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甲斐バンド BEATNIK TOUR 2001 ーDo you beat?ー

2001年6月2日(土) 広島アステールプラザ大ホール

 広島市民球場近くの紙屋町で路面電車を降り、しばらく歩いた。アステールプラザ は大きくて新しい、白い建物だった。 
 入ってすぐの広い階段が、大ホールへ続いているらしい。見上げると、たくさんの ファンが階上を埋めている。

 列に並んで入場。入念なカメラチェック。最初にあったCD・VIDEO・DVD のコーナーを覗いてみたが、新譜「夏の轍」は予約を受け付けているだけ。今日並べて ないかなあと期待しててんけど。 
 奥のツアーグッズ売り場は、かなり混雑していた。早く客席に入りたいから、 いつもなら終わってから買おうと思うところや。でも、今日は日帰り。ライヴが終わって から時間がないのだ。列に並び、パンフとフェイスタオルを買う。

 席に戻ると、もう開演時間間近。僕の席は、8列目の左寄りだ。1列ごとの段差が 大きいし、座席も舞台中央に向いていて、見やすそう。演劇でも何でもできそうな感じ の会場や。 
 BGMは、かつての歌謡曲をカヴァーしたようなのが続く。甲斐が ラジオ「21世紀通り」で特集したいと言ってた、あの曲たちなのかもしれない。 
 BGMが終わる度に拍手。アナウンスが開演が近いことを告げ、拍手が大きく なる。

 曲が洋楽に変わった。立ち上がる。客電が落ちる。表のタイミングで、みんな 大きな手拍子。ノリやすい曲や。 
 虹色のライトが降り注ぐ。上の方で小さな楕円形のミラーボールが、 光を反射しながら回転している。 
 舞台左手にメンバーらしき影が現れた。照明が暗くなり、ステージセット手前端 の坂の縁が緑色に光る。その中をメンバーが歩いていく。大歓声や。まだメンバーの 姿は影になっている。 
 BGMが消えた。ビートが生み出される。このリズムは、あの曲や!ギターが かぶさる。まちがいない。東京に出て数年経ってからやっと書けたという、博多のこと を描いた歌。会場じゅうから驚きの声があがる。 
 そこへ甲斐が飛び出してくる。歓声がさらに大きくなる。 
 甲斐はグレーっぽいスーツ。髪は短め。PARTYの頃より後ろが少し長いくらい。 前髪は下ろしている。なんだか、顔も若くてかっこいいぞ。この髪型が似合うねんなあ。 
 マイクスタンドの前に進み、歌いはじめる。 
 「ちんぴら」 
 生で聴くのはKAI FIVEの初期以来や。レコードに近いオリジナル ヴァージョンは初めて。1曲目にやってくれるとは! 
 3段階のコーラスはなく、甲斐は「あーお腹すかした」と歌う。僕は全部歌い たくて、「あー あー あーお腹すかした」と歌う。オーディエンスがコーラスする のだ。 
 甲斐は最初から左右に動きまわる。早くも坂を全部下りてしまいそうや。 そして、声がよく出てる。 
 最後にまた客席と甲斐とで「あー あー あー」と繰り返す。 
 曲のフィニッシュもかっこいい。甲斐のアクションに燃える。めっちゃロック!

 ビートが跳ねている。ジャンプせずにはいられない。 
 同時に僕は、「よっしゃ!」と叫んでいた。「おおっ!」とかはよく口に出る けど、こんなことは初めて。この曲、2曲目にやってほしいと思っててんもん。 
 マイクスタンドの前に立った甲斐が、両手を挙げ、「来いよ」というふうに指を 動かす。みんなの注目を集めると、マイクスタンドを蹴り上げた。 
 「ダイナマイトが150屯」 
 左手にいる一郎が、腕をぐるんぐるん廻しながら弾いている。「ポップコーンを ほおばって」のときのように。 
 間奏で左右に動いていた甲斐が、サビでマイクスタンドに戻ってくる。 
 最後の部分は、かつてよくそうしていたように「ちくしょう 恋なんて 吹き飛ばせ」と歌った。 
 そして、後奏。誰もが期待するなか、甲斐がマイクスタンドを廻す。これがまた、 今までで最高と思えるほどに、よく廻った。何度も何度も回転した。思わず起こる すごい歓声。盛りあがるっちゅうねん!

