのも 意外やった。 
 後奏、甲斐だけがスポットを浴びる。マイクスタンドを廻すところで、照明が全て 真っ白になった。これまでは廻すところでスポットが当たることが多かったと思うが、今日は 新たなライティングやった。

 「嵐の季節」の前奏が流れる。FIVEからのヴァージョンだ。 
 静かな歌い出し。場内に甲斐の声が強くしみわたる。じっと聴き入る客席。やがて 拳があがり、合唱が起こりはじめる。最後の繰り返しでは、序盤の静けさとうって変わって みんなの大合唱になった。

 イスが用意され、そこに座る甲斐が照らし出されると、大きな拍手。 
 「元気だとは思ってたけど」と大阪の客に語りかける。好調な阪神の話題から。85年 のツアーを思い出す。阪神ファンではないが、野村監督の作戦をシュミレーションしながら 見ているという。サッチーにも少しだけ触れ、「今日は「神田川」で打ち上げやりたかった」と 笑ったが、スタッフに「それ、MCで言うでしょ!それ、MCで言うでしょ!」と阻止されたらしい。 
 「シングルが延び延びになって。とうとう9月?プロデューサーに任せてるから、どうに でもしてくれって感じですが」 
 こういう発言をするときの甲斐は、その裏で綿密な作戦を進行させているのだ。長く 甲斐ファンをやっていればわかる。秋に出るシングルは、かなり気合いの入った形で世に 出ていくことだろう。 
 そのシングルより前に出すというBOXセットの話。僕はすでに入場時に予約を 済ませてある。特典がつくっていうねんもん。 
 未発表曲あり。未発表アウトテイクは、27、8曲に及ぶという。 
 デビュー シングル「バス通り」の、発表されているテイクの10日前にレコーディング されたもの。間奏が2回あって気持ち悪いと言いつつ入れるとのこと。「らいむらいと」の 裏話も披露してくれた。 
 「大阪といえば、花園だよね」に、会場が沸く。「あの花園ラグビー場のライヴからも 1曲入ってる」で、さらに沸く。 
 「これくらいある鉄柵が、こんなに曲がってたんだぜ。最初は「痛い、痛い」とか、 かすかに聞こえてたんだけど、前の女の子たちがそのうち「ぐぅ・・・ぐぅ」って声も出せなく なってて。よく死者が出なかったよね。あれは1曲目にいきなり、「破れたハートを売り物に」 をやったのがいけなかったか。で、途中で「下がれ」とかって客に説教してるんだよね。 延々20分」 
 何と、その説教も編集して入れたという。これにはみんな驚き、そして、大よろこび。 
 「ここで入れておかないと、永久に陽の目を見ないと思ったんだ」というのがキーワード だろう。シングルもほとんど網羅したとはいえ、このBOXセットは、いわゆるベスト盤とはちがう。 レアなものを集めた、本で言えば「か・さ・ぶ・た」のような作品集なのだろう。 
 「変わっていくものをたしかめつつ、変わらないものを見つめる」という作業でも あったという。 
 長い説教の後にうたったため、バックのメンバーも緊張感を持って演奏がよかった、 という冗談とともに、「安奈」が花園ライヴから入ることが告げられた。 
 「あのときすでに「安奈」をレゲエでやってるんだよね」 
 甲斐本人もテープを聴き直すまで忘れていたという。この流れが今日の1曲目に つながっててんなあ。 
 他に収録される曲は、甲斐バンドの「イエロー キャブ」!と「電光石火BABY」! 
 「「イエロー キャブ」なんて、大森さんがシンセ弾いてるんだよ。バンドでやる意味ない だろう」 
 ROCKUMENT IVで言ってたとおり、加山雄三トリビュートの「霧雨の舗道」も入る。 「CMで歌った沢田研二の曲」というのは、まちがいなく「時の過ぎゆくままに」だろう。 
 たっぷり話してくれたMCを、甲斐はこの言葉でしめくくった。 
 「この曲ももちろん入っている。「BLUE LETTER」」

 オリジナルに近い前奏が、海を感じさせる。 
 「とある小さな」と甲斐がうたうと、キーボードが美しくも悲しい音を重ねる。甲斐の声。 語尾の響き。 
 泣けた。ほんとうに涙がでた。圧倒的な痛みだ。 
 2番の後のハーモニカ。甲斐はイスから立ちあがり、左手から力なくハーモニカを 落とす。そして、よろめくように前へ出て3番をうたいだす。甲斐はそのすべてで、 「BLUE LETTER」の世界を体現していた。

