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Twitterには長いやつ

甲斐よしひろ 21st anniversary special event Singer

日本武道館 1995年1月14日(土)

 不覚やった。待望の武道館やというのに、前日に熱を出してしまったのだ。「テレフォン  ノイローゼ」ではないが、39度近くある。注射と薬で、形のうえでは熱は下がったものの、 フラフラである。くそお、おとといまではピンピンしてたのに。今日武道館に行けなかったら、 一生後悔する。朝医者に行ってから、タクシーで新幹線へ。

 地下鉄の改札を出たところから、意識を集中した。初めての武道館や。甲斐バンドの ホームグラウンドと呼ばれた場所。地上に出て、武道館が目に入ってくる瞬間をきっちりと 体験したい。 
 全く知らなかった。堀があって、大門がある。これは、お城ではないか。関東の仲間に 聞くと、江戸城だという。そうなのか。 
 橋をわたり、門をくぐる。すでに興奮してきている。周りの仲間もはしゃいでいる。 ダフ屋が多い。露店も出ている。 
 もう1回門を抜けると、武道館の姿。正面に、今日のコンサートを告げる横看板が かかっている。「甲斐よしひろ」とどでかく書いてある。やっぱりこうでないと!大阪城ホール もそうやったもんなあ。 
 たくさんの人々。ロープで順路が仕切られてる。グッズ売り場も大混雑。 
 各地のリクエスト集計結果を書いた大きな看板。ディスクガレージ、サンデーフォーク、 サウンドリエーターの東名阪イベンターと、ファンクラブBEAT VISION、ラジオ「オール ナイト ニッポン」の5つに分かれている。 
 ディスクガレージは、三郷での途中経過のまま「LADY」がトップで逃げ切ったらしい。 
 目を引くのは、サンデーフォークの3位に入った「暁の終列車」。これほど上位だ とは。 
 大阪は、やはり「きんぽうげ」が1位。1月5日のあの異常なまでの盛りあがりを 思い出して、大いに納得。「バス通り」が他の地区、メディアと比べて低いのも、ライヴでの 反応どおりや。そのかわり、「冷たい愛情」が上位に入っているのがうれしい。 
 僕はファンクラブに、「ブライトン ロック」「LADY」「冷たい愛情」「スウィート スムース  ステイトメント」「グッド フラストレーション」の5曲をリクエストしていた。

 アリーナ、1階、2階、に分かれて長い行列ができている。さすがに大会場は雰囲気が ある。わくわくするぞ。

 開場!すぐに1階席に入り込んでみる。普通の会場で2階席に当たるところだ。 僕の席はアリーナRブロックだが、上からステージの様子を見渡しておきたかったから。 1階席はステージの高さとちょうどよく、とても見やすそう。 
 ステージは両サイドにのびている。左右の端は高くなってて、途中は坂だ。 センターの張り出しもある。 
 照明の規模がすごい。数も相当多いし、客席の横の壁にまで装備してある。 
 ステージのセットは、今までと同じようにドラム前に階段のあるもの。後ろは真っ黒な 幕で、バック ステージというのは、左右いちばん端の黄緑の座席らしい。 
 やはり、体育館クラスは桁がちがう。 
 階段を下りて、アリーナへ。Rブロックというのはどこか心配していたが、思ったより ステージは遠くない。ブロック自体はアリーナ最後方の右寄りになるのだが、大阪城ホール の後ろと比べると、ぐんと近い。 
 建物が八角形やからやろう。大阪城ホールは楕円形やから。 
 見上げると、2階席は聞いていた通り、かなりの傾斜。立ったら恐怖感があるというの もうなずける。 
 僕は、水なしで風邪薬を飲んだりしながら、開演を待つ。すでにあちこちから声が 飛んでいる。