 照明がつく。「甲斐ーっ!」の叫びが飛び交っている。 
 「甲斐バンドのツアーが始まったよ」 
 みんなが拍手と大歓声で応える。その事実だけで感激やもんな。 
 「今日が初日」 
 それから後ろに下がりかけたが、もう1度マイクスタンドに歩み寄って、 こうつけ加えた。 
 「最後まで楽しんでくれ」

 ドラムとパーカッション。ステージ後方に網の目が浮かび上がり、シルエットと なったメンバーが頭上で手を打っている。 
 ギター。短めのイントロで甲斐が歌い出した。 
 「きんぽうげ」 
 ステージがオレンジに染まっていく。 
 1番と2番の歌い終わり、甲斐が力を込めて身を翻す。そして、マイクを手に 右へ左へと歩いていく。今日は左に来てくれることが多くてうれしいぞ! 
 客席にマイクを向ける部分は短め。3番の多くを甲斐自身が歌って、後奏へ突入。 1曲ごとにちがう、フィニッシュでのアクションがかっこいいぞ!いつもよりいっそう 鮮やかなのだ。

 コーラスの声。あらゆる色のライト。演奏が始まるとさらに、はなやかな色をした 小さなスポットライトがたくさん、辺り一面をまわり出す。PARTYを思い出さずに はいられないではないか。 
 「フェアリー(完全犯罪)」 
 一郎が加入して最初に発表した曲だ。今日はメロディーが心地いい。 
 2番の中盤では、ビートに合わせて、甲斐が胸を撃たれたような動きや、銃弾を 避けるような動きをして見せる。 
 いちばん最後の3連打で甲斐は、回転し、右腕を挙げ、両手を挙げた。

 15年振りのオリジナルアルバム「夏の轍」が出ると、甲斐が告げる。発売は 4日後だ。 
 次に歌うのは、その中からの新曲。 
 「「眩暈のSummer Breeze」をやるぜ」 
 紫の妖しいライトが、曲の雰囲気にぴったり。 
 サビの最後、「ブリーズ」と歌う瞬間に照明が変わり、甲斐が影になる。 
 ツアーに先立って、甲斐はラジオでこの曲をかけてくれた。でも、聴くのは 敢えて数回だけにとどめておいた。生で聴けるであろう今日のために。最初の演奏の 印象を鮮烈にしたかったのだ。そして、実際に体験してみると、「赤く染まった海岸線」 という詞が、甲斐バンドらしく響いた。

 新曲に対する拍手に、甲斐が「サンキュー」と応える。 
 アコースティックギターをかけている。 
 「次にやるのは、直前まで落ちかかってたんだけど。それはやらないとだめだと、 坂井君と松藤に言われて。昔は、言われたら余計切ったんだけど」 
 客席から、「やれ!」と偉そうな声が飛ぶ。 
 「うるさい。殺すぞ」と甲斐。 
 「ごめん」 
 さっきの声の主が、すぐに謝った。 
 「よし。お前が謝ったから、次の曲行ってやる」

 「君たちも歌わないといけないんだよ。知ってた?さっきからけっこう歌ってる ようではあるが。まだまだ」 
 僕はもちろん最初から声のかぎりに歌ってるし、会場全体もよく歌っていると 思う。それでも、煽られたからには、さらに気合い入れて歌ったんねん。

 甲斐のギターとともに、最初の音。続いて、ズズズというリズムが降ってくる。 その周りを、きれいな音が飛んでいる。そして、下からわき上がってくるようなドラム。 
 シングルヴァージョンに近い「シーズン」 
 甲斐といっしょに、コーラス部分も本編も強く歌った。「PARTNER」ツアー のアコースティックヴァージョンが思い出される。 
 音に、歌に、夏を感じた。

 暗転の中、キーボードが少しだけ鳴ってとまる。そして、もう1度奏ではじめる。 ステージ後方から白い光。 
 「ナイト ウェイヴ」 
 間奏で甲斐がステップをとめ、手でパーカッションの方を示す。続いて、ベース。 そして、松藤のドラム。それぞれの楽器がソロを聴かせる。やがてキーボードが豊かな うねりをつくり出す。次はギターだ。左に一郎。右に佐藤英二。それから、あらためて 全ての音が重ねられる。「ああ、バンドや」って感じる瞬間。快感や。