 今夜の「レイン」は静かに聴く感じやった。 
 それで、僕は拳をあげなかった。甲斐も1、2番それぞれの最後、 「こみあげる痛みを BABY 冷たく殺して 今夜 今夜 すべての星が 彼女を照らす」 と「ものがなしい 汽笛が響く 消えてゆく パラダイス」を悲しげにうたう。 
 しかし、甲斐のヴォーカルは、繰り返しからはだんだん力強さを増していった。 
 後奏で、甲斐がステージ真ん中奥へと姿を消す。そのまま左手からステージを降りて 行ったようだ。 
 演奏が終わると、メンバーも去っていく。いったい何がはじまるのだろうか。

 誰もいなくなった真っ暗なステージに、打ち込みの低い音だけが響きはじめる。 オープニングのBGMで感じたイメージがよみがえってくる。と、1人だけ残っていたらしい キーボードがソロを奏でる。しばらくそれが続くもんやと思い、右奥のキーボードだけを 注視していた。 
 突然、舞台左にライトが当たり、甲斐がそこにいた。ベースの台のところに腰かけて いたのだ。「よりよい世界夢見ながら」とうたいだす。いつの間にそこにいたのか。 ストレート ライフ ツアーの「エキセントリック アベニュー」を彷彿とさせる。しかし、 もっと驚くべきことがあった。甲斐はインカムをつけているではないか! 
 甲斐は立ち上がり、「真夜中人影もない道を 俺は ひとり 行く」のあたりで、舞台 中央まで歩きだす。最後の「西へ」のところで両手をかかげる。 
 正直言って、僕はめんくらってしまった。何しろ、まったく初めてのことである。 インカムをつけると、両手が空くので、どうしても手のアクションが目立ってしまう。 
 インカムの調子をたしかめながら、歩いたりしゃがみ込んだりしてうたう甲斐。舞台 全体が演劇スペースのように感じられる。 
 「荒野をくだって」にひたりきれないほど、僕には違和感があった。 中央のマイクスタンドの前に立ってバラードをうたう甲斐の方がしっくりくる。その甲斐の姿を じっと見ながら静かなうたを聴き、曲のイメージをふくらませるという聴き方をしてきた。 それができるほどのヴォーカルの力があるだけに。 
 甲斐は舞台右手に歩き去り、キーボードも消え、あの低い響きだけが残る。拍手が おきる中を、メンバーが帰ってくる。

 音が噴き出し、七色のライトが斜めに走る。虹と雨のイメージなのだろう。以前と まったくちがったライティングが映える「イエロー キャブ」 
 去年「HEY!MONOCHROME CITY」をうたう前にこの曲にふれたMCがあった。 あのときの言葉とびったり符合する。 
 ソロのときにやっていたヴァージョンだ。あの間奏をまた聴くことができた! 
 甲斐は、この曲もインカムで、動き、両手で表現しながらうたった。

 新しいアレンジで、前奏では何の曲かわからない。ステージ中央奥からマイクスタンド へ向かって甲斐が躍り出る。大歓声。やっぱりこの方が、安定感がある。 
 「風の中の火のように」 
 「君なんだ」のところで、すごい歓声がまき起こる。 
 今日は「なぜみんなひとりで踊る? 悲しみ秘め 見えぬ人と 激しい叫び押し隠し」 という詞が胸に迫ってきた。この詞がこんなふうに自分の中に入ってきたのは初めてやった。

 パーカッションのソロがはじまる。けっこうたっぷりと長い。リズムが高まって行き、 最後は「ドンドンドン、カッカッ ドンドンドン、カッカッ」と弾む。次の瞬間「ダーーンッ!」と、 全ての音が叩き出される。同時に、バックは夕焼けの色に染まり、翼のように両腕を しなやかにのばした甲斐のシルエットが浮かびあがる。ものすごい大歓声! 「流民の歌」ヴァージョンの「翼あるもの」だ! 
 最高に興奮した大合唱になった。甲斐は、「土砂降りの雨を抜け」とだけ歌って、 あとはマイクを客席に向ける。こんなに長く客だけに歌わせてくれたことがあっただろうか。 「行く先を 決めかねて」から、甲斐がまたマイクを使いはじめる。 
 1番が終わって爆ぜる歓声を、パーカッションの利いた間奏が一段と煽る。 
 2番が終わると、ジョージが前へ走る。演奏がさらに激しさを増す。甲斐はドラムスの 台にあがる。ペットボトルの水を口に含み、台から飛び降りてマイクスタンドへ走りながら そのボトルを客席へ放り投げた。ペットボトルは水を吐きながら、一階指定席右後方へ 飛んでいく。大きな声が湧き、甲斐の歌とともに大合唱と手拍子の嵐へ。 
 「俺の声が 聞こえるかい?」からもリズムは激しいまま。大合唱は弱まりはしない。 歌い終わりで拍手が起こり、それもやみ、ひろげた両腕を頭上にかざし指を組む甲斐を 一心に見つめる。曲が最後の高まりを見せ、ふたたび大歓声と大拍手が沸き起こる。 
 考えてみれば、これがいちばん劇的な動きだ。インカムをつけてのアクションに 過敏になることはなかったのかもしれない。そう思えた。