 突然BGMがぶった斬られる。一気に全ての明かりが落ちる。「ウォーッ」という大歓声。 
 武道館でも登場の仕方は同じ。スタッフが甲斐の前に立ちはだかっている。やがて、 甲斐の声。 
 冒頭の部分を歌い終え、イントロが鳴りだすと、甲斐は左右の端まで行って手を あげ、遠くのファンにアピール。それから、歌本編へ。 
 やはり、甲斐は大会場に映える!こう言っては何だが、他のメンバーとスケールが ちがう。

 「氷のくちびる」1番が終わると、甲斐とジョージはいつもよりずっとはなれて立つ。 そこへ、赤と青のライトが交互に。HISTORY LIVE以来続けている演出だが、広い ステージでやると、より格好いい。甲斐の白い上着がライトの色に染めあげられていく。

 「今夜は、これが甲斐だ!という部分を全て見せたいというふうに思ってます。 やるぜ、目一杯!」

 「風の中の火のように」 
 「なぜみんな1人で踊る」のところで甲斐が歌詞をトバす。マイクを客席に向け、客が 大合唱。 
 「ダニーボーイに耳をふさいで」から「絶対・愛」 
 甲斐が左右にのびたステージの1番端まで行く。甲斐が近づいて来たあたりの観客が めちゃくちゃ沸く。バック ステージの人なんて、甲斐がすぐ目の前や。今日の甲斐は、 広いステージの上をほんとうによく動く。 
 天井から吊っているのも含めて、巨大なスピーカーが数多くある。大久保のドラムが ズシーン、ズシーンと響いてくる。そのビートにのって、僕らも歌いまくる。

 センターのステージで「テレフォン ノイローゼ」 
 すごい大歓声。東京のファンにとっては久々やもんなあ。三郷ではやれへんかったし。

 「安奈」 
 手拍子もせず、歌うこともせず、ただじっと甲斐の声だけを聴く。感動的。

 リクエストの話。 
 「「翼あるもの」なんてそんなに高くないんだよ。ヒット曲なんて1つも入ってないし。 ・・・だって、「オールナイト ニッポン」の特番か何かやったら、「バス通り」が2位か3位 なんだぜ」 
 大きな拍手と歓声。 
 「さあ、このあと何が出て来るのか」

 「メモリー グラス」 
 歌い出した甲斐の声と、客の驚きの叫びが相まって、背中がゾクゾクした。手首から 肩へかけて、両腕にさぶいぼが走る。陶酔。 
 ここからの3曲、とにかく甲斐の声を聴く。 
 ほんとうに泣きそう。うるうるしてきた。

 「ここでお待ちかねの・・・(大歓声にかき消される)・・・松藤英男!田中一郎!」 
 すさまじい歓声。「一郎ーっ!」「松藤ー!」の声。 
 「本当は、当然のようにもう1人大森信和がここにいなくちゃいけないんだけど、 本当に土壇場に来て体調を崩して。昨日電話したんだけど、もうかなりよくはなってたんだ けど、「よろしく」とみんなに言っていた」 
 あたたかい拍手。 
 「何か、こういうことが多くないか?」 
 これはツトムのことを言っているのか。

 3人でならんでイスにかける。左に一郎。右に松藤。 
 一郎らしい赤い柄のシャツ。かわった髪型。 
 松藤。甲斐バンド初期のような、両側にたらした長髪。 
 甲斐がちょっと弾きかけてやめる。顔を見合わせて笑う3人。「松藤ーっ、何か しゃべってえーっ」という声もとぶ。 
 甲斐は脚を組んで、小さなかわった形のギターを演奏しはじめる。 
 「バス通り」! 
 美しい声。名曲や。こんなにいい歌やったとは。やっと本当のよさがわかったのかも しれない。 
 涙がにじんでくる。何度も何度もまばたきした。 
 フォーク時代の甲斐バンドを見ることができた!松藤の髪!俺は今日までずっと 応援しつづけて来たんや! 
 いろんな感慨が胸に湧いてきた。