 7曲目に「ナイト ウェイヴ」が演奏されたことに、僕には思い入れがある。 
 84年暮れの大阪城ホール。初めて体験する甲斐バンド。内容を忘れてしまうの が惜しくて、曲順を頭に叩き込みながら見た。「ランデヴー」で幕を開けたそのライヴ の、7曲目が「ナイト ウェイヴ」だったのだ。そして、「ナイト ウェイヴ」を境に、 ステージの流れが変わった。バラードが続き、それから後半の盛りあがりへと突入して 行く。 
 2曲目に「ダイナマイトが150屯」、4曲目が「フェアリー(完全犯罪)」 というのも、あのときと同じや。そして、1曲目の「ちんぴら」にも、84年の 「ランデヴー」と似た匂いを感じる。あの年はアルバムが出なかった年であり、この ツアーと同じように、新しいアルバムの曲をがんがんやるというステージではなかった。 そこでオープニングに抜擢された、以前のアルバムの曲。それも、それまではあまり 目立ってなくて、ライヴでも歌われることが少なかった、だけど多くのファンが愛して いる歌。 
 自分が初めて行ったライヴを思い出して、うれしかった。この曲順、ほんまに 甲斐バンドそのものや。 
 果たして、今日も「ナイト ウェイヴ」の後に変化があった。

 「松藤が歌ってくれる」と言って、甲斐が左ソデへ歩み去る。 
 代わって、松藤がギターを手に、前へやって来る。黒のベスト。「BEFORE  THE BIG NIGHT」で着てたやつ。あのときは、剥き出しの両腕に イラストを描いてた。それがTVに映らないように、甲斐が舞台裏でインタビュー されてる後ろを、腕を隠して通ってたっけ。 
 「行くよ」と、松藤らしいやわらかな声。 
 「ビューティフル エネルギー」 
 2番の途中で、甲斐が戻ってくる。サビを舞台左の一郎のマイクでコーラスする が、あまり聴こえない。間奏の間に、英二や一郎が集まってる右のマイクへ移動。 ほんとは元からこっちでいっしょにコーラスするはずやったんかな? 
 「ビューティフル」「きーんいろのー」というハーモニーが響き、ほかは 松藤がひとりで歌った。 
 「松藤ーっ!」「まつふじさーん!」の声が飛ぶ。

 松藤はドラムセットではなく、パーカッションのところへ行った。パーカッション 奏者がドラムに移っている。 
 彼が骨太なビートを叩き出す。重量感もタイトさもある、絶好のプレイだ。 バラードなのに激しい。この曲の前奏って、こんなふうに演奏することもできてんなあ。 
 「BLUE LETTER」 
 甲斐は「あれたドライブインの」とうたった。 
 白い大きなライト。やがて、後ろから夕陽のようなオレンジが射してくる。 
 「シャツを脱ぎ捨て」のところで、甲斐はシャツのボタンをひとつはずした。

 メンバーが姿を消し、甲斐ひとりがステージに残る。 
 「今回のツアーは(代表曲が多いから)僕らも君たちも楽」とジョークを言って から、「ほんとは、楽をするというんじゃなくて、いっしょに楽しむという、ね」 
 昨日スタートしたばかりの、新しい公式サイトについても語ってくれた。 
 「BBSへの書き込みは、送信する前に1度読んでから。性格が出るからね。 アブナイ感じだと、結局は相手にされない」

 力強く弾くアコースティックギター。イントロのあのフレーズも激しく。 
 「テレフォン ノイローゼ」 
 みんなも大きな手拍子と歌声で応じる。もちろん、コーラスも全部歌い続ける。 「殺すこともできる」は、客席に歌わせてくれた。 
 間奏もすごい!甲斐の指が何度もネックを渡る。見せ場充分、盛りあがる 盛りあがる。 
 最後まで激しく。ラストはあのフレーズで切ってくれた。この終わり方、好きな のだ。

