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Utsubo Park Music Forestaurant

2008年10月18日(土) 靱公園センターコート特設ステージ

 

 大阪で生まれ育ってずっと住んでるけど、靱公園って名前も聞いたことなかった。「うつぼ」って 読むねんな。調べたら、本町あたりにあるらしい。地下鉄四つ橋線の本町から行くと、すぐやった。

 かなり本格的な公園で、広い。花も樹も多い。そんで、女性の像も多い。「緑と芸術の公園なのです」 と言ってるみたいに。 
 縦長の園内を行く。ベンチや、広げたビニールシートで食事をとってる人たちも多い。けっこう みなさんに親しまれてる公園やねんな。 
 噴水の周りで親子連れがたわむれてる。けど、なんか異様。と思ったら、服着たブロンズ像やった。 こんなんに服着せるか。ちょっとすごいぞ。噴水のとこ一周ぐるっと、いろんなブロンズ親子が。

 やっぱ遠い。まだ歩くんか。駅から公園の入口までは近かったけど、センターコートにはなかなか たどり着かれへん。 
 目の前に道路が現れた。公園を横切ってるんや。どんだけ広いねん。これ渡って進まなあかんのか。 まだまだやな。そう思いながら道路の向うを見ると、交番があった。そして、そのすぐ後ろに会場らしき 建物が。アリーナはどっちとかスタンド○席はこっちとか、表示が貼ってある。もう着いてたんやね。

 センターコートの建物に入ると、まずトイレが目に入った。テニスコートでライヴっていうから、 トイレとかあるんかとちょっと心配してたけど、きれいなのがちゃんと。まあ、当たり前か。 
 弁当など食べる物やビールなんかも売っている。ただ、現金では買えないらしい。チケットと交換 してからやって。まどろっこしいな。人多いのに時間かかるだけちゃうの。開演も近いから、何も買わずに コートの方へ出た。

 1時25分。開演5分前にFM802のDJが登場。吉村昌広という人らしい。このイベントは、 「FLYING POSTMAN LIVE」で「produced by FM802」なのだ。 
 普段の、テニスコートとしてのセンターコートの紹介。ここでライヴをやるのは初めてで画期的だ ということ。 
 エコに配慮したイベントだってことで、ごみ担当のマツイさんという女性を呼び入れる。今日ごみ は8分別。ペットボトルのふたを集めると換金でき、それでワクチンを購入していることなどを説明。

 ステージはテニスコートの真ん中。正方形。床は緑で、四隅に鉄柱。 コート上につくられたアリーナ席も、スタンドも、 ステージをぐるりと取り囲んでいる。アーティストは全方向から視線を受けるわけだ。「360度VIEW!」 ってのが、今日の売りの一つでもある。甲斐は「ROCKUMENT」 シリーズで三方客席のライヴを続けてきたから、全然問題ないやろう。 
 僕の席はスタンド上段やった。左寄り。予想してたよりステージが遠いな。アリーナの人たちが うらやましい。

 最初のアーティストは、吉村さんが「まさかの」と形容した宮沢和史。 
 僕の席から見て、左手前からの入場。斜めに伸びた花道をステージへ。むこうを向いて座る。こちら はステージの裏側にあたるのか。残念やけど、仕方ない。たとえ甲斐の顔が見えへんかっても、絶対 楽しみ尽くしてやるもんね。 
 「宮沢・クルム・和史です」と名乗る。後で「今日はみなさんに”エア宮沢”をお見せしたい」とか も言ってた。トップバッターの強みやな。テニスコートならではのネタ、後の人はもう使われへん。 
 聴けたらいいなと思ってた「中央線」が1曲目。 
 客席はだいたい埋まっている。のに、前の方がところどころ空いてたりして。遅れて入ってくる お客さんもいるし、明るいから全部見えるし、歌いにくくないかなと気を遣う。それだけやったら仕方ない ねんけど、まだお客さんが少しざわついている。けっこうしゃべる人がおるのだ。松藤見たさに以前1度 だけ行った、ゴールデンウィーク服部緑地の「春一番」もそうやった。野外のアコースティックイベント って、本当に音楽が好きな人が集まるみたいなイメージで宣伝されたりするけど、あのときなんか ライヴ中に1列目ど真ん中で携帯でしゃべり続ける奴さえいたし。歌の最中にしゃべる神経が 信じられへん。 
 もっとも、宮沢は落ち着いていた。もう1つの難題、右後ろのビルでやってる工事の騒音にも、 「さすがの802も、工事までは止められなかったみたいで」と、客を和ませる。 
 歌はゆったり。聴かせどころでは狙って甘い声を出す感じ。 
 2曲終わると、宮沢がこちらに向き直る。寄って来て、こっちに近い方のマイクにスタンバイ。 どちらも正面にしようと、半分ずつ歌うようだ。こっち側のみんなが拍手。 
 映画「ナビィの恋」にインスパイアされたという曲も うたってた。曲前のMCで、何十年の恋愛を成就する物語だと要約してて、それはその通りやねんけど、 おじぃにも触れてほしかったなあ。僕にとっては、おじぃの映画なのだ。 
 最後の4曲目。「神よ。命よ」というふうに続く詞から始まったから、知らない歌やと思ってたら、 「島唄」やった。拍手が高まった。

 テニスウェアを着た女性が花道に現れた。ラケットと、スーパーのやつみたいなかごを持っている。 かごの中身は、何とサインボール。テニスコートにちなんで、アーティストがラケットでステージから 客席へサインボールを打ち込むという。ギターを置いた宮沢が、まんべんなく四方遠近に黄色いボールを 打っていった。

 40分ほどのステージが終わると、次のアーティストのためのセッティングが始まる。肘掛け椅子は 宮沢のものだったようで、スタッフが運んで行った。 
 アコースティックやからさくさく進むかと思いきや、そうもいかないようで。特に休憩だという アナウンスもなく、客自身がステージの様子を見て、トイレに立つなり何か買いに行くなりしろということ らしい。何組か続けてやってから1回長い休憩が入るような形ではないんやね。

 2組目は、peridots。 
 僕は全くの初めて。ギター弾き語りの男性と、キーボードの男性。キーボードの人は「ウラ」という らしく、ヴォーカルが「うーら、うーら、うーら」とコールしていた。 
 MCで「10月に熱中症なんて、しゃれにならない」と気遣ってくれたけど、ほんまに暑い。 よく晴れたのはいいけど、陽射しがきついのだ。僕はもうこの頃にはTシャツになっていた。1曲ごとに 水を飲んで聴いている。女性で帽子のない人は、アーティストのマフラータオルを頭に乗せたり、入口で もらったチラシをかざしたり。2時過ぎやもんな。今がいちばん暑いときか。 
 近年ファルセットを多用する若いミュージシャンが増えてる気がしてたけど、peridotsも そうやった。普通に歌ってて、やや唐突にファルセットに入る。曲を初めて聴く僕には、そう感じられた ところもあった。もちろん、自分の声の特性を活かしての曲づくりなんやろう。 
 太い芯のある詞を書く人みたいや。「労働」という歌もあった。「春一番」で「先端」という曲を 歌ってた青年を思い出しもしたな。peridotsの方が洗練されてて聴きやすいけど。 
 いちばん気に入ったのは、「リアカー」という曲。全体的にも好印象。peridotsは5曲の ステージやった。 
 テニス経験がほとんどないということで、サインボールは下から弱く打っていた。

 次が甲斐かどうかステージを注視する。「波」と入ったTシャツを着たスタッフが目立つけど、あの 人はずっといてるし。甲斐のスタッフらしき人は見つけられない。 
 このときのステージチェンジが最も時間がかかった。陽は照りつけたまま。左上空に見えていた 太陽は、どうやら少し向こう側へ移動している。そういうことか。左が南で、正面が西、僕の席は東側 なんや。陽が沈むまで西陽を浴びるねんな。もう覚悟した。 
 客席はさらに埋まっていた。最上段には銀のバーがあって立ち見スペースになっているが、そこに いる人の多くは関係者なのか、首からパスを提げているようだ。 
 南と北にスコアボードがある。右背後のビル工事は続いている。右奥のマンションのベランダから 覗いてる人たちも見えた。

 次に姿を見せたのは、真心ブラザーズ。僕が最も印象にあるのは、「拝啓、ジョン・レノン」。生で 見るのは初めて。甲斐以外は全員初めてなわけやけど。 
 MCはゆるい雰囲気。勝手なイメージやけど、みうらじゅんとかのノリもわかってくれそう。 黒いメガネTは、僕も持ってるつじあやののTシャツに似てた。歌はザックリ。 デビュー曲も披露してくれた。 
 前2組と同じく、2曲やった後はこちらを向いて歌ってくれる。さらに、その後は1人ずつ逆方向 を向いてのステージ。いいなあ。 
 ニューアルバムに入るという「傷だらけの真心」、よかった。 
 「テニスコートですが、野球場でよく流れる歌を」と言って、「どか~ん」。たぶん今日初めての 手拍子。「どか~んと景気よく」の後の「チャチャチャ!」も、みんなばっちり合ってた。僕も高校野球の 応援ノリそのままで。普段のライヴでもこの手拍子なんかな。「知らんぷり」の後の「ぷりぷり」は省略。 楽しかった。 
 真心ブラザーズ全5曲。ぶっきらぼうな感じで歌うねんけど、胸に響く。詞もいい。甲斐の他では いちばん気に入った。

 真心の次に甲斐を続けへんやろう。甲斐の後に静かな安藤裕子という流れも考えにくい。安藤裕子を はさんで甲斐というのが、コントラストが映えるのでは。 
 順番はだいたいわかったから、あとは甲斐がどの曲を歌ってくれるのか。本命は「破れたハートを 売り物に」。爽やかなムードのアコースティックイベントで、あえてやりそうなのが 「BLUE LETTER」。松藤といっしょやろうから、「甘いKissをしようぜ」はどうか。 「翼あるもの」のアコギヴァージョンもいいねんなあ。甲斐よしひろとしてのライヴやけど、 甲斐バンドツアーのアコースティックライヴでやる曲を歌う のだろう。前野選手のキーボードは加わるのか?ノリオは?JAH-RAHは?わくわくするなあ。

 売り子が客席をまわり出してる。野球場みたいに。チューハイとか。陽はまだまだ照っている。 飲み物売りに来るの、みんなありがたいやろうな。僕は甲斐のライヴ前やから、もちろん酒は飲まない。

 4組目は、やはり安藤裕子。写真と違うぞ。髪を短く切ってんな。ヘッドバンドしてる写真から、 Superflyの越智志帆みたいな雰囲気を想像してたけど、今日はヘッドバンドなし。 かわいらしい感じのファッションやった。客席には、ヘッドバンドして幼い子を追い掛けるお母さんの姿も あったけど。 
 見た目は本上まなみを連想した。MCの声は小さく、弱い。頼りなげな話し方。「もへ」とか 「ふみゅ」みたいなイメージ。いや、もちろんそう声に出すわけじゃなくて、全体のイメージが。 
 北側のファンから、「タンブラー使ってくれてありがとう」と声が掛かる。え。ファンがプレゼント したタンブラーをステージで使ってるってこと?そりゃあ、あげた娘はうれしいやろうなあ。 
 歌声は高くてきれい。唯一知ってる「のうぜんかつら」も聴けた。 
 お母さんがここでテニスの試合に出たことがあるって言うてたな。それで、みんなに「ここでプレー したことのある人?」って聞いてた。だからかどうか、サインボール打つのはなかなかうまいねんな。ただ、 北側に向く前に全部打ち込んでしまって、頭を下げていた。

 さあ、いよいよ次が甲斐じゃないのか。ステージ上のスタッフたちをよおく見る。遠目には、 見覚えのある人の姿は確認できひんかった。 
 しかし、1人のスタッフが左でギターを弾くのを見て、確信した。やっぱり甲斐や。いっぺんに ドキドキしてくる。甲斐が出て来るぞ。

 DJから甲斐の名前が呼び上げられると、「おお~お」という低いどよめきが起こった。 「ついに来たぞ!」という僕らファンの興奮に、「大御所の登場や」「じゃあ、トリは誰なんや」 「このアコースティックライヴに異質なアーティスト、どんなステージを見せるのか」という観客たちの さまざまな思いが入り混じった声だ。 
 花道を行く甲斐は、黒い長めのコート。ズボンも黒。サングラス。松藤がその後に続く。やっぱり 松藤もやってくれるんや。 
 僕の近くには、女性4~5人のグループがいた。甲斐のライヴを見るのは初めてらしい。反応が 気になるとこや。彼女たちの第一声は、「黒ずくめやー」やった。 
 「甲斐さーーん」「甲斐ーーっ!」の声が飛ぶ。会場の雰囲気が変わる予感や。

 ステージに上がった甲斐の第一声は、「サンキュー」。 
 どのアーティストのときも、1曲目が始まる頃は客席の出入りが多く、ちょっとざわついている。 そんな雰囲気にも、「今日はいいねえ。みんなビールとか飲んで」と、意に介さない。 
 甲斐が左の立ち位置。松藤と2人でアコギを弾き始める。最初はやはり向こう側をむいて。 
 「風の中の火のように」 
 おお、ツアーでやる曲以外も歌ってくれるんや!おそらく今年聴ける最後の「風の中・・・」ちゃう かな。うれしいやん。 
 間奏。甲斐も松藤も、「ララララ ララララ」と歌わない。あれなしで叫ぶんやと思ったが、 「ウォーーイェーーー」もなし。思う間もなく「なぜみんな」に入っていった。間奏ショートヴァージョン や。時間が限られてるからか、アコギだけで初めての客をつかむためか。いずれにしても、この ヴァージョン初めて聴いたな。 
 近くの女性たちは、「これ、ドラマの主題歌やったやんな?」「何ていうドラマやっけ?」 「ギター左で弾いてるー」 
 僕は「『並木家の人々』やがな」と思いながら、甲斐に集中。

 「甲斐バンドのドラマーで、今日はギタリスト。松藤英男。拍手を」 
 そうして松藤を讃えてから、「今は甲斐バンドのツアーの真っ最中なんで。ここで、甲斐バンドの ギタリスト田中一郎を呼びましょう」 
 花道から一郎が歩いて行き、拍手で迎えられる。 
 今まであまりこちらを見てくれなかった甲斐が、ステージのこちら側へやって来る。向こう側の ことを、「こっちばかり優遇されることはないよね」。こっち側の僕らは、よろこんで大きな拍手。 
 「ただ、こっちで歌うには問題がある。バンドの音が聴こえない」 
 見ると、これまでのアーティストはたいてい東西両側に2つずつ計4つモニターを置いていたが、 今はあっち側の2つしか置かれていない。 
 「でも、俺はやるから」 
 うれしい約束に、僕らは再び拍手。

 「「裏切りの街角」という曲を」 
 「おおー」という反応が、けっこうあった。甲斐ファンも思った以上に来てるのか。 
 あの前奏を、松藤と一郎のアコギ2本だけで、忠実に再現。 ソロのアコギツアーでやるときとまた違うのだ。甲斐バンドの「裏切りの街角」だということを 明確に意識してのアレンジやと感じる。 
 短い間奏でも、「チュッチュルル」の音を抒情的に弾き切って、聴かせる。 
 甲斐はこちら側にも配慮しながらうたっていく。 
 「チュッチュルル チュルルッチュッチュチュチュ」

 「1曲目は甲斐よしひろで、(松藤の方を示して)セッションミュージシャン。2曲目からは 甲斐バンドとして・・・」って言っといて、「それはもう、いいね」と自ら打ち切ってみせる。観客の顔が ほころぶ。初めての人たちもどんどん打ち解けてくるみたい。 
 「さっき真心とも話してたんだけど、今日はもう何でもありだなって」 
 また空気が和み、それと同時に期待が高まる。さっき、サインボールを捕った人がファンに譲って あげたことがDJに紹介されたりして、だんだん馴染んできたこの会場の雰囲気。それをほめられたようで うれしいし。また、何でもありやったら何やってくれるんやって楽しみになってくるし。

 関西やから、タイガースの話題も。 
 「岡田監督が辞めて、真弓になるんだよね。僕、全く同い年なんで」 
 「ほー」というような声があがる。近所のおねえさんたちは、「え。じゃあ、50代半ば?」 
 「ということで、「安奈」をやりましょう」 
 甲斐は言葉にせえへんかったけど、真弓が女性の名前でもあるから、そのつながりという流れ やったんやろう。「裏切りの街角」以上に反応があった。

 「安奈 寒くはないかい お前を包むコートは ないけどこの手で暖めてあげたい」 
 「二人で泣いた夜を覚えているかい わかち合った夢も虹のように消えたけど」 
 好きな部分の詞が、今日はことさらに沁みてくる。 
 大きな拍手。おねえさんたちも、「泣いてしまいそう」「生「安奈」が聴けたあ」と感激の様子。 みんなに伝わってるで。

 ここまでは静かな曲が多い印象や。「ブライトン ロック」でもアコギでやってしまう、 アコースティックでも激しい甲斐を、見たことない人に知らしめてもほしいな。 
 そんな欲を感じてた時、甲斐が言った。 
 「今日は何やってもいいんで。「漂泊者(アウトロー)」を」 
 この言葉に、一気に燃える。他の甲斐ファンも同じに違いない。 
 「安奈」でイスに座ってた甲斐が立ち上がる。あのアコギでも強靭な「漂泊者(アウトロー)」の 前奏が、2本のギターで掻き出される。この太い音。一郎が立ち上がる。松藤も呼応するようにすぐ立ち 上がる。 
 甲斐は動きまわって歌う。ステージこっち側の縁からはみ出さんばかりに。角の支柱のそばまで。 歌い方も当然ブルースヴァージョンじゃない。バンドでやるときと同じだ。「SOSをおー 流してるうー 」と猛々しく上げていく。サビでステージ真上の赤いライトが点滅する。いつの間にか夕方になってる らしい。甲斐はしきりに動く。こっちにモニター置かなかったのは、甲斐が好きに動きまわるためやった のか。コードを持ってマイクを投げ、弧を描かせてキャッチ。客席が沸く。めっちゃ反応がいい。 間奏じゃ甲斐のハーモニカ。さっきまでは抒情的に吹いてたけど、この曲では別。音を切って激しく強く。 そして「誰か俺に愛をくれよ」と歌う。「誰か俺に愛をくれ」。「爆発 しそう」は、一郎・松藤と絶妙の 間で。 
 燃えたで「漂泊者(アウトロー)」。センターコートの空気も一変してる。

 立て続けに、「今日は自由だから、「HERO」をやりましょう」 
 歓声があがる。立ち上がる人々もどんどん増えて行く。ギターの前奏、今日はシンプルなリズムで。 みんなノりまくり。掛け値なしに今日いちばんの手拍子とスタンディングで「HERO」や。 
 甲斐はもちろん動きまわる。こっちのスペースを縦横無尽。めちゃめちゃ盛りあがってる。みんな 甲斐の世界に引き込まれてる。甲斐が北側を向いて歌いながら、コートを後ろにずらして両肩を出し、 すぐに戻す。ファンにはおなじみの動作やけど、南側を中心にどよめくような歓声が起こる。もう完全に 甲斐のペース。間奏もマイクスタンドを持って動き続け、スタンドを広いスペースに置いて再び歌い出す。 そっちを向いて。あっちを煽りながら。「海は枯れ果ててえ月は 砕け散ってもー」甲斐はそこで マイクスタンドを蹴り廻す。ひときわ大きな歓声。バンドヴァージョンのようにはっきり間を空ける アレンジじゃなかったのに、あのわずかな時間でマイクスタンドを廻すとは!今日はせえへんのやと 思ったから、ことさら興奮する。一郎も松藤も再び弾き始めるタイミングをばっちりずらしてたな。 
 歌い終えた甲斐は後奏のなか、サインボールを投げる。右で投げてる。小さいボールは右やっけ? 四面ともに投げ付けるようなアクションで。全部投げると空になったかごを足下に放して転がす。 向こう側に戻り、もう一度マイクスタンドを左足で外側に蹴る。弧を描きかけたスタンドは、しかし廻り 切らない。左の一郎に当たったのかと思った。一郎に当たりかけたのか、それともコードがからまった のか。廻らないとさとった甲斐は、スタンドが左に水平になった時点ですぐに右に真っ直ぐ引き戻した。 これがまた絵になる。歓声のなか、甲斐は「サンキュー!」ともう一度繰り返した。

 この日最高の盛りあがり。出て来たときとはまた違う、「すごいもん見たあ」という大きなどよめき のなか、甲斐たちが花道を引き揚げて来る。「甲斐ーーっ!」の声。拍手。 
 曲の間にも何度もあったけど、女のひとたちがため息まじりに「かっこいいー」と声に出している。 近くのおねえさんたちも、「かっこいいー」「めっちゃ楽しめた」「「HERO」って聞いて、 「キャー!」言うてもうた」 
 僕は「見たか!」っていう気持ちで満たされていた。甲斐を初めて見る人たちにも、強烈な インパクトを与えられたと思う。

 甲斐の余韻を楽しみつつ、食べ物売り場を覗いてみる。「ホットドッグ、サンドイッチ、パニーニ、 全部100円でーす。現金でもお求めいただけまーす」開演前とえらい違いやな。お得になったパニーニを 買う。 
 席に戻って、空の下で食べる。もう陽は沈んでいた。パニーニって、グリーンスタジアム神戸で おいしいのをよく買うけど、あれとはかなり違ってた。野球場のはハンバーガー状で、鶏肉とチーズや トマトやレタスなんかがはさんである。今日のは、白くて長いやわらかいコッペパンで、具はきんぴら ごぼう。もはやイタリア風サンドイッチの面影なし。でも、これはこれでおいしかった。きんぴらドッグ って感じで。

 次のアーティストを呼び入れる前に、DJ吉村さんは客席のあちこちに出現してインタビュー する。今回は「甲斐よしひろさん率いる甲斐バンド、ものすごいことになってましたね?」って質問。 吉村さんはこの後も、甲斐に触れる度に、「すごかった」と言っていた。

 秦基博の入場。黄色い歓声がたくさん飛ぶ。おねえさんたちは、「秦基博って、「キャー」なんや」。 僕ももっとアーティスティックというか、静かなファンが多い人のような想像を勝手にしてた。北側の 右端あたりは、スタンディングオベーションで迎えてたな。 
 曲は静かめのをじっくりという感じ。やはりファルセットを聴かせる。ファンも曲が始まると 落ち着いて聴きに入る。 
 「後頭部がもっさりしてるんで、見ないでください」とか、穏やかなMCにも、ファンに 愛されてるんやろうなというのが滲み出てる。 
 もう暗くなってるから、本格的にライトが使われ出してる。 軽く手拍子を合わせる曲も。 
 サインボールは間奏の間に。

 最後は森山直太朗。客席にちらほら見えてた、イーグルスカラーのエンジに黄色で「Q・O・」とか 入ってるマフラータオル、直太朗グッズやったんや。 
 1曲目。途中で止める。カポを付け忘れたという。「みなさんの拍手も足りなかったんじゃないかと」 
 曲は話題になった、「生きてることが辛いなら」。最後まで聴いたら、いい詞やって思う。反感を 持つ人もいるということ自体は、わからないでもないけど。 
 2曲目。ラストでハーモニカホルダーがマイクにぶつかったような。「反ってうたい上げてたら、 立ちくらみがして」。ジョークなんやろうと思いつつ、もしかしたらほんまなのかとも。カラオケで 歌いまくってて酸欠になるときあるけど、プロでもそうなることがあるのだろうか。 
 森山直太朗こそファルセット満載なわけやけど、3曲目は初めから。1番が半分くらい終わってから 止める。何か間違えたらしい。もう1度うたい直し。「僕よりも、僕をトリにしたFM802が悪いんじゃ ないかと」 
 マンションから覗いてる人らに手を振ってみせる。その後で、「金払えよ~」 
 サインボールを投げ入れるのは嫌だとも。「これからもみなさんと仲良くしてもらいたいから、 やりますけど」。この場合のみなさんって、すでに投げ入れた他のアーティストたちのことなのか、 サインボールを欲しがるファンのことなのか、判断がつかなかった。 
 ファルセットなしの4曲目で、森山直太朗終了。最初と最後の人が4曲ずつやったな。他の組は みんな5曲歌ったはず。宮沢和史森山直太朗は1曲ずつが長かったのかもしれない。 
 森山直太朗、嫌だと言いながらも、サインボール思い切り投げて遠くまで届かせていた。

