CRY

Twitterには長いやつ

甲斐よしひろ 早川義夫 パワステ夏祭り

1995年8月17日(木) パワーステーション

 ホテルに行く前にパワステ寄ると、早川義夫が撮影しているのに出くわした。ピンクの シャツに黒ズボン、CDジャケットどおりの円いサングラス。パワステの前の角や、 パワステの壁の真ん前で写真を撮られている。生の早川義夫を見るのはもちろん初めて やったけど、何かふつうのおじさんに見えた。ステージに上がれば変わるのだろう。

 ホテルを早めに出てパワステに戻って来たが、まだほとんど誰もいない。四十ぐらいの 男のひとと、甲斐のTシャツを着た若い男の2人が立ってるだけや。ROCKUMENTの ときの雰囲気とは全然ちがう。でも、当日券はしっかりと売り切れているのだった。

 B2フロアには、黒い円テーブルとイスが並べられていた。僕が入った時点でテーブル 席はほとんど埋まっていたので、その後ろに1列だけ作られた、イスのみの席に着いた。 しかし、ド真ん中のイスがとれたから、これは見やすいはずや。甲斐が、早川義夫の左右 どちらで歌ってもばっちり見える。 
 僕の両隣の人も、僕と同じROCKUMENTの白Tシャツを着ている。他にも ROCKUMENTのTシャツが多い。甲斐ファンがけっこう目立っている。僕がいるイス席の すぐ後ろからが立見席なのだが、僕の後ろの人も甲斐のファンらしかった。

 ステージ上では、ROCKUMENTのTシャツを着た2人(それぞれ紺と白)と、FIVE のTシャツ姿の男、計3人のスタッフが準備をしている。どう見ても甲斐のスタッフだけが 動いているようだ。 
 右端に置いてある、黒のアコースティックギターは甲斐のものではないのか。 これは甲斐だけが先に出て来ると思ってまちがいない。第一、早川義夫のピアノがセット されてないではないか。 
 笛の幻想的なBGM。それが、妙に明るい変な音楽にかわる。どうなってんねん、 と思ってたらもとの幻想的な曲にもどった。 
 暗転すると、ROCKUMENTと違って左右客席のないパワーステーションは、 演劇スペースのように見えた。 
 ややあって耳慣れたBGM。ROCKUMENTでかかってた、例のオルゴール調の きれいな曲だ。 
 いつも通り右側からメンバーが入って来る。先頭は一光や。続いてメッケン。 そして、その次の髪の長いやつは・・・松藤か?!最後にジョージ。アンプラグドの可能性 もあるかと思っていたが、やっぱりバンド編成でやるんや! 
 さあ、甲斐登場!黒いジャケット。白いシャツ。「甲斐ーっ!」という声が大量に まき起こる。早川義夫のファンの中には、ちょっとびっくりしてる人もいた。 
 一光がビートを叩き出す。いきなり来たか! 
 「ダイナマイトが150屯」 
 ROCKUMENTを通して、このバンドを代表する曲になった。 
 甲斐がマイクスタンドを蹴りあげ、会場が燃える。予想と全く違う。早川義夫のCDを 予習してみると、重い曲が多い(というより、ほとんど)ことがわかったので、甲斐も重めの 曲をやるのでは、と考えてたのだ。「冷たい愛情」とか「カオス」「100万$ナイト」「8日目の朝」などを。

 2曲目のイントロにものすごいどよめき。一光が刻みまくっている。 
 「ポップコーンをほおばって」。すごくロック! 
 初めに何にもつかず、いきなりあのイントロで始まったのだ。バンド時代は、 コンサートの終盤、「氷のくちびる」や「ランデヴー」に続いてパーカッションの音楽があって からイントロに入った。FIVEでも、静かに立ちあがるヴァージョンやったし。 
 ところが今日はちがうのだ。ハナっから、ディー・ディー・ディーッ!ズチャズチャ ズチャズチャ!と来た。興奮したなあ!よかったで。もちろん拳もあげまくりや。 
 甲斐バンド解散以降最高の、いや、バンド時代ふくめても、僕にとっては史上最高の 「ポップコーン・・・」やった。この1曲聴けただけでも今日来てよかった・・・。本当に、 そう感じました。

