CRY

Twitterには長いやつ

甲斐よしひろ GUY BAND

1996年2月16日(金) バナナホール

 昨日取った予約番号というのは、実は引き換えとは関係なくて、早くならんだもん勝ち だった。夕方は仕事なので、ツレに急いでもらう。奴の分と2枚申し込んであるのだ。 
 7時すぎにバナナホールへ行くと、もうかなり人がいた。甲斐がメシを食いに行くところ を見たと言っている。軽快に走ってタクシーに乗ったそうだ。ここのホールは、出入り口が 1つしかない。 
 ツレからチケットを受け取り、列に並ぶ。相当長い行列ができている。僕は30番。 仕事が休みやったら、めちゃめちゃ前が取れたのに。でも、きっとこのツアーで1番近い 位置から見ることができるはずや。

 中に入る。きれいにならんで立っている訳ではないからはっきりしないが、だいたい 3列目がとれた。ど真ん中。 
 舞台にはイスが3つ。右端のだけ肘掛けがついてる。どうも妖しい。当然甲斐は 真ん中やと思っててんけど。よく見ると、右のイス前の床にKマークが貼ってある。もしかして 甲斐右なんか?

 ステージと客席は、すごく近い。丸い樽の半分が、客席の方に出っぱってるだけ。 パワステよりもずっと近いぞ!すぐそこで甲斐が歌うと思うと、興奮してくる。今夜はめっちゃ うれしいライヴや。たまには大阪でも、こういうことがあってええやん。

 驚きの歓声が後ろで。何と、甲斐が客席から登場したのだ!左の方を、客の間を 縫って進んで来る。何が起こっているのかわかって、声が噴き出す。 
 かつてバナナホールでは、一郎のソロ、ファーストライヴでこういうことがあった。 が、まさか甲斐が。 
 甲斐は左のソデへ入る。BGMは、ツアーのエンディングで流れているオペラ。 ギターとハーモニカの甲斐が再び登場。 
 ギターをひとつ鳴らし、「こぶしー」と歌ったところで「ヒューッ!!」とすごい反応。 
 「愛と呼ばれるもの」 
 アコースティック ヴァージョンのときはいつも「誓いも口づけもーぉ」と歌い、そこでは 声を張りあげない。

 「らせん階段」 
 「話すことなく僕はしゃべり」から「かけのぼって行く」まで、ささやくようにうたう。 泣き出しそうな声にも聞こえ、艶がある。女のひとたちが「甲斐の声に色気を感じる」という のはこういうことなのか、と初めて思った。

 「ここでメンバーを呼び出しましょう。ジョージ、拍手を。それから、新幹線で駆けつけた 松藤英男」 
 すごい歓声。松藤はベースを弾くようだ。 
 「今日はイベンターの許可も取って、大っぴらに酒飲みながらできるという。こういう やり方は、ホールではやりたくないんで」 
 今の「らせん階段」が「レディ イヴ」のカップリングになることについて。 
 「3枚目のアルバムの中からの曲が、ここになって出て行くというのは、いいなあという 感じがするわけです」 
 松藤が来てくれたことに大騒ぎする客席に向かって、「そんなんだからお前、人形を 道頓堀に落としたりすんだよ」

 ROCKUMENTの感動ふたたび。「新宿」 
 武藤さんがいないので、代わりにギターでジョージが「キューワ~ン」という音を出す。 
 最後の「ライリライリ・・・」は、松藤もコーラス。 
 静かで、あくまでもいい雰囲気。こんなに早く、また「新宿」を聴けるとは。

 「もう、なんでも言っちゃうんだけど」 
 MCがむっちゃ多い。舞台と客席がいい感じで、どんどんしゃべる。 
 「2人は生ギター少年で。福岡の僕らの世代で天才と言われてたのは、チューリップの 姫野達也という奴で。あいつは異常に生ギターが上手かったんだけど。姫野達也ができない とこがあって。姫野達也といっしょにバンド組んでた海援隊の千葉和臣の妹が、「私のクラス に、それ完璧にできるコいるよ」って言って、それが松藤だった」 
 松藤もときどき話に加わって、補足したりする。考えてみれば、ステージで松藤が しゃべるのを聞くのは、初めてや。甲斐バンドのコンサートでは話さんかったもんな。 
 「ジョージはフォーク少年。この顔でハーモニカホルダー」 
 ライヴの仕掛け人、イベンターのウエダ氏のことも。 
 「さんちゃんとか僕とか、自分が好きな人にはとことん営業かける。「ホールツアーの 翌日、バナナホール空いてます」再三口説かれた。初めは、「う~ん」ていう感じだったんだ けど。俺、やっぱり、「人間」がプレイしてるんだと思うのね。プレイが上手くても、人間の かかわりのなかで相性がよくないと、響かないわけで。ハーモニーが全然よくない。 練習はしてない。飲んでたんだ、ずっと。それがスゴいんだよね。信頼関係とかハーモニーと いうのは、そういうことで」 
 「さっきから各時代のいろんな曲やってるんですが、今日は甲斐バンドの初期の頃の が多くて」 
 拍手がわく。 
 「「新宿」という曲を大阪でうたうということじゃなくて。新宿というのは君たちの街に 置き換えてもらっていいわけです」

