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甲斐よしひろ 2011 愛のろくでなしツアー

2011年7月2日(土) Zepp Nagoya

 

 巨人の二軍が今週は関西に遠征に来てる。イースタン・リーグウエスタン・リーグのファーム交流戦だ。 神戸で3試合見て、今日は滋賀の皇子山球場。大田や、このシリーズ絶好調の隠善ら、若手の奮闘を試合終了まで 見届けてから、いよいよ甲斐のツアーに向かう。6月25日の横浜BLITZからスタートしたこのツアー、 僕は今日が初参戦や。 
 皇子山球場はJRの最寄り駅が大津京。滋賀といっても京都から2駅なので、名古屋へ向かうには一旦 京都へ戻って新幹線に乗るのが最も速い。駅弁を食べ終えたら、すぐ名古屋に着いた。十数分しか変われへん はずやけど、新大阪から向かうよりだいぶ早く感じたな。

 名古屋からは、初めて乗る「あおなみ線」。Zepp Nagoyaへのアクセスを調べたとき、これが JRなのか地下鉄なのか名鉄なのかわからず戸惑ったが、そのどれでもないらしい。単独の路線やったんか。 表示が多くてJRからの移動もすんなり。往復切符を買って、1駅先のささしまライヴ駅へ。 
 出口から長く曲がる階段を下りる。何もない道路に下り立ったが、たぶん左だろうと見当をつけて 歩き出す。こっちの方が遠くに大きな建物が見えるし、他の甲斐ファンらしき人々もこちらへ向かっている。 万一違ったとしても、引き返して間に合う余裕もある。 
 Zeppらしき建物が見えずちょっとだけ不安だったが、すぐに着いた。熱中症対策のスポーツ ドリンクを求めてそばのコンビニに入ったけど、ライヴ前の客で列ができていたので、自動販売機で済ませる。 臨戦態勢は整った。Zeppの中へ入って行く。

 まずは自分の席をチェック。思ったより真ん中や。いいぞ。 
 グッズは明日の地元大阪で買いたい。でも、CDだけは別や。甲斐のニューアルバムがツアー会場で 先行発売されているのだ。これは1日でも早く手に入れたい。しかし、グッズ売り場の列は長く、開演前の 購入は断念した。

 自分の席に戻る。場内のBGMはフラメンコやジャズ。洋楽のみが選ばれている。 
 ステージの上には、マイクスタンドが3本並ぶ。甲斐とツインギターのものだろう。後方には二つの台。 向かって左にドラムセット。右のやや低い台がベースのものらしい。今回はキーボードレス。甲斐の歌声をむきだし でぶつけて来るという。パーカッションもサックスもない。キーワードはロックンロール。 
 ステージの上方から、乳白色のライトが照らしている。横に8つ並んでる。気になるのは、舞台の床 に据えられて下から上へ向いてるライト。左右の端に数本ずつ。垂直ではなく、少し外向きに立っているのだ。

 いきなり大音量の声。「パワー トゥ ザ ピープル」だ。立ち上がり、手を打ちながら考える。 今日の大ラスは「破れたハート・・・」やな。ライヴに通い始めた84年 ・85年は、終演後の音楽がこれやった。そして、その前には「破れたハート・・・」が歌われるのが定番 やったから。 
 左手からメンバーが現れ、それぞれの位置に就く。左に英二、右に一郎。左奥のドラムに佐藤強一、 右奥にベースの渡辺等。僕は、観客は、「甲斐ーーっ!」と叫んで、甲斐の登場を待ち構える。 
 曲が始まる前に、甲斐は登場した。左手から歩いてくる。銀のロングジャケットは、襟の部分が 光を反射する。中は黒。えんじっぽい赤と黒が混ざったズボン。サングラスはゴーグル風で、藤色がかって いる。増し続ける「甲斐ーーっ!」の叫びと歓声に応える甲斐。そして、熱狂は始まった。

