CRY

Twitterには長いやつ

甲斐バンド BEATNIK TOUR 2001 ーDo you beat?ー

2001年7月22日(日) 名古屋市民会館

 午後の仕事を終え、新幹線に飛び乗った。名古屋に着いてから、金山へ行くには どの電車に乗ればいいのか少し迷う。金山駅に降りたときには、もう開場時間が迫って いた。 
 僕の甲斐Tシャツを見たからか、ホームで「甲斐のライヴに行くのだが、会場へ の道がわからない」という人から声をかけられる。前にGUY BANDのライヴで ダイアモンドホールに向かってるときにも、こんなことがあったなあ。 
 というわけで、その人といっしょに行くことにする。名古屋市民会館には、 Singerのツアーなどで、何度か来たことが ある。地下から行けるという記憶があってんけど、人を連れて迷うわけにはいかない ので、駅前の表示どおりに地上から向かう方を選んだ。 
 駅からは基本的に真っ直ぐ。渡りにくい道路もあったが、無事に会場到着。開場 は遅れているようで、正面玄関前の大きな階段に、ものすごく長い列が曲がりくねって いた。その中に甲斐ライヴ初体験の加藤酒店さんを発見、早速しゃべりに行く。

 今日の席は13列目。ステージ左のスピーカーと対面する感じ。 
 ここは天井が高い。4階席まであるのだ。ステージ左からわき出るスモークが、 その広い空間を渡っていく。 
 これまでずっと「イサス イサス イサス」と聴こえていたオープニング前の 曲。今日は「キサス キサス キサス」に聴こえる。実際は、何て歌ってるんやろう。 そんなことを思いながらも、ライヴ開始直前の緊迫感が極限まで高まってゆく。

 あの前奏が流れてきた時から、もう会場全体がずっと手を打ち続ける。 
 大手拍子の「破れたハートを売り物に」!歓声がさかんに飛び交う 「ちんぴら」!大阪と同じように中くらいの速さで燃えあがる「ダイナマイトが150 屯」! 
 いやあ、すごい。めっちゃしびれる。「ダイナマイト」はことさら よかったなあ。

 「目一杯やります。楽しんでってください。やるぜ!」

 大好きな熱い挨拶から、「きんぽうげ」 
 今日はパーカッションの演奏がちがう気がする。これまでで特にいい感じ。 客の声のすごいこと。

 異変に気づいたのは、「フェアリー(完全犯罪)」のときだったか。 
 甲斐がよく前に出てきてくれるのだが、ステージ上を動きながら音を探してる 感もある。心なしか、細かい音のことはよくわからない僕にも、音のバランスが 安定していないように思える。 
 ラストのビート3連打。甲斐は前の方まで出てくれて、両腕を挙げ、指を交差 させた。 
 それから、右のソデへ入って行った。スタッフに音の注文を出しにいったのか。

 松藤のカウント。「7、8」のタイミングで最初のドラム。 
 うねるライト。スモークにも波形が映っている。 
 「眩暈のSummer Breeze」 
 最後は緑色に染まった。

 「シーズン」 
 甲斐のアコースティックギターが今日はよく聴こえる。甲斐はまだ音が気になる 様子。スタッフも最高の音を求めて今必死に調整してるんやろうなあ。

 「ナイト ウェイヴ」 
 最初の「ウーウー」を強く、それから「ウーウ ウーウーウーウー  ウーウウー」と歌っていく。 
 間奏で甲斐は右ソデへ。懸命に打ち合わせしてるんちゃうかな。

 「松藤英男が歌ってくれる」と言ってから、甲斐はさらに右ソデに行く。 
 「ビューティフル エネルギー」 
 今日はコーラス部分が終わってから戻ってきた。作業が難航してるのだろうか。 
 松藤は彦根同様、「サンキュ」と客席に声を投げた。

 「BLUE LETTER」でも、甲斐は音に納得がいかないようだ。 
 間奏のハーモニカを吹き終わり、手を下ろす時にそのままハーモニカを床に 投げた。相当いら立っているのだろう。こんなに機嫌が悪いのは何年ぶりだろうか。

 ステージに甲斐だけが残る。 
 アコギ。前奏から激しく、ネックに指を這わせ、ドュクドュクとかき鳴らす。 
 「テレフォン ノイローゼ」 
 「出会ってひと月めー」と、オリジナルのタイミングで歌に入った。そのまま 力を込めて歌い続ける。オーディエンスに歌わせるのは、サビのコーラスと終盤だけ やった。貴重なヴァージョンを聴けて、うれしい。