 簡単なアナウンスがあっただけで、イベントはあっさり終わってしまった。最後に全員で1曲やったり せえへんの?DJの一言さえなかった。そんなもんなんかな。終了時刻は6時半をまわってたと思う。 
 アナウンスでは、ロビーでCD等を販売してるとも言うてたけど、売ってるとこっていうか、ロビー すらどこかわからんかった。北か南の方まで遠回りすればよかったのだろうか。CD見たい人もたくさん いそうに思ってんけどな。

 本町駅へ戻る道は混雑してた。歩いてると、「甲斐さんが」とか「甲斐バンド」とか言ってる声が 頻繁に聞こえる。ファンとして誇らしい。 
 駅が近くなっても混んでるから、御堂筋線の本町まで足を延ばすことにする。でも、御堂筋に着いて から思いなおした。2駅先まで、歩こう。気分いいねんもん。

 

 

2008年10月18日 靱公園センターコート特設ステージ

 

風の中の火のように 
裏切りの街角 
安奈 
漂泊者(アウトロー) 
HERO

甲斐よしひろ TOUR of ”TEN STORIES 2” 2008

2008年5月6日(火) 愛知県勤労会館

 

 ゴールデンウィーク最終日で混みあう駅。でも、俺のゴールデンウィークはまだまだこれからや。 
 選んだひかりは米原岐阜羽島でのぞみに抜かれまくり。名古屋まで各停やったとは。前に 岡山のアコギライヴ行ったときも、 こんな目にあったな。 
 名古屋で甲斐友と合流。相変わらず中津川や多治見がどっちの方角なのかわからず、調べながら 鶴舞へ。ちょっと久し振りやけど馴染み深い駅に降りる。 
 腹ごしらえをしようと、改札を出て右、つまり会場とは逆の方へ出て店を探す。どうもちょうどいい とこが見つからず、会場のある公園の外をまわって図書館の前を通り、結局遠回りして会場に来ただけに なった。 
 愛知県勤労会館にも店はあるねんけど、こういうとこって、何か高いイメージがあって。大阪の 厚年やったと思うけど、甲斐のライヴ前に入ってミックスサンドを頼んだら、レタスと何かを切らしてる とかで、ものすごくみすぼらしいサンドイッチを食べさせられたこともあったし。 
 そんな話をしてたから、いざ入った普通の喫茶店では、ミックスサンドを頼んでみる流れになった。 となると、飲み物はホットコーヒーに限定されてしまう。ちょっとした「三つ数えろ」ゲームや。アイス ココアを飲みたい気分やったし、コーヒーなんてめったに飲めへんねんけど、ここはノっとかんと。 
 店は開場を待つ甲斐ファンでいっぱい。だから待たされたけど、うんざりする程ではなく、 サンドイッチはひからびてなかったし、コーヒーも苦いばかりのぬるいものじゃなかった。おいしく いただきました。ごちそうさま。

 開場時間の数分前に会場に戻ると、すでに入場の列ができていた。っていうか、その列が動いてる。 予定より早くもう開場してるんや。さっそく列について中へ入る。

 ロビーの左右に人だかりができてる。グッズ売り場は右のようだ。左はCDやDVDだろう。グッズ を確認して何を買うか決めた頃には、買い物の列は階段の上まで伸びていた。帰りに買うとするか。客席に 入ろう。

 全体を見渡して雰囲気を味わいつつ、自分の席へ行ってみる。え!ど真ん中やん!マイクスタンドの 正面!やった!めちゃめちゃラッキー! 
 ステージが近い。勤労会館って、こんなに近かったっけ?ますますうれしい。 
 甲斐のマイクスタンドの左に、メンバーのマイクが1つ立ってる。右には2つ。やはり左が蘭丸で、 右に西村とノリオが並ぶのか。 
 ステージ後方の下に、ライトが見える。黒い横長の長方形の中に、円い小さめのが縦に2つ横に4つ 並んだおなじみの。シンプルな円い大きいライトも、一定の間隔で並んでいる。 
 BGMは洋楽。歌がないのもあるのも、両方。やがて気づいた。これ映画音楽ちゃうん。「TEN  STORIES 2」の選曲テーマが、映像が見える曲ってことやったもんな。「スティング」の テーマも流れたし、きっとそうや。よく聴くフランス映画の歌もかかったが、タイトルが思い出せない。 いつ聴いてもいい「What a Wonderful World」は、数多くの映画で使われてる はずやけど、いちばんに思い浮かぶのは 「12モンキーズ」やな。 
 甲斐のライヴが数分後に迫った今、名曲を聴きながら心に想うことは。「前のツアーから今まで、 俺は何をしてきたか」「もっとがんばれたんじゃないか」そんな、自分と向き合う気持ち。意識過剰かも しれんけど、甲斐のライヴには、そういうことを考えさせる力がある。

 ギターやベースの音チェックが始まったのが、もう開演時間5分前。予定の6時には始まりそうに ないな。でも、全然いいで。 
 6時を何分か過ぎてから、ブザーと2回目のアナウンス。そこからは曲が終わるたびに、音が大きく なったかもと思うたびに、ドキッ!とする。もうすぐ始まる。この曲が終わった後か。この曲を途中で 切ってか。タオルを用意し、シャツを脱いで待つ。準備はいいよ。

 BGMが大きく、手拍子しやすいものに変わる。幕開けに違いない。すかさず立つ。 
 オーディエンスの手拍子。客電が落ちる。左手から白い光。そこからメンバーが入って来る。拍手に 応えてそれぞれの位置につく。でも、蘭丸がいない。蘭丸が出て来てから、最後に甲斐が出て来るのか。 「甲斐ーーっ!」と叫び、手拍子をしながら、待ち構えて左をずっと見ていたら、歓声が大きくなった。 甲斐が真ん中の奥から現れたのだ。わあ、真ん中見てたらよかった!

 音が静かに起ち上がる。「TEN STORIES 2」の音だ。 
 「駅」 
 マイクスタンドに近づく甲斐。アルバムジャケットのイメージ通り、赤のジャケット。黒のパンツ。 横に長めのサングラスも、アルバムのジャケットと同じか。少し縦が細いかもしれない。 
 スタンドからマイクを取る。去年 はカヴァー曲を歌うとき、クラシカルなマイクを使ってたけど、今日はいつもの丸いマイクだ。 マイクスタンドの前に出て来てうたう。立ち上がってみると、マイクスタンドからステージ前端までの スペースが目に入って、開演前に見たときより遠く感じたけど、これなら甲斐が近い。後半の激しい曲に なったら、さらに前に出て来てくれるんやろうな。 
 「懐かしさの一歩手前で」から演奏が大きくなる。甲斐の右に西村。その右にノリオ。後方右の台に 前野選手。JAH-RAHは後方左の台。松藤はその左でアコギを弾いている。西村はエレキギターを肩に かけつつ、弾ける高さに設置された別のエレキも弾いている。FIVEのライヴで「風の中の火のように」 のとき、アコギがスタンドに固定されてあって、エレキを持ったヤッチが前半はそのアコギを弾いていた。 あの形だ。 
 バックの右側。ちょうど西村の後方あたりに、縦長の網があり、照明で緑に染め抜かれている。 
 「言葉がとても見つからないわ」の「ら」。竹内まりやのオリジナルから変えたメロディが、 アルバム以上によくて感激。 
 「思わず涙あふれてきそう」。他の言葉ではなく、「あふれて」なのが、今日は印象的や。 
 間奏のメロディオンは前野選手がやっているのか。そう思って見てみたけど、うつむいていて口元が 見えず、確かめられなかった。 
 後奏。甲斐は「ラララララ」だけじゃなく、「Mmーー」や「アーー」という声も聴かせる。 
 再び最初の静かな音が戻ってくる。バラードをうたい終えた甲斐は、上げた腕を下げていく。

 聴こえてきた静かなビートは、アルバムの曲順通り。この名アレンジを披露しないはずがない。 
 「I LOVE YOU」 
 この曲はマイクスタンドで歌う。赤いジャケットの下の黒いシャツが、きらきら光る。ベルトの バックルや、左腰のチェーンも見える。曲前に、飲み物などを置いたドラムの台へ行ったとき、ジャケット のボタンを外したのか。途中でスタンドからマイクを取る。少し左右に動きながらうたう。 
 「子猫の様な泣き声で」の後のファルセットがいい。ここも甲斐ヴァージョンにアレンジされている のだ。 
 「生きてさえゆけないと」の「さえ」に感慨がわく。 
 曲の終わりで甲斐は、両手を広げておじぎをし、片手をすくい上げた。

 「サンキュー」 
 甲斐が拍手と歓声に応えるが、まだMCには入らない。バラードが続く。 
 「めぐり逢い」 
 今度は首元に銀のチョーカーが見える。黒いシャツの上のボタンを外したか。 
 甲斐のヴォーカルに合ったコーラスが人気の曲。松藤の高い声に加えて、遊麻沙亜万のコーラスも 聴こえているようだ。確かめたくて、左奥の松藤を見る。松藤はこの曲でもアコギを弾いている。右には 鍵盤も置かれていた。 
 サビの繰り返し。甲斐はコーラスに委ねたり、いっしょに小さめにうたったり。そして、再び 本格的にうたい出す。そのときの強い声がいい。 
 ラストは身体の傍で腕を下げていく。バラードの最後によく見せるポーズ。この3曲それぞれ違う 動きやったな。

 3曲目までアルバムの曲順通りや。これはアルバムのように、初めバラードを続けて、後で一気に ハジケると見た。次は「桜坂」なのか?

 違った。この前奏は、「タイガー&ドラゴン」。 
 「ここで、ギターの土屋公平を」 
 甲斐の言葉で蘭丸が左から登場。歓声に迎えられる。紫のロングコート。SGか、くわがたみたいな 形の黄色いギター。 
 「ダッダッダダッダダン」のフレーズが分厚い。甲斐は左右に動いて歌っていく。 
 「お前だけに本当の事を話すから」とか、低音がいい。貫禄のヴォーカル。そして、「ノー!」の シャウト。 
 のっけからバラード3曲でじらしといて、ここで激しい曲。しかも、蘭丸投入。この構成にうなる。

 甲斐が拍手や叫び、自分の名前を呼ぶ声に応える。「サンキュー」 
 「今夜も目一杯最後までやります。楽しんでって下さい」 
 「「TEN STORIES 2」を続けよう」

 「別れましょう私から消えましょうあなたから」 
 大黒摩季のコーラスが聴こえる。じゃあ、やっぱり「めぐり逢い」でも、遊麻沙亜万のコーラスが 使われててんな。 
 サンストで初めて聴いたときから、甲斐の声が活かされると思ってた。その通り。 
 蘭丸は同じ形の紫のギターを弾いている。 
 曲が終わると、近くの席から「マイナスだらけの未来はいらない」という詞に賛同するつぶやきが 聞こえてきた。

 あのスピード感のあるイントロ。白い光が走る。カラフルなライトの点滅は「漂泊者(アウトロー)」 を思わせる。 
 「Marionette」 
 「You’ve got easy day」は蘭丸もコーラス。 
 この盛りあがりは、カヴァー曲の最後を飾るものなのでは。去年の「すばらしい日々」みたいに。 後奏で甲斐が何度も「サンキュー」と言う。やはり、ここでカヴァーが終わるのだろう。

 アルバムのSEみたいな音がする。カヴァーが続くなら、「戦国自衛隊のテーマ」だろう。あのSE を使うのなら、その後は「涙そうそう」や。いや、これは「嵐の明日」かもしれない。とにかく、バラード の前奏。そこへ、あの音がわき上がる。甲斐がマイクスタンドを蹴って横廻し。うたい始める。 
 「嵐の明日」 
 去年の「I.L.Y.V.M.」の役割や。一気に甲斐オリジナルの世界へ。 
 通路を動く影がある。カメラマンだ。帽子をかぶってる。マイクスタンドを斜めに倒して持ち、左を 向いた甲斐を、撮ってる。 
 甲斐はいつの間にかサングラスを外してた。赤いジャケットの襟とポケットの縁が黒い。普通の 素材と違うようにも見える。ライヴでも暑くないとかかな。逆に、暑いけどステージ映えするとか。 
 1番で「ずっと君といるよ」とうたった甲斐は、2番を「でも君といるよ」と入れ代えてうたった。 
 壮大な甲斐のバラード。演奏も激しい。「涙をこらえ」の歌に、蘭丸の間奏ギターの最後がかぶる。 
 そして、あの後奏。「イェーー」甲斐が叫ぶ。「ウォーーー」は強く短めに。最後はやはり 「シャララララララララ」。これが聴けてうれしい。 
 甲斐の声にひたるとこやけど、こらえ切れず、曲が終わってすぐ「甲斐ーっ!」って叫んでもうた。

 ステージにイスが用意され、「「TEN STORIES 2」のプロモーションツアーです」の 言葉からMCに。

 「名古屋のイベンターは、ちょうどいい頃を取るよね。誰とは言わないけど」 
 客席から「サンデーフォーク」の声があがる。 
 去年・今年と名古屋のライヴはゴールデンウィーク中やから、そのことを言ってるのかと思ったが、 ツアーの中での位置のことやった。 
 「初日は原石をぶつける。(名古屋のイベンターは)甲斐がノってるツアー中盤頃にって」 
 そこから、去年Zepp Tokyoで行われた追加公演の話題に。 
 「Zepp Tokyoのライヴ、みんなから「いい、いい」って言われて」 
 自分でも手応えを感じてたみたいやけど、後でテープを聴いたら気に入らないとこがあったという。 
 では、なぜみんながすごくほめたのか。考えた結論は、「酸欠」。 
 「客席もステージ上も酸欠だから。どっちも酔っ払って」 
 今日も「イクときは一緒」。

 アルバムのプロモーションでは、名古屋にも来たみたい。でも、詳しくは話さず。 
 NHKの「SONGS」に続いて出た、朝早い「とくダネ!」に関する話。 
 翌朝に生放送を控えたホテルでは、穏便な人と暴れん坊にミュージシャンのタイプが分かれると。 
 「穏便な方に成り下がって。12時まで地下のバーで飲んで、1時に寝た」 
 「浴槽にお湯を張って、伯方の塩を入れて」っていうのは、のどのためなんやろうな。

 「スマスマ」の収録は、このツアーのリハーサル初日とかぶったそうだ。 
 「このバンドが行けない。ボクも夕方には戻らないといけない」 
 そこで、初めてつくったという「HERO」のオケの出番。去年「甲斐バンド ストーリー II」 でリミックスしたときにつくられたもの。「HERO」発表当時は、曲が完成したらヴォーカルなし ヴァージョンも録っておくということが、まだ行われてなかったそうだ。 
 「そのオケを使う。で、ガールズバンドを用意して。それだけじゃ、あれだから、公平にも 「来ない?」って声掛けて」 
 幕が開く前のMCで、キムタクが花園ラグビー場の話とかをして。それで、客が男っぽいバンドを イメージしてるとこへガールズバンドで出たから、客は一瞬驚いてたという。 
 キムタクも2番から参加。「2人で打ち合わせた通り、間奏で交差して、俺が公平と絡んで。 キムタクは女性SEX奏者のとこへ行って。その女性はとろけてたね」

 「これくらいでいいか。長くしゃべりすぎた。今回はMC少なくしてるのに。しゃべってしまう」 
 観客は歓迎の拍手。MCへの反応も大きかったな。

 「レゲエでやるから、みんなでやろう」 
 「安奈」 
 そうか。レゲエヴァージョンだと、蘭丸がエレキ弾けるねんな。 
 間奏では甲斐がハーモニカを聴かせる。 
 終盤のワンパートを、まるまるオーディエンスにうたわせてくれた。「サンキュー」と言ってから、 続きへ。甲斐と声を合わせて。

 甲斐はもう立ち上がってる。 
 「甲斐バンドで1回しかやったことない曲を。「胸いっぱいの愛」を」 
 おおおお!「ROCKUMENT」 以来や!オーディエンスもみんな沸いてる。 
 「BIG GIG」よりすごい、またレコードとも違うヴァージョンや。ちょうどいい高さで バッチリ合う「Go!」が最高。アルバムの少し軽く跳ね上がるような「Go」ではなく、 「BIG GIG」での低いコーラスでもない。強くて太い「Go!」やねん。 
 スピード感があって燃える。蘭丸も早くも前へ繰り出して来る。 
 充実感を逆説した「今夜お前と死にたい」という歌詞が、「こんなすごいライヴを体験してんねん から、もうどうなってもいい」と感じさせる甲斐ライヴ真っ只中の今と重なる。 
 後奏。甲斐と一緒に吼える。「ゴーオオーオオーオーオーオーーオー」

 蘭丸のイントロ!来たあっ! 
 「港からやって来た女」 
 1番のサビから、甲斐が左の蘭丸のもとへ行く。ギター弾きにくいんちゃうかと思える程ひっついて、 蘭丸の首の後ろからマイクをまわし、いっしょに歌う。 
 今度は西村が前へ出る。甲斐はジャケットを後ろにずらして肩を出したりしつつ、動きまわる。 
 3番の前で演奏はやや静かになるが、手拍子は続く。メッケンヴァージョンよりは静かではなく、 ドラムも効いている。甲斐はわずかに「み、見つーめ」と歌う。 
 いざ後奏。オリジナルのように一拍ためず、早めに「バインバインバイーン!」「フーッ!」 跳び上がる俺ら。3回目の前に甲斐が「ワンモア」と叫んだ。全部で4回の炎。 
 ここ数日、やりそうな予感しててんけど、やっぱり「港」はすごい。大騒ぎ。

 叩き出されるビートと低い唸り。俺は「ウウォーーオ!」と叫んでしまう。やがて蘭丸のギターが 「ギャン!ギャン!ギャーン!」と3連発。俺は「フーーッ!」って声をあげる。歓声が捲き起こってる。 西村は細かく強く弾いている。ステージ後方下、あの長方形に詰め込まれた8つの円が白く閃く。甲斐が マイクスタンドを蹴り上げる。歓声がまだ大きくなる。 
 「絶対・愛」 
 久し振りやで。燃える燃える。 
 「ウォウウォウウォウウォウウォウウォウウォウウォウウォーーっ!」そう叫びながら、「いつも カラオケではb2で歌ってるから、それよりキーが高いな」という意識がよぎる。もはやちょっとした カラオケ病か。でも、しっかり高い声が出せて気持ちいい。 
 「Hey!」の拳。蘭丸は振り下ろすように。そして、その右手で次のフレーズを弾いていく。 
 2番前で甲斐は、「ウォーっ!」と叫んでから「ウォウウォウウォウウォウ ウォウウォウウォウウォウウォーーっ!」へ。もちろん俺も一緒に叫ぶ。 
 「火がついたように赤く」。そう歌いながら甲斐は、赤いジャケットの向かって右側を開いて見せた。 
 甲斐が途中で2回右耳を押さえる。スタッフに対する合図にしては短く、ほんまに音を聴き取ろうと するように。 
 「そんな愛は嫌だろう」の後がニューヴァージョン。音も光もアクションも。スピードを落とさず サビへなだれ込んで行く。この速さ、いい! 
 サビの最後。甲斐は「絶対あーああーい」の歌い方を2回繰り返す。3回目で「絶対愛さ」。 「絶対あーーいっ」って突き放すのも。 
 後奏の「ウォウウォウウォーーオー」復活は2回。ラストは「絶対愛!」でフィニッシュ!これも 久々で感動した。かっこいい!

 「風の中の火のように」 
 最初から激しいヴァージョン。甲斐がジャケットを脱いだのはこの曲だったか。演奏の強さにたまら ず、僕は「そんなとき君の名を呼ぶ」と「寒さに目が覚め自分を抱く」の前のビートに合わせて拳を突き 上げた。 
 1番ラストの「君なんだ」で、詞の世界を突き付けられた感じがした。「君」と「僕」の関係が 胸の奥まで届いてくる。「かけられたコート」が「君」で、「射し込む光」が「僕」なんだと、改めて 細かいところまでかみしめる。 
 「激しい叫び押し隠し」に続く「アアアーーーー」という叫びには、繰り返すエフェクトなし。甲斐 は最後のサビの後、「火のようにーーー」と3回歌い、4回目に「火のーーーーー」と伸ばしていった。 
 ステージに炎はなく、また新たなライティング。長方形の中の8つの球は真っ赤に燃えていた。

 JAH-RAHのカウントから、あのビートと大音量が放たれる。 
 「翼あるもの」 
 甲斐が前へ右へ左へ。1番から2度目の「ゆ!こ!う!」を俺らに歌わせてくれる。 
 燃える蘭丸のギター。ノリオはイった顔をしてる。それから、隣の西村の方を向いて笑顔。西村は 後ろにとどまりながら、ギターを掻き上げて曲を跳ねさせてる。 
 間奏。ツインギターが前へ出て来る。ノリオだって動く。甲斐はキーボード台に上る。曲がどんどん 高まってくる。甲斐が前へ飛び出して来る。 
 「俺の声が聞こえるかい」と右端で歌い出す。それから走って左端へも。俺は甲斐といっしょに 歌いつつ、甲斐の声を聴き逃すまいとしてる。 
 「フラウウェイ  ハウウェイ   フラウウェイ」 
 甲斐が両腕を広げる。客席は水を打ったよう。前に身体を倒した甲斐を目で追ったとき、甲斐が 黒い靴をはいてることに初めて気づいた。

 蘭丸ヴァージョンのイントロ!そうそう、蘭丸のときはこうやねん。 
 「漂泊者(アウトロー)」 
 いつも目を引く「漂泊者(アウトロー)」の照明の印象がない。それぐらいのめり込んでたんや。 
 やはり1番の2回目から、客席に「愛をくれえーよおー」と思い切り歌わせてくれる。 
 「命の値段も下がったと」という詞が、社会を映してるように響く。「世の中すらさえも信じられ なくなりそうさ」が心に残る。 
 「爆発」はあまりためなかった気がする。後奏は「キューキュキュルル」と軋むより、 JAH-RAHの激しいドラムが押して来る。そのビートでフィニッシュ!

 メンバーが右へ去って行く。来たときと逆やんな。甲斐もそちらへ行きかけたが、戻ってきて長めに 残ってくれた。 
 場内には「かーい!」コールが起こってる。もうずっと前から、めちゃめちゃのどが渇いてる。 「胸いっぱいの愛」からの激しい曲6連発、すごすぎる。

 ステージに白く照らされ、メンバーが戻って来る。甲斐も再登場。グレーのベストに、下はグレーの タンクトップだ。 
 JAH-RAHのドラムに全員が熱狂。ステージ後方の薄い幕が上がって、壁がむき出しになる。 その手前全面にネットが張ってある。前野選手のキーボードが迫る。ステージ上は白いライト。 甲斐たちの影を壁に映す。オーディエンスの視線を一身に受け、甲斐がマイクスタンドを蹴り上げる。 
 「ダイナマイトが150屯」 
 俺はサビの後に入るJAH-RAHのビートに合わせて拳を2連打!!3番に入る前に、ノリオも 拳を2連打!! 
 甲斐は3番の最後を、「ちくしょう恋なんて吹き飛ばせ」と歌う。 
 後奏に入る。熱いドラムと、キーボードのあの音。JAH-RAHと前野選手にだけ白い光が 当たってる。甲斐は暗いなか、長いコードを足で払う。甲斐から発せられる迫力が、マイクスタンドを 蹴り上げるんじゃないかと感じさせた。が、やはり。スポットを浴びた甲斐はスタンドをぐるぐる廻す。 胴の右側、脇腹の少し上あたりにコードが当たっててもおかまいなしや。俺らは最高に沸騰する。 フィニッシュも熱狂や。 
 アンコールの最初が「ダイナマイト」って、めちゃめちゃいい!

