CRY

Twitterには長いやつ

甲斐よしひろ 21st anniversary special event Singer

三郷市文化会館 1994年12月17日(土)

 KAI FIVEの活動休止後初めてのライヴ。新たなソロの一発目だ。デビュー21年目を 記念したステージでもある。ファンにリクエストを募り、その中からも何曲かうたってくれる らしい。 
 初日やから、曲順をいろいろと予想した。僕の中では、4曲目までは決まっている。 1曲目は新曲をやるはず。リクエストにも応えるとはいっても、甲斐はニューアルバムにも こだわりがあるだろう。前回のソロ初ライヴも、「電光石火BABY」から始まったし。すると、 「太陽は死んじゃいない」の中で最も1曲目にふさわしい「愛と呼ばれるもの」がオープ ニング。続いて「GET!」。MCで「ニューシングルを」というフリがあって、「渇いた街」。 そのあとに「橋の明かり」。 
 それ以降は予測もつかない。ファンクラブ会報で、甲斐が「ヒット曲のオンパレード ですよ」と言ってるのを読んで、全くわからんようになった。マニアックな曲が聴けると 思ってたから。「HEY!HEY!HEY!」で格好良かったあのアレンジで「HERO」はやると して、他には何をやるのか。 
 後半盛りあがりの最初に「アジテイター」をやるのではないか。「GET!」をやるなら、 女性コーラスはどうするのか。21周年やから、デビューからずっとやってた「ポップコーンを ほおばって」は聴けるだろう。「破れたハートを売り物に」は案外ないかもしれない。FIVEの アコースティック ヴァージョンが定着してて、ソロでは形態が難しいから。

 南浦和から三郷まで、電車の窓から見える風景は何だかさみしい。しかし、三郷駅 の方はそうでもなかった。 
 歩いて行くと、見えてきたのは思ったよりもずっとちゃんとしたホール。三郷市文化 会館は立派な建物でありました。決して小さくもないし。 
 開場までかなり時間があるため、誰もいない。ホールの周りをひとまわりしてみること にした。 
 裏には駐車場があった。関係者のものらしき車やトラックも停まっているのに全くの 無警戒。関係者入り口のドアが開いてて、受付が見えてるし。側面にまわるとリハの音が もれていて、あわてて耳をふさぐ。初日を見る前に曲目がわかってもうたら最悪や。

 開場前にホールに戻った。東京はもちろん、大阪からも知り合いの甲斐ファンが けっこう来ている。 
 中に入る。殺風景。グッズも全く売っていない。発売は東名阪からなのか。 
 座席は左後方やった。BGMは洋楽。ラッパの曲と、女性コーラスが美しい声で 「サノバ ビッチ」などという歌が耳につく。

 BGMが突然断ち切られ、暗転。 
 メンバーたちがステージの上へ。甲斐もいるようだが、どうなのか? 
 イントロはどんなふうか、と思っていると、いきなり甲斐のヴォーカル!驚きの歓声が すごくて、初めのところはよく聴きとれなかった。すぐに、「俺の導火線に火がついて」と 一緒に歌いながらも、驚きと興奮で何の曲かわからない。火花が出てきたあたりでタイトル が浮かんだ。これはもしかして「ブライトン ロック」ではないのか?!それもいきなりサビや。 僕がツアーに通い始める直前の84年秋を最後にラインナップから消えた幻の曲。ついに 初めて聴くことができた!リクエストも叶ったことになる。そこへ例のイントロ!改めて会場が 騒然となる。「ブライトン ロック」は、このイントロで始まるところに思い入れのある人もいる だろうが、あの歌に徹したアルバムの流れからして、歌から入ったのは意義があったと思う。 それにしても、めちゃくちゃ興奮する。新曲からやと予想してたのに、またしても裏をかかれ た。ファンクラブ会報で甲斐が「ラインナップは聴衆がパッと観てイイと思うかどうかが勝負だ」 と言ってたけど、このオープニングだけで観客全員が「やられた!」と思っただろう。最高や。

