CRY

Twitterには長いやつ

甲斐よしひろ Series of Dreams Tour Vol.2(1979-1986)

2003年5月25日(日) 東京厚生年金会館

 ほとんど眠れないまま、朝早くに家を出た。朝の空気は気持ちがいい。 
 東京に着くと、まずは甲斐仲間たちと東京ドームで日本ハム千葉ロッテ観戦。 ファイターズOBである秦とゲンちゃん(河野)にサインをもらい、マスコットの ファイティーと遊び、ファイターズ戦の東京ドームの雰囲気を味わいつくす。試合は、 ファイターズが3試合連続二桁得点となる19点を挙げ、爆勝。楽しかったあ。

 さて、試合の後は、いよいよ甲斐ライヴ!四谷で地下鉄に乗り換え、新宿の厚生 年金会館へ。地下鉄で行くのは初めてや。新宿三丁目で降りたけど、ほんとは新宿御苑 前がいちばん近かったらしい。 
 久々の新宿厚生年金。KAI FIVEの頃によく来たな。すでに開場されて いるが、会場前には甲斐ファンがたくさん立っていた。待ち合わせをしてるのかな。

 ロビーがなんだか狭く感じた。前はそんなふうに思えへんかってんけど。 
 並べられた花は、白山眼鏡、吉本興業ぐっさん、DonDokoDonぐっ さん、文化放送、「そして音楽が始まる」。1人が2つ出してんの、初めて見たかも。

 1階客席も狭いように感じた。NHK大阪ホールが新しかったから、そういう気が するのかな。ステージの両端が、壁にそって少し客席側に出ている。そうや、そうや、 ここはこういう形やったなあ。 
 今日の席は1列目。実質1列目やった大阪に続いて連続。こんなん初めてや。 NHK大阪ホールのライヴから帰ったら、今日の チケットが届いてて、めっちゃうれしかった! 
 開演前の手拍子は少ない。いつもながら東京のお客さんはおとなしいな。 
 「席にお戻りになって、しばらくお待ち下さい」という2回目のアナウンスで 拍手が起きる。 
 松藤甲斐の「あいのもえさし」に合わせて、右端で手拍子を始めた人がいる。 僕も手拍子をする。右の方の席にいる僕には、ほとんどこの2人の手拍子しか聞こえ ない。でも、手拍子はやめへんぞ。絶対にとめたくない。 
 BGMが1曲終わるごとに、拍手が起こり、手拍子も大きくなっていく。やがて 最後の曲が大音量で流れ出した。「ヘーーーーイ」とかいう吼え声が、心なしか 「かーーーーい」って呼んでるように聴こえる。 
 メンバーが入って来る。それぞれの楽器の音を出す。BGMがやんだ。

 まだ暗いステージから、あのイントロが聴こえてくる。 
 「三つ数えろ」 
 メンバーが光を浴びる。前野選手が最初から「ウフッフー」ってコーラスして る。蘭丸は帽子をかぶっていない。 
 そこへ甲斐が飛び込んで来る。「甲斐ーっ!」の叫びが、歓声が、ひときわ大き くなる。甲斐はえんじのジャケットと黒のパンツ。中も黒で、縦にも横にもファスナー が走ってるデザイン。髪はセットされていた。 
 「ひからびた サンドイッチとお」に入る前、「キュルルルル」とピアノの音が 曲の激しさを盛り立てる。 
 今日もやっぱり「路上」と歌う。「ファッションだけが」で、左手でジャケット の襟を持って振る仕草を見せた。

