CRY

Twitterには長いやつ

甲斐よしひろ ALTERNATIVE STAR SET ”GUTS”

1996年3月23日(土) 神戸チキンジョージ

 甲斐が「やりたかった」という神戸。そして、僕にとっては、8本ずつ見た2月・3月の ツアー、最終日である。今日も1日2ステージ。5日間で5本見た四国を含め、土曜日から 土曜日までの8日で8本のライヴ。こんなに続けて行けるのは、最初で最後かもしれない。

 開場時間までに歩いた神戸の街には、まだまだ至るところに、震災の爪痕というやつ が残っている。1年前に来たときのことを思えば、かなりがんばっているけど、それでも、 あんなひどいことから立ち直るのは、並大抵のことではない。

 松山と同じく、1回目のみファンクラブ優先。中に入ると、意外なことにイスとテーブル があった。こんなスペースあるんやったら、オールスタンディングにすればいいのに。今日の チケットはすぐ売り切れて、見たいのに涙を飲んだ人たちがたくさんいるのだ。

 僕は真ん中、前から2つめのテーブルについた。 
 松山とは逆に、客席右後方から階段が通っている。ここの階段には壁があるので、 甲斐たちが降りて来る姿は見えない。 
 後のMCで言ってたけど、チキンジョージは楽屋からステージまでがめっちゃ遠い らしい。客席上の2階部分をずーっと通って来るようだ。

 今日も甲斐1人で登場。「らせん階段」から。 
 ジョージを加えて「テレフォン ノイローゼ」 
 そして、他のメンバーが入って来る。やっぱり松藤もいてる!バナナホールでのフリ どおりや。「今日のために駆けつけてくれた」と紹介された松藤にはもちろん、いちばん 大きな拍手が浴びせられた。

 1回目のMVPは「安奈」 
 みんなが聴く方にまわり、静かで、よかった! 
 静岡でやったあの3人ヴァージョンを除けば、最も静かで心に沁みる「安奈」やった。

 「スマイル」で、ちょっとしたハプニング。 
 ジョージだけでなく、松藤もキーボードのところにあるマイクでコーラスしているのに、 松藤の声が入らない。今日だけメンバーが増えたゆえのミスだったのか。

 「レディ イヴ」からの後半戦、アンコールも大騒ぎ。こんだけ盛りあがって、まだもう 1回見られる幸せ。

 2回目も超満員。 
 2月、名古屋ライヴの次の日に、寒い中を並んだだけあって、整理番号は31番。 真ん中1番前のテーブルをとることができた。 
 入り口付近で、例のやせたローディの兄ちゃんを見つけたので、「お兄さんがんばって ね」と声をかける。 
 いくら2回公演やからって、テーブルで思いっきり食事をとってる団体がいて、びっくり した。「持ち込み」なんていう生易しいもんじゃなかったぞ。

 「ダイナマイトが150屯」が口火を切る。 
 みんなの声がでかい!ものすごい熱気や。甲斐もよろこんでるみたい。 
 「絶対・愛」、「きんぽうげ」と来て、「時の人」でも一向に勢いはとまらない。拳あげ まくりやっちゅうねん。

 「スマイル」で、ようやく場が落ち着く。 
 松藤はキーボードをはなれて、ジョージといっしょに1つのマイクでコーラスしていた。

 「イス、あるじゃない。びっしり立ってて全然見えない」 
 イスとテーブルがあることに初めて気付いたような口ぶりで、前の客を座らせた。 後ろの方にぎゅうぎゅうづめで立っている人たちが大よろこび。 
 「ひとのことを首から上しかない、霊みたいに思ってただろ」 
 四国で客をすわらせた話もした。 
 「俺がルールブックだ」

 「1回目にやってない曲を・・・」 
 みんなめっちゃ沸いて、大拍手。 
 「甘いな。ということは、1回目にも今回やらない曲をやったっていうことだよ。裏を 読まなきゃ」 
 そう言っといてジョージを振り返り、 
 「(俺は客を)教育してる?」 
 ジョージは笑って、「してる」とうなずく。

 「やる曲も、気分によって変えていこうって感じで」 
 左に松藤、右にジョージを率いて、まずは「メタモルフォーゼ」 
 ジョージの演奏に、途中から松藤の音が重ねられていく。はずだった。ところが、 松藤のギターが聴こえない。松藤自身はもちろん、ジョージも気づいて、そっちの方を 見てる。けれど、左側のあのやせたローディは、そのことに気がついていない。次の曲の ため、アコースティック ギターのチューニングに没頭している。いつまでたってもわからない。 とうとう、右ソデの長髪にメガネのローディが、舞台の後ろを走って知らせに行った。

 うたい終えた甲斐は、厳しい顔つき。緊迫した空気が流れる。やせたローディから ギターを受け取るとき、何かひとことふたこと甲斐が言う。 
 MCは全くなし。すぐに演奏が始まった。曲を変えるような気分なんかじゃない。 
 「レッド シューター」 
 しかし、さすがに歌声はいつも通り。

 PARTYの大阪城ホール以来くせになっていて、僕はこういうとき、やたらと甲斐の 機嫌が気にかかる。 
 でも、関西初の「レッド シューター」が終わると、甲斐はもう、気分よくしゃべっていた。