 2曲目。いきなり「氷のくちびる」。すごい展開。歌い終わったところで「アアア アアア  アアア アアア アアア」というのはなし。すぐにファルセットに入った。

 「甲斐バンド甲斐よしひろもKAI FIVEも、同じ甲斐という名ののれんのもとに、 くくってもいいんじゃないか」「これが甲斐だ、という部分を全て見せる」とのMCのあと、音が わきあがる。 
 「風の中の火のように」。FIVEではいつも、本編のラスト近くにやってたのに、この曲 をここで見せてしまうとは、後の曲目も、ものすごいのだろう。「HEY!HEY!HEY!」と ちがって、CDに近いヴァージョン。もちろんフルヴァージョン。 
 「風の中・・・」が終わりかけた瞬間、次の曲が始まる。この特徴のあるイントロは、 まぎれもなく「ダニーボーイに耳をふさいで」。かなり好きな曲やけど、まさかやってくれる なんて。「オーーッ!」と声をあげてしまった。この歌を聴けたのはもちろん初めてで、感激。 「HERO」以前は、ライヴの終盤やアンコールで歌われてたはずやけど。サビでは甲斐は、 耳をふさぐポーズ。両肘は横に張っている。2番が終わると演奏が静かになり、キーボード の音に「い~くつうかの~」と歌がかぶさる。これがまたいい。最後の「きーえたー」で甲斐は 声をはりあげる。歌が終わっても、「アーー」と叫ぶ。情感がある。 
 演奏が消え入ると思うと、そのままドラムが刻んでいる。このビートは、「絶対・愛」! 今回はマイクスタンドを蹴り上げた。このツアーは、こっちで行くようだ。 
 「そんな愛は嫌だろう」のあとに間があり、甲斐は後ろの階段を少し上り、振り向いて 降りて来てから「絶対あーいっ」と歌う。

 「絶対・愛」でメドレーは終わり。次は何かと思っていると、「裏切りの街角」 
 FIVEの曲と懐かしい曲が交互に演奏されて、めまぐるしいというか、とにかくすごい。 
 「裏切りの街角」が終わったところで、キーボードのソロが始まった。そのキーボードが 湧き上がる。ドラムが入る。マイクスタンドが廻る。「嵐の明日」 
 全体のブルーのライティングに、黄色い光がふりそそぐ。「君の髪に月光がかかり」と 歌いながら、甲斐が両手を掲げる。 
 2番が終わり、甲斐がマイクスタンドを廻す。その瞬間、「ああ、ヤッチはいないんだ」 と胸が痛くなる。それまでは全く感じなかったのに。しかし、きっちりアレンジがほどこされて いた。「涙をこらえ」のところでブレイク。甲斐は座り込んで「雨のなかささえてる~」と歌った。 そのことで、ヤッチのいないさみしさも消えた。

 ドラムセットが運ばれてくる。ソロになってもミニ楽団コーナーはあるのだ。セッティング のため、やや間があいた。「何がタッちゃん漬けだよ」というMC。 
 アコーディオンが「安奈」のメロディーを奏でる。アコーディオンとギターだけの「安奈」。 僕が生で見たうち、最もアコースティックの「安奈」やった。アコーディオンは武藤さんやと 思ってたら、彼はベース、ドラムスとともにドラム前の階段に腰かけていた。と、その3人が 一斉に立ち上がって演奏に加わる。すごくムードがある。終わってから甲斐も、「安奈、いい なあー」と言っていた。

 メンバー紹介。「HEY!HEY!HEY!」とおんなじやったんは、武藤さんと鎌田ジョージ だけ。他には、「さっきからアコーディオンで泣かせている」と紹介された梁さん。背番号22を あしらったベースボールシャツの大久保。「ライヴ慣れしてる」という甲斐の言葉から想像して たのと全くちがった、ベースのメッケン。 
 リクエストについてのMC。「「バス通り」は、ないだろう」と言うと、客がめっちゃわいた。 「でも、この前ジョージとイタめし食いに行ったら、ジョージが『「バス通り」いいですよね』って 言うんだ。ふだん無口なやつのひと言は重みがある」

