CRY

Twitterには長いやつ

甲斐よしひろ Highway25 ”UP”

1999年6月4日(金) Zepp Osaka

 そういう時間やと思っていた。それで、コスモスクエア駅を降りると、まず海を眺めた。 きれいな夕陽が水平線に沈んで行くところやった。その景色をしばらく見てから、会場へ。

 このZepp Osakaで昨年暮れに行われたライヴでは、全部自由席で整理番号順の入場 やった。が、今回は指定席。ファンクラブで獲ったにもかかわらず、二階だ。しかし、前から 2列目のど真ん中。見やすいし、どんな席でも燃えることに変わりはない。 
 ステージをひと目見て気がつくのは、パーカッションがあること!いつものように真ん中 後方にドラムの台。右奥にキーボードの台、左奥にベースの台がある。右前にギター。そして、 左前にパーカッションがあるのだ。それを見て今日やるであろう曲をひとつすぐに思いついた。 「氷のくちびる」だ。近年本格的にパーカッションを起用したステージは、BEFORE The  BIG NIGHTのみ。そのときアルバム「Big Night」のヴァージョンで歌った「氷のくちびる」が 印象に残っていたのだ。

 開演が遅れている。大阪の開演前にしては、客席は静かめ。やがて湧きあがってきた BGMは、壮大なクラシック。このところ続いていた西部劇のテーマではない。 「2001年宇宙の旅」に使われていた「ツァラトゥストラはかく語りき」。暗転した会場に、 真っ白なステージのドラム台下から光がのび、高まる曲と相まってセットがUFOのイメージ に見えてくる。 
 メンバーが出てくる。一郎はいない。ステージ左前のマイクは、パーカッションのための ものだったのか。甲斐も、もういるではないか。ギターをかけている。「ポップコーンを ほおばって」か?

 最高潮に達したBGMが消え、さあ、激しいビートが襲って来るぞ!と身構えた。ところが、 聞こえてきたのは、あのフレーズ。まさかの「安奈」! 
 完全に裏をかかれた。暮れのライヴを見て、やはり1曲目は激しい曲で来ると思い 込んでいた。このところ中盤に「安奈」を歌うのが定着していたが、こういう形でそれを破る とは。92年の「甲斐よしひろHISTORY」では、1曲目に「HERO」、1番最後に「安奈」を 歌ってみせたが、その逆をやろうというのか? 
 しかも、今日の「安奈」はレゲエ ヴァージョンである。マイクスタンドの前に立った 甲斐は、髪型がちがう。驚いたことに、色も銀だ。 
 みんなで声を合わせてうたう雰囲気ではなく、レゲエのリズムを感じながら甲斐の声 を聴く。1番が終わると拍手。歓声。 
 2番後の間奏でハーモニカ。じっくり聴いていた会場に、甲斐が「うたっていいんだぜ」 と手で示し、客席の歌声がだんだんひろまっていく。「愛の灯をともしたい」は客たちだけに 歌わせてくれた。

 続いて、きれいな音の前奏。レコードより高めに感じられた。甲斐はまたギターを 弾いている。 
 「無法者の愛」 
 ひさびさや。ついにやってくれたかあ。客席はサビになっても、コーラスよりも、圧倒的 に甲斐と同じところをうたっている。気持ちはわかるぞ。俺も甲斐といっしょにうたいたいもん。 
 3番の最後も、甲斐は2番までとおなじ歌詞でうたった。みんなもそれにあわせて うたう。

 間髪を入れず、印象的なアコースティック ギター。 
 「KI-RA-ME-I-TE」 
 暮れのライヴが終わってから、甲斐は「やっぱりTKとの曲は打ち込みを活かした方が よさそうだ」と語っていたはずだ。しかし、今夜のこの曲も、ギターの音が暖かい。CDよりも たくましい。 
 小室と組むことに拒絶反応を見せ、ろくに曲を聴こうともしない人もいるようだが、 この演奏を何の先入観もなく聴いたら、甲斐はまたいい曲書いたなと思うのではないだろうか。

 ミディアム テンポの曲が3つ続くという意外なオープニングが終わる。マイクスタンドへ 向かう甲斐を歓声が包む。甲斐の今夜の第一声だ。 
 「25周年の話は後でゆっくりやるから。とにかく今夜は最後まで楽しんで。やるよ」

 光の波。キーボード。 
 ここから激しい曲をやるのかと思ったが、またもやちがった。だけど、みんなで大合唱 する曲や。 
 「ナイト ウェイヴ」 
 サビを繰り返したあと、12インチ テイクの長い間奏へ。軽快なビートが響く。その 間も客は「ナーイト ウェーイヴ ナーイト ウェーイヴ」の合唱を止めない。間奏の曲調が 変わったところで合唱がしずまっていき、音がひろがる。いい感じや。 
 再びサビの波が戻ってくる。最後の静かな部分を、甲斐は座り込みながらうたう。 マイクスタンドの後ろに立ちあがり、おじぎをするように身体を折る。そして、曲のフィニッシュ と同時に身体を起こして右手で宙をかいた。これはよかった!

