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甲斐よしひろ Series of Dreams Tour Vol.2(1979-1986)

2003年5月10日(土) 愛知県勤労会館

 4時すぎに名古屋駅着。早めに来たのは、ライヴに行く地元の方といっしょに ひつまぶしを食べるためだ。ああ、ひつまぶし。甲斐FC会報にひつまぶしの写真が 載ったのは、いつのことだったか。めちゃめちゃおいしそうで、ずっとあこがれて いたのだ。 
 老舗のお店に案内してもらう。和室に入り、待ち焦がれた末に、ひつまぶしが 運ばれてきた。おひつの中にうなぎと御飯。他に薬味と吸い物と漬物。 
 おひつの うなぎ御飯をお茶碗に移し、まずはそのまま1杯目。おいしい。このままで充分いける のだが、少しずつ手を加えて味を変えていくのだ。 
 2杯目は、お茶碗に盛ったうなぎ御飯に薬味を入れる。ネギ、わさび、のり。 いやあ、実においしい。さっきとはまたちがったおいしさなのだ。 
 3杯目は、2杯目の状態にだしをかけてお茶漬けに。これまたうまい。ずずっと かき込んで、シアワセ。 
 本来は3杯でおしまいらしい。けれど、事前に教えてもらってた通り、3杯食べ てもまだ残ってるので、4杯目をお茶漬けでいただく。 
 これにて満腹。満足。ひつまぶしはしっかり期待に応えてくれた!

 車で会場まで送ってもらった。CDで「MIDNIGHT」や「観覧車’82」を 聴いて、いよいよライヴや!という気持ちも高まる。いつもとは反対側から車で 近づく愛知県勤労会館は、新鮮やった。 
 入り口前のスペース。ここに来るといつも、92年「LOVE JACK」 発売前のツアーを思い出す。あの時はまだ学生で、昼の間にここへ来て、がらんとした 中じっと開場を待っていた。 
 今日は開場時間前から人が多い。土曜日やしね。座れる場所が空いてないから、 隣りのグラウンドへ行ってスタンドに腰を下ろす。しゃべって開場されるのを待つ。 話題はジャン=クロード・ヴァン・ダムだ。

 いよいよ開場。まずはグッズ売り場へ。 
 前回のVol.1ツアー同様、パンフレット はCDカード形式やった。それとTシャツ2種類を買う。黒のTシャツは胸に、両手を 広げて歌う甲斐の写真入り。もう1枚は白と紺のベースボールTシャツだ。胸には S.o.Dの飾り文字、バックにはツアーの日程と会場名がプリントされている。

 客席へ足を踏み入れる。流れているBGMは、松藤甲斐や。「花・太陽・雨」。 右の方の席に着いた 時には、もう開演時間が迫っていた。グッズ売り場、けっこうな列やったから。 アナウンスが入り、あとは開演を待つばかり。

 松藤甲斐の「レイニー ドライヴ」が終わる。ライヴ開始を熱望する拍手がまた 起こるが、次の曲が流れ始める。 
 が、その曲は途中で切られた。変わって、太いビートが大音量で叩き出される。 さあ、来た!みんな一気に立ち上がる。もちろん俺も。めっちゃ手拍子しやすい曲や。 途中に掛け声も入ってて、いい感じに盛りあがる。 
 メンバーの影がステージに入ってきて、歓声が起こる。ビートと手拍子に、楽器 の音を確かめている音が加わる。Vol.1では甲斐も最初から出てきてたから、僕は まだよく見えないステージ上に甲斐の姿を探した。まだ甲斐はいないようだ。

