CRY

Twitterには長いやつ

甲斐よしひろ ROCKUMENT

-Guitar of Friends-

 

1995年6月30日(金) パワーステーション

 夕刻の街は、「野茂、連続完封」のニュースでにぎわっていた。 
 ROCKUMENT最終日ということで、今日は大阪から見に来た仲間も多い。

 ステージ右横の、昨日と同じあたりに陣取った。絶好の位置。ここは近いし、甲斐も 松藤もよく見えるのだ。 
 ライヴの前にいつも感じる、興奮と緊張。それに加えて、仲間がたくさん来ていると いう、うれしさもある。僕は、たかぶっていた。まだ1回目のアナウンスもないうちから、 何度も「甲斐ーっ!」と叫び、BGMが終わるたびに拍手して、「ヒュー、ヒューッ!」 「フ-ッ!」などと言っていた。始まる前から、テンション上がりっぱなし。 
 いよいよ開演間近。「甲斐ーっ!」という声がたくさん飛ぶ。はじまる前から、みんな うるさく騒ぎまくり。いいぞ、いいぞ!

 昨日と同じく、「Kai」のロゴから映像が始まる。通路を進んで控え室に入ったカメラは、 まず部屋の上の壁を映し出す。そこには、このライヴに花を贈った人たちの名前がたくさん 貼ってある。昨日MCで甲斐が触れてたから、見せてくれたんやろう。一瞬だけやったけど、 はしっこの久石譲の名は読みとれた。 
 さらにカメラが動いて、甲斐たちの姿をとらえる。すごい歓声。メンバーたちが立って、 移動しはじめる。松藤もうつってる。昨日は甲斐だけに集中していて、気がつけへんかった けど。 
 いつもの大きな鏡の前ではなく、部屋を出たところの幕の前に、甲斐たちが整列。 今日も蘭丸は入らない。すると、松藤が手招きし、立って行って蘭丸を列に連れて来た。 そこで写真撮影。 
 メンバーが歩き出す。武藤さんの顔が大映しになったりする。今月は甲斐1人の オープニングじゃないもんな。甲斐の様子がうつされているが、周りに他のメンバーが 歩いている気配がわかる。

 映像が消え、甲斐が現れる。「甲斐ーっ!」の声の洪水。その後に、何と、松藤が 入って来た!甲斐、メッケン、武藤さんの3人で1曲目をやるのではないのか? 
 みんなが松藤に気づいて、異様な盛りあがり方。もう泣いてるファンもいる。松藤は 昨日と同じ、バンダナとパイナップル シャツの姿。 
 いつの間にか、マイクスタンドがたくさんならべられていた。曲順が変わるらしい。 
 武藤さんのヴァイオリンが響く。 
 「かけがえのないもの」 
 松藤は、甲斐の左でギターを弾いている。昨日見てない仲間が、いつ松藤に気が つくのか楽しみにしててんけど、いきなり出て来るとはなあ。

 メンバーが定位置につく。 
 「ダイナマイトが150屯」 
 僕は今日も拳をあげながら、サビを歌う。

 そばで「あそこ、亀和田武来てる」と言う声が聞こえた。しかし、「あり、か」のイントロ にわきあがった歓声が、それをかき消す。 
 今日の甲斐は声を張り上げず、ふつうのメロディーでこの曲を歌った。

 「ブラッディ マリー」 
 やはり先月よりも力強く、松藤のコーラスたっぷりの。心なしか、照明の色合いも 少しかわったように感じる。 
 久々に、「僕の 僕の 涙がうつぅてたー」とオリジナルどおりにうたわれた。

 メンバー紹介。昨日のドラムがすごかったので、思わず「いっこーっ!」と叫んでしまう。 今日は叫びまくり。武藤さんは少し照れくさそうに、ニコニコと微笑んでくれた。松藤には、 会場じゅうから大量に声が飛ぶ。ジョージは、今日はこっちを向いてくれなかった。きっと、 誰にでも声をかけていたからだろう。 
 全員を紹介した後、「今日は、帰って来た増田くんにも入ってもらいまーす」という コメントがあって、4月5月のキーボード、増田隆宣が登場した。「B’zにとられかけてたのを 奪い返したんだ」と甲斐は笑う。 
 増田隆宣はヒストリー ライヴ以後、甲斐と組んでなかったのだと思っていたが、 調べてみると、「Fever」や「君がはいってくる時」の編曲をした男やった。

