CRY

Twitterには長いやつ

甲斐よしひろ ROCKUMENT

-Guitar of Friends-

 

1995年6月29日(木) パワーステーション

 パワステの前には、NHKのバンが3台。TVの収録があるらしい。いいぞ。 
 開場を待つ僕らの間を、「チケットあまってませんかー」と言いながら縫って行く ファンが何人かいる。今日は当日券も出ないのだ。 
 そら、4月5月のあのライヴ見せられたら、来たくなるって!ファンクラブの優先予約 でも、かなり電話かかりにくかったみたいやし。実際にチケットを取れなかった人もけっこう いたらしい。

 ステージ右横の席に行く。こっち側だけまだ行ったことがなかったので、5月が終わった ときから狙ってたのだ。ステージ前寄りのいい場所がとれた。やっぱり正面の5、6列目 より近い!サイドの席は3列ぶんぐらいしかないのだ。

 舞台後ろのスクリーンに、例の白黒の映像。もううつっているようなのだが、ぼやけて いて何だかよくわからない。でも、大きな歓声があがっている。横のモニターに目を移して みると、「Kai」のロゴがはっきりと映っていた。Tシャツのバックプリントのように見えたが、 どうだったのか。次第にスクリーンの画もくっきりしてくる。 
 5月はいきなり楽屋だったが、今回はカメラが通路を進んで行って、楽屋に入る趣向。 甲斐の姿が映し出され、ひときわ歓声が大きくなり、拍手も起きる。僕も「甲斐ーっ!」と 叫ぶ。蘭丸の姿も画面の端に。 
 写真撮影。なぜか蘭丸は入らない。5月より多く、4・5枚撮っていた。 
 さあ、甲斐がやって来る!興奮と緊張。今日は甲斐はサングラスをかけていない。

 ライトを浴びて甲斐が出て来る。歓声が爆発。 
 甲斐に続いて2人出て来た。メッケンともう1人。今日のオープニングは、1人で弾き 語りというスタイルではないのか。 
 甲斐が弾きだしたアコースティック ギターの調べ。 
 まさか!いきなり1曲目から、僕は「おおーっ!!」と叫んでしまった。ほんとにあの曲 をやるのか? 
 「目がーくらむほどのー駅のー人ごみをしり目にー」 
 ささやくように甲斐がうたいはじめた。間違いない。「新宿」や。 
 驚きと歓びの声があがり、拍手が起きる。が、この曲をじっくり聴くために、すぐに 客席が静まる。 
 甲斐は、静かに、やや淡々と、しかし情感をこめてこの歌をうたう。 
 間奏でヴァイオリンが入る。レコードと同じ、あのメロディ。 
 甲斐のヴォーカルは、少しタイミングをずらしたりして、自由自在に演奏のなかを 流れるような感じ。 
 2番の終わりに「ライリライリライリライリライ・・・」とうたうと、次の間奏から甲斐の ギターに力がこもってくる。静かな曲だからときれいに丁寧に弾くのではなく、力強さと気迫、 曲に思いを込める感じが伝わってくる演奏。 
 「この街にー食い物にーされないようにとぉ 力のかぎり歌いはじーめるー」と オープニングでうたうことに感じるものがあった。 
 短めの「ライリライリ・・・」のあと、曲が終わる。拍手。まちがえやすい曲やのに、 歌詞も完全やった。もう、感動。

 しみじみとした雰囲気を打ち破るようなドラム。キーボードが入ると、誰しもあの曲だと わかる。 
 「ダイナマイトが150屯」 
 たくましいビート。甲斐の動きに合わせて手拍子が始まる。今日は横の席やから スペースがあるし、後ろに誰もいないので、思いっきり暴れられる。拳をあげながらサビを 歌うのは快感やった。 
 動きまわる甲斐を4台のテレビカメラが追う。正面最前列に、左・右・中央と3台。 正面後方右寄りに1台。 
 間奏のあと甲斐はマイクを客席に突き出す。「ダイナマイトがよーっ!HOHOHOーっ !」と歌わせ、後は自分で引き受ける。 
 会場が熱狂してくる。「甲斐ーっ!」の声が大量に。

 「THANK YOU!」という第一声に続き、静かな曲にのせて「中島みゆきがくれた歌 を」。演奏が激しい曲に変わる。あのイントロ!予想もしてなかった! 
 「あり、か」 
 一郎のパートも甲斐が歌う。そこでは甲斐は、声を高く張りあげる。「ふーくーみー わらーいのよおる」とか。 
 繰り返しの2回目で「あり、か あり、か」と続け、これで終わったと思いきや、 「ラ~ヴ ラ~ヴ ラアア~ヴ・・・」というのがあった。忘れていた。そういや以前もそうやって たよなあ。