 「ここで、メンバーの紹介を」 
 ベースのノリオを皮切りに。キーボード前野選手、髪は短くして、片側だけボリュームを持たせて いる。ドラムスJAH-RAH。松藤は「キーマン」と紹介された。蘭丸が松藤に前へと促したが、松藤は 口の動きからして、「後で」答えたようだ。アルバムの共同プロデューサーでもあるギター、 SING LIKE TALKINGの西村。ギター土屋公平、クリーム色のボディに花が描いてあるのも 使ってて、今回はギター3本なんかな。

 「ブギをやるぜ」 
 甲斐のその言葉で、大急ぎで考え始める。もちろん真っ先に浮かぶのは「スローなブギにしてくれ」。 だが、他には何がある?必死に思い出そうとする。 
 続く一言でやっとどの歌かわかった。 
 「浜省からもらった曲を」 
 おお、ライヴで聴くのは初めてや。 
 「あばずれセブンティーン」 
 甲斐は2番で「ヴァージン」って言葉を歌わなかった。これはわざとなのか。左へ行きながら 「食べたいものはあるけれど」と歌っていく。 
 サウンドも詞も、3番の後に繰り返しがなくテンポが落ちないことも、「翼あるもの」ヴァージョン だと感じさせる。甲斐のヴァージョンや。 
 後奏。甲斐とツインギター、ノリオ、松藤もステージ前の端までやって来る。左から松藤、蘭丸、 甲斐、西村、ノリオ。ビートに合わせ、全員同じ方向へギターやベースを振って見せる。甲斐は曲げた両腕 を、下から弧を描くように振る。1回。2回。3回。メンバーが動きを合わせるのって、「どっちみち 俺のもの」以来か?「ストレート ライフ ツアー」の「夜にもつれて」大騒ぎも思い出す。松藤が 「後で」って言ってたのは、これのことか。今回のスペシャルのひとつやな。前野選手のキーボードが 「キュルルルル」と高鳴って、フィニッシュへ。

 甲斐が一言。「明らかに俺たちが勝ってる」 
 俺らもノってんで。甲斐のライヴのために鍛えて来てるもんね。負けへんぞ。 
 「レイン」でもっと来なかったら置いていくぜというような言葉で、甲斐がさらに挑発。 
 「公平が帰って来たから、「レイン」をやるぜ」 
 甲斐の歌声を聴く。「Call my name」で拳をあげる。蘭丸はまた、右手を振り下ろす アクション。 
 最後の「できはしなーいー」はブレイク。オーディエンスがさらに歌える新アレンジや。みんなの声 を受けて甲斐がうたっていく。 
 後奏。甲斐はファルセットを聴かせた後、蘭丸に「ここだ」とステージを示すようなアクションを して、先に左へ去って行く。「観覧車」を思わせるシーン。甲斐のいないステージで、バンドが「レイン」 を奏でる。オーディエンスが手拍子でそれを包む。 
 アンコールの「レイン」って、久々の気がする。第1期ソロでは、大ラスもあったなあ。

 2度目のアンコール。メンバーが位置につく。みんなが熱い手拍子で曲を求める。でも、メンバーの 反応を見ると、次はバラードっぽい。流れてきた前奏は、やはり静かなもの。甲斐は黒のツアーTの上に 黒のジャケットを着て現れた。 
 「光あるうちに行け」 
 うたってくれたのは「Singer」 以来じゃないか。あのときは、「希望の歌を」と言ってから曲が始まったんやった。切ない詞や けれど、甲斐は「まだ間に合う」って俺らに伝えてるんや。じっと甲斐の声を聴く。名曲やな。

 MCに入りかけた甲斐が、何気なくふっと「もう1回」って、再びメンバー紹介を始める。いきなり 予定外のことみたい。紹介されたメンバーおのおののプレイはなく、甲斐が「一言ずつ」と何か言うように 促す。 
 ノリオはすぐに対応して何か言ってくれたけど、僕は聴き取れなかった。前野選手はたじろいで、 無言の間ができてしまう。甲斐は催促して待つが、言葉が出ないうちに締め切って次へ進んでみせる。 JAH-RAHは立ち上がって、両手で「グー」。ギャグをやるとは意表を突かれた。かわいい感じで 場が和む。中に赤いシャツを着てるのが、初めて見えた。「業師・松藤英男」と紹介された松藤は、 「3の倍数と・・・」と言い出して即刻甲斐に止められる。西村も何か言ったが、聴き取れず。残念、 ノリオと西村がなんて言うたか知りたい。蘭丸に対しては、甲斐もクールなキャラクターを尊重して、 しゃべらせるようには持っていかない。蘭丸はオーディエンスにピースで応えた。

 甲斐が観客に話し始める。 
 「座ってもいいんだから。俺たちは職業だから立ってるけど。勝負かよ」 
 自分だってさっき勝負みたいに言ってたのにと、楽しくなってくる。 
 「君たちはいい。お世辞抜きで」と客のノリをほめておいてから、「「絶対・愛」、全然聴こえ なかったじゃねえかよ」 
 やっぱり、あのとき聴こえにくかったんや。だって、歌いたいねんもん。燃えるねんから。

 「秋は甲斐バンドで動くことになるでしょう」 
 この発表は、あくまでさり気なく。 
 今秋はアコギツアーじゃないねんな。来年はオリジナルアルバムも出すそうやし、突然に新しい 展開を繰り出して来る。うれしいで。

 「1回、2回トライして、夢の途中で倒れてうまくいかなかったり。それでも、何回もトライする んだ。そうやって、形になっていく。そういう歌を」 
 「嵐の季節」をやるのかと思ったが、ちがった。あのイントロや。甲斐バンドヴァージョン。 ギターの狭間、甲斐は「カモン!」じゃなく、「AHーー!」と叫んだ。 
 「ティーンエイジ ラスト」 
 ゆっくりめのテンポでの演奏。ライトは緑。「BIG NIGHT」の頃に甲斐友と考えた、 振付のことが一瞬よみがえったりした。 
 最近あらためてハマってた歌だ。熱い気持ちを忘れず、挑戦したいと。この歌を歌ってくれるとは。 
 「十代の熱気が」「十代の炎が」と甲斐が歌うたび、その声が胸を打つ。

 「ティーンエイジ ラスト」がしめくくりか。それにふさわしかった。いや、蘭丸がギターを換えて る。まださらに歌ってくれるんや! 
 「HERO」 
 ジャケットを脱いでいた甲斐は、前奏で黒Tシャツをめくり上げる。1番の途中まで上げてたかな。 
 「スマスマ」とは違うライヴヴァージョン。アレンジも歌い方も。「愛してるううーうさ」もあり。 
 西村から蘭丸の方へ近づいて行って、2人でプレイ。甲斐は前で動きまくる。 
 間奏。去年のステラボールでは明男のサックスが派手に冴えわたったが、今夜はもちろん蘭丸の ギター。鋭く強力や。 
 オーディエンスはなんか、みんなスッキリして「HERO」を楽しんでる感じ。いろんな曲が聴けた もんね。そのうえで最後にもう1回盛りあがれるねんから。

 甲斐たちがいちばん前まで出て来てくれる。全員で肩を組んで、おじぎを2回。俺らは拍手で讃え、 感謝を表現する。思いを込めて、「甲斐ーっ!」って叫ぶ。 
 甲斐は蘭丸やノリオらとハイタッチ。それから、ノリオの背に手を当てていっしょに帰りかけたけど、 戻ってきて長く声援に応えてくれた。 
 主役のいなくなったホールに、「アヴェ・マリア」。さらなるアンコールをと手拍子するけど、 あれだけのライヴを見せてくれた甲斐たちにかえって失礼かもという気もして。

 とにかく「胸いっぱいの愛」からの6連打はすごかった。本編が14曲やったから期待してたら、 その通りアンコールを6曲やってくれた。今年のツアーでも、いろんな曲をやってくれた。この感じ、 すごくうれしい。 
 「みんないろんな事情を背負ってるだろう」と思ってのことやろう。はげましの歌を歌ってくれた。 心を叩くMCとともに、「ティーンエイジ ラスト」。こんな時代やけど、年を重ねてきたけど、希望を 持てと。現状維持と守りだけでは、気持ちがスカッと晴れへんもんね。つらい状況であっても、希望を 抱けた瞬間、目の前が明るくなって心が軽くなる。僕にもいろいろあったから、そう思う。

 ツアー前のキーワードやった「このところ演っていなかったインパクトのある曲」って、どの曲を 指した言葉やったんやろな。「港」か、「嵐の明日」か、「絶対・愛」か。「光あるうちに行け」も 「ティーンエイジ ラスト」も。「翼あるもの」だって、去年は甲斐バンドの1回だけしか歌っていない。 思えば、どれもインパクトあるもんな。甲斐の歌は。

 「今日の一曲」がどれとは、決めがたい。みんな同じようによかったからなあ。あえて言うなら、 「胸いっぱいの愛」かな。

 パンフレットとTシャツを買う。マフラータオルは売り切れていた。大阪で早めに入手するとしよう。

 ライヴが終わった今ではどの曲のことだったかわからない、さまざまなシーンを思い起こす。 
 甲斐が歌い終わりを、マイクを持った肘から下を横に振りながら歌った曲があった。1番から3番 まで、少しずつ動きを変えてやっててんけど。あれ、どの歌やったかなあ。 
 ライティングは紫が多い印象。曲の途中で、真横から黄緑の光が射してくるのもあったな。去年の 暮れから青緑がいちばん好きな色になってんねんけど、その色のライトも使われてた。「絶対・愛」より 先に、長方形に並んだ8つのライトをともしたのは、どの曲だったか。 
 甲斐が前奏で「タン タタン」のリズムを取ってる曲もあった。オフマイクで「カモン」と言ってる のが、何度か見えた。マイクをズボンの前に差した場面もあったな。 
 メンバーみんな、表情がいい。演奏しながら歌ってる感じ。甲斐が前へ出ると、蘭丸が中央後方で 弾くという形も数回。 
 甲斐が誰の方を見て、いきいきうれしそうな表情をしたとか。照明の色の移り変わりとか。もっと 覚えときたいことがいっぱいあったのに。感動が多すぎて、記憶しきれない。それでもいい。大阪と福岡 で、またしっかり焼き付けてやる。

 

 

2008年5月6日 愛知県勤労会館

 

駅 
I LOVE YOU 
めぐり逢い 
タイガー&ドラゴン 
別れましょう私から消えましょうあなたから 
Marionette 
嵐の明日 
安奈 
胸いっぱいの愛 
港からやって来た女 
絶対・愛 
風の中の火のように 
翼あるもの 
漂泊者(アウトロー

 

ダイナマイトが150屯 
あばずれセブンティーン 
レイン

 

光あるうちに行け 
ティーンエイジ ラスト 
HERO

甲斐よしひろ 20 TWENTY STORIES

2007年4月14日(土) なんばHatch

 

 ツアーグッズを乗せたワゴンが運ばれていくのが、ガラス越しに見えた。いつもの位置、入って右の 端へ移動している。開場を待つファンの列には、パンフらしきものを持った人も。開場時間が近づくまでの 間、先にグッズの販売を行っていたのかもしれない。ファンは早くグッズを手に入れることができるし、 売り場の混雑も緩和される。いい試みやんな。

 開場。まずパンフとTシャツを買う。Tシャツは黒と白とピンクがあった。おねえさんに聞くと、 黒のみLサイズがあるという。大きいサイズをつくってくれるの、めっちゃうれしいな。でも、どの色も デザインが気に入ったし、結局黒のLと白とピンクのMを買った。

 客席には「タイガー&ドラゴン」が流れていた。ステージ上を紺のライトが照らし、客席へは白っぽい 肌色の光が斜めに伸びている。今日の席は右端に近いから、その光は僕には当たらない。 
 BGMに洋楽は少ない。「宙船」と「青春アミーゴ」が流れ、去年と今年の センバツ行進曲が両方使われてるなと思う。ジャニーズが多い気がする のは、「夜空ノムコウ」への布石か。あれはスガシカオのカヴァーって言ってたけど。

 アナウンスが流れ、開演は近づいてるのに、まだ甲斐のマイクがセットされていない。左奥のドラムス 台の左端に、アコギが見える。松藤の位置はあそこやな。ドラムが前のツアーとは違うように見える。 右奥にキーボード台。甲斐をはさんで左右にツインギター。ベースのノリオは右端らしい。 
 バックに、赤いライトが2段に並んでるライトを見つけ、「絶対・愛」で使うんじゃないかと予想 する。 
 ようやく甲斐のマイクが用意された。いつものと違うやん!マイクスタンドに乗せられたのは、 クラシカルな、丸みのある縦長の直方体。このマイクに合う曲を考える。「歌舞伎町の女王」や。今回は かなりの確率で「今宵の月のように」が1曲目と予想しててんけど、違うかもしれない。

  電話のベル。「もしもし、工藤探偵事務所ですが」と、松田優作の声。「バッシティ バッバッ シティー」の速く強い波。僕がいちばん好きなドラマ「探偵物語」のオープニングテーマや。そのかっこ よさにしびれながら、「ボリュームも大きくなったし、これで幕開けやんな」と手拍子しつつも確信が持て ないでいると、客電が落ちた。やっぱりこれで始まるんや! 
 メンバーが左手から歩んでくる。拍手と歓声。おおっ、その中に甲斐もいるぞ!いつもより早く出て 来て、後ろの方で背を向けている。気づいてない観客も多いかもしれない。

 アルバム通りのイントロ。青緑のライト。やっぱり1曲目はこれやったんや! 
 「今宵の月のように」 
 甲斐のサングラスは、「10 STORIES」のジャケットとは 違うやつ。ジャケットの中のシャツには、銀の飾り。黒のパンツの左側に三重のチェーン。鋲のあるベルト。 
 甲斐は体と逆の側にマイクスタンドを傾けたりしながら、歌っていく。ツインギターは右に西村、 左が亮。 
 「あーたーらしーいーーっ」など、語尾の伸ばし方がアルバムと違う。こういうところにも、ライヴ を感じるのだ。 
 「夜空にー 声も聞こえない 声も聞こえない」と、同じ詞を繰り返しもした。 
 最後のパートでも、「見慣れてる」の部分の詞をなくして歌った。歌い終えてからの「ウーーッ」の タイミングも、CDと変えている。やっぱり、ステージならではのアレンジとか、その瞬間の感覚によって 、同じ歌でも変わるもんやんな。

 やっぱりこの曲順で来たか! 
 「歌舞伎町の女王」 
 「ママはそこの女王様」と、甲斐は歌った。「そこ」が当然のように聴こえてくる。 
 間奏。CDより早く、あのフレーズより先に「Ah-」の吐息。そして、甲斐はマイクスタンドを 離れ、ステージの奥へ。楽しみにしてた間奏後半のギターが記憶にない。前奏のサックスもや。興奮して てんな。 
 「全てを失うだろう」で語尾を上げない。と思ったら、「東口を出たらああーーあ」で張り上げた。 このヴァージョン違いも聴けてうれしい。

 イスが用意され、甲斐たちが座る。 
 カウントはなく、静かに曲が立ち上がる。「コンコン」という打ち込みの音で。 
 「くるみ」 
 甲斐の歌声に聴き入る。ライヴでは松藤がコーラスや。右端の僕からは、うたう甲斐越しにコーラス する松藤が見える。ベストポジションやな。この角度で見られてしあわせ。

 「ハナミズキ」 
 前奏のキーボードが、歌に影響しないぎりぎりまで過激なことをやってると感じた。CDでは気づけ へんかったな。これもまた、生ならではの発見。 
 この歌でもまた、ひたすら甲斐の声を聴く。深い詞が甲斐の声でしっかり届けられるのだ。 
 最後の部分。「よに」をうたわずに、「僕の我慢が」の繰り返しに入っていく。 
 全ての音が終わり切ってから、拍手が起こる。みんなじっくり聴いているのだ。

 「サンキュー」と観客に応えて、MCに入る。

 「大阪が、このツアー2番目の場所になります。この街に来たらいつも暴れるんだけど、今回は文珍 師匠からの電話もなく、静かな感じで」 
 でも、静かなまま過ごすつもりなんかないはず。そう聞こえるで。

 「座っていいんですよ。君たちの自由だ」と客に呼び掛け、ジョークも交えつつ話していく。吉本の 話題も出た。 
 すると、客席から甲斐に話しかける声があがる。大阪では特によくあることや。 
 「うるさい。殺す。なんでお前と一対一で会話しなきゃいけないんだ」 
 そこで子どものかわいらしい声がかかった。 
 甲斐もさすがにすごんでみせる訳にいかず、笑い出してしまう。

 自分のスタジオについて。 
 「使ったのが桜井くんと、長瀬くん。・・・・・・2組だけじゃん」と自分でツッコむ。

 「「10 STORIES」というカヴァーアルバムが出て。J-POPの若いアーティストの名曲を 10曲取り上げて。今回はそのプロモーションツアーです」 
 そして、「共同プロデューサーの西村智彦」と紹介。西村が立ち上がる。みんなで拍手。 
 この紹介は予定にはなかったみたい。 
 「西村が座ってほっとしてるのがむかついて、いきなり紹介してやった」なんて言ってみせる。

 「最新アルバムの曲が1曲目なのは、花園の「破れたハート・・・」以来。80年振り?」 
 もちろんそんなわけはないけど、1曲目からカヴァーが続くのは初めてかな。ここまでの4曲、 アルバムの1曲目から4曲目までをそのままの順番で歌ってる。このまま曲順通りに10曲やるのだろうか。

 と、思ってたら曲順が変わった。 
 「Swallowtail Butterfly~あいのうた~」 
 この歌はもとから好き。甲斐のカヴァーもめっちゃ好き。Gyaoで見たライヴヴァージョンはまた さらによかった。今日は生で聴けて最高に感激。甲斐の声が、うたい方が、ほんまにいいねんなあ。 
 松藤がコーラスしてる。甲斐は歌詞を違えもしつつうたう。 
 最後の「響きだして」の後、甲斐は「イェー ウォウウォー」と声をあげた。アルバムとは順序を 変えた感じ。ライヴではこっちでうたうねんな。

 甲斐たちが立ち上がり、イスが持っていかれる。短い前奏がわきあがる。ステージ奥に行ってた甲斐が 、急いで戻って歌い出す。 
 「接吻kiss」 
 アルバムの通り、演奏も歌もなめらかな感触。でも、CDで聴くよりずっといい。めっちゃ心地いい のだ。 
 2番が終わると、すぐにサビの繰り返し。あれ?CDでもこんなに短かったっけ?終わってしまうの がもったいないよ。 
 でも、曲は最後まで早くなめらかに流れ、「ジャジャッ」というビートでフィニッシュ。

 ようやくわかってきた。中村哲がアレンジに加わった2曲、「恋しくて」と「色彩のブルース」は やれへんのや。今日は西村しかおれへんもんね。となると、残りの曲は・・・思わず考えてしまうけど、 先に思いついてしまうのも惜しい気がする。 
 そんなことを思ってる間に細かいリズムが刻まれ始めた。 
 「すばらしい日々」 
 たくましいビートに燃える。やっぱりこの曲はノレるで。 
 甲斐のヴォーカルも、この歌を完全に自分のものに、甲斐よしひろのロックにしてる。 
 盛りあがりまくった曲が収束していくなか、甲斐は何度も「サンキュー!」と叫ぶ。まるでここで ライヴが終わってしまうかのように。

 暗転したステージ。マイクスタンドにいつものマイクが置かれた。きっとここからカヴァーじゃない、 甲斐自身の曲が始まるんや。いちだんとわくわくしてくる。さっきまでのカヴァー曲もめっちゃよかった のに。 
 聴こえてきたフレーズに、会場が大いに沸く。久々のあのバラードや! 
 「I.L.Y.V.M.」 
 「悪かったーよーーお はなーれていて」 
 その詞が、この曲から離れていたこと、長くライヴでうたっていなかったことをも意味してるように 響いた。なかなか聴かれへんかったもんね。 
 甲斐は語尾を伸ばさずにうたっていく。甲斐の声を堪能し、詞をかみしめ、演奏のすみずみまで耳を 傾ける。カヴァーもめっちゃいいけど、やっぱりオリジナルは特別や。最高やなあ。めちゃめちゃ感激する。 
 最後の音が消えていく前に、先走った拍手が沸き起こった。みんなが「もうたまらん!」と言ってる みたいに。

 前奏を聴いて、意外やと感じた。いつの間にか、蘭丸のいない今回はやれへんのやろうという気に なってしまってたから。 
 「レイン」 
 今日の「レイン」はずっと手拍子をしながら。「もっとうたっていいぜ」という甲斐のジェスチャー で、みんなでうたう。 
 「Call my name」で拳をあげる。「抱きしめて」の後でも。そうしたい力強さやった から、衝動に正直に。 
 「できはしなーいー」はもちろん、オーディエンスがうたうのだ。 
 間奏のギターがいい。西村だ。すごい技の披露。テクニックの細かいことまではわからなくても、 その音に感動する。蘭丸のイメージとは違う、新たな「レイン」のギターをつくり上げたね。おそれ入った。 
 この腕があるから、甲斐は西村をツアーメンバーに起用したのだろう。名刺代わりと言うには、 あまりに強烈な一曲。甲斐はあえて初参加のツアーで西村に「レイン」を弾かせたかったんやろう。西村の ギターで「レイン」をうたいたかったんやろう。 
 後奏。甲斐のファルセット。それだけにとどまらず、地の声での叫びもあげる。今夜もまた、今夜 だけの独特の「レイン」やった。

 「I.L.Y.V.M.」と「レイン」。「カオス」と「ストレート ライフ」から1曲ずつや。 もしかしたら、ソロとFIVEのアルバムから1曲ずつ歌っていくのだろうか。 
 そこへ襲って来た衝撃的なイントロ。この歌もやってくれるんや。そういえば、これもソロの曲 やもんね。そんなことに気づく前に、歓声をあげていた。 
 「マドモアゼル ブルース」 
 「ROCKUMENT V」と 「Series of Dreams Tour Vol.1」で 感激させられた曲や。今夜もすごいぞ。高いキーボードが「ヒュルルルルルルルールルルー」って、甲斐の 歌の間にあのフレーズを注ぎ込む。他の楽器も加わって、すごい分厚い音ができてる。 
 甲斐はサビで新しい歌い方だ。「シル クのー ドレ スをー」と間を空け、ずらしている。 
 間奏。今度は左の亮が前に出る。いいぞ、いいぞ。久々のツインギター、二人ともすごいもんね。 
 そして、今回もやってくれた!曲が終わったかに見え、拍手が沸いても、キーボードの心を刺す音色 がつながってる。JAH-RAHのドラムが太いビートを叩き出す。ギターがわきあがる。甲斐はその間に ドラムス台のグラスに口をつけたようだ。そして。 
 「たとえ どんなに」 
 甲斐がもう一度サビを歌い上げるのだ。強く。ほとばしる激情を、まさに振り絞るように。これぞ、 「マドモアゼル ブルース」

 激しいイントロ。野性味のある男っぽいビートが続く。ハードボイルドに違いない。けど、とっさに タイトルが出てこない。「キラー ストリート」か? 
 いや、同じアルバム「ラヴ マイナス ゼロ」でも違う曲やった。「野獣」だったのだ。 
 今夜初めての甲斐バンドナンバー。もう何でもありやもんね。楽しくってしかたがない。今日の 「野獣」がまた、めちゃめちゃかっこいいのだ。アルバムヴァージョンは久々ちゃうかな。 
 甲斐が吐息や唸りを聴かせる。「BEATNIK TOUR 1984  FINAL」で初めて聴いた野獣もそうやったやんな。 
 ライティングはピンクと赤。前野選手のサックスも俺らをますます駆り立てる。 
 このアレンジなら、フィニッシュはビートの2連打や。確信がある。いくら久々でも、 「ラヴ マイナス ゼロ ツアー」とか、体験が体に記憶に埋め込まれてるのだ。 
 「タララララララダダッ!」って果てるビートに合わせ、左右の拳で空を殴った。