 いつものホテルがプールの工事をしていたため、昨日は別のホテルに泊まったという MC。東京のライヴのときも、ホテル取ってんねんなあ。ライヴ当日も、きっちり泳いでいる らしい。 
 そのホテルは門限が12時で、甲斐はしっかり破ったということだ。 
 「俺がリアルタイムで見るようになってから、野茂が勝ちだした」 
 甲斐が久しぶりに野球の話をしたのが、うれしかった。 
 甲斐が話している間、武藤さんが次の曲に備えて腕をぐるぐると廻している。 「地下室のメロディー」で、あの楽器を叩く準備だ。

 「やせた女のブルース」のなか、蘭丸登場。今日は両手でピース。 
 もうここからは、みんな騒ぎまくり。ノリまくり。甲斐も間奏に入るところで、「COME  ON コーヘイ!」とどなったり。 
 興奮していた僕は、「レイン」の「call my name」のところで拳をあげるとき、右前 の女性の後頭部に、肘をぶち当ててしまった。拳は当たれへんように、ちょっと気を配ってる つもりやってんけど、まさか肘が入るとは。けっこう痛かったと思う。ごめんなさい。 
 「GET!」の間奏でのフレーズが、昨日とちがう。おんなじ曲をやっても、やっぱり ライヴはその日その日で変わるんや。 
 「港からやって来た女」の3番前半で静まるのは、ファンの間に定着してきた。メリ ハリが出て、好きや。 
 やや狭かったので、「フーッ!」で最高のジャンプができなかった。この一瞬だけ、 ふつうのホールが恋しくなる。 
 興奮を残して、蘭丸が帰って行く。甲斐と軽めの抱擁。

 一転して、バラード。 
 「二色の灯」 
 甲斐は確かめるように、2番の出だしをうたう。3番に入るところでもそうだった。 
 うたい終わって後退し、振り向くと、甲斐はジョージと松藤に「・・・・・・が全然きこえ なかった」と告げた。はじめの音楽用語はよく聞き取れなかったが、何かちょっとした アクシデントがあったのか。しかし、歌も演奏も泣けるほどよかった。客はほとんど誰も、 そのアクシデントには気づかなかったのでは。こういうセリフが聞こえてくるのも、真横の席 ならではやろうなあ。

 1番が静かな「渇いた街」から、「観覧車」「風の中の火のように」へ。ドラムの連打は、 昨日ほど激しくはない。ここにも変化が。

 「漂泊者(アウトロー)」が始まる。噂のブルース ヴァージョンだ。 
 「希望の時代だと言ってる」のとこで指を振る仕草はなし。3ヶ月間で初めてや。

 メンバーが去ってから、僕は感動に浸ったり、ときどき「甲斐ーっ!!」と叫んだりして いた。やがて甲斐コールへ。武道館を思い出す。

 全員が戻って、さあ「きんぽうげ」! 
 今日は武藤さんは冷静に、きちんと「コココン ココン」と叩いている。 
 最後のところは今日も、甲斐が後ろを向いて、松藤と向かいあって、歌いあう。そして 後奏へ。甲斐が前に出て行く。「ガツガツ!」と叫ぶ。Singer以降の「きんぽうげ」は、この 後奏が長いのがうれしい。

 イスは初めから用意されなかった。 
 「ラヴァー ホリック」 
 今日も立ったまま熱唱や。

 甲斐たちが姿を消す。 
 昨日、2回目のアンコールでやった「かけがえのないもの」が、すでに終わってるわけ やから、今日はもう出て来てくれないかもしれない。祈る気持ちで甲斐コール。必死に声を あげる。あの「新宿」は、絶対もう1回聴きたいねん!出て来てくれ!

 ステージに灯がついたときは、心からうれしかった。 
 メッケン、武藤さん、そして甲斐!まちがいなくやってくれる!