 「翼あるもの」が果てた刹那、パーカッションがリズムをつないでいる。おお!これは 「ポップコーンをほおばって」や!甲斐バンド後期のライヴでは、パーカッションの音楽から 「ポップコーン・・・」に突入するのが定番やった。 
 しかし、パーカッションのリズムは変わり、カースケのドラムとのセッションがはじまる。 熱い叩き合いからカースケ渾身のビートが刻まれ、はじまったのは「漂泊者(アウトロー)」! パーカッションに縁取られた前奏は、いつものように跳びはねたくなる音ではない。 足を踏み鳴らしたくなる感じ。手拍子を打ち、足で床を踏みつけ、首を振り、声をかぎりに 歌う。

 「みんな、いいよ」の言葉に、よろこんで拍手。 
 「TKと最初に出した曲を本編の最後に」 
 あの信号音。「Tonight I need your kiss」 
 甲斐はメロディアスなうたい方をする。信号音を、やはりギターがかき消していく。 しっとりとした情感がつたわってくる。完全に甲斐の手中に入れている。これまで以上に 最高や。

 バラードの余韻に酔いながらも、甲斐コールが起こる。 
 メンバーが先にやって来る。ステージを横切るジョージの名を叫んだ。明るい青の Tシャツに着替えた甲斐が登場。歓声が高鳴り、甲斐は笑顔を見せる。 
 「メンバーの紹介を」 
 パーカッションのことを「最近の飲み友だち」と言ったのが印象的。ジョージへの 声援が多い。

 強力なビートのなか、逆光にメンバーの影が浮かぶ。カウベルが吼える。扇情的な リズム。このアレンジ大好きなのだ。「きんぽうげ」 
 両サイドからライムグリーンのライティング。歌い出しで甲斐はマイクスタンドを 蹴り上げる。左後ろに振り向き、腰を落としてマイクスタンドを受けると、そのままスタンドを 振り廻しながら身体を起こして歌う。 
 ジョージが左に来て弾きまくる。甲斐は1番を歌い終えると、その前にしゃがみ込んだ。 2番の終わりではあの、身を翻すアクション。 
 最後までひとりで歌いきるかに見えたが、ぎりぎりのところで客席にマイクを向けた。

 前回に引き続き、この位置へ持ってきたか。「HERO」 
 ストロボの光。今夜はじめて激しい曲がインターバルなしで2曲続いたことになり、 場内は熱狂していった。

 まずメンバーが立ち去る。甲斐はひとり残って、声援に応えてくれた。客席に手を振り、 左ソデへ歩いて行く。 
 すぐに大きな甲斐コール。バラードの余韻が残っていた1回目のアンコールよりも、 確実に激しい。手拍子と甲斐コール、「甲斐ーっ!」の叫び声が交錯する。 
 興奮は続いている。なのに、そのとき突然、アナウンスが入った。 
 「本日のコンサートはすべて終了しました・・・」 
 えーっ!!という悲鳴が起こる。まさか!信じられない。ステージの去り方、照明の 落とし方も、まだもう1回出てくる雰囲気やった。 
 必死の甲斐コールがさらに大きくなる。僕も願いを込めて思い切り叫び続けた。 係員が客を外へ出そうと声をあげるが、誰も帰ろうとはしない。手拍子、甲斐コール、 「甲斐ーっ!」の声。アナウンスは繰り返されるが、そんなものはかき消される。みんな やめない。もう1度、甲斐に出てきてほしいのだ。あと1曲歌ってほしいのだ。 
 大声で甲斐を呼び続けるなか、ローディが出てきてステージを片づけはじめる。 ほんとうにもうだめなのか。いや、あきらめないぞ。何度も「甲斐ーっ!」と叫ぶ。甲斐コール から「アンコール!アンコール!」の大合唱に変わっていく。 
 何度目のアナウンスだったろうか。「雨に唄えば」が流れはじめた。エンディングにも 映画音楽ということだろう。こんな険悪なムードでこの曲を聴くのは、はじめてやった。 まだ甲斐を呼ぶ声はやまなかった。だが、大きくなるBGM、繰り返されるアナウンス、同じこと ばかりをわめく係員どもめらによって、アンコールの叫びは弱められていってしまった。