 アコースティック ギターの演奏が始まる。いい雰囲気。でも、これは「畔」ではないのか。 あのMCの後にFIVEの曲をやるだろうか? 
 すると、甲斐がけだるい声でささやくようにうたい出した。 
 「今日も私のなかに 夜が来て」 
 「メモリー グラス」! 
 バンド時代でもめったにやらなかった曲である。僕も聴けたのはもちろん初めて。 客のどよめきと興奮はものすごい。 
 2番。「泣きたいほどの歌をくちずさむ」のあと、本来「あれはとぎれた糸をたぐりよす」 と続くはずのところを、「時計台の針は私を 突き刺したまま別れに時を打つ」とうたい、その ままサビへ。 
 そして、ブレイクし、一瞬の静けさのあと。 
 「もう 僕を泣かせ ないでくれよ Baby」 
 「THANK YOU」に突入! 
 2番が終わると曲調が変わり、ドラムが響く。 
 「ノーヴェンバー レイン」 
 なぜかFIVEのライヴではあまりやってくれなかったけど、名曲である。大好きや。 
 甲斐バンドからソロ、KAI FIVEへと流れたアコースティック メドレー。よかった!

 メンバーが定位置に戻る。ちょっと間がある。何をやってくれるのか。そこへ、あの ギター! 
 「港からやって来た女」 
 リズムはゆっくりめ。「フーッ!」は2回やった。 
 終わったかと思いきや、ドラムが叩き続けている。パーカッションが重なる。この 扇情的なリズムは、「きんぽうげ」!僕はこの、パーカッションから入るヴァージョンが大好き なのだ。そして、例のギター。「港・・・」と同じくゆっくりめ。 
 会場じゅう、すごいノリ。このまま最後まで突っ走る、と思った。が、「きんぽうげ」の あとステージ上は静まる。

 ジョージのギター。フラメンコみたいな感じ。キーボードへ。赤いライトが浮かびあがる。 
 「LADY」! 
 「ダニーボーイ・・・」「メモリー グラス」のときもそうやったけど、もう泣きそう。ずっと 聴きたくて聴けなかった曲が続々と登場する。この「LADY」は、奥さんに捧げたからもう ライヴではやらないんだという噂を聞いたこともあって、無理かと思ってたのに。

 「嵐の季節」 
 今の甲斐はよほどこの歌をうたいたいのだろう。ここ1年ずっと歌い続けてきた。 大合唱。

 衝撃的なイントロ。すごい大歓声。甲斐は、両肘を交互に落とすアクション。PARTYの ときは3番の前にやってた動きだ。 
 「冷血(コールド ブラッド)」 
 ライティングがいい!かつてのあの回転するライトなしで、よくあそこまで表現した。 赤に、青に、白。 
 続いてFIVEヴァージョンの「漂泊者(アウトロー)」。僕は跳びはねっぱなし。 RED SUDDEN-DEATH TOURの長そでTシャツを着ていたのだが、もう汗びっしょり。

 短い言葉のあと、「翼あるもの」へ。 
 最後のところでちょっとだけ間奏があってから、甲斐がゆっくりと「お~れのー こえ ~~が」と歌いだす。このアレンジのおかげで、最後の部分をじっくりと聴く客が増え、甲斐の 声だけを聴くことができて、よかった。

 アンコール。大きな甲斐コール。今日はラインナップが特に強烈やからやろう、もの すごい盛りあがり。一体感がある。 
 メンバーが出て来ても、そのまま手拍子。ずっと終わらない。 
 ジョージが「GET!」の前奏を弾き始める。もしかして新曲なしかと思ってたけど、 ついに。2本立てやって言うてたもんなあ。 
 甲斐が登場。大歓声。新たなオープニングという感じ。マイクスタンドを蹴り上げる。 
 「のばした手で俺の ズボンまさぐりながら」のとこでは、ズボンをまさぐるどころか、 股間をわしづかみするポーズ。この動きは三郷でしか見られなかった。 
 音が途切れずに、いきなり「渇いた街」のイントロ!格好良かった。TVで見せた アクションはなし。 
 さらに続いて「橋の明かり」 
 僕は感動でかたまってしまい、ただじっと甲斐の姿を見つめ、声をきくだけやった。