 「リハでやってない曲を」という言葉に、うれしくてみんな拍手。 
 「やってなくても、うまくいかないはずがない」 
 もう1曲アコースティックだ。舞台左のマイクに、松藤、英二、前野選手がつく。 甲斐を含めた4人ともがサングラスをかけている。 
 甲斐がギターを弾き始める。おお、この曲をやってくれるとは!ライヴアルバム では聴いてたけど、ついに生で聴くことができる! 
 「円舞曲(ワルツ)」 
 しかし、すぐに中断。3人のコーラスがよく聴こえなかったのだ。甲斐がマイク のことをスタッフに指示して、再開。 
 前野選手は、2番が終わると舞台左奥のキーボードへ行って間奏を弾き、また コーラスのために急いで前へ戻ってくる。松藤が笑顔で迎えてる。 
 レコードよりも繰り返しの多いライヴヴァージョン。みんなと声を合わせながら も、詞のかなしみが伝わってきた。

 「ここで大森信和を」という甲斐の紹介に、大歓声が捲き起こる。 
 大森さんが現れ、甲斐の右に位置を取る。左には一郎、もちろんドラムは松藤だ。 いよいよ4人が全員そろった。 
 イントロを聴いても、どの曲か気がつかなかった。聴き覚えのあるメロディに 観客から拍手が起きても、まだわからない。 
 「安奈」 
 今まで聴いたどの「安奈」とも全く印象がちがう。リズムが強いのだ。 今ツアーのサブタイトル「Do you beat?」を思い出した。これが甲斐バンド の「安奈」やねんなあ。 
 今夜大森さんが加わって最初に演奏する曲に選ばれた。バンドにとってこだわりの ある歌なのだろう。長岡さんがいた時代の最後の曲でもある。 
 甲斐とギターの2人はイスにすわっている。甲斐はハーモニカを吹き、最後まで 客には歌わせずに自分でうたいきった。

 大森さんにスポットが当たる。あのフレーズを奏でている。客席が沸く。 
 「裏切りの街角」 
 ゆっくりしたテンポで。最後の繰り返しはひときわ粘る。これが、甲斐が言ってた 「味」なのだろう。「甲斐バンド」のプレイなのだ。

 静かだが、劇的な音。緑の光がいく筋も伸びている。 
 「LADY」 
 バラードは、深い痛みと悲しみから、踏み出す勇気、強い希望へと移ってゆく。 緑色のなかで、ひとり赤いライトに染め抜かれた大森さんが、間奏のギターを叫ばせる。 
 危うくはあるけど懸命な決意を、甲斐が歌う。 
 別れの歌が多かった甲斐バンドにあって、ほんとうの愛を手にしているふたりを 描いた歌だと言われてた。今まさにそのことを感じてる。そして、去年のMCの 「熱い恋をしようぜ」という言葉も思い出していた。 
 曲が終わる頃、ステージを照らす明かりは、真っ赤に変わっていた。

 アコースティック ギターからの前奏。 
 「嵐の季節」 
 あついのだろう。甲斐はときどきジャケットをずらせて、肩を出している。 
 僕らは拳を突き上げる。 
 2番の後はサビの繰り返しだ。3回目に甲斐がドラムを制し、オーディエンス だけに歌わせる。そのときもパーカッションは効かされている。このアレンジは 初めてちゃうかなあ。合唱と拳、甲斐のアクション、それらを彩るビート。 気持ちよかったあ。それからもう一度、全ての楽器とともに歌声を重ねる。

 前奏で客席が吼える。 
 「氷のくちびる」 
 ゆっくりめのリズム。曲の後半から燃えあがる。 
 間奏は二人のギターだ。左に甲斐、右に大森さん。甲斐は身体を起こし、きつく 宙を睨んでいる。大森さんは身を沈め、陶酔した表情をうかべている。ファンの間から 歓声がわき起こる。 
 歌い終えた甲斐は、「アアアアアアアアアアアアアアア」と叫ぶ。ファルセット の長い声をあげる。ギターを持ってのフィニッシュのアクションもいいぞ!

 松藤のカウント。音の放出。一郎が跳んでいる。 
 「翼あるもの」 
 熱狂から一転、後奏はゆっくりと。一音ずつ間隔を開けて振り絞る。甲斐が腕を 広げ、それを頭上に差し上げて指を組む。影が甲斐の腕を上っていく。まだ静かな 演奏が続いている。甲斐が身体を前に屈め、伸ばして手を組んだままの両腕を真下に 下げる。やがて上体を起こし、両腕を真横に伸ばす。最後の大きな音が湧きあがる。