 「おおーーーっ!」前奏で声をあげてしまった。これはほんまにめちゃめちゃ久々や。 
 「BLUE CITY」 
 「ストレート ライフ」から2曲目。アルバムから1曲ずつじゃなかった。そんなことはもうどうでも いい。すごいやん。すごいやん。「BLUE CITY」やで。「ストレート ライフ ツアー」より後に 聴けたことはあったのだろうか。 
 こんなに激しい曲やったんや。ライヴ終盤で歌われるのもさまになってる。改めてこの曲の魅力を 思い知らされた。甲斐の「カモン、ベイベー」も激しい。歌も詞も音も熱いのだ。

 前奏でさらにオーディエンスが燃える。 
 「三つ数えろ」 
 「Big Night」ヴァージョンやけど、ひときわ激しい。今の音になってるねんな。甲斐の ライヴはいつもそうや。めっちゃ攻撃的な「三つ数えろ」。昔ミニコミの名前にこの曲のタイトル使った ことを、勝手に誇りたくなる。それくらいいいぞ! 
 2番と間奏前にはキーボードの「キュルルルルル」がなかった。今日はもう無いんやと思ったら、 3番で2回やってくれた。これ、好きやねんな。前野選手の手が鍵盤の上を往復するところも見た。 
 甲斐はやはり「路上」と歌った。このヴァージョンでは「路上」で行くことにしてるのか。

 音が鳴った瞬間、また「おーーーっ!」って叫んでしまった。 
 「冷血(コールド ブラッド)」 
 白い大きな円いライト。途中から青に変わる。そして、甲斐が腕を振ると、ナイフで切ったように 赤に染まる。 
 3番に入るところは、もちろん肘を落とすアクション。今日は左肘から。 
 あのライトが斜めに回転する。右端にいる俺まで、白い光に顔を照らされた。いいなあ、この ライティング。 
 後奏。西村が前に出て弾きまくる。俺の位置からだと甲斐にかぶさるくらい出てる。ライティングを 尊重するイメージのある「冷血(コールド ブラッド)」で、ここまで前に出るギタリストは初めて。 ええぞお。遠慮なくガンガンやってくれえ。

 前奏で「最後の曲になりました」と甲斐。 
 「風の中の火のように」 
 初めから激しいヴァージョン。というより、今まででいちばん激しい「風の中・・・」じゃないのか と感じる。ビートが弾んでる。甲斐はアコギを弾くことなく、強く歌っていく。 
 JAH-RAHのビートが後半、さらに密度濃く強くなる。甲斐はそれに合わせて跳んでいる。 
 「愛なのに」で、赤一色の照明に。揺れる火は、今日はなかった。

 メンバーが左手へ去る。甲斐はマイクスタンドの右まで来て、長く残ってくれる。「甲斐ーっ!」の 叫びをふりそそぐ。 
 甲斐の姿が見えなくなると、すぐに速い手拍子。甲斐とバンドから浴びた熱を帯びたまま。

 バンドが戻って来る。音を出して確かめるようにしてから、いきなり激しい曲を生み出す。 
 甲斐はステージの奥から現れた。サングラスをドラムスの台に置き、前へ進んで来る。ボタンのある 灰色のベストになっている。 
 「漂泊者(アウトロー)」 
 カラフルな大きいライトが点滅してる。スリリングな電子音と激しい演奏がいっしょになって迫って 来る。甲斐はステージの前の端を動きまわる。甲斐の影がどこかに映るのが目に入る。手を打って一緒に 歌っている。燃えて燃えて、今日はもう思いっ切り反動をつけて大きく跳んでやった。そして拳で宙を 打つ。甲斐は俺らにマイクを向ける。「愛をくれえーよーー」「誰か俺に」そこへ向けて、甲斐の方へ、 全力で歌う。このバンドの「漂泊者(アウトロー)」、すごいで。

 JAH-RAHのドラムとカウベルが響く。この入り方、好きやねん。「ギャーギャッ ギャギャ ギャーギャッ」あのフレーズの前半だけを、右の西村が弾く。それからまたJAH-RAHのビートと俺ら の手拍子だけが続く。今度は左の亮が弾く。「ギャーギャッ ギャギャギャーギャッ」またそこまでで ギターは止まる。それから、ツインギターであのフレーズをフルに弾いていく。待ち焦がれてた オーディエンスが熱狂する。甲斐がマイクスタンドを蹴り上げる。 
 「きんぽうげ」 
 歓喜の騒ぎになってる。甲斐が動き歌い、俺らは手を打ち歌う。壁に甲斐の影が映ってる。「くーら やみのなか」甲斐は語尾を突き放して歌う。今日はそっちか。すぐに合わせて俺もその歌い方で声を出す。 甲斐は2番の後では、体を回転させなかった。ギターが動く。ノリオも動く。甲斐が歩み、煽り、手を あげる。「ひびー割れたガラス窓」の途中から、客席にマイクを向ける。いっそうの大声が会場全体から 放出される。

 「メンバーの紹介を」 
 右端。ベースギター、坂井紀雄。 
 右奥。キーボード、前野知常。 
 左奥。ドラムス、JAH-RAH。 
 左奥端。松藤英男。アコギやキーボード。ほかにも。 
 左。元Do As Infinity。ミサイルイノベーション大渡亮。 
 右。SING LIKE TALIKING。西村智彦。 
 ほんまにすごいバンドや!もうずっと感動させられっぱなし。

 今日の流れからしたら意外やった。 
 「HERO」 
 でも、やってくれたらうれしいもんね。今回の「HERO」もめっちゃかっこいいのだ。歌って 拳あげて、盛りあがる盛りあがる。 
 間奏。西村が前に出て弾きまくる。やっぱりいいよお。一郎の間奏もいいけど、西村のもすごいっ。 
 甲斐は「月は砕け散っても」でマイクスタンドを蹴って横廻し。しゃがんでスタンドをキャッチ した。

 甲斐バンドの3曲で、1回目のアンコールは終わり。 
 でも、しっかりもう一度戻って来てくれた。 
 西村が位置についてギターをかけるのを待って、「西村ーっ!」って叫んだ。プレイを讃えたい 気持ちと、ツアー参加に対する歓迎の意思を伝えたくて。ちょっとだけとまどったようにも見えたけど、 手を挙げて応えてくれて、うれしかった。

 そして甲斐がやって来る。左手から歩いて。ピンクのツアーTシャツを着ている。やっぱりピンクも 買うといてよかった。 
 オーディエンスに感謝の言葉を届けてから、MCに入る。

 「ソロになって20年目ということで。今回はソロとFIVEの曲がかなり入ってて」 
 そうか。「20 STORIES」というツアータイトルは、ダブルミーニングやったんや。物語の 見える歌を20曲歌うということと、ソロ20周年ということ。今気がついた。 
 KAI FIVEの曲はまだ「風の中の火のように」1曲しかやってないけどな。甲斐本人から すれば、いつどの形態で発表したかはそんなに意味がなくて、あまり覚えてないのかもしれない。「自分の CDを、自室の棚の目に付きやすいところに置いておくようなことはしない」って言ってたし。書いた時期 とリリースした時期が違うこともけっこうあるようやし。

 「影のプロデューサー」松藤は「HERO」をやることに反対したらしいけど、「やらなくちゃいけ ない状況になったんで」と甲斐が述べる。カヴァーされてCMで使われたりしてるからな。 
 今回は久々の曲とか特にいろいろ聴けてめっちゃうれしいねんけど、松藤もそれに貢献してくれた みたいや。ありがとう。

 「これはやったことあんのかな。わかんないんだけど」 
 甲斐はそう言って間をおいてから、曲名を告げた。 
 「「ノーヴェンバー レイン」を」 
 やったことあるで、甲斐。”Singer”で確かに聴いた。 あの時は大久保のドラムやった。今日はJAH-RAHが重量感のある音を響かせてくれる。 
 この歌が聴けて感激や。FIVEやソロのバラードの中でも、特に人気のある歌。もっともっと ライヴでうたわれていいやんな。詞が沁みるのだ。 
 間奏のあと。「バスが横切る」から、甲斐は前に出てうたっていく。切なさがこみ上げてくる。 
 最後のサビ。「抱きしめる夏の秘密」という詞に、不意に胸をつかまれた。今夜はなぜかその部分が 特別に刺さった。久々に生で聴いたからなんかな。曲の感じ方って、ほんまに毎回毎回ちがうもんやなあ。

 「最後の曲になりました」 
 それから、甲斐はその言葉を口にした。信じられへんぐらい、うれし過ぎる言葉を。 
 「「GUTS」をやるぜ」 
 「オオオオオオーオッ!」 
 俺はもうめちゃめちゃ叫んでしまった。大好きな歌。リリース前に甲斐が「「翼あるもの」と 「漂泊者(アウトロー)」を足したくらいのスケールがある」と言ってた名曲。それなのに、ずっと 聴きたかったのに、このところ歌われてなかったナンバー。それがついについに聴けるんや! 
 ギターのあのフレーズ。カウベルも響いてる。飛び跳ねずにはいられない。続くビートの連打に、 俺は足を踏み鳴らした。 
 甲斐が歌っていく。タフなメッセージを投げ付ける。俺はそれを全身で受け止める。 
 「ガーアーーッツ」甲斐は低い方で歌う。後奏では「ガッツ ガッツ」と繰り返す。 
 その後奏が長い。めっちゃうれしいぞ。西村が初めてステージ左へ行く。亮のもとへ。 「ギャーギャーギャギャー ギュンギュン」の繰り返し。西村が「ギャーギャーギャギャー」と弾くと、 すぐ左にいる亮が、西村のギターのアームを使って西村のギターで「ギュンギュン」と続ける。ひっついて 楽しそうに。その部分が来るたびに。 
 やがて後奏も終わっていく。甲斐がJAH-RAHの方を向き、ジャンプして着地ざま拳を突き上げ てフィニッシュ。 
 この歌を最後に歌ったということは、きっと俺らへの励ましの意味が込められているのだろう。 「Big Year’s Party 30」の前半最後で、 「ROLLING CIRCUS REVUE」のアンコール最後で 歌われた「嵐の季節」のように。 
 「勝つことを信じろ」 
 その言葉が自分に深く刻み込まれた。

 甲斐は前に出て、オーディエンスに応える。バンドはその後ろで肩を組む。気づかずに帰りかけた亮を 呼び戻して、みんなで肩を組んでおじぎをする。全員いきいきした顔してる。俺らも大満足や。 
 甲斐は最後に一人残って、歓声と叫びと拍手に応える。やがて左手へ軽く走って帰っていく。 スタッフが甲斐に大きなツアーバスタオルをかけた。

 ツレと思い切り強くハイタッチした。ほんまにものすごいライヴやったなあ。最高やで。 
 めちゃめちゃロックやった。めちゃめちゃバンドやった。ライヴハウスのノリやったなあ。王道の 展開でしびれさせるのとはまた違って、1曲ごとの激しさで盛りあげるのだ。曲のラストで跳んで、空を 殴る甲斐に燃えた。激しい曲は全てといっていいくらい最後にそうやって燃焼し尽くしたし、間奏でもよく 前に出てくれたのがうれしい。ギターを引き立てにまわる場面は少なめで、どんどん前に来て、左右にも 動きまくってくれた。

 右側の席からは、甲斐がメンバーと視線を交わす表情がよく見えた。ほんまに楽しそうな顔してた。 何回も。メンバーを見て、フッといい表情に変わったり。 
 マイクスタンドから離れたところで叫ぶのも見えた。汗が光ってるのも。キーボード台に上がった 場面。かすれさせた声。どんどん思い出す。 
 JAH-RAHは激しかったなあ。今日もまたすごかったよ。曲が果て、甲斐が「サンキュー!」 って叫んだ後に「ドシン!」「ドスン!ドスン!」って叩いたのにも興奮したなあ。 
 気づいてみれば、甲斐は全く楽器を使えへんかったな。ハーモニカも。これはめずらしいのでは。 その分、ツインギターの力を思い知らされた。よかったよお。これからもツインギターが見たい。

 ライトの色を覚えていない。よかった感触は残ってるねんけど、どの曲がどの色やったかまでは。 夢中になってるからな。バックはカーテンとか、シンプルやったと思う。また明日、味わおう。

 オープニングからカヴァー曲が続くのはもちろん、真ん中にアコギや小編成のバラードがないのも、 新しい構成やったな。「I.L.Y.V.M」でオリジナルの登場に沸き、「マドモアゼル ブルース」に 狂喜し、「野獣」で大爆発した。 
 思えば、「BLUE CITY」が決定打やった。「野獣」と「三つ数えろ」 「冷血(コールド ブラッド)」「風の中の火のように」をつなぐ位置に、久々の曲が入ったことが。 あそこが定番曲やったら、印象が違っていただろう。 
 しかも、アンコールで「ノーヴェンバー レイン」と「GUTS」も聴くことができた。王道の たたみかけももちろん好きやけど、なかなか生で聴けなかった歌や意外な曲がめちゃめちゃうれしいのだ。

 今日の一曲は、やっぱり「GUTS」やな。この歌が聴きたくて、今日も Welcome to the ”GUTS FOR LOVE” Tourのツアータオルで来てん もん。ツアータオルを掲げたい気分やった。 
 ALTERNATIVE STAR SET ”GUTS”の 思い出深い四国に行った今年、 再び「GUTS」が聴けたんやなあ。 
 それに。「GUTS」がアルバムのタイトルチューンになったのは、甲斐が野茂を見たから。今度は 松坂が海を渡った年に歌われたんや。

 明日も「GUTS」を聴くことができる。これ以上のことがあるか。

 

 

2007年4月14日 大阪なんばHatch

 

今宵の月のように 
歌舞伎町の女王 
くるみ 
ハナミズキ 
Swallowtail Butterfly~あいのうた~ 
接吻kiss 
すばらしい日々 
I.L.Y.V.M. 
レイン 
マドモアゼル ブルース 
野獣 
BLUE CITY 
三つ数えろ 
冷血(コールド ブラッド) 
風の中の火のように

 

漂泊者(アウトロー) 
きんぽうげ 
HERO

 

ノーヴェンバー レイン 
GUTS

甲斐よしひろ アコギなKILLER GIG 2006

2006年10月7日(土) 岸和田市立浪切ホール

 

 早起きして明石へ行き、 高校野球秋季兵庫大会準決勝の2試合を見た。JR・地下鉄・生まれて2回目の南海電車を乗り継い で、大阪南部の岸和田へ。今日は近畿を縦断してる気分や。 
 岸和田駅前の商店街には、だんじりグッズを売っている店もあった。アーケードを抜けると、歴史を 感じさせる町並み。その道を、海の手前までひたすら真っ直ぐ進んでいく。

 ショッピングモールの左に、浪切ホールはあった。外観はオペラハウスのようだ。とても立派で 美しい。 
 客席もきれいやった。左右にある桟敷席が魅力的だ。僕の席は右端に近いけど、どうせ端っこなら 桟敷席で特別な体験をしたかったと感じられるほど。同時に、少しでも真ん中寄りで見たいという欲求も 当然あるねんけど。 
 ステージには、メンバー3人のイス。キーボードが最初から左側に設置されている。 
 「セイリング」などのBGMが流れるなか、開演を待つ。

 「ウィスキーバー」の歌声が高まる。”アコギ”なPARTY 30 と同じ曲で入場するねんな。前方客席の左右、客席後方、二階席の壁、会場全体が光と影で浮き彫りに なる。 
 現れた甲斐は、サングラスをかけている。白のジャケット。黒のシャツ。英字デザインの黒い Tシャツ。凝ったバックルの白いベルト。ストライプの入ったズボン。 
 松藤と、サングラスのないクラッシャー木村もポジションについている。ギターの松藤が右。 ヴァイオリンを手にしたクラッシャーが、キーボードのある左。 
 ステージの左右で炎が揺れている。曇り空の背景が浮かび、虹のライトが「観覧車」を思わせる。

 ギターの前奏でも、「観覧車」かと思った。そこへ、ヴァイオリンであのフレーズが届けられる。 
 「スウィート スムース ステイトメント」 
 ほんまに久々や!Series of Dreams Tour  Vol.3でもリハーサルはしたって言ってたから、編成の変わる今回こそやってくれるん ちゃうかと思ってはいたけど。1曲目とは! 
 深く愛し抜く、大好きな詞が、甲斐の声で沁みてくる。これが聴きたかったのだ。 
 「ザザザザッザザザ」と繰り返しているギターで、CDとは全く違った印象になっている。速めの 演奏で、勢いが感じられる。 
 1番の「君を見るまで愛していると告げたことさえなかった」だけ、ニューヴァージョンの詞だった。 
 サビは3人のハーモニー。 
 甲斐は2番も「too muchかい?」とうたった。「mismatchかい?」とうたっていた 第1期ソロのライヴヴァージョンから、オリジナルの詞に戻したのだ。 
 生で「スウィート スムース ステイトメント」が聴けるという感激。この1曲だけでも、今日来た 甲斐があったと感じる。甲斐のライヴは、いつもそう思わせてくれる。

 「裏切りの街角」 
 ヴァイオリンが入ることで、こんなに変わるんや。改めてそう強く感じる。チェロが特徴的だった Classic Kaiとも違って、また新鮮だ。 
 しかも、甲斐が吹くハーモニカとクラッシャーのヴァイオリンが、ケンカせずにとけ合ってる。 
 一旦イスに腰掛けたクラッシャーが、「チュッチュルル チュルルッチュチュチュチュ」の後から 再びヴァイオリンを奏で出す。 
 甲斐がラストをゆっくりうたってくる。松藤とクラッシャーが呼吸を合わせ、最後の一音を弾き 切った。

 「ビューティフル エネルギー」 
 甲斐がほぼワンフレーズごとに、ヴォーカルに強弱をつけていく。静かに響かせたり、声を高ならせ たり。その声が心地いい。言葉の印象も際立って胸に届いてくる。 
 甲斐は今回も「しれーなーいからーぁ」の語尾を下げてうたう。 
 2番は松藤がうたい出す。ヴァイオリンが1番と違った奏法。音を細かく震わせるトレモロで、 メロディーをつむぎ出す。 
 「もう 二度とーー」は甲斐と二人で。松藤は「しれーなーいからーーー」と声を伸ばす。 
 ヴァイオリンの間奏が、この曲も美しい。そして、「ビューーティフル エーーナジー」の ハーモニーも。

 甲斐は歓声に応え、このアコギツアーが沖縄宮古島まで続くことを告げる。 
 「最後まで楽しんでってほしいと思ってます」 
 その言葉が、最初のMCのしめくくり。

 ヴァイオリンの前奏。この音が聴きたかったから、やってくれると思ってたよ。この編成でやらない 手はない。 
 「かりそめのスウィング」 
 甲斐は手を打ったり体を揺すったりしながらうたう。いいノリだ。間奏に入ると、軽く踊ってみせる。 「軽くダンスしてね」という「PARTY」のMCを思い出す。 
 この曲も強弱をつけたうたい方だ。手を叩くように振る、新たなアクションも見ることができた。 
 フィニッシュで「オーイェー」の声。曲が終わると、甲斐がクラッシャーの名前を呼び上げた。

 「きんぽうげ」 
 松藤甲斐ヴァージョンで、穏やかに。 
 間奏のヴァイオリンが、やはりいい。オリジナルの音を感じさせながら、独自のメロディーを 連ねていく。アルバム「松藤甲斐」で松藤がやりたかったというフルートの音も、クラッシャーが ヴァイオリンで表現してる。 
 「ひびー割れーたガラスー窓」 
 このアレンジだと、ここからの部分の詞も、甲斐の声で聴くことができる。 
 後奏。甲斐と松藤が「ダダダダダ ダダダダダ」と声を重ね、やがて「フーフフー」という甲斐の ファルセット。 
 甲斐が今度は松藤の名前を呼び、松藤と松藤の曲を讃えた。

 今夜のオーディエンスを「大阪なのにカタい」と言う。「そういうのをほぐしていくのも好きなん だけど」と、雰囲気をほぐすMCへ。

 「きんぽうげ」が松藤の曲なのが悔しいと言ってみせる。 
 「その前にうたった「かりそめのスウィング」は、「裏切りの街角」ほど売れなかったとレコード 会社から文句を言われた。30万枚売れたんだからいいじゃないか」

 だんじりの街、ここ岸和田について。 
 「博多にも山笠があるから。(岸和田は)博多と似てると思ってる」 
 井筒監督の映画「岸和田少年愚連隊」 は10回見たという。「甲斐よしひろ ONE DAY IN OSAKA」という名作TV番組で、井筒 監督と対談もしてたね。 
 本当に石を投げつけるリンチのシーンを挙げたりしつつ、「あのイメージです。僕の岸和田に対する イメージは、あの映画からできてます」 
 「博多では、山笠の期間はあの山笠の格好が正装だからね。ホテルでも何でも、あの格好で入れる んだ。締め込みで」

 祭りの街は祭り好きの男たちが前面に出ているが、実は・・・という話。 
 博多でも表向きはそうだが、嫁が後ろから糸を引いているんだという。 
 「男たちが座敷で宴会して刺身やなんかを食べてるとき、女たちは台所で中落ちやふぐの皮を食べ てて。俺は末っ子だからどっちも行き来して、こっち(台所)の方が全然うまいじゃん!と」

 このツアーで巡ってる街のこと。 
 お兄さんが訪ねて来て驚いたが、その街が単身赴任先だった。 
 津の隣に阿漕(あこぎ)という、このツアーにぴったりの駅を見つけた。阿漕の漢字を説明する のに、「漕げよマイケル」を挙げていた。やはり音楽の教科書に載っていたそうだ。

 今日の会場もそうだけど、地方のホールはどこもきれいで施設がいいらしい。 
 「(歴史のある)京都会館なんて、ウォシュレット付いたの、つい最近なのに」 
 「十数年前の第三セクターあたりが絡んでるんじゃないかと睨んでるんだけど」

 不況で命名権を売ったホールについても言及する。 
 「渋公って言えないじゃん」 
 僕は、渋谷公会堂の名前が変わったの、知らなかった。新しい名前も含めて、びっくり。

 かつての外務大臣の発言に対するコメントも出た。僕もニュースで見て同じように思ってたし、 ごく真っ当な意見やと思う。

 「客がカタい」という話に戻って、大阪に遠慮は似合わないと言う。 
 「君たちに(激しいのと大人しいのの)中間は似合わない」 
 その言葉に、「ハイ!」というめっちゃ元気な返事が飛ぶ。 
 甲斐は「そういうの、ムカツク」と言ってみせてから、「どっちだ」と自分でツッコんだ。

 「再結成のときのシングルを」 
 「甘いKissをしようぜ」 
 甲斐はサビのみ、手を打つ仕草。 
 僕は歌に入り込み、甲斐の声を堪能したくて、2番の前半は手を打たなかった。 
 「アマイ大人になってさ いろんなもん削って つまんない顔していちゃ お前に逢えない」 「夢と罰みたいなKiss」詞が沁みる。 
 「キスをしたんだあーぁ」とうたいながら甲斐は、くちびるのあたりから右手をはなした。

 再びMC。福岡の小学生は、体育の時間などに動くとき、「やァ!」という掛け声をあげていた そうだ。「体操の隊形に開け」「やァ!」というふうに。 
 飲み屋でなぜかその話で盛りあがってた。そしたら、店の女の子が長崎で、「長崎でも「やァ!」 言いますよ」と教えてくれたという。 
 大阪のうちの小学校では、大運動会の組み立て体操のときだけ言うてたな。「サボテン、用意!」 「やァ!」とか。

 次は「安奈」だと告げてから、甲斐は「通常のツアーでこの曲をやるときは、カラオケ状態になっ てる」と言う。前奏が終わると、みんなが一斉に歌い出す。甲斐のライヴでは、バラード以外どの曲も みんなそうやけど。 
 「あのシステムは、おかしいよね」と笑う。 
 「今日は(アコースティックだから甲斐の歌声を)ちゃんと聴けるでしょう」

 そうして始まった「安奈」。ヴァイオリンとともに。 
 「Classic Kai」の後、クラッシャー木村が語っていた感想がよみがえる。「甲斐さんが、 ヴァイオリンの音色を聴いて「安奈」をいつもよりやさしくうたった、と言っていたのがうれしかった」 
 今夜も甲斐はやさしくうたっている。そのことをたしかめるようにしながら、聴き入ってゆく。 
 「安奈、お前に会いたい」はオーディエンスにうたわせる。それから「愛の灯をともしたい」まで、 客席にゆだねたり、甲斐もいっしょにうたったり。そして、「サンキュー」と言ってから、最後のサビを うたい始めた。

 緑の照明。甲斐の足元は赤く染まっている。 
 「LADY」 
 甲斐は強く歌う。激しいバラード。これが甲斐のバラードだ。松藤のギターもあくまで強く。 
 1番からすでに、サビ前の「ああ、LADY」を、「ああ」なしで後ろを上げるように呼び掛けた。 
 「からのポケットに」からが特にすさまじい。「にじーをー」と伸ばさず、「虹を」と詰めて歌う。 「だけどー今ー帆をー上げー高い波をくぐりーぬけー」声が濁ろうがかまわず、ひたすら強く歌い切る甲斐。 
 俺も船を出すぜ!

