CRY

Twitterには長いやつ

甲斐よしひろ BEAT VISION KAI SPECIAL LIVE

1995年11月21日(土) パワーステーション

 新大阪の待ち合わせ場所に行くと、全員が首からラミネートパスをかけて立って いた。 
 今日は甲斐のファンクラブ「BEAT VISION」のスペシャルライヴ。 会員限定のイベントだ。こういうのは初の試み。しかも、チケットは味気ない物では なく、この日のためだけの特製パス。縦長の白い長方形で、ロングコートを着た甲斐の 全身写真入り。真ん中やや上にデザインされた正方形の中に 「1995 Nov. 21」の文字。その下に大きく、「KAI SPECIAL  LIVE」。いちばん下には「ACCESS B-2 AREA」。いちばん上に 小さく「PRESENTED BY BEAT VISION」。裏面には 「NOTICE」として注意事項。さらに「OPEN 18:30/START  19:30 AT:NISSIN POWER STATION」。そして、 「YOUR NUMBER IS:」とあり、その後に僕の番号「585」が印刷されて いる。で、このパスにチェーンが通してあって、首からかけられるようになっているのだ。 
 僕もその鎖を頭に通し、甲斐のパスをぶら下げた一行は、ファンクラブに入ってて よかったという想いをかみしめつつ、ぞろぞろと新幹線に向かった。京都から加わる 仲間もいて、パスを身につけた妖しい団体は総勢9人だ。

 東京で二手に分かれた。ホテルへチェックイン組と、パワステ直行組である。僕は 後者。 
 パワステの関係者入口前で、甲斐の入りを待つ。すでに東京のファンが陣取って いる。8月の「パワステ夏祭り」早川義夫の撮影 風景を見たときにいた人もいた。 
 しばらくして、ジョージがタクシーで現れた。いつもの帽子をかぶっている。 
 しかし、甲斐は一向にやって来ない。寒い中をかなり長い間待った。カメラの 準備をするファンもいたが、警備スタッフの1人がにこにこと笑いながらも「しまっと いてね。本当に取り上げなくちゃならなくなるからね」と厳しく言ったので、しまう しかなかった。 
 灰色のバンはいきなり入って来た。ジョージのタクシーとちがって、入口前まで ぴたりとつける。だから、甲斐の姿が見えたのは、ほんの少しの間だけやった。 
 緑色のウインドブレーカー。サングラスの横顔。 
 あっという間に建物に消えた甲斐の後へ、荷物を持ったスタッフが続く。バンの 後ろから取り出された白黒の縞のジャケットは、何に使われるのだろう。

 食事を済ませてパワステに戻る。今日は開場が早かった。あのパスを見せ、B2 へ下りていく。 
 今日もROCKUMENT式の三方囲まれた セットやった。B1とSDSは業界人らしい。 
 右寄りに場所をとる。すぐ後ろがカメラ。この日のビデオには、僕の後頭部 ばかり映ることになるかもしれない。 
 印象的やったんは、モニターに「グラン ブルー」が流されていたこと。甲斐の 好きな、フランス映画である。いつもはPSのロゴと景色の映像だけやのに、うれしい 演出や。

 BGMが1曲終わる度に、期待のざわめき。ところが、開演を今か今かと待ち望ん でいるわれわれの前に、1人の、スタッフらしき男が出て来た。手にはマイク。メガネ にヒゲ。 
 「ライヴの前に甲斐さんについてしゃべれということなんで・・・」 
 これが佐伯明やった。甲斐のことも書いてるし、蘭丸の本も出したりしている。 
 1人では間がもたないから、甲斐に詳しいゲストを呼ぶと言う。名前はドクター Y。 
 イニシャルYで甲斐に詳しいのんて誰や?!頭を必死に回転させて捜す。とっさ に浮かんだのは、田家秀樹と亀和田武。けど、2人ともYじゃない。 
 登場したのは・・・一瞬誰かわからんかった。でもやっぱり、メガネをかけた 甲斐やった。白黒のジャケットはまぎれもなく、あのバンから出てきたやつや。 
 驚きのどよめきと歓声。甲斐の主治医ドクターYが甲斐について話す、という 設定。まさかYが甲斐とは。Kのイメージ強いからなあ。 
 舞台の縁に腰掛けた2人。途端に、不満の声の嵐。甲斐の姿がよく見えなく なったせいだが、そのまま話は始められた。

