CRY

Twitterには長いやつ

MARCH OF THE MUSIC

阪神大震災被災者支援コンサート-

 

1995年3月8日(水) 日本武道館

 こんなに早く戻ってくるとは思わなかった。 
 東京・日本武道館。Singerを見に来たあの1月14日から、ふた月とたっていない。 
 白い立て看板に、3日間の出演者が書いてあった。今日は飛び入りが多いようだ。 
 募金箱がならんでいて、女のひとたちが義援金を呼びかけている。

 甲斐が今日何をうたってくれるのか考えてみる。これまでの甲斐の発言を思い起こし ながら。

 男と女のラブソングは最高だ、と。だけど、その向こうに社会とか政治とかが 少しかいま見れるような、そういうラブソングがあればいいな、という、ね。  (85年 「ラヴ マイナス ゼロ」に関して)

 愛とか命っていうことについて歌います。 (93年 「Act Against AIDS」直前の ラジオ出演)

 「生きることを素晴らしいと思いたい」と書いたのは、もちろん僕個人のメッセージ だったわけだけど、ここのフレーズはもうこの時点ではオレ個人だけのメッセージじゃない なっていう感じがしたのね。 (95年 震災後のロングインタビュー)

 そうしているうちに入場。席はバックスタンドということで、心配していた。しかも、「北」 というのはステージの真後ろや。ちゃんと見えるのだろうか。しかし、チケットが手に入った だけでも、感謝しなければならない。 
 ところが、これが逆に、めっちゃいい席やった。近い!ステージはアリーナの北端に ぴったりつけて設置されているから、アリーナの1列目とステージの間にあるような空間が 一切ないのだ。アリーナ後方だった1月の席とは、比べものにならない近さ。視界を遮る ものもないし。 
 僕のJ列の後ろは通路やった。一見、J列が1階の最後尾に思えるが、実は後ろの 壁にK列L列の2段がへばりついていた。妙な席や。 
 周りにはけっこう甲斐ファンがいる。Singerの紺のトレーナーも目立っている。 僕はRED SUDDEN-DEATH TOURの長袖Tシャツ。

 6時半きっかりに開演。出演者が多いから、進行が遅れたら終わるのはすごい時間に なってしまうだろう。 
 ミュージシャンは舞台正面から見て左より登場するものだと思っていたが、 逆だった。舞台の右奥、つまり、バックステージの僕らの左手前から出て来るのだ。 バックステージからは、出演者が左側から舞台をのぼってくるのが見えるため、まず バックステージから歓声があがり、しばらくたって正面が沸くことになる。

 最初は右側の登場口を注目していたので、反対側から黄色いスーツの集団が走り 出て来たときは少し驚いた。何者かと思ったら、スカパラやった。 
 ヴォーカリストといっていいのか、演奏にのせて言葉をはく男は、スキンヘッドだと 記憶していたが、黄色い髪の毛やった。同一人物だろうか。 
 立ち上がって手拍子した。インストを最初にもって来たステージ構成はうなずける。 
 2曲演奏して、スカパラは去った。キーボードがよく暴れていたのと、バックステージ のファンにも気を配ってくれるメンバーが多かったのが、印象に残った。

 キーボードなんかがのっていたセットが動かされ、もう1つの大きなセットが真ん中に 移される。大掛かりなセッティングに、客がどよめく。合計3つのセットが、それぞれ台に のせてあり、それを何度か入れ換えてのステージになるようだ。 
 その間に、田代まさしと桑野が出て来た。司会である。2人に呼ばれて、西田ひかる も登場。2月15日に報知新聞で出演予定者を見たときから、西田ひかるは何をやるん やろうと思っていたが、やっぱり司会やったんや。

 3人が2番目の出演者を紹介する。「次はチャゲ・・・」と言った瞬間、わけのわからん くらいの歓声があがり、その後は聞こえなかった。甲斐ファンの歓声とちがうのは、ほぼ 100%が女の子の声だというところ。男のファンの太い声はなく、黄色い歓声しか聞こえ ない。 
 歌が始まっても、2人が顔を向けたり指差したりした方向にいるファンが、ひっきり なしに叫ぶ。後ろにいるせいもあるんやろうけど、キャーキャーいう声で歌詞がはっきりと 聞き取れない。もっとも、これはチャゲや飛鳥にかぎったことではなく、ほとんどの ヴォーカルがそうやってんけど。 
 僕が見た感じでは、チャゲアスのファンに、歌を聴こうとする様子はなかった。 
 飛鳥も、女性ファンをキャーキャー言わせるような振る舞いに一生懸命やった。 わざと客に見えるように歌詞カードを盗み見るふりをしたり、長いマイクのコードを 引っ張って腕に巻いたり。 
 意外にもチャゲアスは1曲だけ。「この後も、素晴らしいアーティストがたくさん 出ます。最後まで楽しんで」と言い残して行った。