 「ディデュン!ディデュデュデュン!デュン!ディデュデュデュン!  ディデュン!ディデュデュデュン!デュン!ディデュデュデュン!」 
 真っ赤な照明とともに、驚くほど太く強いドラムスが響く。ほんまにめちゃめちゃ太い。それに、 何というか、音が粒立ってる。ぷるっぷる。そして、この音は「エキセントリック アベニュー」では ないか!まさかの1曲目や!「おおーーーっ!」って叫ばずにいられない。 
 ドラムスにかぶさって他の楽器が弾け、湧き上がる。その瞬間、甲斐は正面を向き、両の掌と指を 上へ向ける。客席から歓声と手を打つ音が爆ぜる。 
 歌い出し前のあのリズムがやって来て、俺らは手拍子を始める。上からの照明はピンク。背後からは 紫紺。妖しい世界。たしかに「愛のろくでなし」の歌か。 
 「ストレート ライフ」ツアーではピアノの上に腰掛けて歌ったりしてたけど、今日は強く動きながら 歌っていく。マイクスタンドの横に出て、スタンドを傾けて歌ったり。靴が見えるほど足を上げる。 ビートに乗って。 
 あれは、この前に「エキセントリック アベニュー」が歌われた「ROCKUMENT III」 だっただろうか。客席には、「エキセントリック」の「トリ」あたりで開いた片手を上げ、「アベニュー」 の寸前で肘を落とすアクションをする者が多かった。しかし、今日はほとんどいない。でも、俺は腕を低め にしながらやってしまう。気持ちいいのだ、これ。 
 間奏で甲斐は「ヨオオーーッ」と吠える。むき出しの声を聴かせるというツアーの旗標を最初から 叩き込んで来てるのだ。ベースも激しい。ドラムスはずっと太い音を叩き出してる。この曲をこれほどまで 表現できるとは。一郎が早くも前へ出る。 
 異色の1曲目やった。甲斐がちょっとした時に名前を挙げる、きっと自分でもお気に入りのソロ曲 「エキセントリック アベニュー」。しかし、まさか1曲目とは。このツアー、すごいことになってるぞ!

 きれいな前奏に、またも意表を突かれた。2曲目もアップテンポの曲ではない。 
 「レイン」 
 歌い出すまでに、甲斐は右へ左へ動いて観客にアピールする。静かに聴くべきかという俺らの思いを 見透かしたように、身振りで「歌っていいぜ」。最初からみんなでうたう。 
 サビでは客席がメンバーとともにコーラス。「できはしなーいー」。いつもは語尾を縮めてすぐに 甲斐といっしょに続きをうたうねんけど、今回は全員でコーラスするのが心地いい。「レイン」の新たな 魅力に気づいた。 
 今度は英二が前に出る。甲斐は後奏でファルセット。生のヴォーカルをここでも体感させる。 
 この2曲でメンバー個々の、そしてこのバンドの力量を知らしめた。新しいバンドの自信に満ちた宣言 とも言うべきオープニングやった。ライヴでは初めて聴く佐藤強一と渡辺等の音は、とっくに俺の心を 掴んでた。

 「甲斐ーーっ!」の声に応えてから、最初の短いMC。 
 「3年振りのソロツアー。目一杯やります。身も心も捧げられるナンバーばかり。目一杯やるぜ!」

 去年、プロになって初めて照和でライヴをやったこと。その映画 「照和 My Little Town」 のDVDが出たこと。その二つに触れてから、照和でも歌った曲を次にやると告げる。 
 このタイミングでやると思ってたで。最初のMCの後に。抽選にことごとく外れて行けなかった照和 ライヴでも、1曲目やったというし。ここがステージの第二のスタートでもあるもんね。 
 後ろを向いた甲斐の右手に、黒いものが見える。おお、ハーモニカ吹くんや! 
 「黒い夏」 
 曲の幕開けからわくわくしてくる。めっちゃロック!甲斐に黄色いライトが当たってる。ハーモニカが いっそう「黒い夏」を燃え立たせる。 
 映画でもそうやったように、甲斐はオリジナルとは譜割を一部変えて歌う。 「君がそっとうーつむーいーて」というように。 
 ほんまにめっちゃよくて、笑顔になってしまう。間奏もすごい。そこへ入るハーモニカがまた最高や。 甲斐も自ら参加するコーラスが挟まる。ここからさらに楽器が増えたように高まっていく。再び甲斐の ハーモニカ。この昂揚感。燃える燃える。しかし、甲斐はハーモニカを持ったままマイクをスタンドに 戻そうとして、落としてしまう。マイクは甲斐の左に。すぐに拾って3番へ。 
 僕が「黒い夏」を生で聴けたのは、これまで「ROCKUMENT II」だけやったけど、 あのときはゲストと半分ずつ歌ってんなあ。ずっと、甲斐のヴォーカルだけで聴きたかった。念願が叶ったぞ。