 BGMが消え、照明が変わる。その瞬間、レコード通りのあのギターが聴こえて きた。うおおっ! 
 「三つ数えろ」 
 甲斐が左から走り出てくる。さらなる大歓声。甲斐は黒のジャケットとパンツ。 シャツはモスグリーンの半袖で、前はジッパーになっている。サングラスをかけ、髪は 自然な感じにおろしている。 
 久々にやってくれたオリジナルヴァージョンの「三つ数えろ」に燃えまくる。 「LOVE MINUS ZERO TOUR」のアンコール1曲目以来や。ラップ風 のKAI FIVEヴァージョン、イントロから完全に生まれ変わった「Big  Night」ヴァージョン、アコースティックギター1本の 「My name is KAI」ヴァージョン、 どれもよかったけど、また独特の興奮がある。甲斐といっしょに歌いながら、ライヴ アルバム「100万$ナイト」の演奏が思い出されたりもする。 
 「ウフッフー」というあのコーラスが後奏で繰り返される。最後は甲斐も 「ウフッフー」と歌った。 
 1曲目は何なのかあんなに迷ってたのに、今となっては「これしかない!」と いう気になってくる。1979年からやもんなあ。「MY GENERATION」も その年発表やったのだ。 
 あ、「いつも路上に転がってるさ」の部分をその通りに歌うか「通りに」と 変えて歌うか、いつもチェックしてるのに、今日は気がつけへんかった。「路上」と 歌ったように思うが。ふだん以上に曲にのめり込んでいたということか。

 蘭丸のギター。おおお!甲斐ファンの血がたぎるあのイントロや!これは絶対 やってほしかってん! 
 「ブライトン ロック」 
 ステージが真っ赤なライトに染まる。前奏が長いぞ。うれしいやんけ。甲斐は 右の方へ来て、「イェー!」と叫ぶ。「BIG GIG」を思わせるこのアレンジ。 甲斐は続いて左へ走って行き、「BIG GIG」よりは少し早めに歌に入った。 「今 銃撃の街の中」 
 サビでは曲とタイミングを合わせながら、強く下を指差すアクションだ。 
 2番は「この涙」と歌った。 
 甲斐は間奏で後ろへ下がり、蘭丸の方を示す。帽子とサングラス姿の蘭丸が、 腰のあたりでギターを弾きまくる。やがて甲斐が後ろからマイクスタンドへやって 来て、「ああ 土砂降る雨の」 
 最後のサビを歌い終えた甲斐は、客席に「来いよ!」のアピールだ。そして 「ブライトンロック、答はどこだ」の3連発。後奏でもう1度「ブライトーーーン」と 叫んで、曲が終結に向かっていく。オーディエンスの手拍子が拍手に変わる。バンドは 激しいフィニッシュ。「甲斐ーっ!」の声が降る。

 甲斐がマイクスタンドまで出てくる。 
 「サンキュー、ありがとう」 
 大歓声がそれに応える。

 コーラス。七色のライト。84年から86年まで、コンサートの序盤に歌われた 歌。今日も3曲目や。 
 「フェアリー(完全犯罪)」 
 甲斐はもうサングラスを取っている。歌いながらあちこちへ動く。早くも坂まで 出て来てくれる。 
 間奏でステージ右奥のキーボードを指差した。そこでは前野選手がサックスを 吹いていた。いろんな楽器を操れるのだ。97年「PARTNER TOUR」の 「ランデヴー」で、このサックスを聴かせてくれたなあ。

 「Series of Dreams Tour Vol.2。始まりました。 1979年から1986年、「安奈」から某バンドの解散まで。やるよ! 目一杯やるからね。楽しんでって下さい。やるよ!」 
 大歓声を受ける甲斐。もう一言付け加えた。 
 「「暁の終列車」をやるぜ!」 
 それを聞いてまた大歓声や。

 「ダッ!ダッ!ダッダッダカダッ! ダッダダカダカダッダー」というリズムに、 「タータラタラタラタラー」というホーンが突き刺さる。うわあ、めっちゃかっこ いい!この躍動と高まりがたまらない。ギターを弾いてる甲斐も、リズムと一体に なって頭を縦に振っている。 
 「ROCKUMENT II」でやった時は、半拍早く「こーころ傷つき疲れ 果てーたー」と歌い出す開放感の強いアレンジやったけど、今日はオリジナル通り 「 こころ傷つき疲れ果てたー」と歌った。 
 2番は「不意の嵐に二人倒れ 悲しみの底に倒れた」というニューヴァージョン の歌詞。 
 とにかくリズムとホーンが気持ちいい。そこに甲斐の歌声やで。 
 このツアーシリーズについて甲斐は、ファンの印象に「あの曲をやったときの ツアー」というふうに残るものにしたい、と語っていた。僕にとってVol.1の 「あの曲」は、「メモリー グラス」やった。Vol.2は「暁をやったツアー」と いうことになるんちゃうかなあ。

