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甲斐バンド BEATNIK TOUR 2001 ーDo you beat?ー

2001年6月30日(土) NHKホール

 雨の原宿駅。改札を出て右へ。歩道橋を渡り、競技場そばの並木道を 行く。 
 前にNHKホールへ行ったときは、渋谷から坂を上っていった。上りきった左手 に渋谷公会堂があり、その先にNHKホールが見えた。92年の「甲斐よしひろ HISTORY」。初めての東京遠征やった。 
 今日はホールの裏から近づく感じで、あの時とはかなり印象がちがう。会場周辺 に集うファンの群れ。中には、横断幕を広げているグループもあった。

 ロビーにたくさん花が飾ってある。贈り主を見てみると、ダウンタウンや白山眼鏡 の名前もあった。 
 グッズ売り場も通路も人で一杯や。5、6段の短い階段を上って扉を開けると、 紫と白のライトに照らされたステージが目に飛びこんできた。雰囲気あるぞ。 
 今日の席は1階C7列の真ん中。オーケストラピットにあたる部分が最前列なの で、実質的には12列目あたり。 
 BGMは、やはり甲斐がラジオで言うてたやつやった。歌謡曲のニューテイスト カヴァー。広島から今日までの間に、放送があったのだ。ちあきなおみ「星影の小径」 、矢野顕子丘を越えて」、サンディー「蘇州夜曲」、ディック・リー「SUKI YAKI」、宇崎竜童「悲しき口笛」が流れていく。「私は街の子 巷の子」と歌って るのは、泉谷しげるか? 
 舞台の上では、楽器のチェックが行われている。パーカッションが1音、 「トューン」と鳴らされ、「破れたハートを売り物に」が頭をかすめる。

 会場にはTVカメラが入っている。広島のときにも見たが、今日の方が台数が 多いようだ。 
 開演は遅れている。1階席左後ろに、人がたくさん立っている。なかなか整理 されない。同じ座席番号のチケットがだぶって発券されたとか、何かあったんかなあ。 これは、だいぶ開演が遅れるかもしれない。 
 そう思っているうちに、BGMの音量が上がった。

 「イサス、イサス、イサス」という歌。そうや、広島のときもこれがあったんや。 
 それから、あの手拍子のしやすい最後の曲に変わる。僕らはすぐに立ち上がる。 客電が落ち、11色ならんだカラフルなライトが客席を染めていく。真ん中は黄色だ。 あの小さな楕円形のミラーボールはない。ライティングが変わるということは、1曲目 も変わるのか?

 BGMが終わった瞬間、あの美しい前奏が始まる。マイクスタンドが運ばれて くる。 
 もはやこれだけで感動しはじめている。 
 スポットを浴びて、JAH-RAHのパーカッション。 
 白いライトが点いたときには、4人はもうそこにいた。 
 僕にとっては、初めて1曲目で聴く「破れたハートを売り物に」 
 甲斐はグレーのスーツ。髪は伸ばして、パーマもかけたようだ。 
 甲斐と松藤をはさんで、一郎と佐藤英二。二人はギターを手にしている。 
 ビートを感じる。曲調が変わるところで振られる白いライトが、いい。間奏は、 一郎と英二のツインギターだ。この形は初めてちゃうかなあ。これもまたよし。

 キーボード。そして、ギターへ。イントロが長くなっている。歌入りで一瞬の ブレイク。甲斐がマイクスタンドの前で身を翻す。黄色いライトの中。 
 「ちんぴら」 
 キーボードの前野選手が「あー あー あー」とコーラスしている。広島では 気がつけへんかったなあ。

 「ダイナマイトが150屯」 
 松藤のドラムが、今日は重量感を感じさせる。同じ曲でも、音楽ってその時に よってほんとにちがうのだ。 
 甲斐は全て「ちくしょう 恋なんて吹き飛ばせ」と歌った。 
 最後は赤いライトだった気がする。いや、興奮していてそう思えただけだったの かもしれない。

 大歓声を受けて、甲斐のMC。 
 「最後まで目一杯やります。楽しんでってくれ。さあ、やるぜ」

 このツアーの「きんぽうげ」は、「くーらやみのなか だーきーしめても」の語尾 をやや突き放した歌い方。 
 最後の繰り返しで、甲斐が前にやって来る。腕を振って観客を煽り、マイクを 向ける。「街の色が」だけ歌わせて、あとは甲斐が自分で歌った。

 「フェアリー(完全犯罪)」 
 今日は、2番も「あなたのものよと来やがった」と歌う。 
 1番では胸を撃たれた仕草。2番ではマイクスタンドを傾け、その逆方向に 膝を突き上げるアクション。ROCKUMENTヴァージョンの「ダイナマイトが 150屯」でよく見せていた動きだ。3番からは、そういう動きはなくしていく。