 「今の曲は、当初は決まってなかったんだけど、1人欠けるというのもあって、やっぱり、 「じゃあ、デビュー曲をやろう!」 そう決まったわけです」 
 「もう1度紹介を。ベースギター兼サイドボーカル、松藤英男、拍手を!」 
 「ギター、田中一郎、OH YEAH!」

 セット全体が黄緑の照明に映し出される。さわやかな前奏。「シーズン」か? 「BLUE LETTER」か? 
 「シールクーのかみーを・・・」 
 大歓声。 
 知ってる歌詞やけど、何の曲かわからない。 
 甲斐が歌ってるからや!「ビューティフル エネルギー」! 
 とてもきれいなハーモニー。 
 2番の途中で、松藤が1人でヴォーカルを。拍手と歓声がわき起こる。僕も松藤を はげまそうと手拍子。自然に歌も出た。 
 「サンキュー!」と甲斐の声。

 一郎が「港からやって来た女」のイントロを弾きはじめる。甲斐バンドのメンバーに なってない頃やけど、アルバムから一郎が参加してた曲。今夜にぴったりや。 
 大盛りあがり。大合唱。 
 間奏。メッケンのソロで一旦静まって、「まだ待あってるのさあ~」から再び盛りあげた のが、メリハリあってよかった! 
 3番のサビから、いつものようにジョージが甲斐と1つのマイクで熱唱。「フーッ!」は 2回。

 「きんぽうげ」の前奏。甲斐が左右のいちばん端まで走る。その分だけ演奏が長い。 大会場のライヴはこれがいい!最近ホールクラスのライヴに慣れていたが、体育館クラス はまた別モンや。感激! 
 今日の「きんぽうげ」は客席にマイクを向けることなく、甲斐が1人で歌いきった。 
 長い後奏。甲斐がまた走り出す。いつの間にか一郎がセンターに出て弾いている。 甲斐もそこへ戻ってくる。甲斐が左手を大きく振って松藤を呼ぶ。甲斐の右に松藤がやって 来る。3人そろったところでフィニッシュ! 
 とてつもない盛りあがり。われんばかりの叫び声。 
 「田中一郎、松藤英男!拍手を!」 
 大声援のなか、2人が去る。 
 本当に、1番いいとこで出したなあ!松藤がドラムスでなくて、ずっと前にいたのも よかった。

 少し間があって、「LADY」 
 今日はあの赤いライトは、Vの字にならべてあった。

 「嵐の季節」 
 武道館全体が合唱。

 「冷血(コールド ブラッド)」のライティングがすごい。今夜のライヴは、広い武道館の 天井も使っている。 
 僕の声はこのへんでもうめちゃくちゃに。

 「漂泊者(アウトロー)」では跳び通し。風邪なんかふき飛んでいた。 
 興奮しきってて、このツアー4本見たのに「漂泊者(アウトロー)」のライトだけは 全く記憶にない。 
 「翼あるもの」のときは汗が目に入りまくり。でも、絶対に目は閉じひんもんね。 一瞬たりとも見逃してなるものか。

 1回目のアンコール。脱いだシャツで汗をぬぐう。「甲斐ーっ!」と叫ぶ。 
 広くて甲斐コールがなかなかひとつにならない。ちょっとずつテンポが速くなる。 これ以上速くなったら「甲斐!」って叫ばれへん。そう思うぐらいにまで速くなった頃、全体の 手拍子がひとつになった。快感。 
 すぐにライトがついた。 
 演奏前からずっと手拍子。そして「GET!」 
 大騒ぎでめっちゃ楽しい。「GET!」のとこでは跳び上がって拳を上げた。「ウォー・ レエッ!」から「シェキシェキシェキ ベイベー ハーッ」はもちろん、「オーッ」とか「ハアーッ」 とか甲斐が口にしたことは、いっしょに一字一句もらさず叫んだ。 
 マイクが床に落ち、甲斐はマイクスタンドを放り投げる。そこでまた歓声。