 「シーズン」 
 きれいな音に「ズズズ」とベースが打ち寄せる、あの前奏や。やはりVol.2 の期間に、「シーズン」は欠かせない。 
 上の方は水色に、下は黄昏色に染められたステージ。 
 甲斐のアコースティックギターがよく聴こえた。

 イントロで「BLUE LETTER」かと思う。体験したことのあるアレンジ やのに、今でも一瞬そう感じてしまうのだ。 
 「ビューティフル エネルギー」 
 途中で松藤が加わったりするのかとも思ったが、甲斐が全てを歌っていく。 
 ラストは歌詞の通り、金色の光に包まれた。

 ステージ後方の下、左右に2つの光がまわる。 
 「BLUE LETTER」 
 海の歌が続く。 
 この歌と同じ経験はないが、思い出す悲しみがある。傷が痛んだ。

 メンバーが去る。暗転中、甲斐の右にイスが用意される。前の客が沸く。 
 ライトがつく。「松藤ーっ!」の声がかかった。 
 松藤はすぐにアコースティックギターを弾きはじめた。 
 「街灯」 
 甲斐はサビの前、「あげた」「あった」の語尾をささやくように響かせる。 そこに情感が漂う。 
 「今夜ああ 報われない」と松藤もコーラス。「こいぃびとぉ たちーのー ように」は甲斐一人。「あの人は 涙を」で再びコーラス。そして甲斐がまた一人で、 「なが していーるー」とうたった。 
 間奏で、甲斐がレコードのイントロをハーモニカで吹く。淋しげな音色。 後奏でももう1度聴かせてくれた。 
 甲斐のハーモニカのあと、しばし松藤のギターだけが後奏を続け、静かに曲が 終わった。二人を拍手が包む。初体験の「街灯」アコースティックヴァージョン、 しみじみ素晴らしい。

 「松藤に拍手を」 
 ここからMCが始まる。

 「すごいよ、Vol.3は。KAI FIVEとか。もう決まってる。半年前に (曲目を)書いたその紙があるかどうか、わかんないんだけど」 
 KAI FIVEの名前に歓声もおきたが、「今の話しろよ」と自分でツッコむ 甲斐。 
 この「Series of Dreams Tour」のことを、「ザックリと 裏切りつつ、分厚く予定調和」と表現した。 
 めったに聴けないナンバーも、いつも聴きたい定番曲も、やってくれるのだ。

 松藤甲斐のライヴは、「期待しないで。(バンドの)人数が少ないんだから。 二人に、アコーディオンが入る」 
 あえてこう言うところをみると、実際は手応えを感じているのだろう。 
 松藤甲斐ライヴの会場となるライヴハウスについては、「場所知らない。京都の ライヴハウスなら知ってるんだけど。昔デヴィッド・ボウイがおねえちゃんといるのを 見たりして」 
 京都のライヴハウスって、磔磔(たくたく)のことかな?甲斐が直筆した 「風の中の火のように」の歌詞が飾ってあるというので、見に行ったことがある。詞は CDと少しだけちがっていた。作詞したときに書いたものだったのか。他に、賞を もらったアルバムの記念ディスクも飾られていた。 
 松藤甲斐名古屋ライヴの日程も、「覚えてない。今日に集中してるから」

