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甲斐バンド BEATNIK TOUR 2001 ーDo you beat?ー

2001年7月24日(火) クラブ・ダイアモンドホール

 一昨日と同じく、仕事を終えて新幹線に。名古屋からは地下鉄で、98年夏の GUY BAND以来となるクラブ・ダイアモンドホールへ。 
 ここはビルの5階にある。僕が着いたときには、すでに建物からたくさんの 甲斐ファンがあふれていた。 
 今日は「BEATNIK TOUR 2001」の追加公演。小さめの会場で オールスタンディングなのだ。僕のチケットの整理番号は123番。先行予約の朝、 ローソンのロッピーへ走って手に入れた番号だ。 
 ファンの列は、階段を5階から1階まで伸びて、さらに続いている。 その狭い階段を、100番台前半のところまで上っていく。暑い。とてつもなく暑い。 太陽に灼かれる暑さなら、僕は大好きなのだが、これは閉め切った場所でのいやな暑さ や。誰もが不快なんちゃうかなあ。1人がやっと通れるだけのスペースを残して、 あとは全部人が立ってる。汗がとまらない。狭いところにこんなに大勢いてるのに、 もうちょっと何とかならんのか。どっか開けて、風通してくれえ。ほんまに倒れる人が たくさん出るかと思った。

 待ちに待った開場。入り口で配られているうちわを受け取る。名古屋公演が早々に 完売した、その記念グッズだ。赤地に白で「大入」と染め抜かれてある。縦に 「復活!甲斐バンド」、横に「名古屋公演 SOLD OUT 記念!!」の文字。 下の方には黒で、4人の写真と、「KAI BAND BEATNIK TOUR  2001 DO YOU BEAT?」のロゴが。そして、「2001.7.24  at Nagoya Diamond Hall」の日付け入りだ。こういうの、 うれしいなあ。

 広いライヴハウスといった趣の場内。当然真ん中が混んでる。123番では、 真ん中の前は望めない。今日は端の方でも仕方ないから、できるだけ前で見たいと 思ってた。 
 その希望通りに、かなり左やけど、前から2列目に立つことができた。 スピーカーのすぐ内側だ。甲斐の正面でこそないが、めっちゃ近いぞ! 
 みんなもステージまでの距離が短いのを感じて、すごく興奮してる。よく声が 飛び、ギターの調子をみる音がしただけで歓声があがる。 
 時々うちわであおぎながら、開演を待つ。階段で待ってる間に渡されたら、 このうちわ大活躍してたやろうなあ。 
 マイクスタンド正面の、1~3列目くらいの客席の上に、大きなミラーボール が吊るされている。これは「100万$ナイト」で使うものなのか、それともこの ホールに備えつけてあるものなのか。前に来たときはあったかなあと記憶をたどって みる。

 速い手拍子がわいてはしずまっていく。もうすぐ甲斐のライヴが見れる!はやる 気持ちをおさえられない。まだ時間はありそうやけど、すでにうちわはジーパンの前 ポケットに差している。準備万端。手拍子打つのも拳上げるのも、思いきりできる 態勢や。 
 BGMが変わった。歓声。最後からひとつ前の曲。今日は「キサス キサス  キサス」とも「イサス イサス イサス」とも聴こえる。どっちも歌ってるんかな。 
 そして最後のBGMが響き渡る。いっそう大きな歓声と手拍子。ミラーボール に、虹色のライトを浴びたオーディエンスの姿が揺れている。 
 ものすごい歓声。照明は客席に向かって放たれ、ステージ上は照らされていない のだが、それでもメンバーが入ってくるのが見える。なんせ近いのだ。濃密な空間、 この熱気。小さめの会場の醍醐味やなあ。 
 マイクスタンドが4本並ぶことはない。1曲目が変わるんや!初日の広島で見た ように、「ちんぴら」で幕を開けるのか? 
 ふたつの激しい音が印象的な前奏。たしかに聴き覚えがある。だが、まだどの曲 かわからなかった。 
 「アナログ レザー」 
 客席から悲鳴があがる。ついに新曲がオープニングに選ばれたのだ。 
 左の方から体を斜めに向けて甲斐を見る。右の壁に、緑のライトに浮かびあがっ た甲斐の影が映っている。 
 「また一緒に楽しもうぜ」 
 生で甲斐に歌いかけられて、みんな狂喜する。ああ、めっちゃうれしい歌や。 
 ラストは「アナローグ レザー」と歌う甲斐の声が轟いた。