 続いて予告どおり、他の人の曲。洋楽っぽくてかっこいい。正統派のロックンロール、 という感じ。歌い出しで歓声があがってたので、わりと知られてる歌らしかったが、僕は 知らんかった。 
 サビでジョージが甲斐のところへやって来て、2人で「エンジェル ダスター」と歌う。 「お前だーけを連れて逃げたいぜーっ」と甲斐が歌った後、今度はジョージはギターの ところのマイクで「エンジェル ダスター」。それから甲斐が「このまちーの 風は かわいてる ー・・・」。突き放した、乾いた歌い方が印象的。 
 最後の繰り返しでは「お前だーけを 連れて逃げたいぜ OH YEAH!」と叫び、 甲斐もノッている。ほんまにかっこいい曲やった。

 ドラムのキックだけが響く。松藤のギターが入る。これも他の人の曲。松藤は1番2番 とも、前半はギター、後半キーボード。今日はバンダナはせずに、長髪を両側にたらして いる。 
 何か、歌詞に擬音が多い。「台風 台風 どどどどどっどおーん どどどどどっどおーん」 とサビにも出て来る。 
 「みんなみんな ふー きとばっ   せえっ」というラストが印象に残る。

 バンドが引き揚げて行き、甲斐と松藤だけが残る。松藤は、前に出てきて甲斐の 左でギターを弾く。 
 静まり返った場内に、甲斐の澄んだ声が響きわたる。泣きそうなぐらい抒情的。 
 曲は4番まであり、それぞれ春・夏・秋・冬についての内容になっている。その 季節の光景がうたわれ、ハミングをはさんで、「ふし  ぎいな・・・春   の日ー」 (あと、順に冬の日まで続く)というサビになる。 
 静かな佳作という感じ。甲斐の声を堪能する。 
 擬音の多い台風の歌と、季節の歌は、何だか博多の匂いを感じさせた。甲斐が フォークっぽい歌をうたっているのを見て、僕が勝手に連想してしまったのだろうけど。 歌詞と曲の感じから、骨太な雰囲気が伝わって来た。

 ジョージが出て来て、甲斐の右側に位置する。甲斐をはさんで、左に松藤、右に ジョージという形になったわけだ。 
 アコースティック ギターだけの静かな曲の中で、甲斐がのびのびとうたっている。 甲斐のうたが会場じゅうにひろがる。もう今日は甲斐の声の魅力をあらためて思いしら された。 
 甲斐がそうやってうたっている間、松藤とジョージは甲斐の背中ごしに顔を 見あわせてニコニコしている。 
 サビの3人のコーラスが、とてもきれい。 
 甲斐が松藤を起用しているのは、そのハモリの良さゆえだろう。武道館をやって みて、自分に合ったコーラスをしてくれるのは松藤だと痛感したのではないか。バンド 解散後、ストレート ライフ ツアーで一郎といっしょにやったのと同じで、自然な感じでいい。 そこには、再結成のためとか、昔を懐かしむなどということは微塵も感じられない。 
 「野生の馬さ」というところを、甲斐は「やせい」とは発音せずに「やーせえーの  うまーさ」とうたう。最後の「さ・・・」の余韻と、ギターの響きが完全に消えるのを待って、 拍手。

 甲斐1人となり、スポットを浴びてMC。 
 「かつてジャニス・ジョプリンやジミヘンといったカリスマがいた。でも、それは海の 向こうの存在だった。その頃、日本で初めてカリスマを感じさせる人が現れた。それも、 オリジナルな形でね。その人を紹介します。早川義夫さんです」 
 拍手を受けて早川義夫登場。夕方見たときと同じピンクのシャツと黒いズボン。 ピアノも運ばれてくる。 
 早川義夫のピアノと甲斐のギター。始める前に甲斐が「いいですか?」と聞いたり する。「年上とやることないもんなあ」やって。ちょっとほほえましい場面。 
 早川義夫のピアノで曲が始まる。「サルビアの花」のイントロやとわかった観客が わき、拍手が起こる。 
 甲斐は少し首を傾けて、ピアノの調べに耳をすませる。まだギターは入らないのに、 ピアノに合わせてコードをおさえて行く。 
 まず早川義夫が歌い出す。「そして」あたりから甲斐が小さくギターを弾き始める。 丁寧なタッチで。 
 「なのに」から甲斐がヴォーカルをとる。 
 甲斐がこの曲をカヴァーしたアルバム「翼あるもの」のよりも短いヴァージョン。 最後は2人で。 
 歌も演奏も歌詞もいい。この「サルビアの花」は、泣けたなあ。