 「松藤のアルバムをつくって。松藤が全部作曲とアレンジをやって、楽器も全部 弾いて。(僕は)プロデューサーとして、曲にいいことは何でもやろうと。作詞は 作家の江國香織、mcAt、ぐっさんに頼んだり。結局2曲デュエットしたりして、 じゃましてるんだけど」 
 「ISSAのプロデュースもあってめちゃくちゃいそがしい時に、くずの アルバムで2曲やらないといけなくなって。1つは「安奈」って言ってるだけだけど。 サンプリングしてって言ったのに」

 松藤と甲斐の「どっちがポール・サイモンなんだ?と。当然松藤なんだけど、 なりたがらない」 
 じゃあ、狩人ではどっちか、ヒデとロザンナでは、チェリッシュでは、と話が 転がっていく。チェリッシュのえっちゃんの名前が出ると、すかさず松藤が甲斐のこと を「よっちゃん」と呼ぶ。 
 「サンデーフォークの社長は元チェリッシュのドラムなんだよね。引退した人な のに、松藤、ドラム教えられたりしてんの」 
 松藤が「もっと思い切って叩いた方がいいよ」とアドバイスされたと告白。 
 「これは明日は言わない」と甲斐。 
 サンデーフォークのお膝元・名古屋限定のネタが聞けた。

 新たにスタッフに加わった人の名字のことから、名字と名前が同じになる チャンス(?)についての笑い話。 
 高校時代に「よしひろ」という名字の男子がいたそうだ。

 「中日の結果、知りたい?」と野球の話題。 
 阪神は勝ったと報告。伊良部は好きだという。 
 そして、明日から大阪で2日間ライヴをやった後、神戸にオリックスを見に行く と告げた。理由は、吉井が好きで、見たいから。「仕事にした」とのことで、文化放送 のゲストとして「ライオンズ ナイター」に出演するという。 
 すごい!僕のいちばん好きな野球場に甲斐が来る!グリーンスタジアム神戸に 通ううちに愛着のわいてきた、ブルーウェーブを見に。僕はめっちゃうれしくて、 拍手をした。が、ここで拍手したのは僕だけやったみたい。 
 甲斐には是非、グリーンスタジアム神戸のよさを感じてもらいたい。僕の イチオシ加藤投手の投球をもし甲斐が見ることになったら、最高やねんけどなあ。

 「東京は慎太郎が強気で、国のようになってきてる。名古屋の知事も強気だった から、区画整理どんどんやったんだよね。「そうしないと、大阪みたいになってしま う」とか言って。大阪は弱気で。博多も、弱気かな」 
 というフリから、選挙カーの話。 
 「あれって、ちょっと道ゆずったり、目が合っただけでも、反応すれば必ず マイクで言うだろ」 
 ある日甲斐たちが集まったとき、ただ立ってるだけなのになぜか「ありがとう ございます!ありがとうございます!」と選挙カーに連呼された。 
 「なんでかなと思って振り返ると、後ろでJAH-RAHがこうやって手振って んの。子どもみたい。ああいうの、手振りたがる奴っているよね。俺は子どもの頃から 嫌いだった。石投げたかった感じで」

 たくさん話してくれたMC。みんながいちばんうれしかったのは、途中で甲斐が すっと言った、この言葉やったんちゃうかなあ。 
 「今日は、すごく出来がいい気がします」

 松藤のギターで甲斐がうたう。 
 「メガロポリス ノクターン」 
 しかし、1番の途中にキーボードの方から一瞬音が入った。 
 甲斐はうたをとめる。「変な音がしたから」と。 
 「オフにしとけよ。前野、てめえ」と言って笑う。 
 もう1度初めから。甲斐の歌声を堪能する。途中から前野選手のアコーディオン も加わって、実にいい雰囲気。 
 「前野知常に拍手を」