 曲が終わって、拍手と「甲斐ーっ!」の叫び。今日のオーディエンスの燃え方は、 ほんまにすごい。もちろん僕も熱狂や。 
 ライトが落ちてるインターバルの間でも、甲斐の表情が見えるぞ。 
 そこへピンクのライト。一郎のギター。 
 「ちんぴら」 
 「あー あー あー」の初め二つは、客席にマイクを向けてくれる。三つめの 甲斐の声は「オーーッ」と聴こえる。

 熱に包まれたまま、「ダイナマイトが150屯」 
 蹴り上げて廻したあと、コードがマイクスタンドの下にからまる。甲斐は かまわず横に振り廻す。 
 いいぞ!大好きな「ダイナマイト」やけど、今夜はまた特にいい! 
 甲斐はドラムスの台に飛び乗った。そこから下りてきて、フィニッシュ!

 「今夜も最後までやります、目一杯。やるよ!やるぜ!」

 イントロで一郎が叫んでる。左前の客席に、その生の声が届いてる。 
 「きんぽうげ」 
 歌い動く甲斐。ノリまくる一郎。オーディエンスは大合唱。今日はいつもと ちがって、「指でーえ たどって」を客席に歌わせてくれた。うおお、「きんぽうげ」 もまた特別いいやんけ!

 ステージ奥へ行ってた甲斐が、歌い出しぴったりにマイクスタンド前に来た。 
 「フェアリー(完全犯罪)」 
 めっちゃいいノリ。歌の合い間の甲斐の笑顔が満足そう。 
 「彼女」を「あのコ」と歌うことが多いのは、このツアーの特徴やな。 
 後奏はレコードより多かった。うれしいなあ。

 「新曲をやります」の声に拍手。 
 1曲目の「アナログ レザー」に続いたのは、 「眩暈のSummer Breeze」 
 甲斐は真ん中の前へ。ステージから身を乗り出して歌う。会場に入っていた カメラを挑発するように、「暑いぜ」の表情をしてみせる。

 MCで、甲斐は今夜のことを「大うちわパーティー」と言って笑った。 
 客のものすごい歌声と歓声に、「うるさい、てめえら」 
 「曲が鳴って、松藤のカウントさえあったらいんだろ。あと、前に字幕が出て、 俺が動いてれば」 
 いつもに増して、甲斐とともに歌う客席の声がでかいのだ。 
 「ロックの恐そうなやつら、たくさんいるだろ?(俺たちは)本当は もっと恐いんだから。話聴くように」 
 ここで、「かっこいいー」と女性ファンの声が飛ぶ。 
 「今説明してんのに。ほめ言葉はいいと思ってるだろ。ほめ言葉、嫌いなんだ。 気が弱いから、その裏に何かあると思ってしまう(笑)」

 このツアーでは、リハーサルの段階から歌詞カードを見てないという。 
 「それが正しいとの確信もなく。初日のみんなの口の動き見て、これでいいんだ と。4日目ぐらいでやっと完成」 
 「だったらすごいね」と、一郎とウケる。 
 「そんなわけはない」とジョークをしめくくった。

 ライヴの選曲について、「多めにリハーサルやって削っていく」と明かす。 
 次にやる曲は、「最後の最後まで当落線上に。オールスターの新庄みたいに」と 言ってから、「全然当落線上じゃないじゃん」

 「シーズン」 
 一転して、場内は曲の色に染まっていく。 
 甲斐のせつない声。いたそうな表情でうたうのだ。

 前奏のコーラスの間も、オーディエンスの手拍子はとまらない。 
 「ナイト ウェイヴ」 
 「ウーウーウーウ ウーウーウーウー ウーウウー」と甲斐は歌い、後半からは 「ウウウウ」とPARTYヴァージョンを増やして、曲の間を自由に漂う。 
 甲斐が「JAH-RAH!」とささやいて、間奏の始まりだ。 
 ベースの番が来ると、甲斐は坂井ノリオの後ろから、膝の裏に膝を入れて、 ステージの前へと送り出す。 
 それから英二、一郎のギターソロ。 
 ああ、今夜は「ナイト ウェイヴ」も、とびきりやった。