 謎だ。わけがわからなかった。なぜあそこで終わってしまったのか。 
 はじめからそういう構成だったんじゃないかという意見も聞いたし、僕自身も 1曲目を聴いた瞬間に「安奈」から始まって「HERO」で終わるんじゃないかとも予感した。 
 けれども、やはりおかしい。アンコールの声が何分も続いた後に突然終わりを 告げるなんて。最初のアナウンスのときには、「雨に唄えば」はかからなかったではないか。 甲斐のライヴは終わった瞬間にエンディングBGMが流れてくるのだ。これまでも、 KAI FIVEのファースト ツアーや、ROCKUMENTなど、アンコールが1回で終わることは たまにあったが、全てはっきりとわかる形でステージは終わった。今回はちがう。アンコール は2回予定されていたはずだ。 
 甲斐は、大阪にしてはノリが悪いと判断したのだろうか。アンコールは2回やって くれるもんやと、どこか安心しているようなところを感じとったのか。それとも、何かアクシデント があったのか。 
 もちろん、甲斐が終わりだと判断したのなら、終わりなのだ。たしかに値打ちのある ステージだった。泣けた「BLUE LETTER」、パーカッションからの熱狂の「翼あるもの」、 抒情漂う「Tonight I need your kiss」など、それが聴けただけでも満足やと思える ものやった。 
 でも、何ヶ月も前からこの日を待ち望んでいたのだ。もう1曲うたってほしかった。 とても悲しく、悔しい。

 アンコールのことを別にしても、今日のライヴは異例づくめだった。 
 ミディアム ナンバーが続く幕開け。甲斐の髪型。パーカッション。 静かめの曲が多く、激しい歌が間をおかずに連続したのはアンコール だけだということ。ミニ編成コーナーがなくなっていたの も僕には意外やった。そして、極めつけは、あのインカムだ。 
 前回のソロでも、AGライヴやファンクがあった。ROCKUMENTから生まれた財産 も大きい。甲斐はまた、新たな挑戦をはじめたようだ。僕らファンから先の世界へ 足を踏み出している。

 

1999年6月4日(金) Zepp Osaka

 

安奈 
無法者の愛 
KI-RA-ME-I-TE 
ナイト ウェイヴ 
電光石火BABY 
ダイナマイトが150屯 
嵐の季節 
BLUE LETTER 
レイン 
荒野をくだって 
イエロー キャブ 
風の中の火のように 
翼あるもの 
漂泊者(アウトロー) 
Tonight I need your kiss

 

きんぽうげ 
HERO

甲斐よしひろ SPECIAL NIGHT in Osaka

1998年12月28日(月) Zepp Osaka

 Zepp Osakaへ急いだ。何としても開場時間までに到着しなければならない。 今日は自由席。そして、整理番号は、1番だった。 
 7時の開場まであと数分。すでに長い行列ができている。1番前に滑り込む。 夢のようだ。最前列で甲斐のステージを見ることができる。

 開場。一週間前に「鶴+龍」の収録で来たときに下見は済ませてある。客席への 最短距離を行く。最前列ど真ん中を確保しなければ、1番の意味がない。客席へ1番乗り。 ステージ床のテープとマイクスタンドを確認して、ど真ん中1列目を獲得。これでようやく 落ち着いた。 
 ステージのセットを眺めてみる。マイクスタンドの後ろにドラムセットの台。右奥に キーボード。両側のやや前にギタリストとベーシスト用のマイクスタンド。東京では一郎が 出たようだが、急遽決まった今夜は、やはりギターはジョージひとりらしい。 
 開演時間はまだまだやのに、早くも「甲斐ーっ!」「はよやってくれーっ!」「客席は あったまってんぞーっ!」と、たくさんの声が飛ぶ。いいぞ。今日は年末で、開場も8時と 遅いし、男の客が多いのだろうか。みんな燃えている。僕はいつものライヴにも増して、 緊張していた。 
 ステージにおしぼりと飲み物が配られる。楽器のチェックは短かった。開演に 先立つアナウンスに拍手。手拍子が起こっては、甲斐を呼ぶ声が高まる。BGMに合わせて 手拍子。すでに会場がひとつになっている。BGMが1曲終わる度に拍手と歓声、 「甲斐ーっ!」の叫び声。僕は舞台のソデを見ないようにしていた。スタッフが「行くぞ!」と 合図を出すのを見たくないのだ。いつ始まるのかどきどきしながら、すぐ前にあるマイク スタンドに視線を集中していた。まだ座っているので、かなり首を上に向けなければならない。 もう1曲BGMが終わる。また歓声と拍手。間隔が長いぞ!いよいよか!

