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甲斐よしひろ ALTERNATIVE STAR SET ”GUTS”

1996年3月16日(土) 葉山村酒蔵ホール

 深夜に甲斐が神戸のKiss-FMに出たので、寝不足である。しかし、ツアー初日、 僕自身初めての四国とあって、気持ちは張っている。めっちゃ楽しみ。5日間で5本もライヴ が見られるのだ。

 新大阪8時14分のひかり。「浪花夢」という駅弁は気に入らなかった。 ちょうど1時間で岡山。高知へ行く南風1号は、超満員。 仮にも特急なのだから、新幹線とはいかないまでも、「雷鳥」とか「日本海」みたいなんを 想像していたが、5両ほどしかないのだ。高知まで立ちっぱなしはさすがにつらいので、 時間をつぶして、次の南風3号に乗ることにした。道連れの駅弁は、「うなぎめし」。

 列車がはじめての四国へ入って行く。瀬戸大橋。すばらしい光景。足元は、グリーンの 海。遠くは青。場所によっていろんな波の立ち方をしているのが、見わたせる。島。船。 釣り人。 
 電車でよかった。飛行機にしてたら、こんなにじっくり見てられへんかったはずや。 
 日射しが強い。暑い!大阪は真冬である。僕はTシャツの上にシャツ、トレーナー、 スタジャンを着て来たけど、シャツだけで十分や。

 そのまま乗っていれば、葉山村近くの須崎駅まで運んで行ってくれるのだが、節約の ため高知で降りる。鈍行に乗り換えるのだ。 
 高知駅で不意に思い出す。「BEATNIK 1981-1986」の本に、「from KOCHI」 という、高知のファンからの手紙だけを特集したのがあった。印象に残る手紙が多かった なあ。そうや、俺は今、あの高知にいてんねや。

 ホテルにチェックインするため、途中の多ノ郷という駅で降りる。が、何と、扉は手動! 横に引いて開けるのであった。前に人がおらんかったら、わからんとこやった。びっくりした なあ!田舎の学校で、修学旅行前に新幹線の乗り降りの練習をするという話も、うなずける ようになった。ちがいすぎるもん。 
 多ノ郷は無人駅で、車掌さんに切符をわたす。 
 待合室の時計には、「国鉄」と書いてある。なんか、えらくのんびりしたとこへ来たなあ。

 手持ちの時刻表でちゃんと確かめて、駅へ戻った。それなのに、駅の時刻表によると、 次の電車まで40分以上待たなければならない。間違えたはずないねんけどなあ。 
 タクシーを拾おうかとホテルの方まで戻ってみたが、1台も通らない。ホテル前から 出てるバスは、午後の3時間は空白、1本も走ってない。 
 仕方がないから駅の方へ引き返す。すると、普通列車が走っているのが見えるでは ないか!俺が乗りたかったやつにちがいない。行ってしまった。やはり、俺の持って来た ポケット時刻表が正しかったのだ。考えるに、多ノ郷駅の時刻表は、3月16日からのJR グループ時刻改正に対応してなかったのではないだろうか。それしか思いあたらない。 しかし、こんなんありか?よりにもよって、今日から改正とはなあ。 
 次の列車まで、だいぶあるはずや。茫然と歩いていると・・・あれ、今のは・・・タクシー では、なかった、か。・・・!しまった!ぼ~っと歩いてて、タクシー来てんのに気いつけへん かった。唯一のタクシーやったのに。何やなんや、このタイミングの悪さは。 
 もうこれ以上スレちがいはごめんや。駅でじっと待つことにする。ここの駅にもオウム 手配のビラは貼ってあるのだった。 
 それにしても、8時前に家出て、一体いつになったら葉山村に着くねん?めっちゃ 余裕とっといたのに、もうぎりぎりである。ここまで来て間に合わんかったら、シャレならんぞ。 
 待ってる間に、新大阪で出し忘れたハガキを投函する。昨夜のKiss-FMの、甲斐 のサイン入りステッカープレゼントの応募である。多ノ郷からハガキを出すなんて、一生に 1回やろうなあ。

