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Utsubo Park Music Forestaurant

2008年10月18日(土) 靱公園センターコート特設ステージ

 

 大阪で生まれ育ってずっと住んでるけど、靱公園って名前も聞いたことなかった。「うつぼ」って 読むねんな。調べたら、本町あたりにあるらしい。地下鉄四つ橋線の本町から行くと、すぐやった。

 かなり本格的な公園で、広い。花も樹も多い。そんで、女性の像も多い。「緑と芸術の公園なのです」 と言ってるみたいに。 
 縦長の園内を行く。ベンチや、広げたビニールシートで食事をとってる人たちも多い。けっこう みなさんに親しまれてる公園やねんな。 
 噴水の周りで親子連れがたわむれてる。けど、なんか異様。と思ったら、服着たブロンズ像やった。 こんなんに服着せるか。ちょっとすごいぞ。噴水のとこ一周ぐるっと、いろんなブロンズ親子が。

 やっぱ遠い。まだ歩くんか。駅から公園の入口までは近かったけど、センターコートにはなかなか たどり着かれへん。 
 目の前に道路が現れた。公園を横切ってるんや。どんだけ広いねん。これ渡って進まなあかんのか。 まだまだやな。そう思いながら道路の向うを見ると、交番があった。そして、そのすぐ後ろに会場らしき 建物が。アリーナはどっちとかスタンド○席はこっちとか、表示が貼ってある。もう着いてたんやね。

 センターコートの建物に入ると、まずトイレが目に入った。テニスコートでライヴっていうから、 トイレとかあるんかとちょっと心配してたけど、きれいなのがちゃんと。まあ、当たり前か。 
 弁当など食べる物やビールなんかも売っている。ただ、現金では買えないらしい。チケットと交換 してからやって。まどろっこしいな。人多いのに時間かかるだけちゃうの。開演も近いから、何も買わずに コートの方へ出た。

 1時25分。開演5分前にFM802のDJが登場。吉村昌広という人らしい。このイベントは、 「FLYING POSTMAN LIVE」で「produced by FM802」なのだ。 
 普段の、テニスコートとしてのセンターコートの紹介。ここでライヴをやるのは初めてで画期的だ ということ。 
 エコに配慮したイベントだってことで、ごみ担当のマツイさんという女性を呼び入れる。今日ごみ は8分別。ペットボトルのふたを集めると換金でき、それでワクチンを購入していることなどを説明。

 ステージはテニスコートの真ん中。正方形。床は緑で、四隅に鉄柱。 コート上につくられたアリーナ席も、スタンドも、 ステージをぐるりと取り囲んでいる。アーティストは全方向から視線を受けるわけだ。「360度VIEW!」 ってのが、今日の売りの一つでもある。甲斐は「ROCKUMENT」 シリーズで三方客席のライヴを続けてきたから、全然問題ないやろう。 
 僕の席はスタンド上段やった。左寄り。予想してたよりステージが遠いな。アリーナの人たちが うらやましい。

 最初のアーティストは、吉村さんが「まさかの」と形容した宮沢和史。 
 僕の席から見て、左手前からの入場。斜めに伸びた花道をステージへ。むこうを向いて座る。こちら はステージの裏側にあたるのか。残念やけど、仕方ない。たとえ甲斐の顔が見えへんかっても、絶対 楽しみ尽くしてやるもんね。 
 「宮沢・クルム・和史です」と名乗る。後で「今日はみなさんに”エア宮沢”をお見せしたい」とか も言ってた。トップバッターの強みやな。テニスコートならではのネタ、後の人はもう使われへん。 
 聴けたらいいなと思ってた「中央線」が1曲目。 
 客席はだいたい埋まっている。のに、前の方がところどころ空いてたりして。遅れて入ってくる お客さんもいるし、明るいから全部見えるし、歌いにくくないかなと気を遣う。それだけやったら仕方ない ねんけど、まだお客さんが少しざわついている。けっこうしゃべる人がおるのだ。松藤見たさに以前1度 だけ行った、ゴールデンウィーク服部緑地の「春一番」もそうやった。野外のアコースティックイベント って、本当に音楽が好きな人が集まるみたいなイメージで宣伝されたりするけど、あのときなんか ライヴ中に1列目ど真ん中で携帯でしゃべり続ける奴さえいたし。歌の最中にしゃべる神経が 信じられへん。 
 もっとも、宮沢は落ち着いていた。もう1つの難題、右後ろのビルでやってる工事の騒音にも、 「さすがの802も、工事までは止められなかったみたいで」と、客を和ませる。 
 歌はゆったり。聴かせどころでは狙って甘い声を出す感じ。 
 2曲終わると、宮沢がこちらに向き直る。寄って来て、こっちに近い方のマイクにスタンバイ。 どちらも正面にしようと、半分ずつ歌うようだ。こっち側のみんなが拍手。 
 映画「ナビィの恋」にインスパイアされたという曲も うたってた。曲前のMCで、何十年の恋愛を成就する物語だと要約してて、それはその通りやねんけど、 おじぃにも触れてほしかったなあ。僕にとっては、おじぃの映画なのだ。 
 最後の4曲目。「神よ。命よ」というふうに続く詞から始まったから、知らない歌やと思ってたら、 「島唄」やった。拍手が高まった。