 「BLUE LETTER」 
 このバラードでも、松藤は初めから「ザカザーン」と分厚く大きな音を掻き鳴らす。 
 甲斐はヴォーカルに強弱をつけてうたっていく。 
 「恋におおーおち」「虜にいなったあー」「だけど心はなーれ いつか 別れてきーたー」 
 フレーズの区切りごとに、キーボードの高い音が曲を彩る。クラッシャーが奏でているのだ。 
 サビは最後を短く、「ブルーーレタ」。「”アコギ”なPARTY 30」から、このうたい方に なっている。 
 ホールにある音が甲斐の歌声だけになる、3番中盤がやはりたまらない。

 前奏のギター。歌入り前が今までにないアレンジになっている。甲斐にも新鮮に響いているようだ。 ヴァイオリン入りのアコースティックライヴだからと立つのをがまんしていたオーディエンスが、立ち 上がりはじめる。これからやって来る大合唱の波の兆しに、じっとしていられないのだ。甲斐がマイク スタンドに近づいた。「お前の髪に」 
 「ナイト ウェイヴ」 
 ヴァイオリンの調べが心地よい。「Classic Kai」の「破れたハート・・・」があんなに 素晴らしかってんもん。この三部作に合うはずやんな。 
 甲斐は「ウーウウー」となめらかに歌っていく。甲斐の歌声を聴き、ヴァイオリンとギターに包まれ、 手を打っての大合唱。気持ちよくって、うれしくて。甲斐はラストのみ、「ウォーオオーオ アーアアー」 と大きく声を伸ばした。

 ライトが点いた瞬間、スタッフ2人の姿も映し出された。しかし、甲斐はそんなことに構いやしない。 自らの衝動どおりに歌っていくのだ。 
 「漂泊者(アウトロー)」 
 ステージのバックでカラフルなライトが流れ、光が2つ回転している。アコースティックでも拳を 上げる。歌も演奏も力強いから。もはやすわってる奴なんているもんか。「漂泊者(アウトロー)」は 今夜も激しく熱いのだ。 
 間奏は甲斐のハーモニカ。そして、クラッシャーのヴァイオリン。互いが意識し合ってる。 相手を尊重しつつ、自分が音を出すとなったら存分に。

 「風の中の火のように」 
 初めから激しい。甲斐と松藤と、ギターも二つだ。 
 「そんなとき君の名を呼ーぶーー」「寒さに目が覚め自分をー抱くーー」「風の中の火のようにーー」 コーラスが重ね合わされる。 
 燃えるオーディエンスとともに曲も熱く突き進んでゆく。 
 甲斐が「愛なーのに」と歌うと、バックが真紅に染まる。それから、三人で「風の中の火のように」 と3回繰り返す。そして甲斐一人で、「火のーようにーー」を3回、最後は「火のーーーーっ」と 張り上げた。

 美しいメロディーが会場を渡る。ストリングスによる前奏が流されているのだ。これは 「Classic Kai」の音源に違いない。クラッシャーを待って、いっしょにコーラスから入って ゆく。 
 「破れたハートを売り物に」 
 アコギヴァージョンでも、「落ーとーしー」と遅くならない。オリジナルと同じく「落ーとし」と 詰めて歌うアレンジになっている。 
 甲斐はほほえんでいる。しあわせでしかたないって感じ。この瞬間、この場、この音が気持ちいい んやろう。 
 間奏の後も、甲斐は「今夜はここで静かにしなくていい、来いよ」という仕草。オーディエンスにも 「かなーしみやわらげ」「俺ーの愛はー」と、ところどころ歌わせていく。続いて三度訪れるサビの 大合唱で、本編は大団円へ。

 1回目のアンコール。甲斐とクラッシャーの二人がやって来る。クラッシャーはホルターネック。 ラメも見える。

 「冷血(コールド ブラッド)」 
 甲斐が激しくストロークするギターと、クラッシャーのヴァイオリン。ライトは緑と、下が赤だった か。「うらんでも」の前から鮮やかさを増すのが印象的だ。そこからのヴァイオリンがスリリング。 この曲独特の怖さ、冷たさを感じさせるのだ。 
 間奏で甲斐のアコギが高まる。それに連れてヴァイオリンの攻撃も強まってくる。上って、上りつめ ていく。 
 再び後奏で二つの楽器が絡みつく。速度を上げ、空気を震わせ、やがて果てた。

 甲斐がギターをスタッフに渡しかけてから、やっぱりまた肩にかける。 
 「松藤を呼び戻そう」の声で三人が揃った。 
 前奏は「観覧車」かと思った。1曲目に続いて、今日2回目や。でも、今度も別の歌やった。 
 「HERO」 
 おお、そうやったんか。それならもちろん、拳を2連打や!! 
 今夜も、「HERO」の熱さと快さが伝わってくるアレンジ。甲斐も詞を乗せるテンポを緩めたり しない。「砕け散っても」は客にゆだね、すぐに「HERO」と甲斐たちが続けるのもいいぞ。 
 いい歌やなあ。つくづく思う。ヒット曲だからとかは何も関係なく。ただ真っ直ぐ聴けば、ちゃんと 自分の胸に届くのだ。

 前奏は松藤のギターから。 
 「最後の夜汽車」 
 甲斐の歌だ。声のよさが、詞のよさが、沁みること。せつない。響かせる語尾の余韻がなおさらに。 
 しかも、ヴァイオリンがまたすごいのだ。間奏であのフレーズを奏でたかと思うと、2回目は それを高い音で聴かせてくれる。この抒情に満ちた調べ。この編成で歌うにふさわしいよなあ。

 余韻を胸に手を打ち、「甲斐ーっ!」って叫んでいると、2回目のアンコールが訪れた。甲斐は 白のTシャツに着換えている。

 甲斐と松藤が小さな楽器を手にしている。ウクレレだろうか。こういう楽器を見るといつも、 「Singer」の武道館を思い出す。「バス通り」やな。 
 ところが、始まったのは予想もしない曲だった。 
 「ハート」 
 おおお、ライヴで「ハート」なんて、初めてや!この歌に対する思いが一気に押し寄せて来る。 それと同時に、この貴重なステージを少しでも見逃すまいと、意識がさらに甲斐へ集中していく。 今この時だけの「ハート」を焼き付けるんや。 
 演奏と曲調に合わせて、甲斐は軽快な歌い方。力の抜け加減が絶妙やねんな。声も小さめで、口を マイクの方に突き出すようにして歌っている。 
 「天気雨」という言葉に、今日の明石を思い出した。それから、すぐに詞の本来の意味が伝わって きて、いつもうまくはいかない恋愛を思う。生で甲斐の歌を聴くと、ひときわしっかり感じられる ねんな。 
 甲斐は後奏で「ハ~ア~~~」「ハ~」と声を伸ばす。これが「ハート」のライヴヴァージョン なんや。 
 早めの暗転でフィニッシュ。

 オーディエンスへの感謝を述べる最後のMC。 
 会場のそこここから飛ぶ元気な「やァ!」の声に、甲斐は「「やァ!」禁止」と言って笑った。

 次にやる最後の曲は、長い間ステージで歌っていなかった。特別なイベントで歌ったら、泣いている ファンがいたらしい。 
 「この曲で泣くんだ」 
 それで思い直したのかな。最近はアコギで歌ってくれる機会が増えた。

 「バス通り」 
 甲斐がほほえんでる。 
 「まぶしかったのーーーーーー」 
 声の伸びがいい。思わず引き込まれていく。この歌声だけでも、聴く者を泣かせる力がある。 
 ヴァイオリンのトレモロが、「バス通り」と、ライヴの終わりを彩った。

 僕らは甲斐たちに目一杯の拍手と声をおくる。クラッシャーが去る。松藤はマイクスタンドに 近寄って、「甲斐よしひろ」って紹介して行った。こんなふうに、メンバーが甲斐の名前を呼び上げるの って、初めて見たな。拍手と歓声、「甲斐ーっ!」の叫びがまた激しくなる。 
 それらに応える甲斐。マイクスタンドの後方に離れて立っているけど、「サンキュー」と言っている のが小さく聴き取れる。それから、マイクスタンドに近付いて、あらためてみんなに聴こえるように 「サンキュー」と告げた。

 甲斐のいなくなったステージを眺めながら、今夜のシーンを思い返す。どの曲でのことだったか 思い出せない情景。 
 キーボードの高い音。客席横の壁に三人の影が映っていたところ。ヴァイオリンを指ではじく 奏法。甲斐にMCの途中で急に紹介され、驚きつつ立ち上がったクラッシャー。

 バンドツアーのROLLING CIRCUS REVUE との違いが際立って来たな。アコギツアーだから聴ける曲、バンドツアーだから歌う曲というのが、 できてきてる。しかも、それぞれにめったに聴けない曲を取り上げてくれるのだ。これから、ライヴで いろんな歌が聴けるぞ。 
 ますますおもしろくなってきた。

 

 

2006年10月7日 岸和田市立浪切ホール

 

スウィート スムース ステイトメント 
裏切りの街角 
ビューティフル エネルギー 
かりそめのスウィング 
きんぽうげ 
甘いKissをしようぜ 
安奈 
LADY 
BLUE LETTER 
ナイト ウェイヴ 
漂泊者(アウトロー) 
風の中の火のように 
破れたハートを売り物に

 

冷血(コールド ブラッド) 
HERO 
最後の夜汽車

 

ハート 
バス通り

甲斐よしひろ ROLLING CIRCUS REVUE

2006年2月10日(金) 大阪なんばHatch

 

 1階席最後方に立ち見の列ができていた。当日券で入場したファンだろうか。 
 昨日より客の入りが早い。開演前の歓声や拍手も多いぞ。 アナウンスが今日も3回入り、あのBGMが流れてくる。口笛。歌。ムチの音。僕はもちろんすぐに 立ち上がる。みんなの立ち方も早い。昨日でわかってるもんね。 
 手拍子がずれてくる。照明が落ちて、拍手に変わる。そして、より大きな手拍子へ。今度は しっかりと合っている。歓声が飛ぶ中、バンドがステージの上へ。

 甲斐は黒のスーツ。よく見るとピンストライプが入っている。白いシャツにネクタイ。黒の ベルトのバックルはシンプルな銀と思いきや、両端に飾りがあることに気づいた。

 あの低い音。いきなり曲の世界が立ち現れる。これが最初に攻めて来るとは。 
 「ALL DOWN THE LINE 25時の追跡」 
 ものすごい。歌も演奏も。引き込まれ、圧倒されるこの迫力。 
 間奏の無線。甲斐は背中を向け、左手にマラカスを2つ持って、手を打っている。 
 「ああ 運に見放され」からは、今日も声を張り上げて歌った。 
 なんでやろう。昨日もすごかったのに、1曲目だとさらに強烈に感じる。曲順の持つ力を あらためて体感。最高のオープニングやった。

 伸びる最初の一音。「BIG GIG」ヴァージョンとは高さがちがう。昨日気がつかなかった のも当然やな。 
 「危険な道連れ」 
 左と右は緑の照明で、真ん中は赤。サビに入ると、左が緑で右が赤になる。 
 甲斐は膝を高く上げて歩きながら歌う。手の指を開いて、マイクは曲げた親指にはさんでる。 もう一方の手は完全に5本の指を開いている。 
 前野選手のサックス。長い間奏だけでなく、サビでも効いている。 
 「俺は信じてる」の前に一瞬後ろを振り返り、また前を向いて歌うアクションがかっこよかった。

 イントロで「おおおっ!」と声をあげてしまった。はずむビートに合わせて跳ばずにはいられ ない。歌入り前にあの音で拳を上げる。 
 「ランデヴー」 
 ずっとドラムが叩いている。これがめちゃめちゃ燃えるのだ。しかもハイペース。僕は思わず、 1回目の「デッドメンズ カ~ヴ」をコーラスといっしょに歌う。甲斐は「夜の中裂ーけ入って~ ゆくーー」「闇の中」「嵐の中突き進んでゆくーー」とほぼオリジナル通りの詞で歌う。 
 「お前はあ笑ってーえる 俺の愛を信じてーええ」痛快に駆け続ける二人の姿が浮かぶ。 
 大好きな歌を久々にやってくれた。俺はこの曲好きやと実感した。それにしても、こんなに すごい「ランデヴー」も初めてや。どの曲もやる時はその時その時のベストのアレンジにつくり上げ てるやんな、いつも。

 最初から怒涛の3曲やった。ものすごい燃焼。曲の後半に、アフリカの太鼓を思わせる野性味の ある低いドラムが鳴ったのは、「危険な道連れ」だったか「ランデヴー」だったか、もはや思い出せ ない。 
 また、スーツ姿の甲斐がいい。やっぱりスーツでのアクションが最高に似合ってるよ。

 静かなバラード。かすれた笛のような音が漂う。 
 「荒野をくだって」 
 間奏でマイクスタンドが揺れる。甲斐は少しタイミングを遅らせてから、「二人を引き裂いた いくつかの」と2番をうたいはじめる。 
 「西へ」を響かせる甲斐の声。この情感。 
 甲斐は片手を胸に当て、ゆっくりと後ろへ歩み去った。

 このツアーのハイライトの一つ。あのメドレーが始まる。 
 「悪いうわさ」 
 昨日はダークな照明という印象やったけど、あらためて見てみると、それほど暗くはない。 それでいて、この曲の持つ苦さを表現している。 
 甲斐は背中にまわしたアコギを、2番後の間奏で弾き始める。今日も。 
 後奏。甲斐がアップストローク。それにともなって、バンドの音が一音ごとに高くなっていく。 そして、あのうねりへと連なっていく。 
 「ダニーボーイに耳をふさいで」 
 甲斐がせつない声をあげる。それが聴く者の胸を締め付ける。 
 後奏でさらにもう1回「いつものよーうにー いつものよーうにー ドアを閉ざーしてー」と 繰り返して、曲が終わりに向かう。

 キーボードのソロ。今日は短めに感じた。その音色を背に甲斐が言う。 
 「男も女もぬくもりがないとやっていけない。そんな物語の歌をやります」 
 蘭丸のギターがはじける。イントロの前半と歌入りの直前、キーボードが「キュルルル」と走る。 
 「港からやって来た女」 
 ステージもオーディエンスも大騒ぎ。甲斐は股間を手で押さえるようなアクションも。 
 2番のサビ。甲斐が蘭丸のところへ行く。右手にマイクを持ち、左腕は上げて振り廻し、 さらなる熱狂をあおる。マイクを左手に持ち替えて、右手を蘭丸の背中にあてる。 
 静かな3番前半では、「み、見つーめ」のうたい方。サビ前から再び盛りあがっていく。 
 「フーーっ!」は4回。甲斐は「バイー バイ バーーイっ」と早めのタイミングで仕掛けて 来ることが多かった。 
 さらに後奏は続く。甲斐がドラムスの台に上がる。蘭丸が弾きまくってる。甲斐が JAH-RAHにも言ったのか、蘭丸にもっと弾けよと合図する。いつもより長く聴けた蘭丸の 激しいプレイ。次のタイミングでついにフィニッシュ。

 甲斐の「まだまだやるよ!」に、歓声が応える。 
 「ダダダンダンダダン」あのフレーズが響く。最初の2つは間を置いて。そこから間隔が 詰まって続いていく。JAH-RAHのドラムが2回炸裂。 
 「ボーイッシュ ガール」 
 甲斐は「ダダダンダンダダン」のすき間で、妖しいため息を聴かせたりする。「ボーイッシュ ウーマン  マーーン」という歌い方が今夜も快感や。 
 燃える間奏の、その前半。引っ掻くような音がHatchに流れる。 
 後奏。甲斐はステージ左で、「シュバチュク」とか「ベイベー」とかの技を聴かせる。それを 短くとどめると、「ボーイッシュガーアアル」と音を高めながら繰り返す。それから右へ移って、 「シュバチュク」の声。JAH-RAHの2連打が「ボーイッシュ ガール」を終わりへと導く。

 ここで、MC。

 「デビューリリースした74年の頃は、チャートの7割が歌謡曲と演歌で、3割がニュー ミュージック。マイペースの「東京」とか。なんで今それが浮かんだのかわかんないけど」 
 「甲斐バンドの活動時期と同じくして、だんだん割合が変わってきて。甲斐バンドの長い旅は、 ロックのパーセンテージを獲得する旅でもあった。今じゃ逆転してる」

 「今思い出したけど、一昨日NODA-MAP見に行って、トイレに行って、用を足して、 洗面所に並ぶだろ。洗面台が3つあって、20代の若者が3人ともうがいしてんの。「ガラガラ、 ペーッ」て。1人ならわかるけど」 
 「人を笑わしてナンボの街だから、俺を笑わしにかかってんのかな、3人で。と思って見ても、 真剣な顔してて。笑わせるには冷静さとある種の読みが必要なわけで、逆にそういうことなのかなと」 
 確かに、ボケる時は自分が笑ってはいけないというのは、笑いの基本ではある。 
 「昨日は文珍と、・・・どこだっけ。2回焼けたとこ。包丁一本」 
 客席から「法善寺横町」という声が多くあがる。 
 「(自分は)思い出すのが遅いな。もうちょっとで、さらしに巻こうかと」と笑わせる。 
 「(文珍には)「野田くんの客やからちゃうかー」って、ひと言で片付けられたけど」 
 昨日言ってた「高名な落語家」って、文珍やったんか。 
 話題は楽屋ののれんへつながっていく。野田秀樹古田新太の楽屋ののれん、昨日はカトちゃん なのか志村けんなのかわからなかったけど、カトちゃんぺだとわかった。

 「博多から大阪へ。ちがう。なんで大阪なんだ。博多からから東京へ。東京からN.Y.へ」 
 「なんで行ったかというと、エコーが違う。日本にはエコールームがなかった。ヨーロッパでも アメリカでも、エコールームっていうのがちゃんとあって。ルームエコーっていうんだけど。日本は 機械でエコーをつけてた」 
 「俺の歌はこんなもんじゃない、と思ってて。松藤のドラムはこんなもんだと思ってたけど」 
 松藤が抗議のポーズを取ると、「すぐツッコんでくれて、よかった」 
 「それで向こうで録ったら、俺の歌、よくなってて。松藤のドラムもよくなってて。じゃあ、 俺がそれまでに何回か松藤にした説教は何だったんだ」 
 これに松藤がウケる。このやり取りの間松藤の姿を浮かび上がらせていたライトが、しばらく するとそっと消えた。 
 「ボブ・クリアマウンテンとやって。その後、ジェイソン・カーサロと3枚つくった。僕は N.Y.からロンドンにも行って。東へ東へ。で、この前は東京のO-EASTっていうところで やって。この程度の東かと」というジョーク。

 このツアーに関して。 
 まず、1か所で続けてやりたかったということ。 
 それに、甲斐バンド解散から20年。「それに何の意味があるのかって感じなんですけど、 「あなたはやる方だから」と言われて、甲斐バンドナンバーオンリーでやる」 
 「それがローリング・サーカス・レヴューの意味っちゃあ意味なんだけど。まあ、あって無い ような意味なんですけど。それくらいのことです。クリエイティヴって、そういうことだからね。 誰かをちょっとよろこばせたいとか、そういうところからだから」

 「その、ボブ・クリアマウンテンとの三部作の中からの曲をやりましょう」 
 客席から「キャーッ」という声があがる。 
 「「BLUE LETTER」を」 
 さらなる大歓声が起きる。

 白いライト。両横から青の光り。ステージ上方はオレンジ。 
 松藤は1番からアコギを「ザカザーン」と弾く。音のない間をつくり、ずっと続けては弾かない。 
 甲斐は「ブルーー レタ」と、語尾を伸ばさずに響かせる。 「”アコギ”なPARTY 30」もこのうたい方やったなあ。 
 少しためてうたったりもする。2番をうたい終えると、立ち上がってハーモニカを吹く。3番 では甲斐の声のみが会場に響く。 
 今夜のアレンジも素晴らしい。

 「シーズン」 
 甲斐はアコースティックギターを弾いている。 
 照明は水色。緑もあるが、水色に溶け込んでいる。 
 「ウーウウ」というコーラスが胸を突く。切なさを高めているのだ。

 この後が「ナイト ウェイヴ」だったら、サンストのハガキが言ってた「海辺の三部作」を全部 続けて歌うことになるなと思った。が、始まったのは別の曲。 
 「ビューティフル エネルギー」 
 ここでも昨日と曲順が変わってる。「シーズン」と「ビューティフル エネルギー」が逆に なっているのだ。 
 今日はこの曲を、「王道やな」と感じた。歌詞にダブルミーニングが多いし、シングルで松藤が 歌ってたし、やや異色の曲というイメージもあってんけど。なぜか今日は、キャッチーなラヴソングと して届いてきた。 
 「オーロラーが のぼっていくよーぉーー」と、甲斐はこの部分の語尾を下げながらも伸ばして いった。 
 今日もはっきり「声をたてようぜーー」と歌った。これからはこの詞でいくのかもしれない。 
 曲が終わると、甲斐が叫んだ。「ツインギター、松藤英男!」

 「氷のくちびる」 
 甲斐はオレンジの大きなボディのエレキ。照明はやはり、黄緑のイメージじゃない。このツアー から変わったのだ。サビで白が混じり、横の上から黄緑も射す。甲斐のギターに合わせての変更なの だろうか。 
 1番に続く間奏。甲斐が腕を曲線的に動かして、蘭丸に「どうぞ」と場所を示す。甲斐に赤、 蘭丸に紫のスポット。「夕暮れのカフェ」まで蘭丸は甲斐の右で弾く。松藤の縦笛が聴こえる。 「ヒュルルルルルルー」という調べも。 
 蘭丸は前へ出て、腰を落として弾きまくり。甲斐は「アアアアアアアアアアアアアアア」を フルで2セット。それから「フーーーーーーーッ」というファルセット。そして、右後ろへ行き、 ギターに没頭する。

 「ポップコーンをほおばって」 
 「埋れ陽の道にすべては消えうせた」「君は翼がある事を知って恐かったんでしょう」甲斐の メロディーが途切れるごとに、JAH-RAHのすごいドラムが入る。最初から大迫力や。 
 間奏で歓声が沸く。甲斐がマイクスタンドの右で左で、オーディエンスをいっそう煽る。 静かなパートに入っても、観客の手拍子は強いまま続く。蘭丸が細かく弾き続けてる。JAH-RAH のドラムは「ズシーン ズシーン」と重く響く。 
 サビの繰り返し。青いストロボ。拳を突き上げて歌う俺ら。白いライトが入るタイミングが つかめた。拳の三連打に合わせて赤のライトが光る。バンドのフィニッシュとともに拳を二連打!!