 しかし、甲斐は怒っていた。かなり。 
 スタッフが舞台前に置いたボード(弾き語りの途中で忘れたときのために歌詞を 書いたものか。僕の想像ですが)を、何か言ってから蹴りとばした。 
 それでも、MCをしてくれた。 
 「笑う犬の冒険」の収録が、とても短くてすんだこと。 
 「(甲斐ファンは最近)朝はTV見てる層が多いから」と出演した「はなまる マーケット」では、あれだけ出演時間が長かったのは「俺と高橋尚子だけっていう、 よくわかんない話があって」

 コーラスの3人を呼び入れ、「甲斐よしひろとその***です」と言ったが、 残念ながら僕は聴き取れなかった。みんなにはウケてたなあ。 
 「しゃべらないとこが腹立つよね」と言ってから、「最後だから、何か ひとことずつしゃべってもらおう」 
 ツアー最終日のサービスに、客席は大よろこびで拍手。インターバルを取って 自分の気持ちを落ち着かせよう、という考えも甲斐にはあったんかな。

 まずは甲斐からいちばん遠い、左端に立っている前野選手から。 
 「暑い」 
 と、ひとこと。 
 甲斐は大いに同意し、「名古屋むちゃくちゃ暑いよね。冗談じゃないくらい」 
 たしかに、名古屋のライヴでは、前からよく「暑い」って言うてるなあ。 
 「名古屋場所見たら、むちゃくちゃたくさん座布団飛んでるし。名古屋場所だけ でしょ?あんなに座布団飛ぶの」

 次はコーラス隊の真ん中にいる松藤。 
 「フルメンバーだから、気の利いたこと言ってくれると思うよ」 
 と、甲斐がプレッシャーをかける。 
 松藤はそこで、「このマイク、一郎のだから(位置が)高い」 
 大きくウケた。 
 「そうだよね。どうやって歌ってんの?」と甲斐。 
 「こうやって、手前に倒してる」 
 「ハードロックみたいになってるわけやね」と引き取った甲斐は、「MC慣れ してるところが好かん」と笑った。 
 「松藤は10キロ以上やせたから、病気説が出て。人間、極端なことやると、 言われてしまうってことだよね」

 最後は佐藤英二。 
 おとなしそうに見えるし、松藤があれだけウケた後で大丈夫なのかと、僕は ちょっと心配になる。 
 甲斐が「花園ラグビー場、BIG GIGにもいた。今回のアルバムですごく よかったんで、ツアーにも誘った」と、盛りあげる。 
 そして、いよいよ佐藤英二が何か言いかけると、すぐ止めて、「ありがとう ございました」 
 これで、しっかりオチた。

 すっかり楽しい雰囲気になっている。 
 その間にスタッフは、さっきのボードを置き直した。 
 そして、「円舞曲(ワルツ)」のハーモニー。

 コーラスの3人が去り、ギターをかけたままの甲斐がマイクスタンドへ向かう。 新たなボードを持ってきたスタッフに、「いらないよ」と、やわらかな声をかける。 腹を立てていた人間が、もう怒ってるわけじゃないと伝えるときの口調だ。 まちがいない。甲斐はいら立ちを静めている。 
 今日のスペシャルは、甲斐のアコギ一本。 
 細やかに弾かれるイントロで、どの曲かわかった。 
 「荒野をくだって」 
 静かな声で。 
 今日は「家に帰る車の流れ」とうたわれる。 
 後奏を、途中からすごく強く弾き、それから静かに弾いて、曲が終わった。 
 これまでキーボードが使われることが多かった「荒野をくだって」。 アコースティックギターだけでは初めてちゃうかなあ。心酔。

 「ギタリストの大森信和を」 
 大森さんの姿に、観客は大歓声。 
 甲斐はその間に後ろへ行って、坂井選手、一郎と何か話している。音の状況を 説明しているのだろうか。 
 大森さんに沸き立つムードのなか、「安奈」 
 「裏切りの街角」のイントロでの歓声もすごかった。人気のある曲なのだ。

 緑の光線が集まって、独特の形を成す。 
 「LADY」 
 「外は終わりそう」という歌詞でうたう。 
 甲斐の身体とマイクスタンドは、斜め横を向いている。そちらが正面であるかの ように、顔を向けてうたい上げていく。

 最初は右上からの黄昏色のライトのみ。 
 「嵐の季節」 
 「耳をすますと 足音がする」とうたいながら、甲斐は左耳をおさえる。 
 静かに甲斐のうたに聴き入っていた観衆が、サビで声を上げ、拳を挙げ。 「今は嵐のきせーつ」と歌い終えたところで、大拍手。

 ドラムは速い2連打から、一転してゆっくりしたリズムをうねる。 
 「氷のくちびる」 
 これぞ甲斐バンド、というプレイ。 
 「こんやーも」から照明が黄緑になり、客のボルテージがさらに高まる。