 「「ブラッディ マリー」という曲を」 
 みんな大よろこび。 
 この編成なので、ROCKUMENTともちょっとちがう。僕はこの曲では、手拍子 したくない。

 「めんどくさがり屋なんですよ。中学のときから、カニが嫌いだったんだよ」 
 皮むくのが嫌で、突き詰めると「ぶどうが嫌いだ」というところまで行き着いたという。 
 「皮むいて種出すのが嫌い。じゃあ、種なしぶどうは?いや、それは絶対イヤだ! それはもう、トラディショナルじゃないとダメ。本物のぶどうじゃないと困るんだけど。すいかは 大丈夫。食べながら種を口の中に集めてとばすっていうの凝ってたんで」

 「さっき十三へ行ってきた。ねぎ焼き食べに」 
 「やまもと」という、ねぎ焼きの元祖として有名な店のことや。 
 おお、甲斐が十三に!しかも「やまもと」に!? 
 僕は、甲斐が自分の好きなお好み焼き屋へ行ったことに、興奮してしまった。 
 でも、いっぱいやったから入らんかったとのこと。30分待ちぐらい、あそこではふつう やねんけどなあ。 
 客席からいろんな声が掛かり、 
 「やめよう、質問すんの、俺に。ほんっと、大阪人だけね」

 これも、アンプラグドでは、いつもと別の味わい。 
 「やせた女のブルース」 
 真ん中にすわっているジョージのプレイがシブい。見せ場たっぷり。甲斐も間奏で 「OH、ジョージ」 
 最後、「テーブルにすわって コーヒー飲みながら・・・」は繰り返さない。1回だけで、 そのまま静かに終わる。ここのギターのフィニッシュがまた印象的。ブルースのイい雰囲気。 
 「ジョージ。拍手を」

 「さすがだなあ。歌詞カード置いてても全然めくってない」 
 と、楽譜をぱらぱらやってた甲斐が、「ハハッ」と声をあげて笑う。 
 「いたずら書きするな、譜面に。まったくもう」 
 どうやら犯人は松藤のよう。ジョージと顔を見合わせて笑っている。

 美しいハーモニーを堪能。 
 「野生の馬」 
 甲斐の声が伸びて、ひろがって行く。 
 2番が終わると、甲斐のハーモニカ。「ラララ ラララ」のコーラス。 
 「やーせえーのうまさ・・・」4回繰り返して、おしまい。 
 会場じゅうが聴き惚れていた。

 「ひとの曲を今やって。ブレッド&バターという。岸部シローっていう人が昔、タイガース の後期にいたんですね。解散して、その後ブレッド&バターといっしょに組んで。「ブレッド& バターwithシロー」?」 
 甲斐が問いかけると、すかさず松藤が、「シローwithブレッド&バター」 
 「その最初のシングル。古い友だちで、幼稚園のときから知ってる田中一郎っていう 男がいまして。そいつの彼女が「やすえ」っていう名前で。何か、絶対、あれ「やすえの馬さ」 って言ってたよね?これをうたうと一郎がよろこぶんですね。 
 小学校6年生のとき、あいつは俺より1年下で小学校5年生で。放送部でさ。月曜の 朝礼か何かのときに、朝礼台の横で「あー、テステス・・・」ず~っと言ってる奴いるじゃん。 あいつ、20分ぐらい1人でね。もうほとんどテスト終わってんじゃないかという。6年生が、 何人か悪い奴が「あいつ、なぐる」っていう話になって、俺が間に入ってとめた記憶がある」