 せめて2曲やってくれという不満と、さっきまでの黄色い声の後で、次に出るやつは つらいだろう。そう思っていると、そんなムードをふきとばすのにぴったりの2人が出て来た。 
 とんねるず。 
 曲は、震災チャリティーにふさわしく「いちばん偉い人へ」 
 淡々と歌うノリタケに対し、タカアキは出て来たときからオーバーアクション。 手を突き上げたり、ギタリストと並んで演奏するポーズをとったり。こういう広い場所での 短い出番となると、タカアキの積極的な動きが生きる。 
 とんねるずのステージはよかった。帰り際には、ギタリストに軽く謝っていた。

 演奏はチャゲアスのときから、オールスターズバンドという、この日のための メンバーになっている。ヴォーカリストが次々かわっても、バックバンドは一定という訳だ。 そのせいもあってか、大阪城ホールで見た「Act Against AIDS」より進行はスムーズ。

 高橋克典が飛び入り。旬の人なので、客がよろこぶ。

 山根康広は2曲。関西出身だからということなんかな。 
 キーボードの弾き語りと、手を突き上げるアクションの歌。

 accessの浅倉大介が、黄緑と銀の派手な衣装で出現。髪の長いギタリストも 一緒だ。 
 TM系のファンが沸く。accessのイメージカラーなのか、手袋など銀色を身につけた 女の子が多かった。 
 浅倉は、ステージ左前(バックスタンドの僕からは右)でキーボード演奏。ヴォーカル はギタリストがとる。 
 髪型から宇都宮隆なのかと思ったが、このギタリストは葛城哲哉と名乗った。 まさか!これがKAI FIVEに入るのが決まりかけていた、あの葛城哲哉なのか? 譜面を見ながら弾いたりして、何か想像してたんとちがうなあ。

 再び田代と桑野が姿を見せる。 
 「みんな大丈夫?傘持ってきた?」と田代。観客が不安の声をあげると、「ああ、 よかった。持ってたら荷物になっちゃうからね」 
 古典的なパターンやけど、こういう場ではその方がいい。この2人の掛け合いには、 けっこう笑かされた。

 西田ひかるが衣装を変えて出て来た。 
 「ROSE」という英語の歌をうたうという。司会だけじゃなかったんや。 
 うたう前に歌詞の意味を説明する。「心の中に希望の花を咲かせよう」という感じ で、このイベントに合った内容やった。 
 これをキーボード弾き語りで。すでにオールスターズバンドは引き上げていて、 ここからが第2部・アコースティック編のはじまり。

 歌と演奏を終えた西田ひかるは「次は稲垣潤一さんです」と言って去りかけたが、 あわてて戻り、「ごめんなさいっ!次は中西圭三さんです」と訂正。 
 頭を下げる西田ひかるに「気にしてないよ」というふうに手を振ってみせた 中西圭三は、開口一番「こんばんは、稲垣潤一です」 
 中西も飛び入りやった。

 中西圭三も、続いて現れた本物の稲垣潤一も、バラードを1曲だけ。 
 これまでみんなほとんどMCなし。「出られてうれしく思ってます」と言うくらい。

 女性歌手が舞台にのぼってくる。 
 もしかして、マルシアが飛び入り?演歌をうたうのだろうか。 
 しかし、ツレに「マルシア?」と尋ねると、「橘いずみちゃう?」と平然と返されて しまった。マルシアが出るはずないか。 
 橘いずみは歌い終わったあと、「がんばれー、神戸ーっ!」と叫んだ。

 もうかなりドキドキしてきた。そろそろ甲斐ちゃうか、と思って緊張するのだ。まだ 出ていないバンドを思い出してみたりする。 
 甲斐がライヴのミニ編成コーナーでよく使うのに似たギターを持っているスタッフが 見える。やはり出番は迫っているのか?