 テニスウェアを着た女性が花道に現れた。ラケットと、スーパーのやつみたいなかごを持っている。 かごの中身は、何とサインボール。テニスコートにちなんで、アーティストがラケットでステージから 客席へサインボールを打ち込むという。ギターを置いた宮沢が、まんべんなく四方遠近に黄色いボールを 打っていった。

 40分ほどのステージが終わると、次のアーティストのためのセッティングが始まる。肘掛け椅子は 宮沢のものだったようで、スタッフが運んで行った。 
 アコースティックやからさくさく進むかと思いきや、そうもいかないようで。特に休憩だという アナウンスもなく、客自身がステージの様子を見て、トイレに立つなり何か買いに行くなりしろということ らしい。何組か続けてやってから1回長い休憩が入るような形ではないんやね。

 2組目は、peridots。 
 僕は全くの初めて。ギター弾き語りの男性と、キーボードの男性。キーボードの人は「ウラ」という らしく、ヴォーカルが「うーら、うーら、うーら」とコールしていた。 
 MCで「10月に熱中症なんて、しゃれにならない」と気遣ってくれたけど、ほんまに暑い。 よく晴れたのはいいけど、陽射しがきついのだ。僕はもうこの頃にはTシャツになっていた。1曲ごとに 水を飲んで聴いている。女性で帽子のない人は、アーティストのマフラータオルを頭に乗せたり、入口で もらったチラシをかざしたり。2時過ぎやもんな。今がいちばん暑いときか。 
 近年ファルセットを多用する若いミュージシャンが増えてる気がしてたけど、peridotsも そうやった。普通に歌ってて、やや唐突にファルセットに入る。曲を初めて聴く僕には、そう感じられた ところもあった。もちろん、自分の声の特性を活かしての曲づくりなんやろう。 
 太い芯のある詞を書く人みたいや。「労働」という歌もあった。「春一番」で「先端」という曲を 歌ってた青年を思い出しもしたな。peridotsの方が洗練されてて聴きやすいけど。 
 いちばん気に入ったのは、「リアカー」という曲。全体的にも好印象。peridotsは5曲の ステージやった。 
 テニス経験がほとんどないということで、サインボールは下から弱く打っていた。

 次が甲斐かどうかステージを注視する。「波」と入ったTシャツを着たスタッフが目立つけど、あの 人はずっといてるし。甲斐のスタッフらしき人は見つけられない。 
 このときのステージチェンジが最も時間がかかった。陽は照りつけたまま。左上空に見えていた 太陽は、どうやら少し向こう側へ移動している。そういうことか。左が南で、正面が西、僕の席は東側 なんや。陽が沈むまで西陽を浴びるねんな。もう覚悟した。 
 客席はさらに埋まっていた。最上段には銀のバーがあって立ち見スペースになっているが、そこに いる人の多くは関係者なのか、首からパスを提げているようだ。 
 南と北にスコアボードがある。右背後のビル工事は続いている。右奥のマンションのベランダから 覗いてる人たちも見えた。