 あの弾むリズムに、パーカッションの明るい金属的な高い音が加わってる。 これはもう跳びはねずにはいられない! 
 「電光石火BABY」 
 跳ねながら合唱だ。キーボードの前野選手がファルセットでコーラスをかぶせてくる。 
 「クールなやつさ ロッキン クイーン」という詞はなし。「タフな野性の女なのさ」と 甲斐は歌う。 
 暗転した場内に「ベイベー、ベイベー、ベ、ベ、ベイベー」という声が響き、またライトが ついて「電光石火ベイベー!」の繰り返しへ。

 低くうなるようなドラムが響く。キーボードが襲いかかる。ビートの連打に身体が自然に ジャンプする。これはまぎれもなく、アルバム ヴァージョンの「ダイナマイトが150屯」! 
 一瞬、PARTYの大阪城ホールが脳裏によみがえった。ROCKUMENTヴァージョン も大好きやけど、このアレンジも盛りあがるのだ。まさかやってくれるとは。中盤でやるのも 意外やった。 
 後奏、甲斐だけがスポットを浴びる。マイクスタンドを廻すところで、照明が全て 真っ白になった。これまでは廻すところでスポットが当たることが多かったと思うが、今日は 新たなライティングやった。

 「嵐の季節」の前奏が流れる。FIVEからのヴァージョンだ。 
 静かな歌い出し。場内に甲斐の声が強くしみわたる。じっと聴き入る客席。やがて 拳があがり、合唱が起こりはじめる。最後の繰り返しでは、序盤の静けさとうって変わって みんなの大合唱になった。

 イスが用意され、そこに座る甲斐が照らし出されると、大きな拍手。 
 「元気だとは思ってたけど」と大阪の客に語りかける。好調な阪神の話題から。85年 のツアーを思い出す。阪神ファンではないが、野村監督の作戦をシュミレーションしながら 見ているという。サッチーにも少しだけ触れ、「今日は「神田川」で打ち上げやりたかった」と 笑ったが、スタッフに「それ、MCで言うでしょ!それ、MCで言うでしょ!」と阻止されたらしい。 
 「シングルが延び延びになって。とうとう9月?プロデューサーに任せてるから、どうに でもしてくれって感じですが」 
 こういう発言をするときの甲斐は、その裏で綿密な作戦を進行させているのだ。長く 甲斐ファンをやっていればわかる。秋に出るシングルは、かなり気合いの入った形で世に 出ていくことだろう。 
 そのシングルより前に出すというBOXセットの話。僕はすでに入場時に予約を 済ませてある。特典がつくっていうねんもん。 
 未発表曲あり。未発表アウトテイクは、27、8曲に及ぶという。 
 デビュー シングル「バス通り」の、発表されているテイクの10日前にレコーディング されたもの。間奏が2回あって気持ち悪いと言いつつ入れるとのこと。「らいむらいと」の 裏話も披露してくれた。 
 「大阪といえば、花園だよね」に、会場が沸く。「あの花園ラグビー場のライヴからも 1曲入ってる」で、さらに沸く。 
 「これくらいある鉄柵が、こんなに曲がってたんだぜ。最初は「痛い、痛い」とか、 かすかに聞こえてたんだけど、前の女の子たちがそのうち「ぐぅ・・・ぐぅ」って声も出せなく なってて。よく死者が出なかったよね。あれは1曲目にいきなり、「破れたハートを売り物に」 をやったのがいけなかったか。で、途中で「下がれ」とかって客に説教してるんだよね。 延々20分」 
 何と、その説教も編集して入れたという。これにはみんな驚き、そして、大よろこび。 
 「ここで入れておかないと、永久に陽の目を見ないと思ったんだ」というのがキーワード だろう。シングルもほとんど網羅したとはいえ、このBOXセットは、いわゆるベスト盤とはちがう。 レアなものを集めた、本で言えば「か・さ・ぶ・た」のような作品集なのだろう。 
 「変わっていくものをたしかめつつ、変わらないものを見つめる」という作業でも あったという。 
 長い説教の後にうたったため、バックのメンバーも緊張感を持って演奏がよかった、 という冗談とともに、「安奈」が花園ライヴから入ることが告げられた。 
 「あのときすでに「安奈」をレゲエでやってるんだよね」 
 甲斐本人もテープを聴き直すまで忘れていたという。この流れが今日の1曲目に つながっててんなあ。 
 他に収録される曲は、甲斐バンドの「イエロー キャブ」!と「電光石火BABY」! 
 「「イエロー キャブ」なんて、大森さんがシンセ弾いてるんだよ。バンドでやる意味ない だろう」 
 ROCKUMENT IVで言ってたとおり、加山雄三トリビュートの「霧雨の舗道」も入る。 「CMで歌った沢田研二の曲」というのは、まちがいなく「時の過ぎゆくままに」だろう。 
 たっぷり話してくれたMCを、甲斐はこの言葉でしめくくった。 
 「この曲ももちろん入っている。「BLUE LETTER」」