 イントロで蘭丸がライトに照らし出される。続いて前野選手も。 
 「ブライトン ロック」 
 俺の近くにいた子連れのお母さん、子どもといっしょに座って見るつもりやった らしいけど、このイントロでたまらず立ち上がったもんね。 
 バックは赤いライト。ステージ前の坂、網状になったその部分の後ろからも、 赤い光が伸びてくる。右側にいるせいか、ノリオのベースがすごい。 
 甲斐は右に来て「イェー!」と叫ぶ。左の方へ向かいながら、オフマイクで 「カモン!」と言っているのが見える。そして、左で歌い出した。 
 サビではあの、強く下を指差すポーズだ。 
 2番は「こんーどは俺の 番さ!」と歌う激しいライヴヴァージョン。「この 涙」とも歌った。 
 間奏で甲斐はキーボードの台に上る。むこうを向いた体勢から、左後ろを振り 返って蘭丸の方を指差す。 
 俺の声は2番のサビでもう変になりそうやった。甲斐を見上げながら手拍子し つつ歌いまくる。「ブライトン ロック」はいつも、ものすごいのだ。

 「Series of Dreams Tour Vol.2にようこそ。 目一杯やるからね。行くぜ」

 前奏はきれいな音から。そして「フェアリーー ウーウウウウー」のコーラスが 入る。左右の下に白い光。ビートが弾けた瞬間から、ステージを鮮やかな円が滑り 出す。バックでは七色の光の帯が、絶えず横に動いて、その配色を変えていく。 
 「フェアリー(完全犯罪)」 
 「俺はめちゃめちゃ」の後、「おんーなのあつかい」の後、「しーってるつもり が」の後、JAH-RAHが「ドドダン!」と叩いてアクセントをつけるその3か所 で、カラフルなライティングが一瞬消え、左上から白い光だけが差す。 
 甲斐は3番を歌いながら蘭丸と顔を見交わす。楽しそうな表情や。

 「Series of Dreams Tour Vol.2。Vol.3の ことは聞かないでくれ」の言葉に、声援が飛ぶ。 
 「このシリーズは、いつも大きいところだと同じような曲になるんだけど、 それはちがうだろうと。もっとできるやつがあるだろうと。1979年から1986年 ということで、体育館ツアーやったり武道館やったり、いちばん新陳代謝の激しい時 で。その頃もあまりやってなかった曲を、「暁の終列車」をやるよ」

 甲斐がエレキギターを握る。思えば、今回のツアーでは、この曲だけやな。 
 そのギターは濃紺で、銀色の小さな図形で縁取られている。ボディの端にも銀色 でマークが入っている。 
 前奏では、甲斐は落ち着いた感じでじっくりと弾いていた。1番のラストで 「オー、イェー!」と叫ぶと、そこからは頭を振って身体全体でリズムに乗りながら、 激しく弾き始めた。こっちもますます燃えてくる。

 海の色。きれいで爽やかな水色や。その下で。 
 「シーズン」 
 ノリオが高い声でコーラスしてるのがよくわかる。甲斐はせつない顔をして、 この歌をうたっていく。 
 手拍子するもよし、じっと聴くもよし。その日の客席によって反応はちがう。 今日の僕らは、大きく手拍子しながら、甲斐の「シーズン」を聴いた。「はじけー 飛ぶー きんいーろにー 光る岸辺ー」で曲が静かになると、手拍子は止む。甲斐の アコースティックギターがよく聴こえる。その音と甲斐の歌声を聴いていると、 砂浜への階段を下りていく絵が、不意に頭の中に浮かんだ。「シーズン」を感じた瞬間 やった。

 「ビューティフル エネルギー」 
 ピンクを基調にした照明で。 
 甲斐はかすれ気味の声でうたう。「しれーなーいからーぁ」「汗を流そう ぜーぇ」と、最後を下げて語尾を響かせるうたい方。いつの間にか髪は汗で、しぜんな 感じに乱れている。 
 いちばん最後だけ「声をあげようぜーっ」と高く張り上げて歌った。照明は金色 に変わっていた。