 無線でしゃべるような声。瞬間にみんな立ち上がる。「Listen!」の声。去年の ツアーと同じ曲だ。西部劇のテーマ。大きな手拍子の波の中をメンバーが入ってくる。 一郎もいるではないか!ベースのメッケンはドラム横の左奥に陣取った。舞台左右の マイクはツインギターのためのものだったのか。歓声に応える高揚した顔。メッケンは うつむいてベースのチェックだ。 
 テーマが終わる。噂以上に痩せて見える一郎が躍動して カウントを数える。その視線の先にいたカースケがビートを叩き出す。一瞬「HERO」か とも思えるビートにすべての楽器が乗ってくる。そして、左手から甲斐が走ってくる。 ひときわすごい歓声があがる。深緑と紺の中間の色をした短いジャケット、黒のシャツ、 黒でサイドに紅いラインの入ったパンツ、サングラス。 
 演奏が例のフレーズに入る。 やられた!「あっと驚くオープニング」とはこのことだったのか!「テレフォン ノイローゼ」だ! 
 初めて生で聴いた「PARTY」以来、アコースティックでしか聴いたことがなかった。 バンドのスタイルでやるのは何年ぶりだろうか。 
 目の前で甲斐がマイクスタンドを蹴り上げる。 僕はもう狂喜していた。甲斐と会場じゅうがいっしょに歌う。「お決まりの恋の文句ーって やーつを」と、甲斐の歌い方は近年のアコースティックとおなじヴァージョン。サビでは 「テレフォンノイローゼーアハ」と会場全体の大コーラス。甲斐もマイクをこっちに向けて くれる。1番が終わったところでものすごい歓声が甲斐に浴びせられる。曲のフィニッシュ ではもう最高潮だ。

 そこへたたみかけるように「地下室のメロディー」。しかも、レコードとおなじあの イントロだ。このヴァージョンも久々。甲斐はもうサングラスを取っている。バックでいろんな 色が風車のようにまわっている。

 「今年最後でメンバーみんなこわれかかってます」の第一声に、客たちが大よろこび。 
 「2枚目のアルバムのライナーノーツで「変わりゆくことが望み」だと書いて。 ボブ・クリアマウンテンとアルバム3枚つくったり、ピーター・ガブリエルと絡んだり。 今、小室君と組んでるのもその流れのひとつ」 
 「今年はツアーの予定を2回組んだけど、リリースがばたばたと決まって。もう 東京でオンリーワンっていう感じにするはずだったんだけど。大阪はどのくらい (間隔が)開いてるかなあって・・・」 
 このあたりで客席全体から歓声と拍手。 
 「どこか空いてないかって探したら、ここがあるって。新しいとこ?いいなあ、って。 ここ、いいよね。橋越えて来るって感じで。熱意のあるやつだけ来るんだもんね」 
 みんな大よろこびで拍手。 
 「今夜も目一杯やるからね!やるよ!」

 始まったのは、「レディ イヴ」のイントロ。こんなに早くやるとは。あのビートに合わせて の手拍子。会場中がやっていて、すごい音だ。今夜は特に客がノっているような気がする。 甲斐もうれしそうな顔で歌ってる。マイクスタンドを手前に傾け身体を揺すぶって後退する ステップも。 
 3番の「タタン タン」の手拍子も一体。甲斐が掌を見せて「レディ イーヴ」と歌い 終えた瞬間に大歓声。

 ここからは新曲に突入かと思っていたところへ意外なイントロが来て、「おお~っ!」 と叫んでしまった。「ナイト ウェイヴ」だ! 
 「ナーイト ウェーイヴ ナーイト ウェーイヴ」とキーボードのソロとコーラス。中央 後ろに下がった甲斐は目を閉じ、両腕を曲げて右奥のキーボードの方を指している。 生き生きとした表情だ。12インチテイクを思わせる気持ちのいいドラムのビート。甲斐が 「歌っていいぜ」というふうに手を振って、さあ大合唱だ。 
 甲斐がサビでマイクを客席に向ける。いつもはそのマイクめがけて歌っているが、 今日は自分の声が直に甲斐に届きそうな近さなので、甲斐の顔に向かって歌った。 
 甲斐がマイクスタンドを横なぐりに廻す。身体を回転させたときには、マイクだけが 甲斐の手に。目の前で、自分にマイクスタンドが向かってくる感じで感激した。 
 2番が終わって甲斐が後ろへ下がる。一郎が前に出てきて聴かせる。甲斐が マイクスタンドへ向かう。何か叫ぶのだと思っていたら、そのまま「なーみに 落ちーてく  ふたつの こーのはー」とうたう。間奏が短いヴァージョンだったのだ。 
 ラストで甲斐はステージに座り込んで「ナーイト ウェーイヴ・・・」とうたった。この ときだけは、僕は後ろのひとたちに気を遣って背中を丸めた。