 イントロに興奮しすぎて、一瞬どの曲かわからんかった。 
 「港からやってきた女」 
 ここで来るか。まだ4曲目やで。 
 3番に入るところから静かになるヴァージョン。「まだまあーってるのさあ」から再び甲斐は強く歌い、 演奏も激しくなって、会場がなおいっそう沸き立つ。大騒ぎのサビを経て、最後はあのお楽しみ。甲斐たち が「バイ!バイ!バイーッ!」と叫ぶ。語尾は上げず、突き放し気味の、あくまで強く乾いた叫びだ。 俺らは右手を上げて応える。「フーーッ!」。このやり取りが3回で終わると見えたが、もう1回やって くれる。めっちゃうれしい。これ、甲斐ファンみんな大好きやろ。

 甲斐がアコースティックギターをかける。NTTのCMソングだった曲をやると言う。 「最近までこの曲のよさをわかってませんでした」というジョークを交え。ほんまは自分でも気に入ってる くせに。発表当時から、「書いてよかった」って言うてたし。 Series of Dreams Tour Vol.3でも 取り上げかけ、2年後のアコースティックツアーでは、松藤と クラッシャー木村とともに1曲目にうたってくれた。名曲やで。 
 「スウィート スムース ステイトメント」 
 「君がむ ねーに灯をとも すまで」と、甲斐はリズムに合わせて少し切るようにして歌う。 この詞は一行ずつ息継ぎなしだと歌いにくいやろうから、そのためなんかな。 
 静かめの曲やけど、今日の甲斐は強く歌っていく。低音を効かせるように。 
 「君の代わりなんかー いやしなーいー」というニューヴァージョンの歌詞も使った。 
 最後の「君のものー」の繰り返しは少なく、後奏へ。そのまま終わると思いきや、再び「君のものー」 のリフレインが戻ってきた。 
 このツアーは第一期ソロが多く聴けるのもうれしいな。

 ギターのあのフレーズ!「スウィート スムース・・・」に聴き入ってた観客に、一瞬でまた火がつく。 
 「ジャンキーズ ロックンロール」 
 甲斐はAメロを少し変えて歌う。「とってもいかーしーてる」とか。ここでも乾いた感じ。 ブルースっぽい聴こえ方もする。かっこいいぞ。詞もときどき花園ヴァージョンになるし。 
 2番のサビで、甲斐が一郎のそばへスタンドを持って行く。一郎は来ないかと見えたが、サビ後半で 自分のマイクスタンドから甲斐のスタンドへ移動。一緒に「ジャーンキーズロックン ジャーンキーズロックンロール」。 
 何かノってるうちに、気がつけば2番まで終わってた。いつの間にか間奏や。もうノドカラカラ。 ベースが比喩ではなく胸を叩いてくるし。ものすごい迫力。 
 最後の繰り返し。終盤は「ジャン ジャン ジャンキーズロックンロール」を2回続けた。 
 ああ、それにしてもこの緩急よ。「港・・・」から「スウィート スムース・・・」行って、 また「ジャンキーズ・・・」って。俺らはバンドに引きずりまわされてるようなもんやな。 いや、どんどん引きずってくれ。

 ギターとともに高まるビートは、またもや意外な曲。 
 「裏切りの季節」 
 「甲斐よしひろ 早川義夫 パワステ夏祭り」で、 オリジナルのロングヴァージョンを早川義夫と分け合って歌うのは見たが、甲斐が1人で歌うのを見るのは 初めてや。自分のライヴで歌うのって、ほんまに久々なんちゃうかな。 
 今日はライヴアルバム「サーカス&サーカス」のサイズ。このアレンジにこだわりがあるのだろう。 
 歌い終わると、「23…のとき以来? 甲斐バンドの最初のライヴアルバムに入ってる。ジャックスの カヴァー。紙ジャケで出てるから買うように」と言っといて、「「ハイ」って言うな。買ってないってこと だな」とオトす。

 「このツアーのテーマは、”ロックンロール”。と言いつつ、見せ場は今のようなロッカ・バラード であったりもする。」 
 甲斐は「裏切りの季節」をバラードとして認識してるんや。激しいイメージもあるけど。甲斐の バラードには、絶唱する激情のバラードも多いもんね。まさに、ロッカ・バラード。初のバラード・ベスト のアルバムタイトルにもなってるこの言葉、あらためていいなあと思う。

 「自分が自分にしたことは覚えてるけど、ひとが自分のためにしてくれたことは覚えてない」 
 そううそぶいてから、「歌手で俳優の、竹本孝之くんに書いたナンバーを」。 
 「Weekend Lullaby」 
 これはもう、正真正銘、ライヴでやること自体、初めてのはず。 
 この曲も甲斐は、低音を効かせてうたう。「コンプリート リピート&フェイド」や 「HIGHWAY25」、あるいはサンストのカラオケ大会で聴いたのより、歌がたくましく響く。 「都会」はやはり、「まち」とうたった。