 オリジナルに近い前奏が、海を感じさせる。 
 「とある小さな」と甲斐がうたうと、キーボードが美しくも悲しい音を重ねる。甲斐の声。 語尾の響き。 
 泣けた。ほんとうに涙がでた。圧倒的な痛みだ。 
 2番の後のハーモニカ。甲斐はイスから立ちあがり、左手から力なくハーモニカを 落とす。そして、よろめくように前へ出て3番をうたいだす。甲斐はそのすべてで、 「BLUE LETTER」の世界を体現していた。

 今夜の「レイン」は静かに聴く感じやった。 
 それで、僕は拳をあげなかった。甲斐も1、2番それぞれの最後、 「こみあげる痛みを BABY 冷たく殺して 今夜 今夜 すべての星が 彼女を照らす」 と「ものがなしい 汽笛が響く 消えてゆく パラダイス」を悲しげにうたう。 
 しかし、甲斐のヴォーカルは、繰り返しからはだんだん力強さを増していった。 
 後奏で、甲斐がステージ真ん中奥へと姿を消す。そのまま左手からステージを降りて 行ったようだ。 
 演奏が終わると、メンバーも去っていく。いったい何がはじまるのだろうか。

 誰もいなくなった真っ暗なステージに、打ち込みの低い音だけが響きはじめる。 オープニングのBGMで感じたイメージがよみがえってくる。と、1人だけ残っていたらしい キーボードがソロを奏でる。しばらくそれが続くもんやと思い、右奥のキーボードだけを 注視していた。 
 突然、舞台左にライトが当たり、甲斐がそこにいた。ベースの台のところに腰かけて いたのだ。「よりよい世界夢見ながら」とうたいだす。いつの間にそこにいたのか。 ストレート ライフ ツアーの「エキセントリック アベニュー」を彷彿とさせる。しかし、 もっと驚くべきことがあった。甲斐はインカムをつけているではないか! 
 甲斐は立ち上がり、「真夜中人影もない道を 俺は ひとり 行く」のあたりで、舞台 中央まで歩きだす。最後の「西へ」のところで両手をかかげる。 
 正直言って、僕はめんくらってしまった。何しろ、まったく初めてのことである。 インカムをつけると、両手が空くので、どうしても手のアクションが目立ってしまう。 
 インカムの調子をたしかめながら、歩いたりしゃがみ込んだりしてうたう甲斐。舞台 全体が演劇スペースのように感じられる。 
 「荒野をくだって」にひたりきれないほど、僕には違和感があった。 中央のマイクスタンドの前に立ってバラードをうたう甲斐の方がしっくりくる。その甲斐の姿を じっと見ながら静かなうたを聴き、曲のイメージをふくらませるという聴き方をしてきた。 それができるほどのヴォーカルの力があるだけに。 
 甲斐は舞台右手に歩き去り、キーボードも消え、あの低い響きだけが残る。拍手が おきる中を、メンバーが帰ってくる。

 音が噴き出し、七色のライトが斜めに走る。虹と雨のイメージなのだろう。以前と まったくちがったライティングが映える「イエロー キャブ」 
 去年「HEY!MONOCHROME CITY」をうたう前にこの曲にふれたMCがあった。 あのときの言葉とびったり符合する。 
 ソロのときにやっていたヴァージョンだ。あの間奏をまた聴くことができた! 
 甲斐は、この曲もインカムで、動き、両手で表現しながらうたった。