 ここ数年、たまにやってくれるときはこのイントロなのですぐにわかった。 
 「ビューティフル エネルギー」 
 しかし、甲斐ひとりでうたい切るのを見るのは初めてだ。「い そがないで」と前半は 突き放したうたい方。 
 ラストのサビ3連発では、最後を客席に歌わしてくれた。

 「小室君とのコラボレーションのシングルが年内に3枚出て、来年にもう1枚出る。 その3枚で1番新しい、12月に出たナンバーをやりましょう」 
 あたたかい拍手。 
 「「KI-RA-ME-I-TE」という曲を」 
 アコースティック ギターが心地いい。DI-DON DI-DON-DON DON- DON DI-DON-DONという響きがやはり印象的。ライヴヴァージョンは力強く、 違和感などない。

 不意を突かれた感じで、イントロを聴いても何の曲かわからなかった。またしばらく 聴けないのではないかと思っていたが、やってくれた。「嵐の季節」だ。FIVE末期からの ヴァージョン。 
 静かな前半に聴き入ってしまって、後半拳を挙げるのを忘れかけたほどだった。 
 今まであまり痛切に感じたことのなかった部分の詞が心を打った。「若さは仮面よ  待っていては 遅すぎるわ 愛し合う日は もうこない 暑い季節なのよって」今日は なぜかこの詞が沁みた。この部分を初めて実感したのかもしれない。待っていてはだめだ という想いが突き上げた。 
 繰り返し。客席にうたわせ、自分は「襟をお立てえー」「握りー締めえーっ」と叫ぶ 甲斐。最小限のドラムとわずかなジョージのギターだけの演奏になり、客の声だけに なっても、その合唱のでかいこと。もう1回音楽が湧きあがる。みんな、歌いつづけ、 拳をあげつづけた。

 レコードに近い演奏だった。「BLUE LETTER」 
 甲斐の声がひびく。 2番をうたい終えたところであのハーモニカ。ちょっと後ろに下がった甲斐が、 3番をうたうためにマイクスタンドへ戻ってくる。右手に持ったハーモニカをモニターの陰に 落としたのが見えた。 
 今日も「暗い闇の中」とうたった。「シャツを脱ぎすて」のところで黒いシャツの ボタンを外す。

 きれいなイントロに歓声。去年のツアーでアンコールにやった曲。今年もうたってくれる とは思っていなかった。「レイン」 
 「Call my name」で拳をあげる。「できはしなーいー」は客席のコーラスで甲斐は 次をうたう。 
 マイクスタンドを握り締め、間近で切ない叫びをあげる甲斐。最後のファルセットが 印象深かった。

 小さなドラムセットが運ばれ、カースケが前に出てくる。 キーボードの前野知常アコーディオンを持っている。 甲斐を囲むようにしてバンドが半円を描いている。そのメンバーたちを紹介していく。 甲斐と一郎が冗談を言い合ってるのが聞こえる。今日はマイクを通してないことまで 聞こえるのだ。 
 「暮れにふさわしいナンバーを」 
 「安奈」かと思ったが、カースケの生み出すビートは速い。「チーチッチチーチッチチー チッチチー」というリズムに乗せて、ほかの楽器たちも奏ではじめる。冬の深夜、家のなかで 燃えている暖炉を思わせるような暖かな音。かわった楽器での演奏だったが、レコードに 近いアレンジだった。それなのに、歌い出しまで「そばかすの天使」だと思っていた。 
 「かりそめのスウィング」 
 これはかっこよかった。センスの良さと技術の巧さを見せつけたね。 
 間奏で甲斐が指を鳴らす。左利きやのに、右手で鳴らすのだなあ。 
 甲斐が「PARTY」のときより早めのタイミングで「OH YEAH!」と叫んで、フィニッシュへ。