 イントロのドラムが太く強い。甲斐が「とある小さな」とうたい出す。キーボード がきれいな音を入れる。 
 「BLUE LETTER」 
 甲斐の立ち姿。左手はポケットに入れているように見えて、実はその前でハーモ ニカを握っている。前の曲と同じようにかすれさせた声でうたうのかと思いきや、 すごくよく声が出ている。ホールに甲斐の声が響き渡ってる。背景は曇り空。 
 左手でマイクスタンドの上を、右手で下を持つ。スタンドを身体の横、向かって 左側に置いてうたう。「暗い 闇のなか」とうたう。「シャツを脱ぎー捨て」から、 スタンドを持ち上げて前に出てくる。 
 後奏での「オーーーーっ」の叫びが多い。それから遅めのタイミングでハーモ ニカを吹き始める。ラストは腕を下ろすのと同時のお辞儀でしめくくった。

 暗転中、甲斐が後ろからイスに近づいて来ながら、すでに座っている松藤に手で 合図した。てのひらを上にして。松藤がイントロを奏ではじめる。明かりがつくと、 甲斐も座っていた。 
 ギターが歌入り前にあのメロディーで、曲名を告げる。 
 「街灯」 
 サビから松藤のコーラスが入る。甲斐は間奏でハーモニカ。2番がはじまる ぎりぎりまで吹いてから、すぐにうたいだす。 
 最後は松藤のギターが終わるのを待って、二人ともお辞儀をした。オーディ エンスの拍手。

 「「MY GENERATION」というアルバムの中の、「街灯」という曲を、 やりました」 
 「ボブ・ディランは自分の曲から5曲盗作したというけど、今の、自分の曲から の盗作でした。「安奈」といっしょじゃん。全然気がつかなかった。誰も教えてくれな かったし」 
 「アレンジがちがうと気づかないもんだねー」と、松藤がノってみせる。 
 僕はこれっぽっちも気づいてなかった。全く別々の曲として、好きや。自分の曲 から別の曲をつくるの、サンストでほめてたな。

 松藤甲斐の豪華作詞陣は、「知り合いだから頼んだんじゃないからね。その曲に 合った人を選んだんだ」

 作詞依頼の見返りとして、ぐっさんの「くずアルバム」に2曲参加しないといけ ないことになった。 
 「「ラーラーラー」とか、「生きてることってすばらしい」のライヴ ヴァージョンで、「あんなー」って。そんなことさせられて・・・すいません、好きで やりました」

 ISSAのソロアルバムに「FIGHT THE FUTURE」という曲を 書いて、プロデュースして。 
 ISSAと飲んでる席にmcAtが来て、作詞を頼むことができた。 
 「プロはムダ飲みはしない」と言ったのは、ファンクラブ会報に松藤が書いた 一文を受けてのジョーク。

 今日もチェリッシュのえっちゃんの名前が出たところで、松藤が甲斐を示して 「よっちゃん」と言う。が、その後、(思ったよりウケなかったなあ)というふうに 首をかしげてる。芸人みたいや。

 このツアーの福岡、松藤甲斐の福岡、大分アコースティックセッションと続いた 3日間について。 
 大分では、「そこでしかやらない曲もあって。慣れてないから弾きにくいな、 「風の中の火のように」、とか」 
 大分のあるホテルのネーミングに関して、「大分は革新的な街だから」と言って から、「そんなの関係ないか」

 「松藤の曲はどれも、だんだん好きになってる」と切り出して、甲斐が 「きんぽうげ」について語る。 
 「Vol.1で、どこでやっても盛り あがって。イベンターが「甲斐さん、いい曲ですね」って言ってくれて。いつの間にか 俺の曲のように言われてるけど、松藤の曲なんだよ」 
 名曲を書いた松藤に対して、拍手や。

 「僕もギターはイケルクチなんですけど」と笑う甲斐。松藤が楽器をたくさん 弾けることをほめる。 
 「でも、「氷のくちびる」で「こんやーも」って、「ダダダダッダン!」とか ドラム叩いてるのに、間奏でいきなり「ピピピーピピ」って縦笛吹いてるんだぜ。気が 狂ってるよね。あの時だけモニター上げてもらってたの?」 
 「そう」と松藤。 
 甲斐は「それでよくハウリングしたんだ。昔の機材で」と言い、「東京だと、 これまでやったミキサー、3人ぐらい来てる」と告げてから、あえていたずらっぽく 「よくハウったなあ」 
 松藤があわてて「ハウってない。ハウってない」と言い張ってみせる。

