CRY

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甲斐よしひろ ROCKUMENT IV -HOME COMING-

1998年3月14日(土) パワーステーション

紺に近い青紫のライトが、いつもの虹色に変わる。 
スクリーンにメンバーの姿。一光とメッケンがいない。ドラマーはどこかで見た 覚えがある。 
通路の途中で甲斐はメンバーを先に行かせる。黒のジャケットに黒のパンツ。 シャツは黒に白の水玉。「ラヴ マイナス ゼロ」の頃を思い出す。 
「ウィークエンド ララバイ」を思わせるキーボードから。甲斐がハーモニカを吹く。 「BLUE LETTER」か?しかしハーモニカの音色に聴き入って行くと、ラヴ マイナス ゼロ ツアー以来久々の「荒野をくだって」だとわかる。 
僕がツアーに通い始めた84年頃にはステージ中盤でかならずうたわれていた バラード。ついにやってくれた。「家にかえる」というROCKUMENT IVのテーマにも そっている。 
かつてのようにタイミングを遅らせて「西へ・・・」とはうたわない。「街ざかいの ハイウェイをにしーへー」とうたう。静かなアレンジに2番のサビから遠い太鼓のような ドラムが入る。 
痛い。胸に突き刺さる。うちのめされた。

「射程距離」のようなイントロ。しかしこれもちがった。 
「MIDNIGHT」 
今年こそやってくれた。HOME COMINGやからなあ。FIVEの府中以来。 ヤッチのアコギがメインだったあのときのアレンジともまったくちがう。 
今年の1・2曲目もやっぱりすごかった。ROCKUMENTのオープニングは毎回 そうなのだ。

「HOME」というキーワードにひっかけて、人に書いた曲をやるというMC。 続く4曲の紹介がされる。 
激しいイントロで、まずは葛城哲哉に書いた「ナイト スウィート」。 
深夜、マラソンに出かける男の頭の中をめぐる思いを歌う。 ラジオで聴いたことがあったけど、さらに激しくなっている。 甲斐はマイクスタンドの上に両手を重ね、自分の方へ斜めに倒しながら歌ったり、 歩きまわったり。

中島みゆきの「仮面」。 
詞を変えて男からの視線で歌う。僕は詞を聴き取ろうと集中していた。

キーボード前野さんの高い声から入り、ゆったりめのレゲエのリズムへ。 
「ランデヴー」 
有吉じゅんに渡した方だ。10代に書いた曲で、詞はやはり「らいむらいと」に 近い。 
サンストでかかったことがあった。有吉ヴァージョンのエンディングには最後まで 反対したと言うてたなあ。今回はもちろん全然ちがうアレンジだ。太い男の声で 「ランデヴー」という妙なコーラスが入ることはない。

出だしは甲斐ひとりで静かにゆっくりと。ライトが明るくなると同時にリズムが刻まれだす。 
「見えないてのひらで」 
いつかアルバムに入れて欲しいと思っていた名曲。詞に家庭的な部分がある からむずかしいのかなという気がしててんけど、この様子なら「HOME COMING」に 入りそうや。発表当時、時任三郎のCDも探してんけど手に入れられなかった。

4曲が終わると甲斐が「歌えないだろう」と笑う。「(甲斐バンドでやった2月の)福岡は 歌いすぎだったからね」 
「みんなが知らない曲は詞をちゃんと伝えたい」と、客席が歌えない曲をやるときの 気持ちを述べる。 
「中盤歌えるのやるから」で客がよろこぶ。「そのときは歌えよ。序盤の後遺症 で歌えない、なんてことのないように」

「霧雨の舗道」 
加山雄三のカヴァー。これもいい。 
これが収録されたトリビュートアルバムが発売されたのは去年だが、 「去年はやりたい気にならなかった」からうたわなかったということだ。 こういうこだわりが好きや。

「去年の雪辱戦を。そう言うと去年思うようにいかなかったのかということになるけど、 そうだ」 
「あーかーいー靴でー おーどーるうようにー」と最初にうたう、ROCKUMENT III ともまたちがった「赤い靴のバレリーナ」。 
「優しい気持ちを初めて知った」「それとも優しくしかられるのかな」と語尾を 変えてうたっていた。

ここでゲスト。「実は昔から知ってる」元プリプリのギタリスト中山加奈子登場。 
「会ってすぐ、ロックンロールをやろう!と。続けるからね」 
始まったのは何と、生で初めて聴く「フィンガー」やった。 アルバムよりやや速い感じで、ギターを効かせた「フィンガー」。客席が一気にノる。 
もうステージでやることはないんかなと思っていたのだが。ほんとうに甲斐は 自分が書いた全ての曲を愛してるんやなとあらためて感じる。

続いてまた驚かされる。 
「特効薬」 
好きやってんけど、ついに聴けた!すごいロックンロールになってて、僕はもう キレたね。甲斐もマイクスタンド高く持ち上げたときに映写装置にぶち当てそうに なるし。大騒ぎの華やかなショウという雰囲気。