 次に姿を見せたのは、真心ブラザーズ。僕が最も印象にあるのは、「拝啓、ジョン・レノン」。生で 見るのは初めて。甲斐以外は全員初めてなわけやけど。 
 MCはゆるい雰囲気。勝手なイメージやけど、みうらじゅんとかのノリもわかってくれそう。 黒いメガネTは、僕も持ってるつじあやののTシャツに似てた。歌はザックリ。 デビュー曲も披露してくれた。 
 前2組と同じく、2曲やった後はこちらを向いて歌ってくれる。さらに、その後は1人ずつ逆方向 を向いてのステージ。いいなあ。 
 ニューアルバムに入るという「傷だらけの真心」、よかった。 
 「テニスコートですが、野球場でよく流れる歌を」と言って、「どか~ん」。たぶん今日初めての 手拍子。「どか~んと景気よく」の後の「チャチャチャ!」も、みんなばっちり合ってた。僕も高校野球の 応援ノリそのままで。普段のライヴでもこの手拍子なんかな。「知らんぷり」の後の「ぷりぷり」は省略。 楽しかった。 
 真心ブラザーズ全5曲。ぶっきらぼうな感じで歌うねんけど、胸に響く。詞もいい。甲斐の他では いちばん気に入った。

 真心の次に甲斐を続けへんやろう。甲斐の後に静かな安藤裕子という流れも考えにくい。安藤裕子を はさんで甲斐というのが、コントラストが映えるのでは。 
 順番はだいたいわかったから、あとは甲斐がどの曲を歌ってくれるのか。本命は「破れたハートを 売り物に」。爽やかなムードのアコースティックイベントで、あえてやりそうなのが 「BLUE LETTER」。松藤といっしょやろうから、「甘いKissをしようぜ」はどうか。 「翼あるもの」のアコギヴァージョンもいいねんなあ。甲斐よしひろとしてのライヴやけど、 甲斐バンドツアーのアコースティックライヴでやる曲を歌う のだろう。前野選手のキーボードは加わるのか?ノリオは?JAH-RAHは?わくわくするなあ。

 売り子が客席をまわり出してる。野球場みたいに。チューハイとか。陽はまだまだ照っている。 飲み物売りに来るの、みんなありがたいやろうな。僕は甲斐のライヴ前やから、もちろん酒は飲まない。

 4組目は、やはり安藤裕子。写真と違うぞ。髪を短く切ってんな。ヘッドバンドしてる写真から、 Superflyの越智志帆みたいな雰囲気を想像してたけど、今日はヘッドバンドなし。 かわいらしい感じのファッションやった。客席には、ヘッドバンドして幼い子を追い掛けるお母さんの姿も あったけど。 
 見た目は本上まなみを連想した。MCの声は小さく、弱い。頼りなげな話し方。「もへ」とか 「ふみゅ」みたいなイメージ。いや、もちろんそう声に出すわけじゃなくて、全体のイメージが。 
 北側のファンから、「タンブラー使ってくれてありがとう」と声が掛かる。え。ファンがプレゼント したタンブラーをステージで使ってるってこと?そりゃあ、あげた娘はうれしいやろうなあ。 
 歌声は高くてきれい。唯一知ってる「のうぜんかつら」も聴けた。 
 お母さんがここでテニスの試合に出たことがあるって言うてたな。それで、みんなに「ここでプレー したことのある人?」って聞いてた。だからかどうか、サインボール打つのはなかなかうまいねんな。ただ、 北側に向く前に全部打ち込んでしまって、頭を下げていた。

 さあ、いよいよ次が甲斐じゃないのか。ステージ上のスタッフたちをよおく見る。遠目には、 見覚えのある人の姿は確認できひんかった。 
 しかし、1人のスタッフが左でギターを弾くのを見て、確信した。やっぱり甲斐や。いっぺんに ドキドキしてくる。甲斐が出て来るぞ。

 DJから甲斐の名前が呼び上げられると、「おお~お」という低いどよめきが起こった。 「ついに来たぞ!」という僕らファンの興奮に、「大御所の登場や」「じゃあ、トリは誰なんや」 「このアコースティックライヴに異質なアーティスト、どんなステージを見せるのか」という観客たちの さまざまな思いが入り混じった声だ。 
 花道を行く甲斐は、黒い長めのコート。ズボンも黒。サングラス。松藤がその後に続く。やっぱり 松藤もやってくれるんや。 
 僕の近くには、女性4~5人のグループがいた。甲斐のライヴを見るのは初めてらしい。反応が 気になるとこや。彼女たちの第一声は、「黒ずくめやー」やった。 
 「甲斐さーーん」「甲斐ーーっ!」の声が飛ぶ。会場の雰囲気が変わる予感や。