 蘭丸、ノリオ、JAH-RAHも戻ってくる。松藤がキーボード台の奥に移る。 パーカッションとコーラスで参加してくれるみたいや。 
 「ナイト ウェイヴ」 
 いざ、大合唱。甲斐はサビで「ナーイト ウェーイヴ ナーイト ウェーイヴ」 と歌った後、「ウーウーウーウーウーウーウーウウー」とも「ウウーウウ」とも あまり続けない。「ウーーーーーウーーーーウー」というコーラスが聴こえる。 
 間奏。まずはJAH-RAHのドラムソロ。次にノリオのベース。前野選手の キーボード。続いて松藤にスポットが当たるが、コーラスがあまり聴こえない。2度目 の「ナーイト ウェーイヴ ナーイト ウェーイヴ」から、はっきりと聴くことができ た。それを待っていたかのように蘭丸のギター。この流れでオーディエンスの合唱が いっそう大きくなる。

 独特の前奏に客席が沸く。これ聴くの久しぶりや。ライヴでやってくれるときは、 アンプラグドヴァージョンがほとんどやったもんな。 
 「地下室のメロディー」 
 甲斐はアコースティックギターを弾きながら歌っていく。 
 間奏では、ギターを縦にして弾いてみせる。フラメンコのような、勇壮な音楽が できあがっていく。

 蘭丸のギター!これも最初のフレーズだけで会場中を熱狂させる歌や! 
 「港からやって来た女」 
 甲斐はサビで、左の蘭丸のマイクへ行く。そこで二人で「こーおりついた  カモメたちーよ」と歌うのだ。 
 3番の前半は静かになるヴァージョン。それから最後のサビへ。さらに、みんな の大好きなお楽しみや。今は右に動いてきてる甲斐が「バイ!バイ!バイ!」と叫ぶ。 「フーッ!」と叫んで指を突き上げる俺たち。甲斐がノリオのところへ行って、今度は そこで。ラストは前に出て来て、もう1回。 
 狂乱の「港・・・」が終わっていく。みんなの拍手。しかし、音は途切れない。 白いスポットを浴びたJAH-RAHがドラムを連打!かっこよく、すさまじい。この ビートはあの曲や!キーボードが改めて襲ってくる。甲斐がマイクスタンドを蹴り 上げる。 
 「ダイナマイトが150屯」 
 またも歌いまくり、歓声あげまくり、拳を上げての大騒ぎや。 
 甲斐はラストでも「恋なんて吹き飛ばせーっ」と歌った。 
 ぐるぐる廻るマイクスタンド。容赦ないビート。バンドのうねり。猛るギター。 最後の二音で左右の拳を突き上げるのが快感や。

 間髪入れず、あの低い音。熱が弾ける。 
 「漂泊者(アウトロー)」 
 バックのライトが混沌を表す。甲斐が歌う。動く。「愛をくれよ」「愛をくれ」 とオーディエンスに歌わせる。 
 「長く暑い夜の海を」のドラムが、ギターが、すごい。甲斐は最後だけ 「誰か俺に」の方を歌わせ、自分で「愛をくれ」と歌った。

 「冷血(コールド ブラッド)」 
 今度はバックのライトが横に走る。上方から、ビートとともに白い光線が縦に 廻る。かつては数個の照明が一体になっていたが、今夜は一つずつの光が動く。それら が全て下を照らした時、甲斐が歌い出す。 
 3番は肘のアクションから。白い光は羽根のように回転する。

 暗転。闇のなか、4本のマイクスタンドが並べられる。それを見た観客の歓声。 美しいメロディー。みんなの拍手。甲斐が「最後の曲になりました」と告げる。 そして、パーカッション。 
 「破れたハートを売り物に」 
 甲斐は左から2番目のスタンド。松藤がその右。右端はノリオ。両手にシャカ シャカとシェイクする銀の楽器を持っている。左端にはギターの蘭丸と、タンバリンを 手にした前野選手が二人でついた。JAH-RAHはドラムの位置でカウベルを叩いて いる。 
 会場全体が声をかぎりの大合唱。甲斐と前野選手が、甲斐と松藤が、ハーモニー を聴かせる。蘭丸がマイクスタンドをはなれ、後ろの定位置でギターを掻き鳴らす。 パーカッションの連打が放たれる。「悲しみやわらげ」と甲斐が歌う。それから再び 5人が横に並んでのサビだ。 
 見に行けなかった黒澤フィルムスタジオの名場面を、目の当たりにした気が した。