 ニューアルバム「夏の轍」からの「眩暈のSummer Breeze」 
 広島のときはまだ出ていなかったアルバム、今日は聴き込んできたぞ。 ヴォーカルが入る直前のギターの咆哮は控えめ。きっちりライヴヴァージョンに 仕上げられてるねんなあ。 
 回転するライトは、光のまわりに緑や紫をまとって、刻々とその様相を変えて いる。甲斐は魅入られたように一点を見つめて歌う。 
 後奏が高鳴り、松藤のドラムが音を放出。この激しいラストも好きや。

 まず、きれいなキーボード。今日はこの音が印象的や。 
 「シーズン」 
 甲斐がせつない表情をして、せつない声でうたう。 
 「お前は幻だと言う 二人の仲は終わりだと」 
 「青き星の群れ きらめく海岸で 俺たちはいつも 出会うはずだった」 
 痛みが胸を突く。泣けた。これまでに聴いた「シーズン」のなかで、最高やった かもしれない。

 「ナイト ウェイヴ」が広島から変わっていた。 
 「波に落ちてく 二つの木の葉」に入る直前の演奏が長い。甲斐はその部分で 音楽と観客の手拍子に身をゆだね、それから歌へ入っていく。 
 その後の間奏は、パーカッションのソロからベースへ。そして、一郎と英二の ギター。ドラムやキーボードだけの部分はなくなり、新しい形にまとめられていた。

 ギターを持った松藤が前へ。甲斐はソデへ下がる。 
 「ビューティフル エネルギー」 
 ドラムはJAH-RAHが叩いていた。松藤が歌ってるんやから当たり前やねん けど、広島のときは目に入ってなかったなあ。 
 今日は一郎と英二がステージ右のマイクに集まることはなく、ギターの3人が ならんでいる。センターに松藤、左に一郎、右に英二だ。 
 甲斐は最後の繰り返しで戻ってくる。右中間のマイクでコーラスをした。

 右奥のパーカッションの前で、松藤がウィンドチャイムを揺らす。 
 「BLUE LETTER」 
 ベースの音のかたまりが、こっちへ向かって這ってくる。 
 甲斐は「暗い闇の中」と、レコードとちがう方でうたった。「シャツを脱ぎ 捨て」で、前に歩を進める。 
 松藤の歌から甲斐のバラードへの流れって、いいなあ。

 甲斐のアコギだけの「デレフォン ノイローゼ」 
 あの間奏に注目や。甲斐は右手の指を、ネックの真ん中からいちばん下まで ずらしていく。今度は逆に、真ん中からいちばん上まで。そして、いちばん上から ずーっと最後まで下げていった。歓声が沸く。みんな大よろこびや。 

 「テレビやラジオにいくつか出て、いっぱい話したいことはあるんだけど、 一人のときにとっとく」 
 そう言って笑って、MCは短め。 
 「街のちんぴらです」と紹介した松藤、英二、前野とともに 「円舞曲(ワルツ)」を歌う。 
 前野選手は今日も、コーラスのマイクの前から間奏を弾きに行き、また キーボードの台をまわって帰ってきた。

 まだメンバーは出てこない。 
 甲斐がアコースティックギターを鳴らす。 
 うたい始めたのは、「STARS」 
 ニューアルバムの中で、僕がいちばん好きな曲だ。 
 ギター一本で音が少ないから、CDよりも甲斐の声がむきだしで、直接胸に 届いてくる。 
 わずかな間奏で、「幾千万の死んだ星の下」というサビへ行く。 
 やがて、キーボードが重なりはじめる。 
 「ララララ」も短めやった。すべてがアコギでの演奏にぴったりなアレンジで、 素晴らしい。 
 聴くことができてうれしかった。このツアーでうたわれるべき名曲や。

 「ギタリストの大森信和を」 
 大きな歓声と拍手に迎えられ、大森さんが登場。 
 大森さんは自分でイスの位置を動かし、そこにすわった。 
 短いイントロで甲斐が「安奈」をうたい始める。 
 甲斐バンドの4人にベースの坂井選手を加えた編成だ。 
 続く「裏切りの街角」で8人が揃う。 
 僕は大森さんのギターに聴き入った。

 美しいキーボード。緑の光。甲斐は銀の長いジャケットをまとっている。 
 「LADY」 
 甲斐の歌。ピンクのスポットを浴びた大森さんのギター。 
 ステージが真紅に染まっていった。

 「嵐の季節」 
 そういう気分だったので、今日は拳の上げ方を変えた。「そうさコートの襟を 立て」の間に4回突き上げるのだ。かつてはこの上げ方が主流だったと聞いている。 これがすごくしっくりきた。上げる回数は半分だが、1回ごとに気合いを込めて。 力強く。 
 これから「嵐の季節」は、この拳で行こうかな。この方が気持ちを入れやすいと 感じられた。