 「Weekend Lullaby」は、「行列のできる……」TV番組のスタッフからリクエストが あったそうだ。みんな甲斐の性格を知ってるから、きつく頼むのではなく、「……あれは、やりま…せん…よねー……」 とか言うらしい。 
 チェッカーズを書いてた売野雅勇に詞を書いてもらったと説明。リクエストを受けて、 「聴いてみたら、いい曲で」。そらそうやで。今までライヴで取り上げなかったのがもったいない名曲や。 聴けてうれしい。

 甲斐はイスに座っている。誰かに言われたのか、「松藤がいなくてもMCできる」と改めて宣言するのがおもしろい。 「松藤の呪縛」とも言ってたけど、これは松藤甲斐の曲名「ju-ba-ku」に掛けていたのか。 
 たしかに、松藤のいないツアーは久々な気がする。ノリオも前野選手もJAH-RAHも。 前野選手は、偶然同じ新幹線に乗っていたらしい。それで、一郎は、このZepp Nagoyaに来るように 誘ったとか。

 このツアーのプロモーションのために出たTVの話。バラエティ番組から。 
 「アカン警察」の収録後には、浜ちゃんが抱きついてきて「100点」と言われたという。 あの放送では、ひいき目なしに甲斐がいちばん面白かったもんなあ。「こんなんダウンタウンの番組で見たいか?」 と思える、泣かせるコーナーに、甲斐一人だけがダメ出し。一斉にツッコまれながらも、容認に回った松本に対し、 「君は子どもが生まれてから、どうして変わってしまったんだ」と訴えた。予定調和に見える部分が多く、 「これだけのメンバーがおってなんでやねん」と歯がゆかった空気が変わったもんね。 
 「深イイ話」についても一言。 
 「愛のろくでなしツアー」にふさわしい人物として、雨上がり決死隊の宮迫をツアーパンフでの 対談相手に選んだこと。もちろん、最高のほめ言葉です。 
 最近、ピース綾部フットボールアワー後藤らと飲んだりしてるらしい。

 そうやっていろいろな話をしてから、話題を震災へと踏み出す。 
 あの状況を見て、「歌は二の次だ」と感じたという。「まずは、被災された人たちが普通の生活が できるように」 
 そう考えて、米100キロとか、Tシャツを大量にとか、送ったそうだ。 
 そうして、二ヶ月ほど経ったとき、ラジオから「安奈」が流れてきたという。きっと、ミュージシャン として印象的なできごとやったんやろうな。歌の力とか、音楽にできることについて想ったんやろう。 でも、今夜の甲斐はそういうことは声高に主張せず、ただこう言った。「いろんな曲書いとくもんだなあ」

 「安奈」 
 僕はうたわず、聴くことに徹した。観客の多くもそうやったし、甲斐もいっしょにうたうように 伝えてはこなかった。 
 渡辺等の奏でる楽器が特徴があって。あれは、エレキのウッドベースとでもいうのだろうか。 どこまでが楽器なのか、銀の棒にウッドベースが刺さったみたいになってて。でも、途中でボディが 切れてて、下の方は銀の棒だけという。そのベースの音も生かした、温かな演奏やった。

 渡辺等を残してメンバーは去り、甲斐はマイクスタンドの前に立つ。それだけでもう笑ってる人が 客席にいる。すでにこのツアーに参戦して状況を知っているのか。僕にはその笑いの意味がわからない。 甲斐が後ろ手に何か変なものを持っているのか?

 しかし、甲斐が話し始めたのは、真剣な話だった。 
 このツアー会場で先行発売しているニューアルバム「ホーム カミング」について。 「MINORITY TRACKS SERIES Vol.1」と銘打たれたこのアルバムは、以前 リリース寸前まで行きながら発表されなかった音源がもとになっている。おそらく、「ホーム・カミング」 がサブタイトルになっていた、「ROCKUMENT IV」の頃に製作されたものだろう。当時のMC でも、そのようなことをしゃべっていた。 
 震災後、甲斐は「ホーム カミング」というタイトルがいいなあと感じ、新曲を3曲加えて出すことに 決めたそうだ。新曲には当然、震災を契機に書いた曲もある。 
 「自粛してる場合じゃないんで」 
 「大阪に行ったら、(街の灯かりが)明るくて。東京は、蛍光灯2本に1本が消されてて、 本当に暗いんだよ」 
 やがて、話はあるTV番組のことになる。BSで放送中のニュース番組で、「よい国のニュース」 というらしい。 
 甲斐は以前から「よい国のニュース」を見ていたというが、とりわけ引き付けられたのが、震災後の ある回で。その日は、こんな特集だった。 
 震災から何ヶ月か経ったら、被災地の子どもたちが、「地震あそび」や「津波あそび」 というものを始めるはずです。神戸の震災でデータが出ています。そして、そのとき、大人は 子どもたちを叱ってはいけません。震災のストレスはさまざまな形で子どもたちに現れてきます。 「地震あそび」や「津波あそび」はガス抜きなんです。大人は叱らずに見守ってやり、そのあそびが 終わったら、抱きしめてあげたり、手を握ってあげたりしてください。 
 その特集を何十分も放送した番組を、甲斐はすごいと思った。それから、曲を書いた。曲名はズバリ、 「よい国のニュース」だ。