 ここですぐに「漂泊者(アウトロー)」! 
 僕は跳ぶ、跳ぶ。「翼」から「漂泊者(アウトロー)」、この流れを望んでたんや! 
 2番の頭、甲斐が舞台左へマイクスタンドを蹴った。飛ばされたスタンドは 弾みながらも、ちょうど一郎の前に、倒れず立った。そして、甲斐も左の前に やって来る。 
 「ひとりぼっちじゃあ」で跳び上がり、拳を上げる。手拍子をする。甲斐に 向かって歌う。 
 この「漂泊者(アウトロー)」で本編は終わる。やっぱりこの曲順はたまらん なあ。めっちゃ甲斐バンドを感じる。

 メンバーが去ると、すぐに速い手拍子や。興奮して、自分の手がとまらない。 もちろん、元からとめる気なんかあるわけないしな。

 大歓声に迎えられて、メンバーたちがやって来る。 
 最後に登場した甲斐は、白いTシャツ姿だ。 
 皮切りのドラムだけでは、どの曲かわからなかった。「おっ!」と思ったとき には、レコードの通りに短い前奏から甲斐が歌い始めた。 
 「HERO」 
 みんなはとっくにこの曲やとわかってたみたいや。すぐに拳を上げて、僕も いっしょに歌う。 
 甲斐はTシャツをめくり上げて歌ってる。ステージの上も熱いんやろう。 
 「月は砕け散っても」の後の間とギターはあった。客席のすぐ前まで来ていた 甲斐が、そこで坂を上り、マイクスタンドを振り廻した。

 メンバー紹介も、シンプルな、甲斐バンドらしいものだった。 
 まずは、キーボードの前野選手!一昨年までのソロツアーに続いての登場だ。 
 「BLUE LETTER」のドラムもよかったパーカッション奏者 JAH-RAH! 
 ニューアルバム「夏の轍」の共同プロデューサーでもあるベーシスト、坂井! 
 「なぜか花園ラグビー場もBIG GIGにもいた。VIDEO見たら映ってるよ」 と告げられた、ギター佐藤英二! 
 それから、以前の楽器に復帰した、甲斐バンドのドラマー松藤英男!松藤はドラム セットをはなれて、前まで出てきてくれた。 
 続いて、「ギター田中一郎!」の声とともに、一郎が右手を上げて前に進み出る。 
 そして、最後に大歓声に包まれたのは、もうひとりのギタリスト大森信和!

 ドラムの音といっしょに、下から虹色の太いライト。上では別の虹色のライトが 回っている。 
 「観覧車’82」 
 間奏の音が豊かだ。甲斐はステージじゅうを動きまわる。 
 続く「若さではずんでた頃の・・・」のところを、「手をのばせば届きそな・・・」 のパートで歌った。そこの詞は2回聴くことができたわけだ。 
 「こらえきれずに」より先に「断ちきれず俺は」を歌ったのも、ニュー ヴァージョンや。 
 後奏で甲斐は、前の左にやって来て、ステージの縁に腰掛けてみせた。 客席に足を垂らして。近くの客が大よろこびや。 
 甲斐はやがて立ち上がり、ステージ右へ歩をすすめる。後方の客席を見て、 手を上げる。ぞくぞくっとした。かつてそうしていたように、左右の客席に手を振り、 お辞儀をしていくのでは、と思ったのだ。あれ、めっちゃうれしかってんなあ。 
 以前のように少しずつ立ち止まって感謝の気持ちを表す形ではなかったが、 客席にアピールし、最後に真ん中で礼をして、甲斐はステージを下りた。 
 甲斐への拍手と声援。そして、後奏は続いている。オーディエンスの手拍子も 続くのだ。 
 最後の音で盛りあがる。ステージ上では一郎と大森さんが、「最後を締めろよ」 というふうに、お互いにうながしている。結局、大森さんが一郎を指差して、 一郎がフィニッシュを決めた。