ところがこれでもまだ終わらない。中山加奈子のリクエストで「これをROCKUMENT でやるか?このスケールの曲を。リハ3回やったら倒れる」という曲をやるという。 
衝撃のイントロ。甲斐が「TORIKO」のレコーディングで何回となく聴き込んだ というあの音。「ブライトン ロック」! 
オリジナルに近い。燃えた。2番は中山が歌う。「この涙」を「痛み」と歌った以外 は歌詞完璧。ラスト、甲斐は「ブライトン ロック、答はどこだっ」と繰り返す。 この歌い方は初めて。よけいに燃えた。熱狂の中で甲斐と、みんなと「ブライトン ロック」 を歌いながら「俺はこれを聴くために生きているんだ」と感じた。強力な充実感やった。

大嵐のような3曲が過ぎ去り、中山がステージを後にする。 
小室のダンス系を連想させる音。何が始まるのか全くわからない。 それを突き破って「野獣」アルバムヴァージョンのイントロが出現。また大騒ぎになる。 
バンド解散以後「野獣」をやるときは、12インチテイクが多かったが、今夜は これでなくちゃ!という気がした。骨太なビートだ。

ここで「パートナー」。この曲大好きなのだ。 
去年のツアーでは、キーボードレスの会場は甲斐が自分で「パートナー」と歌って たけど、今日はその部分を客に歌わせてくれる。僕はもちろんコーラスも何も全部 歌った。 
ジョージは間奏をCDどおり高い方で弾いてくれた。この方が燃える!

アルバム「パートナー」からの連打「LOVE is NO.1」。 
この曲は絶対ライヴ向き。めちゃめちゃ大きい声で歌う。

さらに大合唱は続く。 
「ナイト ウェイヴ」 
「なーみに おちーてく ふたつのこーのはー」からは静かな演奏になるが、甲斐 が腕を振って「歌ってもいいぜ」と示したので、こころおきなくみんなで歌う。

水色に近い青緑のライト。あのイントロにのせ「最後の曲になりました」 
「ラヴ マイナス ゼロ」 
感激や!2月の福岡行かれへんかったから、「ラヴ マイナス ゼロ」はストレート ライフツアーの京都以来。このアレンジでは、あのPARTY以来や。 
「ROCKUMENTⅣ サンキュー、じゃあね」 
このセリフでアンコールの間、感慨にふける。

甲斐が臙脂色のシャツで戻って来る。 
「もう1曲みんなで歌おう」 
「ドキ ドキ」 
いつものスクリーンがステージのうしろに降りてくる。「僕らは歯車?」「ハートが ドキドキ」「壁をくずせ」などCDで子供たちが歌っていた部分の詞が、スクリーンと場内 すべてのモニターに映し出される。子供たちの声とはまたちがった「ドキ ドキ」が 生まれた。

甲斐が黒いジャケットをはおる。イントロに歓声。 
「最後の夜汽車」 
昔に近いヴァージョン。「僕の街をー OH とおざかあるぅう」というところもあった。 
泣けた。僕の中で思い出されるあるシーンがあった。 
ここで終わっても充分納得、大満足のライヴだったが、甲斐はもう1度アンコール に応えてくれた。

甲斐はTシャツ姿。「明日は曲順が変わります。よすぎる!俺が緊迫しすぎる。変える」 と笑う。 
メンバー紹介に続くMC。 
「去年のROCKUMENT IIIはすごく消耗した」 
やはり過去のいろんなナンバーに今の息吹を吹き込み、隙間を多くしてうたうと いう作業はたいへんなのだろう。  
パワステがなくなったらROCKUMENTはどうするか。・・・多分なくなることは ないでしょう」との約束にみんなよろこぶ。 
「いろいろやりたい曲があったんだけど、これが1番やりたかったんじゃないか。 この曲順でいつかやろうと・・・」 
そう言ってはじめられたのは「CRY」。 
甲斐バンドから25年に及ぼうかという甲斐のキャリアの中で、僕が1番好きな曲。 去年のツアーではやってくれなかったけれど、ついに! 
泣ける。ただ呆然と甲斐の姿を見つめ、じっと「CRY」に聴き入る。

ぼろぼろにされた気分やった。歌がひとつひとつ胸をいためつけた。 
「荒野をくだって」にうちのめされ、「ブライトン ロック」で生きる力をあたえられ、 「最後の夜汽車」「CRY」と続くラスト2曲では棺桶に入れられ胸に杭でも打たれた ようだった。 
しかし、完全にとどめを刺されたことで、逆に力が湧いてきた。 ここ1年ずっと考えていたことがあったが、完全にふっきれた。 自分のためだけにがんばっていけばいい。自然にそう思えた。 明日からも俺は大丈夫だ、と思った。忘れられない夜になった。

 

1998年3月14日 パワーステーション

 

荒野をくだって 
MIDNIGHT 
ナイト スウィート 
仮面 
ランデヴー 
見えないてのひらで 
霧雨の舗道 
赤い靴のバレリーナ 
フィンガー 
特効薬 
ブライトン ロック 
野獣 
パートナー 
LOVE is NO.1 
ナイト ウェイヴ 
ラヴ マイナス ゼロ

 

ドキ ドキ 
最後の夜汽車

 

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