 「松藤英男が歌ってくれる」 
 「ビューティフル エネルギー」 
 松藤はカーキ色のタンクトップ。今夜も「タン タ タン」の手拍子がある。 
 甲斐のコーラスはなしやった。 
 曲が終わると松藤は、素早く客席のあちこちを指差しながら、「サンキュ! サンキュ!サンキュ!サンキュ!サンキュ!」と叫んだ。

 松藤がくだけた感じで、ウィンドチャイムの端をいじる。 
 だが甲斐は、すでに曲の世界に入っていた。 
 「BLUE LETTER」 
 ところが、このバラードにあっても、客の多くは何と大合唱をやめない。 特に「ブルー レター」というサビでは、甲斐のうたがほとんど聴こえない。何考え てんねん!情けない。どういう曲かも考えずに、ただ大きい声を出せばいいのか。 こんなんやったら、さっきのMCがシャレですまんようになってるやんけ。素晴らしい 熱狂の一夜にキズがついてしまった。 
 せっかく、せつない声の名演やったのに。 
 甲斐の声だけを聴きたくて、必死に耳をすませた。

 甲斐はサングラスをかけた。MCなし。 
 「テレフォン ノイローゼ」 
 2番に入るところで、ギターの音が聴こえなくなる。甲斐はちゃんと弾いて いる。トラブルらしい。みんなで手拍子で支える。甲斐は右ソデを見ながら、2番の イントロを弾いた。

 イスが用意され、「田中一郎を」と甲斐が呼び入れる。 
 暑くてうちわを使ってるファンがいる。 
 「この甲斐バンドうちわは、酸素が出るようになってるから」と笑わせてから、 「(客席の)後ろの方であおぐのはいいんだけど、前でやられるとハラ立つよね」と 甲斐が言う。 
 「見えるからじゃない?」一郎が答える。 
 「なんか、野球場の売り子になった気分。なんで俺だけ働いてんだ、って」と 甲斐。

 「今回は「夏の轍」からは1、2曲のつもりだったんだけど。ツアーやってる うちに、どんどんやりたくなって」 
 なるほど。それで、日替わりのところで、新曲を歌ってくれるようになった のか。 
 「毎日同じ曲をやってるわけではなくて。「荒野をくだって」とか」 
 「おおーっ」と、どよめきが起こる。 
 「すごく暗い「地下室のメロディー」とか」 
 ここで一郎が笑う。その日の演奏を思い出したのだろう。 
 「あの曲はほんとはB1なのに、B3くらいだった」と甲斐が続ける。 
 「僕、急に、(その日どの曲をやるかを)言うんで。1時間前とかに」 
 すぐに一郎が大きな声で、「それなら早いですよ。8分前とか」 
 「一郎に言ったときは、10分くらい前だったか。一郎は僕と同じで逆境に 強いから、直前にいきなり言うんだ。前野君も強いよね」 
 「強いね」と一郎が同意する。 
 「って、しみじみ語ってても、なんなんで」と、今からやる曲の紹介へ。

 「一郎の曲を。最初にできてきて、これは絶対にいい詞つけたい、と。それで、 あがったのは結局、いちばん最後で。本人は今回は入らないんじゃないかと、 思ってたと思うんだけど。本人のスタジオで録ったギターを、そのまま使ったという。 何というレコーディングだ。だって、よかったんだもん」 
 それから、「いろいろやったけど、結局いちばん最初のがよかったじゃん、 っていう、「フェアリー」みたいなこともあって」と、裏話を披露。 
 一郎が吹き出す。 
 「そんな20年前の話を」と、甲斐も笑った。

 「VIOLET SKY」 
 甲斐は今夜は、あまり曲にとらわれずに、想いをぶつけるように自由に ハーモニカを吹く。 
 一郎のギターは激しく。 
 甲斐が書いた「いい詞」、誰もに伝わったことやろう。