 曲のアタマで音が爆ぜ、一瞬リズムがわからなくなる。この激しいイントロで、 僕はときどきこの感覚に陥る。 
 「翼あるもの」 
 松藤がビートを叩き出す。キーボードが吼えてる。 
 甲斐はラストの前、「ウォー イェエエー」と思い切り叫ぶ。それから、静かで せつない声を三つあげた。両手を組んで頭上へ伸ばし、その腕を影が上りきってから、 下へ。空を指差したところで最後の明かりが消える。

 「漂泊者(アウトロー)」 
 甲斐は1番から客に「愛をくれーよ」と言わせてくれる。 
 僕はいつものように跳びあがる。 
 しかし、2番からは「ひとりぼっちじゃあ」で跳ばなかった。思い切り拳を 突き上げることに専念したくなったのだ。そんな気分やった。足を踏ん張って、 熱気をこめた拳で宙を打つ。 
 甲斐は脱いだシャツを振りまわしてる。 
 最後の軋りはあまり聴こえなかった。

 今日のアンコールは、甲斐コールが多かった。 
 僕の心の中には、甲斐の怒りは完全におさまっただろうかという不安が、まだ 少し残っていた。 
 しかし、戻ってきたメンバーの顔は、とても晴れやかだった。一郎と大森さんが 話して笑っている。甲斐の表情にもくもりなし。僕はめちゃめちゃうれしくなって しまった。 
 ここで、「HERO」! 
 最高やった。「明日へ走りだそう」とてつもない開放感や。 
 間奏。一郎は両拳を突き上げてから、弾きだした。「ギュイーン!」とうなる ギター。一郎を赤の、甲斐を紫のライトがとらえる。マイクスタンドが弧を描く。

 メンバー紹介。 
 甲斐が松藤のことを、「15年振りのドラマー。本人は叩いてないと言い張って るけど、練習してたはずだ。減量だけでは、ここまで戻らん。上手すぎる」 
 松藤は音をふたつ叩き、前へ出て客席へスティックを投げ入れた。左右に1本 ずつ分けて投げたので、特に客が沸く。 
 一郎がその様子を確認していた。ほかの会場でスティックを忘れて前へ行った ことがあったんだと、甲斐が明かした。

 太いドラム。 
 「観覧車’82」 
 痛みが伝わってくる歌。 
 虹色のライトが、高い天井へ伸びている。まわっている。 
 3番の一郎のギターがいい。 
 歌い終えた甲斐は、バスタオルを今日は「昔ながらのギタリスト」佐藤英二に かける。コーラス隊コーナーのフォローの意味もあったんかな。二人の気持ちが感じ られる。 
 甲斐はマイクスタンドの左右で、客席にアピールする。はるか上の方にまで。 
 そうして、一郎に「前へ」と示してからステージを去る。 
 大森さんはドラムスの台に上がっている。一郎が前へ出る。坂井選手が真ん中 で弾いてくれる。 
 やがて後奏も終わる。大森さんは帽子に手をあて、オーディエンスへの想いを 表現してくれた。

 2度目のアンコールに現れた甲斐。今夜はここでも話してくれる。 
 「今日はみんな来てくれて、たくさん。感謝してる。サンキュー」 
 「チケットなんでこんなに売れてるんだ?今日が(このツアー)最後だから?」 とおどろいてみせる。 
 そして、甲斐バンドについて、「1年に1枚は無理だとしても、ゆったりと 長いレンジで続けていければと思ってます」と約束してくれた。  

 「100万$ナイト」 
 1番が終わると、甲斐は親指を下に向け、右ソデに何かを下げるように指示 する。2番の途中にもその仕草が見られた。プロの耳からすると、完璧ではないと 感じる部分があるのだろうか。 
 でも、甲斐のうたはよく聴こえていた。「俺は」を遅らせてうたう。 「ふたりだけの誓い」という詞が刺さる。僕は圧倒されていく。 
 ミラーボールの光。4階の隅まで届いている。

 オーディエンスに向かって手を挙げ、甲斐たちが去っていく。大森さんは 左手で敬礼のポーズだ。 
 「アナログ レザー」 
 誰もいなくなったステージを、うすいオレンジのライトが照らしていた。

 今日は音響上のトラブルもあったみたいやけど、終盤に向かうにつれ、どんどん よくなった。とりわけアンコールの爽快さは最高やったなあ。

 

2001年7月22日 名古屋市民会館

 

破れたハートを売り物に 
ちんぴら 
ダイナマイトが150屯 
きんぽうげ 
フェアリー(完全犯罪) 
眩暈のSummer Breeze 
シーズン 
ナイト ウェイヴ 
ビューティフル エネルギー 
BLUE LETTER 
テレフォン ノイローゼ 
円舞曲(ワルツ) 
荒野をくだって 
安奈 
裏切りの街角 
LADY 
嵐の季節 
氷のくちびる 
翼あるもの 
漂泊者(アウトロー

 

HERO 
観覧車’82

 

100万$ナイト