 「甲斐ーっ!」という声に「松藤ーっ!」というのが混ざっている。何わけのわからんこと 言うてんねんと思うが、待てよ。そういえば「ダイナマイトが150屯」のときにも、そんな声が とんでいたような・・・。 
 バックを見てみる。右端に武藤さんがいた。そうか。「新宿」のヴァイオリンは武藤 さんやったんや。何となくキーボードの人がやってるような気がして、見てなかった。 
 その左に目を移す。そこには、キーボードの前には、松藤がいた!!!ほんまに、 あそこにおんのは松藤や!!バンダナをして、パイナップル模様のシャツを着ていた。 
 甲斐しか見てなかったから、全然わからんかった。まさかバックのメンバーが かわっているとは。まさかまさか、松藤がいるなんて!しかもキーボード?!

 アコースティック ギターのイントロが始まる。今月もやってくれたか! 
 「ブラッディ マリー」 
 甲斐の歌い方は5月とちがっていた。やや突き放した感じで、力強かった。 
 松藤のコーラスがたくさん入る。レコードでは甲斐1人のところもハモったりする。 2人がこうやって一緒にうたう場面をまた見られるとは。 
 甲斐は今日も、「涙が光ってたー」とニュー ヴァージョンでうたった。 
 後奏は短めになっていた。松藤のコーラスといい、先月とはかなり印象がかわって いる。

 「ここで、メンバーの紹介を」 
 左端のメッケンから。次に、隣のドラムス田中一光。1人とばして武藤さん。そして、 「キーボード、松藤英男!」の声に、ものすごい歓声。 
 最後にジョージ。「ジョージーッ!」と至近距離で叫んだら、こっちを見てくれた。

 衣装を白にするかピンクにするか迷ってたけど、松藤の勧めでピンクを着ることにした、 という話。 
 「松藤とジョージは(甲斐の笑いの)ツボを知ってるから、刺激して俺に冗談を言わせ ようとする」とのコメントに、2人が声を出して笑う。

 「地下室のメロディー」。今日はバンドで。 
 基本的なアレンジはかわっていない。あの拍子を打つ楽器は、武藤さんが使って いる。 
 1番の途中で、甲斐が歌詞をトバしてしまう。手で客をあおって歌わせようとする。 それを見て大きくなった歌声を、「ヒュー、ヒューッ」という歓声がかき消す。 
 2番のサビが終わると、甲斐は「オーオオオオオオーッ」と切ない声をあげる。リズム にあわせて肩を揺らしたりしてから3番へ。 
 甲斐の声と、ギターの音色に情感がある。

 本格的なブルースが始まる。 
 「やせた女のブルース」。もちろん生で聴くのは初めて。 
 かなりのスローテンポ。これは他のバンドの曲をアレンジを変えてアルバムに収録 したものだが、今回さらに大幅に手直しされている。 
 そのゆっくりとした演奏にのって、甲斐はブルースらしくメロディーを変えたりしながら 歌っていく。 
 間奏。ブルース一色になった会場で、甲斐がささやく。 
 「ここで、今夜のゲスト。スライダーズの蘭丸を・・・」 
 蘭丸が現れ、ステージ左に位置をとる。右手で挙げたピースサインをゆっくりと左下に 振りおろす。前に歩いて行って演奏の開始。いきなり見せ場だ。 
 たっぷりと弾かせてから、歌が入る。「テーブルにすわってー コーヒー飲みながら  冷たく笑ってさあ」を2回繰り返す。一旦ブレイクし、甲斐がファルセットを聴かせて、それ から再び音がわきあがってエンディング。

 特徴あるギターのイントロに、客が跳び上がって歓ぶ。 
 「ジャンキーズ ロックンロール」 
 レコードに近い感じ。考えてみれば、正統派というか、ノーマルな「ジャンキーズ・・・」を 聴いたんは初めてや。ストレートライフ ツアーのときは、カウントを数えたりして特殊な アレンジやったし。 
 歌詞もほぼ完璧。「Jun,jun,ジャンキーズ ロックンロール」と歌うタイミングも ばっちりやった。 
 すごい盛りあがり。すごい熱気。甲斐も動きまわるし、客も大騒ぎや。 
 長めの後奏でフィニッシュ!