 設定上、「身体はやわらかい」とか、「あの人は1日24時間じゃなくて、36 時間ぐらいのサイクルで生きている」という医学的(?)な話から。 
 甲斐の人柄については、「敬語は使えるが、心の中はちがう」「たき火が好き」 など。また、新居の様子もたびたび話題にのぼった。 
 ライヴの時とは全くちがった、なごやかなムード。しかし、その中で音楽に関し ては、マジで重要なコメントが聞けた。 
 「戻ったんじゃなくて、いちばんやりやすい場所として東芝を選んだんだ。そう じゃないと失礼にもなる」 
 「武道館とROCKUMENTをやったことで、 バンドとかソロとかいうところでは考えなくなった」

 ライヴの準備のため甲斐が姿を消し、佐伯明が場をしめくくる。 
 ひとつ心残りがある。途中でドクターYが「曲について注文があったら、今の うちに言っといて。彼に伝えとくから」と言ったとき。これは一応、佐伯明に向けて 放たれた言葉だったが、暗に「客のリクエストに応える用意があるぜ」と言っている ようにも受け取れた。 
 「「ランデヴー」やってえーっ!」って、よっぽど叫びたかってんけど、言われ へんかった。あれは確かに、客席の声を待ってたはずやったのになあ。

 さあ、いよいよライヴや!と待ち構えているところへ、またしても意外な光景が 展開された。 
 客の手拍子にのって登場したメンバーたちは、みんなマスクをかぶっている。 何なんや、これは?!? 
 L.A.帰りということで、O・J・シンプソンとイトー判事のマスクやった らしいけど、その時はそんなんわかれへん。怪物のマスクにしか見えへんかった。 
 「楽しんでー!」と甲斐が言うけど、何しろマスク越しなんで、声がこもってる。 始まったイントロは「絶対・愛」。 
 どうするのかと見ていると、「ウォウウォウウォウウォウ・・・」とヴォーカル に入る寸前に、甲斐はマスクを脱いだ。顔が見えたもんで、ここで大歓声。そして、 マイクスタンドを蹴り上げ、また歓声。いきなりの盛りあがり。 
 こげ茶っぽいネクタイに、BIG GIGの雰囲気を感じる。甲斐はマスクを 手に持っていて、マスクに向かって「ウォウウォウウォーッ」と叫んだりしている。 
 この間、メンバーは何とマスクをつけたまま。とうとう最後までそのまま演奏 しきった。 
 「絶対・愛」が終わると、メンバーがマスクをとる。甲斐はジョージのマスクを 引っ張って、脱ぐのを手伝ってる。汗まみれになったジョージが顔を出したら、声を あげて笑った。

 続いて早くも「漂泊者(アウトロー)」。まだ2曲目やというのに。 
 ストロボを使ったライティングがすごい。しかも、演奏はFIVEヴァージョン でもROCKUMENTヴァージョンでもなく、昔やってたやつ。イントロからめっちゃ 興奮してもうた。初めのギターのフレーズがややフラットにアレンジされているほかは、 ほぼバンド時代のままだったのでは。 
 最後も「爆発  しそうおーっ」で終わらずに、もう1回「誰か俺に・・・」を 繰り返した。ここもうれしかったなあ。

 「今夜はファンキーな集いで、とにかく最後まで楽しむと。いよいよ始動しはじめ る、アクションを起こしはじめる。音楽的にもテンションもふまえて、楽しんでほしい という音ができあがったんでね。是非、聴いてほしい。1曲1曲楽しんで。もちろん、 新曲もやるし。では、その第1弾を華々しく」

 ニューシングルの「風吹く街角」をやるのかと思ったけど、ちがった。 「ナイト トリッパー」を思わせるイントロ。「レディイー 生まれ変われるさ」 「20世紀最後の愛の幕開けを」という歌詞も、「ナイト トリッパー」のように女性 のパワフルな魅力を称えている。

 次の曲の静かなイントロに、「ポップコーンをほおばって」のFIVEヴァージョ ンか、もしかして「ウィークエンド ララバイ」!?と思ってたら、いきなり激しい ファンクっぽい曲調に変わった。これも新曲や。ファンクの「ボーイッシュ ガール」を 思い浮かべてもらうと、雰囲気が伝わるかもしれない。 
 甲斐は円いサングラス。甲斐がワンフレーズ歌うごとに「ウォー!」「ウォオ イェー!」とバックが叫ぶ。それと同時に後ろのライトが光る。 
 他の部分では、天井のライトがまわり、そこらじゅうを白い光が走りまわる。 
 「時のひとーっ」とバックが歌い掛け、サビで甲斐も「時の人さ お前は 若者 の神さ」と歌っているようだが、もしかしたら他の言葉を聴き違えたのかもしれない。 
 2番が終わると突如ラップになる。それからサビへ戻って、最後はまた静かに なる。ここで甲斐が何かセリフを言うのだが、聴きとれない。英語のようだが? 
 とにかく、どこをどうとってもめちゃめちゃかっこいい曲やった!