 その新曲をうたってくれるという。ただし、「歌詞をまだ覚えていない」。そう言って、甲斐は ファイルを持った手を前に出した。さっき笑ってる人がいたのは、このせいか。驚く場内に甲斐は、 「間違えずに歌いたいんだ。これは、俺のステイトメントだ」。納得させたところで、新曲を始める。 
 楽器は、一人残った渡辺等のウクレレのみだ。 
 「よい国のニュース」 
 曲はウクレレの調べとともに、口笛で幕を開ける。甲斐が吹いているのかと思ったが、渡辺等も 口笛を吹く口をしている。でも、きっと、アルバムの音源も使ってるんやろうな。 
 「たおやか」という語が特徴的やと感じているうちにも、希望の詞がうたわれていく。 希望をうたった語尾が「ますよう」と聴こえる。何度も。「ますよ」とうたっているのか、「ますように」 と祈りを込めた「ますよう」なのか、甲斐がどちらの詞を書いたのかが知りたくなる。いずれにしても、 震災後の、今の日本にふさわしい歌や。勇気がわいてくる。希望が見えてくる。素晴らしい歌をつくって くれた。さすが甲斐!

 出演したTVのこと。今度は音楽番組。NHKの。 
 「普通は、俺たちが今やりたい曲、マニアックな曲を言って、局側はヒット曲をやってほしいと言う。 それが、そのときは逆で。スタッフが「ダニーボーイ・・・」を、とかって言ってきたんだよね」 
 聞いてみたら、その人は「ダニーボーイ・・・」で止まってる。「HERO」以降は認めないとか 言い放ったようだ。 
 そこで、自分たちがこの新メンバーでできることをと考えて、初期のある曲をやった。

 そんなMCに続いて歌われたのは、「かりそめのスウィング」。 
 渡辺等のウッドベース。シンバルが印象的でドラムスを見たら、強一は刷毛のようなのでたたいていた。 
 間奏で甲斐は身体を完全に横向きにする。左を向いた状態でステップを踏む。客たちに「軽くダンス してね」と呼びかけたナンバーやもんね。

 「ヒット曲は時を越える。季節関係なくなる」 
 一瞬、さっきの「安奈」のことを言ってるのかと思ったが、甲斐はやはり「かりそめのスウィング」 の話をしていた。 
 「ヒットと言われなかったけど、30万枚売れたらヒット曲と言っていいと思うんだけど」

 甲斐がアコースティックギターを持ってる。曲が始まると、俺はまた「おおーーっ!」って叫んでしまった。 
 「ダニーボーイに耳をふさいで」 
 MCで触れただけで、歌わないのかと思ったら。やった! 
 甲斐はサビの語尾を張り上げずに歌う。「明かりをけーしてー」も「ドアをとざーしてー」も 「鍵をおろーしたー」も。最後の「あーの日ーー」だけは強く上げる。ライヴでこの歌い方は初めて聴いた かもしれない。 
 2番が終わると、あの高い単音の繰り返し。なんと、いつの間にか英二の右側に小さなキーボードが、 縦に置かれていた。英二がギターを持ったまま、右手だけはその音を叩いているのだ。 
 甲斐が「いーくつーかのーー」と歌うと、「パーパパーパパー」とコーラスが入る。オリジナル ヴァージョンの「ダニーボーイ・・・」や。ところが、そこからさらに曲調が変化していくではないか。 「いつものよーうにー いつものよーうにー ドアをとざーしてーー」。「悪いうわさ」からのメドレーで 歌われたときのアレンジになったのだ。さらにもう一度、「いつものよーうにー いつものよーうにー いつものよーうにー  ドアをとざーしてーー」。 
 2つの形を合体させ、繰り返しを増やした新ヴァージョン。うれしいとこだらけやで。