 やっと来た鈍行で、須崎へ。今度の扉は折り畳み式。バスとかであるやつ。安全の ためか(だとしたら心もとない)、それにヒモがくくられてある。 
 特急も停まる駅なのだが、須崎も思ってたより小さかった。線路は多いが、駅員さん は1人きり。 
 駅前のバス停もさみしいもんやった。それに、バスの本数がめちゃめちゃ少ない。 酒蔵ホールの方に電話で、「大阪みたいに都会じゃないですき」と聞いてはいたが、ここ まで少ないとは。 
 次のバスを待っていると、開場に間に合わない。しかたない、結局タクシーや。これ やったら特急で来た方が安かった。

 タクシーはどんどん山奥へ入って行く。結構遠いぞ。これは、帰りも車がないと無理や なあ。 
 2500円を越したあたりで、「ようこそ葉山村へ」の看板。でも、上の時計が9時13分 で止まったままなのが、ちょっとさみしい。

 ホールに近づくと、「うわーっ」と声を出してしまった。長蛇の列なのだ。すでにこんなに ならんでいるとは。「何かあるんでっか?」と運転手さん。これって、高知弁なのか? 
 タクシーを降りると、列の先頭には東京のファンが。やっぱり飛行機なんやろうなあ。 
 自由席やし、チケットに整理番号ないし。で、1番後ろにならぶしかない。葉山村 ライヴ決まってすぐにチケット取ってんけど、関係なかったのだ。 
 みるみる列がのびていく。めっちゃ長い。ホールの前に国道が走っているのだが、 その国道に現れた人間は全員、列の後ろにつく。 
 5時半の開場が遅れている。今にも雨が降り出しそう。電車乗ってるときは晴れまく ってたのに。星がきれいなんちゃうかなあ、と期待しててんけど、この天気じゃ見えそうに ない。 
 5時50分に開場。門の前には、かがり火が焚かれている。こういう雰囲気のライヴは なかなかないぞ。わくわくする。あの法被の人たちは、消防団員か。 
 デザインに合わせてハサミでチケットを斜めに切られ、入場。

 中は木造りで、いい雰囲気。ステージのそばだけ、壁がブロックでできている。 
 ホールの形は、かなり特殊だ。長いL字形をしていて、その角にステージがある。 その後ろは壁だけだ。 
 野球のグラウンドに例えると、ホームベースの位置にステージがあり、甲斐たちは センター方向を向くことになる。ただし、L字型なので、マウンドの後ろからセンターの辺りは、 そっくりけずられている。そこには階段なんかがあって、客席は存在しない。言わば、最も 見やすい正面にほとんど客席がないという、奇妙な形態なのだ。大部分の客は、左右から しかステージが見られない。レフトやライトからキャッチャーを見るかっこうである。 
 きれいな色のパイプ椅子がならんでいるのだが、左右それぞれ1本ずつ、通路が 作られている。ホームベースに位置するステージから、それぞれ一二塁間と三遊間を通って、 いちばん後ろまで達しているのだ。その通路が、甲斐たちが出入りする花道となる。 
 僕の席は、ステージを向いて右側のかたまりの、通路のすぐ内側。距離も考えあわせ ると、つまりショートの位置にいるわけだ。 
 この説明でわかるでしょうか? 
 完全な和風の建物。酒蔵ホールだけあって、梁の上には大小の樽が。 
 満員で、目算では500人くらいか。年齢層は高めだが、相当幅広い。完全なおばあ ちゃんもいる。地元の方がほとんどだ。 
 ちなみに、僕の前の席は幼児で、となりはピアスをした中学男子だ。

 スタッフが電気のスイッチを操作する。といっても、壁についてる普通のスイッチだ。 
 何回か点滅させてから、切る。電気が消えると完全に真っ暗だ。

 右の花道からメンバーが登場。僕のすぐそばを通って行く!BGMは2月のツアー と同じ。西部劇のテーマ。 
 甲斐はピンクのシャツ。黒いジャケット。黒に白の水玉のハンカチ。 
 1曲目は、「ダイナマイトが150屯」! 
 手拍子。立てない感じだったが、前の方が立ったし、僕も立つ。後方の客たちの ざわめき。 
 マイクには長いコードがついている。 
 Welcome to the ”GUTS FOR LOVE” Tourと1曲目が同じとは。いや、 「ALTERNATIVE STAR SET ”GUTS”に先がけて、葉山村でのライヴが決定」と 言っていたから、厳密には今日はALTERNATIVE STAR SET ”GUTS”のツアーでは ないのか?今晩だけのメニューかもしれない。料金も、他より微妙に安い。しかも送金先が、 「あったか葉山村企画」と、めっちゃほのぼのした名前。応対してくれた職員さんも親切で、 高知弁の、あったかい感じの人やった。