 「灯りをくれよ・・・しゃべらないことになってても気分は変わる」 
 予定外らしいMCが始まった。 
 まず、昔「GUTS」というフォーク雑誌があって、カメラマンといさかいを 起こしたりしたけど、アルバムとは関係ない、という話。僕はそんな雑誌聞いたこと ないけど、会場はけっこうわいてたから、僕より上の世代にはよく知られていたのかも しれない。 
 「野茂が優勝を決めた試合をサンディエゴまで見に行って。ピアッツァとか ラソーダと抱き合ってる姿を見て、アルバムのタイトルを決めた」 
 この話は僕にはかなり印象きつかった。まさか、生で見ていたとは!そら、相当 感動するはずや!9月に、ブルーウェーブの優勝がかかっている試合を神戸で見た。 結局マリーンズに逆転負けしたのだが、前半ブルーウェーブがリードしてたときの 「もうすぐ優勝が決まるぞ・・・!」という球場の雰囲気は独特やった。 
 「今年は何があったといっても、神戸の震災とオウムの年だといってもしょうが ないわけで。大変な年でね。こういうときには、何かにチャレンジする、何かに果敢に 挑んで行く意欲・気持ちをポジティヴに歌って行くのがいいんじゃないかと。シンプル でストレートなやつを」

 久石譲とのコラボレーションで生まれたという曲。 
 「待って・・・。気持ち切りかえるから」 
 そう言ってから歌いはじめたのはバラード。「あの人は彼女だったんだろう」 とうたってる。涙をかくして笑顔で見送る物語。甲斐の詞に「卒業」という言葉が出て くるのは、いつ以来やろう?今の甲斐がこういう詞を書くのは意外やった。新鮮な感じ がする。 
 このきれいな曲はテープで流されているのか、演奏はされていない。ジョージ たちは、舞台右のマイクに集まってコーラスしている。 
 後奏が突然途切れた。観客は美しい曲の余韻にひたっている。と、その間隙を 衝いて一光が叩き出す。思わず「ウォオーーー」って叫んでもうた。あの曲や!静けさ から一気に興奮へ。 
 「きんぽうげ」 
 ギターのフレーズがいつもとちがう。ドライな感じに変わっている。 
 みんな大声で歌ってる。甲斐もいつものように最後のところを客に歌わせる。 
 後奏で甲斐は「オーイェーッ!」と短く叫んだ。今日は「ガッツガツ!」はなし。

 続く前奏に、僕はまた「オ~~」っと叫んでしまった。「嵐の季節」や! 
 ROCKUMENTではやらなかったので、甲斐のなかでは「デカいステージで 映える曲」と位置付けられていると思っていた。意外やっただけに感動も大きい。 パワステで「嵐の季節」をやってくれるとは。

 客が燃えているから、甲斐もそれを煽る。 
 「さあ、もうこれでツアーに行きたい気分になってきたかな?」 
 「これはコンベンションといっても、ツアーのさきがけのスタートになる」

 「ROCKUMENTは、どうも来年もできそうな気配なんで」と発表があり、 客席が沸く。 
 「シンプルなタッチのカメラワークなんだけど、台数じゃない」と、 ROCKUMENTのビデオにかなり手ごたえを感じている様子。僕はあのビデオ好き やから、うれしかった。「新宿」「橋の明かり」「火傷」なんて泣けるもんなあ。

 「昔につくった「ちんぴら」という曲。あれは、いつか出て行くにちがいない街の 話を、ずうっと書きたいなあと思ってて。その街にいる間は書けなくて、結局、出て から振り返って書いた。あれは実在する街で」 
 と、博多の街を想って「ちんぴら」を書いたことを告白。僕はこういう、書き手 の視線がわかる話を聞くのが大好きだ。 
 「自分で決着、というか1回シメるということが、表現をやってるときには必要 で、そういう形で書いた。 
 あれを東京に置き換えたらどうなるのか、ずっと考えてて。俺はてめえが住んでる 街の動機でこの街のことを書くんだけど、ここにいるあなたは、あなたの動機で聴いて くれた方がいい。千人いたら千人の動機で聴いてくれた方がうれしい。 
 「裏切りの街角」という曲があって。「街角」というのは書きたいとも思わなかっ たし・・・実は一瞬、書きたいと思ったかな?・・・でも、そういうふうにはめ込んで いってもなあ、というのがあって。20年目にして街角もの」 
 ここでひと呼吸おいて、低い声で静かに、「「風吹く街角」という曲を・・・」