 ステージに上がった甲斐の第一声は、「サンキュー」。 
 どのアーティストのときも、1曲目が始まる頃は客席の出入りが多く、ちょっとざわついている。 そんな雰囲気にも、「今日はいいねえ。みんなビールとか飲んで」と、意に介さない。 
 甲斐が左の立ち位置。松藤と2人でアコギを弾き始める。最初はやはり向こう側をむいて。 
 「風の中の火のように」 
 おお、ツアーでやる曲以外も歌ってくれるんや!おそらく今年聴ける最後の「風の中・・・」ちゃう かな。うれしいやん。 
 間奏。甲斐も松藤も、「ララララ ララララ」と歌わない。あれなしで叫ぶんやと思ったが、 「ウォーーイェーーー」もなし。思う間もなく「なぜみんな」に入っていった。間奏ショートヴァージョン や。時間が限られてるからか、アコギだけで初めての客をつかむためか。いずれにしても、この ヴァージョン初めて聴いたな。 
 近くの女性たちは、「これ、ドラマの主題歌やったやんな?」「何ていうドラマやっけ?」 「ギター左で弾いてるー」 
 僕は「『並木家の人々』やがな」と思いながら、甲斐に集中。

 「甲斐バンドのドラマーで、今日はギタリスト。松藤英男。拍手を」 
 そうして松藤を讃えてから、「今は甲斐バンドのツアーの真っ最中なんで。ここで、甲斐バンドの ギタリスト田中一郎を呼びましょう」 
 花道から一郎が歩いて行き、拍手で迎えられる。 
 今まであまりこちらを見てくれなかった甲斐が、ステージのこちら側へやって来る。向こう側の ことを、「こっちばかり優遇されることはないよね」。こっち側の僕らは、よろこんで大きな拍手。 
 「ただ、こっちで歌うには問題がある。バンドの音が聴こえない」 
 見ると、これまでのアーティストはたいてい東西両側に2つずつ計4つモニターを置いていたが、 今はあっち側の2つしか置かれていない。 
 「でも、俺はやるから」 
 うれしい約束に、僕らは再び拍手。

 「「裏切りの街角」という曲を」 
 「おおー」という反応が、けっこうあった。甲斐ファンも思った以上に来てるのか。 
 あの前奏を、松藤と一郎のアコギ2本だけで、忠実に再現。 ソロのアコギツアーでやるときとまた違うのだ。甲斐バンドの「裏切りの街角」だということを 明確に意識してのアレンジやと感じる。 
 短い間奏でも、「チュッチュルル」の音を抒情的に弾き切って、聴かせる。 
 甲斐はこちら側にも配慮しながらうたっていく。 
 「チュッチュルル チュルルッチュッチュチュチュ」

 「1曲目は甲斐よしひろで、(松藤の方を示して)セッションミュージシャン。2曲目からは 甲斐バンドとして・・・」って言っといて、「それはもう、いいね」と自ら打ち切ってみせる。観客の顔が ほころぶ。初めての人たちもどんどん打ち解けてくるみたい。 
 「さっき真心とも話してたんだけど、今日はもう何でもありだなって」 
 また空気が和み、それと同時に期待が高まる。さっき、サインボールを捕った人がファンに譲って あげたことがDJに紹介されたりして、だんだん馴染んできたこの会場の雰囲気。それをほめられたようで うれしいし。また、何でもありやったら何やってくれるんやって楽しみになってくるし。

 関西やから、タイガースの話題も。 
 「岡田監督が辞めて、真弓になるんだよね。僕、全く同い年なんで」 
 「ほー」というような声があがる。近所のおねえさんたちは、「え。じゃあ、50代半ば?」 
 「ということで、「安奈」をやりましょう」 
 甲斐は言葉にせえへんかったけど、真弓が女性の名前でもあるから、そのつながりという流れ やったんやろう。「裏切りの街角」以上に反応があった。

 「安奈 寒くはないかい お前を包むコートは ないけどこの手で暖めてあげたい」 
 「二人で泣いた夜を覚えているかい わかち合った夢も虹のように消えたけど」 
 好きな部分の詞が、今日はことさらに沁みてくる。 
 大きな拍手。おねえさんたちも、「泣いてしまいそう」「生「安奈」が聴けたあ」と感激の様子。 みんなに伝わってるで。