 「翼あるもの」 
 「俺の声が聞こえるかい」から最後まで、甲斐は強く歌い切った。 
 「フラウウェイ  ハウウェイ  フラウウェイ」 
 甲斐が両手を広げる。今日は下げずに、そのまま上へ。甲斐の腕を影が上る。音が高鳴る。 両手を下へ。再び音が高まる。甲斐が両手を広げる。 
 何の涙かわからないうちに泣けてきた。泣ける「翼あるもの」やった。

 「漂泊者(アウトロー)」 
 イントロのギターが弾む感じ。バックにカラフルなライト。白い光が横へ横へ走る。 
 「誰か俺に」の時に聴こえるピコピコという音がいい。「冷血(コールド ブラッド)」の 血のしたたるような音を、もっと明るい高さにしたような。これが切羽詰まった感覚に追い討ちを 掛けてくるのだ。 
 「爆発」から「しそう」までのアクション。甲斐は今日もすぐに立ち上がった。 
 甲斐が後ろを向いて、両手を下の方で広げる。すると、バンドから大音量が湧き上がった。 
 甲斐たちの迫力に圧倒されたまま、本編が終わった。

 歓声と拍手、名前を呼ぶ声のなか、メンバーが再び位置につく。 
 甲斐が左ソデから歩み出て来る。黒いジャケットに少しラメが入っている。ズボンは変わらず か。 
 「キラー ストリート」 
 おお、今日も聴くことができるんや!このツアーで久々に取り上げられた、昨日の1曲目。 
 ステージの両端は黄色、真ん中はオレンジに染め上げられている。 
 「闇に一筋ジャアックナイーフ」で、今日は右手で空をひと掻き。 
 2番の前半もブレイクしてない感じやったけど、興奮して思い違いしてる可能性もあるな。

 メンバー紹介。 
 前野選手は印象的な白い服。 
 JAH-RAHは笑顔で前へ。僕は「ジャラ!」と叫んだ。後ろへ戻ったJAH-RAHは、 縦長のタイコの前に立つ。 
 「お前ら、曲の間に暴れ過ぎて、拍手が小さい。逆だろ」と甲斐。 
 「ツインリードギター。というより、ツインリーダー。何のリーダーかよくわかんないけど。 松藤英男」 
 さっきまでも拍手が小さいとは思わなかったけど、ひときわ大きな拍手が起きる。両手を 合わせて指を組み、それを掲げて見せる松藤。松藤らしい仕草や。エレキを振り下ろす決めポーズも、 昨日に続いて。 
 ノリオは紹介されると、胸の前で手を合わせる。甲斐に促されて前に進み、ステージの左・右・ 真ん中それぞれで手を合わせて頭を下げた。 
 最後に蘭丸。僕は今日も、「コーヘイ!」と叫んだ。

 「松藤がドラムを叩いていただけるそうで」と甲斐。さっきのノリオのノリで、「あやかりたい、 あやかりたい」というふうに体をなでるジェスチャー。 
 和んだところで気持ちを切り換え、「松藤のドラムで「安奈」をやりましょう」

 蘭丸はイントロをゆっくり弾く。2番は刻む感じで。「ヒュールルルーー」というキーボード。 昨日ほどはドラムが目立っていない。ギターが特徴的。 
 手拍子する気分じゃなくて、手のひらをズボンに置いてたら、ベースの音で生地がビンビン 揺れてるのがわかった。 
 昨日とさえちがう。やる度にその時だけの「安奈」が生まれるのだ。 
 甲斐がオーディエンスにうたわせる。僕らは「あんなーあ」と声を束ねる。 
 後奏で、甲斐は「あんなーあ」とうたうことはせず、切ない声をあげた。

 「ドラムス 松藤英男!」 
 歓声と拍手に、松藤がスティックを掲げて応える。

 甲斐が後ろへ行く。蘭丸に話もしているようだ。 
 マイクスタンドの前に戻って、「今ミーティングしてるから」 
 興味津々の客席に向かい、「聞かさない」といたずらっぽく。

 「観覧車’82」 
 間奏で両手を挙げる甲斐。華やかに回るカラフルなライト。僕のところにもその色は届く。 
 詞の切なさが痛い。それなのに、舞台を照らす光は結婚式の華やぎ。甲斐が回る。バンドによる 分厚い音の層。全部がないまぜになって、泣けてきた。 
 後奏。甲斐がマイクを使わなくても、観客の叫びは続く。「ウォーオオオオオ」 
 ビートが効いてる。松藤が平たいパーカッションを叩いてる。 
 回り続けるライトの下。甲斐はおじぎをして、両サイドの床を指差してから、去って行った。

 2度目のアンコールに応えた甲斐は、白のTシャツの上に黒のTシャツを重ね着。胸元は開いて いて、クロスがのぞいている。 
 出て来てすぐに、曲の開始をJAH-RAHに求める。 
 「ダイナマイトが150屯」 
 甲斐はイントロでマイクスタンドを縦に蹴り上げる。それからリズムに乗って身体を揺さぶる。 
 間奏の後半で、マイクスタンドを横廻し。そのまま歌へ。まだ回転してるうちに歌い出すねん から燃える。 
 後奏。ステージは真っ白な光にさらされる。その中心で甲斐はマイクスタンドをぐるぐる廻す。 今日は膝を使わずに止めてみせた。左右を真剣な目で見たかと思うと、次の瞬間、マイクスタンドを 横に振り廻す。リズムに乗って跳ねる。叫ぶ。 
 最高のアクションや。盛りあがりまくったで。

 「今夜は、大阪3日間2DAYS目。本当に、こんなに来てくれて、ありがとう。感謝してる」 
 オーディエンスの拍手が止まらない。メンバーも手を振ったり、蘭丸はオーディエンスの方を 指差したりして応える。 
 鳴り続ける拍手をさえぎるように、甲斐が話し出す。 
 「去年、ライヴCD10枚組が出て。今度、3月8日にDVD6枚組という重量感のあるのが。 俺の体重と反比例するように」 
 見ていて感じてた通り、甲斐は体を絞り直したらしい。 
 「今夜は本当にサンキュー」

 左上から細いライト。右上から太いライト。甲斐がマイクスタンドの前に立つと、左の光も 太くなった。 
 「嵐の季節」 
 甲斐はサビをあまり歌わず、オーディエンスにゆだねて行く。大合唱の狭間に叫びをあげる。 
 「じっと風をやり過ごせ」「じっと雨をやり過ごせ」という言葉が、今夜は胸に響く。 
 渾身の力を込めて、2回に1回突き上げていた拳。繰り返しからはしぜんと、毎回突き上げず にはいられなくなっていた。 
 これで次のツアーまで何があっても耐えられる。この歌が終わった時、そう思った。

 甲斐が去ったステージを見つめたまま、今日のライヴを反芻する。間奏で甲斐がツインギターを 指した場面。JAH-RAHの後方下の白いライトが、爆発するように点滅した様子。今夜だけの ニューヴァージョンの歌詞は、「ランデヴー」の2番ラストのみか。

 別の歌が加わり、曲順が変動すると、ライヴの印象もまるで違うものになった。思いっ切り燃え たなあ。こういうツアーって、めちゃめちゃうれしい!

 

 

2006年2月10日 大阪なんばHatch

 

ALL DOWN THE LINE 25時の追跡 
危険な道連れ 
ランデヴー 
荒野をくだって 
悪いうわさ 
~ダニーボーイに耳をふさいで 
港からやって来た女 
ボーイッシュ ガール 
BLUE LETTER 
シーズン 
ビューティフル エネルギー 
氷のくちびる 
ポップコーンをほおばって 
翼あるもの 
漂泊者(アウトロー

 

キラー ストリート 
安奈 
観覧車’82

 

ダイナマイトが150屯 
嵐の季節

甲斐よしひろ ROLLING CIRCUS REVUE

2006年2月9日(木) 大阪なんばHatch

 

 Classic Kai終演後にチラシを受け 取ってからおよそ5ヶ月。なんばHatchに帰って来た。 
 入場して左手に花が飾ってある。毎日放送ちちんぷいぷい角淳一より。甲斐が 先日ビデオ出演したからだろう。そのときは見ることができなかった。こういう情報も ちゃんと「K-メール」で教えてほしい。

 右手にあるいつものグッズ売り場で、パンフやTシャツ、ストラップなどを買う。 
 エスカレーターで階上へ。CD・DVD売り場の前を過ぎ、ドリンクチケットを 水と交換。自分の席が右前なのはわかってたけど、あえて左後方の扉から客席に入る。 席まで歩く間にステージや会場全体の感じを見たいから。

 ステージを見て最初に気づいたのは、キーボード台が左奥に変わってたこと。 前野選手が左奥で、松藤が右奥に位置するのだろうか。 
 ステージと客席1列目の間。その上にいくつも黄色い照明が設置されてある。 色は薄いのと濃いのがあり、ライトはひとつひとつ違う方を向いている。 
 BGMは懐かしい曲が多い。「甲斐バンド解散から20年」のツアーだから、 甲斐バンドが活動していた時期の曲を選んだのだろうか。佐野元春発泡酒のCMで 流れていた「シュガー・ベイビー・ラブ」。アグネス・チャン「ポケットいっぱいの 秘密」。「ア~イ・ショット・シェーリーフ」と聴こえるのは、「警官を撃っちまった」 ってやつか。「岬めぐり」。「スペース・カウボーイ」と歌ってる洋楽。アグネス・ チャンの歌がよくできてるなあと思う。演奏もいい。

 BGMが途切れた。始まるのか。しかし、まだチューニングの音が聴こえる。さっき と同じBGMの曲たちが、また最初から流れ始める。 
 3度目のアナウンスが入る。スモークの量が多くなってきた。まだ続々と客が 入って来る。平日やもんな。 
 BGMが変わった。西部劇のテーマらしき曲。口笛。馬を打つムチのピシッという 音。これで甲斐が登場するのか。まだ確信は持てない。 
 照明が落ちた。間違いない。拍手が起きる。やがて前方の客からひときわ大きな 拍手。メンバーが入場して来たのだ。その間に甲斐の背中が白く浮かび上がってる。 「甲斐ーっ!」

 ドラム。僕は「おおーっ!」と声をあげてしまった。これは!来た!久々や! 
 「キラー ストリート」 
 ゆっくりめのリズム。黄色とオレンジのライト。「シークレット ギグ」を始める のか?という思いも浮かんで、いっそううきうきしてくる。 
 甲斐は銀の縁のあるサングラス。白いジャケット。金の英字が入ったタンクトップ の上に、黒のシャツ。ズボンも黒でストライプ入り。ベルトの銀のバックルが印象的。 前髪を短く切って、上げている。 
 詞の合間にオフマイクで「カモン」と口が動いているのが見える。「闇に一筋 ジャックナイフ」で指を立てる。 
 1番を歌い終えると、マイクスタンドを殴るようにしてつかみ、持ち上げて体ごと 回転した。 
 レコードではブレイクする「気分はBLUES」からの2番前半。JAH-RAH のドラムと、少しずつ入る蘭丸のギターがかっこいい。 
 「闇に二筋」では指も二本。2番を歌い終えると、甲斐は体を回転させ、後ろへ 下がる。蘭丸の間奏や。ここでの音がめっちゃスリリング。ますます興奮してくるのだ。 
 甲斐の吼え声から3番へ。「燃え上がる」を、今夜ははっきりと早口で音に乗せて みせた。 
 後奏では「ゴーオホホー」の叫びだ。ラストは両肘を曲げ、親指と人差し指を立て た両手を、前に突き出す。それをビートとともに連打してフィニッシュ。新しい アクションや。

 続けてあのビートがやって来る。 
 「ダイナマイトが150屯」 
 サックスはなく、キーボードが期待を煽る前奏。甲斐がマイクスタンドを蹴る。 しかし、うまく上がらなかった。 
 ステージは白一色に照らし出されている。客席左右の壁に甲斐の影が映ってる。 JAH-RAHが上のドラムを叩く左スティックの持ち方が、独特な形に見える。 手を打って大声で歌い、甲斐の動きを追いかけながら、目に入ったもの全てを焼き付けて おきたいという思いになる。 
 甲斐がこちらへマイクを向ける。「ダイナマイトが150屯」と腹の底から歌い 返す。甲斐の顔は浅黒く見えた。 
 後奏でマイクスタンドをぐるぐる廻す。最後は膝で受け止めてから、スタンドを 持つ。前奏の分まで絶対に決めてやるという気合いの表われかと、勝手に想像してしま う。僕らも歓声で甲斐に応えた。

 「ギューーン!」という音が響く。さらにビートが叩かれ始め、印象的なフレーズ が繰り返されても、まだ何の曲かわからない。手拍子しながら、どの曲やったっけという わくわく感が高まってゆく。長くライヴで歌われていないことだけはわかるねんけど。 
 「黒い霧が流れ 冷たい雨が降る」 
 僕はまた「おーーっ!」と叫んでしまった。 
 「危険な道連れ」! 
 ついに初めて生で聴くことができた。甲斐が左右に動きながら歌っていく。前野 選手のサックス。ステージの左は緑のライト、右は赤のライトに染められ、クロスする形 で客席右の壁に緑が、左の壁に赤が映っている。 
 間奏の終わり際、JAH-RAHがドラムをクレッシェンドで連打する。 重量感のある音だ。燃え上がらずにいられない。そこへ甲斐の歌が再びかぶさって来る ねんから、もうほんまにすごいのだ。

 最初の3曲、ドラムとベースのビートがビンビン体感できた。右の鼓膜をも突いて 来る。 
 次の曲では、蘭丸は左サイドを向いてじっとしている。バラードが聴こえてきた。 僕がツアーに通い始めた頃、よくうたってくれていたバラードだ。 
 「荒野をくだって」 
 前野選手と松藤。両方のキーボードだけ。そこに甲斐の歌声がのる。アルバム 「TORIKIO」収録のヴァージョンとはちがって、はっきりと音を発する甲斐。 切なくて、打ちひしがれた痛みを感じさせる絶妙のヴォーカル。その声を堪能する。 
 「いつも・・・」とうたった次の詞が出てこない。あわてて何か言葉を継ぎ足す ことはせず、目を閉じ口を結んで待ち、「さみしげなエンジンの音が」からうたって いく。僕らはそれをじっと見つめ、聴き入っている。 
 キーボードから、この曲独特のかすれたような音が出される。その後ろでずっと 奏でられている静かな旋律が、漂っているようだ。 
 後奏で甲斐は「オー」とせつない声をあげた。それから、後ろへ歩き去る。 最後のキーボードが終わる。

 オーディエンスの拍手と声援に、甲斐は暗闇の中から「サンキュー」と返した。 今夜はMCがなく、どんどんと曲が差し出されて来る。 
 「デーデデデーデー」という妖しく力強い音が初めに。甲斐バンドライヴCD10 枚組「熱狂 ステージ」で聴いてたあのイントロだ。例のフレーズに入って、客席が あらためて沸く。 
 「地下室のメロディー」 
 甲斐はアコースティックギターを弾いている。蘭丸はやはりエレキシタールを 弾いているのだろうか。そのことも確認してみたいけど、甲斐から目が離せないから、 わからない。 
 黄色。赤紫。ステージの天井から床へ紺色の光がいくつも伸びていた。

 「地下室のメロディー」から「LOVE MINUS ZERO」まで、中後期の アルバムから1曲ずつ歌われているなと気づいた。各アルバムから1曲ずつ選んでいく という趣向があるのだろうか。 
 しかし、そう思ったところへ響いてきたイントロは、2曲目となる「GOLD」 からのナンバーだった。 
 「ダダダンダンダダン」あの音がして、今度はそのフレーズ1回分、間を空ける。 蘭丸のギターが少し。「ダダダンダンダダン ダダダンダンダダン」次からはレコード 通り、2回ずつセットで迫って来る。バックで、6つずつ並んだ円いライトが赤く光る。 甲斐が歩きまわる。 
 「ボーイッシュ ガール」 
 85年前後にツアーでよく歌われていた演奏でも、 「Series of Dreams Tour Vol.2」の”AGAIN”で 聴かせてくれたしぶいヴァージョンでもない。強さとしゃれた感じを兼ね備えた新しい 「ボーイッシュ ガール」だ。 
 ノリオと前野選手が高い声のコーラス。松藤も加わっているかもしれない。 
 甲斐は「ボーイッシュウーマン オア マーン」と初めの1回だけ歌い、あとは 全て「オア」抜きで歌った。「ボーイッシュウーマン  マーーン」という響き、 かっこよくて気持ちいい。 
 2番後の間奏。最初は長い音が伸びる。「ダーーンダダダーーン」の繰り返し。 甲斐が縦に首を振り、そこから激しく強烈なビートとギターに巻き込まれていく。 
 甲斐は後奏であのフレーズに合わせ、「ボーイッシュガーアアル ボーイッシュ ガーアアル」と声をあげ、それを高めていく。「シュビチュパ」とか「ベイベー」とかの ヴォーカル技もしっかり聴くことができた。

 刻まれ始めたリズムに心が沸き立つ。もしかしたらやってくれるんちゃうかと思って はいたけど。蘭丸のギターが入って、改めて客席から歓声があがる。 
 「悪いうわさ」 
 甲斐は肩にかけたアコギを後ろにまわしている。左上からのスポットだけが光を 差す、暗い照明。その下でうたっていく。松藤が低いコーラス。甲斐は1番の最後にも 「今日もー」をつけてうたった。 
 ついに初めて聴くことができた。レコードで聴いて自分に響いていたいくつかの 詞が、生でダイレクトに伝わって来る。 
 2番の後の長い間奏で、甲斐がアコギを弾き始める。蘭丸のギター。バックの サウンド。悲しい「悪いうわさ」の世界。もう一度最初の歌詞へ。そしてサビの繰り 返し。さらに後奏へと戻って行き、蘭丸がイントロのフレーズを聴かせる。と、音が 跳ねる。甲斐はアコギをアップストローク。一音ずつビートが打たれるごとに、音が 高くなって行く。これは!と思ったところへ、次の曲の前奏がつながる。高らかに奏で られるフレーズは、もちろんみんなを熱狂させた。 
 「ダニーボーイに耳をふさいで」 
 甲斐はアコギを弾きながらうたっていく。やっぱり詞がいいよ。いちいち僕に 突き刺さる。 
 「悪いうわさ」~「ダニーボーイに耳をふさいで」という、実際に聴いてみた かったメドレーを体験できているという感激をかみしめつつ、「ダニーボーイ・・・」の 詞にひたる。 
 後奏。倍加するリズムとともに演奏が高まるなか、甲斐は「いつものよーうにー  いつものよーうにー ドアを閉ざーしてー」と切ない声を振り絞った。やがてバックの 音が伸び、曲がゆっくりになって、それから再び音の放射。フィニッシュへ。

 ここで、今夜初めてのMC。

 同じ会場で数日間ずつ続けてライヴをやるこのツアーのことを、「芝居小屋みたい」 な形式で、やりたかったんだという。 
 芝居の連続公演みたいに、楽屋に長のれんを付けたい、とも。 
 「野田くんとは仲いいんで。NODA-MAP、昨日も実際行ってきた。(野田 秀樹は)古田新太と楽屋がいっしょで。カトちゃんの、ヘンなおじさんののれんが かかってた」 
 自分は銭湯の「ゆ」って入ったのれんでもかけようか、と言う。 
 「せんばか・・・通天閣・・・将棋会館の近く・・・で、買ってこよう。安いな」

 松竹新喜劇藤山寛美を皮切りに、吉本新喜劇の役者の名前も次々出てきて。 花紀京原哲男木村進。 
 木村進のことは「博多淡海の息子」という注釈付き。寛平ちゃんを操る猛獣使い にもたとえていた。

 こういう形のツアーの特徴として、「長く(同じ場所で)やってると、普段来られ ない人が来る。今日は高名な落語家が来てるし」 
 鶴瓶のことかな?

 「初日だからって、カタいよ。みんな。出て来た瞬間、「カタっ」って思ったもん。 そういうのをほぐしていくのも、またいいんだけど」

 「Series of Dreams Tour  Vol.1Vol.2とかでも、 甲斐よしひろの活動を振り返るとなると、シングルが多くなったりするんで。どうしても 落ちてしまう曲が出てくる。ボクの好きな「危険な道連れ」とか、「悪いうわさ」から 「ダニーボーイに耳をふさいで」のメドレーとか」 
 いろんな曲が聴けるのは大歓迎。もちろん、定番曲も大好きやねんけど。

 「東京は結局、5日間。大阪・名古屋は3DAYS。これに味をしめて、また追加 したくなりそう」 
 この発言に拍手が起こる。 
 甲斐は「いたみいります」

 「毎日メニューを変えて。途中からいろいろあるんだけど。ツアーやってく中での 変更とか」 
 「厚生年金1日っていうのもいいけど。・・・考えたら、全部知ってるんだもん ね。大阪城ホールも、花園ラグビー場も・・・花園ラグビー場から、なんばHatch まで」

 「俺たちは74年にデビューして。80年代の初めにN.Y.へ行って。ボブ・ クリアマウンテンというエンジニアと三部作をつくって」 
 ボブ・クリアマウンテンは当時、12組のミュージシャンと仕事をしてて、 甲斐バンドはそのローテーションの8番目だったそうだ。ストーンズやスプリング スティーン、ホール&オーツらのレコーディングが終わるのを待っていたと。 
 「キタノホテルっていう、日本人スタッフのいるところに泊まって。1ドルが 360円とかで、まだ大変だった。税関ではDDTかけられて。これはウソ」 
 なんていうジョークもはさみながら、「今回は、その頃の曲も多くて」

 「今年は甲斐バンド解散から20年っていうことなんだけど。そう聞いて「それに 何の意味が?」って言ったんだけど、「あなたはやる方だけど、見る方にはあるんです」 と言われて」 
 そう言われたことと、N.Y.三部作の曲を多く歌いたいという甲斐の想いの二つ が合わさって、このツアーの内容が決まったという。 
 「その、N.Y.三部作の中からもう1曲、 やりましょう。「BLUE LETTER」」

 海の底から浮かんでくる泡のような静かな前奏。”PARTY”を思わせる 「BLUE LETTER」だ。 
 前野選手のキーボードと、松藤のアコギだけで。イスにすわってうたい始めた甲斐 は、いつしか立ってうたっている。 
 3番。甲斐の歌の後ろで、「ザカザーン」という松藤のアコギだけが鳴っている。 やがてそれも消え、甲斐の声のみが会場に響く。 
 「かつて輝いてた 二人だけの浜辺 今は跡もなく 深い闇の中」 
 大阪城ホールの名演が再現された。静まりかえった会場で、甲斐の声だけを聴く。 この「BLUE LETTER」の感激、大きなホールにかぎったものじゃなかってん なあ。あらためて甲斐の歌の素晴らしさを痛感した。

 再びバンドによる演奏。一瞬、どの曲かわからなかった。オリジナルに近いアレンジ は久し振りやったから。 
 「ビューティフル エネルギー」 
 「シルクの髪」で、甲斐は髪にさわる。 
 全編甲斐のヴォーカルで聴けるのがうれしい。今夜も、「のぼっていくよーーぉ」 と、この部分はラストを下げて余韻を響かせる歌い方。 
 両手を頭の後ろにつけて、両肘を張るアクションも見ることができた。 
 3番の最後は「声を立てようぜーー」

 「シーズン」 
 中盤のバラードより後に歌われるのは久々なんじゃないか。パッと思い出すのは、 初めて行った「BEATNIK TOUR 1984  FINAL」。 
 曲順のためもあるのだろう、 「Big Year’s Party 30」のときよりも、じっくり聴くことが できた気がする。 
 イントロのあの音が帰って来る後奏の最後まで。

 スティックの音。そして、劇的なイントロ。大歓声。おお、早くも来たか! 
 「氷のくちびる」 
 照明が変わっている。最近は黄緑を中心としたライティングやったけど。今度のも いいぞ。 
 間奏。蘭丸が甲斐の左手から右にまわる。左の甲斐が青に、右の蘭丸が赤紫に 染め抜かれる。右奥でエレキを弾いていた松藤が、縦笛を吹く。蘭丸は、「夕暮れの カフェ」までじっと右側で演奏している。 
 蘭丸がそっと元の位置へ戻り、再びビートがはじけ、会場じゅうに火がつく。 
 甲斐は後奏で「アアアアアアアアアアアアアアア アアアアアアアアララララー」 と2回全部歌う。「アーーーー」「フーーー」のファルセットも聴かせてくれる。 もう僕らはどんどん燃えていくばかり。

 「氷のくちびる」の果てからややあって、三連打!!!「ジキジキジキジキ」という 刻みに続いて、僕らも拳を三連打!!! 
 「ポップコーンをほおばって」 
 サビでストロボの光。そのまたたきは一瞬止まったかと思うと、また始まってる。 激しい演奏。三連打!!!ステージを染めるのは青だ。赤だ。またストロボだ。ギターを 手にした甲斐のアクションが、閃きの向こうで、ずれたストップモーションのように独特 の動きとして目に映る。左腕をかき上げる甲斐。僕らも拳を三連打!!!