 甲斐が一人でアコースティックギターを奏ではじめる。「昨日鳴る鐘の音」かと思った。初期の歌 3連発かと。しかし、甲斐がうたい出したのは、早くもあの曲やった。 
 「翼あるもの」 
 弾き語りの「翼・・・」を聴くと、「STORY OF US」のビデオがよみがえる。あのシーン、 好きやねんなあ。映像も含めて。マックの最高のパーカッションなしでどうするのかと思ってたら、 こう来たか。 
 静かなギターとうたい方に聴き入って、俺は拳を上げなかった。上げる人もいるが、やはりいつもより だいぶ少ない。甲斐は1番で「翼濡らし」とうたった。 
 最初のサビが終わったところで、ドラムスが高らかに参戦を告げる。二人のギターとベースも続く。 甲斐はギターをとる、マイクをスタンドから外す、動いて強く歌い出す。いつもの「翼あるもの」へ。 照明も派手な白・赤・青・黄。俺らはもちろん、みんな拳を上げる。 「おーれのー うーみーいにつーばさひろーげー」。そこで甲斐が自分の正面に来た。めちゃめちゃ燃える っちゅうねん。 
 後奏。両手を上げるポーズを長く、じっと。甲斐の指の組み方もしっかり見える。影が甲斐の腕から 手へ、そして指先まではい上がってから、甲斐は身体を折った。 
 いやあ、バラードからいきなり「翼・・・」に来るとは。いつもなら盛りあがる曲で橋渡ししてから やのに。 
 さっきのMCで言ってたテレビ人の言葉を思い出す。「ダニーボーイ・・・」から先へ進んだ、 甲斐バンド中期最初のアルバム「誘惑」の曲やで。後にもいい曲あるやろ。どうや。

 しぜんに「漂泊者(アウトロー)」を待つ態勢になる。が、鳴らされたのは他の、しかしめっちゃ 盛りあがる曲の前奏やった。 
 「三つ数えろ」 
 「ウフッフー」のコーラスが最初からある。「誘惑」からさらに次のアルバム「MY GENERATION」 へ進んだな。 
 「俺の車をけとばしーたー」で、甲斐はスタンドを殴り倒した。歌詞に合わせたアクションなのか、 それとも、実際に今イライラしてるのか。そういえば、持ち上げたマイクスタンドをステージに叩きつけて 置いた場面が何度かあった。右ソデへ強く指示を飛ばしたことも。どこかに甲斐をいら立たせるものが あったのかもしれない。歌や演奏やMCでは、そんなところは少しも感じられなかったが。 
 今日はタイミングを変えて、「満足なんかー できはしないさー」と歌っていく。これは1番から 最後までずっとやった。 
 後奏には「ウフッフー」がなかった。甲斐自身が「ウフッフー」と歌うと、渡辺等も声を合わせた。

 ここであのイントロ!俺は跳ねる。 
 「漂泊者(アウトロー)」。 
 また一つアルバムを進んだぞ。「地下室のメロディー」へ。 
 熱狂のうちに「漂泊者(アウトロー)」が進む。いつものように左から右へ光が走っていたような 気もするが、そんな気がしただけかもしれない。間奏で英二と一郎が前へ。甲斐は一旦、後ろの台に置いた 飲み物を口にして、やがて前へと躍り出る。「バクハツ」で今夜の甲斐は、少ししゃがみかけるだけ。 そこからさらにドラムスが激しさを増すニューヴァージョンだったからか。どんどん熱を高めながら終局 まで突っ走る。「誰か俺にー 愛をくれーよー」客席にマイクを向ける。俺らはそこへ向かって全力で歌う。 最後の「愛をくれ」は甲斐が歌う。いつものこだわりや。

 たたみ掛ける前奏に、「おおーーっ!」と狂喜する。リズムはややゆっくり目か。ここに持ってきて くれるとは!「漂泊者(アウトロー)」の後に。甲斐がマイクスタンドを縦に蹴上げる。 
 「絶対・愛」 
 一気に飛んでFIVEの曲や。そういえば、今日FIVEは初めてか。ソロの曲とか多かったから、 全然そんな気せんかったけど。 
 甲斐は、指を突き出した拳を思い切り投げるように「HEY!」。一郎たちも同じように。 俺も一緒にやってみる。いつもは握り拳やけど、同じ指の形にして。いつもは「ヘイ!」って短く叫んで、 すぐに続きを歌うけど、「ヘーーイッ!」て完全にコーラスする。やってみたら甲斐との掛け合いが めっちゃ気持ちいい。 
 「そんな愛は嫌だろう」の後は新たなアレンジ。スタンド横廻しは変わらず健在や。 
 サビの繰り返しから曲が絶える瞬間は「絶!対!愛!」。