 松藤甲斐のライヴをやる東京キネマ倶楽部の話。 
 「初め300席で(完売になって)、追加70席。僕ら、ナメられてた訳です よ。このやろう、ディスクガレージ」と、怒ったふりシリーズ第2弾。 
 「(会場は)上はキャバレーで。松藤が当日、精彩がなかったら、上に寄って きたなと思って下さい」 
 「そこを楽屋にしたりして」とノる松藤。 
 「そんなの、あるわけないだろう」 
 「そうか」 
 「何言ってんだ」

 「松藤甲斐のライヴは、大したことないから」と言ってみせる甲斐。 
 「ダラダラやってる。その隙間が好きというマニアックな向きも」と笑う。 
 ソロツアーを笑点大喜利としたら、松藤甲斐は独演会だ、という例えも。 
 「暇のある方だけ来てもらって。昼間の末広亭みたいに」 
 またまた。自信のある時にかぎって、そんなふうに言うねんから。

 「(松藤甲斐では)半分くらいしか歌わないから、(ステージ上で)寝てしまう かも」というジョーク。 
 「寝かしとくか」と、松藤がやり返す。 
 「起こすといけないから静かに」とか、大いにノる二人。最終的には、 「この人、起きるとうるさいから」というところで、「それはキーボードの前野だ」

 「AXはビデオが入ります」という告知。 
 「ビデオの日だけちゃんとやるんじゃないからね。今をちゃんとしないと、次は ないんだから」 
 その言葉に、みんなが拍手。 
 「今の拍手いいよ。イナカみたいで。木更津か!」と甲斐が言うと、女性ファン が1人「キャーッ!」と叫んだ。 
 何気なく言った冗談にすごい反応がきて、甲斐は「「キャー」て。「キャー」 て」と繰り返した。 
 あれは木更津から来た女性やったんかな。

 「My name is KAI」の東京の日と比べて、お客さんのMCに対する 反応がいい。みんな「セイ!ヤング21」を聴いてるんやなあと、実感した。

 「甲斐バンド最後のシングル。「怪奇幻想シリーズ」とかっていう、よくわから ないのに・・・でも、それが、合ってたんだよね」 
 「メガロポリス ノクターン」 
 ふらふらとさまようようなギター。前野選手によるアコーディオンの妖しい音色 は、テルミンさえ思わせて、ゆれる。松藤甲斐を 見た後やから、前野選手が甲斐たちのすぐ後ろではなく、キーボードの位置で演奏して ることに、一瞬違和感があった。 
 「おーまーえはぁ ぼーくを まーあってーいーたー」に続けて甲斐は、 「うーーん」とうたった。

 メンバーが全員戻ってくる。「ジャラ!」の声が飛んだ。 
 甲斐はそれを受けて、「そうだね。メンバーの紹介を」 
 多分ここでは予定になかった、メンバー紹介をやってくれた。 
 ノリオは投げキッスのポーズをする。「ノリオーっ!」って叫んだら、手を 振ってくれた。

 「「安奈」をやるぜ」 
 おお、曲順が変わった! 
 イントロが激しい。あのメロディーやのに、こうもちがうのだ。蘭丸のギターが つけるアクセントも曲に合ってる。 
 甲斐が「歌っていいぜ」のポーズをし、サビは合唱になる。 
 「二人で泣いた夜を」からも演奏は静かにならない。最後までテンポの速い、 強い「安奈」やった。