 「絶対・愛」 
 マイクスタンドは、軽く側廻し。

 ドラムのキンキン高い音が、キーボードがない分強調されている。歌に入ると、歓声。 
 「きんぽうげ」 
 最後も客に歌わせることなく、甲斐が全部自分で歌った。

 「久方ぶりの四国です。今夜も目一杯やるから、最後まで楽しんで」

 「時の人」 
 サングラスなし。ストロボなし。 
 「シャ乱Q」と言ったように聞こえたが。

 「風吹く街角」のイントロは、キーボードがないとかなり印象がちがう。 
 コーラスは少なめになっていた。 
 ラストの「奇妙な風吹く」を「どうでもいい思い出」と歌う。

 「空港から車で、どんどん山の中へ入って行くから、どこへ連れて行かれるのかと 思った」 
 みんな笑う。 
 「アンプラグドっぽいって言ってたんだけど、過激な方がいいだろうと。その新しい ツアーの初日です」 
 やっぱり今日もツアーに入ってたんか。となると、メニューは2月とほとんど同じな のか。四国は2月にやってないし。

 「スマイル」 
 メッケンは壁に寄り、煙草を吸ったり水を飲んだりしている。舞台ソデにハケるという ことができないのだ。ソデがないねんから。ローディも、やせた方はドラムの後ろにかがみ、 長髪の方は右端でじっとしている。 
 バラードに聴き入っている場内が、少し変なムード。ざわざわまではいかないが。 どうも、メッケンのことを「仲間が一生懸命うたっているのに、煙草なんぞ吸いおって」と 思っているらしい。 
 うたい終えた甲斐が、下げて行った右手をすくい上げる。大きな拍手。

 「ここのホールは、こういう感じなんで、冷酒でも飲み放題なのかと楽しみにしてたん ですが」 
 途端に左前の客が進み出て、缶ビールだかワンカップだか、自分の持っていた酒を 差し出し、ステージに置いた。1列目とステージの間には、全く何もないのだ。 
 これには言い出した甲斐も、「わかった、わかった」となだめていた。

 「安奈」 
 今度はジョージが煙草。 
 1番が終わると、われんばかりの歓声、そして拍手。実にすさまじかった。ちょっと ふつうのライヴでは聞けないくらいだ。自分たちが知っている歌をやってくれたことを、本当に よろこんでいる。

 「こりゃー、前ー、すわれー」と大声を出す人がいる。年配の人は、たいがいすわっている のだ。 
 この声で、ほとんどみんなすわった。僕は「スマイル」からすわっていた。

 MUSIC FAIRの話。高知では2週遅れだと、女性ファンの声。 
 「東京では半年前に流れたんだよ。そんなことないね」 
 ちなみに、ホテルのTVでは民放は2つ。「プロ野球ニュース」もなかった。

 3月になっても、日替わりコーナーは健在。 
 「「橋の明かり」っていう曲に決まってたんだけど。こっちへ来てから、そうじゃない だろうと」 
 「裏切りの街角」で、またみんな大よろこび。 
 「「裏切りの街角」の頃は、1年に2、3回四国に来てた」とのこと。