 次は、当然やるべきだとみんな納得の曲。 
 「レイン」 
 最初のきれいな音が奏でられると、みんな拍手。 
 「Call My Name」で拳を突き上げる。横の席は動きやすいから、思う存分。 
 歌い終わったあと「フーウウ」と高い声を出す回数が少なかった。

 「イカした女の歌をやるよ」という言葉を聞いて、歓声があがる。でも、何をやるのか 想像がつかない。 
 聴いたことのないイントロ。激しいロック。甲斐が歌い出して、やっと正体がわかった。 
 「GET!」 
 4月5月とは全くちがったアレンジ。もちろんCDともちがう。ゆっくりしたテンポで始まり、 微妙に速くなっていく。一定のペースできちっと速くなるのではない。メンバー1人1人のノリが 反映されて曲全体がつくられるという感じ。これがバンドの原点なのかもしれない。そのせい か、みんなとても楽しそうにプレイしている。甲斐も、松藤やジョージに笑いかけたりしてる。 蘭丸が洋楽の有名なフレーズを弾いてみせる。すごく楽しい間奏。 
 「シェキシェキシェキ」と叫んだ後、甲斐が「ベイベエー」とささやく。 
 最後にブレイクがあるのは先月までと同じ。

 ギターが鳴り出すと、客席が沸く。「港からやって来た女」。もう、大合唱や。 
 2番で甲斐は、動きまわりながら、ハナをかんでもらうポーズ。 
 間奏。ギターやキーボードに続き、メッケンのソロ。ベースの響きとともに3番へ。 甲斐が静かに歌い出し、客たちもそれを見守る。息をひそめるような雰囲気から一転して、 「まだ待あってるのさあーっ!」と腹の底からわきあがって来る声。本当に、ふりしぼるように。 同時に客席も再び騒ぎ出す。 
 「バイン!バイン!バイン!」と掛け声がかかり、「フーッ!」で思いきり跳び上がる。 しかもこれが4回もあって、うれしかった。もう叫びまくり。跳びまくり。 
 演奏が終わると甲斐が蘭丸の名前を呼びあげ、歓声と拍手、掛け声。蘭丸はすぐに は去らず、落ち着いた様子でギターを下ろしてから歩きはじめた。真ん中で甲斐と抱き合う。 去り際に近くから見ると、蘭丸は化粧をしていた。衣装は黄色に黒の水玉。 
 蘭丸はアコースティック ギターは弾かないのだ、という話を聞いていたが、その通り やった。その分、エレキギターが目立つ曲がしっかり選ばれてた気がする。

 甲斐がジョージに合図して、アコースティックの曲が奏でられる。静かな演奏。さっき まで熱狂していた場内が静まり返る。 
 3回響くギターが印象的なメロディー。「薔薇色の人生」やと思った。「人々が肩を 落として・・・」という歌詞を思いうかべ、甲斐がそううたい始めるのを待ってた。だが、甲斐は 別の言葉をうたい始めた。 
 「一番目の汽車が 来たら・・・」 
 「二色の灯」! 
 全く頭の中になかった。まさかこの曲をやってくれるなんて。もちろんライヴで聴けた のは初めてのこと。驚きの拍手が起こり、すぐに静まる。 
 せつない歌声。「行かないで・・・行かないで・・・」と、コーラスがかぶさる。 
 「流民の歌」に入っているものよりテンポは速い。感動を損なわない程度の、ちょうど よいアレンジだった。この曲にも、「今」の生命が吹き込まれているのだ。「砂時計の砂は 尽きて この世が終わっても・・・」というニュー ヴァージョンの歌詞もあった。 
 間奏も短め。「四番目の汽車が 来たら・・・」とうたった甲斐は、ゆっくりと後ずさり する。うつむいたまま。 
 最近この曲には注目してなかったが、よさを思い知らされた。泣ける。

 次も静かな曲。イントロではよくわからない。が、これはもしやあの曲ではないのか? 
 その通りやった。「渇いた街」 
 「ウォーオーオ」なしでいきなり「鉛色しいた」とうたい始めた。こういうアレンジでやる とは。 
 静かな「渇いた街」。この曲の持つシビアな痛みがむき出しで迫って来る。歌詞が 痛くて、恐いくらいだ。 
 1番が終わると、いつもの演奏に戻る。 
 後奏。いちだんと演奏がパワフルになる。スピーカーのすぐそばにいるので、ひとつ ひとつの楽器の音がよく聴こえる。今は特にドラムがすごい!「SLEEPY CITY」の前奏を 思わせるほど。叩きまくっている。