 ステージ後方の下、光が回転し始める。「ナーイト ウェーイヴ ナーイト  ウェーイヴ」のメロディー。レコードでイントロの最初に入ってる、あの音が続く。 それから「ナーイト ウェーイヴ ナーイト ウェーイヴ ウーーーウーーウー」 のコーラスが始まる。幾重にも重ねられたようなキーボード。その中から、いつしか ビートが生まれてくる。オーディエンスは一斉に手拍子。最後のキーボードとともに、 白い光が射してくる。さあ、甲斐の出番や。両のてのひらを上に向け、客席に歌えと 指示している。行くで、大合唱。 
 「よーせーてーくるー」で甲斐が前にやって来る。そっちを見るため、左斜めを 向くと、身体が少し客席に対する形になり、ほんまに客たちの歌声の波がこっちに寄せ てきた。 
 JAH-RAHのドラムソロ。ノリオが「ダッダン ダッダン」のところを 「ダダダダダダ ダダダダダダ」と細かく弾きまくるのが、たまらなくいい。前野選手 のキーボードがまた襲ってくる。松藤のコーラス。蘭丸のギター。手拍子しながら 今度はこの、演奏の波に身を任せる。 
 ラストは甲斐が膝をつき、後ろを向いてうたいあげる。起き上がってマイク スタンドを振り廻した。

 熱狂の場内に「地下室のメロディー」 
 1番の後の間奏。JAH-RAHが細かいビートを叩き出す。 
 次の間奏。甲斐がアコースティックギターを縦に持ち、「ザカザン!」という音 を聴かせる。 
 甲斐は2番を「かなしげに」と歌った。3番でも「かなしげに」と歌ってから、 最後の繰り返しは「飛ぶように」に変えて歌った。こういうのがまた好きや。 
 演奏が果てつつあるなか、蘭丸がギターを換えているのが目に入った。

 蘭丸がそのギターでイントロをとどろかす。僕は跳び上がって歓声を爆発させた。 派手なピアノも聴こえてくる。 
 「港からやって来た女」 
 1番のサビはセンターで。甲斐と蘭丸がいっしょに歌う。 
 「酒場の女が」のところを、今日の甲斐はしっとりと聴かせた。サビでは蘭丸の 元へ行く。ひとつのマイクをはさんで、抱きつくようにして歌う。途中で甲斐が蘭丸を 引き寄せると、蘭丸の声がそれまでより大きく聴こえるようになった。 
 3番の前で演奏は静かになるが、甲斐が頭の上で手を打って、オーディエンスに 手拍子していいんだと知らせる。みんなの手拍子のなか、甲斐は「鳴りも  しない 電話をみ、見つめ お前を」と歌う。切ない声でささやくように「俺は」、それから 太い声を張り上げて「まだまあーってるのさあー」 
 そして甲斐が右の方へやって来る!俺のすぐ前や!「こおーおりついたカモメ たちーよ 歌ってーおーくれえー ふーーりしぼるようにブルースをお 歌ってーおー くれえー」ものすごい興奮や! 
 甲斐が真ん中の方へ戻って行き、「バイ!バイ!バイ!」「フーッ!」 
 4回繰り返したところで曲がゆっくりになっていく。甲斐はラストでマイク スタンドを持ち上げて、また下ろした。 
 けれど、JAH-RAHがまた新たなビートを叩きまくっている。俺を燃えさせ るあのキーボード。そして、蘭丸がギターでリズムを刻み続けている。大阪でのアクシ デントを受けて、アレンジが変わったんや。ギターの音が甲斐に向かって、その時が 来たと告げている。マイクスタンドを蹴り上げる時や。 
 「ダイナマイトが150屯」 
 間奏で後ろへ下がった甲斐が、マイクスタンドを持ち上げる。そのときに当たっ てしまったのか、後ろの別のスタンドが倒れてしまった。ノリオがベースを弾きながら 回転しそうな感じで、前へ出て来る。客の意識を後ろに持っていかないためか、それと も、スタンドを立て直すスタッフにスペースを空けてあげたのか。なんにせよノリオが 動いてくれてうれしい。燃えたで。 
 後奏の甲斐。マイクスタンドを廻してからは、後ろで激しくステップを踏み続け る。客席もいっしょに熱狂し続ける。