 「カバーが続きます。加藤和彦という有名な、ミカ バンドつくったり、我ら70年代、 僕らのジェネレーションの1番、スーパースター。非常にクリエイティヴで、やり口もすごい。 今、非常に過小評価されてるんで、僕は非常に残念なんですが。サディスティック ミカ  バンドという形でしか評価されてない。ほんとは本人がすごい。そういうのもあって、 アンソロジーみたいなのをつくりたいなあと。加藤和彦の。どうなるかわかんないけど。 彼と対談したりしながら、やりたいなあ、と。 
 日本人というのは、歴史を1回つくった人という部分の時には「わあーっ」っと行くんだ けど。日本人というのはおもしろくて、農耕民族だから、1年間のローテーションがちゃんと 決まってて、それが死ぬまで続けられてる人しか評価しないという。ひと時代つくったっていう ことに対しての敬意というのは、どっち側に向いて行くかというと、「いや、あの人はすたれて しまった」という方向にしか敏感に動いていかないという。 
 例えば、シンセでもそうなんだけど。あと、いろんなエフェクターがあるでしょ、ギター とか。そういうエフェクターも、日本人だけなんですね、どんどん捨ててくの。新しいのが 出たら、どんどん捨てていく。ところが、真空管とかで作ってすごくよかったエフェクターとか あったんだけど、それも全部捨てる。「ハヤリじゃない」と。そういう非常に悪い部分があって。 アメリカとかロンドンは、どこのスタジオ行っても、真空管エフェクターとかいっぱいあるわけ です。実は、フィル・コリンズとか、ロッドとか、ブライアン・アダムスとか、スプリングスティーン とかっていうのは、そういう部分があの声に乗っかって、あれだけ太いエコー感とかスケール 感とかっていうのができてるわけですね。 
 僕はそういう、この国の体質がイヤで、あるときボブ・クリアマウンテンという男と 組んで3枚つくって。もうどっかで、スタジオワークに関してだけなんですが、日本を捨てた っていうのがあって。10年間そういう感じでニューヨーク行ったり来たりしてたんですが、 やっと、日本人でやりたいなあという人が見つかって、ここ数年。そんなかで、もっとさらに こいつはいいなあ、という人間と組んで、ジョージと僕とつくったのが「GUTS」というアルバム なんですね。日本でミックスして、マスタリングはロスでやったんですが・・・」

 「加藤和彦の曲を。「ふしぎな日」」 
 松藤のギター。ジョージは「野生の馬」が終わった時点で、一旦舞台を降りている。 
 泣きそうな抒情性。 
 「果実は割れた 風の詩人は 星から星へ 旅を続ける」 
 という、「秋の日」の氏が1番好き。 
 「松藤英男」と甲斐がささやき、拍手が大きくなる。

 「知らないうちに昔の話になったりするじゃない。3人で飲んでて。そういう話になると、 ジョージは関係ないから、ものすごい怒るんだよね。おかしいでしょ?で、ジョージと俺が 今のプロジェクトの話につい、なってしまうじゃない。そうすると松藤が、知らない間に 「うーん」とか言って。何かねえ。僕は別に、2人がギターの話していただいても全然平気 なんですが」

 「博多に、夕方の4時半ぐらい過ぎると、とにかく死ぬほど混む交差点がありまして。 東から市内に入るときの入り口みたいになってて。そういうところを見て歌にするとは 思わなかったな、という。これは、10代にある種、軽いカルチャーショックを受けて。歌って いうのはどこからでも切り取れるんだな、という。それはやっぱり、切り取って創るっていう 行為の裏には、すごく切実な気持ちとか思いがないとダメなわけで」

 松藤が強めのストローク。静かになってから歌へ。 
 「ダブル イニシアチブ」で、「あれはばかげた嘘」とうたっていたところを、今日は オリジナル通り、「さみしい嘘」とうたう。 
 「ちどりばーし じゅうたいー」は2人でハモる。松藤のギターも、この部分を強調。 
 間奏で「アアアアアアアアーア」とコーラス。2番の後にも。 
 CDほど静かでなく、後奏が短い「千鳥橋渋滞」。これも、いい。 
 「松藤英男、拍手を」 
 拍手を浴びて、松藤が去る。ステージには甲斐1人。