 しかし、次に姿を現したのは、奥田民生やった。 
 新曲の「息子」をうたう。 
 猫背でだるそうに歩き、小さく手をあげる姿勢は、奥田民生のイメージそのまま やった。

 再度、TMファンが騒ぐ。木根尚登宇都宮隆が出て来たのだ。チャゲアスもTMも どっちも好きという客が多いようだ。 
 「3人そろってないと、TMの曲はやらない」ということで、「あのすばらしい愛をもう 1度」と「見上げてごらん夜の星を」の2曲。 
 神戸の人たちに贈る歌として合っていると思った。

 左の登場口の方を必死で見ていたのに、気がついたときには、ステージ上に甲斐が いた。武藤さんもいる。もう1人、キャップの下から長髪を見せたギタリスト。 
 いつものように「甲斐ーっ!」と大声で叫ぶ。ほかの甲斐ファンからも声がかかる。 周りの女の子たちが驚いている。この世の中に、男が大声で声援するミュージシャンがいる ことを、初めて知ったかのよう。「甲斐ーっ!!」という声の迫力に、少しこわがってもいた。 
 マイクスタンドが3つならんでいる。甲斐は、その前に出て行くまでに1度後ろを 見た。が、右の方を振り返っただけで、僕の席は見てくれなかった。不機嫌そうな顔やった。

 後方にいる僕から見て、右に武藤さん、真ん中に甲斐、左がギター。甲斐は名乗ら なかった。すぐにギターとバイオリンが鳴りはじめる。静かで暗い曲調。会場が異様な 雰囲気になってくる。きれいなバラードは何曲かあったが、こういうメロディは今夜はじめて だ。まさか「薔薇色の人生」だろうか?そのとき、甲斐の声が響いた。

   世界中から声がする     立ち上がる時だと叫んでる 
   テレビをつけたら言ってる  この世の終わりも間近だと 
   SOSを流してる

 明らかに、それまでと会場の空気が変わっている。何が始まったんだ、という感じ。 デビュー前の甲斐バンドが、ハッピー フォーク コンテストで「ポップコーンをほおばって」 (レコードとは歌詞もアレンジもかなりちがうヴァージョン)をやったときも、こんな異様な 雰囲気だったのでは、と想像する。 
 いつものように「やりきれないさ」のところで声を張り上げることはなかった。 静かにその部分をうたった。メロディも低く下げて行った。

   世界の足音が聞こえる  体を動かせと叫んでる 
   車のラジオが言ってる   命の値段も下がったと    
   愛こそ救いだと しゃべってる

 強烈な詞が胸に突き刺さる。その迫力に緊張してくる。こんなふうに 「漂泊者(アウトロー)」の歌詞を聴いたのは、初めてだ。これほど過激な詞だったのかと 思い知らされた。 
 いつもの間奏を、バイオリンとギターだけが奏でる。「HEY!HEY!HEY!」でも 「漂泊者(アウトロー)」をアコースティックでやったけど、ドラムもないし、またちがった 印象だ。

   長く暑い夜の海を      愛しいものの名を呼んで 
   みんなさまよい流れてる  俺はアウトロー お前が 
   火を点けたら爆発しそう

 「ウォーオーオ」と甲斐がうたう。真ん中の「オー」を高く。 
 それを繰り返し、次第に身振りで、客にも声を出せと示す。僕は詞に圧倒されていた のと、静かだった曲調のため、なかなか大きい声が出せなかった。少しずつ客の声が 大きくなる。客電がつけられる。甲斐と客たちが交互に「ウォーオーオ」と叫ぶ。時折、 甲斐たち3人が身体の底からふりしぼった声で「ウォーオーオ」と叫び、それが武道館に 響き渡る。 
 客の「ウォーオーオ」という声が続くなか、甲斐が歌をかぶせる。

   誰か俺に愛をくれよ 
   誰か俺に愛をくれ 
   一人ぼっちじゃ  一人ぼっちじゃ 
   やりきれないさ 
   やりきれないさ

 まさかアコースティックで「漂泊者(アウトロー)」をやるとは。 ものすごい「漂泊者(アウトロー)」だった。 
 お客さんのなかには「よくわからない曲だ」と思った人もいるだろう。特殊なアレンジ やったし。それでも、何人かの心には引っかかりができたのではないだろうか。 
 前日の石川よしひろのイベントでは、アコースティックで「風の中の火のように」と 「破れたハートを売り物に」を歌い、それがまたとてもよかったので、今日もおんなじ2曲を やるのかなあと思ってたけど、貴重なものが見られてよかった。大阪駅のイベントでも そうやったように、甲斐はこういうとき、必ずその日だけのスペシャルをやってくれる。 
 また、イベントで客といっしょにうたうことも、重要視しているようだ。「Act Against  AIDS」の「風の中の火のように」での、「ララララ・・・」が思い出される。