 バンドはさらに畳み掛けてくる。 
 「翼あるもの」 
 甲斐は1番から、「明日はどこへ」と歌い放ち、僕らに「ゆ!こ!う!」と歌わせ る。拳とともに。 
 甲斐がステージじゅうを歩く。そうしながら歌って行く。2番の前にマイク スタンドを持ち上げ、後ろめに置く。 
 間奏。甲斐が乗っていたバックの台から、前へ飛び出して来る。すごい勢いや。 いつもよりマイクスタンドが近いが、猛然と突進してマイクを奪う。そのままステージの 前の端へ。左右へ進む。踵を返す。ステップを踏む。そうやって激しく歌う。僕らは いっしょに歌いながら、跳び上がらんばかりのノリで手を打っている。 
 うたい終えた甲斐がマイクスタンドの前に戻ってゆく。両腕を広げる。両の手の ひらを下へ向ける。これがまさに翼のように見えた。ここまで感じたことは、かつて なかった。甲斐は両手を上で組む。やがて身体を折って下へ。と同時に、メンバーが腰を 落とすようにして、大音量を解き放った。

 こうなったらトドメの1曲。これを聴かずにすまされようか。 
 「漂泊者(アウトロー)」 
 蘭丸のイントロは、一音ずつしっかり重く、聴かせる感じ。 
 甲斐が歌ってる。動いてる。バックでバンドの演奏とさまざまな照明が渾然と なっている。オーディエンスも騒ぎ放題。僕はその熱の中で、歌い手を打ち拳とともに 跳んだ。 
 甲斐は「爆発」で腰を落とし、すぐ立って「しそおーー」と続けた。 
 またサビがやって来る。僕らは歌う。甲斐が突き出したマイク目掛けて。

 甲斐が拳をかかげて去る。長くステージに残ってくれた後、大きく弾むように ステップを起こして、左ソデへ。スタッフが待っている。バスタオルが掛けられる。 
 僕らはそこへ何度も「甲斐ーっ!」の叫びを投げ、すぐに手を打ち鳴らし、 さらなる熱狂を要求する。

 メンバーが再び登場。「ノリオーっ!」って叫んだら、叫ぶように大きく口を開けて リアクションしてくれた。

 静かなピアノ。「スローなブギにしてくれ」かと思った。いや、ちがう。これは 「シークレット ギグ」で中島みゆきを呼び入れたときの音楽や。そのロング ヴァージョン。 
 蘭丸が松藤を指差して、松藤のギターソロ。蘭丸は松藤に「もっと来い」って感じ で何度もアピールする。JAH-RAHのドラム。蘭丸のギターも鳴らされる。 
 その中を甲斐が左ソデから歩いて登場。胸元の開いた黒いTシャツ。その下は白の Tシャツだ。 
 「「港からやって来た女」をやるぜ」 
 オーディエンスの拍手と歓声が応える。甲斐は蘭丸と向かい合って立ち、 うつむいて伸ばした手を蘭丸の肩に置く。その体勢で蘭丸があのイントロを発する。 さあ、狂乱の始まりや。 
 甲斐はベースを弾くノリオにも正面から覆いかぶさるようにする。歩き、回り、 向きを変え、滑るように、またリズムに乗って、あるいは曲調を破るように強く歩を 進め、歌っていく。 
 甲斐が右前でサビを歌う。僕らは大よろこびで声をあげる。甲斐は両手の指を左の 蘭丸へ向ける。ギターたっぷりの間奏へと突入していく。 
 もう蘭丸もノリオも前に出て弾いている。興奮の場内、さらにまだ最後のお楽しみ があるもんね。左右に動く甲斐と声を合わせて「バイ!バイ!バイ!」と叫ぶ。 「フーーーっ!」 
 指を突き立てての叫びが4回。ラストで甲斐はステージ中央のいちばん前まで 出て来ていた。

 「ここでメンバーの紹介を」 
 キーボード、前野知常。今夜のライヴ前半で、ピアノの音で攻めて来たのが印象 強い。ああ、どの曲だったのか思い出せないのがもったいない。 
 ドラムス、JAH-RAH。立って前に出て来てくれる。甲斐が手を取って、 JAH-RAHがドラムスの台から下りる。両耳のピアスが本当にジャラジャラ。甲斐が ひと言、「どんなやつでも親になれる」。わあ、子ども生まれたんやあ。後ろへ戻って 松藤の左に立ったJAH-RAHに、祝福の拍手。 
 ツインギター。いや、ツインリードギターと紹介されたのか。よく聞き取れ なかった。松藤英男。いつものようにキーボードも弾いているが、今回はギターを担当 する曲が多い。「場末で売れたバンドにいたらしい」と甲斐。松藤は、ギターを振り 下ろす、曲終わりでの決めポーズをしてみせる。 
 ベースギター、坂井紀雄。両手を合わせ、お辞儀をしながら前へ進み出る。ノリオ らしいユーモアのある動き。 
 リードギター土屋公平。僕は「コーヘイ!」って叫んだ。今夜は何だかその 呼び方が合ってる気がしたから。

 JAH-RAHがなかなか座らないなと思って見ていると、松藤がドラムセットへ 移動した。 
 「松藤のドラムで「安奈」をやりましょう」 
 「がんばって」「がんばれー」の声援が多く飛ぶ。 
 甲斐は「病気の人にがんばれって言っちゃダメなんだぞ。がんばれなくなるんだ から」と応えてみせる。「松藤はギリギリ大丈夫だけど」 
 「俺みたいな人は、がんばれって言われると、よし!ってなる」 
 途端に、甲斐への「がんばれ」の声が多数。 
 「ほんとに君たちは、土砂降りの雨の中で墓石に水かけてすがって泣く街に生まれ 育ってるな」 
 それは横山やすしのエピソード。知っていたらしい蘭丸が反応すると、甲斐は蘭丸 を指差して笑う。うれしそうや。 
 客席の僕らもうれしい気分。大阪の人間って、大阪人は強烈だみたいに言われる のが好きなのだ。

 「安奈」 
 松藤のドラムは強く。JAH-RAHは縦に細長いタイコを叩いている。 キーボードの「ヒュルル」という調べが曲をすき間なく埋め、蘭丸がエレキであの フレーズを奏でる。甲斐は立って、詞の区切りに合わせるようになめらかに腕を振り ながらうたう。 
 ほんまにいつもとちがう「安奈」や。いつ聴いても何回聴いても、そのツアー その日その時だけの、オリジナルの「安奈」がそこにある。

 「ドラムス松藤。拍手を。少しつんのめったけど、関係ない」 
 うん。音楽って、楽譜通り忠実に再現することよりもっと大きなものがある もんね。もっとも、僕には松藤のドラムが乱れたようには感じられなかったけど。

 低いうなり。予測からやや遅れて来るような、「コン コン」という重い音。 
 「ALL DOWN THE LINE 25時の追跡」 
 久々に生で聴くことができた。やはり甲斐の歌がいい。 
 ピシッというムチのような音が、オープニングのBGMを思い出させる。無線の 交信。オーディエンスの手拍子が鳴っている。蘭丸のギターが甲斐のヴォーカルをなお 引き立てる。歌にギターが活かされているのだ。これこそ、僕の好きな甲斐のロックの あるべき姿や。 
 終盤、「ああ 運に見放され」から、甲斐は高く声を張り上げて歌う。めちゃ くちゃ激しい。それまでの歌い方とは一変だ。そうせずにはいられない衝動を感じて、 ぞくぞくする。 
 「ああ 厳しい冬が来る」からはまた、低く歌う。JAH-RAHのドラムが 炸裂し、曲は終わりへと向かっていった。

 「ALL DOWN THE LINE」にしびれたまま、2回目のアンコール。 
 メンバーが三度やって来る。

 甲斐が歩いて登場する。紺のTシャツになっている。 
 曲を始めようとするJAH-RAHに、「早いよ」と言って、指でノーの ジェスチャーをする。さらに水のペットボトルをJAH-RAHへふわっと投げた。 JAH-RAHが受け取る。ちゃんとフタはしてあった。甲斐は白いジャケットを はおる。 
 「3DAYSの初日ということで。今日しか来られない人には、今日しかやらない 曲もあるから。ちゃんとそうなってるから」 
 「ほんとうに、今日はみんな来てくれて、感謝してる」 
 「「観覧車」をやるぜ」

 「観覧車’82」 
 甲斐がジャケットを着るのは、結婚式の歌だからか。そう思うと、詞のひとつ ひとつが、いつもとはまたちがった光と影をたたえて立ち上がってくる。 
 間奏が華やかだ。セレモニーやもんな。照明はもちろん虹色。さらにその中を カラフルな円が舞っている。 
 曲が完全に終わってから、甲斐はステージ左で 「ウォーオオオオオ ウォーオオオー」と叫び出す。後奏のあの叫びだ。 「ウォーオオオオオ ウォーオオオー」と続ける。もちろん僕らも声を合わせる。 会場に響く「観覧車」の叫び。メンバーも楽器を鳴らして加わってくる。 甲斐とみんなで思い切り叫ぶ。 
 「OK」と甲斐が言って、今夜の「観覧車’82」が本当に終わる。大拍手や。 こういうの、めちゃめちゃうれしい!

 蘭丸があの前奏をつむぐ。最後に来たか。 
 「嵐の季節」 
 前半は2回に1回のタイミングで拳をあげる。そうやって、甲斐の声で届く詞を じっくり聴きたい気分やったから。 
 しかし、繰り返しからは、しぜんに倍の拳を突き上げていた。奮い立っている のだ。 
 オーディエンスだけの歌声がこだまする。松藤が揺すり出すシャカシャカという音 だけに乗せて、もう一回。そして、バンドとともにもう一度。 
 甲斐は客席のみんなといっしょに歌うことが多かった。この歌をステージの最後に 歌うってこと。それぞれ毎日大変なみんなを、歌で力づけてくれてるねんな。

 甲斐はステージに長く残ってくれた。「観覧車」の後奏でするように、あらゆる席の オーディエンスに応える。眉のあたりにつけた手をこちらに向かって伸ばす仕草も。 
 やがて左ソデへ去って行く。Tシャツの腹をめくる後ろ姿が見えた。

 「アヴェ・マリア」が場内に広がる。 「ROCKUMENT」がよみがえる。そうや。今日のライヴって、 ROCKUMENTと通常のツアーの融合みたいやったなあ。あまり聴けない歌を たくさん取り上げてくれた。また新たなライヴ像。

 あっという間に感じられるステージやった。それでいて、内容はぎっしり濃くて、 曲数もあって。 
 今日の甲斐を思い返す。頭の後ろに手を組んで両肘を張るアクション、久し振りに 増えてたな。バックの台に上がって背中を向けたシーン。まぶしそうに正面斜め上を 向いて歌う姿。

 ステージを眺め渡し、「明日もここに来るんやあ」としみじみ思う。 
 うん、いいな。レヴュー形式って。

 

 

2006年2月9日 大阪なんばHatch

 

キラー ストリート 
ダイナマイトが150屯 
危険な道連れ 
荒野をくだって 
地下室のメロディー 
ボーイッシュ ガール 
悪いうわさ 
~ダニーボーイに耳をふさいで 
BLUE LETTER 
ビューティフル エネルギー 
シーズン 
氷のくちびる 
ポップコーンをほおばって 
翼あるもの 
漂泊者(アウトロー

 

港からやって来た女 
安奈 
ALL DOWN THE LINE 25時の追跡

 

観覧車’82 
嵐の季節

Classic Kai

2005年9月15日(木) 大阪なんばHatch

 

 もう2年以上経つというのに、地下鉄なんば駅ホームには、26番出口への案内 表示がまだ出ていない。なんばHatchの最寄り出口やのに。記憶と改札外の目立た ない小さな矢印を頼りに、地下街を歩く。

 Hatchの地下モニターに「Classic Kai 2005.09.15  open18:30/start19:00」の文字を見つけた。画面右端には縦書き で「甲斐よしひろ」。

 ほぼ時間通りに開場。甲斐バンドライヴCD10枚組BOX「熱狂 ステージ」の パンフレットやアンケート用紙を受け取って、まずはグッズ売り場へ。 
 東名阪だけのツアーやから新しいグッズはないかもなと思っていたが、ワインや CDケースなどが出ていた。ワイン2本にソムリエナイフとバッグがついたセットも ある。 
 他に”アコギ”ツアーのグッズや 「松藤甲斐」のビデオもあるみたいやけど、人が 多過ぎてちゃんと見ることができない。グッズは終演後にまわして、エスカレーターで 客席まで上ることにした。

 1階席最後尾の両端に、当日券のお客さんの立ち見エリアが設けられていた。 
 そこ以外にはイスが置かれて、これまでとは違った印象のなんばHatch客席 内を進む。今日の席はかなり前なのだ。左寄りやけど、かえって甲斐の表情がよく見える かもしれない。 
 ステージの両端奥には炎が揺れている。今までライヴ中にもよく使われてたやつ や。前の席からだと、本物の炎ではないことがわかった。赤いゆらめきの中に青く灯った 部分も見えて、よくできてるなと感心する。

 ステージ上を隣の甲斐友といっしょに観察。左側にキーボードが置かれている。 春の”アコギ”ツアーではアンコールからやったから、やはり構成もアレンジもかなり 変わるのだろう。 
 右のイスの後ろにギターが立てかけてある。左から前野選手、甲斐、松藤という 並びはそのままらしい。 
 後方に薄い幕があるようだ。これは背景を映し出したりするためのものなのか、 それとも他の意味があるのか。 
 キーボードのそばにサックスがあるのを見つけて、ちょっと興奮。前回のツアー では使われてなかったやんな。前野選手のサックスといえば、1曲目の「ランデヴー」 で甲斐より早くステージ中央に躍り出て来た「パートナー」ツアーを思い出す。それに、 「ラヴ マイナス ゼロ」もあるな。「ストレート ライフ」ツアーの京都で聴くことが できた、ごく静かなアレンジの「ラヴ マイナス ゼロ」が再び披露されることはあるの だろうか。

 場内には南方系の音楽が流れている。マンボとかも。甲斐初のクラシカルなツアー ということで、開始前からそういう曲がかかるのかなとも思っていたが。 
 果たして「Classic Kai」とはどんなライヴになるのか。開演時間が 近づくにつれ、緊張感がぐんぐん高まってくる。予想もつかない初めての試みの、しかも 初日なのだ。

 オープニングBGMは春といっしょやった。「ウィスキー バー」と歌う声が 聴こえる。僕らはもちろん手拍子。クラシカルなツアーやというし、ツレの甲斐友は 背が高いから、立つのは遠慮しておいた。 
 ステージが紫に染められ、そこにあるものが黒いシルエットとなって浮かびあが る。後方に段があって、そこにイスが3つ、いや、4つや。これは本格的にストリングス が入るってことやんな。

 ステージ前方には上から紺のライトが差している。そこへメンバーがやって来る。 最初から3人や。 
 「甲斐ーっ!」と叫ぶ。手を叩く。歓声があがる。 
 甲斐は黒のジャケット。少しラメが入っている。中はストライプの黒いシャツ。 黒の皮のパンツ。黒いサングラス。

 松藤のアコギ。前野選手のキーボード。”アコギ”ツアーでは 三郷のアンコールで初披露されたあの曲が、堂々の 1曲目だ。 
 「かけがえのないもの#2」 
 甲斐のヴォーカルは、語尾の響きがやさしく。コーラスが入って3人でうたう ところは強く。 
 松藤と前野選手だけがコーラスする部分でも、甲斐はオフマイクでいっしょに 口ずさんでいる。「ウォウウォウウォー」の「ウォウウォウ」のあたりとか。それから 「ウォー」と伸ばす音の後半に、「かけがえのないもの」と重ねてうたっていく。 
 甲斐のサングラスは黒に見えたが、こちらを向くと青みがかっているのがわかる。 
 「一生分の約束をする 君とぉ」 
 詞が次々と胸の中に届いてくる。 
 一瞬のブレイクからキーボードが入るところの、はずんだ感じがいい。 
 後奏。3人による「ウォウウォウウォー」のハーモニー。

 1曲目の終盤に、ストリングス奏者たちがステージ後段のイスに向かうのが目に 入った。曲が終わってからそっちを見てみると、黒い衣装でサングラスをかけた女性が 4人座っていた。

 演奏が始まる。暖かい風景を思わせる前奏。「ホリデー」か? 
 その中で、ちょっと変わった音も効果的に使われている。どの楽器から出ているの か見渡す。左から2人目のお姉さんが、弦を指ではじいている。その音なのか?いや、 あれは自分の楽器の音を確かめているだけだろうか。じゃあ、キーボードが操作されて いるのか。 
 歌入りで拍手が起きた。 
 「僕の前に 僕の荒野と海が・・・」 
 僕はもうすでに泣けてくる。この歌は沁みるのだ。 
 「昨日鳴る鐘の音」 
 甲斐のうたい方は、アコギのみの ”MY NAME IS KAI”とはまたちがっている。サビの後には「んーん」 と低い声を出す。 
 「アタタカイ・ハート」の甲斐自身によるライナーノーツに、この歌の詞が引用 された箇所があった。甲斐が今この歌をうたいたい気持ちになっていることを、あの 一文が示していたのかもしれない。 
 後奏でストリングスが高まる。それから、サビの繰り返しがあった。しかも、 続けて2回。 
 「昨日鳴るうー 鐘の音は今日を過ぎてー明日はーないー 昨日鳴るうー 鐘の音 は今日を過ぎてー明日はーないー」 
 甲斐と松藤のコーラスでだ。この繰り返し方は初めて聴けた。ストリングスの加入 を抜きにしても、全く新しいアレンジではないのだろうか。 
 前野選手がストリングスに手で合図をして、曲が終えられる。やはり指揮者の役割 を果たす人が必要なんかな。

 ストリングスによる見事な前奏。甲斐が立ち上がる。 
 「かりそめのスウィング」 
 前野選手が指を鳴らす。甲斐も両手でフィンガースナップしたり、ダンスするよう に動きながらうたっていく。 
 前野選手の赤いアコーディオン。横の黒いボタンまで見える。 
 そのアコーディオンの「ワッワッ」っていう音が春は印象的だったが、今回はそれ 以上にストリングスが効いている。 
 2番の「生きてきたむなしさ」が出ず、甲斐は音のみのヴォーカル。 
 後奏もストリングスによって強く、それでいて悲しい音になっている。甲斐が 「オーイェー!」と叫んでフィニッシュ。 
 甲斐がうれしそうや。ストリングスを入れたアレンジは大成功やし、うたってても 新鮮やろうし。 
 僕らもまた、ストリングスの音の強さと、こんなにノれるんやということが わかって、めっちゃうれしい。これはすごいライヴやぞ。

 「甲斐ーっ!」と飛ぶ声に、「サンキュー」と応える。 
 「ちゃんと立ってうたわないとな、と思って。「かりそめのスウィング」という 曲をやりました」 
 「その前は、「コンドルは飛んで行く」という、フォークロア調というか。 そんなこと言っても仕方ないか」

 「初日が大阪ということで」と、このツアーについてのMC。 
 「”Kai Classic”だと、自分の昔の歌やるみたいだし。 ”Classic Kai”と。発表会みたいになって」 
 松藤が「Classicかい?」と言うと、甲斐もかぶせて「さらに疑問形で、 ”Classic会?”」とノった。

 新しい試みにも、「チケットもすぐはけたらしくて」と感謝を表す。 
 「うまく行けば、この形で大きいとこでやるかもしれない」という。 TVにもこのメンバーで出る話があるらしい。

 「こうやってストリングス入れてやってるのに、人の曲やるのも何だけど」 なんて、心にもないことを言いつつ、次の曲へ。 
 どの曲か待ち構えているところへ聴こえてきたのは・・・ 
 「甘いKissをしようぜ」 
 詞が、声が、演奏が、ハーモニーが素晴らしい。 
 キーボードが美しくも気高いオルガンのような音を出していたのは、この曲のとき だったか。 
 さらに、開演前に見て普通のサックスだと思っていたあの楽器を、前野選手が 吹いたのもこの曲だったか。実際には、金色やけど思ったより細くて、下までまっすぐに なっていた。 
 やはりいちばん心を打ったのは、「つまんない顔していちゃ お前に逢えない」と いう一節。 
 しばらく聴けてなかった名曲をうたってくれて、うれしい。

 「この聴き慣れた曲がどうなるか」 
 今度はこの言葉から始まった。 
 「安奈」 
 サビの前、「そんなとき お前が」あたりから、ストリングスが入る。めっちゃ 新鮮や。「安奈」にかぎらずどの曲でも、ツアーごとにアレンジは生まれ変わっている けど、今回のは特にいいなあ。 
 「安奈、寒くはないかい」もストリングスでぐっと引き立っている。 
 きれいな歌と音色に聴き入っているオーディエンスに、甲斐が手で合図をする。 それで、みんなで「あんなーあ」とうたう。最後は「クリスマスキャンドルの灯は」以降 も。サビをすべて。甲斐とみんなで。

 ストリングスの4人の前にあった薄い幕が上がったのは、このあたりだっただろう か。

 これも全く新たな前奏やった。 
 「LADY」 
 甲斐は立ちあがってうたう。マイクを左手に持つ。歌に情感を込め、右手が動く と、しぜんと左手も動いて、コードが舞うようにうねる。と思うと、今度は右手にマイク を持ち変え、コードを上に向けた左手に置いてうたう。 
 「だからあー」の直後に高鳴るストリングス。さらに、甲斐の歌声の間を縫うよう に奏でられていく。 
 1番の最後。「僕のてのひらは とても小さ すぎるけど」とうたいながら甲斐 は、てのひらを上に向ける。 
 2番が終わると、「ああ、LADY」という切ないささやき。 
 いちばん最後の「僕らのてのひらは とても小さ すぎるけど」では、両の てのひらでマイクを包んでいた。 
 弦の音が伸びて曲が終わるとき、甲斐は挙げた片手を下げながらおじぎをした。

 前奏は松藤のアコギと甲斐のハーモニカ。 
 「裏切りの街角」 
 「突き刺さる吐息をはいて 駅への道 駆け続けた」の後のフレーズを、4人の ストリングスのいちばん右、大きな楽器が低音で奏でる。この楽器って、チェロやんな。 この夏たまたま映画「セロ弾きのゴーシュ」を見る機会があって、よかった。 
 この曲は甲斐たち3人と、チェロだけで演奏された。これもまた記憶に残る なあ。 
 甲斐が間奏でハーモニカを吹く。その前にちょっと口につけて、くちびるの上を すべらせる。暗めの照明のなか、そんな仕草が見えたのがちょっとうれしかったりする。

 「前野知常、拍手を」と甲斐。 
 「こっちを紹介したから、仕方なく紹介します。ギターのMくんです。十代からの 知り合いで」なんて言うと、松藤が「そうだね、Kくん」とやり返す。 
 ストリングスのカルテットも紹介され、盛大な拍手がおくられる。両端の2人は 小さく手を振って応えた。右から2番目の人は、弓を弦に何度も当てるような動き。 つまり、楽器を使って拍手を返してくれたんや。左から2番目の人は、目に見える反応を 示さなかった。おとなしいのかな。