 「バナナホール。よく前を通って飲み屋に行ってたんですが。まさかやることになるとは」

 甲斐がギターで細かいリズムを刻む。 
 「見慣れなーい 服を着た」とうたい出すと、大歓声。意外やったもんなあ。 
 昔サウンドストリートに、「たまたまいたから」と、大沢誉志幸を出したことがあったけど。 ちょうどこの曲の頃。 
 「ひとつ残らず 君を」「もうすぐ雨の ハイウェイ」の「君を」や「ハイウェイ」では、 声を張り上げず、静かに抑え気味。淡々とうたう声から、想いが伝わってくる。 
 「窓を 曇らせたのは なぜー」伸ばした声が悲しげにかすれる。 
 「トゥトゥトゥトゥ・・・」とうたう。演奏がはじめのリズムに戻る。

 オリジナルとは異なったうたい方で、曲や詞の魅力が引き出されている。 「時の過ぎゆくままに」にも同様の部分があった。 
 ステージで披露するのは初めてやろうけど、めちゃめちゃよかった。客も大きな拍手と 歓声で応える。 
 この前FM大阪で大沢の名前を出したのは、フリだったのか? 
 「2日前の広島で、3軒目の飲み屋にカラオケがあったんで、練習してしまった」

 「ポスター カラー」を弾き始めて、やめる。 
 「ちょっと、ライトを明るく。あまり急いで曲に行くこともないでしょう」

 「高校1年の終わり。春休みか、2年になる前の。地元の放送局でラジオ番組に出て 3曲歌って。その帰りに勢いがついてて。照和っていうライヴハウスがあるんだけど。 行って、オーディションいきなりなって。じゃあその翌日から来て、って話になって、歌うように なった。 
 1年間そこで歌ってて。当時は、CCRとかニューエイジ カントリー、そういうカバー ばっかりやって。むずかしいのばっかりやってたんだ。だから女の子に全然人気なくて。 地下にあるから、ステージ終わって控え室行くときに客席の横通って行かなくちゃいけない。 そうすると、「おう、甲斐、よかったぜ」って、ヒゲづらの予備校生みたいなのばっかり」

 「10代の頃っていうのは、思いっきり冒険というか、基本的に自分側に主体を置かない というか。自分はもう、ないものだと思って、世間に何でもぶつかって行く。というのを、20代 の中盤まで貫いてたんで、当然それはトンガってたことになって見えるんでしょうが。自分を わざとつくらない、というか、人権はあるんだけど人格はまだまだだというのが前提でね。 てめえのガキにも言うんですが、人権はあるけど、人格っていうのは自分でつくるわけでね。 だから、女の子に生まれてきたからといって、女になるかどうかは自分で磨かないとダメな わけで」

 「昔さ、ギターケースっていうの持って歩くの、すごいイヤでですね。アマチュアの頃から そうだったわけね。すごい自分の好きなことは極端にやってるんだけど、あとは何か非常に こう、モロく見えるらしくて。いつもいつの間にかギターを持ってくれる人がいて。弦を換えて くれる人がいて。いつもハーモニカなくすと見つけてくれる人がいて。そのうちの2つは、 田中一郎なんですが。 
 俺、19くらいから弦換えたことないもんね。そんなのダメなんだよ、プロでね。22年 ぐらいやってるけど。24年間自分で弦換えたことないから、自分で弦換えられないんじゃない かな。チューニングメーター使えないでしょ、俺。自慢じゃないけど。今年ね、覚えようかなあ、 と思ってるんだ(笑)。 
 ギターケース持つのすごいイヤで。学校にギターを持って来てジャンジャラジャンジャラ 鳴らして歌うとかってやついるだろ?ああいうの、ものすご憎んでたわけよ。なのにもかか わらず、小林よしのりのマンガでは、いつもギターを鳴らして歌ってたとなってるわけですが。 あれはちがいますから。マンガなんで誇張して持って行かないといけないんで」

 博多の路面電車のエピソード。 
 リーゼントでつっぱってる奴が乗って来てみんなにけむたがられていたが、すごく 揺れる所でそいつの吊り輪がとれてしまった、という話。 
 これはウケた。すごい展開や。 
 「俺、吊り輪とれたの初めて見たもん」 
 そいつは前までごろごろ転がって行き、電車の客は大爆笑。そいつ、はずかしいから 思わず死んだふり。次の駅でこそこそ降りて行ったが、グリースべたべたの後頭部は 埃まみれ・・・。 
 「これねえ、19のときやってたネタ。照和で。いいでしょ?あそこね、お客がかわる から、ちゃんとネタやんないとダメなんだ」