 「今日いっしょにやってくれてるバイオリンの武藤祐生とそれから、ギターの鎌田 ジョージに拍手を」 
 その間に、舞台後方にさげられていたオールスターズバンドのセットのキーボード に、懐かしの竹田元がついた。オールスターズバンドのメンバーで、僕が知ってたのは 彼だけやった。竹田元はとてもうれしそうに加わって、演奏した。

 今度は明るい曲なので、すぐに全体から手拍子が起こった。 
 「破れたハートを売り物に」 
 「あの雲をはらい落とし」という言葉が胸に響いた。筑紫哲也が、 「男がへばったときに聴く歌だ」と言った曲。どんな状況でも希望を見出す歌。今日に ふさわしい。 
 竹田元がはりきってキーボードを効かせていた。ほんとに楽しそうに、にこにこ している。

 演奏が終わると、「漂泊者(アウトロー)」のときの異様な雰囲気と変わって、 思ったよりずっと大きくたくさんの拍手。 
 「サンキュー、ありがとう」と言った甲斐の声も晴れやかやった。 
 MCはなかったけど、甲斐の気持ちが伝わってくる、いいステージやった。 来てよかった。

 甲斐たちが去ると、マイクスタンドは全て片づけられた。一応、甲斐は「第2部  アコースティック編」のトリだったようだ。 
 いつまでたっても、新しいバンドセットは運ばれて来ない。だだっ広い黒い空間が あるだけだ。そこへ、黒ずくめの服を着た長髪の男たちが駆け出してきた。黄色い歓声が あがる。SMAPや。全くの飛び入り。へえ、やつらも参加するのか。が、1人丸坊主の奴が いる。あれ、SMAPにこんなんおったっけ?よく見ると、女性らしきメンバーも。 
 完全に忘れていた。ZOOも出演するんやった。TMファンたちにキャーキャー 言われている。 
 丸坊主は、他のメンバーがきっちりと踊るなか、自由に動きまわって、1人で大技 に挑戦(これがまた、よく失敗するのだが)したりして、好感が持てた。 
 2曲終了。唯一知ってる「チューチュートレイン」はやれへんかった。と思っていると、 全員が縦に並び、「チューチュートレイン」が始まった!ZOOだけ3曲やるとはなあ。

 神戸出身の鈴木杏樹が出て来てしゃべってる間に、バンドセットが用意された。

 長髪のヴォーカルが現れて、こう言った。 
 「こんばんは~っ、筋肉少女帯でえ~す!」 
 意外なほど大きな拍手。 
 始まった曲は「日本印度化計画」。「オレにカレーをくわせろ~」「日本をインドに してしまえ~っ」という文句にのって、客が踊っている。震災チャリティーの選曲がこれかあ。 
 大槻ケンヂの長いMCが続く。 
 「みんな~っ、プロレスって知ってるか~?」から始まって、みんなで神戸に向けて、 猪木の「ダアーッ!」を叫ぼうという提案。冗談ぽく言ってるけど本当は気持ちがこもって んのかなと考え、僕も「ダアーッ!」に参加しようと思った。しかし、やる直前にあまりにも くだらないギャグを連発するので、ムカッときて、やめた。あんなおちゃらけた叫びなんか。 俺が被災者やったら、バカにされてると感じて腹が立っただろう。 
 次に「たたかえ 何を? 人生を」という曲。歌詞は、ずっとそれを繰り返すだけ。 途中、大槻は後ろのセットをよじ登った。バックステージの客、大よろこび。そして最後 には、「人生を たたかえ~~っ」と叫んだかと思うと、どんどん服を脱ぎ始めた。 トランクスまで脱ぎ、女の子たちが「キャーッ」と騒いだが、下に海パンをはいている、と いうオチやった。 
 大槻ケンヂは好きやったのに、歌以外のことばかりで盛りあげようとする姿勢に がっかり。