 「今夜はおごそかに、つつましく、たおやかに・・・いろんな言葉知ってんだぞ」 と笑わせてから、「でも、クラシカルっていうと、何か構えてかしこまったりする感じ があるだろ?そういうのを壊したくて」 
 やっぱりそうなんや。甲斐のことやから、ただのクラシカルなツアーじゃない はずやと、多くのファンも思ってたことやろう。 
 「こういう感じでやって、客席がさびしかったらイヤだなと思ってたら、いっぱい 来てくれて」 
 「この後もすごいんだぞ。アンコールとかも。やがて君らは遠くへイってしまう わけやね」 
 前に甲斐がMCで話してた「遠い海へ旅に出た私の恋人」を思わせる表現やな。

 「まだ曲に行きたくない。だって、すごくいいんだもん」 
 そう言って、長いMCに入る。途中、ストリングスの女性4人に、「まだまだ行く 気ないですから、休憩してていいですよ」、「もうジレてるかな」と2回声を掛け ながら。

 「この(春からの)ツアーは、大都市を避けるということだったんで。 京都とかも行ったんだけど、それは大きいだろうと。 でも、長い間行けてなかったんで」 
 「最後は北海道の紋別まで行って」と、湧別町ライヴ前後の二夜の話。 
 「バー ホルスタイン」っていう店があると聞いて、先乗りしたライヴ前夜に 夜の街を探しまわった。 
 「太めの女性ばっかりいるのかなとか、絶対行ってみたいじゃない」 
 しかし、見つけることができず、別の店へ。そこのママに、「地元の人じゃない でしょう。旅人?」って聞かれたらしい。「旅人って・・・」 
 さらに、数日後近くにオープンするホストクラブの応援だろうと言われたそうだ。 「違う」と言っても、「オープンするときは東京から応援のホストを呼ぶんだよね。 それで、早めに来たら近くの店をリサーチさせるんだ」と、信じてくれなかったという。

 しかし、2日目の夜、ついに「バー ホルスタイン」を見つけることができた。 
 「前野、よろこんでたよねえ」 
 入ってみると、そこの女性たちのスタイルは普通で。店名の由来は、ママの実家が 酪農をやっているということだった。 
 「バー ホルスタイン」はそんなに遅くまで開けてないという。そこで、店の娘 たちを誘って、別の店へ繰り出した。 
 「ミュージシャンのやりそうなことだろ? でも、これがその街で遅くまで開いて る店を見つけるコツなんだ」

 「そんな奴が(こういうステージを)やってちゃいけないよね。チケットははけた けど、内容が」 
 いいえ、いいえ。最高のライヴやん! 
 そう思っていると、「いちばん問題なのは、MCか」というオチがつけられて、 みんな笑う。 
 客席から「サウンドストリートや!」という声が飛び、MCはおしまい。

 急に振られた松藤が、あわてて用意をして、アコギを弾きはじめる。 
 「花,太陽,雨」 
 先に松藤のソロ。「色のない花」 
 次に甲斐のソロ。「水のない雨」 
 詞の世界にのめり込み、3人の歌声と演奏に吸い付けられて、ストリングスの様子 を覚えていない。もったいなくもあるけど、それほど3人がすごかったということだ。 
 甲斐が「オーーッ」と小さい声をあげてから、「まーよーえーる人ぉよぉー」

 松藤のアコギ。甲斐はサングラスを外して、立ちあがる。 
 「イエロー キャブ」 
 白い小さなライトが左右に動く。赤や青や黄色、カラフルな円いライト。車の ヘッドライトを思わせる光が、後段の4人をかすめて行き過ぎる。客席の壁、そこに 映る影をも使ったライティングだ。 
 そして、間奏!「キュッ!キュッ!」と4人のストリングスが、生であの音を 現出させる。何と、こういうことができるのか。「ヒュールルー ヒュールルー  ヒュールルー  キュッ キュッ ヒュールルー ヒュールルー ヒュールルー   キュッ キュッ」前野選手が吹く、灰紺色のやや平べったいホーンの音が漂う。 さらに「キュッ!キュッ!」と、4つの弦楽器が一体となって襲ってくる。とてつもない 迫力や。しかも、松藤はベースになる音をずーっと弾きまくっているのだ。 
 今回「イエロー キャブ」をやるとは予想してなくて意外やったけど、ここで誰も が納得したはずや。甲斐はこの生の間奏が欲しかったのにちがいない。 
 再び松藤のアコギだけになる。 
 「幸運はなぜ あるものだけにほほえみ」 
 甲斐が静かにうたい始めた。

 今度は最初からストリングスによる演奏や。静かだが、やがて来る昂ぶりを予感 させるプロローグ。それが終わると、いよいよまたストリングスの威力が見せつけられ る。「ザザン ザザン ザンザンザン ザザン ザザン ザンザンザン ザザン ザザン  ザンザンザン ザザン ザザン ザンザンザン ザザン ザザン ザンザンザン  ザザン ザザン ザンザンザン ザザンザザンザザンザザンザザンザザンザザンザザン ヒューーーーーン」次第に高まったその調べの、最後の音が伸びる。松藤がカウントを 数える。そして、ついに甲斐の歌が入る。強く。 
 「かげろうに」 
 この瞬間、オーディエンスの興奮が爆発した。ものすごい歓声と拍手。己の よろこびと驚きと感激と、とにかくすごいものを見てるという思いをぶつけずにはいられ ないのだ。 
 「風が唄った日」 
 甲斐は「拾いあげーねば」と唄った後、声が多少かすれ気味になっても構わず、 吼えるように唄い上げる。 
 「怒りのーっ 鐘はいつ鳴りひーびくう 風がうたあーーーった日ーーっ」 
 ストリングスの間奏が毎回素晴らしい。ほんまにここまですごいとは。 
 聴き入りながら、世相を感じたりもする。ラヴソングではない、社会を時代を世界 を思わせる唄。わざとではないと思うが、3番の最初は「敵にしばられる大人達」に近く 聴こえるような発音やった。 
 けわしい表情でギターを弾く甲斐が、荒々しくかっこいい。後奏でもストリングス のうねりに合わせ、けわしく引き締めた顔でギターを弾いていた。が、前野選手の方を 向いているうちに笑顔になった。充実感が伝わってくる。 
 ストリングスは高まるだけ高まってから、急激に止まった。曲が終わったことを 確信してから、オーディエンスの大歓声と拍手が捲き起こる。

 曲の前に、何かの楽器が音を発した。それを聴いて「ナイト ウェイヴ」か?と 思った。当たりはしなかったが、そう遠くもなかった。ストリングスが奏で始めたの は、同じ三部作の歌だったのだ。 
 「破れたハートを売り物に」 
 あの美しい前奏を生の音で聴くことができるなんて、感動や。オーディエンスから 拍手がおくられる。 
 それから、甲斐や松藤たちの弾くアコギヴァージョンに入っていく。 
 白いライトが客席まで照らす。手拍子。ステージの上も下も一斉に歌い出す。 後ろの列の人たちが立ち上がるのが目に入った。そうや、立ってもいいやんな。僕も すぐに立ち上がった。 
 何か、めっちゃ歌える!気持ちいい!「アーアーアー アーアーアー  ウーウウー」まで全部歌う。思い切り。それでも声は合っている。 
 ステージと最前列の間にカメラマンが現れたのは、おそらくこの曲のとき。その姿 も気にならず、ひたすら歌声をあげる。 
 いつものように、「破れたハートを売り物にして」で合唱が終わる。でも、終わる のがもったいないような、もっともっと繰り返し歌いたい気分やった。

 「カルテットに拍手を!」 
 甲斐の言葉に、心からの盛大な拍手がおくられる。ほんまにめちゃめちゃいい演奏 やったで。 
 その拍手を浴びながら、4人が帰って行く。

 「風の中の火のように」 
 もう勢いがすごい。ギターとともにすぐに大きな手拍子。ステージの両端で、あの 炎が燃えている。 
 甲斐のギターも歌も強く。しかし、ときには静かにうたう。僕らも甲斐といっしょ に歌う。歌う。 
 ステージの背景は黄褐色のグラデーション。上の方ほど白っぽい。 
 甲斐が間奏で、ギターを弾きながら何度も跳び上がる。やる側もオーディエンスも ノりにノっている。今この時がうれしくてたまらない。 
 ステージが真っ赤に染まる。甲斐が「いやだ 一人きりは」と、ささやくように うたう。そして、「愛なのに」とうたった瞬間、歓声がはじけた。 
 後奏。ラストに向かってぐんぐん盛りあがっていく様を、アコギだけで表現して くれる。曲がフィニッシュして、拍手と歓声が沸いた後、甲斐だけがもう一度 「ザザッ!」とギターを鳴らした。

 「漂泊者(アウトロー)」 
 松藤がイスから腰を浮かせ、その体勢でアコギを弾きまくる。 
 1番からオーディエンスに「愛をくれよ」「誰か俺に愛をくれ」と歌わせてくれ る。どうにかなってしまいそうなくらい思い切り歌う。拳を突き上げる。 
 甲斐が途中でサングラスをかけたのは、この曲やったと思う。間奏ではハーモニカ だ。 
 歌も手拍子も拳も松藤の演奏も、最後まで激しいまま駆け抜けた。 
 そして、3人は手を挙げて声援に応えてから、左ソデへ消えて行った。

 アンコール。誰もがこのライヴに満足しているようだ。甲斐初のクラシカルな ツアーって、想像つけへんかったけど、こんなに力強いステージやってんなあ。

 甲斐が歩み出て来る。「甲斐ーっ!」「甲斐ーっ!」の声が降る。 
 ジャケットは脱いでいて、中に着ていたストライプのシャツ姿。このシャツにも 少しラメが入っていた。はだけた胸元には、ペンダントなのか銀色のものが見える。

 「翼あるもの」 
 甲斐は静かにギターを弾きはじめた。僕らは歌詞をかみしめて聴き、拳を上げて 歌う。 
 「明日はどこへ行こう 明日はどこへ行こう」 
 2番では、その部分の後半でギターをブレイク。これは初めての体験や。 驚きと新鮮さへのよろこびを胸に、僕らは歌った。 
 「明日はどこへ行こう」 
 オーディエンスの声が響く。甲斐がまた歌い始める。 
 それから、あの間奏や。めちゃめちゃ盛りあがる!長く弾きまくってくれる! 
 「俺の声が」からも静まらなくていいと、強いギターが言ってる。僕は甲斐の声を 大事に聴きながら、その部分をうたった。 
 甲斐はギターにのせて、いつもとちがうように「ハウ ウェーーイ」と声をあげ た。静かにゆっくりになっていく演奏。甲斐がギターを肘で押さえて響きを変える。 それからや。「ザカザカザカザカザカザカザカザカ」と細かく弾かれる音が強まり、 「ウォーッ」とか「甲斐ーっ!」という叫びと拍手が湧き上がる。 
 甲斐は最後にもう1度「ザカ!」と強く弾いて曲を閉じた。

 ストリングスのカルテットが席に戻っている。今夜初めて、甲斐のアコギと ストリングスだけの演奏になる。 
 この形で始まったのは、何と「冷血(コールド ブラッド)」! 
 ”My name is KAI” ヴァージョンだ。久々に聴くことができた。あの激しい曲を、甲斐がアコギ掻き鳴らし 歌っていくのだ。 
 ストリングスが入ったのは「うらんでも」の前。「ドアを蹴破って」からのパート あたりから。 
 あのアコギヴァージョンにストリングスが加わって。こんなハードな曲で見事に 一体化して。すごい、すごいぞ。 
 甲斐は3番の初めだけ静かめに弾く。またストロークを強めてから、 「押し寄せる地獄の炎」に入る。僕らも再び歌声を高めていった。

 「もう1度、松藤と前野を呼ぼう!」 
 甲斐の言葉に大きな拍手。 
 全員揃っての甲斐の第一声は、「見ろ。まんまと立ってる」 
 甲斐の予告してた通りや。だって、これだけの音を聴かされてんもん。当然立つ って。

 左端のお姉さんがサングラスを外した。暑いのかな。汗でも拭くのかと思ったが、 そのままやった。 
 「ちゃんと1人ずつ紹介しましょう」と甲斐が言う。 
 そういうことか。4人全員がサングラスをとった。 
 右端から1人ずつ名前を呼び上げていく。チェロの名前は、かおりさんといった か。輪郭のはっきりした美人だ。「甲斐ーっ!」って言うように名前を叫んであげたか った。でも、全員の名前をしっかり聞き取らないといけないし、雰囲気をこわしても いけない。そう思って躊躇してる間にタイミングを逸してしまった。 
 続いてはヴィオラ。あっさり系の美人。 
 「セカンド・ヴァイオリン」と紹介された彼女は、やはり客席に手を振ったりと いうことはしない。やや地味な印象ながら本当にかわいらしくて、控えめな態度が いっそう魅力的。唯一ズボンをはいていた。

 最後の4人目こそは名前を呼ぼうと思っていたが、すぐには紹介されなかった。 
 「なんでこの名前か、いまだにわからない」 
 えっ。そんなに変わった名前なん? 
 「ファースト・ヴァイオリン クラッシャー木村」 
 確かにすごい名前や。下の名前を呼ぼうと思ったのに、下ないやん。 
 「ラッシャー木村から来てるんだろうけど。ラッシャー板前もあるわけで。 クラッシャー板前とだけは言わないように気を付けてた」 
 僕は「クラッシャーっ!」って叫んでみたけど、拍手にかき消されて届かなかった ようだ。 
 クラッシャーは目立つ美人で、メイクをとってもきれいやろうなあと思う。顔付き からも、プレイぶりからも、パワーを感じる。

 カルテットはそれぞれイヤホンをしていた。これで演奏の音を聴いていたのか。 
 4人の前に置いてあるペットボトルには、ストローがついている。口紅への配慮 かな。 
 甲斐たち3人のところには、水のペットボトル。それと、琥珀色の液体が入った グラス。

 4人にサングラスをかけさせたのは、甲斐のアイディアだった。 
 「(サングラスをとって)ギャップがあったら、かけさせません」と、甲斐が全員 の美しさを称える。 
 それから、「前野はかけとけ」というジョークで、メンバー紹介がしめくくら れた。

 今日はやらないのかと思っていたけど、しっかりストリングス入りで聴かせて くれた。 
 「レイニー ドライヴ」 
 甲斐の影がステージ前方の床に映っている。 
 間奏で前野選手のピアニカに聴き入った。吹き終わると即、3人でのハーモニー へ。 
 「サーチライ」 
 白い光が放たれる。 
 うたい終えた甲斐は、曲の最後に右手を下げながらおじぎをし、さらに左腕を しなやかにくるくると動かして下げながらもう1度おじぎをした。

 2回目のアンコール。興奮した細かく速い手拍子が、もっと歌ってくれとせがむ。 
 「今の曲がいちばん最後でもよかったわあ」と「レイニー ドライヴ」に陶酔した 女性ファンの声も聞こえた。 
 速い手拍子のなか、隣の甲斐友が半分の速度で大きな手拍子を始めた。僕もその タイミングに合わせて叩く。やがてそのリズムが会場じゅうに広まっていった。全体の この大きな手拍子を大切にしたくて、「甲斐ーっ!」って叫ぶのもガマンして手を 打ち続けた。

 その分、ステージに現れた甲斐に向かって、何度も何度も「甲斐ーっ!」の声を おくった。 
 甲斐は白のタンクトップになっていた。首のあたりに銀の飾りが少しついたタンク トップだ。 
 前野選手はゴーグル風の横長のサングラス。黒の”アコギ”ツアーTを着ている。 
 松藤は髪にサングラスをのせていた。

 「熱狂(ステージ)」 
 前野選手が左手を振りながらキーボードを弾き始める。”アコギ”ツアー ヴァージョンだ。 
 甲斐のヴォーカルを堪能する。この、のびやかな声はどうだ。 
 「バスに揺られ 夜汽車に揺られ」という詞もあった。 
 間奏で拍手が起こる。キーボードが漂っている。ギターが刻まれている。 甲斐を見ながらそれを感じてる。 
 甲斐は今夜も「ショー」とうたった。

 甲斐がオーディエンスに感謝の言葉を述べる。みんなの拍手がなかなか鳴り止ま ない。こんなにすごいライヴを見せてくれてんから。 
 甲斐はうなずいて拍手を受けとめ、話しはじめる。

 カルテットも席についている。まずそのことについて。 
 「「イエロー キャブ」とか「風が唄った日」ですごかったのに、次の曲には弦 いらないじゃん。でも、悪い癖で。最後はみんなでいっしょに行きたい。四男だから。 長男・長女、第一子の発想にはない」 
 最後もすごいストリングスといっしょで、僕もうれしいよ。ほんまに画期的な ライヴにしてくれたもん。 
 甲斐は「「アップルパイ」という曲を」なんて言ったりもして、場内を沸かせる。

 甲斐バンドライヴCD10枚組BOX「熱狂 ステージ」の話題。 
 「作業に2ヶ月かかった。萩原健太の提案に乗ったらエライ目に」とか言いつつ、 出来映えに自信満々なのがうかがえる。実際、めちゃめちゃいいもんなあ、このBOX。 
 「全部のイベントが入ってる。メンバーが1人欠けてから出ることになって しまって、残念なんだけど。情熱と精力を傾けて、やったよ。よかったら、聴いて ほしい」

 「みんな、今日は大人で。大阪は今まで、騒いだり、暴れたり、壊したり」 
 そう言われて、みんなウケる。床が沈んだのも大阪やったんやんな。 
 「俺は大阪城ホールがどんな大変だったか知ってる。大阪城ホールの2階から飛び 下りた奴もいた」 
 「これだけ大阪にも知識人がいるってことだよね」と笑って言う。

 「大変だったんだから」とMCをまとめかかってから、「もう言っちゃおうか、 今日しかないし」と、また新たに話し始める。 
 「花園ラグビー場の(ライヴCD作製)作業、大変だったんだ」 
 「15分から20分、客席に向けて説教した。それも許そう。BOXでは、聴き やすいように短くしてるけどね」 
 「前に押し寄せて暴動になった。それも許そう」 
 「ビニールシートが俺に30枚くらい当たった。それも許そう。俺の顔にまともに 当たった場面は、フィルム切った。それ見ると殺意を覚えるから」 
 「でも。あのくらいの広さだと、客席の声を拾うのに何本かマイクが立ててある んだよ。それが倒されてて。そこに向かって男3人が10分くらい延々、言っては いけないスリーワードを」 
 初めて聞いた強烈な事実。甲斐も今回初めてわかってびっくりしたそうや。 
 「おめX、おめX、おめX、おめX・・・って、ずっとだよ!俺、何かと思った もん。それは慌てて下げて。確認したら、他のマイクにまわってなくて、曲にかぶって なかったからよかったけど」 
 松藤が「歓声が小さくなってたら、そこだな」とかぶせる。 
 甲斐は「それを上げたテープをもらおうかと思ったんだけど、むなしくなるから やめました」 
 爆笑の続く会場に、「今日来てたら、恥ずかしいよね」と松藤。 
 「25年前だから、当時15歳だったとしても、今40?いや、もっと上か。 あの時20歳だったとしたら・・・」と、甲斐は年齢を想像し始める。 
 それから、ゆっくりと間を置きながら呼び掛けた。 
 「もう過ぎたことだし。 俺は怒らないから。 手を挙げて」 
 これが絶妙におかしくて、みんな笑わずにいられない。 
 「とか言って、手ぇ挙げた瞬間、躍りかかったりするんだよね」 
 さすがに手を挙げた人はいなかったようだ。

 甲斐は「最後の曲だあ」とやんちゃに言い放って、ギターを弾き始めた。が、すぐ に止める。マイクスタンドとの位置が近すぎたみたいや。「マイクの位置が違うと、 怒られる」と言って、スタンドを直す。ミキサーの調節の加減とかがあるんやろうな。 
 「イエー」という声をあげて、あらためてイントロ。 
 「バス通り」 
 前野選手はエレキマンドリンを弾いていた。 
 最後の曲が、何だか早く終わってしまうように感じられた。繰り返しに入るのが もったいない感じ。ずっと聴いていたかった。この素晴らしいライヴが終わってほしく なかった。

 「クラッシャー木村カルテットに、もう1度拍手を」 
 僕は「クラッシャーっ!」と大きな声で叫んだ。今度は手を振ってくれたけど、 目線は僕より後方へ送られていた。どこからの声か、わからなかった様子。でも、 よろこんでくれたみたいで、よかった。 
 大きなチェロも奏者によって持ち上げていかれる。 
 前野選手は得意のサムアップを見せて行く。 
 そして甲斐は、マイクスタンドより前、ステージの端まで出て来てくれる。拍手と 「甲斐ーっ!」の声に応える。こちら側、ステージ左前を通る。僕は「甲斐ーっ!」 「甲斐ーっ!」って何度も叫んだ。甲斐は片手を挙げ、もう1度こちらを見てから、 左ソデへ去って行く。スタッフがその肩にバスタオルをかけた。

 心地よい洋楽が流れてくる。どこかで聴いたことがあるような気がする。 でも今は、今夜のライヴの様子を思い起こすのが先やった。この感動にひたっていたい。 
 ものすごかったなあ。春のツアーから大幅に進化してた。ストリングスは期待を はるかに超える強力な音を聴かせてくれた。めったに聴けない曲もあったし、定番曲も いつも以上にアレンジ一新で、ほんまに新鮮やった。 
 新鮮やったのは聴いてる僕らの方だけじゃなく、甲斐にとってもそうやったん やろうな。生き生きしてて、ほんまにうれしそうやった。充実感にあふれていた。甲斐は いつもそうやけどね。今回は特に。また新しいやり口を手に入れたっていう感覚があった んちゃうかな。このスタイルにずっしり手応えを感じてることやろう。 
 これはもはやROCKUMENTだと言ってもいいんじゃないか。 「ROCKUMENT VI -Classic-」、そんな感じや。本当にしっかり Classicで、なおかつ燃えるロックやったで!さすが甲斐!

 「昨日鳴る鐘の音」、「イエロー キャブ」、「風が唄った日」と、今日のベスト と思える曲が次々と更新されていくあの感じ。また味わったなあ。 
 甲斐を見てる視界の端に、4人が弓を構える動きが見えて、「さあ、ストリングス が来るぞ!」と思った瞬間の期待感。 
 甲斐がラストでダウンストロークを連発し、松藤がそれに合わせてフィニッシュ した場面。 
 「最初に書いた譜面通りにやりました」と甲斐が言った曲。 
 甲斐の真上から降り注ぐ印象的なライト。 
 前野選手が、ときには松藤が、カルテットに合図して曲をしめくくるところ。 
 感激の連続やったなあ。日々暮らしてるなかで、これ以上のものはない。他の 楽しみよりとにかく甲斐のライヴがいちばんやと、あらためて感じたよ。 
 ああ、もう1度見たい!しっかり確かめたい名シーンがいっぱいあるし、新たな 発見もできるやろうし、何よりあの曲たちをもう1度味わいたい。名古屋にも東京にも 行けそうにないのが、ほんまに惜しい。

 会場の外に出ると、チラシを渡された。そこにはこう書いてあった。 
 「甲斐よしひろ 2年ぶりのバンドライヴ! 2006年ツアー決定!!  2/9(木) 10(金) 11(土) なんばHatch」 
 何としても3日間来なければ!

 

 

2005年9月15日 大阪なんばHatch

 

かけがえのないもの#2 
昨日鳴る鐘の音 
かりそめのスウィング 
甘いKissをしようぜ 
安奈 
LADY 
裏切りの街角 
花,太陽,雨 
イエロー キャブ 
風が唄った日 
破れたハートを売り物に 
風の中の火のように 
漂泊者(アウトロー

 

翼あるもの 
冷血(コールド ブラッド) 
レイニー ドライヴ

 

熱狂(ステージ) 
バス通り