 久々の「ポスター カラー」。古井戸の名曲。 
 詞がいい! 
 「気が向いた時でいいから、手紙、書いてね」というところが1番好き。

 「ここで、ジョージを・・・」 
 「多分、僕は毎日ちがう変化っていう・・・情感の移り変わりがないと、どういうわけか 生きて行かれない」 
 ジョージのことを、「この人はまさにそういう人で。非常にLIVEなんだね。レアで。 とにかく、状況状況、一瞬一瞬が生の、レアで、本物じゃないと嫌だという。 
 こないだFM大阪で特番を、東京で録ったんだけど。何か予定調和な質問をすると、 ノらないわけですね。それでいきなり全然ちがう、破綻するような質問をすると、「エーッ、 エーッ」と言いながら嬉々としてよろこぶ」

 「大阪っていうのはすごく面白いな、って思うのは、何でも本気だったら一応OKだ、と。 競争だ、闘いだ、というところがベーシックな部分にありまして。あるときには負ける。摩擦が 好きだ。こういう芸風が功を奏したのか、日本で1番最初に甲斐バンドに火がついたのは 大阪だったんですね。 
 摩擦こそ熱なんだ、という考え方は僕すごく正しいと思ってて。東京人はそんなのない ようだけど、実は東京人にもあるわけですね。これ程矢面に出さないけどね。 
 通天閣の近くなんか行くと、大阪はもう、「摩擦こそ熱だ!」。安く物を売って、口上を 述べている人がいるじゃない。あそこに1日3回立ってたことがあって。パターンが知りたくて」

 「東京人のジョージが」奏でる「橋の明かり」 
 松藤が加わり、すぐに「裏切りの街角」 
 ジョージのギターがおぼつかない。1番途中から、甲斐の合図で合唱に。松藤の コーラスもかぶさる。

 ジョージに向かって、「そう来たか・・・そう来たかときたもんだー レッド レッド  シューター」 
 このフレーズは甲斐のお気に入りなのか。広島からずっと言ってる。

 「「少年の蒼」っていうベスト出した途端に、「なんで「ポップコーン・・・」入ってないんで すか」っていう人がいて。しかも日増しにふえてまして、「そうですか。あの頃そんなにいいって 言ってくれた人がたくさんいたかな」っていう」

 肘掛け椅子にもたれかかった甲斐が、イントロで「イェー」 
 「メタモルフォーゼ」

 「この男がですね、松藤・・・。3月からアンプラグドっぽいやつをやるわけですね。で、 スモールパッケージ・・・これぐらいのキャパのやつをやることになんのかな。僕はそういう スタイルもやりたかったし、神戸でどうしてもやりたくて。 
 とにかくほら、神戸っていうのは今、物資を送ったって職員がちゃんとやってないから、 どうしていいかわかんないわけだよね。腐ってはいないんだろうけど。倉庫代が嵩むばっかり とか、訳わかんない悪循環になってて。だから1番いいのは神戸に行って、金をおとすって いうのが1番正しいと思うわけですね。それなりには整い始めてるみたいなんで。 
 そういうのもあったんで、てめえにできるのは何か、という感じで。プレイすることかな。 
 最初は、お金とかいろいろ送ったわけですが。物資とか。次にできるのはプレイしか ないんでね。 
 いろいろまわって。関西は、京都と神戸。これは売り切れたのかな。売り切れてたら ごめん」 
 「なかったー」と女性ファン。京都と、神戸の2回は全部売り切れたらしい。 
 「松藤が、ものすごい、これに来たがってて」 
 「ヒューッ!!」と大歓声。 
 「今夜も打ち上げでその話になるんでしょうが」 
 すると、松藤が、「ギャラいいよ、俺」 
 さらに「ヒューッ!!」の声。 
 「失敗した。ここで言わなきゃよかった」と甲斐。でも、顔がよろこんでる。はじめから そうしたかったんやろう。 
 甲斐の神戸への想いが聞けて、感激。みんなからも、あたたかい拍手。 
 震災以来、ずっと神戸でライヴをしてほしいと思っていたが、甲斐本人が1番そう 感じていたのだろう。 
 甲斐はいつも、ファンの願いより先を走っている。

 「ザカザーン」と、ギターの一撃。 
 「風吹く街角」 
 甲斐は「痛すぎる闇の奥へと ハ・ハ」と歌う。 
 乾いたストロークと、ワ~ンという響き。2つの演奏が絶妙にあわさっている。いつも とは全然ちがった印象。何でもないような、ちょっとした部分までが新鮮やった。格好良い よなあ。