 今度のアンコールは、ゆっくりめの手拍子。大きく手を叩く。甲斐の名前を叫ぶ。

 美しい調べ。それから、パーカッション。すごい手拍子。白い照明。 マイクスタンドが4つ並べてあった。絶妙のタイミングで、4人がその前に歩いてくる。 大きなアクションを見せたわけでも、観客にアピールしたわけでもない。ただ、 歩いてくるだけだ。でも、それがめちゃめちゃかっこよかった! さり気ないとこではあるけど、名シーンでした。 
 「破れたハートを売り物に」 
 やってくれたか!「「破れたハート・・・」から全てが始まった」という言葉も あった。1986年6月、最後の最後に歌ったのもこの歌だった。 
 左から、一郎、松藤、甲斐、佐藤英二。大森さんは右後ろのポジションだ。 
 甲斐は黒のツアーTシャツ。サングラスをかけていたが、1番で頭に上げて しまった。 
 間奏は大森さんのギターだ。甲斐はその音に聴き入って、身を任せている。 
 曲が終わりに近づいて、暗転。最後は、JAH-RAHがスティックで ビートを叩き出した。

 これでライヴは終わってしまうんかなあ。「観覧車’82」「破れたハートを 売り物に」と続いたし。満足しながらも1曲でも多く聴きたい!という、例の感情が 胸をつまらせる。 
 しかし、松藤がドラムセットに戻っているように見えるぞ。まだ照明は点かない。 もうちょっとの間、点かんといてくれ!あと1曲やってくれ!

 その願いは通じた。 
 悲しみをたたえたキーボード。今はこの音だけを聴いていたい。拍手や歓声で かき消してほしくはない。果たして、会場は静まり返り、存分に聴き入ることが できた。 
 やがて、キーボードのメロディが、あの前奏へと入っていく。 
 「100万$ナイト」 
 世界に入り込んで聴いていた。やっぱり、ものすごい曲や。 
 甲斐の叫び。ファルセット。大きなミラーボールが縦に、横に、速く、光を 振りまわしてる。

 酔いしれている観客たちの前に、甲斐バンドの4人が進み出る。横にならんで 肩を組み、いっしょに頭を下げる。オーディエンスも拍手で応える。「甲斐ーっ!」の 声も、さかんに飛ぶ。 
 何度も手を振ってから、甲斐バンドが左ソデへと向かう。 
 流れてきた音楽は、甲斐の歌声。「また一緒に楽しもうぜ 昔のように」と 呼びかけている。新しいアルバムの曲なのだろう。今夜にふさわしい歌や。

 これこそ甲斐バンド!というステージやった。 
 「ラヴ マイナス ゼロ」の後に「夏の轍」を出して、始まったツアーのよう。 
 甲斐バンドのアレンジ、バンドならではの味がある演奏、甲斐の歌がよく 聴こえるところ。それらがことごとく甲斐バンドらしさを感じさせる。 
 「Do you beat?」っていいセリフやなあって思ってたけど、 そう銘打ったのがうなずける場面が、ライヴ中何度となくあった。ビートを感じたで。 
 甲斐は最近のインタビューで、「甲斐バンドのライヴ盤では「流民の歌」が 気に入ってる」と言っていた。それを裏打ちするように、今日のパ-カッションは よかったな。ウィンドチャイムも印象的やった。 
 サンストで言ってた「海辺の三部作」も、全部歌ってくれたな。「シーズン」、 「ナイト ウェイヴ」、「BLUE LETTER」。

 帰りの新幹線で、パンフレットを読んだ。 
 「ゆっくりとした長いスパンで質の転換を図ってもよかったのだ」 
 86年当時の甲斐バンドについて、甲斐がそう書いていた。これは、もう解散は しない、ということだろう。これからは甲斐バンドを続けて行くという宣言ではないか! 
 うれしいなあ。今夜のライヴで、これは一時の再結成ではなく、甲斐バンドは これからも続くんやと確信したけど、やっぱりそうなんや!甲斐バンド完全復活!

 新大阪から急いで帰り、「21世紀通り」の放送に間に合った。 
 甲斐がこの日最初にかけたのは、「アナログ レザー」。ライヴ終了後に 流されたあの曲だった。 
 また一緒に楽しもうぜ!

 

2001年6月2日 広島アステールプラザ

 

ちんぴら 
ダイナマイトが150屯 
きんぽうげ 
フェアリー(完全犯罪) 
眩暈のSummer Breeze 
シーズン 
ナイト ウェイヴ 
ビューティフル エネルギー 
BLUE LETTER 
テレフォン ノイローゼ 
円舞曲(ワルツ) 
安奈 
裏切りの街角 
LADY 
嵐の季節 
氷のくちびる 
翼あるもの 
漂泊者(アウトロー

 

HERO 
観覧車’82

 

破れたハートを売り物に 
100万$ナイト