 甲斐が「最後の曲になります」と告げ、「もっと聴きたいよ」という想いの歓声が湧く。甲斐は アコースティックギターを手にしている。そして、静かに曲がたちあがる。 
 「嵐の季節」 
 前奏で、甲斐はギターを背中にまわし、ハーモニカを吹く。つらいときを励ますための歌。 今年は特に。その思いからのこの曲であり、このアレンジなんやろう。静かな曲でも今日は低音を目立たせ、 強く歌ってきた甲斐が、ここでは独特のハスキーな声を聴かせる。高音が沁みる。僕はゆっくりと拳を上げる。 思いを込めて。 
 しぜんに起こった拍手につつまれてから、2番へ。甲斐は後ろ手で、背中のギターのネックを握る。 歌詞の合い間にさっとギターを前へ。それを弾き始めたところがサビの頭だ。 
 「そうさコートの襟を立て じっと風をやり過ごせ みんな拳を握り締め じっと雨をやり過ごせ」 
 繰り返しが客席にゆだねられる前、甲斐はギターを手渡す。メガネのローディに。ギターを指して 何か告げた。それからステージを左へ右へ。叫び、歌い、バンドに指示し、観客の声を引き出していく。 
 再びバンドとともに歌い、甲斐が最後の詞を歌う。今度は爆発的な拍手になる。しかし、見せ場は ここで終わらない。静かに戻った後奏に、甲斐のハーモニカがもう一度重なるのだ。万感の思いが聴こえて くる。やがて、強一のシンバルが震える。間をとってから、ものすごく太い音が「ダーーーーーン!」と 轟いた。

 メンバーが去り、甲斐も左ソデへ行ってしまうと、アンコールを求める手拍子。「甲斐ーーっ!」の叫び。 熱心な甲斐コール。 
 スタッフがマイクスタンドをさわっている。「破れたハート・・・」をここでやるのか?英二の左手に キーボードが再び出てきた。こうして見ると、特別小さいわけでもないみたい。この形で何をやる? それよりも、手を打ち、「甲斐ーーっ!」と叫ぶ。甲斐に伝えたいのだ。燃えてるぞ、早く戻ってきて 歌ってほしいぞと。

 現れたメンバーが跳ねるビートを叩き出す。俺も跳ねる!跳ねる!白いジャケットに着がえた甲斐が、 真ん中の後ろから登場や。マイクスタンドを蹴り上げる。 
 「ダイナマイトが150屯」 
 同じライヴで「絶対・愛」と「ダイナマイト・・・」両方やってくれるんがまたうれしい。 
 もう興奮して跳んで歌って手打って拳上げて。甲斐ばかり見ていて、結局キーボードが使われたかどうか わからんかった。

 メンバー紹介。英二。強一。等。一郎。今日一回でこのバンドの虜や。ほんまに太い音やねんもん。

 「風の中の火のように」 
 その太い音で駆けて行く。みんな手拍子で着いていく。 
 甲斐が「愛な のに」と歌った瞬間、バックでライトが真っ赤に燃える。縦4つ横2つ並んだ、大きな 8つの赤だ。甲斐の姿はしかし、青で貫かれている。「風の中の火のように 風の中の火のように」。 繰り返していくにつれ、バック下方から赤が増してくる。こちらは馴染みのある2×3個の赤玉で、 小さめながら並んでいくつも。新しいライティングもまたよし。

 2度目の甲斐コールに応えた甲斐は、白いTシャツになっていた。黒い写真のプリントで、左に 外国人女性の裸の背中が見える。写真の上に銀の文字。最初の単語は読み取れないが、「NUDE」という 文字が続いてるのはわかる。

 前奏に、そうかなとは思ったものの、確信が持てず、最初の拳を上げられなかった。 
 「HERO」 
 激しくて、かっこいい。この新たなメンバーでの「HERO」や。 
 シンプルな肌色がかったライトが軸になってる。そこへ「翼・・・」の白、赤、青、黄。よく見ると 他にいろんな色も使われている。でも、よく見る暇なんかないもんね。甲斐たちとともに、緩むことのない このスピードを感じて行く。

 震災について、甲斐が再び口を開く。 
 ようやく、いい方へ向かいつつある。そう感じられるようになってきた、と。そりゃあ、まだまだ だけど。ほんとに少しずつかもしれないけど。 
 そういうことを言った後、語気を強めて付け加える。「政府は、ぜんっぜん、だめですよ」 
 元の口調に戻って、「その分、周りの、自衛隊なり、地元なりががんばっている」とたたえた。 
 会社や政治家の名前を少し挙げ、ちょっとほめたり、鋭く刺したり。