 「このROCKUMENTは、三方囲まれたステージでやったわけだけど。この形を考えた 俺がすごいんだけど(笑)、それを受け入れてくれたこの会場、スタッフもすごいわけですね。 それと、こうやってみんなが来てくれたからできたんでね。これがガラガラだったら、やりたく てもできないわけだから」 
 みんな、感激して大拍手。 
 「甲斐さんだったら、そんなことないよおーっ!」という女のひとなど、いろんな声が とぶ。 
 「今度はどういう形になるかわからないけど、また来年以降もやりたいと思ってます」 
 再び歓喜の拍手。「地方でもやれよーっ!」という声もあった。僕も「大阪にも来て やーっ!」と叫びたかった。

 甲斐がアコースティック ギターを弾き始める。 
 「新宿」 
 観客は誰も静かに聴いている。 
 昨日のように、歌い出しで歓声があがることもなかった。 
 2番が終わると、ギターの弾き方が激しくなって行く。ややうつむきかげんで、力強い ストローク。 
 右上からのスポットライトを浴びて、うたう甲斐。今でも、その情景と歌声が頭から はなれない。この日の「新宿」のことを、多分僕は一生忘れない。

 ライヴが終わると、僕らはステージの前へ突進した。甲斐が最後に投げたピックが、 そのあたりに落ちたからだ。でも、いくら探してもなかった。カメラマンのおじさんも協力して くれてんけど。 
 どうやら、最前列のファンがもう持って行った後やったらしい。それでもあきらめきれ ないのか、中には、幕をめくってステージの下にまで手を入れる人もいた。「それはさすがに ヤバいんちゃうん?」と思ってたら、案の定、すぐにスタッフが飛んで来て、「危ないよ!電気 通ってるんだからっ!」と鋭く叫んだ。

 仲間が近寄ってきた。握手。「今日のMVPは?」と聞かれたので、「やっぱり、「新宿」 でしょう!」と答える。挙げたい曲はたくさんあったが、1曲だけとなると「新宿」しか考えられ ない。

 上の階では、8月17日の早川義夫のチケットを売っている。「スコラ」や、東芝EMIの 中曽根純也からの花が飾ってあった。「英雄と悪漢」のライナーノーツで甲斐が、「グレート マジンガーより偉大な」と書いた、あの中曽根氏である。

 僕は、かなりいい気分やった。開演前から客が声をあげ、はじめっから燃えてたし。 最高のライヴやった。 
 ROCKUMENT6DAYSを終えた感慨を胸に、パワステの前にしゃがみ込んで、 新宿の空を見上げた。頭の中ではなぜか、「ミッドナイト プラス ワン」が流れていた。

 一緒に飲んだり話したりしていた仲間たちは、もうみんなホテルの自分の部屋へ 帰ってしまった。 
 ホテルを取っていない僕と、地元東京のツレは、始発の時間まで新宿の街をさまよう ことになった。どこへ行くあてもなかったが、足は自然と都庁を目指す。BIG GIGの場所へ。 
 話題は、昨夜のライヴ。いろんな曲の話もしたけど、もっぱら「新宿」に話が集中した。 本当にあの「新宿」はよかった。どれほど自分が感動したか、どれだけ「新宿」が素晴らしい 曲であるか。 
 都庁の真ん前に行ってみる。空が青みがかってきてる。爽快な気分や。ツアーが 終わってしまうことへの感傷なんて、まるでなかった。ROCKUMENTが次の甲斐の活動へ つながって行くことが、完全に確信できていたから。次も絶対すごいライヴをやってくれるぞ! という期待でいっぱいや。うきうきする。 
 青に染まった新宿の街は、美しかった。 
 冷たく澄んだ、果てしなくさわやかな朝やった。 
 このまま眠ってしまうのがもったいないような、とびきりの朝やった。

 

1995年6月30日(金) パワーステーション

 

かけがえのないもの 
ダイナマイトが150屯 
あり、か 
ブラッディ マリー 
地下室のメロディー 
やせた女のブルース 
ジャンキーズ ロックンロール 
レイン 
GET! 
港からやって来た女 
二色の灯 
渇いた街 
観覧車’82 
風の中の火のように 
漂泊者(アウトロー

 

きんぽうげ 
ラヴァー ホリック

 

新宿