 次のバンド登場まで間があった。が、僕の席からは舞台ソデに待機している パッパラー河合の姿が見え、次は爆風やとわかっていた。それにしても河合は、1人だけ 早く来てギターのチェックだろうか。感心や。 
 スタッフの合図で、パッパラー河合が1人で登場。ピンスポットを浴びる。 
 「みんな~、神戸はな~、寒いんだよ~」と叫ぶ。「でもな~、オレもな~、寒いんだ よ~」と言った瞬間、着ていたコートを脱ぎ捨てた。 
 信じられない光景。全裸に見えた。が、うしろはTバックになっていた。でも、ほとんど 全裸とおんなじや。作り物かもしれないが、前は陰毛丸出しに見えた。そして、靴下の ようなものをかぶせた局部を誇示。 
 大部分の客はひいていた。何考えてんねん!俺は頭にきた。これで完全に シラけた。 
 サンプラザ中野たち3人が登場して、歌うは「大きなタマネギの下で」。あんな後に、 よう歌えるもんや。服を着てきた河合は、途中から演奏に参加。 
 歌い終わって中野が、「すいませんね~、ウチの河合が。大槻に負けたくないって 言い出して・・・」やと。 
 軽い宣伝に続けて、新曲もやっていた。

 田代と桑野の紹介で、trf登場。大きな歓声。trfは飛び入りである。 
 ヒット曲を3曲。なんで飛び入りのバンドが3曲も歌って、しかもトリやねん! このイベントの理念を疑う。もしtrfが来えへんかったら、何か、あの爆風スランプがトリ やったんか?あほらしすぎる。 
 場内は大騒ぎ。すでに怒っていた僕には、もうどうでもいい。 
 バックで踊る髪の長い女性が、大槻ケンヂが登った辺りに登ろうとして、 落ちた、らしい。スタッフに運ばれて行く。それでもみんな、お祭り騒ぎ。救援コンサートで 重傷、なんてシャレになれへん。新聞の見出しが頭に浮かぶ。 
 けれど、しばらくたって彼女はステージに戻ってきた。ほっとする。 
 前のメンバーが先に舞台を下り、最後に残った1人がシンセを弾いている。 女の子がキャーキャーいってる。 

 田代、桑野、西田、杏樹が出て来てコメントを述べる。 
 今さら神戸に向けてのメッセージを聞いても、むなしい。あんなステージの後じゃあ な。 
 全員がもう1度姿を見せる、とかいうこともなく、終了。時間はそんなに遅くなって なかった。

 「ああいう連中のなかにあって、甲斐はほんとうの歌を知らしめてくれた」という 思いと、「あんなのと甲斐をいっしょにされたら困る」という気持ちが入り混じって、複雑。 
 女の子が9割以上を占める会場の雰囲気は、甲斐のライヴと全然ちがった。 氷室や布袋が出た昨日は、男の客も多かったのだろうか。

 震災や神戸に対するメッセージが感じられたアーティストは少なかった。 
 ヒット曲をやるのはいい。チャリティーのイメージからはなれた歌だったとしても、 客を楽しませるのもプロなのだ。 
 でも、裸になってはしゃぎまわるなんて、ひどすぎる。神戸の人が見たら、どう 思っただろう。今日のチケット代5千円は、全て義援金にされるということですばらしいが、 金さえ送れば何をやってもいいのか。 
 僕は笑い大好きやし(裸になるのが笑いやとは思わんけど)、何でもかんでも 不謹慎だ、自粛しろ、なんていうのは大嫌いだ。それでも、あれはあかん。むちゃくちゃや。 
 見ていた客たちも、地震は他人事だと思ってる人がかなり多いように感じた。 どうしようもないことかもしれんけど、近畿と関東では、相当とらえ方がちがうようだ。 本棚が倒れただけですんだ僕が言うのはおこがましいけど、5千人以上の方が亡くなって、 たくさんの人々が今も苦しんでいるということを、もう忘れてしまっているのではないか。 このイベントの主旨に賛同して参加したはずのミュージシャンにして、あの始末。 
 そんななか、甲斐の存在感と歌声は異彩を放っていた。すごいメッセージを感じた。 僕は、甲斐ファンであることを、誇りに思う。

 

1995年3月8日(水) 日本武道館

 

漂泊者(アウトロー) 
破れたハートを売り物に