 もう1回メンバー紹介。 
 そして、「希望の歌を」という言葉。 
 「光あるうちに行け」

 ギターが鳴り、甲斐が歌いはじめる。 
 「愛と呼ばれるもの」 
 この曲は反応が難しい。手拍子する感じじゃない。「橋の明かり」からの3曲は、 どれも、手拍子や拍手の無力さを痛感させた。手拍子してもうわついた感じになるだけだ。 早川義夫のライヴに行った甲斐も、こんなふうだったのだろうか。心を打たれて動けない。 
 スポットライトを浴びて、甲斐が「チュララララ・・・」と歌う。最後に右手を挙げると、 バックが真っ赤なライトに映し出され、甲斐の姿が黒い影となって浮かび上がる。一瞬間を おいて、歓声の嵐が巻き起こる。心の底からの声だった。めちゃくちゃ格好よかった。酔い しれる観客を背に、甲斐は歩いて去る。 
 ライヴでも「チュララララ・・・」の部分を歌うとは思っていなかった。なるほど、これを やるなら最後がふさわしい。1曲目にやるはずがない。

 感動をひきずって、2回目のアンコールでは大声で叫ぶ気にならない。みんなもそう らしい。 
 今度は短いインターバルで甲斐たちが出て来た。 
 「セットする間にしゃべってあげようと思ったんだけど」 
 しかし、残念ながらすぐに演奏の準備が整った。 
 「あとはこの曲で、名古屋・大阪・武道館へ」 
 そう言って、「破れたハートを売り物に」 
 FIVEと同じアコースティック ヴァージョン。横には、ジョージと武藤さん。

 ほんまにすごかった。全24曲。とてつもない感動。PARTYやHISTORY LIVEを含め ても、僕のなかでは史上最高のライヴや。こんなにソロのライヴがすごいのなら、FIVE復活 後も、FIVEのツアーと並行してソロツアーもやってほしい。それやったら、ライヴの数も 増えるし。 
 今日印象に残った甲斐の言葉は、いじめ自殺事件に触れて、「ムードに流されるな」 と言ったこと。それに関連して、「男だって、ときには泣いてもいい。女でも、ときには強く 主張していい」とも。 
 そして、「この街まで来てくれて、感謝してる」というセリフ。うれしかった。名前も知らな かったこの三郷まで来て、ほんとうによかった。 
 終わってみると、いい意味での「ヒット パレード」やった。売れた曲というのではなく、 ファンが望んでいる曲のオンパレード。HISTORY LIVEよりも甲斐らしさが出た選曲やった と思う。 
 もう、ライヴが終わってからはずっと、仲間と「今日、よかったなあ」という話ばかり。 東京への電車の中でも、飲み屋でも、帰りの新幹線でも。ファンクラブ会報のインタビューで 甲斐は、「観た人が何日も静かなパニックになるような」と言ってたけど、その通り。この ツアーのことしか考えられない。少なくとも武道館が終わるまでは、他に何をする気も起こら ない。

 

1994年12月17日(土) 三郷市文化会館

  

 

ブライトン ロック 
氷のくちびる 
風の中の火のように 
ダニーボーイに耳をふさいで 
絶対・愛 
裏切りの街角 
嵐の明日 
安奈 
モリー グラス 
THANK YOU 
ノーヴェンバー レイン 
港からやって来た女 
きんぽうげ 
LADY 
嵐の季節 
冷血(コールド ブラッド) 
漂泊者(アウトロー) 
翼あるもの

 

GET! 
渇いた街 
橋の明かり 
光あるうちに行け 
愛と呼ばれるもの

 

破れたハートを売り物に