 「懐かしいやつを」と聞いて、また歓声があがるが、「そんな、知ってるやつじゃないって」 
 「やせた女のブルース」 
 長い間奏で、メンバー紹介。

 イスを自ら後ろへ下げて、甲斐が立ち上がる。 
 ドラムが低い重量感のある音を出す。 
 「地下室のメロディー

 「レディ イヴ」で若い客が立つ。 
 「弾けて割れた・・・」で、甲斐はマイクをスタンドに戻すが、例の手拍子はしない。

 「ポップコーンをほおばって」 
 ストロボの中、手を挙げたり、ギター弾いたり。しかし、甲斐のエレキ、調子悪そう。 弦も切れる。

 「風の中の火のように」 
 イントロが長く、4回。 
 演奏が激しくなる2番から、立つ人が増える。

 「漂泊者(アウトロー)」は、「爆発しそう」の後、サビの繰り返しがなかった」

 「HERO」 
 2列前の派手なスーツの男が大いに踊る。バンド時代からのファンにちがいない。 この速いニューヴァージョンでも、途中「タン タタン」の手拍子をしてるし、いろいろ振り付け もしている。両手をひらひらさせながら下ろし、月がくだけ散ってる様子を描いたりとか。 
 甲斐は、「月はくだけ散っても」の後、マイクスタンドを振り廻す。

 「HERO」が終わると、全員前へ出て、手を振ってくれる。 
 「サンキュー。ありがとう」 
 そう言って少し後ろへ下がるが、引き上げはしない。手拍子が続き、 
 「じゃあ、もう1曲やります」 
 と、そのままアンコールへと突入。こういうのは、このホールならではやろう。

 「破れたハートを売り物に」 
 甲斐の左に一光。右にジョージ。左奥にメッケン。 
 歌い終わると、メンバーがそれぞれの位置へと戻っていく。「もう1曲」のはずが、 さらにやってくれるんや! 
 最後はやっぱりこの曲。 
 「GUTS」

 葉山村の代表だろうか、女性から甲斐に花束が手渡される。赤い花とかすみ草。 
 甲斐は、におうような仕草をしてから、その花束を掲げる。全員が拍手。

 スタッフに寄りかかりながら、甲斐が花道をひきあげて来る。入りと同じく、僕のそばの 右の花道や。 
 ガードはいるのだが、花道の両側から、ファンの手が差し出される。何と、甲斐は 歩きながら両手を伸ばし、ファンの手ひとつひとつと掌を合わせて行く!顔は虚脱感でやや うつろだが、恍惚の表情にも見える。 
 甲斐が近づいて来る!僕は慎重に、甲斐の手の動きを見定めた。甲斐の手が来る ところに手を差し出す。しっかり掌を合わせる。さわった!!!!! 
 甲斐が去ってしまっても、8割のお客さんが残って手拍子を続ける。鳴りやまない。 戸口を見つめて、甲斐を待っている。甲斐の様子を見に行ったスタッフが腕で×印を つくり、それを機に整理が始まる。 
 僕はしばらくその場に立っていた。感動や。ついに実現したんや。じわじわとこみあげ てきた。涙がうかんでくる。完璧なシチュエーションやった。甲斐に迷惑をかけることなく、 ライヴ直後の甲斐にさわれたのだ。これ以上の条件はない。

 女の人が1人、ステージの前まで行って、あのやせたローディに、何かくれと頼んでいた。 断られると、「ケチ!」と捨てゼリフ。言われたローディの兄ちゃんは、「どうせケチだよ~」と 意に介さない。

 外に出ると、大雨。かがり火の燃えようもない。 
 帰りのバスはあるのかと大阪から電話した際、その時間にバスはない、同じような人 も多いから、いっしょにタクシーで帰れば・・・と言われていた。しかし、そのような人も見当たら ないし、地元の人たちは車でどんどん帰って行く。 
 しばらく立っていたが、しょうがないから歩き出した。そのうちタクシーも見つかるだろ う。ついでやから外壁に貼ってあったポスターをもらい、頭にツアータオルをのせて。

 ところが、タクシーは見事に1台も通らない。多ノ郷でもなかなかやってんから、さらに 山奥の葉山村ではなおさらである。雨はかなり激しく、もうびしょ濡れ。こうなると、いつもの 悪いクセが顔を出す。くっそお、このままホテルまで歩いたらあ!