 「渇いた街」から「橋の明かり」へ。

 「20周年はテメエのキャリアにどっかりあぐらをかいてる感じがする。21という数字は、 21世紀へということにも通じるし。不安をはらみつつ、新たなスタートラインに!」 
 「淀みない、まっすぐな言葉で歌を投げつけたい」

 「希望の歌を」と「光あるうちに行け」 
 甲斐のヴォーカルが広い武道館に響きわたる。

 「愛と呼ばれるもの」 
 やはり手拍子すると軽くなってしまう気がする。そういう歌だ。拳を握り、甲斐と歌う。

 2回目のアンコール。 
 このツアーの白いTシャツを着た甲斐が先頭。松藤と一郎の2人も登場する。 「拍手を!」 
 「これだけ一体感があったら、街で見かけたら声をかけられそうだけど、そういうこと はやめてくれ(笑)」 
 甲斐が「一体感」という言葉を使ったのが、何だかうれしかった。 
 「(バックステージを示して)見切りが悪い君たちも、よく見える君たちも、僕らは ひとつだよ。ハハッ」 
 MCのたびに何度も「こんなにつめかけてくれて感謝してる。サンキュー。ありがとう」 と言ってくれた。「極度の寒さの中を来てくれて・・・」とも。

 甲斐バンドの3人が並んでマイクスタンドの前に立つ。右手やや後ろにジョージと 武藤さん。左後方に大久保選手とメッケン。今夜はメンバー紹介がなかった。

 「破れたハートを売り物に」 
 天井じゅうの明かりがつく。客席に白いライトがふりそそぐ。明るい光を浴びながら、 すごい合唱。 
 「バス通り」のときとちがって、もう感傷的な気分はなかった。おおらかで、晴れやかな 気持ちになる。

 松藤と一郎が肩を組んで去ろうとする。 
 「もう1度拍手を!田中一郎、松藤英男!」という甲斐の言葉に、2人が戻って来る。 ファンに応えて、また帰りかける。 
 メンバーが前にならぶのを見て、再び2人が戻って列に加わる。大阪と同じように 肩を組まない礼。 
 松藤と一郎が今度こそ去って行く。他のメンバーも。甲斐もいつものようにジョージと 肩を組んで行ってしまう。 
 すごい歓声。

 もうほんと、めちゃくちゃ最高によかったあ!! 
 どうしてもそうしたくなって、いっしょに身に来た仲間と握手。 
 席をはなれて1番後ろに行ってから、ステージに向かって「甲斐ーっ!」と叫ぶ。 
 どうしても言い足りない感じがして、ど真ん中のミキサーの後ろから「甲斐ーっ!」 
 いつもみたいに口に手をそえるのではなく、両手をひろげて。すごい解放感。 
 あと7回くらいは叫びたかった。何回叫んでも足りない。

 僕は感激屋なので、生きててよかったと思う瞬間は多いねんけど、今日ほどほんまに、 生きててよかった!と思った日はない。 
 心の底から感激。もちろん生涯ベスト1。一生の思い出や。 
 これからの人生、今日のよろこびを胸に生きて行ける。それがうれしい。

 

1995年1月14日(土) 日本武道館

 

ブライトン ロック 
氷のくちびる 
風の中の火のように 
ダニーボーイに耳をふさいで 
絶対・愛 
裏切りの街角 
嵐の明日 
テレフォン ノイローゼ 
安奈 
モリー グラス 
THANK YOU 
ノーヴェンバー レイン 
バス通り 
ビューティフル エネルギー 
港からやって来た女 
きんぽうげ 
LADY 
嵐の季節 
冷血(コールド ブラッド) 
漂泊者(アウトロー) 
翼あるもの

 

GET! 
渇いた街 
橋の明かり 
光あるうちに行け 
愛と呼ばれるもの

 

破れたハートを売り物に