 新しいアレンジで、前奏では何の曲かわからない。ステージ中央奥からマイクスタンド へ向かって甲斐が躍り出る。大歓声。やっぱりこの方が、安定感がある。 
 「風の中の火のように」 
 「君なんだ」のところで、すごい歓声がまき起こる。 
 今日は「なぜみんなひとりで踊る? 悲しみ秘め 見えぬ人と 激しい叫び押し隠し」 という詞が胸に迫ってきた。この詞がこんなふうに自分の中に入ってきたのは初めてやった。

 パーカッションのソロがはじまる。けっこうたっぷりと長い。リズムが高まって行き、 最後は「ドンドンドン、カッカッ ドンドンドン、カッカッ」と弾む。次の瞬間「ダーーンッ!」と、 全ての音が叩き出される。同時に、バックは夕焼けの色に染まり、翼のように両腕を しなやかにのばした甲斐のシルエットが浮かびあがる。ものすごい大歓声! 「流民の歌」ヴァージョンの「翼あるもの」だ! 
 最高に興奮した大合唱になった。甲斐は、「土砂降りの雨を抜け」とだけ歌って、 あとはマイクを客席に向ける。こんなに長く客だけに歌わせてくれたことがあっただろうか。 「行く先を 決めかねて」から、甲斐がまたマイクを使いはじめる。 
 1番が終わって爆ぜる歓声を、パーカッションの利いた間奏が一段と煽る。 
 2番が終わると、ジョージが前へ走る。演奏がさらに激しさを増す。甲斐はドラムスの 台にあがる。ペットボトルの水を口に含み、台から飛び降りてマイクスタンドへ走りながら そのボトルを客席へ放り投げた。ペットボトルは水を吐きながら、一階指定席右後方へ 飛んでいく。大きな声が湧き、甲斐の歌とともに大合唱と手拍子の嵐へ。 
 「俺の声が 聞こえるかい?」からもリズムは激しいまま。大合唱は弱まりはしない。 歌い終わりで拍手が起こり、それもやみ、ひろげた両腕を頭上にかざし指を組む甲斐を 一心に見つめる。曲が最後の高まりを見せ、ふたたび大歓声と大拍手が沸き起こる。 
 考えてみれば、これがいちばん劇的な動きだ。インカムをつけてのアクションに 過敏になることはなかったのかもしれない。そう思えた。

 「翼あるもの」が果てた刹那、パーカッションがリズムをつないでいる。おお!これは 「ポップコーンをほおばって」や!甲斐バンド後期のライヴでは、パーカッションの音楽から 「ポップコーン・・・」に突入するのが定番やった。 
 しかし、パーカッションのリズムは変わり、カースケのドラムとのセッションがはじまる。 熱い叩き合いからカースケ渾身のビートが刻まれ、はじまったのは「漂泊者(アウトロー)」! パーカッションに縁取られた前奏は、いつものように跳びはねたくなる音ではない。 足を踏み鳴らしたくなる感じ。手拍子を打ち、足で床を踏みつけ、首を振り、声をかぎりに 歌う。

 「みんな、いいよ」の言葉に、よろこんで拍手。 
 「TKと最初に出した曲を本編の最後に」 
 あの信号音。「Tonight I need your kiss」 
 甲斐はメロディアスなうたい方をする。信号音を、やはりギターがかき消していく。 しっとりとした情感がつたわってくる。完全に甲斐の手中に入れている。これまで以上に 最高や。

 バラードの余韻に酔いながらも、甲斐コールが起こる。 
 メンバーが先にやって来る。ステージを横切るジョージの名を叫んだ。明るい青の Tシャツに着替えた甲斐が登場。歓声が高鳴り、甲斐は笑顔を見せる。 
 「メンバーの紹介を」 
 パーカッションのことを「最近の飲み友だち」と言ったのが印象的。ジョージへの 声援が多い。

 強力なビートのなか、逆光にメンバーの影が浮かぶ。カウベルが吼える。扇情的な リズム。このアレンジ大好きなのだ。「きんぽうげ」 
 両サイドからライムグリーンのライティング。歌い出しで甲斐はマイクスタンドを 蹴り上げる。左後ろに振り向き、腰を落としてマイクスタンドを受けると、そのままスタンドを 振り廻しながら身体を起こして歌う。 
 ジョージが左に来て弾きまくる。甲斐は1番を歌い終えると、その前にしゃがみ込んだ。 2番の終わりではあの、身を翻すアクション。 
 最後までひとりで歌いきるかに見えたが、ぎりぎりのところで客席にマイクを向けた。