 バックのライトが左斜め上へ向かって走っている。 
 「漂泊者(アウトロー)」 
 甲斐はいちばん前まで出て来ている。ワンフレーズ歌うごとに、横にステップし ていく。 
 「誰か俺に」とは、今日は歌わせない。客席にマイクを向けるのは、「愛を くれーよー」「愛をくれー」だけだ。 
 間奏でドラムスの台とキーボードの台に片足ずつ乗せて立っていた甲斐が、前へ やって来る。真ん中のいちばん前で「爆発!」と歌い、短めの間をあけてから、 「しそうおー」と続ける。蘭丸のプレイがさらに激しくなっている。腕を深く沈める ようにしてのストロークや。

 イントロで観客が沸く。さらに音が放出され、ギターが会場を切り裂いたところ で、もっと大きく沸いた。バックのライトは真横に走る。その上では、あの白い光が 縦に廻っている。 
 「冷血(コールド ブラッド)」 
 「シーズン」では海の色だと感じた青に、赤がにじんで、「冷血」の世界に なっている。 
 サビを歌い終えた甲斐が、上げた左腕を落とし、それと同時に「コールド  ブラッド」 
 3番で斜めに廻る白い光がいい。甲斐の歌を聴いて歌いながら、自分の中の 荒れ狂う血を本当に感じたような、そんな感覚に陥った。バンドのうねりと一体に なって首を振り、「冷血(コールド ブラッド)」にのめり込んでいった。

 「最後の曲になります」 
 蘭丸が片足を前に出した斜めの構えから、顔の横で左手を右手に打ちつける。 もちろんオーディエンスも手拍子や。 
 「破れたハートを売り物に」 
 甲斐はマイクスタンドの上を両手で持って、跳びながら声を振り絞る。この歌の スピリットを込めてるんや。 
 「あの雲を」で腕を斜め前に伸ばし、はるか遠くを指差す。 
 「燃えるよな」からを前野選手と二人で歌う。その間、松藤とノリオは何歩か 後ろに下がっている。ノリオは銀の楽器をシェイクしてる。松藤は持っていないが、 ノリオに合わせていっしょに手を振ってる。楽しそうや。あやうく遅れそうになって、 松藤はあわててマイクスタンドに戻り、後半のハーモニーに合流した。 
 蘭丸のソロはストローク。これが蘭丸の「破れたハート・・・」なんや。 
 「かなしみやわらげ」からは甲斐と松藤が歌う。「雨の日も」から前野選手も 加わって。 
 ドラムスの定位置でカウベルを叩いていたJAH-RAHが、ラストで立ち 上がり、甲斐の後ろで白いライトを浴びた。

 バンドが去って行く。甲斐も片手を上げつつ、走って行った。

 長いアンコール。大勢が手拍子してる時、その先頭に立っているのは不思議な 感じやった。僕は昂揚して、手を高く上げて打ち続けた。「甲斐ーっ!」と叫ぶ。 
 そばの人がステージを指差して、「ここまで来てた!」と興奮している。 「港からやって来た女」のときやな。

 戻って来てくれたバンドが、ビートを生み出す。ベースが印象的な、前奏の長い あのライヴヴァージョンや。でも、あえて抑揚を抑え気味にしてる感じ。歌入りまで 「HERO」ってわからせんへんよ、ってな雰囲気。これなら 名古屋で気づけへんかったのも無理ないか。 
 飛び込んで来た甲斐、赤いTシャツ。映像で見た日比谷野外音楽堂を思い出す。 あのときはTシャツじゃなかったけど。色で。 
 今日の「HERO」、めちゃめちゃ楽しい!甲斐が生き生きしてる。若い。赤が ほんまによく似合ってる。歌って手拍子して楽しみながら、僕はしぜんとにこにこして くる。なんかもう、ひたすら楽しい!楽しい!