 けっこう歩いた。相変わらず雨はきつい。濡れるし、疲れてくるし、だいぶつらい。 そのとき、前方に「葉山ハイヤー」という看板が!助かった! 
 急いで「葉山ハイヤー」に行ってみる。ところが、誰もいない。車2台分の駐車スペース に工具が転がっているだけ。ハイヤー会社を見つけたというのに、何ということや!いよいよ 覚悟を決めた。つらいけど、自分の足で歩くしかないだろう。 
 「葉山ハイヤー」をあきらめて歩き出した。最初のカーブを曲がると・・・そこからは 街灯がなかった。真っ暗闇や。見はからったように、ちょうど雨もさらに激しさを増す。 ほんまに土砂降り。 
 ここに至ってついに、歩いて帰るのは無理やと判断した。(はじめっから無理やってん けど) 
 引き返して、「葉山ハイヤー」の近くにあったガソリンスタンドへ。「タクシー呼びたいん ですけど」と声をかける。ずぶ濡れの男が来て怪しかったかもしれないが、そこの夫婦は 親切やった。 
 「すぐそこがハイヤーよ」 
 葉山ハイヤーのことだ。 
 「誰もいてないんです」 
 すると、「葉山ハイヤー」の車庫の向かいが、そこのお家だと教えてくれた。家に 行って頼んだらハイヤーを出してくれるだろう、とのこと。 
 お礼を言って、「葉山ハイヤー」の家にむかう。 
 玄関先まで入って行って、「すいませーん」と言ってみる。返事はない。が、明かりは ついている。誰かいてるはずや。どうしてもハイヤー出してもらわんと。 
 何度も呼んでいると、いきなり、下半身はだかの女児を抱いた50ぐらいのおじさんが 出て来た。女の子を外のトイレに連れて行くところだったようだ。 
 車を頼むと、「予約あるで、戻ってからになるが?」 
 「待ちます」と即答した。この機会を逃したら、今度はいつ車を見つけられるかわから ない。 
 おじさんは「きたねえ小屋ですが、かけて待ってな」と方言で言ってくれ、僕ははなれの かまちで待たせてもらうことになった。何だか「まんが日本昔ばなし」のような展開である。 かまちに座っているところへ、猫がやって来たりして、ますます昔話や。 
 15分ぐらいで、中学生らしい目のクリクリした女の子が、「運転手が戻って来ました」 と言いに来てくれた。 
 車まで行くと、運転席にはおじさんではなく若い男性が。女の子のお兄さんだろう。 どうやら一家で「葉山ハイヤー」をやっているらしい。車庫の2台分のスペースは、父の車と 兄の車のもののようだ。 
 「お待たせしてすんません」「雨で濡れたでしょう」と親切や。僕はもう、あんまりしゃべる 元気もなかったけど。 
 ホテル前につけてもらう。3090円。 
 「助かりました。ありがとう」 
 葉山ハイヤーがなかったら、どうなっていたことか。4千円出してお釣りはいらないと 言う。そんなことをするのは初めてやった。「こんなにもろうて?」とお兄さん。

 くたくたになって部屋へ戻り、シャワーを浴びると、四国へ来てから何も食ってないこと を思い出した。ひどい空腹。案内を見ると、ホテルのレストランは9時半オーダーストップ。 すでに9時15分。あわてて下りて行った。客は僕だけ。 
 高級料理が多いが、とにかくどかっと食いたい。こういうときはカツ丼にかぎる。 こんな雰囲気のあるホテルのレストランで、夜にカツ丼食らうのもおもしろい。 
 「カツ丼」と言うと、 
 「かしこまりました」とボーイがささやく。 
 「大盛りできます?」 
 「ご用意できます」 
 カツ丼頼んでこんなに丁寧な応対されたのは初めてや。 
 ごはんだけでなく、カツも大盛りな感じ。この時は何食ってもうまかっただろうと思うが、 本当にうまかったし、多さがうれしかった。得体の知れない野菜の入ったお吸い物つき。

 これで生き返った。明日は高知市内のライヴハウス。あっという間に眠りに落ちた。

 

1996年3月16日 葉山村酒蔵ホール

 

ダイナマイトが150屯 
絶対・愛 
きんぽうげ 
時の人 
風吹く街角 
スマイル 
安奈 
裏切りの街角 
やせた女のブルース 
地下室のメロディー 
レディ イヴ 
ポップコーンをほおばって 
風の中の火のように 
漂泊者(アウトロー) 
HERO

 

破れたハートを売り物に 
GUTS