 「みんなでやろう」という「安奈」 
 「こういう曲なのにどなるやつがいるけど、周りの迷惑だからほどほどにするように (笑)」「張り切って歌って、この1曲で力尽きるやつがたまにいる(笑)」 
 クラシックギターのような弦のギターがメロディーを紡ぎ出す。 
 「北へ帰る夜汽車は」とニューヴァージョンの歌詞。 
 「安奈 お前にあいたい 燃え尽きたローソクに もう一度二人だけの 愛の 灯をともしたい」は客席にうたわせる。「サンキュー」と言ってからサビへ。

 「ソロの最初の頃に「イエロー キャブ」という曲を書いて・・・」 
 拍手と歓声があがるが、「イエロー キャブ」をやるのではないようだ。 
 「この詞を書くときに「イエロー キャブ」のときとおなじ気持ちになって。あれは 夜の歌で、こっちはまだ陽がある暮れ方の話なんだけど」 
 そして紹介されたのは、小室哲哉とのコラボレーションで1番最初にできあがった 曲。2年半も前にできていたという「HEY!MONOCHROME CITY」 
 「ぬくもりにつまづくのは 心がイミテーションだから?」という詞はかなり好きだが、 「イエロー キャブ」のイメージは感じたことがなかった。そう聞くと、両方の歌の見えなかった 部分が見えてくる。 
 「車をすてて 一人街をさまよってるのさ」物語が浮かぶ。 
 演奏はギターが効いて力強い。

 ドラム。虹色のライト。 
 そうか。雨上がりの「HEY!MONOCHROME CITY」の次は虹を描く 「観覧車82」だ。 
 甲斐が舞う。ステージの端まで行く。 
 「ウォーオオオオオ!」の叫びはラストのみ。僕も思いきり叫んだ。甲斐は客席にも マイクを向けてくれる。

  ここで早くも「翼あるもの」。一郎が跳ねる。 
 ほんとにすごい曲だ。ステージを動きまわっていた甲斐が、2番が終わるとドラムス の台に上る。一郎とジョージが前へ。曲が激しさを増す。客席は歌い、跳び、踊っている。 甲斐が前に躍り出てマイクスタンドからマイクを奪う。その勢いで ど真ん中1番前に来て歌う。すぐ目の前に甲斐がいるぞ!おおお! 
 曲がスローになっても大合唱は続く。甲斐は手を組んで頭上へ。ライトを侵す 影が甲斐の指先にまで達し、甲斐は身体を前へ倒す。ここのドラムは今日は短め。 ただ、1番最後がすごい連打。身体を起こした甲斐がもう1度前屈したところでフィニッシュ!

 「風の中の火のように」 
 最近のアコースティック ギターから入るヴァージョンじゃない。このアレンジは 久しぶり。モニターの返りが悪いらしく、甲斐が右ソデのスタッフに合図するのだが、 なかなかうまくいかないようだ。 
 「翼あるもの」に引き続いて白いライト。客席も照らされて、甲斐といっしょに歌う。 それが、曲の終盤、真っ赤なライトに。やはり火のイメージなのだ。

 おお!イントロから跳びはねる。「漂泊者(アウトロー)」や! 
 「ひとりぼおっちじゃあ」でジャンプ!思いきり跳んで拳を挙げるのだ。 
 2番の頭で、甲斐が左足でマイクスタンドを蹴飛ばした。舞台左手に飛んだスタンド が一郎の前を転がっていく。ますます燃えるぞ! 
 間奏で後ろへ行った甲斐がカースケと視線を交わす。ギターの見せ場が長い。 甲斐が右手で一郎を示す。甲斐が前にやって来て、ステージを動きまわる。マイクを 突き出して、客に「愛をくれーっ」と叫ばせる。黒いTシャツをたくしあげる。

 怒濤の「漂泊者(アウトロー)」に追い打ち。イントロの瞬間、僕は声をあげた。 やってくれたか。「冷血(コールド ブラッド)」 
 白いライトが回る。かつてとちがってひとつづつだ。オリジナルより高めの音を 短くたたみかけるキーボード。うなるギターで歌へ突入。 
 途中に青のライトは入らず、サビでは真っ赤なライティング。そして、3番に入る前 には、「PARTY」で見せた、ビートに合わせて肘を落とすあのアクション!やったぞ! 
 「身体流れる荒れ狂う血に 俺も気づくときがある」という詞を今年中に聴けて 感激だ。 
 もう、声が嗄れようが、腹筋切れそうになるまで歌った。後奏で甲斐が叫ぶ。