 今日2回目となったメンバー紹介。 
 ノリオがひざまづいてみせた。

 「観覧車’82」 
 間奏で、甲斐はビートに身をゆだねる。このバンド、ほんまに音が太いのだ。 「かたく心に決めた」の後の部分で、いちばんそれを感じる。 
 甲斐が真ん中の右寄りと左寄りで、客席にあの挨拶をしてくれた。 
 甲斐のいなくなった後奏。今日は少し長めに聴かせてくれたな。

 さらに激しいアンコール。短いインターバルで出て来てくれた。

 オーディエンスの速い手拍子が続く。奏でられたバラードが、僕らの手を止める。 JAH-RAHがスティックで2回、ウィンドチャイムを揺らした。 
 「レイニー ドライヴ」 
 甲斐は黒のツアー写真Tに、黒いジャケットを着て、現れた。 
 甲斐は「スピードー あげー」の「あげー」の2音を強く歌い、続く 「すべえってーゆくーぼくーらの」からは静かに小さく響かせる。強い音が痛みを 伝え、後の部分は心に沁みる。そういうふうにうたっていく。 
 蘭丸が弾きながら歌に入り込んでるのが感じられる。頭の中にしっかり歌詞が 届いていて、それをかみしめながらの演奏に見える。 
 「ささやきー さえー かきけーさーれるあまーおと これ以上 きずつけー  あうー こーとーもない」 
 これで最後なんや。 
 「サーチラーイ」と歌う甲斐。あちこちから太い白い光がのびている。

 「ラヴ マイナス ゼロ」 
 甲斐がうたい出すところで、ライトが緑色になった。 
 今夜のオーディエンスは、この曲でも手拍子をする。僕も手を打ち、揺れながら 聴いていた。甲斐を見ていた。 
 甲斐が「サンキュー」と言う。そして間をおいてから、「じゃあね」と言った。 力強い声やった。

 松藤がJAH-RAHと前野選手を引っ張るようにして、後ろからやって来る。 全員が横にならぶ。蘭丸はギターを持ったままや。 
 甲斐はオーディエンスの声援に長く応え、挨拶してくれた。真ん中の前まで出て 来てくれる。「甲斐ーっ!」「甲斐ーっ!」と何度も何度も叫んだ。

 東京へ来る新幹線の中で1曲1曲反芻してきたのが、功を奏した。いつも以上に すみずみまで楽しみ切った感がある。 
 今日もまた、1曲ごとに「すごい!」「すごい!」と、「今日特にいい曲」が 次々更新されていく感覚を味わった。 
 最初からずっと名場面がめじろ押し。「すごい!これ絶対書き残したい!」と 思うのに、あまりにたくさんあって、覚えきれない。JAH-RAHが甲斐の目を 見て、曲をフィニッシュさせたところ。同じくJAH-RAHが、曲のラストをいろん な音でしめくくってたこと。緑地に人の顔が入ったTシャツ、あごのへんにピアスが 付けてあるのも、今日はちゃんと見えた。蘭丸がギターのヘッドをこちらに向けて 激しく弾いていた場面。ギターを持ち上げるようにまわしたアクション。脚を開いて 踵で身体を支え、腰を落としてつま先を浮かせた体勢でのプレイ。そしてそして、 数々の甲斐の声、動き、表情。めっちゃいっぱいあったのだ。

 甲斐のライヴ。このために、普段は仕事をがんばる。今日もそう思った。他の 趣味とは段違いの充実感がある。これが最高や。

 

 

2003年5月25日 東京厚生年金会館

 

三つ数えろ 
ブライトン ロック 
フェアリー(完全犯罪) 
暁の終列車 
シーズン 
ビューティフル エネルギー 
BLUE LETTER 
街灯 
メガロポリス ノクターン 
安奈 
ナイト ウェイヴ 
地下室のメロディー 
港からやって来た女 
ダイナマイトが150屯 
漂泊者(アウトロー) 
冷血(コールド ブラッド) 
破れたハートを売り物に

 

HERO 
観覧車’82

 

レイニー ドライヴ 
ラヴ マイナス ゼロ