 一郎に代わって、3人登場。 
 左から、坂井ノリオ、前野選手、甲斐、松藤、と並んですわる。ノリオは もちろんベース、前野選手はアコーディオン、松藤はアコースティックギター。 
 甲斐がメンバーを紹介していく。 
 「アコーディオン横森良造です」 
 僕はすかさず、「前野!」と叫んだ。彦根の分を言うことができたな。 
 坂井ノリオのことは、「太ったいかりや長介です」と紹介。 
 ノリオが何か言う。 
 「誰なんだよ!」と、甲斐たちがウケる。 
 松藤の紹介は、「殿堂入りした桂枝雀です」 
 どう反応していいか困る松藤。 
 それを見て笑っていた甲斐が、「殿堂入りしたんだよ」と言っといて、 「死なないと入れないんだけどね」とオトす。 
 ノリオがめっちゃウケる。 
 甲斐はよろこんで、「ツボ入った?何がうれしいって、坂井君にウケるのが いちばんうれしい」

 「昨日この近くで5時まで飲んでて。そのままホール入ろうかと思った。ホテル 帰ると、めちゃめちゃ遠いじゃない?俺、何やってるんだろう、って思って」

 それから、出身地の話をする。このツアーのメンバーの中に、「九州VS北海道」 の構図ができているという。 
 「バンドは九州。坂井君と佐藤英二は、北海道。前野君は東京人なんだけど、 親から離れて北海道の大学に8年?」 
 前野選手が「10年」と訂正する。 
 「えっ!」と驚く甲斐。あらためて「北海道かぶれ」と紹介する。 
 「JAH-RAHと、マネージャーのコザキは名古屋」と言いつつ、 「どっち?」と左ソデを覗いて、その姿を探す。

 こういうフリに続いて、「松藤の曲を。ご当地ソング」と、小さな声で。

 「矢場町あたりの」 
 たしか、そううたい始めたように聴こえた。 
 「Jasmin again」 
 新しいアルバムの中でも、特に好きな曲や。ついに聴くことができた! 
 松藤の方にマイクスタンドを傾け、「異邦人」とハモる。 
 歌声と作品世界にひたって聴き入る。 
 と、1番の終わりで、一郎が小さなビデオカメラを手に、撮影をしながら 左から登場。至近距離の下からメンバーを撮り、4人の後ろを通って右へ。そして、 左ソデへと戻っていった。 
 たしかに、こういうの、ライヴハウスならではやろう。舞台上から撮影した 貴重な映像として、のちに発表されることになるのかもしれない。それにしても、 これがなかった方が集中して「Jasmin again」にひたれたのでは、という 感は否めない。静かで、独特の雰囲気がある歌やもんなあ。 
 僕は一郎の方は見ず、ひたすら甲斐だけに視線をよせた。その声やうたい方と いった、ニュアンスを聴きのがすまいとした。 
 「しあわせじゃなきゃ、もう死んでてくれ」 
 甲斐が声をあげ、間奏が高まる。詞の情感が伝わってくる。 
 「ジャズマン」というコーラスが響いた。 
 会場が完全に、「Jasmin again」の世界と化した。

 拍手を浴びて、松藤が去った。 
 ステージには、甲斐とノリオと前野選手が残る。イスは片づけられ、前野選手は キーボードに。ノリオも後ろの定位置につく。甲斐はアコースティックギターを手に、 マイクスタンドの前に立っている。 
 高い前奏から。 
 「STARS」 
 NHKホール以来、聴けるのは2回目や。あのときはベースあったかなあ。 全く意識になかった。 
 甲斐は2番で「流せる涙 すべて流した」とうたい、その後歌詞をトバして しまう。「幾千万の 死んだ星のした」から、ふたたびうたい始める。 
 3番でもう一度、「流せる涙 すべて流した」とうたい直す。 
 短い間隔でサビへ入る。壮大なバラードが上がっていく。 
 曲が終わって、甲斐は後ろへ行く。ノリオに「失敗しちまった」というふうな ことを告げているようだ。ノリオがそれに目で答える。

 甲斐がマイクスタンドに近づいてくる。 
 「大森信和を」 
 やった!やっぱり今日は出てくれるんや!誰もが大歓声で迎え入れる。 
 大森さんはスーツではなく、青いジージャン系の上着。深々と一礼をする。 
 「安奈」 
 早くも2番から、客席に「安奈」とうたわせてくれる。 
 今日は甲斐のハーモニカが多かった。