 「変わりゆくことが望みです」という「英雄と悪漢」のライナーノーツにもう1度触れて、 MCははじまった。 
 「変わっていくようにコラボレーションしてきたし、何をすれば自分が変われるのか 考えてきた。そして、曲を書いて少しずつ自分の正体を知ろうとしてきた。よかったと思う のは、10代の頃にもう一生の仕事を見つけられた。で、つくった歌が、みんなの人生の 一部になってるって素晴らしい。最近日増しにそう思う」 
 「「Tonight I need your kiss」を。最後に」 
 暗いステージの両側から光。2番の詞が痛い。甲斐は「kissing you・・・」 とささやいてステージを去る。 演奏が終わり、メンバーが去ってもあの信号音は消えない。 君がでてこない電話の音のように響く。 
 じわじわと拍手が起こり、そのままアンコールの手拍子へ。

 メンバーが戻ってくる。「きんぽうげ」の予感をつよく感じていたが、叩き出された ビートは「ダイナマイトが150屯」! 
 黒のロングコートに白いシャツに着替えた甲斐が登場。大歓声。マイクスタンドを 蹴り上げる。マイクスタンドがこっちに向かってくる興奮。 
 ROCKUMENT以来のヴァージョンだが、カースケは秘かに細かく リズムを刻んでいる。キーボードが挑発する。 
 甲斐は「とっぽい野郎 どいていなあーっ!」と歌った後、マイクスタンドを身体の右側に 傾け、右の膝を逆方向へ突き上げた。「すかしたマヌケめ 気をつけろーっ!」の後には 左右全く逆のアクション。 
 「ちくしょう 恋なんてふきとばせーっ」と歌ったあと「ウォーオーッ!」と吼える。 
 後奏。客に予告しておいてマイクスタンドを右手でぐるぐる廻す!コードも弧を描く。 やっぱり、このアクションは燃えるぜい! 
 ラストで僕はいつものように、左右の拳を突き上げた。発散して爽快だ。

 「絶対・愛」「きんぽうげ」というふうに続いて行くかと思ったが、またちがった。この ベースは「HERO」だ!白いフラッシュが閃く。 
 今日はもう聴けないのかと思ったけど。このアレンジはかっこいいのだ。 
 甲斐はコートを脱いで、白いシャツの前をはだけている。脇腹が締まっている。 ステージど真ん中1番前まで出てきて歌われると、最前列の僕らは甲斐の白いシャツに 包まれるような感覚だ。 
 激しい曲で終わったので、そのまますぐに大騒ぎのアンコールへ。

 今度は甲斐が先頭で帰ってくる。もう1度メンバー紹介。一郎がピックを投げる。 
 「やっぱりやってよかった」の言葉に場内感激の大歓声。 
 このホールが気に入った様子で、「またここでやりそうな気がする」「ここは遠くない よね。周り何にもないけど。公園つくれよ!あの土の山は炭坑か!(笑)お台場だって 最初は人いなかったんだから。TV局が来て、散々やってようやくだからね。ここも2、3年 したらよくなるよ」 
 25周年となる来年の活動について。「かなりあちこちまわることになるでしょう。 グラマラスな感じのツアーに。そして夏以降また大きく」 
 とにかく、ライヴが多いのが1番うれしい! 
 カースケが前に来てタンバリンだけを持っている。一郎とジョージはアコースティック  ギター。となれば、やるのはあの曲しかない。 
 「破れたハートを売り物に」 
 最後は大合唱で熱い一夜のしめくくり。 
 メンバーが去っても、甲斐がひとりステージに残って手を振ってくれた。ありがとう、 甲斐!

 ほんとうにすごかった!誰もが満足しているのがわかるステージやった。    
 いつもよりもオリジナルに近いアレンジが多かった。もちろん、僕なんかが わからないところで手を加えているのだろうが。81、2年の頃ってこんなふうだったのかなあ と思う部分もあった。また、ニューヴァージョンの歌詞が少なかったのも特徴だ。ほとんど オリジナルの詞で歌っていた。 
 この日のために生きているんだ!と思わせてくれた。普段はライヴを目指して がんばって働こう、という意欲も湧いた。来年のデビュー四半世紀ツアーが待ちどおしい!

 

1998年12月28日(月) Zepp Osaka

 

テレフォン ノイローゼ 
地下室のメロディー 
レディ イヴ 
ナイト ウェイヴ 
ビューティフル エネルギー 
K-I-R-A-M-E-I-T-E 
嵐の季節 
BLUE LETTER 
レイン 
かりそめのスウィング 
安奈 
HEY!MONOCHROME CITY 
観覧車82 
翼あるもの 
風の中の火のように 
漂泊者(アウトロー) 
冷血(コールド ブラッド) 
Tonight I need your kiss

 

ダイナマイトが150屯 
HERO

 

破れたハートを売り物に