 早川義夫が去って行く。数曲続けてやんのかと思っててんけど。ちょっとあっけない 感じ。 
 ピアノをはける間、甲斐のMC。 
 「次からは明快なやつをやるんで、ノッてくれよ」 
 甲斐は客に立って欲しいようだ。今日は僕も珍しく、というか、ほぼ初めてすわって いる。前のテーブル席の人が立たないからだ。前が立ってないのに僕が立ちはだかって、 立ち見の1列目の人が見えなくなるのは気の毒に思えた。僕の後ろの人は甲斐ファン やったし。また、座席の設置の仕方からも、あまり立ち上がって騒ぐ雰囲気はしない。 テーブル席とステージの間には柵とかないみたいやったもん。 
 けれども、みんな、立っていないからといってノッてない訳ではない。すわりながらも、 甲斐といっしょに歌い、手拍子をし、拳をあげているのだ。もちろん。 
 バンド編成で曲が始まった。これには聴き覚えがあるぞ。確か泉谷の曲では なかったか。昔、サンストで聴いた気もする。 
 「脳に来た 脳に来た」とか、「パッと咲きます梅の花」とか、すごい歌詞や。

 そして、「漂泊者(アウトロー)」 
 もうこれをブルース ヴァージョンとは呼ばせない。完全なロック!なのだ。甲斐は 激しく、声を張りあげて歌う。普通のアレンジのときと全く同じ激しさや。 
 「希望の時代だと言ってる」のとこでは、大きく「No,Noちがうんだ」というジェスチャー。 
 今後しばらくは3月8日のような静かな「漂泊者(アウトロー)」は歌われないのでは。

 続いて「風の中の火のように」ROCKUMENTヴァージョン。 
 しかし、甲斐のギターの弾き方が全然ちがう。濁った音をたてて、すごく激しい ストローク。怒っていたのかもしれない。めちゃめちゃ気合いが入っている。恐いほどの 気迫。 
 でも決して投げやりなわけではない。詞の内容が、よく伝わってきた。近くにいた 早川ファンも、身を乗り出して聴いていた。すわってはいたけれども、手拍子と合唱で 一体感があった。

 「最後の曲に・・・」という言葉があり、「観覧車」へ。 
 印象的やったんが最後の叫び。いつものように客たちが「ウォーオオオオオ」と 叫ぶのにかぶせて、甲斐が「ウォーーーーーッ!」と声をあげたのだ。こんなん初めて やった。客と掛け合うよりも、自分の想いをぶつけたのだ。 
 後奏にのせてメンバー紹介。やっぱり松藤のときには大きな声援。 
 僕は最後に初めて立ち上がった。そして甲斐たちに拍手を。スタンディング  オベーションのつもりやった。

 甲斐たちが姿を消すと、スタッフがたくさん現れて早川義夫のバンドの準備。 
 1人、アンコールを叫ぶ男もいた。そんなことしたら早川義夫の出番なくなるやんけ。

 めっちゃ待たされた。たっぷり40分。おまけにギターのチューニングのときに、高い イヤな音をどでかく出すし。 
 散々待たされたあげくツトムが出なかった大阪のマシーナを思い出す。でも今日は、 ちゃんと甲斐のステージを見たし。イスもあるし。また甲斐出て来てくれるやろうし。