 ここまでは静かな曲が多い印象や。「ブライトン ロック」でもアコギでやってしまう、 アコースティックでも激しい甲斐を、見たことない人に知らしめてもほしいな。 
 そんな欲を感じてた時、甲斐が言った。 
 「今日は何やってもいいんで。「漂泊者(アウトロー)」を」 
 この言葉に、一気に燃える。他の甲斐ファンも同じに違いない。 
 「安奈」でイスに座ってた甲斐が立ち上がる。あのアコギでも強靭な「漂泊者(アウトロー)」の 前奏が、2本のギターで掻き出される。この太い音。一郎が立ち上がる。松藤も呼応するようにすぐ立ち 上がる。 
 甲斐は動きまわって歌う。ステージこっち側の縁からはみ出さんばかりに。角の支柱のそばまで。 歌い方も当然ブルースヴァージョンじゃない。バンドでやるときと同じだ。「SOSをおー 流してるうー 」と猛々しく上げていく。サビでステージ真上の赤いライトが点滅する。いつの間にか夕方になってる らしい。甲斐はしきりに動く。こっちにモニター置かなかったのは、甲斐が好きに動きまわるためやった のか。コードを持ってマイクを投げ、弧を描かせてキャッチ。客席が沸く。めっちゃ反応がいい。 間奏じゃ甲斐のハーモニカ。さっきまでは抒情的に吹いてたけど、この曲では別。音を切って激しく強く。 そして「誰か俺に愛をくれよ」と歌う。「誰か俺に愛をくれ」。「爆発 しそう」は、一郎・松藤と絶妙の 間で。 
 燃えたで「漂泊者(アウトロー)」。センターコートの空気も一変してる。

 立て続けに、「今日は自由だから、「HERO」をやりましょう」 
 歓声があがる。立ち上がる人々もどんどん増えて行く。ギターの前奏、今日はシンプルなリズムで。 みんなノりまくり。掛け値なしに今日いちばんの手拍子とスタンディングで「HERO」や。 
 甲斐はもちろん動きまわる。こっちのスペースを縦横無尽。めちゃめちゃ盛りあがってる。みんな 甲斐の世界に引き込まれてる。甲斐が北側を向いて歌いながら、コートを後ろにずらして両肩を出し、 すぐに戻す。ファンにはおなじみの動作やけど、南側を中心にどよめくような歓声が起こる。もう完全に 甲斐のペース。間奏もマイクスタンドを持って動き続け、スタンドを広いスペースに置いて再び歌い出す。 そっちを向いて。あっちを煽りながら。「海は枯れ果ててえ月は 砕け散ってもー」甲斐はそこで マイクスタンドを蹴り廻す。ひときわ大きな歓声。バンドヴァージョンのようにはっきり間を空ける アレンジじゃなかったのに、あのわずかな時間でマイクスタンドを廻すとは!今日はせえへんのやと 思ったから、ことさら興奮する。一郎も松藤も再び弾き始めるタイミングをばっちりずらしてたな。 
 歌い終えた甲斐は後奏のなか、サインボールを投げる。右で投げてる。小さいボールは右やっけ? 四面ともに投げ付けるようなアクションで。全部投げると空になったかごを足下に放して転がす。 向こう側に戻り、もう一度マイクスタンドを左足で外側に蹴る。弧を描きかけたスタンドは、しかし廻り 切らない。左の一郎に当たったのかと思った。一郎に当たりかけたのか、それともコードがからまった のか。廻らないとさとった甲斐は、スタンドが左に水平になった時点ですぐに右に真っ直ぐ引き戻した。 これがまた絵になる。歓声のなか、甲斐は「サンキュー!」ともう一度繰り返した。

 この日最高の盛りあがり。出て来たときとはまた違う、「すごいもん見たあ」という大きなどよめき のなか、甲斐たちが花道を引き揚げて来る。「甲斐ーーっ!」の声。拍手。 
 曲の間にも何度もあったけど、女のひとたちがため息まじりに「かっこいいー」と声に出している。 近くのおねえさんたちも、「かっこいいー」「めっちゃ楽しめた」「「HERO」って聞いて、 「キャー!」言うてもうた」 
 僕は「見たか!」っていう気持ちで満たされていた。甲斐を初めて見る人たちにも、強烈な インパクトを与えられたと思う。