 左前の女性ファンが、歌い出しで悲鳴をあげる。 
 「地下室のメロディー」 
 きっと思い入れがあるのだろう。

 「レディ イヴ」がはじまる前に、もうみんな立ってる。 
 「風の中の火のように」が来て、「ポップコーンをほおばって」。さらに「漂泊者 (アウトロー)」。そして、「HERO」 
 みんな歌いまくって、めちゃめちゃ盛りあがる。そのまま激しい甲斐コールへと 続いて行く。

 アンコールはMCからだった。 
 武道館の3日後に起こった、あの忌まわしい地震、そしてその後の被害について。 
 「苦しいときにどれだけふんばれるかでその人間の真価がわかる、という話は ほんとなんだけど、あれはもう、そういうのを越えてた」 
 お金や物資を送ることもした。後にある人から聞いた話では、甲斐はあのとき 事務所に出向いて、震災で亡くなった方々の名前と自分のファンクラブの会員名簿とを、 ひとつひとつ照らしあわせていったそうだ。 
 少しずつ復興しはじめた現在は、「神戸の街へ行って、お金を落とすっていうのが いちばん正しいと思うわけです。そのために自分ができるのは、行ってプレイすることしか ないんで」 
 そして、「よかったら、来年もまた来たい」と言ってくれた。客席もあたたかい拍手で 応える。 
 「僕らはコンサートをやって、少しの搾取をして、打ち上げでお金を落とす。あと、 熊五郎(甲斐たちが昼間行ったという近くのラーメン屋)とね」 
 最後は軽い笑いも交えた甲斐だったが、僕は、泣けて泣けてしかたなかった。僕で さえこうなのだから、被災した方たちの胸には、どれほどこの甲斐の言葉が響いたこと だろう。 
 甲斐はギターをかき鳴らす。しんみりした客席から目をそらすかのように、上向き かげん。怒っているように見開かれた両眼の光は、するどい。決然と歌う「らせん階段」 
 2か月にわたるツアーの初日。静岡でのツレの言葉を、今こそまさに痛感する。 本当に今の時代にあった詞や。「GUTS」のツアーで歌われるべき、新曲のカップリングにも ふさわしい、歌。つらくても希望を抱き、血を流しても立ちあがる。 
 僕は胸がつまって歌えない。けど、今、どうしても「人生なんてそんな風に  悪い旅じゃないはず」と歌いたくて、サビだけは小さいながらも声を出した。 
 曲が終わって、「甲斐いっ!」と叫んだが、ちょっと泣き声になっていた。他にも たくさん甲斐の名前を呼ぶ声が飛ぶ。

 メンバーが出て来る。松藤は、拍手をしながらの登場だ。 
 ここで「GUTS」。力強く。 
 腹の底から歌った。 
 甲斐たちが去るや、ものすごい甲斐コール。声をかぎりに。 
 甲斐がマイクスタンドの前に帰って来る。松藤はまた、客にむけて拍手をしながら。 「お前ら、すごいよ」と言ってくれてるようで、うれしい。 
 「破れたハートを売り物に」 
 手拍子がひとつになる。歌声もひとつに。気持ちもひとつになっていたはず。 
 甲斐が「サンキュー!」の言葉。 
 この3曲は完璧やった。「人生なんてそんな風に 悪い旅じゃないはず」「勝つことを 信じろ」「生きることを素晴らしいと思いたい」神戸での、希望の、うた。 
 甲斐たちが前に出て来る。右端のジョージだけが気づかずに、階段へ消えてしまう。 すぐに「ジョージ!ジョージッ!」と速いコールがわき起こる。帰って来たジョージ、メッケン、 一光、松藤、それに甲斐。全員が観客の声援に応え、最後のあいさつをしてくれる。 すごい拍手。 
 ステージ上にだれもいなくなっても、まだまだみんな興奮している。「次も絶対来よう!」 と叫ぶ女性ファンもいる。

 後に放送されたKiss-FMのライヴ中継によると、その頃、ライヴを終えたばかりの 楽屋で、甲斐は次のように語っていた。 
 「もうとにかく僕らは、パフォーマンスをやるのがメッセージだと、それ自体が メッセージだと思ってるんでね。 
 すごくいい歓声と、いいオーディエンス、という感じだったんで、非常に感激してます。 
 できれば、こういう形でまた来年も、是非来たいと思っています」

 1996年3月23日、神戸の2回目のライヴ。今夜のことは、甲斐ファンの間で後々 まで語り継がれて行くだろう。 
 この一夜に参加できたことを、僕は心からうれしく思う。 

 

1996年3月23日 神戸チキンジョージ

 

らせん階段   ダイナマイトが150屯
テレフォン ノイローゼ   絶対・愛
ブラッディ マリー   きんぽうげ
やせた女のブルース   時の人
地下室のメロディー   風吹く街角
破れたハートを売り物に   スマイル
橋の明かり   安奈
安奈   メタモルフォーゼ
スマイル   レッド シューター
レディ イヴ   地下室のメロディー
風吹く街角   レディ イヴ
風の中の火のように   風の中の火のように
ポップコーンをほおばって   ポップコーンをほおばって
漂泊者(アウトロー)   漂泊者(アウトロー
HERO   HERO
   
ダイナマイトが150屯   らせん階段
きんぽうげ   GUTS
   
 GUTS  破れたハートを売り物に