 早川義夫が出て来た。衣装が変わっている。 
 メンバーがそれぞれ自分の楽器の音を確かめてから、すっと演奏が始まった。 
 短めの曲が多い。早川義夫が歌い、終わるとライトが消える。次の曲が始まると ライトが灯く。それの繰り返し。MCは一切なくどんどん進んで行く。 
 内容は、強烈だ。衝動を思い切りぶつける歌い方と歌詞。淡々と、とか、抑えめに、 ということとは無縁である。 
 男が部屋にこもって1人で、未練がましく、女々しく考えるようなことを、そのまま 詞にしてある。 
 好きなんだ、ずっと一緒にいて、ということばかり言われ続けるのは、女の人に とっても重いのではないだろうか。まあ、場合によるんやろうけど。

 「H」というHな曲が演奏される。間奏で舞台上に奏者がいないのにサックスが 流れる。と思うと、サックスを吹きながら梅津和時が登場だ。ステージを演奏しながら ゆっくりと横切って行く。 
 「H」は、CDでは短い曲なのだが、ライヴ ヴァージョンは長かった。この梅津氏出現 以後、間奏が長くなったり、いろんなアレンジがほどこされるようになり、ぐっとバンドっぽく なる。

 「H」が終わると、早川義夫が言った。「次の曲には、甲斐さんにも入ってもらいます」 
 「甲斐ーっ!」という熱っぽい声がたくさんかかる。 
 スポット ライトに照らされて出て来た甲斐は、黒一色。黒いジャケットの中に黒の Tシャツ。顔だけが白く見える。髪もまた切った感じ。 
 このときの甲斐がかっこよかった!何か顔がすっきりしてきれい。ステージ上で 1人だけとび抜けて若い感じで、かわいくさえ見える。周りがむさくるしいオッサンばっかり やったこともあるのかもしれへんけど、すごく黒が似合っていた。 
 始まったのはもちろん、「裏切りの季節」 
 早川義夫と甲斐が交互に歌う。「信じてーいた僕があー悪ういーっ」っと甲斐が 高めに歌ったので、「それは最後の繰り返しのとこのメロディーちゃうん?」と思ったが、 「サーカス&サーカス」に入っているのとちがって、まだまだいっぱい歌詞があり、曲も 続いて行く。相当アレンジがちがうのだ。歌詞は倍以上あったように思えた。 
 間奏も長い。甲斐は舞台奥、ドラムスのとなりまで行って、銀の楽器をシャカシャカ 振る。以前にもこれを使っているのを見たような記憶があるのだが。 
 甲斐が振っているのをニコニコ見ていたドラムスは、さらに叩きまくる。 
 甲斐が前に戻って、また歌い出す。この後半の歌詞が詳しく知りたいぞ!絶対 知りたい! 
 最後はサックスのソロ。甲斐は左端の梅津和時を、動きをとめてじっと見ている。 
 甲斐の参加はこの1曲で終わり。またたくさん、「甲斐ーっ!」という叫びが飛ぶ。 去り際にギターの佐久間正英が甲斐の背中をポーンとひとつ叩いた。

 激情の「マリアンヌ」や、「身体と歌だけの関係」などが歌われ、最後は、これも熱い 叫びの「いつか」 
 早川義夫のステージもなかなかよかったが、場内の空気は重い。ファンも、静かに 早川義夫の言葉にひたすら耳を傾ける、という人が多いようだ。

 イベントのときはいっつもそうやけど、甲斐は今日も、カヴァー曲以外にも、本日の スペシャルをやってくれた。あの「ポップコーン・・・」はとにかく最高や。 
 今日思い知らされたのは、知らない曲でも甲斐が歌えば、いい!ということだ。 声とヴォーカルの力。

 そして、今日の結論。 
 いつやっても、どこでやっても、誰とやっても、甲斐はロックだ!

 

1995年8月17日(木) パワーステーション

 

ダイナマイトが150屯 
ポップコーンをほおばって 
Angel Duster (THE STREET SLIDERS) 
颱風 (はっぴい えんど) 
ふしぎな日 (加藤和彦) 
野生の馬 (ブレッド&バター) 
サルビアの花 (早川義夫) 
おー脳 (泉谷しげる) 
漂泊者(アウトロー) 
風の中の火のように 
観覧車82

 

裏切りの季節 (早川義夫