 ニューシングルだ。この曲を歌うとき甲斐はギターを持つだろうかと、甲斐友と 予想し合っていたが、甲斐は黒のアコースティックギターを手にしていた。 
 発売前日やったけど、ラジオでかかったのを録音して聴き込んでからライヴに 臨んだので、完璧に歌えた。 
 後奏でドラムの入るタイミングが増える。この盛りあがり方は「風の中の火の ように」を想わせる。 
 「風吹く街角」が終わった瞬間、ステージに星空が現れた。背景に青と黄色の 星たちが輝いている。これはほんまにきれいやった。みんな、ため息をもらしながら 見とれている。

 たくさんの星の中、甲斐のギターが「風の中の火のように」を奏ではじめた。 前奏はいつもより長かった。星空の下で静かにギターを弾く甲斐。情感があったなあ。 
 「君なんだ」でライトが点き、星が姿を消す。演奏も激しくなって行く。 
 後奏も終わり近くになってから、甲斐がもう一度「火のーーっ」と叫ぶ。 
 熱気があふれ、「甲斐ーっ!」の掛け声が増えていく。

 一光のシンバル二閃。「翼あるもの」の始まりを告げる。いつもの激しい「翼」や。 ROCKUMENTのショートヴァージョンでもない。ラストのポーズももちろん あったし。 
 「すーべりー出すう」と歌いながら手を前へ差し出すアクションが見られた。

 最高潮の会場。 
 「やるよー!最後の曲になりました」 
 「漂泊者(アウトロー)」はもうやったし、何を歌うんや? 
 ここで持ってくるとは。「HERO」 
 1番だけ歌い出しまで間があり、「銀幕の中」からもテンポがゆるまらない HEY!HEY!HEY!ヴァージョンだ。これが かっこいいねん。ついにやってくれた。 
 リズムに乗せてパンチを繰り出すアクションが多かった。

 終わると、甲斐はふだんよりたくさん、客席に手を振り、いろんな方向に顔を 向けてくれた。それから今日は一光の肩に手をやりつつ立ち去った。

 アンコールにもしっかり応えてくれた。 
 「ありがとう。今日はほんとに集まってくれて感謝してます。遠方からも たくさん来てらっしゃるみたいで・・・」 
 関西から来た甲斐友たちがよろこんで、拍手してる。僕もこの言葉がうれしくて、 拍手をした。

 甲斐が再び礼を言う。カウベルが響く。新曲や! 
 「GUTS for LOVE」というサビ。最後は「ガッツ」と叫ぶ。「進む 道を今決めろ」「勝つこと信じよう」という詞。 
 感動した。めちゃめちゃ気に入った。BEAT VISIONで言ってた、 「翼あるもの」と「漂泊者(アウトロー)」をたして2で割ったような曲、というのは これにちがいない。勇気を与えてくれる力強い歌や。これまでの甲斐の曲すべて合わせ たなかでも、かなり好き。 
 「サンキュー。ありがとう」と言って去る甲斐に、歓声と手拍子が起こるが、 SPECIAL LIVEはこの曲でおしまい。

 出口へ向かう。甲斐友が「大サービスやったなあ」とよろこんでいる。 
 会場では「風吹く街角」と「少年の蒼」を先行販売していた。両方買おうとした ら、「風吹く街角」は売り切れたとのこと。ちゃんと人数分用意しとけよ、東芝

 メンバー紹介はなかった。一光が叩きまくってて、低い音に重量感があった。 
 「翼あるもの」や「嵐の季節」をこのスケールでやるとは、ROCKUMENT と趣きがちがう。ROCKUMENT、「太陽は死んじゃいない」から次の段階へ踏み 込んだ感じ。新たなスタート。 
 新曲は激しいのが多かった。でも、久石譲とのバラードも。 
 業界のパーティーに、ファンクラブのメンバーを入れてくれた、という雰囲気 やった。通常のツアーでは考えられないサービス。今日のパスは大事な思い出の品に なる。ぴあの味気ないチケットなんかとは訳がちがう。 
 曲数は少なくて、おなかいっぱいにせずツアーに期待させるライヴやった。 ツアーの始まる2月が待ち切れない。

 

 

1995年11月21日 パワーステーション

 

絶対・愛 
漂泊者(アウトロー) 
レディ イヴ 
時の人 
スマイル 
きんぽうげ 
嵐の季節 
風吹く街角 
風の中の火のように 
翼あるもの 
HERO

 

GUTS