 熱烈なアンコールを受けて、ステージに照明が戻る。 
 帰って来たメンバーたちがビートを生み出す。アンコール1曲目にメドレーを 予想してた僕には、どの曲かわからなかった。「ランデヴー」?「ジャンキーズ ・・・」?「どっちみち・・・」? 
 鮮やかなピンクのTシャツで飛び出して来た甲斐が歌ったのは、そのどれでも なかった。 
 「HERO」 
 うわあ、わからんかった。最初の「ヒーロー」で拳あげられへんかった。今回も やってくれるんや。 
 「月は砕け散っても」と歌った甲斐が、マイクスタンドを廻す。蘭丸が 「ギュイン!ギュイン!ギュイン!ギュイン!」と激しく攻め込んでくる。いいぞっ。

 「ドラムス、紹介します。JAH-RAH!」の言葉から、メンバー紹介。 
 前野選手。ノリオ。蘭丸は、指を2本立てる例のポーズをし、そのまま腕を 振った。

 「安奈」 
 レゲエヴァージョンや。花園ラグビー場の時このスタイルでやったと話して くれた、4年前のMCを思い出す。 
 テンポは速い。今まで聴いた「安奈」のなかで、いちばん速かったかも しれない。

 虹。僕はその青の中にいた。 
 「観覧車’82」 
 歌い終えた甲斐が、客席に手を振り、おじぎをする。これ好きやねん。初めて 行ったコンサートで感激した。 
 甲斐が先に去る。メンバーが後奏を弾き続ける。でも、曲は早めに終わった。 すぐに僕らのアンコールが始まる。さらに熱く激しく。

 2回目のアンコールに現れた甲斐は、ピンクのTシャツの上に黒い皮のジャケット をはおっていた。 
 「レイニー ドライヴ」 
 PARTYを思い出した。甲斐は青いタンクトップじゃないけど。両拳を握り 締めはしないけど。 
 「息がつまる街の中で君を 見つけたとき 忘れていたぬくもりを 感じた けれど」が胸に迫った。 
 「サーチライト」からの部分は低くうたうヴァージョン。甲斐はそこの前半で、 マイクスタンドを持ち上げ、右後方の松藤を見ながらうたった。 
 曲が終わると、「松藤英男に拍手を」

 あのリズムが流れてくる。おお、まさかそう来るとは。 
 「ラヴ マイナス ゼロ」 
 PARTYの2回目のアンコールと同じ曲順になった。 
 今夜の甲斐は、「君から愛をとれば・・・」という問いを僕らに投げ掛けない。 レコード通りの詞でうたった。 
 後奏。演奏が静まる。誰もが期待するなか、甲斐はそれを口にした。 
 「サンキュー、じゃあね」 
 あの日よりも強く、そう言った。歓声が起こり、拍手が甲斐を包む。音楽が 高鳴っていった。

 バンドが前に出て来る。JAH-RAHはスティックを右の客席に、続けて左の 客席に、投げ入れた。 
 全員が肩を組んでの挨拶。その後も甲斐がステージにとどまってくれる。客席に 向かって手を上げ、長く歓声に応えてくれた。「甲斐ーっ!」僕は何度も叫ぶ。甲斐の 姿が見えなくなると、「What A Wonderful World」が流れて きた。

 

 

2003年5月10日 愛知県勤労会館

 

三つ数えろ 
ブライトン ロック 
フェアリー(完全犯罪) 
暁の終列車 
シーズン 
ビューティフル エネルギー 
BLUE LETTER 
街灯 
メガロポリス ノクターン 
ナイト ウェイヴ 
地下室のメロディー 
港からやって来た女 
ダイナマイトが150屯 
漂泊者(アウトロー) 
冷血(コールド ブラッド) 
破れたハートを売り物に

 

HERO 
安奈 
観覧車’82

 

レイニー ドライヴ 
ラヴ マイナス ゼロ