 松藤のカウントから、劇的な前奏へ。光に照らし出された甲斐は、ジャケットを 脱ぎ、ギターをかけている。 
 「氷のくちびる」 
 黄緑のライト。間奏では、甲斐が赤に、大森さんが緑に染め抜かれる。 
 その名場面が終わって2番に入ると、松藤が縦笛を吹いているのが見えた。

 曲の始まりで一郎が跳ねる。 
 「翼あるもの」 
 甲斐は間奏でパーカッションの台に乗る。それからドラムスの台へ移った。 「俺の海に翼広げ」で飛び下りて、前へ踊り出る。一郎も左の前へ。甲斐も左へ行き そうだったが、踵を返して右へ。そして左へ。客席全体が沸騰する。

 「漂泊者(アウトロー)」 
 会場全体から甲斐の声が発せられているような感覚におそわれた。それだけ熱狂 してたってことなんやろうなあ。僕もみんなも大好きな歌なのだ。 
 後奏で音がきしる。これぞ、甲斐バンドの「漂泊者(アウトロー)」や!

 アンコール最初の音は、あのイントロ。オリジナル通りのドラムになってたから、 今日はすぐに「HERO」やとわかったぞ。盛りあがるのだ。 
 「月は砕け散っても」の直後、ギターが「ギュイーン!」と派手にうなりを 上げる。いいぞ、一郎!

 メンバー紹介。 
 「喝采を浴びていいと思う。なぜか15年振りにドラムを・・・」 
 甲斐がそこまで言うと、オーディエンスがものすごい歓声を上げる。みんな うれしいのだ。甲斐はもうそこで言葉を切り、松藤の名を呼び上げる。 
 さらに大歓声。前まで出てきた松藤は、2本のスティックを下からふわりと 客席へ投げ入れた!これ期待しててんなあ。かつて甲斐バンドのライヴでは、松藤は いつもスティックを投げていた。やってくれたかあ。

 「観覧車’82」 
 間奏にのって虹色のライトがまわる。甲斐はステージ上に寝転んでみせた。 暑そうだ。曲と手拍子に包まれて天井を見上げるのって、どんな気分なんかなあ。 きっと心地いいにちがいない。 
 ギターがめっちゃ印象的や。間奏でも、甲斐の歌声の裏でも。歌の間隙を縫って 跳ねる感触が気持ちいい。「観覧車」でこんなにギターを感じたのは初めてや。 
 後奏。甲斐は真ん中でおじぎをし、客席全体を見渡してから、ステージを後に した。 
 それからも一郎のギターが冴える。大森さんの方へ歩み寄りながら、あるいは、 松藤の方を向いて。 
 すごく気持ちのいい「観覧車」やった。一度、野外で聴いてみたいなあ。

 2回目のアンコールに現れた甲斐は、黒いツアーTシャツ姿。 
 「100万$ナイト」 
 碧と藍が色の層を成している。目に見えるのは甲斐だけ。そのほかのものは、 背景の色にとけている。 
 サビでその世界が赤に染まる。劇的なバラードに、それが血の赤に感じられた。 
 「100万$ナイト」とうたう甲斐。その瞬間、どこかでウィンドチャイムの 音がしていた。

 全ての曲を終え、甲斐バンドが前に進み出る。観客の声援に応え、そして、 4人が手を差し上げる。松藤が大森さんの腕をつかんで、高くかかげていた。 
 最後までステージに残ってくれた甲斐が、オーディエンスにアピールする。 「甲斐ーっ!」と何度も叫ばずにはいられない。 
 甲斐が手を挙げて去っていった。 
 「アナログ レザー」が降ってくる。甲斐バンドとファンたちの再会を祝う あの歌が。

 今日は「シーズン」と「観覧車’82」が特によかったなあ。 
 それに、「STARS」が初めてうたわれたライヴとしても、記憶されること になるだろう。 
 甲斐が観客の反応を見て、MCの言葉を飲み込む場面が多かったのも印象的 やった。これ以上言わなくてもこいつらはわかってるんだな、 という感じで話すのをやめる場面が。僕らのよろこびが伝わっていたのだろう。

 NHKホールでロックのライヴを行ったのは、甲斐バンドが最初だった。 
 甲斐バンドは今夜その場所で、また心に残るステージをやってのけた。

 

2001年6月30日 NHKホール

 

破れたハートを売り物に 
ちんぴら 
ダイナマイトが150屯 
きんぽうげ 
フェアリー(完全犯罪) 
眩暈のSummer Breeze 
シーズン 
ナイト ウェイヴ 
ビューティフル エネルギー 
BLUE LETTER 
テレフォン ノイローゼ 
円舞曲(ワルツ) 
STARS 
安奈 
裏切りの街角 
LADY 
嵐の季節 
氷のくちびる 
翼あるもの 
漂泊者(アウトロー

 

HERO 
観覧車’82

 

100万$ナイト