 続いて「観覧車’82」 
 3か月間通して終盤で歌われた。 
 何か、とてもさわやかで心地よかった。甲斐の歌と動きに酔っていた。甲斐がステージ の右端、僕の目の前に長い間とどまっている。うれしさで興奮する。

 「風の中の火のように」 
 今日も1番はアコースティック。ジョージのギターがきっかけで、全ての楽器が加わる。 楽器が増えるごとに、スピーカーからの音の波で、それを体で感じる。激しい音にあわせて、 右腕の皮がぴくぴくしているのがわかる。今までにズボンが震えるというのはあったけど、 こんなにスピーカーに近いのは初めてや。耳だけでなく、体全体に音楽が押し寄せて来る。 
 武藤さんが楽しそう。そうや、今日は彼の演奏も加わってるんやった。

 ブルース ヴァージョンの「漂泊者(アウトロー)」。今日は「最後の曲になりました」と 明言。 
 甲斐のヴォーカルは先月までよりも激しい。声を張りあげている。武藤さんのヴァイオリン も入っているが、3月の武道館とはだいぶ雰囲気がちがう。このアレンジになってからも、 「漂泊者(アウトロー)」は少しずつ変化している。

 アンコール。とにかく手拍子と甲斐コールに集中。ほかのことをする間などない。 
 メンバーが帰って来る。蘭丸もいてるぞ。 
 ゆっくりとしたリズムが刻まれる。来た、来た!やってほしかってん。 
 「きんぽうげ」 
 武藤さんが、「コココン ココン」と鳴らすはずのカウベルを、「コンコンコンコン・・・」と 鳴らしっ放し。甲斐とジョージが振り返るが、入り込んで叩き続けてる。 
 1番と2番の歌詞がごっちゃになったところもあったけど、そんなことはどうでもいい。 アクションたっぷりの甲斐に、大いに盛りあがる。 
 「ひびーわれーた ガラスーまどー」のところで、甲斐は観客に背を向ける。もちろん、 マイクを向けることもしない。松藤のコーラスを確かめるかのように、2人で顔を見合わせ ながら歌ったのだ。どっちも楽しそう。 
 歌い終えると、またステージを動きまわる。蘭丸が左前で弾きまくっている。ドラムの 連打。 
 長い後奏が終結に向かう。甲斐が叫ぶ。動く。 
 もう1度甲斐に紹介され、また抱き合ってから蘭丸が姿を消した。

 感謝の言葉のあと、「ラヴァー ホリック」 
 スタッフが用意したイスを自ら後ろへ下げ、甲斐は前に立って行き、マイクを両手で 握りしめて歌いあげる。 
 この曲の持つ妖しさよりも、純粋さの方が伝わってきた。

 全員が去って行く。感激の手拍子、アンコールを求める声が起こり、それが続く。 アナウンスが入らない。これは、やってくれるかもしれん。声援にいっそう熱が込められる。 頼む、やってくれ!スタッフが楽器をいじっている。いける! 
 白い照明がついて、甲斐たちが戻ってくる。 
 すごい歓声と拍手。「サンキュー!」と言った後、甲斐が言葉を続ける。 
 「最後の月だからやるんじゃないよ。そうしたら、今度こういうふうにやったとき最後を 狙ったりするだろう。甘いな。あくまでも、気分がノッたからやるんだからね」 
 ROCKUMENT初の2度目のアンコールに、みんな大喜び。 
 マイクスタンドがたくさん立っている。メンバーが横並び。甲斐だけが少し前に立つ。 甲斐を中心に、ステージ左がメッケン、松藤。右にジョージと武藤さん。この並びは、もしか して「破れたハートを売り物に」か? 
 「かけがえのないもの」 
 ヴァイオリンの音色が印象的。松藤はギター。ジョージのコーラス。 
 いい雰囲気。何だかおだやかな、あたたかい気持ちになるような終わり方やった。

 ステージのそばに寄って行った。手が届いたので、ステージにさわってみる。横側には、 正面のようにステージと客席の間にカメラマンが入るスペースがないため、すごく近いのだ。 同じように前にやって来た周りのみんなも、うっとりとした満足げな表情をうかべていた。

 

1995年6月29日(木) パワーステーション

 

新宿 
ダイナマイトが150屯 
あり、か 
ブラッディ マリー 
地下室のメロディー 
やせた女のブルース 
ジャンキーズ ロックンロール 
レイン 
GET! 
港からやって来た女 
二色の灯 
渇いた街 
観覧車’82 
風の中の火のように 
漂泊者(アウトロー

 

きんぽうげ 
ラヴァー ホリック

 

かけがえのないもの