 これがすごかった。 
 「風の中の火のように」 
 客の歌声がだんだん大きくなり、2番の途中から大合唱。 
 「ララララ」のところでは、客たちが一体となって気持ちもこもった最高のコーラス。 
 甲斐は途中からは客たちにまかせて、自分は「Hey!」とか掛け声を飛ばしている。 終わると「サンキュー」 
 間奏に入り、客席が少し落ち着きかけた。ところが、甲斐が演奏を遮って「なぜ みんーなー」と歌い始めるではないか。すぐに客たちも歌い出し、また大合唱に。 
 これは本当にアドリブやった。ジョージと松藤も、機敏に切り換える。 
 まさに、ライヴ!あらかじめ決められたことよりも、その場の空気と、その瞬間の衝動 を重んじたのだ。僕はこういうのが大好きや。音楽の魅力。ほんまに最高やった。

 もうこのあたりではMCは、ない。 
 「漂泊者(アウトロー)」 
 「風の中の火のように」の勢いをかって、大合唱。 
 「だれか俺に」から「やりきれないさ」まで、最後のサビは全部客に歌わせる。

 「えー、今夜はほんとにこんな勝手な催し物に来て頂きまして、ほんとにありがとう ございました」 
 「いよいよ最後の曲になったわけですね」 
 「エーッ」「もっとやってー」の騒ぎ。 
 「最後はもう、この曲しかないんで。みんなでパーッと」

 はじめはギター1本。メロディー2まわりめから増えていつも通りに。 
 「破れたハートを売り物に」 
 これももちろん大合唱。

 「ありがとうー」甲斐が大きな声で言い残して行く。 
 すぐに速くて大きな手拍子が起こる。

 「今夜はほんとに、ウエダの勝手なアイディアで。ここに来た人は幸運だということに なってるらしいですけど。昨日11時から電話予約だったんでしょ?」 
 みんな思わずうなずく。「がんばったよー」の声も。 
 「混乱が起きないかどうかいろいろ気になってたんですが。無事に、そういうのもなくて、 よかった」 
 客がいちいちすごく反応するので、「くそー、だんだんハラ立ってきた」 
 そう言いつつ、思いっきり笑顔。客も笑う。場がすごい、和やか。 
 「何を言いたかったかというと、非常にみなさんに感謝してると」 
 「ヒューッ!!」の歓声だらけ。大拍手。 
 「こういうことはやるんだけど企画倒れになったりとか、事故があったりとかいろいろ あってね。つまんないことになるのも嫌なんで。 
 すごく今夜はほんとに、こういうふうにできてよかったなあ、と思ってます。このホール のオーナーも含めてですね、感謝したいなと。どうもありがとう」

 「テレフォン ノイローゼ」 
 大きな手拍子で、また会場がひとつになる。当然、大合唱。

 「もう1度紹介を。松藤英男、拍手を!リードギター鎌田ジョージ、OH YEAH!」

 「1年に1回やるはずだったんだけど。なんかこのところ味をしめてて。もう、最後」 
 激しい「エーッ!!」の洪水。 
 「このバンド、キャリア浅いからさ。レパートリー、広くないんだ」

 僕には、Singer以来2回目の「バス通り」 
 武道館の感傷、ひとかけらもなく。明るく。みんなで声を合わせて。手拍子にのせて。 
 合唱の声、大きすぎもせず。いい感じ。

 「エーイ」と声をあげ、甲斐が姿を消す。 
 手拍子が起きる。BGMに「レディ イヴ」が流され、曲にあわせて手拍子は続く。 そして合唱が始まる。 
 「本日は終了しました・・・」と言われようとも、歌い続ける。テープは途中で切られたが、 客の歌声は最後まで終わらなかった。

 

1996年2月16日(金) バナナホール

 

愛と呼ばれるもの 
らせん階段 
新宿 
ブラッディ マリー 
やせた女のブルース 
野生の馬 
ふしぎな日 
千鳥橋渋滞 
そして僕は途方に暮れる 
ポスター カラー 
橋の明かり 
裏切りの街角 
メタモルフォーゼ 
風吹く街角 
風の中の火のように 
漂泊者(アウトロー) 
破れたハートを売り物に

 

テレフォン ノイローゼ 
バス通り