 前回に引き続き、この位置へ持ってきたか。「HERO」 
 ストロボの光。今夜はじめて激しい曲がインターバルなしで2曲続いたことになり、 場内は熱狂していった。

 まずメンバーが立ち去る。甲斐はひとり残って、声援に応えてくれた。客席に手を振り、 左ソデへ歩いて行く。 
 すぐに大きな甲斐コール。バラードの余韻が残っていた1回目のアンコールよりも、 確実に激しい。手拍子と甲斐コール、「甲斐ーっ!」の叫び声が交錯する。 
 興奮は続いている。なのに、そのとき突然、アナウンスが入った。 
 「本日のコンサートはすべて終了しました・・・」 
 えーっ!!という悲鳴が起こる。まさか!信じられない。ステージの去り方、照明の 落とし方も、まだもう1回出てくる雰囲気やった。 
 必死の甲斐コールがさらに大きくなる。僕も願いを込めて思い切り叫び続けた。 係員が客を外へ出そうと声をあげるが、誰も帰ろうとはしない。手拍子、甲斐コール、 「甲斐ーっ!」の声。アナウンスは繰り返されるが、そんなものはかき消される。みんな やめない。もう1度、甲斐に出てきてほしいのだ。あと1曲歌ってほしいのだ。 
 大声で甲斐を呼び続けるなか、ローディが出てきてステージを片づけはじめる。 ほんとうにもうだめなのか。いや、あきらめないぞ。何度も「甲斐ーっ!」と叫ぶ。甲斐コール から「アンコール!アンコール!」の大合唱に変わっていく。 
 何度目のアナウンスだったろうか。「雨に唄えば」が流れはじめた。エンディングにも 映画音楽ということだろう。こんな険悪なムードでこの曲を聴くのは、はじめてやった。 まだ甲斐を呼ぶ声はやまなかった。だが、大きくなるBGM、繰り返されるアナウンス、同じこと ばかりをわめく係員どもめらによって、アンコールの叫びは弱められていってしまった。

 謎だ。わけがわからなかった。なぜあそこで終わってしまったのか。 
 はじめからそういう構成だったんじゃないかという意見も聞いたし、僕自身も 1曲目を聴いた瞬間に「安奈」から始まって「HERO」で終わるんじゃないかとも予感した。 
 けれども、やはりおかしい。アンコールの声が何分も続いた後に突然終わりを 告げるなんて。最初のアナウンスのときには、「雨に唄えば」はかからなかったではないか。 甲斐のライヴは終わった瞬間にエンディングBGMが流れてくるのだ。これまでも、 KAI FIVEのファースト ツアーや、ROCKUMENTなど、アンコールが1回で終わることは たまにあったが、全てはっきりとわかる形でステージは終わった。今回はちがう。アンコール は2回予定されていたはずだ。 
 甲斐は、大阪にしてはノリが悪いと判断したのだろうか。アンコールは2回やって くれるもんやと、どこか安心しているようなところを感じとったのか。それとも、何かアクシデント があったのか。 
 もちろん、甲斐が終わりだと判断したのなら、終わりなのだ。たしかに値打ちのある ステージだった。泣けた「BLUE LETTER」、パーカッションからの熱狂の「翼あるもの」、 抒情漂う「Tonight I need your kiss」など、それが聴けただけでも満足やと思える ものやった。 
 でも、何ヶ月も前からこの日を待ち望んでいたのだ。もう1曲うたってほしかった。 とても悲しく、悔しい。

 アンコールのことを別にしても、今日のライヴは異例づくめだった。 
 ミディアム ナンバーが続く幕開け。甲斐の髪型。パーカッション。 静かめの曲が多く、激しい歌が間をおかずに連続したのはアンコール だけだということ。ミニ編成コーナーがなくなっていたの も僕には意外やった。そして、極めつけは、あのインカムだ。 
 前回のソロでも、AGライヴやファンクがあった。ROCKUMENTから生まれた財産 も大きい。甲斐はまた、新たな挑戦をはじめたようだ。僕らファンから先の世界へ 足を踏み出している。

 

1999年6月4日(金) Zepp Osaka

 

安奈 
無法者の愛 
KI-RA-ME-I-TE 
ナイト ウェイヴ 
電光石火BABY 
ダイナマイトが150屯 
嵐の季節 
BLUE LETTER 
レイン 
荒野をくだって 
イエロー キャブ 
風の中の火のように 
翼あるもの 
漂泊者(アウトロー) 
Tonight I need your kiss

 

きんぽうげ 
HERO