 「裏切りの街角」 
 英二のアコギが印象的だ。今夜のこの曲では、僕はみんなと声を合わせる気持ち にはならなかった。ひたすら、甲斐のうたを聴く。蒼い少年の痛みが刺さる。 
 最後の演奏がゆっくりになる。甲斐の声だけがそこに残った。

 甲斐は銀のジャケットを受け取る。 
 「LADY」 
 詞が次々と胸に迫る。 
 「人はいつも僕を嘲って」 
 「だけど心の 中のアンブレラ もう たたんでも いいんだろ?」 
 「僕のてのひらは とても小さ すぎるけど」 
 泣ける。そして、つよい決意へとつながってゆく。

 「嵐の季節」 
 いつもよりひとまわり早く、甲斐がバンドの演奏を静める。マイクで左右の メンバーに指示。その後は、指で意思を伝えていく。オーディエンスの大合唱。拳。 甲斐はステージを動き、シャウトし、観客のエネルギーを受けとめようとしている ようなアクション。表情。一郎がマイクの外で「ラララ」と叫び、「ギャーン!」と 下からギターをかきあげて、音へ! 
 すごい。今、生の迫力を体感してる。

 「氷のくちびる」 
 「悲しき恋の」と歌い始めて、歌詞がトぶ。甲斐が客席にアピールして、みんな が歌う。それから、甲斐と声を重ねる。 
 激しいプレイ。甲斐はギターを弾きながら後ろへ。松藤はマイクをどけて、 叩きまくる。甲斐はギターを縦にして、叩きつけるように殴りあげるように弾く。 そして、あのフィニッシュ。

 「翼あるもの」 
 ドラムスの台へ上がった甲斐は、シャツをずらす。飛び下りて、走る。 僕のすぐそばまでやって来る! 
 曲が静かになった後のアクション。腕を下げてから、翼のように広げる。 肘をぶつけるようにして、強い勢いで後ろへ振り向く。と、同時に曲が終わる。 
 すぐに「漂泊者(アウトロー)」のギターがうなる。僕は跳ぶ!跳ぶ!周りの やつらも跳んでいる。 
 甲斐はタオルを投げ、シャツを脱ぎ捨てる。右端最前列へ行き、マイクを客席へ 突き出してるようだが、間に多くのファンの身体が揺れていて、よく見えない。 歌いながらステージのいちばん前を通って、甲斐が来る!左端で足を止め、 「長く暑い夜の海を」は、そこへしゃがみ込んで歌う。おおお!すぐ右前に甲斐が いる! 
 歌い終えた甲斐は、立てた親指で自分の背後を指し、一郎に「前へ出ろ」と 示して、ステージ左へと消えて行った。

 大きなKAIコールが続く。 
 メンバーが戻ってくる。ライトは当たってないけれど、よく見える。 手を振ってくれる。 
 甲斐は一度出て来かけて、一旦ソデへ。すぐに姿を見せる。 
 マイクスタンド。テープ。拍手、から手拍子。 
 松藤が何か振ってる。向かい合ったノリオも同じ動き。最後に物を渡していた。 
 「破れたハートを売り物に」 
 英二が気合いの入った顔。穏やかな人というイメージだったが、今はたくま しい。 
 2番。甲斐と松藤が歌うところで、英二が二人の後ろを通って一郎のもとへ 行く。何か話して、笑ってる。 
 大森さんのギター。「破れたハート」で聴けたのは、初日の広島以来やなあ。 英二と一郎も、持ってないギターを弾くポーズ。その表情が実にいいのだ。

 メンバー紹介。 
 JAH-RAHは指を組む。スティックをまわす。 
 坂井選手のとき、僕は「坂井ーっ!」と叫んだ。この夏を通して、すっかり お気に入りなのだ。今日はステージが狭いから、左奥で弾いてても、距離が近くて うれしかった。 
 フルメンバーの紹介は、今日は一郎、大森さんと続いた。松藤を最後にとって おいたのだ。 
 松藤は音を三つ鳴らしてから、前へ出てスティックを投げ入れる。客席のかなり 前の方に届いた。 
 甲斐が驚く。「今、見てなかったんだけど、あそこまでしか行かない コントロールってある?どこか当たってはね返ったわけじゃないよね?」 
 一郎が「スティックのフォークボール」と評す。 
 「1回忘れた日があって、あれよりいいけど」と笑う甲斐。

 甲斐が合図して、松藤のドラム。 
 「HERO」 
 「タン タ タン」という手拍子と「タンタンタンタン」の手拍子が交差 してる。「H」「E」「R」「O」の紙を掲げるファンもいる。ヒットしたうんぬんに 関わらず、いい曲なのだ。 
 大森さんが左上からギターを叩きつけるアクションで、フィニッシュ!