 甲斐の余韻を楽しみつつ、食べ物売り場を覗いてみる。「ホットドッグ、サンドイッチ、パニーニ、 全部100円でーす。現金でもお求めいただけまーす」開演前とえらい違いやな。お得になったパニーニを 買う。 
 席に戻って、空の下で食べる。もう陽は沈んでいた。パニーニって、グリーンスタジアム神戸で おいしいのをよく買うけど、あれとはかなり違ってた。野球場のはハンバーガー状で、鶏肉とチーズや トマトやレタスなんかがはさんである。今日のは、白くて長いやわらかいコッペパンで、具はきんぴら ごぼう。もはやイタリア風サンドイッチの面影なし。でも、これはこれでおいしかった。きんぴらドッグ って感じで。

 次のアーティストを呼び入れる前に、DJ吉村さんは客席のあちこちに出現してインタビュー する。今回は「甲斐よしひろさん率いる甲斐バンド、ものすごいことになってましたね?」って質問。 吉村さんはこの後も、甲斐に触れる度に、「すごかった」と言っていた。

 秦基博の入場。黄色い歓声がたくさん飛ぶ。おねえさんたちは、「秦基博って、「キャー」なんや」。 僕ももっとアーティスティックというか、静かなファンが多い人のような想像を勝手にしてた。北側の 右端あたりは、スタンディングオベーションで迎えてたな。 
 曲は静かめのをじっくりという感じ。やはりファルセットを聴かせる。ファンも曲が始まると 落ち着いて聴きに入る。 
 「後頭部がもっさりしてるんで、見ないでください」とか、穏やかなMCにも、ファンに 愛されてるんやろうなというのが滲み出てる。 
 もう暗くなってるから、本格的にライトが使われ出してる。 軽く手拍子を合わせる曲も。 
 サインボールは間奏の間に。

 最後は森山直太朗。客席にちらほら見えてた、イーグルスカラーのエンジに黄色で「Q・O・」とか 入ってるマフラータオル、直太朗グッズやったんや。 
 1曲目。途中で止める。カポを付け忘れたという。「みなさんの拍手も足りなかったんじゃないかと」 
 曲は話題になった、「生きてることが辛いなら」。最後まで聴いたら、いい詞やって思う。反感を 持つ人もいるということ自体は、わからないでもないけど。 
 2曲目。ラストでハーモニカホルダーがマイクにぶつかったような。「反ってうたい上げてたら、 立ちくらみがして」。ジョークなんやろうと思いつつ、もしかしたらほんまなのかとも。カラオケで 歌いまくってて酸欠になるときあるけど、プロでもそうなることがあるのだろうか。 
 森山直太朗こそファルセット満載なわけやけど、3曲目は初めから。1番が半分くらい終わってから 止める。何か間違えたらしい。もう1度うたい直し。「僕よりも、僕をトリにしたFM802が悪いんじゃ ないかと」 
 マンションから覗いてる人らに手を振ってみせる。その後で、「金払えよ~」 
 サインボールを投げ入れるのは嫌だとも。「これからもみなさんと仲良くしてもらいたいから、 やりますけど」。この場合のみなさんって、すでに投げ入れた他のアーティストたちのことなのか、 サインボールを欲しがるファンのことなのか、判断がつかなかった。 
 ファルセットなしの4曲目で、森山直太朗終了。最初と最後の人が4曲ずつやったな。他の組は みんな5曲歌ったはず。宮沢和史森山直太朗は1曲ずつが長かったのかもしれない。 
 森山直太朗、嫌だと言いながらも、サインボール思い切り投げて遠くまで届かせていた。

 簡単なアナウンスがあっただけで、イベントはあっさり終わってしまった。最後に全員で1曲やったり せえへんの?DJの一言さえなかった。そんなもんなんかな。終了時刻は6時半をまわってたと思う。 
 アナウンスでは、ロビーでCD等を販売してるとも言うてたけど、売ってるとこっていうか、ロビー すらどこかわからんかった。北か南の方まで遠回りすればよかったのだろうか。CD見たい人もたくさん いそうに思ってんけどな。

 本町駅へ戻る道は混雑してた。歩いてると、「甲斐さんが」とか「甲斐バンド」とか言ってる声が 頻繁に聞こえる。ファンとして誇らしい。 
 駅が近くなっても混んでるから、御堂筋線の本町まで足を延ばすことにする。でも、御堂筋に着いて から思いなおした。2駅先まで、歩こう。気分いいねんもん。

 

 

2008年10月18日 靱公園センターコート特設ステージ

 

風の中の火のように 
裏切りの街角 
安奈 
漂泊者(アウトロー) 
HERO