 「(当初は)アンコールは1回で、さっと3曲やって終わりにしようかという話も出たんだけど、 自粛自粛じゃしょうがねえだろ」 
 「「おひさま」見て泣いてる場合じゃねえなとも思いつつ泣いてしまう。日本人がいちばんつましい 暮らしをしてた時代の話だからね」

 それから、グッズ売り場近くに置かれた、募金箱について語る。 
 「ポケットの小銭でいいんで。ちゃんと、ねえ、持っていく。僕らは(このツアーで)仙台にも行くんで。 僕は、釜石まで足を延ばそうと思ってます」 
 長いラグビーファンでもある甲斐は、釜石につながりがあるのかもしれへんな。

 5月の末から、 JOYSOUNDの着うたフルのサイトで、甲斐はチャリティ配信を行っている。収益は全て 被災地のために寄付される。その歌をうたうという。「役者で歌手の、吉岡秀隆くんに書いた曲」とも紹介された。 
 「光あるうちに行け」 
 甲斐はこのバラードも、低音を中心に強く歌ってゆく。 
 この歌で伝えたいことが凝縮されている詞のひとつが、「君を失うために 生まれてきたんじゃない」 やと思う。演奏も高まるクライマックスで歌われる。甲斐はその後半を、フェイクして高く歌った。 「生まれてきたんじゃなーい」。この一行に込めた思いをあふれさせるように、「き」の音から高く上げたのだ。 甲斐のテーマとも言える詞でもあるもんな。甲斐は、「君を守るために生まれてきた」とは歌わない。 「君を失うために生まれてきたんじゃない」と、ほとばしる切ない痛みを叫ぶのだ。

 全ての歌を終えたバンドが前へ。甲斐たちは並んで、挙げた手を握り、みんなでお辞儀をする。2回。 次に手が挙がったところで動きをとめる。甲斐がメンバー一人一人と握手し、ハグをする。いい笑顔や。 その間ずっと観客からの拍手につつまれている。「甲斐ーーっ!」の声が飛び交う。メンバーがそれぞれ ちょっと控えめに歓声に応え、最後に残った甲斐が客席すべてに応える。 
 かつて終演後に流された「パワー トゥ ザ ピープル」が始まりを告げたこのライヴ、 今聴こえるのは、このところ続けられている「アヴェ・マリア」だ。

 ロビーに出て、ドリンクのコインを交換する。ペットボトルにZeppのストラップが付いていた。 開演前に客席で何人かが持ってるのを見かけ、こういうのがハヤってんのかと思った。 
 並んでニューアルバム「ホーム カミング」を買う。売り場の脇に人だかりができてるのは、 アルバムの曲順が掲示されてたからやった。なにしろ緊急リリースのため、CDにはジャケットも歌詞カードも 付いてないのだ。僕も携帯で写真に収める。これがないと新曲のタイトルさえわかれへんし。 
 募金箱には、ささやかながらお札を入れた。自分の好きなものを見に来て、そこで募金に協力するのが、 自分らしい義援金の送り方やと思う。

 英二と一郎がギターバトルしてたのがどの曲か、思い出せない。前半やったと思うねんけど。 
 一郎の髪がたなびいてることが多かった。あのあたり、風が送られてたのだろうか。 
 そんなひとつひとつの場面を思い起こし、ライヴの流れを振り返る。そうして感じたのは、 「このツアーは、今までのどのツアーにも似ていない」ということやった。そんな気がする。 1曲目といい、激しい曲とバラードを行ったりきたりする展開といい、取り上げた曲目といい、 後半盛りあがりへの入り方といい、そこでの曲順といい。 
 それと、予告された通り、甲斐の生の声も堪能した。

 次は続けて明日見られる。しかも、地元大阪でや。

 

 

2011年7月2日 Zepp Nagoya

 

エキセントリック アベニュー 
レイン 
黒い夏 
港からやってきた女 
スウィート スムース ステイトメント 
ジャンキーズ ロックンロール 
裏切りの季節 
Weekend Lullaby 
安奈 
よい国のニュース 
かりそめのスウィング 
ダニーボーイに耳をふさいで 
翼あるもの 
三つ数えろ 
漂泊者(アウトロー) 
絶対・愛 
嵐の季節

 

ダイナマイトが150屯 
風の中の火のように

 

HERO 
光あるうちに行け