 2回目のアンコール。 
 「今日はみんな、こんなに来てくれて、感謝してる。サンキュー」 
 「毎年アルバム出すのは無理だとしても、ゆっくりと長いスタンスで、 やっていきたいなあと」 
 「来年アルバム出ないのは確実でしょう」と笑う。「今日終わったら、松藤が 3か月くらい寝込みそうな気がする」

 「100万$ナイト」 
 甲斐の黒いTシャツの、首まわりが切って開いてあるのが見えた。襟のように 少し立っている。こうしておかないと、とても暑いのだろう。2番が終わるとそれも 脱ぎ、タンクトップになる。 
 かすれた甲斐の声がひびく。大森さんのギター。 
 客席の上にあったミラーボールがまわる。それを横から見る形で、走る光の 球もいつもとちがって感じられる。 
 声をあげる甲斐は、左手でマイクの上方を握り、右手はその上。親指を支え、 人差し指は左手の上に。また、手の位置を変え、左手を上にし、右手でマイクスタンド を持つ。身体を前後に激しくゆする。声を振り絞る。祈るように両手をマイクの上で 組む。曲が終わる瞬間は、動きを止めて、うつむいていた。

 ツアーの全ての曲が終わり、ステージに明かりが戻る。 
 坂井選手が万感の想いでどこかを見上げている。目が潤んでいるようにさえ 見える。 
 全員が肩を組む。オーディエンスに挨拶だ。 
 今日はライヴの間じゅう、メンバーみんな楽しそうやったなあ。マイクの外でも 曲をくちずさんでるのが直に聴こえて、感激やった。 
 甲斐はタンクトップをめくり上げる。JAH-RAHが先に毛のついた スティックを客席に投げ入れた。 
 メンバーのいちばん左、近くにいる坂井ノリオに、僕は「ノリオーっ!」と 叫んで、思わず手を振る。下の名前で呼んだのは、「坂井ーっ!」と叫んだら、 「甲斐ーっ!」の歓声にかき消されそうやったからだ。 
 ノリオはこっちを見てくれる。 
 ステージ奥に下がった後、もう1度「ノリオーっ!」と叫ぶ。 
 わかってるというふうに、目でうなづいてくれた。 
 長くファンの歓呼に応えてくれたメンバーが、やがて行く。 
 僕はもちろん最後に目一杯、「甲斐ーっ!」と叫んだ。

 「アナログ レザー」が流れてくる。 
 この曲から始まって、この曲で終わる。甲斐バンドが完全復活した 「BEATNIK TOUR 2001」を象徴する歌やなあ。思い出の曲になった。 
 手元に残った甲斐バンドうちわ。よくあるうちわに見えるかもしれへんけど、 今日このライヴに参加した証し。俺には大切なものや。 
 肌色のライトだけをつけた、シンプルな姿でいるステージ。何度も振り返った。 また、ツアーに戻ってくるぞ!ほら、甲斐の声も、「戻って来いよ」と歌ってる。

 

2001年7月24日 クラブ・ダイアモンドホール

 

アナログ レザー 
ちんぴら 
ダイナマイトが150屯 
きんぽうげ 
フェアリー(完全犯罪) 
眩暈のSummer Breeze 
シーズン 
ナイト ウェイヴ 
ビューティフル エネルギー 
BLUE LETTER 
テレフォン ノイローゼ 
VIOLET SKY 
Jasmin again 
STARS 
安奈 
裏切りの街角 
LADY 
嵐の季節 
氷のくちびる 
翼あるもの 
漂泊者(アウトロー

 

破れたハートを売り物に 
HERO

 

100万$ナイト